朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
アスナが一歩進めばクィネラが後ずさる。意識しているわけではない。正面に立つ彼女のオーラを前に、自然と身体が下がってしまうのだ。
ついさっきまでこの場を支配していたのは自分のはずだ。それなのに何故……。
「――どうしたの? 足が震えてるわよ?」
アスナの言葉にクィネラは耳を疑った。
そんなはずはない。と、否定しようと見やった足は――確かに震えていた。
それだけではない。
震えを止めようとする腕も、喉も、全身も。首筋には絶え間なく冷や汗が伝って瞬きの感覚が短い。
(恐怖しているというのか……この私がっ)
自分のことながら、想像すらしていなかった反応にクィネラは驚愕するしかなかった。
初めて、とはいかないが。まさか、こんな女風情に怖れをなすとは思いもしなかった。いや、今からでも取り消せばいい。
ぐっと一睨みしてアスナを見据える。鋭い眼光で狙うは彼女の心。クィネラがかつてアポロに仕込んだ精神攻撃だ。既にアポロの話から明日奈や詩乃に有効であることは知っている。これならばと、果敢に攻めあげるが――
「――――っ!?」
だがあっけなく、クィネラはアスナの心から締め出されてしまった。衝撃はリアルの肉体にまで波及して、無様にも転がっていく。
「どうしたの? まだ何もしてないわよ」
急に転がったクィネラを見てアスナは足を止め、首を傾げた。
事実、アスナからみれば仕掛けた覚えはない。かつては一方的にやられるだけだった精神攻撃を、今のアスナは意識するまでもなく自動的に押し返すことができるのだ。
ほんの少し前までは防戦一方だったはずの相手に対し、アスナは完全に優位に立っていた。もう恐怖はない。このまま押し切るのみだ。
この状況を快く思わないのはクィネラだ。これまでずっと自分が優位で勝者の側に立ち続けていたのだ。
この戦いだけではない。
遥か昔から、この力を得てからずっと自分は勝ち続けてきたのだ。こんなこと、あってはならない。
「ふざ、けるな……」
クィネラはゆらゆらと立ち上がり、アスナを睨む。彼女により切断された腕を左手に持ち、血濡れた素顔で見上げた。
「お前如きに、お前如きにぃぃぃぃぃぃ!!!」
切られた腕を握りしめるとそれはたちまち形を変え、一振りのレイピアとなった。
「やられるものかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
怒りの叫びのままにクィネラはアスナへと牙を剥いた。激情を背に切っ先を向け、突きだす。音よりも早く光を切るほどの速度――それをアスナは身体を反らすだけで避け、逆に彼女の懐へと潜り込むと、腰にかけたレイピアの柄を握った。そして――
「――――っ!?」
クィネラに防御させる隙を与えぬままに、一閃。胴体を横に大きく切って、その素肌を裂いた。噴き出した血が辺りに散って床を濡らす。傷の修復はすぐに始まるが、痛みは、それを受けた屈辱は癒えはしない。
屈辱に燃え、クィネラは再度剣を振るうもアスナはそれを受け止める。暫しの間、人間からすればほんの一瞬の間鍔迫り合いの後、弾け合った。
火花を散らしぶつかる二つの刃。心に急かされるまま剣を振るうクィネラとひたすら冷静に対処するアスナ。どちらが優勢かなど一目瞭然だ。
膠着した状況を打破すべくクィネラは後ろへと飛ぶとその長い毛先を浮かせ、先端に光を宿していく。エネルギーを込めた光線。
それを察知したアスナは瞬時に宙へと剣を躍らせた。さながら美しき剣舞。どこからか木霊した美しき音色を奏でる指揮者の如きその切っ先に従うままに、地面が突如として隆起して持ち上がる。
クィネラが放つ光線の乱れ撃ち。それは一つのもれなくアスナを狙い撃ち込まれていく。
炸裂し、煙を巻き起こる。
粉塵の中、そこから現れないアスナをクィネラはひたすらに睨んだ。この程度でやれるとは思っていない。だが、手加減なしで放った攻撃で傷を負わないはずがない。しかし――
「!? なっ…………!?」
晴れた煙の中現れたもの、それはアスナではなく壁。そして、崩れるその背後からアスナは姿を見せた。
「バカなっ、ありえない……!」
クィネラが攻撃をしかけた時、あんな壁は存在しなかった。それにもし仮に、どんな障害物があろうとそれを容易くぶち抜くほどの威力は余裕で込めていたのだ。それなのに、何故……。
彼女が困惑する間にもアスナは再度剣を振るい音色を奏でる。
今度はクィネラの足元が隆起し、さながら泥沼のように彼女を引きずり込んだ。驚き、逃れようと藻掻く暇もなく、クィネラは足を沈められて身動きを封じられた。
「くっ……!」
クィネラはじたばたと足掻くが拘束は予想よりも強固ですぐには抜け出せない。実時間にして一分もあれば脱出はできるだろうが、アスナも相手にしなければならない状況で、それはあまりにも致命的だった。
拘束したクィネラを見つめ、アスナは静かに距離を詰めていく。手にはレイピアを構えたまま、一瞬たりとも視線を反らすことなく彼女へと迫る。一歩ずつ近づくほどに彼女の顔に焦りが浮かんでいく。今度は後ろに下がることすらできないのだから当然だろう。だが、アスナはそれでも容赦することなく接近し、そして――
「――――っ!?」
――大きく剣を振り上げた。
途端に蒼白するクィネラの顔面――彼女の脳裏に記憶が蘇っていく。
遥か遥か大昔、まだショッカーはおろかゴルゴムすらない、怪人すら生まれる前のその昔。
些細な興味から自身と同じ仲間を生み出すべく自身の民を使い人体実験を行っていたその時代。既に世界の全てを掌握し、我が物としていた彼女が望んだもの。それは永久的な支配だった。
その時点で永遠にも等しい寿命を得ていたクィネラだったがその限界もまた感じていた。強力ながら次第に衰えも感じるそれを受けて、未だ謎の多い自らの身体を解析し、眷属とも呼べる仲間を生み出すべく研究を行い、克服に取り掛かった。
――結果、研究は成功した。
その成功個体たち――後の怪人に繋がる存在達は自身に勝るとも劣らぬ能力を誇り、彼女の支配を支える使徒として君臨した。彼らの力は目覚ましく、クィネラはその成果をもとに人間の『スイッチ』を更に押すことで真人類へと繋がる技術の片鱗を掴み、支配を確固たるものとしていった。
いつまでも続くとさえ思った王朝――だがその終わりは突然訪れた。
玉座に付いていたクィネラの前に現れたのは一人の男。彼は突如として姿を変えると、自身へと立ち向かってきたのだ。瞬く間にせっかく生み出した個体を次々と殺され、とうとうその牙は自身の首に届いた。
燃え盛る栄華の象徴たる城で、腕を斬られ倒れ伏すクィネラ。その顔に余裕などなく、あるのは恐怖だけ。
黄金に輝く騎士の如き異形の姿。
真っ赤に燃える複眼。
竜のように伸びる二本の角。
光る人とも呼べるそれは当時のクィネラよりはるかに強く、まるで神の怒りの化身かのように自分が築いたものを全て破壊した。
彼女が”それ”に勝てたのはマグレだ。
劣勢を強いられ無様に逃げ続けて辿り着いたのは海岸。背後は断崖絶壁でもう逃げ道はない――だが諦めるつもりはなかった。
最後の足掻きとばかりに国を守る砦たる堤防を破壊し、水を操って全てを、己ごと飲み込んだのだ。
一瞬で都市を破壊し、文明を崩壊させるほどの災害。
クィネラ自身もそれに巻き込まれ、助かる見込みはなかった。だが生き延びた。
全てが跡形もなく消し去られた大地に、光る人の姿はなかった。確証はないが、彼は死んだのだと察した。
それから、僅かばかり生き残った人間たちが文明を築き、発展しても、彼女は姿を隠し息を潜めた。人々の影に隠れ、歴史の裏で暗躍し、目的である永遠の命と自身の存在を解明するため、密かに活動した。
二度と命を狙われることがないように組織を複数に分裂させ、創世王や怪人など適当で無駄に壮大な歴史をでっちあげて、画策した。
だが再び、それもあの”光る人”を遥かに超える脅威が今、自身の命を脅かしていた。
いつしか震えだしていた歯を噛み締め、アスナと向かい合う。逃げられずともプライドが目を逸らすことだけはしたくなかった。
本人は口にしないだろうが、待ってくれとも、やめてくれとも訴えるような眼差しを、アスナは冷徹にも切り捨てた。
再び、音色を奏で、アスナは刃を振り下ろし――そして再び降ろした。
「…………?」
「リーファちゃんお願いだけど、彼女を治してあげて」
「えっ!? 本当に言ってるんですか!?」
リーファの動揺はもっともだった。当のクィネラ自身も唖然とするしかないのだか。
困惑する彼女達をよそにアスナは剣を収めると、地面の土を作り変えようと動かした。
「もちろん本当だよ。だってフェアじゃないでしょ、向こうは手負いなんて。勝負はフェアじゃないと」
足元の土は腕へと形を変えた。
それをリーファへと持ち上げ「これ使えるかな?」と呑気に聞いた。
「そんなもの必要ないですから。いいですよ、やればいいんですよね」
納得いかずともおずおずとクィネラの前に立ち、不満げな視線はそのままにリーファは修復を開始した。
瞬く間に傷が癒え、失った腕さえも復活する。長い年月を生きてきた彼女でもこれほどの能力は見たことがなかった。
やがて回復を終え、クィネラのそばからリーファが離れていく。
「礼などいいませんよ」
「求めてないから」
それだけ言ってリーファは再び離れていく。彼女が向かうのは木綿季の元。既に回復させ峠も超えたようで安らかな寝顔で休息を取っている姿をみて、アスナは安堵した。
手負いの相手をしとめても楽しくはない。どれだけ派手に暴れてもリーファがいれば木綿季に危害は加わらない。これで心置きなく戦える。
「何故私を助けた?」
「別に助けたわけじゃない。これから殺す相手が本調子じゃないとつまらないでしょ」
クィネラの問いにアスナは当然とばかりに答えた。
彼女を殺す決意は微塵も揺らいではいない。ここで情けを掛けて生かしたとして、今後も自身を脅かすことに違いはない。なにより、そんな生き恥を彼女は望みはしないだろう。
互いに距離を取り、剣を構える。
奇しくも同じ種類の武器で、命を奪い合うことになったのは運命めいたものを感じて、それでも、アスナは覚悟を揺らすことはなく。一気に加速した。
音を置き去りにして、衝突する刃。遅れて音が響き空気を揺らす。ぶつかりあう二つの視線。強烈な力を込めて撃たれた剣同士が軋んで、唸った。
何度も、何度も打ち合う剣の応酬。ぶつかり合う度に火花が散って、戦い続ける二人を綺麗に彩った。
まるで曲芸のように、でも真剣な命のやり取りの中で、何度も感情がぶつかり合う。でも決して交わることなどありえず、未練のような思いを断ち切るようにアスナはレイピアを振りぬいた。そして、彼女が身構えるより早くアスナの突きが身体を貫いた。
吐血し、ぐったりと倒れるクィネラから刃を抜き、続けざまに切りつけた。もう一撃――のところでクィネラは離脱した。
アスナのレイピアはクィネラの心臓を確実に貫き破壊していた。おまけの一撃で他の内臓もやられ、後一発受けていたらそこで終っていた。
リーファの回復ももう自分には使われないだろう。もう長くはない――それでも。
「…………っ!?」
それでも、最後とばかりにクィネラはアスナへ剣を仕掛けた。
何の策もない真っすぐな突き。
アスナもそれに答えた。
ぶつかり、激しく音を散らす二振りのレイピア。
その使い手の姿が交差してすれ違っていく。
剣を前に突き出したまま。二人は動かない。
永遠とも感じるほど緩やかな時の中で、武器を構え静止して――先に動いたのはアスナ。先端から滴る真っ赤な血液を振り払い、鞘に納めた。
同時に、その背後でクィネラの身体が倒れた。膝から崩れ落ち、そのまま動かなくなる。うつ伏せになった身体の下から赤い血が池を作りだしていく。
もう二度と起き上がることはない。もう二度と、会うことはない彼女へと振り向いた。
複雑な心境。自身を人から異形の身へと堕とし、地獄に変えた全ての現況。同時に新たな力を与え、別次元の存在へと至るきっかけをくれた存在。
「さよなら」
ただ一言。別れを告げてアスナが振り向くことはなかった。
そして、次第に遠ざかっていくアスナの後ろで、クィネラの指がぴくりと動いた。
「……っ、う、ううっ……」
力の抜けた重い身体を引き摺って、彼女は最後まで足掻いた。
逃げられないことも生きられないことも知っている。だが。彼女の生物としての本能がそうさせていた。だが――
「返してもらうわ。あなたに分け与えた私の力を」
クィネラの前に立ちはだかったのは、リーファ。
リーファは唇を舌なめずりしてにやりと笑うと、その場に跪き彼女の頭に触れた。そして、仲間を回復させる要領で今度は
「あ、ああ、あああ、あああああ……」
「私の力は、応用すればこんなことも出来るみたい。あ、でも加減はできないけど。まぁいいですよね」
そう語る間にもリーファの手の中、クィネラは次第に干からびていき美貌を喪失してしまった。さながらゾンビのようにやつれ、急速に老いていく彼女。
既に死にかけで枯渇寸前だった彼女からとれるエネルギーは大した量ではない。
だが、エネルギーと一緒に彼女の秘めている”真人類”としての力までもがリーファの身体へと流れ込み、未だ発展途上であった身体を急速に進化させていく。
身に纏うドレスは華麗さを増していき、装飾が増加。ドレスにおける緑の面積がさらに増え、金色のラインが走っていく。外見の変化は去ることながら、目に見えずとも内部の変化もまた凄まじく彼女の肉体を作り変えていった。
やがて吸収を終え、干からびたクィネラの亡骸から手を離す。
目を見開けばそれは緑に輝き、完全なる覚醒を告げていた。
そこに倒れているクィネラと同格の存在へと進化したリーファが向かうのはアスナの元。戦いの余韻からか瞳を閉ざし、瞑想する彼女にリーファは声をかけた。
「アスナさん」
だが彼女からは何の返事も返ってはこない。
もしや聞こえてないのか、と不安になったその時。
「――ステイシア」
彼女が独りでにそう呟いた。だがそれは、リーファには聞きなじみのない言葉で。
「私はもうアスナじゃない。人間から怪人へ、そしてその二つの種族を超越した新たなる存在”創世神ステイシア”。それが私の新しい名前。あなたもでしょ、リーファ――いえ、テラリア」
彼女にそう呼ばれた瞬間、頭の奥底から何かが呼び覚まされるような感じがした。
かつてアリスたちにより闇の人格が目覚めていた時、それが”リーファ”と名乗った時も同様の感覚がしていたのを思い出した。
そうだ。この名前は自分で決めるのではない。本能が、遺伝子に刻まれた何かによって初めから決められているのだ。
「――えぇ、そうでしたね。私の名前ももう変わった。”地母神テラリア”、それが私の新たなる名前でした……ステイシア」
「……だね。リーファちゃん!」
一転。当たり前のように名を呼ぶステイシア――否、アスナにテラリア――リーファはがくりと態勢を崩した。遺伝子レベルで真名が決まっている事実は変わらない。だというのに、どこ吹く風とばかりにアスナは笑っていた。
「ごめん、せっかくだし一度くらいは名乗っておこうかと思ってね。……でももうやめる。私の名前は私が決める。私がこれからどうするかなんて私自身が決める」
「それに」と付け加え、アスナは自身の胸元を抱いた。
「もし私がアスナの名を捨てたら、それこそ深澄に怒られちゃいそうだから」
切なげに笑うアスナにリーファは口をつぐんだ。
彼女の今の肉体は彼女一人の物ではない。新たなる創世王として融合させられ、一つとなった深澄の肉体もまだ、アスナの一部として生き続けているのだ。だが、残念なことに意識は既に消失している。簡単に言ってしまえば彼女には新たなるステージへ進む適性がなかったといえばそこまでだろう。だからと言って簡単に割り切れはしないだろうし、何よりアスナを前に自分が割り込むべき話題ではない。
「……そう、ですね。どんな姿になろうと私達は私達ですよ。さ、早くお兄ちゃんたちを探して、詩乃さんの仇もとりましょう」
「うん、そうだね」
リーファを追うようにアスナが一歩踏み出した――瞬間、彼女の脳裏にあるビジョンが映し出された。
どこかの海。そこを埋め尽くすほどの無数の軍艦と空母。そして、空を飛び交う戦闘機の大群。
それも軍隊一つどころではない。国が、いくつもの国が一斉に軍を、兵力を動かしたのだ。それも同時に、たった一つの場所だけを目指して。
映像が途絶えたが、アスナには全てが理解できた。
元より聡明であり、今や全能の力を得た彼女だからこそ理解した。させられた。
これからの展開を。
もうまもなく現実となるであろう地獄を。クィネラを相手にするのが可愛く思えるくらい残酷な未来を。
「――アスナさん?」
木綿季を肩に背負ったリーファがアスナを不安げに見つめていた。木綿季も同様で、どうやら気づかぬうちに険しく顔を歪ませてしまったようだ。
「……ごめんなさい。それじゃあ、早く脱出しましょうか」
「……えっ、まだお兄ちゃんたちを見つけて――「――二人ならもう脱出してるから大丈夫。私達も早く脱出しないと危ない」――えっ」
困惑するリーファをよそにアスナは虚空を睨んだ。
まだ二人には話していないが、知る必要があるだろう。脱出しながらの方が都合がいい。それに――
「――それに、詩乃のんならもう大丈夫だから……」
不思議そうにする二人にアスナは笑った。
「あの子はもう、ここに来てるから」
※
明日奈達が激戦を繰り広げた洞窟の奥深く。クィネラや怪人連合がいた場所とはまた異なるエリアに、アポロはいた。
クィネラの居室とはまた趣きの違ったアポロ自身の部屋。彼が生きてきたこの長い年月の中で集めてきた重火器類が所狭しと並べられていた。
「……きたか」
ここと洞窟を繋ぐ唯一の出入り口である通路。
真っ暗闇で常人には認識できぬほど深い闇しか広がっていない。だが、超人すら凌ぐ彼の目にははっきりくっきりとその人物が見えていた。つい先日再起不能にしてやった女怪人。心まで折ったはずではあるが、人質を取った以上必ずくると踏んでいた。二度と歩けなくしたはずの足も今や完全に癒えていることに感心した。
「待っていたぞ女……いや、シノン」
数世紀ぶりくらいに覚えた好敵手の名前を高らかに呼んだ。
暗闇から姿を見せた詩乃。暗闇でも映えるほどに瞳を蒼く輝かせ、怒りに燃えながら冷静さを保った氷の如き視線は真っすぐにアポロを見据えている。
「さっさと始めましょう。あんたを殺してあげる」
鋭い目はそのままに戦意を放っていく。
以前のように感情に任せたりはしない。今はただ、冷静に目の前の敵をしとめることだけを考える。
「面白い、またやられるだけだろうがな」
明らかに雰囲気の変わった彼女を見て、アポロは満足げに笑う。
これで最後だと詩乃は己を鼓舞し、目下の敵を見据えた。
シノンとアポロ。三度目の決戦が始まろうとしていた。
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