朝田詩乃は悪の組織に忠誠を誓う 作:名無しの猫
作品が性癖に刺さって好きすぎるので少し予定より早いですが投稿します
今話よりしばらくショッカー怪人ユウキの過去編です(タイトル…汗)
今回はエロなしです
ショッカー基地にある戦闘訓練施設。
そこは改造手術を経た改造人間が初めて訪れ己の能力を確認する場所であり、ここでのトライアルをまずは突破することで実社会における簡単な指令をこなし、晴れて一人前の怪人として認められ、任務に着くことになる。
故に、新たな怪人が誕生しなければこの施設を使うものは非常に少なく、主に戦闘員が新兵器のテストや被験体への大掛かりな人体実験で用いられることが主なのだが――
「悪いけど手加減できないからねシノン。今のボクは最高に調子がいいんだ」
「手加減なんか必要ないわよユウキ。だって勝つのは私だから」
スタジアムの中心で睨み合う二人の改造人間。
蛇の能力を備えた怪人『ユウキ』と猫の能力を備えた怪人『シノン』だ。組織の中でも珍しい女性であり、優秀な改造人間である二人は今、互いに仮面を外した素顔のまま火花を散らしていた。
「あれれ〜、そんなこと言っていいのかな〜? ボクより後に怪人になったのに、先輩に勝てるとホ・ン・キで思ってるのかな〜!」
「だって今まで何度も勝ってるもの。また敗北の味を教えてあげるわ、センパイ♪」
両者とも譲らず笑顔は張り付かせたままに言葉を飛ばし合う。未だ顔立ちに幼さを残した少女達だが、瞳に宿る獰猛なまでの光は真剣そのもので、華奢な身体つきにはゴツく見える強化戦闘服も様になっていた。
二人の決闘は今に始まったことではなく、シノンがショッカーに加入して以降、幾度となくこの闘技場で戦いを繰り広げてきたのだ。(ちなみにショッカーでは仲間内の決闘は一応禁止されている)
「勝ったって不完全なボクでしょ? 今のボクは完全なボクだよ! なんたってリジェクションを克服したんだからね!」
「そうね……、そうだったわね……」
「……ありがとうシノン、おかげでボク達は長生きできそうだよ……」
「ユウキ……」
ユウキの言葉にシノンは頬を綻ばせた。
シノンが改造人間の成功例だと発覚して数ヶ月が経過した。その間に血液を始めとするデータの解析は迅速に行われ、各支部に送信。研究が重ねられた結果、改造人間のリジェクションを消す事に成功し、ユウキに限らずスパイダーやバットといった多くの改造人間が定期的な血液交換の宿命から解放されたのだった。
それに伴い改造人間の運用コストも大幅に削減されて戦力の多様化にも繋がった。
――また、噂レベルだが、リジェクション克服の成果からこれまでの外科手術を用いぬ新たな怪人製造計画も始動中との事でショッカー内部は大きな転換期を迎えつつあった。
「本当に感謝してもしきれないよ。ボク達改造人間はいくら血液交換で延命してもそう長くは生きられなかったから……。でもこれからその心配もない……」
「お礼はもう十分よ……。私だって居場所をくれた皆には感謝してるもの……。だから、これからは刃で語り合いましょう……」
「シノン……」
「全力でぶつかって、互いに本気の戦いをしましょう。ユウキの全力、私に見せてみなさい」
「うん……、行くよシノン!」
「来なさい、ユウキ!」
二人は手に持った仮面を被り、改造人間としてのメカニズムを起動させる。
ユウキの仮面はフルフェイスのシノンとは違って口元と髪が露出した特殊なデザインの仮面であり、装着をした瞬間、複眼が輝くとスーツに包まれた肢体が蠢き。強化筋肉と人工パーツが稼働して、ユウキの肉体を超人へと進化させた。
ルージュの塗られた唇が妖しく結ばれて、普段はセミロングなユウキの髪が蛇のようにうねると腰ほどまでに伸びロングヘアーへと変わる。
「いくよ……」
腰に巻かれたベルトを引き抜くと、それは瞬時に硬化して一振りの剣へと形を変えた。ユウキの持つ猛毒が全体へと伝達し、紫へと変色して黒曜石の如き輝きを放った。鋭き刃はシノンを捉えて離さない。
華奢な身体つきで強化スーツもシノンや他の怪人と比較すれば軽装に思えるユウキの怪人態だが、漂う殺気は本物で、シノンはごくりと生唾を飲み込むと呼び出した弓を分割して逆手持ちのナイフに換えると同じく身構えた。
こうしてしばらくの間、二人は睨み合った。どちらも同じスピードタイプの改造人間。間合いを詰めるなど一瞬で、同時に首を取ることも瞬きする間があれば十分だった。
それ故に互いに手が出せない。
シノンからすれば、飛び道具の弓矢を放ったとしてもユウキ相手に一撃必殺のつもりならまだしも、そんな転け脅しが通じるとも思えず。
ユウキも同様で、自慢の連撃を叩き込むにしても高い動体視力と自身より力で勝るシノン相手では決まるとは思えなかった。
(……このままじゃ埒があかない。……なら!)
先に動いたのはユウキだった。
地を這うように素早く加速してシノンへと迫り、剣を振りかざす。
剣の軌道を予測しナイフで受け止めようと動いた瞬間――ユウキの足が地面を蹴り大きく飛び上がった。
「……ッ!?」
驚いたのも束の間、宙を舞うユウキは狙いをシノンの背後に定め力を込める。
(……ユウキ、……甘い!)
が、その程度見切れぬシノンではない。すぐさま振り向きガードした。
互いの刃が擦れ合い火花を散らす。
「……くっ!」
シノンはユウキの剣を弾き返すとそのまま回転して腹部を狙う。
しかし、これも身軽な身体捌きで躱されてしまう――が、シノンは回転をそのままに素早くナイフを弓へと合体させ、勢いそのままにユウキ目掛けて矢を放った。
「……えっ!」
流石のユウキも予想していなかったのか、一瞬驚いたような声を上げつつ矢を弾いていく。
二発、三発と続け様に撃ち込まれる矢をユウキはバク転で後退しながら全て回避してみせた。
「やるわねユウキ……」
「そっちこそ……」
互いに引かぬ攻防はそれからも続き、いつしか闘技場は矢の残骸だらけで、あちこちに剣による傷痕が刻みつけられていた。
「ふっ……!」
「やあっ……!」
シノンの弓とユウキの剣が幾たびぶつかって響き合う。
「そろそろ降伏したら? 病み上がりにはキツいんじゃない……?」
「そっちこそ、実験漬けの身にはちょっとハードなんじゃない……?」
改造人間の超人的な体力を持ってしても限界は互いに近づきつつあった。
ギリギリとぶつけ合った刃が軋み、音を鳴らす。
「「あっ!」」
力を込めた二人の獲物が反動で弾かれ宙を舞う。反発を受けたのも束の間、上昇する武器達の下で睨み合う二体の怪人はどちらからともなく掴み掛かった。
シノンとユウキは互いに手を押し合い力を込める。頭突きの要領でぶつけ合った仮面は激しく響き合い、睨み合う青と紫の複眼の光が暴力的に交錯する。
互いに力の限り押した身体は再び反発し、すぐさま体勢を整えると拳を握りしめた。
「……フッ!」
「ヤアッ!」
猫の拳は蛇の胸を撃つと、蛇の拳は猫の腹を撃つ。互いによろめくも今度は逆の手で殴り返し、また逆、今度は足と、なんども繰り返す。
いつしかスーツの生地はボロボロに裂けてプロテクターも損傷、仮面も一部はひび割れて互いにダメージが蓄積していた。
「ハァァッ!」
「オリャァ!」
シノンとユウキの拳が互いの仮面を打ち抜き吹き飛ばす。衝撃で倒れ込む二人だったが、もはや引くに引けぬ状況で折れる彼女達でない。口の端から溢れる血を強引に拭って、付近に刺さる獲物を握る。――それが互いの武器を取り違えた事にはすぐに気づくも、即座に切り替えて再度ぶつかり合った。
「うりゃぁァァァァァ!」
ユウキは弓を槍に見立てて振り回し、シノンの隙を狙う。ショッカーに長く所属し、あらゆる武器を試した果てに剣を選んだ彼女は槍の扱いにも長けていた。
「くっ……!」
対してシノンは身体能力こそ高くともまだ産まれたばかりの怪人。同条件の戦いとなれば優劣を決するのは経験値の差であり、リジェクションの有無が無くなった今は次第に押されつつあった。
「どうしたのシノン? 今回はボクの勝ちかな?」
「くっ……! まだまだ、負けるもんですか……!」
言葉とは裏腹にシノンの劣勢は明らかで、ジリジリと後退していき、遂に壁に背中がついてしまった。
「……あっ、しまった……!」
「終わりだねシノン、最後に言い残すことはある?」
弓を首筋に突き立て、降伏をするように煽る。
絶体絶命の状況でそれでも勝ちを諦めないシノンは仮面の裏で歯を噛み締めた。
「誰が、降伏なんてするもんですか……!」
「そっ、じゃあ今度こそボクの勝利だね!」
勝ちを確信したユウキは弓を大きく振りかぶり、勢いよく下ろした。スローモーションみたいに迫る自身の武器を見上げるだけのシノンだったが、ふと、弓の取手にある一筋の線が視界に映り――
「……っ!? ここだっ!」
「?」
シノンは剣を逆手に握りなおすとユウキの弓へと刃を振るう。
最後の悪あがきだと気にも留めぬユウキ。だがシノンの一撃は予想だにしない場所を狙っていた。
「ハアッ……!」
「……っ!? なっ……!?」
シノンの狙った場所――それは弓をナイフと分割する接続部で、弓となっても尚脆いその箇所は切れ味抜群の剣を受けて容易く切断され、ユウキの攻撃を崩す。
「しまっ……!?」
一転、窮地に立たされたユウキをシノンは見逃さない。直ちに体勢を整えると今度はユウキの首目掛けて剣を振り抜いた。
動揺していたユウキもまた、意地で持ち直してナイフをシノンの腹部目掛けて突き出した。
「ハァァァァァッ!」
「ヤァァァァァァ!」
二人の少女の全力を込めた一撃がぶつかりあう。
勝つことだけを胸に、負けることを考えない両者の戦いは――
「――そこまでです」
――突如とした乱入者によって終止符を打たれた。
「えっ……?」
「なに……?」
二人の身体に蜘蛛糸が絡みつき動きを封じる。そこへすかさず蝙蝠の超音波が放たれ、耳から脳を貫くような痛みに膝をつかせた。
「くっ……、バット!」
「何するのさ! 邪魔しないでよ!」
神聖な決闘を妨害した無粋な乱入者に二人は揃って抗議した。先程まで命の取り合いをしていた相手とは思えぬ息の合いように仲裁者――バットはため息をついた。
「熱くなりすぎですね、二人ともお遊びは終わりです。周りを見なさい」
バットに流されるように辺りへと視線を向ける二人。
闘技場は廃墟のように荒んで荒れ果て、床や壁はボロボロに。照明や各種設備も破壊され、騒ぎを聞きつけたのか陰では無数の戦闘員達が待機していた。
「本来、我らの間で不要な争いはご法度です。それをこれまでは戯れと大目に見てきましたが、今回は流石にやり過ぎです。二人とも自室にて謹慎、処分が降るまで怪人としての力を剥奪。人間として過ごしなさい」
即座に駆けつけた戦闘員達により身動きの取れぬまま首にチョーカーを巻かれる二人。
「あっ……」
「いやっ……」
全身から漲る力が消え、ただの人間まで無力化されてしまう。普段なら簡易改造の戦闘員如き簡単に制圧できるが、今の普通の少女二人では太刀打ちなどできないであろう。
「それから最後に、……二人ともまずはシャワーを浴びなさい。……匂いますよ」
それを最後に言い残し去っていくバット。互いにくんくんと鼻を鳴らしたのも束の間、赤く染めた頬を膨らませ叫んだ。
「……このヘンタイ! オンナの敵!」
「……ッ、スケベ! ノンデリカシー!」
少女らの反抗などどこ吹く風のバットだったが、スパイダーが二人を拘束する寸前――彼女達の刃はほぼ同時に互いの急所を捉えていた事を思い出し、一人笑った。
「流石は未来ある改造人間達ですね……。私がスカウトしたシノンもそうですが、あなたのスカウトしたユウキもやはり逸材でしたねぇ……」
『フン……! まだ小娘どもは本当の戦いを知らん……。我らが本当に戦うべきは人間などではない。それを経ずして語るなど笑わせるな……』
「ですねぇ……。果たして彼女達は、『あの者達』を相手に生き延びる事はできるでしょうか……」
バットとスパイダーは互いに言葉を交わしてこの場を去っていく。二人もまた、同じ組織の仲間として深い絆で結ばれているのだった。
アクションシーン難しいです