起きたらなんか男女比がやばい 作:ロースト大将軍
毎晩眠りにつくたびに、私は死ぬ。
そして翌朝目をさますとき、生まれ変わる。
__マハトマ・ガンジー
「……んぐ」
人は人生の2分の1だか3分の1だかを睡眠して過ごすって唱えたのは、どこかの学者だったか。
ともかく、俺はその日、仕事と人生に疲れて、泥のようにベットで眠った。翌日絶対寝坊するのが確定しているように。
心地よい夢も、目も覚めるような悪夢も起きず、ただただ深い眠りが俺の脳細胞を鎮静させ、心臓の音だけが耳の中で響いた。
「……は?」
翌日、世界が変わった。いや、自分が変わったのか、その両方か。
一大叙事詩を描くには役不足なその寝起きは、俺の人生を一変させた。
「……はぁ?」
突然、フラッシュバックしたように謎の情報が流れ始める。それはこの世界の男女比が1:10で男性がめちゃ少ないってことと、その影響で男性保護法なんてイカれた法律が存在すること。あとは幾つかのエトセトラ。
「……アホちゃう?」
思わず先祖の何処かで引っかかった関西の血がツッコミを入れる。なんやねん男性保護法て。
どうせ昨日見たエロ本かなんかが記憶のどこかで戯れているに違いない。そう思って、ベッドの裏のエロ本に手を伸ばし、あらゆる裸体に目を通そうとする。
「……『僕はプリンセスのいいなりっ!〜いきなり現れたお姫様と夜を共にしちゃってどうしようっ!?〜』……アホ超えてドアホか」
普段だったら表紙のソフトさに食指が伸びないであろうエロ小説。女の子自体はかなり可愛いが、なにぶん絵がキャピキャピとしていて肉感がない。
呆れ果てながら、俺は裏表紙のあらすじを寝ぼけ眼で見つめる。焦点があってきて、やっと読めるようになってきた。
あらすじはもうそれはそれは酷いものだった。別にネガキャンしてるわけじゃない。ただあまりに興奮させる要素がなかったものだから。
「……なんだよ『僕の孔雀の羽が〜』とか『まるで電磁石の力で〜』とか。シコらせる気あるのか?」
勃っていないチンコが萎える音がした。それと同時に、何か心のピースがカチリとはまるような音がして、この世界の正しい名称を見つけた……というより思い出した。
「……『貞操逆転世界』」
そういや発祥はどこかのネット掲示板だった。一人の天才が「このシチュエーションエロくね?」って感じで提示されたそれは、匿名の域を超え、商業の域にまで昇り詰めた。
「類似作品というか、その考え方にインスピレーションを受けた作品も沢山出てたな、ノクターンノベルスとかに」
この世界における男性は、相対的に強者だ。
原典の作品は確か男女比1:1だったが、そのうち男性が少なくなっていく内に、男性の地位が飛躍的に向上し、あらゆる社会福祉が受けられるようになり、男性優位な法律が可決され、果てには存在するだけで賃金が発生していた。
そんな男性諸君は欲望の限りを尽くし、電車に入っては痴漢ならぬ痴女とまぐわい、保護官なる存在が警護にあたってはスキンシップと称して職務妨害をし、お姉さんにだけとかいって街行く婦女たちを巻き込んで売春したりする。確かそんな筋書きだった筈だ。
「……この世界は確か男女比が1:10だったよな」
今現在絶好調で脳みそを汚染している謎の情報体を咀嚼しながら、この世界の歪さを再認識する。
小説に上がっていたほど極端な男女比ではなかったが、男性が希少存在、11人産んで1人しか男の子が産まれないというのは現代の感覚では異常だ。
「えーと保健体育、保健体育……」
これまた寝ぼけ眼で高校の保体の教科書を棚から引き出して、哺乳類霊長目ヒト科ヒト属、学名ホモ・サピエンスにおけるオスの役割について概略を確認する。
百年以上前、男性保護法の立案によって男性の地位が劇的に向上、今では先ほど出てきた男性保護官(通称MP、ダンホ、ダボ、ダンカンなどなど)
の随伴が日常風景となり、存続省なる行政機関が立ち上げられ、現代には精子提供による人工授精が主流なこの世の中。男性たちは国からの助成金で一生食いっぱぐれないようになり、2ヶ月に一度の精子提供によってこの国は存続をなし得ているらしい。
「ディストピアかな?」
これもうなんちゃら賞受賞しちゃうくらいの世界の重さだよ。
とはいえこれより酷い国もあるもので、何処かの国ではそれらに加え、種付け義務なる物が発生したり、男性統制機関によるプライベート情報端末の思想管理など、行き過ぎた人権軽視などがあるようだ。
「どこの1984だよ、テレスクリーンじゃねえか」
男性統制機関、愛情省だろこれ。
ありがたいことにあの作品のオセアニアではない日本は、某国の政策に遺憾の意を示しているようで、男性に対する目は優しいものだ。
謎記憶から参照するに世界では目立った戦争や内乱もないらしく、「お? やったろか?」なんて喧嘩腰の国もいないので、治安の良さは最高潮に達しているだろう。1:10とはいえ男性もいないことはないので、性的被害に遭いにくいおじいちゃんなどがカフェでのんびりしていることも多い。
「頑張れ謎記憶くん。もっと情報を引き出すんだ……えーと、現在ウマ男が絶賛大ブレイク? 知らんがな。なになに、エロすぎるソシャゲ、ラストオチンチンが女子の間で流行ってる? だからソシャゲの話はいいって……今度は? 新しい男性保護官が午前中に訪問しに来る? 早く言えアホ!」
まったくこの謎情報体は咀嚼するのにノイズを吐き出しすぎる。ソシャゲの話をするなソシャゲの話を。
ともあれ、新しい男性保護官がこの家に来るみたいだ、記憶を正しく辿っていれば。
今が大体十時半だから、いつ来てもおかしくない。俺は宅配業者がインターホンを押さず不在届をポストに突っ込むアレを思い出し、苦い顔をしながら男性保護官の書類と印鑑を引っ張り出した。
「白川洋奈。可愛いな、ナイスだこの世界のオレ」
履歴書っぽい資料の左上に印刷されている写真には、元の世界ではあり得ない銀髪美人が写っていた。
これまた元の世界ではあり得ない、履歴書にピアスだ。アウトかセーフで言ったら、半数以上がアウトと答えるだろう。
とはいえ、前述の通りかなり可愛い。少しチャラついた感じはするが、パッツリまつ毛から覗かせるアメジストの瞳は吸い込まれそうな魅力を持ってるし、目鼻立ちも整っていて美人だ。見方によってはアニメの登場人物と言われても違和感がない。
「なにやら少し怪訝な気持ちがするのは、前の俺が女嫌いだったからかな」
バカめこの世界の俺。白川ちゃんはな、多分このルックスに反して超乙女チックだぞ。え? 根拠? あるわけねえだろ会ったことないんだから。
ピンポーンとインターホンが鳴って、書類と印鑑を持って玄関まで立ち寄る。
あ、そういえば部屋着のままじゃん。どうしよ。
俺が逡巡している間に、二回目のインターホンが鳴らされる。ていうかスパン短いなオイ、複数回遊びに行ったことのある友達の家か?
「はーい、今開けます……」
「あ、こんにちはー♪ って部屋着!?」
あらら、言わんこっちゃない。恥ずかしいとこを見せてしまっ……
「わ! わ! 男のコの部屋着! 超レアじゃん! やば! えっちょっやば! すっご〜!」
「……あの、白川、さん……?」
「え、あっごめんね! んんっ……今日から男性保護官としてあなたの専属となります、白川洋奈っていいます! よ、よろしくお願いします!」
悲報、超乙女チックだと思ってた女の子、めっちゃギャル(朗報)。
というかオイ、オイオイ。めっちゃ好みの女の子なんだけど。写真と印象変わらないけど透明感が違うわ、透き通ってる。
「と、とりあえずお茶出しますんで、散らかってますが上がってください」
「あ、ありがとうございまーす♪ って違った! お、お構いなくっ……でいいのかな」
やばいこの子。何がやばいかって、色々と。
この際深くは突っ込まないが、ちょっと常識はずれなのが超可愛いし、声も可愛い。何語尾に音符なんかつけちゃってんだよ、俺を殺す気か? 実は声の秘術を扱う暗殺者だったりしないよな?
男一人暮らしだから碌に家具も揃ってないし、机もちゃぶ台ぐらいしかない。来客用の座布団は既に敷いてあったので、申し訳ないがそこに座ってもらう。
「……わー、男のコの部屋って初めて」
俺がお茶を淹れている間、小さく白川さんがそう口を動かしたのが見えた。読唇術なんて高等なものは使えないが、なんとなくそんな感じに動いたような気がした。
チクショウ、こっちだって女の子を部屋に入れたことなんて初めてだぞ! 人の心を一挙手一投足で揺さぶりやがって! プロの卓球選手か!
一人漫才のツッコミ担当が冴えないツッコミをしてくれたおかげで、ちょうどいい感じに茶柱が立った。これは縁起がいい、とりあえず白川さんに提供することにしよう。え? 茶柱が立つようなお茶は安い茶葉だからお客様には出すな? 黙れ脳内マナー講師!
「どうぞ、白川さん」
「あ、ありがとうございます……お、茶柱」
珍しそうな白川さんの顔がこちらを見るので、俺は少しキマったように微笑む。見たかマナー講師、白川さんフェイスで浄化されるがいい。
部屋着の襟を正して、白川さんの向かい側に正座で座り込む。寝癖が立っていないのが唯一の救いか、とりあえずは真面目な感じを演出することができた。
「……ああ、そんなにかしこまらなくても結構です! 男性なのですから、ね?」
「あ、ああ、そうでしたか。すみません、なにぶんこういうのには不慣れなもので。少し足を崩させてもらいますね」
貞操逆転モノを幾つか漁ってもらうとわかるのだが、このジャンルの醍醐味は「嘘!? 男性が権力を振りかざさない!?」的な女性陣のヨイショが入る。その度に謙虚な姿勢を見せて、好感度を稼ぐのがいわゆるテンプレなのだが、目の前でやられると気持ちいいより先にむず痒いが出てきてしまう。
(困ったな……)
こと貞操逆転モノでセックスの次に気持ちいいのがこの瞬間のはずなのに、リアリティが混ざると途端に申し訳なさが立ってしまう。これからはやりすぎない程度に、高圧感というか、傲慢な感じを見せなくては。
「えっと、それでは、男性保護官の随伴について、詳しく説明し、させていただきますね」
「よろしくお願いします」
どうやら白川さんは、少し敬語が苦手なようだ。説明の節々で尊敬語が丁寧語になったり、謙譲語を尊敬語として使ってしまったりしている。
角を立てればきっと傲慢感を演出できるのだろうが、本人が精一杯頑張っているのを見ると、そんな気持ちも薄れてしまう。
そもそも白川さんの方が年上だし、元の世界ならきっと「オタクくんさあ、いつも何読んでんの?w」って感じでからかってくるタイプのギャルポジションでオタクくんとイチャイチャしてる筈だ。それが因果とはとても呼べない世界の変化でこうなっているのだから、つくづくおかしな話だ。
(とはいえ、任期が終わる前にはタメ口で話しかけられたいよな。俺も洋奈ちゃんって呼びたい)
この世界で生きる目標的なものが一つできた。デカいものとはとても言えないが、持続可能で開発可能なゴールだ。SDGsの項目に載せられるだろ、「洋奈ちゃんと仲良くなろう」。
「それで、知っての通り男性保護官の任期が3年。私が3年間警護についた後、新しく後任が警護につきます」
タイムリミットはあと3年か。まあ、3年もあれば達成できるだろう。学校入学から卒業くらいの年数だ、その間に性に爛れた一部がズッコンバッコンしてるわけだから、実現不可能ってことじゃない。自分はズッコンバッコンしたのかって? 二度とその口を開けるな。
「それで、男性自身の合意と保護官の合意があれば、任期の延長が可能です。私どもも局から給金が発生しますし、合意があれば男性がこのことについて負担になることはありません……っと、どう、です? 今後3年間は私が保護官としてお守りしますが、その後の予定なんかは……ってわかんないよね! あはは、変なこと聞いちゃった……」
そうか、延長が可能なのか。となると、好感度を一定まで上げればワンチャンコンティニュー可能ってことなのか?
……いいや、この考え方は白川さんに失礼だ。好感度とかコンティニューとか、現実感がないからって人を軽んじるような考え方はするべきではない。
俺は気まずそうにしている白川さんをまっすぐ見て、少しずつ言葉を紡ぎ出した。
「たぶん」
「え?」
「これは多分の話だし、あんまり見定めるようなことは言いたくないんですが……白川さんがちゃんと守ってくれるなら、きっと白川さんがいいと思います」
「……」
自分で改めて考えると、なんで薄っぺらい。気の利いた台詞とか、キザな台詞の一つでも言うことができれば、空気は変わったのだろうか。
だが、不器用なりに俺が出したのは、納得のいくものだったと思う。
「あ、ありがと……頑張ります」
「ええ、よろしくお願いします」
「そ、それじゃ、次の項目に移らせてもらいにもらうね!」
盛大に噛んだな。可愛い。
男性保護官というのは、専門の養成機関で育てられ、あらゆる護身術、護衛術、礼儀作法、教養などを身につけたシークレットサービスのような存在……なのだが、どうやら白川さんは敬語が本当に苦手のようだ。
俺の謎記憶によると、男性保護官というのはなりたい職業ランキングで医者とパイロット辺りとタメを張れるくらいの人気の職業で、比較的なりやすいため幅広い層から愛されているようであった。
ただまあ、前の世界の俺は精子提供を体調不良を理由にサボっていたらしく、トップ層の完璧超人とかは指名出来なかったようだ。アホめ。
(まあ、白川さん可愛いしグッジョブ)
きっと礼儀作法あたりの成績が低く、素行も微妙だった白川さんは、ガチガチのおぼっちゃまや芸能人なんかには就けなかった。その結果が俺なのだから、少しでも彼女には「この人の専属でよかった」と思ってもらうようにしよう。
記憶から前任者の男性保護官を探り出す。確か30過ぎのおば……お姉さんで、警護は適当。酷い時は、パチンコを打っていて、心底軽蔑していたから契約を打ち切って違約金払ってまで他の人に変えたんだった。高い勉強代だ。
「以上、説明終わりです。もうほとんどとっくに知ってると思うけど、規則かつ私は初の警護となりますので。お手隙? いやお手数おかけします」
「大丈夫です。それじゃあ、これからよろしくお願いします。白川さん」
「はい! よろしくです!」
互いに握手をする。白川さんの手はすべすべで、少しひんやりとしていた。手には白のネイルをつけているようで、あまり目立たないそれは、彼女の銀髪の髪ととても似合っている。
さて、まずはSDGs番外目標、「洋奈ちゃんと仲良くなろう」を達成することを目指して頑張ろう。ついでに色々な目標を見つけたり、テンプレをこなしたりしてこの世界を面白エロく楽しんでしまおう。
まずは、タメ口で話せるくらいの関係を作ってからだな。無理だとは思うが、とっかかりは作っておこう。
「そういえば白川さん、言いづらいようだったらタメ口でも全然ですよ? その方が自然体って感じがします」
「え? マジ?」
「え? う、うん」
「やたっ! それじゃこれからタメ語ね! よろしくっ♪ アタシのことは洋奈って呼んで!」
……あれ?
男性保護官の白川洋奈ですが、ソーシャルゲーム「ラストオリジン」から日本未実装キャラ「チョナ」の容姿や性格をベースに書いてます。
ぜひ彼女のスキンや中破絵を各自で調べながら見ていただけると、よりシコリティが高まるんじゃないかと思います。
洋奈→ヨウナ→チョナって感じ。個人的には猫耳エロウェイトレス衣装がお気に入りです。
登場済みキャラで誰が好き?
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主人公
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白川洋奈
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薔薇峰凛花
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犬黒晴乃