朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
それと今回は人によっては少しキツい展開があるかもなのでご注意を
閑静な住宅街へと一台のバイクが爆走する。
乗っているのは詩乃と和人。あれから程なくして目をさました詩乃は和人からどこかへ飛び去ったという直葉の話を聞いて、傷だらけの身体を押してバイクを走らせていた。
方角から彼女が向かったのが二人の住んでいた家かもしれないとの和人の推測から、その情報と腹部の疼き続ける石の感覚のままに走っているが詩乃達の間には以前のような信頼関係はなかった。
――
――――
話は少し前に遡る。
応急処置的に全身に刺さる矢を抜いて詩乃の覚醒を待っていた和人。予想通り、というよりも
目覚めたばかりで詩乃は状況が飲み込めなかったが、傍に座る和人を見て気絶する前の全てを思い出した。
「……っ、直葉ちゃんは!?」
詩乃は慌てて飛び起きて周囲を警戒する。ここには自分たち以外は誰もいない様子で、護衛を任せていたサチの気配すらしなかった。
「……スグならどこかに飛んでいったよ。あの金髪の女に変わってな」
「……そう」
間に合わなかった。止められなかった。後悔ばかりが詩乃の心を埋め尽くしていく。
「直葉ちゃんがどこに行ったか心あたりは?」
「……方向的に家だろう。俺たち兄妹が過ごしたあの家。あそこにスグは向かったと思う」
ならば話は早い。ショッカー時代に二人の家は記憶している。すぐさま彼女を追うべく駆け出そうとした矢先に――和人が「そんなことよりも――」と口を開いた。
「――スグと知り合いだったんだな、詩乃」
和人の冷たい声に、思わず足が止まる。俯き、後ろの彼の顔を見る勇気もなく項垂れた。
「……正直に答えてくれ。君は”いつから”ショッカーにいたんだ? 本当に、その時の記憶はないのか?」
詩乃は和人に背を向けたままその問いに答えられなかった。
直葉が彼の前でリーファに変わった時点で疑われることは予想していたから、そこに対しては驚きはしない。だが、だからと言って真実を打ち明ける勇気はまだ、詩乃にはない。
「……いつからショッカーにいたのかは、私ももう覚えていない。記憶も、悪いことをしていたのは覚えてるけど、何をしていたのかは……」
「本当にそうなのか?」
和人は追求することを止めなかった。彼女を信じていないわけではない。だが、直葉の話を聞いた今だからこそ、今度は詩乃の話に疑問を抱かざるを得なかった。これまでは直葉があの異形の女になっているなんて想像もしなかったから。そして、肉体を怪物に変えられるという地獄を味わった詩乃に対する遠慮もあったから。でも、記憶がなかろうが嘘をついていようが妹の異変に関与しているとしたら、話は別だった。
和人がここから更に突き詰めようとした矢先、サイクロンが姿を現した。どうやら彼女が呼んでいたらしく、その車体を見てまずは直葉を追うことが先決だと思いなおした。
「……まずはスグを追いかける。話はその後だ」
「……えぇ、そうね」
話を一時中断して、二人はバイクへと乗り込んだ。
だが以前の雰囲気は完全に四散し、嫌な緊張感を張り詰め漂わせたままサイクロンは詩乃達を乗せて和人の家へと走り出した。
※
戦いの余韻も束の間。油断した直葉の背中に倒したはずのリーファがしがみついてきた。無防備な背後から腕を回して、渾身の力で組み付く彼女を直葉は振りほどくことができない。
「――くっ、どうして……!」
「……どうして、ねぇ……。まさか直葉ちゃん、私をあんな竹刀で倒せば勝ちだなんて思ってたの?」
動揺する直葉の耳元でリーファは意地悪そうに囁いた。
「ワタシはあなたなんだからあんな棒切れで倒せるわけないじゃない。私を本当に消したいなら……直葉ちゃんがもう一度命を捨てるしかない」
リーファの縁起でもない台詞に直葉は目を大きく開いた。全身を押さえつける彼女からは逃げられそうになく焦りばかりが募っていく。
「できるわけないよね。だってここで死んじゃったら、もう二度と大好きなお兄ちゃんにも会えないからね」
「……っ、ふざけたコト、言わないでっ!」
いたずらに嗤うリーファを振りほどこうと懸命にもだえるもまるで効果がなくて、胸を、太腿を掴む彼女の手がたまらなく不快で、怒りがこみあげてくる。
腕の中で足掻く彼女を見つめながら、リーファは一気に声を冷たく凍らせた。
「……さっきは直葉ちゃんの得意な剣道に付き合ってあげたから今度はワタシの番」
抱きしめていた直葉の身体を回して向き合うと、目を緑に妖しく輝かせた。
「――さぁ、一つになりましょう直葉ちゃん」
同様の光が直葉の目にも宿り、糸が切れた人形のように動かなくなった。リーファの身体から触手にも似たエネルギーの帯が直葉の肉体へと絡みつき、その生命エネルギー――今の彼女には存在を支える力そのものを静かに吸い上げていく。
動かないその肢体をリーファは抱き寄せて、妖艶に嗤った。
こうして直葉の意識は、闇へと引き摺り込まれていった。
――
――――
気が付くと直葉は荘厳なチャペルの前に立ち、並び立つ客たちの中に混じっていた。ここがどこなのかも、どうしてここにいるのかもどうでもよかった。何故なら、目の前にある大階段を降りてくる新郎である兄と光の反射で見えないがその新婦の姿をみて、これが二人の結婚式であると悟ったから。そして、それを認識した瞬間に、胸の奥がちりりと痛んで、熱く黒いものが滾った。
自分では兄の横には並べない。だって自分は彼の妹なのだから。それくらいわかっている。分かっているはずなのに……。どうしてか、受け入れられない自分がここにはいた。
苦しみが、胸を包み込んでいく。心が、闇に沈んでいくような、気がして。
『悔しいでしょ。大好きなお兄ちゃんの横にいるのが自分じゃなくて』
「……っ、リーファ! どこにいるの?」
どこからかリーファの声がする。気づけば兄の姿も、忌々しい新婦も観客も消えてなくなっていて、声をどんなに張り上げても誰にも届く気配はない。
『だってどんなに頑張ってもお兄ちゃんは気づいてくれないし、絶対に望む関係になれないからねぇ』
「うるさい、私はあんなこと望んでない! 勝手なこと言わないで!」
直葉も負けじと叫ぶもリーファに届く気配は微塵もない。
事実、リーファが見せた今の幻は直葉の願望そのままというわけではない。あくまでも彼女の心の闇から産まれた自分だからこそ気づいた、深層心理に秘めた欲望。本来なら”大きな事件でも起きなければ”目覚めることもなく、成長につれて消えていたかもしれない想いを利用させてもらったに過ぎない。
だが、半分に割れ、不安定となった彼女には効果は絶大だった。直葉自身は気づいていないが、その足元、彼女の足が少しずつ透けて消えていくのが見えた。
『――ふーん、まだ認めないんだ。まあいいや。じゃあ次』
パチン、と拍手の音と共に世界が塗り替わる。まるでテレビが切り替わるみたいに世界が変わって、今度はチャペルから公園へと移動していた。
「今度は、一体……」
不安げにあたりを見渡す直葉。今度は一体何をする気なのかと警戒していると、一組の男女が遠くから近づいてきて――そして、直葉の姿を見るなり悲鳴を上げた。
「う、うわぁぁぁぁぁー! ば、化け物ー!」
「きゃぁぁぁー! 誰か助けてー!」
慌てふためき逃げ出す彼らに伸ばした腕――醜く変わり果てた異形の腕を見て、直葉も悲鳴を上げた。
「なっ!? ど、どうして、なんで……!?」
異形化したのは腕ばかりではなかった。もう片方の腕も、足も、身体も、堪らず抱えた感触から頭まで隅々が怪物に成り果ててしまったと悟った。
「……そんな、どうして、どうして……!」
わけがわからず狼狽えていると、前に現れたのは警官たち。それは次第に数を増やして自身を取り囲んだ。
(よかった……警察だ……)
「助けてっ、化け物に変えられた――「動くな! お前は包囲されている!」――えっ」
助かったと思ったのも束の間――彼らが向けてきたのは救いの手などではなく、銃口だった。敵意を堪えた視線を向けられて直葉は悟った。思い知らされた。
異形と成り果てた奇怪な存在に、人間の世界での居場所などないことに。
だけど人間に手を出すことなどできるわけもなくて、それでも銃はいまにも引き金を引かれる寸前で。
――もう、やるしかないのか。
そんなことを考えたその時、自分を囲む無数の警官たちの中心。そこで引き金に指をかけている男の顔に、思わず目を見開いた。
「撃てー!」
結局は銃弾の雨の中を、懸命に擦り抜け逃げることしかできなかった。向けられ続ける敵意の中を、命かながら駆け抜けて辿り着いたのは小さな湖畔。その水面にいたずらなリーファの顔が浮かんでいた。
『ふふっ、これでわかったでしょ。ワタシを消してもあなたの改造されたカラダは元には戻らない。それどころか怪物として人間たちから迫害されることになるのよ』
直葉は逃げることに精一杯だったからか、リーファの言葉にすぐに返すことができなかった。
『……ワタシと一緒になろうよ。そうすればあなたはもう二度と誰からも拒絶されることはなくなる』
息を切らしながら見つめていた水面が揺らいで、そこからリーファは姿を現した。弱り切った直葉の頬に手を添えて、額と額を合わせた。
「――もうあなたが苦しむ必要なんかない。ずっと私があなたを支える、あなたの力になる」
「……でも、まだお兄ちゃんが――」
「まだそんなこと言ってるの? 大丈夫、私と一つになればどんなこともできる。誰であろうとあなたのものにできる」
「――私の、ものに……」
「そうだよ。だからもう私に身を任せて――あなたは眠ってね」
リーファの甘い囁きに任せるままに、直葉の意識は、心地の良い微睡みと光の中へと落ちていく。――そして、彼女が目を閉じると共に美しかった世界は醜くおぞましく形を変え、ヘドロのようにドロドロと溶けたリーファの肉体が直葉へとまとわりついて飲み込んで、真っ暗な闇の中へと連れ去っていった……。
※
不気味に静かな実家へとサイクロンは辿り着いた。停まるよりも早く和人は飛び降りると靴を脱ぐことなく家の中へと駆け込んだ。
「――スグっ! どこだスグー!」
家中を走り回って最後に辿り着いたのは道場。彼女が自主練でよく使っていた思い出深きその場所に――彼女はいた。
ジャージ姿から胴衣に着替えた直葉は、和人の存在に気づくとゆっくり振り向いて「あれ、お兄ちゃん?」と無邪気そうに微笑んだ。
「どうしたの、そんなに慌てて――」
きょとんと不思議そうにする直葉を和人は強く抱しめた。肩を震わせて、目の前で異形に変わったというのに変わらずそこにいた妹に感情が抑えられなくて。
「……よかった。本当に無事でよかった……!」
「――もう、心配しすぎだって。もう私はどこにもいかないよ」
「俺だって、もうお前をどこにも行かせない……」
「嬉しいな。本当に――」
和人の恥ずかしくなるような台詞に――直葉は手にした刀を握りしめた。顔を伏せ涙ぐむ和人を冷ややかに見下ろして、舌なめずりして切っ先を彼の胸へと突き出した。
「――っ!?」
その寸前で、詩乃が和人を引きはがした。二人はそのまま勢い余って転がって、道場の壁へと転がった。
「……詩乃!?」
「あーあ、イイところだったのに」
「逃げて和人! この子は直葉ちゃんじゃない……!」
「ひどいなー詩乃さん、正真正銘の私ですよー。……あなたが殺して生まれかわったね」
「……っ!?」
言われたくなかった事実を、ついに和人の前で喋られてしまった。多分、驚愕しているであろう彼の顔を見る覚悟が付かなくて、今はこの直葉でもリーファでもない存在を相手に集中する。
「……あなたを倒して直葉ちゃんを取り返す」
「あははは、無理ですよ。だって直葉とリーファは一つになったんですから」
直葉の身体が眩い光に包まれてリーファの格好に変わった。でも姿を変えようと纏う気配は変わらずに、以前より装飾が増えて煌びやかになった彼女を前に、詩乃もシノンへと変わった。
「懐かしい……私、あなたに殺されたんですよね一度。今度は私の番です」
「えぇ、もう一度殺してあげるわよ」
アポロにやられたダメージはまだ完全には癒えていない。矢の傷は塞がったが蓄積されたものは消えていない。それでも、いまは直葉の前から逃げるわけにはいかない。例え和人から拒絶されたとしても、せめて妹だけでも彼の元に返さなければならない。
「――遅いですよ」
だが、そんなことを考えている余裕はこの戦いにはどこにもなかった。
リーファの速度は前回の比ではなく。声に気づいたときには既に刃がプロテクターを切り裂いていた。遅れて散る火花と凄まじい衝撃。突進された突風も相まって、まるで至近距離で爆弾が破裂したほどの威力に身体が揺らぐ。続くもう一撃だけはかろうじて受け止めたが勢いだけは殺しきれずに、先ほどの戦いの傷が開いて鈍らせる。結局は押し負けて道場の壁を突き破って庭へと吹き飛ばされ、無様に転がった。
さっきの戦いは言い訳にはならない。今の彼女と自分では実力差も明らかだ。
もう飛びつくことは諦めて、このまま長引かせるのも不利だと判断して、シノンは矢を構え石の力を発動した。付け焼刃だがやるしかない。
シノンの動きを感じて、リーファの腹部にある石も共鳴した。意識せずとも刀身にエネルギーが集中していくのを感じて、構えを取る。彼女には借りがあった。ここで返してやろうと意気込んだ瞬間。
「――やめろスグ、やめてくれ!」
リーファの背後、和人の叫ぶ声がした。振り向いたそこには懸命に妹を案じる兄の姿があった。
「――っ、うっ、わあああぁぁぁぁぁ!!!」
気を取られた内に、充填を終えたシノンの矢が放たれる。――だがそれは彼女の制御を遥かに超え、和人諸共吹き飛ばさんばかりに突っ込んでくる。
――咄嗟に、リーファは和人を庇うように立ち、矢を受け止めた。
直後、凄まじい爆発が住宅街を包んだ。
半径数キロを巻きこんだ航空爆弾レベルの大爆発。
炎が平穏だった町を燃やして、あちこちで火事が巻き起こる。平和そのものだったその場所はたった一発の誤射で地獄へと変わった。
その爆心地たる道場は跡形もなく吹き飛んで焼け野原となり、その中心で和人はゆっくりと立ち上がった。幸いにも致命傷となるようなケガはなく。――その正面にいたであろう妹の影に救われて、ほぼ無傷で済んだのだ。
既に直葉の姿はない。爆発の衝撃で意識が途切れたほんの一瞬に、彼女がどこかへと飛び去るのがみえたから動揺はしないが。
「か、和人……」
瓦礫を押しのけて詩乃が姿を見せた。
爆発は当事者である彼女すらも巻き込んでいて、腕を引き摺りながらも無事だった和人の姿を見て詩乃は安堵した。
「……よかった無事で、本当に――「――こっちにくるな化け物!」――えっ……!?」
だけど彼から浴びせられたのは、拒絶。
「……お前が、お前だったんだな。スグをあんなに苦しめたのは……!」
「……っ、ち、違う……そうじゃないの和人……、わ、私は……」
「言い訳するな! お前は俺に嘘をついた。記憶がないなんて言って、俺を騙したんだ!」
和人の憎悪に満ちた言葉に、詩乃は何一つ返せない。
事実だからだ。洗脳されていたからなんて言い訳で、彼にはそんなこと関係ないのだから。
そして何より、彼の――自分の被害者である存在から直接の憎しみをぶつけられて身体がすくんでしまったから。
「……どんな気分だった? 騙され続けてる俺を見て、嗤っていたんだろ? ヒーロー気取りで頑張ってる俺を見て、楽しかっただろ?」
「……ち、違う……! 楽しくなんか、ない……ずっと、ずっと辛かった」
自虐風に語る和人に、詩乃は本心を打ち明けた。もう逃げるわけにはいかない、何を言われてももう受け入れるしか、ない。
「……わ、私があなたに知られたくなかったのは……あなたに知られたくなかったから、あなたに、嫌われたくなかったから……」
震えながらも詩乃は続ける。
「……怖かった。いつかバレるって分かってたから。あなたを傷つけると知りながら、自分が拒絶されることが怖かったから」
「あぁ、俺はもう君を信用できない」
「――っ、分かってる。でも、これだけは言わせて……」
歯を噛み締めて、和人の目を見つめて、詩乃は意を決してその答えを口にした。
「……私が、私はあなたが好きだったから! いつなのかわからないけど、いつも私に優しくしてくれるあなたが好きだったから。こんな醜い化け物でも一緒にいてくれるあなたが、気づいたら好きになっていたから――」
視界に映る和人が滲んで、詩乃はこれ以上何も言えなくなった。
本心を打ち明けた詩乃を前にしても和人は何の反応を示すことはない。俯いたまま、握りしめた拳をさらに震わせながら。
「――俺は、お前なんか嫌いだ。化け物だからとかじゃない、心の底から憎いから嫌いだ」
それだけを言い残して、和人は詩乃に背を向けた。そして静かに去ろうとした。
「……っ、ま、待って和人――」
「――名前を呼ぶな、化け物!」
呼び止めてくる詩乃に和人はそのまま叫んだ。
「――次に会ったら、俺はお前を殺す。絶対にだ。だから、もう二度と俺の前に現れないでくれ……」
そうして振り向く事なく和人は詩乃の前から去っていく。
一歩ずつ、足を進めるたびに脳裏に浮かぶのは彼女との記憶。短いながらも人生で忘れることがないであろう思い出。
悪の組織との闘争という非日常の中で、確かに紡がれてきた楽しかった日常の日々が、輝かしい情景が、次々に浮かんで消えてくれない。
この数日。辛い時も、苦しい時も、楽しい時も、いっぱいあった。そこにはいつも詩乃がいて、一緒にいた。
嫌いになんて、なれるわけがなかった。
でも、もう戻れない。自分も、彼女も。
真実を知ってしまった以上、以前のようにはなれないから、絶対に。
だから、これ以上壊れないために、壊さないために自分は去るしかないのだ。
(さよならだ詩乃。君とはもう一緒にはいられない……)
空が曇り、雨が降り始める。
次第に遠ざかっていく和人の背中に、虚しくも手を伸ばすことしかできない。それが、絶対に届くはずがないと知りながら。
「あ、ああ、あああああ……」
涙が絶えることなく溢れて止まらない。全身を激しく打つ雨に濡れても、それだけははっきりと頬を伝い続けていて。
――直葉ちゃんを殺したのは私だけど私じゃない。私の意思じゃない。
「う、うう、うううっ、うわあああぁぁぁぁぁー!!!」
でも、もう限界だった。
和人の背が消えたと共に詩乃は力無くその場に膝をつき、子供みたいに泣き喚いた。
雨にかき消されてしまうその叫びはいつまでもいつまでも終わりなく続いて。土砂降りの中、詩乃は果てしなく苦しみ悶え続けた。
一度決壊した感情は止まることはなく、地獄へと彼女を誘っていく。
長い時間苦しんでから耐えきれず、ついに倒れ伏した彼女の元――アポロは現れて、静かに見下ろしていた。
読了ありがとうございます。
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