朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
投票数が多いからその通りになるというわけでもないので悪しからず
明日奈達がクィネラと死闘を繰り広げていたちょうどその頃。
廃バスの置かれた荒野――かつて拠点があったはずのその場所に詩乃は訪れていた。憎き宿敵に成すすべなくやられて代わりに自身もまた歩く自由を奪われ、こうして無様にも生き延びた。
今こうしてやってこれたのは珪子のおかげだ。本来は明日奈に命じられての自身の監視ではあるが、どうしてもと強く頼み込めば彼女は同伴という条件で車椅子を押してくれていた。
風がそよぎ、木々を揺らす。――でも今日の風は嫌に不気味に体を流れていく。
今頃、この空の続くどこかで想像を絶する激戦が繰り広げられていることだろう。最終決戦と称してもなんら誇張にならないほどの死闘が。
その場の光景は見えずともわかる。感じるのだ。腹の奥底に埋められた石が、”お前も戦え”と命じるのだ。だが――
――でも今の自分には何もできない。
例え心の奥底から戦闘の悪寒を感じていようと、歩くことさえままならないのだから。それに――手が、足が震えてしまっている自分では、もう一度アポロと対峙したところで殺されるだけであろう。
情けない話だ。大切な仲間を残虐に手にかけ、今なお仲間の命を脅かし続けている敵に、立ち向かう気力がわいてこないのだ。欠片一つ分足りとも。
完全に、心を折られてしまっている。
止まらないのだ。震えが。呼吸が乱れて視界が霞んで、世界が揺らぐ。想像ですらこれなのだ、もし次に目にしたとき、まともに対峙できる保証はない。
力を増し、多少は渡り合えるようになったと思っていた。だが今や心で負けてしまった以上、勝てる気がしなかった。
「……詩乃さん、そろそろ戻りましょうか」
詩乃の背後、ここまで連れてきてくれた珪子が言った。後ろ姿だけでも、今の詩乃の様子がまともでないのは簡単に見て取れた。
全身は不規則に震え、乱れた呼吸は苦し気だ。かすかに覗く顔は蒼白になり、血の気も引いていた。
「……こんなとこ、あんまり長いしないほうが「――あなたに何がわかるのよ」――えっ」
珪子の何気ない一言に、案じるあまりに不意に出てしまったその言葉に、詩乃は視線を尖らせた。
「……”こんなとこ”? ここにいなかったあなたにはわからないでしょうね。でも、私にとってはここは大切な場所……皆がいた思い出の場所なの……っ、でもっ、でも私はここを……、みんなを――」
――守れなかった。
「――だから簡単にそんなこと言わないでっ! 全て私のせい、私が……あいつに勝てなかったから……!」
耐え切れず涙する詩乃に、珪子は踏みとどまった。彼女の気持ちは痛いほどに分かる。でもなんて言葉を掛ければいいのかわからなかったから。
絶えず溢れ続ける涙に顔を濡らし、膝に埋める彼女を――上から抱きしめるように覆いかぶさることしかできなかった。
同じ組織にいる時は憧れだった彼女。それはお互い裏切者になってからは頼れる仲間へと変わった。でも、今の彼女はそのどちらでもない。
ただの少女だ。過酷な運命を強いられ苦しめられ、ついに耐え切れなくなった一人の女の子。そんな彼女にまた危機が迫ろうとしている。
「……詩乃さんはもう、十分に頑張りましたよ。苦しむ必要なんかないんです。そんなに、自分を責めないでください」
「!? で、でも……っ」
「……大丈夫。必ず、明日奈さんや木綿季さんが倒して帰ってきますから、それまで待ちましょう」
優しく抱きしめてくれる珪子の腕を、詩乃はそっと抱き返す。目を閉じ耳を澄ませば聞こえてくるのは彼女の心音。ゆったりとしたリズムで鼓動するそれを聞いていると、乱れていた自身の鼓動も整っていく。呼吸も落ち着いて次第に楽になってくると、詩乃はは珪子から離れた。
「……ありがとう。あなたのおかげね」
「気にしないでください。この命があるのは詩乃さんのおかげですから。これからも頼ってくださいね」
「……そっか、そうだったわね。――ねぇ、一つお願いがあるんだけどいいかしら」
詩乃が目を伏せがちに口を開けば、珪子は首を傾げ聞いてきた。
「……まだ病み上がりで無理しちゃったみたいで、もし良かったらお水でも買ってきてくれないかしら」
詩乃が申し訳なさげに頼めば珪子は快くそれを引き受けてくれた。この荒野には水場がかつてはあったものの今はアポロにより破壊され、跡地しかない。水が得られる場所はここから人間の足で三十分ほどの位置にあるコンビニくらいで――自分一人の足ならば十分もかからずに戻ってこれるからと、珪子は飛びだして行った。
「…………」
一人残された詩乃は車椅子を器用に回して、荒野を眺めた。
もはや原型がわからぬほどに破壊され、残骸となったその場所。ほんの数日前の出来事だからこそ覚えているのかもしれないが、今でも鮮明に浮かんでくるのは仲間たちの姿。
短い間だったが苦楽を共にし、悪へと立ち向かい絆を深めた戦友たち。人間であった頃を含めおそらく人生で一番長く時間を過ごしたであろう彼らの影が、消えてはくれないのはきっと、自分が忘れたくないから。
今が、その最後のチャンスなのかもしれない。
珪子のいない隙にどこか遠くに逃げ出して、誰とも関わらず触れ合わず、全てを忘れてしまえば自分は自由になれるかもしれないと思った。彼女も恐らくは追ってこないし、明日奈達もなんとなくだがもう戻ってはこない。仲間も死に、今や自分を引き留める者はただの一人もいないのだ。
それに、このボロボロの肉体も果てしなく長い時間をかければ、元通り回復とまではいかずともある程度は動くようになるのだろう。そして、その後はもう戦いからも悪意からも無縁な生活を送ることが出来るかもしれない。そんな日々も、悪くないと思った。――それでも。
詩乃の手の中――珪子から密かに盗んだヒートヘブンがそこには握られていた。指の一本残らずに包帯は巻かれ、細かな動きに制限はあるがこの程度なら造作もなかった。ましてや、自分を信頼しきっている相手なら猶更。
もう一度、バスを見つめてみれば――そこには幻影がいた。
クジラ、コウモリ、ノミ、トゲウオ、そしてサチ。
全員死んでいるはずなのに、そこには確かに彼らがいるような気がした。――まるで、逃げようとする自分を見張るかのように。
「皆、ごめんなさい……っ」
もう何度目かの謝罪を仲間に口にして、詩乃は顔を上げた。傷だらけながらもその身にもはや悲しみはない。あるのは瞳に宿した闘志と決意だけ。動かない足を震わせて、力の込めにくい手でヘブンを掴み、嚙みちぎるようにして封を開いた。
もはや手段は選ばない。選んでなどいられない。
全力で、ぶつかるためには覚悟を決めるしかなかった。例え、自ら誓いを破ることになろうとも。
※
クィネラは今、最高の気分に浸っていた。
こんな気持ちになるのは数万年ぶりだ。……いや、これほど愉快なのは初めてかもしれない。
目下で繰り広げられるは喜劇。自身に反逆した愚か者の末路。自らの命と人生を駆けてまで守ろうとした同胞を、自ら手に掛けようとする女の悲劇だ。
「……くっ、アスナっ!」
高速で繰り出される連撃をユウキはかろうじて避け続けていた。一切の加減のない、ただ機械的に動かされるままの拳を。
幸いにもアスナ――新創世王の攻撃は緩やかで、ユウキの俊敏さの前では鈍重とさえ感じていた。だが――
「……ううっ」
その振りぬきの度に起こる風圧。空間を歪ませるほどの力で巻き起こるそれはユウキの身体を襲い、露出した皮膚を、果ては装甲すら傷つけていく。
心なしか攻撃の速度が増しているような気がする。今は回避できているがもしも更に加速した場合、よけきれる保証はどこにもなかった。
「――素晴らしい。もっと争え。私を楽しませろ」
「――随分と楽しそうね。私も混ぜてくれない?」
上階から文字通り高みの見物をしていたクィネラの元に現れたのは、直葉。傷一つないまま鋭い視線をぶつけてくる。
「単刀直入に聞くけど、お兄ちゃんはどこ?」
「――待っていましたよ、地の女神。……いや、その手前か」
聞きなれぬ言葉を口にするクィネラに直葉は眉を潜めた。自分は兄を助けにきただけだ。それ以外に興味はない。
「……名前なんてどうでもいい。はやくお兄ちゃんを返してよ。そうしたら、殺さないであげる」
「あなたも愚かな行動をとりますか。あの女のように――」
クィネラの視線がそれるのに釣られて直葉もそちらを向けば、そこにいたのは新創世王。
一見すれば、不気味な異形にしか見えないが直葉にはその正体を瞬時に察することができた。
「……まさか明日奈さん、それにもう一人――まさか」
「……そう、そのまさか。あなたもあの
がらりと空気が変わって二人は睨みあう。ぞくぞくとした殺気を受けて直葉の黒髪が伸びて黄金に染まっていく。
元より戦闘は覚悟の上だが状況が変わった。まずは彼女たちを救う方法を考えなければならない。
(ごめんねお兄ちゃん、もう少し待ってて……)
このアジトのどこかに捕らえられているであろう兄に心で詫びる。最後に分かれた時も、自身はまだこの身体に不慣れで兄を傷つけてしまった。今も彼や家族の元に戻るつもりはないが。せめて彼だけでも返してあげたかった。
そのためにも、直葉――リーファは武器を構え、立ち向かった。
――
――――
戦いは激しさを増し、その舞台を変えていく。
「くっ……!」
戦闘の最中、新創世王により投げ出されたユウキは地面を転がり、膝をついた。――休みなく繰り出されるは白銀の蹴り。時が進むにつれて彼女の動きは俊敏さを増し、精密な動きすら可能としつつあった。まだかろうじて見切って躱せてはいるものの戦況は悪化する一方だ。
つれて彼女の動きは俊敏さを増し、精密な動きすら可能としつつあった。まだかろうじて見切って躱せてはいるものの戦況は悪化する一方だ。
「やぁぁぁ!」
ユウキが剣を振るい、異形の肩を切った。だが、外皮には傷一つ付くことはなく、代わりに王の反撃ばかりが飛んでくる。背中から覗く四本のバッタ脚が不気味に蠢いてユウキへと迫る。
ギリギリのところで受け止めるも、まるでミサイルのような勢いを前にユウキは押されるばかりだった。羽根を展開し懸命に抗うもまるで意味はなく。ついに、押し切られてしまった。
「うわあああぁぁぁ!」
吹き飛ばされていくユウキの身体。防御が崩れ、無防備を晒す彼女の元へ容赦なく追撃の手は迫る。反撃なり防御なりするべきなのはわかっているが反動で動けないのだ。そして、見ることしかできないまま鋭利な先端が己の肉身に刺さって――
――行くことはなかった。
寸前で割り込んだリーファがそれらを弾き、その間にユウキを抱えて離脱した。遠くではない。でも現状歩くことしかできない新創世王からはしばらくの間逃げていられた。
「――リーファ!」
「無事でよかった。ユウキさん、あれはね――」
「知ってるよ、あれは明日奈でしょ」
「それだけじゃない。あの中には深澄さんもいます」
リーファのその一言にユウキは目を見開いた。
彼女の姿が見えないとはいえ、そんなこと予想するわけもない。こっちは予想する余裕すらなかったのだから。
「……!? それじゃあ、二人を元通りにする方法は?あるんでしょ、リーファ!」
「……っ、いえっ……二人を分離する方法は、ありません」
悔しそうにそう答えるリーファにユウキも黙るしかないが。理解したくなどないが、改めればわかってしまう。
最初に戦闘を開始する時、一瞬だが新創世王の動きが止まったり、その後の戦闘中も不自然に静止したり、自身の急所を狙えた時もわざとかのように外していた。でも、それも全て――
「……二人の意識はまだ辛うじてですが残ってます。でもそれも長くない。それなら――
「――終わらせるしかない、ボクたちの手で」
ユウキの決意に揺らぎはなかった。
以前、明日奈からこんなことを言われたのを思い出した。
『……ねぇ、木綿季。……もしね、もしも私が自我のない怪物になっちゃった時は――』
「――その時は、ボクがアスナを止める」
彼女がこうなることを予期していたかは定かではない。だが、自我なき怪物と成り果てることを嫌っていた彼女をこれ以上汚すわけにはいかないのだ。悲しむのは後、今は終わりにするのだ先決だ。
「リーファ、力を貸して」
「はい、勿論です――って言いたいんですけど……」
歯切れの悪い彼女の視線の先――創世王同様に接近してくるクィネラの姿があった。彼女の相手はリーファに任せるしかないだろう。そうなれば、変わらずあの異形の相手は自分一人ということになる。
「ユウキさん、もしかして隠し玉とかあります?」
「一応ね、とっておきの技が一つだけ。これならあの創世王にも効くとは思うけど、ただ――」
視線を下に向け、握りしめた愛しき黒曜石の剣を見つめた。
「――ただ、あいつの皮膚はものすごく硬いから砕けちゃうと思う。もう一つ、何か武器があれば……」
と、思案していたユウキの前に差し出されたのは黄金の柄――半壊したサタンサーベルの残骸だ。
「さっき転がっていたのを拾ってきちゃいました。折れてますけど使えます?」
恐らくは明日奈が使う中で砕けてしまったのだろう。丁度刃の真ん中で折れ、長さも半分となってしまってはいるが今はそれでも心強い。少しだけ、希望が見えた気がした。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
ベルトの隙間にサーベルを差し、ユウキは再び新創世王と向かい合った。この会話の間にも怪物は一歩ずつ距離を詰めもうすぐ傍まできていたのだ。
クィネラ目掛け、飛んでいくリーファを背中に感じながらユウキは剣を構えた。
対峙するはこの世界を破壊せんとする邪悪な魔王――ではない、その中に捕らえられた友達の姿。瞳は僅かも離さずに、静かに睨む。
「――行くよ、明日奈」
そして、ユウキは一人飛び込んだ。
迷いなく一直線に。愚直なまでに真っすぐ突っ込んだ。
新創世王はやはりユウキの行動に反応を示すことはなく。ただ、無策に特攻してくる外敵を排除するという目的のため、迎撃態勢を取った。
四本のバッタ脚を広げ、両手を正面に向ける。指先に気孔みたいな穴が開き、そこから蒼い体液が分泌されていく。それは次第に形を変えて硬化して矢のようになった。自身の体液で作成したこの武器ならば標的を無力化できる。掠るだけでも支配下におけるほどの代物だ。これでまずは無力化を図り、確実に仕留める。――だが。
「…………っ!?」
突如として新創世王の身体が揺れる。突如として苦しみ出し、頭を抑え伸ばした腕を掴んだ。
「……ウッ、ア、アアッ、ユ、ユウキ……ッ、ウウアッ!」
二音交じり合った声が新創世王の中から零れ、動揺を示す。――声のためにも、ここを逃すわけにはいかない。
新創世王の身体に刃が刺さる寸前――ユウキはいきなり方向を転換し、頭上へと躍り出た。苦しみ悶え、反応できずにいる異形を見下ろしながら、剣を振るう。
これまで多くの怪人と対峙し撃破してきたユウキだからこそわかった。新創世王の弱点が、強固な装甲を持つが故に覆えない関節といった可動域の防御が薄いという欠点に。
目論見通り切断に成功し戦力を削ることに成功したがこれで止まるユウキではない。返り血に全身を濡らし、攻め続けた。膝や肘。腰や首、その他外皮のない箇所を全て。これでやれるとは思っていない。反撃させないようにすればいいのだから。
そして、狙いの時はやってきた。
(!? いまだっ……!)
新創世王の身体が脱力し、全てのガードが解けた。この瞬間を心待ちにしていたのを抑え、ユウキは敵の胴体めがけて強烈な突きを叩き込んだ。
「やあああぁぁぁぁぁー!」
さながら十字を描くような軌道で容赦なく異形の外皮を削っていく。宣言通り、剣は一突きするたびにぴしりと悲鳴を上げ、残滓を散らす。
だがそれでもユウキは攻撃を止めなかった。
六発、七発、八発、九発と回数を増すほどに剣の崩壊も進む。そして、突かれる度に新創世王の胸もひび割れた。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
十発目。
その攻撃を最後に剣は根元から砕け散った。――だが、これはユウキにとっては予想外だった。
(そんな……っ、まだ
彼女の疑問の答え、それはすぐに見つかった。
「…………!?」
新創世王の背中から伸びる触手――不完全ながら再生したバッタ脚だった。
そう、異形は抵抗しなかったのではない、反撃のためにあえて受け続け、この一本の再生に全力を注いだのだ。内外から抵抗される中、この怪物は本能的に生き残るために策を講じた。
驚愕に目を見開くユウキのもとへ凶器が迫る。もう迷っている時間はない。ならばと、歯を食いしばり、飛び込んだ。
「…………っ!?」
鮮血。
真っ赤な血が迸り、ユウキの身体をバッタ脚が刺し貫いた。臍からまっすぐと。背中から飛び出すほどに。
狂おしいまでの激痛にユウキは吐血する。――だが、握りしめたその手を離しはしない。
「……もどってこいっ、アスナッ……!」
朧げな視界と霞掛かった意識の中、ユウキはぽつりと呟いた。
新創世王の胸、そこを貫くはサタンサーベル。王を守り、そして
いくら異形が強大でもこの力には敵わない。万が一に備え、クィネラがそう細工していたのだから。
膝から崩れ落ち動きを止める異形。
バッタ脚が腐るように崩壊して、ユウキも解放された。
「……ッ、ああっ、……ア、アスナ……!」
激痛に気絶しそうな身体を引きずって彼女の胸に触れる。
もう自分が何をしているのかも定かでない中、指が、一人でに動いて、何かの模様を描いた。
そして、力尽きその場に倒れ伏した。
その場に残されたのは新創世王と瀕死のユウキ。
異形はそのまま、虚空を見るようにユウキを眺め続けていた。
――
――――
一体、自分は誰なのだろうか。
どんなに考えても、まるでわかる気がしない。
そもそもここはどこなのか。
自分は何故、ここにいるのか。
それさえもわからない。
上下も左右も。光も闇も。朝も昼も夜もない。
ただ無だけが果てしなく続く中に、浮かんでいた。
産まれたままの姿を晒し、何も見えぬまま聞こえぬままに感じるのは、幸福。
溺れてしまいそうな、狂ってしまいそうなほど満ち足りた絶頂を永遠に味わいながら、次第に自我が消えていく。そんな感覚。
でも決して寂しくはない。
何故だかはわからないが、自分は一人ではなく、大切な誰かと一緒にいる、一つである。という感じが常にして、それを不思議だとも思わなくて。
まるで世界そのものになったかの如き視点で、やがて浮かんだのは美しい風景。
言葉では表せないほどに素晴らしく希望に溢れた世界。
そして、それを創世するのは自分の役目。
それを認識した途端、意識は、更に加速度的に薄れていった。
これまでは薄ぼんやりと残っていた手足の感覚も薄れて、肉体と世界の境目が曖昧になっていく。
代わりに全能感ばかりが増していき、次第に、自分もそれを受け入れて――
『……っ、…………っな、………………っすな』
誰?
この声は一体何?
誰になく投げかけても答えは返ってこない。
ただ、どうしようもなく暖かくて、懐かしい。
『……な、…………ぁすな…………すなっ……!』
ノイズ混じりでろくに聴けたものじゃない声に引き寄せられるように、耳をすませば、次第にそれは大きくなって、そして――――
『――明日奈!』
はっと目を見開く。
そうだ。
自分の名は、自分という存在は。
「……私は明日奈、結城明日奈だ……!」
瞬間、世界で激しい光が弾けた。
まるで宇宙を創造したビッグバンのような輝きは、自身の腹部で巻き起こり、凄まじい力をもたらしていく。
そして、それはやがて巨大な渦、竜巻となりて周囲のエネルギーを取り込み、自分という器を満たしていく。
まるで己という存在を新たに作り変え、創造するかのような、不思議な感覚。
やがて全ての力を取り込んだその時、明日奈の全身は白銀に輝き――――目覚めた。
――
――――
戦場を眩い光が包み込んだ。
未だ交戦中だったリーファとクィネラは同時にそっちを向いた。
光源は新創世王。
突如として動きを止めたはずのその肉体は全身を破裂せんばかりに輝かせていたのだ。
戦いを止め、クィネラはその光景に見入った。
「……なんだこれは。何が起きている……」
この事態は彼女の想像すら超えていた。
新創世王の肉体に亀裂が走り、ピシピシとヒビ割れていく。さながら脱皮のような光景を前に、二人は見守ることしかできない。
「……っ、明日、奈っ……」
光に当てられたか、気絶したはずの木綿季が意識を取り戻した。
変身は既に解け、ボロボロだがこの光を浴びていれば力が戻ってくるような、そんな事を感じていた。それほどまでに温かったのだ。
「!? 小癪な……っ!」
だがクィネラはこれを良しとはしない。
素早くレイピアを召喚すると変化する新創世王を目掛けて投げつけた。リーファが割って入る暇もないほど、瞬間的に。
なんの障害物もなく到達したそれは新創世王を直撃。
巻き上がる煙と轟音。――だが、そこには既に影は一つもなかった。
「…………っ!?」
クィネラが認識するよりも、遥かに早く。
粉塵の中を突き抜けてきたそれは彼女の右腕を切断した。
切られたことを知るを、理解できなかった。
血の溢れる肩を抑え、睨むは――少女。
亜麻色の長い髪と同色の瞳。すらりとした手足にそれを包むのは赤いラインの走る白いドレス。胸と腰はリーファと似た金属アーマーにより武装し、腰にはレイピアが備わっている。
無言のまま静かに佇む少女にクィネラが叫ぶ。
「……何をした、一体何をしたのだ――アスナ!」
少女――アスナは何も答えない。
ただ真っ直ぐにクィネラを見つめ、動揺と焦燥を露わにした彼女を見て、一言。
「――あなたの負けよクィネラ。もう、あなたは私に敵わない」
それだけ言ってからアスナは笑った。
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