朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
日本のどこかに浮かぶ小さな孤島。地図には乗っておらず、普段は目視することさえ叶わぬそこはショッカーの持つ拠点の一つであり、捕らえた人間を幽閉するなどの目的で利用され、時にはシノンのように改造手術を施す場所として運用されていた。
そこへ帰還したシノンとユウキの二人は別行動となり、シノンは幹部達への任務報告を行う事になった。
小さな体育館ほどの広さの一室。真っ暗な部屋を照らす光源は一つだけで、その下には小さな作業台が置かれている。
歯医者で見かけるようなリクライニング式の黒い椅子の上でシノンは一糸纏わぬ姿を晒していた。強化戦闘服は幹部を前に着用することは許されず、入室時に戦闘員達により預けてある。
全身にパッチが貼られ、彼女の肉体のデータを採取していた。
虚な眼で壁を見つめていると、巨大なホログラムが三つ投影された。
『先の任務、見事であったシノン。我が組織を代表して礼を言おう』
シノンから見て左側のモニターに表示された軍服を着た男性が労いの言葉を掛けた。高圧的でどこか形だけに聞こえるがシノンは黙って一礼した。
『これで貴様のトライアルは全て終了した。どうかね、我が組織の一員として働いた感想は?』
「最高です大使……。これ以上の悦びはありません」
右手のモニターに映し出されている幹部がシノンに語りかける。古代文明の王様のような奇妙な被り物をしているが、先程の軍服同様に目や声は笑っておらず底知れない物を感じた。
『……シノン。君にはこれからも我がショッカーの為に働いてもらうが、その前に……』
「……その前に、なんでしょうか博士?」
真ん中のモニターには黒いマントを羽織った死神のような男が現れ、シノンは身を乗り出し問いた。
改造されて間もなく、シノンはこの男による触診や健診を何度も受けたがその度に凍てつくような悍ましさと巧みな技術を感じ、尊敬と畏怖の念を抱いているのだ。
皆ショッカーの誇る大幹部達だが、どうにも今日は様子がおかしかった。
『君のカラダ……改造され、新たに産まれ変わった君の肉体にはある恐るべき変化が起こっている事が分かったのだ……』
「ある変化……それは一体……?」
『お前のカラダにはリジェクションが一切起こっていない。それはお前が我が組織で初の成功例であるという事だ』
勿体ぶる博士に痺れを切らしたのか軍服の男が先に答えを切り出した。
「リジェクション……?」
『我が組織の改造人間達は皆、一定期間内に血液交換を行わなければ、たちまちにリジェクション――拒絶反応を起こし、激痛に苦しんだ後に、やがて死に至るのだよ』
「なっ……!?」
横から入ってきた大使により突如告げられた恐ろしい真実にシノンの瞳に動揺が走る。鼓動が速くなり立ちあがろうとするが、手足を拘束する枷がそれを逃さない。
『案ずるなシノン、君は成功例と言ったはずだ。君のカラダにはリジェクションの兆候は一切確認されていない、それどころか、君はどの改造人間よりも急速にその強化された肉体へと適合し、進化さえしつつあるのだから』
「進化……」
『そう、まだ誰も到達したことのない領域……全ての怪人を統べるやも知らぬ存在に君は届きつつあるのだ』
「……っ、首領……!」
博士の言葉に続くように、また別の声が響く。
『シノンよ、今から君のカラダから血液を採取させて貰う。君の遺伝子情報を解析すれば既存の改造人間達を更に強化するだけでなく、我らの理想とする最強の改造人間の誕生に役立つかもしれん』
「最強の怪人……、まさかっ……!」
少し間が開いて、首領の言葉にシノンは何かを悟った。
『そう、そのまさかだ……。我らショッカーの改造人間の究極系、【ホッパー】の誕生に近づく手掛かりとなるのだ』
「私が……【ホッパー】誕生に役立てるのですね……」
首領の言葉を聴き、シノンは自身の胸が脈打ち下腹部が疼くのを感じた。
類稀なる素質を秘めた優秀な個体にショッカーの誇る技術の粋を結集した時、誕生するとされている最強の改造人間『ホッパー』。
既に多くの人間がその被験体として手術を施されたが、いずれも拒絶反応で失敗。一度だけバットに見せてもらった資料で存在を知っていた程度だが、その性能の凄まじさだけは脳裏に深く焼きついており、同時に、それに選ばれなかった自分の不甲斐なさに唇を噛んだのを覚えている。
だが、状況が変わった。
自身の肉体が組織の仲間達の命を救うだけでなく、偉大なるホッパーの礎となれるかもしれないのだ。自分ではなくとも、少なくともその計画の一部と慣れる。
断る理由などどこにもなかった。
「首領、私の肉体など好きに使ってください。元よりこのカラダは我がショッカーの為にあります……!」
『その言葉を待っていたシノンよ。君を我が組織に加わったことを心より祝福しよう。今後も、我らの理想の為にその力を存分に活かすといい』
その言葉を最後にモニターは切断され、同時に白衣の科学チームがやってきた。
「シノン様失礼します。これよりシノン様の血液及びその他の体内データを採取させていただきます」
「えぇ、早くやって頂戴……」
彼らはシノンの周りを囲むと手足に注射針を突き刺し、血液の抽出を開始する。
「あっ……! あぁ……」
鋭い痛みが走ると共に、全身から力が抜けて強烈な睡魔が襲いかかる。
彼らはシノンの開かせた股の前で跪き、ローションで濡らしたバイブを突き刺した。
「あっ!」
突然の刺激に身体を震わせるシノンの肩を押さえつけ、耳元で囁いた。
「一つ、伝え忘れておりましたが首領様から伝言がもう一つ」
「……?」
「実験の褒美として、新たに能力を一つだけ備える許可をいただいているのですが、シノン様の中で候補などは既にありますでしょうか?」
「能力……」
怪人が大幹部となるか、匹敵する功績を挙げた際に与えられるとされる能力追加改造。自分には当分縁がないと思っていたが、候補なら既に決めていた。
「……そうね。例えば――」
「……それは素晴らしい能力です」
妖艶な笑みを浮かべて囁くシノンに白衣はガスマスク越しに声を上げた。
シノンの腰掛けていた椅子が倒れて変形し、大の字に拘束する体勢に変わった。
改造手術以来の白衣達に見下ろされる形だが自然と恐怖はなかった。むしろ、これからの期待が強くて腹の奥が熱いくらいに脈を打っているほどだ。
白衣は歯の治療で使う程のサイズ感なドリルを手にするとシノンを見下ろした。
「それではこれより、怪人シノンの解析処置及び能力増強手術を執り行う」
それを合図に白衣達はシノンの頭を掴んで押さえつけ、ドリルを眉間へと近づける。
スイッチが入って錆びた空気を噴き上げながらドリルの回転が始まる。
それを見た瞬間にシノンの動きが止まった。迫り来るドリルの切先に恐れたのではない。新たな力を得てまた産まれ直せる事に歓喜し悦びの涙が溢れたのだ。
(あぁ……)
処置が始まるとシノンの全身は更に幸福に包まれるのを感じた。ドリルの振動、メスが肉を捌く感触、繋がれるチューブ、掛けられる電流で震える肉体は喜びに満ち溢れて、シノンは喜びで包まれ、組織への忠誠を新たにするのだった。
次回は間が開きますしタイトルには反しますが、前回登場したユウキのお話をやるかもです。少し長くなるかもですがお付き合いいただければ幸いです
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