このすばらしい仲間と恋愛を! 作:てつろう
約8000字あります。後編とまとめてみた方がスッキリするかもです。
(アクア視点)
めぐみんがカズマさんと結婚してから数週間が経った。
「ただまー」
私は一人で屋敷に着き帰宅を知らせる。既に昼を回っていて室内は日光の温かさで心地よかった。しかし、屋敷の中からは返事が聞こえない。
「ちゃんとおかえりを言って欲しいんですけ……」
リビングを開けると誰もいなかった。ただ、私が朝食で使った食器がテーブルに置いてあるだけだ。勿論私に返事をする人もいない。そう、めぐみんもダクネスもカズマさんと結婚して王城に行ってしまったのだ。この広い屋敷には私一人しかいない。
「はぁ……これで良かったのかしら」
めぐみんとダクネスはカズマさんと結ばれた。昔は狂っていたあの二人も今では大人しくなっている。きっとあの
そう思っていたのに、私はため息をついてしまう。元気ハツラツだった頃の私が今の自分を見たら笑うだろう。
「……はっ!?だ、ダメよ、こんな姿を私の信者達に見せられないわ。元気を出さないと……!」
私は急いで自分の部屋に行く。気分が滅入る時にいつもしている事があるのだ。私は自室の机の引き出しを開ける。そこには、笑顔のカズマさんが写った写真があった。
「はぁ……やっぱりこの写真はいいわね……」
この世界では魔道カメラは高価なもので、滅多に写真はない。だからこの写真もとても貴重なものなのだ。私は写真に写ってるカズマさんを撫でながら呟く。写真から彼の温もりが伝わってくるような気がした。
「カズマさんカズマさんカズマさん……」
彼の名前をブツブツと呟いているうち自然と笑顔が零れてきた。やっと私は本調子を取り戻したみたいだ。私は暫く写真に頬ずりする。彼と私が繋がっているみたいだ。
しかし、私がカズマさんを愛でる時間はそう長くは続かない。突如、強風が吹いたのだ。 写真は風に飛ばされ吸い込まれるように窓へと飛んで行きそのまま屋敷の外へ舞った。
「ちょっと!私の写真がっ!」
写真が飛ばされた方へ取りに行こうとするがもう遅い。写真は日光に照らされながら宙をふわふわと舞っていく。ここは二階だから写真を取るためには一度玄関へ降りてから外へ出なければならない。私は急いで玄関へと向かった。転びそうになりながらも玄関のドアを開ける。すると、ドアの外にはダクネスとめぐみんの姿があった。たった今二人が帰ってきたのだろうか。
「久しぶりですねアクア」
二人が丁度立ち塞がるように立っていたので私は前に進むことが出来ない。こんな所で立ち止まっている暇は無い。私が強引に前に進もうとしたその時、
「うっ……!」
ダクネスがふらふらと千鳥足を踏んだ後、その場にへたり込んでしまった。
「どうしたのダクネス!?大丈夫?」
流石にダクネスを見捨てることは出来ないので仕方なくダクネスを介抱する。彼女の肌をよく見ると少し血色が悪いような気がする。貧血を起こしてしまったのだろうか。
「少し立ちくらみがしただけだ。多分妊娠の症状だろう。悪いが部屋の中まで肩を貸してくれないか?」
私は先程写真が飛んで行った方をチラチラ見る。ここからは写真が見当たらない。だが、ダクネスを助けることにした。ダクネスの右腕を首に回し一緒に歩く。ダクネスがゆっくり歩くので非常に焦れったい。
「色々と積もる話があるのだ。昔のように女同士で話さないか?」
「話したい気持ちは山々なんだけど、今は写真が……」
「まずは私の子供の話をしたいな。この子にどんな名前を付けるか色々悩んでるのだ。是非アクアの意見も聞きたいのだが。」
ダクネスが今から長話を始めようとしている。私はこれ以上ダクネスに構っていられないので思い切ってダクネスを置いて玄関へと走り出す。後ろからめぐみん達の慌てる声が聞こえるが気にする暇は無い。
「ええと……どこかしら。確かここら辺に落ちてた気がするのだけれど……」
先程写真が飛んで行った方向を頼りに周囲を探す。確かここら辺にあったはず……。そのまま私は十分ほど探したが一向に写真は見つからなかった。
「ああ……。どうしましょう……あの写真がないと困るわ」
あの時ちゃんと写真を握っていればこんな事にならなかった。嫌な汗が私の頬を伝う。今頃風に飛ばされて遠くの彼方へ行ってしまったかもしれない。
「お嬢さん、大丈夫かね?」
声のした方を見ると初老の男が立っていた。白髪の頭はボサボサでとても好印象とは言えない。だが、私の事を気遣ってくれているのは分かった。
「大丈夫じゃないわよ。私がずっと大切にしていた写真がなくなっちゃったのよ。」
泣きそうな声で写真のことを伝える。こんな事をこのおっさんに話していてもしょうがない。私が別の所を探そうと立ち去ろうとしたその時、
「お嬢さんが探してるものはこれかね?」
見るとおっさんが私がずっと探していた写真を持っていた。少し土で汚れていたが写真が無事見つかった。私は思わず写真に手を伸ばしてしまう。
「髪がボサボサとか思って悪かったわね。その頑張りに免じてアクシズ教徒になってもいいわよ!」
私が写真を受け取ろうとするとおじさんはひょいと避ける。何をしているのかとおっさんの顔を怪訝な表情で見つめた。
「この写真は貴重なものだ。そう易々と君に渡すことは出来ないよ」
魔道カメラが高価なこの世界では当然写真も貴重なものだ。このおっさんは私に写真を渡す気はないらしい。なんとも嫌な奴に写真を奪われてしまったようだ。
「その写真は私のものよ!返しなさい!」
「どうしても渡して欲しいと言うならいくらかお金を置いていきなさい。それで渡してあげよう。」
このおっさん……!生意気な態度に私は歯ぎしりを立てる。頭がボサボサなのは定職に付いてないからではないだろうか。ニートにはろくな奴がいないのね。
「それでお金を渡すのかね?渡さないのならこの写真は私が持っておこう。」
私は黙って財布からお金を取り出す。硬貨を取り手の中に握りしめた。そのまま手をそっとおっさんに近づける。
「おお!いくらだ!?いくら貰えるのだ!?」
おっさんは指で隠された私の硬貨を覗き込む。がめつい人にはなりたくないものだ。私はそんな無防備なおっさんの顔に向けて強烈なパンチを食らわせた。
『ゴッドブロー!』
「へぶっ!!」
おっさんは面白いように飛んでいき放物線上に宙を舞った。その様子で私の溜飲は下がる。地面に落ちた写真を私は拾い上げる。
「この私に物乞いなんて百年早いわよ!」
カズマさんの写真を上に掲げる。写真が日光に照らされ輝いていた。先程までの不安は嘘のようで私は鼻歌を歌うほど機嫌が良くなっていた。
「♪〜、ふふっ、やっとカズマさんが帰ってきたわ。さあダクネス達も屋敷に来ていることだし早く帰りましょう」
私は屋敷に行こうと後ろを振り向く。そこに立っていたのは警察官だった。私達は静かに見つめ合う。
「……私は帰ろうかしら」
「お姉さん、ちょっとお話聞かせてもらえるかな?」
「嫌よ!嫌!絶対に嫌!私は何も悪くないの!」
「はいはい、詳しくは署で話を聞きますからね」
私は抵抗虚しく警察官に連れて行かれた。
+
留置所に入った私を迎えに来たのはダクネスだった。日差しも弱くなっていて周りの景色は赤っぽくなっていた。
「私悪くないのに……!全部あの人のせいなのに……!」
私は涙目になりながら屋敷へと帰る。隣ではダクネスが私をどう慰めるか困っているようだった。
「ま、まあこうして無事釈放されたし良かったじゃないか。ほら、もう屋敷に着いたぞ。」
私は未だ泣き止まなかったが、ダクネスに連れられ屋敷の中へと入る。いつも一人で屋敷に帰る時と変わらない光景だったが隣にダクネスがいるだけで不思議と周りが輝いて見えた。
「おや、二人ともおかえりなさい。夜ご飯は私が作っておきましたよ。」
気づけばお肉の香ばしい匂いが部屋に漂っていた。久しぶりに他の人が作ったご飯を食べられる。私は自然と泣き止み食事を前にして椅子に腰掛けた。間もなくしてめぐみんとダクネスも席につく。私達はめぐみんの作ったご飯を食べて話に花を咲かせた。こうして二人と話すのも久しぶりの事だった。
「やっぱりめぐみんが作るご飯は美味しいわね。久しぶりに美味しい物が食べれて嬉しいわ」
「ふふふ、そうでしょう。これからは私達もここで暮らしますから存分に堪能してください。」
”これからは私達もここで暮らす”。お城に住んでいたはずなのにどうして二人は帰ってきたのだろう。私の疑問が顔に出ていたのかダクネスが答えてくれた。
「実はだな……最近アイリス様とクリスが私達に攻撃してくるようになったのだ。恐らくだが妊娠してる私達に嫉妬しているのだと思う。そこで子供を産むまではこの屋敷で過ごそうという話になったのだ。」
なるほど、二人はアイリス達から逃げてきたのか。めぐみんとダクネスは比較的穏やかだけれどあの二人はカズマを取られまいと必死になっている。二人がここに来るのも自然なことだろう。
「という訳で暫くお世話になりますよアクア。」
それからめぐみん達が屋敷に住むようになった。妊娠してる二人に負担をかけるわけにはいかないので私が基本的に身の回りのお世話をするようになる。一人ぼっちだった私も彼女達が来てから毎日の生活にハリが出るようになった。
ある日、私が昼頃に起きて居間に行くとめぐみんが何かを作っていた。
「めぐみん何作ってるの?」
「でんでん太鼓ですよ。子供が産まれた時に使うかと思いましてね。」
めぐみんは太鼓をポンポンと鳴らしてみる。耳障りのいい音が鳴った。こうして見ると彼女も母親に見えてくる。そんな彼女の姿を見るのが嫌で私は目を逸らしてしまった。
「赤ちゃんが出来るのが楽しみですね……。名前もいくつか考えているのですよ。アクアも見ますか?」
そう言うとめぐみんは小さな紙切れを取り出し、床に置く。紙には紅魔族らしい名前が十個程並んでいた。
「おはよう二人とも」
リビングのドアが開けられダクネスが顔を出す。ダクネスが起きるのが遅いのは珍しい事だった。
「遅かったわねダクネス、夜更かしでもしてたの?」
「ああ、これから産まれてくる赤ちゃんの事を考えていると中々寝付けなくてな。」
ダクネスも赤ちゃんの話か。私は彼女の話を聞くのも嫌だったのでそれ以上聞くことは無かった。
「めぐみん、一緒に外に散歩に行かないか?子供の為にも普段から日光を浴びておいた方がいいと思うのだ。」
「それはいいですね。すぐに支度をするから待っていてください。」
めぐみんはダクネスの誘いを受けて部屋を出ていった。床にはめぐみんの考えた名前のメモとでんでん太鼓が残される。私は何気なくメモに書かれた名前を見る。てんてん……くらるん……まいまい……。どれも変わった名前だ。少し前まで少女だっためぐみんも今では母親になろうとしているのだ。
「ふんっ、赤ちゃんの事ばかり考えてめぐみんもダクネスもバカみたいね。」
私は強がりを言ってみる。脳裏に母親として振る舞う彼女達の姿がこびり付いて離れなかった。
私も気分転換に外に出ようとしたその時、玄関のドアが叩かれる音がした。めぐみん達が忘れ物でもしたのだろうかと私は玄関へ向かう。だが、そこに居たのはめぐみん達ではななかった。
「アクア先輩、久しぶりですね」
玄関に立っていたのはクリスだった。めぐみん達はクリスから逃げてここに来たらしい。めぐみん達を匿わなければいけない。運良く今はめぐみん達がいないが彼女にここに居られるのは不味いだろう。
「ええ久しぶりねエリス、わざわざ屋敷に来てどうかしたの?」
出来るだけ彼女に早く帰ってもらいたくて私は用件を聞く。クリスは私の意図を見透かしているような目で見つめ口を開いた。
「ここにダクネス達が来てませんか?」
いきなり核心を突く質問だ。私は嘘とバレないように彼女の目を見据えながら答える。
「き、来てないわよ。めぐみん達の事だからどこかで外泊でもしてるんじゃないかしら?」
「ふーん」
クリスは私の発言を聞き流しながら屋敷の中に入ってくる。私は彼女を中に入れないようにしたがひょいと身をかわされ簡単に通してしまった。クリスはそのまま先程までめぐみん達がいた居間に入って行く。
「こんな所にでんでん太鼓がありますね。これは誰のものですか?」
クリスがでんでん太鼓をポンポン鳴らしながら私に聞いてくる。もう彼女にはめぐみん達がここに居たことはバレているだろう。私は彼女からでんでん太鼓を奪い返す。
「この太鼓はめぐみんのものよ……分かって聞いているんでしょ。そんなにめぐみん達に執着してもいい事なんてないわよ。さっさとお城へ帰りなさい。」
私はめぐみん達を守るため少し威圧しながら話す。クリスは私の言葉を聞くと頭に手を当てわざとらしくため息をついた。
「今日はダクネス達に用がある訳じゃないですよ。それはついでに聞いただけです。私が用があるのはアクア先輩、あなたです。」
どうやらめぐみん達を追って来たわけじゃないみたいだ。ひとまずめぐみん達への危機は去った。
「私に用って何かしら?」
「先輩に忠告しておこうと思いまして。」
私に忠告……。腹黒いクリスの事だから良くないことだろう。私は身構えながら彼女の話を聞く。
「先輩はカズマさんのことが好きなんですか?」
彼女の発言は突拍子もないことだった。私は不意を突かれて動揺してしまう。
「はあっ!?わ、私はべ、別にカズマさんの事なんて何とも思ってないわよ!」
「今更何を言ってるのですか。監禁してる時にカズマさんと散々セックスしてたじゃないですか。私は天界から見ていましたよ。」
エリスの指摘に私は言葉が詰まる。全部見られていたなんて……。私は恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「先輩も知っての通りカズマさんには妻が四人もいます。アイリスさん、めぐみんさん、ダクネスそして私の四人です。もうこれ以上妻を増やすのは無理ということは分かっていますよね?」
エリスの話は出来ることなら聞きたくなかった。私は無意識のうちに自分もカズマさんの奥さんになれるかもと思っていたようだ。その僅かな希望がエリスの手によって打ち砕かれた。
「私が忠告したいのはカズマさんに近づかないようにという事です。カズマさんが死んだ後は私が彼の魂を手に入れます。そして私と彼はずっと一緒に過ごすのです。もしアクア先輩がカズマさんと結ばれたら先輩がカズマさんの魂を奪おうとするでしょう?そんな事にならないようにこうして言っておきます。」
「そ、そんなこと分かってるわよ……。私はめぐみん達が幸せならそれでいいの。あの
エリスは暫く私の気持ちを見定めているようだったが、安心したように微笑む。
「そうですか、それなら安心しました。カズマさんを奪うつもりがないなら先輩を敵視なんてしませんよ。これからも仲良くしましょうね」
エリスは薄気味悪く微笑んでいる。私がカズマさんを奪おうとしたら彼女は私に容赦しないだろう。私は彼女に怯えながらも必死に笑顔を作った。
「ただいま帰りましたよー」
めぐみん達が帰って来る声が聞こえる。
「私は天界に帰りますね。ダクネス達にもよろしく伝えておいてください。」
エリスは突如現れた光の柱の中へと消えていった。エリスが消えてすぐにめぐみんとダクネスが部屋に入ってくる。
「ただいまですアクア、いるなら返事をしてくださいよ。」
「……ええ。ちょっとバタバタしてたの。」
私はエリスが来たことがバレていないか内心ヒヤヒヤしながら答える。
「あれ、ここにあったでんでん太鼓を知りませんか?」
でんでん太鼓は先程エリスから奪い返した時から私が隠し持っている。めぐみんは私が太鼓を持っていることなど露知らず周りをうろうろと探している。
「……さあ、太鼓なんて知らないわよ」
私は嘘をついた。
+
翌日。めぐみんがでんでん太鼓が無くなったと騒いでいたが、結局その話は有耶無耶になった。太鼓は今でも私が隠し持っている。今日は赤ちゃんが産まれた時の為に赤子用の衣服やら哺乳瓶やらを買いに三人で街に出かけていた。
「しかし、カズマに会えないのは中々寂しいな。今度カズマに屋敷に帰ってくるように手紙でもよこした方がいいだろうか。」
ダクネスの発言を聞いてめぐみん達との暮らしを思い返す。彼女達が来てからもう一週間が経とうとしていた。
「ねえ私もカズマさんに会いたいのだけれどこっそりお城に行くのはダメかしら……?」
私はさりげなくカズマの妻であるめぐみん達に聞く。
「アクアなら別にいいですよ。きっと私達からカズマを奪うようなこともしないでしょうし。」
めぐみんは私を信頼しているのかそれともカズマさんの妻になれる訳ないと楽観視しているのか分からない。でも、私もカズマさんの奥さんになりたいという気持ちはあった。
「そ、そうよ。私がカズマさんを奪ったりなんてする訳ないじゃない」
私はまた嘘をついた。
そのまま私達は商店街を歩く。左右には多くの出店が並んでおり多くの人で賑わっていた。だが、その人混みの中に一つ見覚えのある影があった。
「おやめぐみんさん達じゃないですか」
アイリスだ。薄茶色のローブに身を包み貴族の証である金髪を隠している。まさかここで出くわすとは思っていなかった。
「奇遇ですねアイリス、こんな所で何をしているのですか?」
「少しお城を抜け出してきただけですよ。最近はお城にめぐみんさんが帰って来ないから心配してましたよ。」
口では心配と言いながらもそんな事を思っていないのは私にも分かった。今アイリスとめぐみん達を会わせるのはマズイ。ジリジリと近寄ってくるアイリスの前に私は立ち塞がった。
「アイリス、早くお城に帰りなさい。」
このまま放っておくとアイリスはめぐみん達に襲いかかるだろう。そんな事を彼女達にはさせない。
「めぐみんさん達を守るのですか?」
「めぐみんとダクネスは私の友達なのよ。友達を守るのに理由なんていらないでしょ。」
「クリスさんから聞きましたよ。アクアさんもお兄様の事が好きなのですよね。自分だけお兄様の奥さんになれてないのに、お兄様と結ばれためぐみんさん達を庇う理由なんてあるのですか?」
アイリスの言葉に私は何も言い返せなかった。私だけがカズマさんと結ばれてない。そのことは私が一番よく分かっている。
「アイリスの言うことなんて気にする必要ありませんよ、もう帰りましょう。」
アイリスとの膠着状態が暫く続いていたが、分が悪いと判断したのかアイリスはふいっと向きを変えて人混みの中に消えていった。緊張が解け私はほっと息を吐く。私達はそのまま屋敷への帰路についた。
「アイリス様は妊娠してないから私達に嫉妬しているのだろうな。彼女にもアクアの事を見習って欲しいものだ。」
ダクネスの発言に引っかかる。私は手本になれるほど自分の行動が正しいとは思えてないからだ。
「アクアにはこれからも私達とカズマの事を支えて貰いたいのです。そうすれば私達はきっと幸せになれますよ。」
私がめぐみん達を支える?一生支え続けるのだろうか。めぐみん達がカズマさんとイチャイチャするのを。私だけは蚊帳の外で見ているのだろうか。そう考えた時に私の中でプツンと糸が切れた。
「もう耐えられないわ……!」
私は一人走ってめぐみん達を置いて先に屋敷に帰る。そしてすぐに屋敷のドアの鍵をかけた。これ以上彼女達を見ていられない。どうか私を一人にさせて欲しい。
「アクアー!急に走ってどうしたんですかー!」
「おい、ドアに鍵がかかっているぞ!私達追い出されたのではないか!?」
めぐみんとダクネスの声が聞こえる。私は二階の窓を開けめぐみん達に高々と宣言した。
「今日からこの屋敷は水の女神アクアのものよ!
「「なっ!?」」
めぐみんとダクネスは面食らった様子で玄関の前に立っている。
「悪い冗談はやめろアクア。どうして急に私達を屋敷から追い出したのだ。もう外も冷えてきたし早く中に入れてくれ!」
ダクネスが切羽詰まった様子で喚いている。だが、私は二人を屋敷の中に入れる訳にはいかない。私は窓を固く閉め部屋を出る。もう二人の顔は見たくなかった。これ以上二人を見ていると私の中で何かが壊れてしまう気がしたから。私はリビングのソファにどかっと座りお酒を開ける。こんな日にはやけ酒に限る。私は高級シュワシュワを片手にごくごくと飲んだ。
「……ぷはー!」
今日のお酒は一段と美味しかった。疲れた時に飲むお酒が一番美味しいのだ。私は酒のつまみに枝豆を取りだしちびちびと手を進める。
「はぁ……なんでめぐみん達を追い出しちゃったのかしら……」
脳裏によぎるのはめぐみん達の妊娠した姿。彼女達は子供が出来るからとここ最近はずっと育児に関する用意に勤しんでいた。私も自分の子供が欲しいのに。二人を見ているとずっと抑えてきた自分の欲望が溢れ出てしまう気がした。
「そもそもめぐみん達はデリカシーがないんだから!私だってカズマさんのこと、す……好きなのに。これみよがしにお腹を見せつけて……。」
私はまたポケットから写真を取り出す。カズマさんの唯一の写真だ。この写真を見ると私の心が慰められる気がするのだ。
「ねえカズマさん、私これからどうすればいいと思う?」
カズマさんは何も答えない。だが、私は話を続ける。
「どうして私だけカズマさんと結ばれないの……?」
カズマさんは何も答えない。
「あの
それでもカズマさんは何も答えなかった。