※この作品はR-18です。

起きたらなんか男女比がやばい   作:ロースト大将軍

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Hシーンないのに9200文字も書いてしまった……
しばらく冗長な展開が続くかもしれません。あらかじめご容赦を。


その6 白川洋奈と犬黒晴乃とデートする

 結局、痴女騒ぎから始まった数奇な一日は、拗ねた洋奈に大量のアイスを買ってあげたところで帰宅とあいなった。

 最初の一つでは機嫌が治らず、二個目というところでごっそりとカゴにアイスを入れられたため、結局ショッピングモール行きは断念。また後日、また後日と調子が合わないまま、数日が経った。

 警察署で所定の手続きをして、タクシーで向かうこと十数分。何故かついてきたのは、小柄で真っ黒な髪が特徴のお巡りさん。

 

「犬黒晴乃。保護強化期間中の男性の警護のため、派遣されてきた。よろしく頼む」

 

 バスでの痴女騒ぎで事情聴取を担当してくれた女性警察官が、今回のお出かけの助っ人らしい。

 

「ども……保護強化期間とは……?」

「うむ、確か社会科で習ったと思ったが……いや、不粋なことは言うまい。簡単に言えば、異性犯罪の被害者、もとい被害に遭いかけた人に対して行われる、アフターケアだ。警察署から警察官が派遣され、身辺警護を務めるし、署内の窓口から男性スタッフによるカウンセリングも受けられる」

 

 犬黒さんの話を聞く限り、被害男性への心のケアを中心に行われる救済措置らしい。期間中義務である精子提供は免除され、警備の増員、カウンセリング、果てにはネイチャーセラピーと称して旅行費の一部負担までしてくれる。男性に対するこれほどにもない厚遇だ。貴重な男性の気を損ねたくないという行政の本気を感じる。

 犬黒さんは今回の事件に対して深くやりきれない思いを感じているらしく、この保護強化期間の警備に立候補したようだ。結果は見事当選、洋奈に次ぐ二人目の警備がしばらくの間つくようになってしまった。

 

(被害男性に擦り寄って自分のものにしたがるコって結構多いみたい。犬黒さんはそうじゃないと思うけど、アタシがきちんと目を見張っておくから!)

 

 そう言って張り切っていた洋奈の姿を思い出す。あの日以来、ベッドに着く時間が早くなったし、ご飯を呼んだらすぐ来るようになった。いい傾向ではあるが、無理はしないでほしいというのが本音だ。それに、眠い時は無理しないで眠ってほしい。

 

「二番通用口に回ってくれるか、その方が人が少ない」

 

 警護対象の俺の意見を訊ねず、犬黒さんは助手席で運転手さんにばんばんと指示を飛ばす。一番派手な入り口が正面口だが、それを嫌がって別の入り口を指示した。

 というか、犬黒さんも敬語苦手族だ。何とか敬語を使ってみる洋奈とは違い、もはや使う気がない。ビシバシと断定口調で話すのは、軍人のような気迫を感じた。

 

「ここでいい。止まってくれ」

 

 タクシーを止め、決済をカードで終わらせると、扉が開く。ようやくショッピングモールに着いた俺たちは、開始早々奇異の目にさらされていた。

 

(あっちゃ〜、犬黒さん制服のままだわ)

 

 たまにATM周辺を歩いてるアルソックのおじさんたちより目立っている。警備員さんならともかく、ゴリゴリの警察官の格好をしていれば誰でも目立つだろう。

 それに輪をかけて目立っている原因なのが、俺と洋奈だ。この場合俺と犬黒さん、もしくは俺と洋奈だったら問題ないのだが、三人いるのが問題だ。

 原則、男性一人につき一人の保護官が同伴する。これは男性保護官がその男性を警護するのが基本だが、例外として警察官も認められている。

 これは保護官が同伴できなかった時の次善策だ。前の俺が保護官の人を解雇した時、後任の洋奈が決まるまで、警察官の人が身辺警護を担当していた。

 

(そういうわけだから、犬黒さん単体、もしくは洋奈単体なら問題ないんだが……)

 

 三人いた場合、ほぼ100%の確率で被害男性ということがバレる。

 いや、確かに身の安全ほどこの世で優先すべきものはないかもしれない。それはその通りだ。実に合理的で、スマートな解決策。

 だが、性的被害を受けた男性が、周囲の「アイツ女に辱められたってよ」という視線に耐えられるだろうか? わざわざ反語を使うまでもない。

 

「あはは……大丈夫? やっぱ帰る?」

「いや、大丈夫。慣れだ慣れ。悪いことしたわけでもない」

「すまない……まさか自分のせいでこんな事態になるとは……!」

 

 平伏せんばかりの勢いで謝り倒されても困る。

 とりあえず空調の効いたモール内に入って、様子を見る。バス内のフェレットを見る目とは違い、こちらは動物園の鳥類を見る目だ。アライグマやゴリラレベルでないだけマシと思うべきか。

 

「予想外の一言につきるな……」

 

 二人に気づかれないよう一人呟く。

 モール内は活気に渦巻いており、沢山の女性客がホールを賑やかに歩いている。チラッと見る分には構わないが、明らかに噂話をするマナーの悪い人もちらほら。気にしてなくても、すり減るものはすり減るものだった。

 

「早く行って、用事を済ませるか」

「そうだね……」

「すまない……」

 

 もはやすまないマシーンと化してしまった犬黒さん。フォローアップはまた今度だ。まずは店を巡ることにしよう。案内板からパンフレットを抜き取って、お目当ての店を探す。

 しばらくすると、大体2ブロック先にあるのが分かった。洋奈を隣に、犬黒さんを一歩前のフォーメーションでモール内を歩いていく。

 まるで「がるる……」と番犬のような威嚇をしながら、こちらを見てくる女性たちを追い払う犬黒さん。自分が蒔いた種を一掃するパワーを感じさせる彼女は、小柄ながらも力強さを持つ。

 

「ついた。あの店」

「男性店か……」

「ウチらも入っていいんだっけ?」

「ああ、入ってくれ」

 

 まあいわゆる前世で言うところのランジェリーコーナーと言うべきか。陳列棚とマネキンには下着が並んでおり、他にも男性機能を向上させるアレコレが並んでおり、女性は見るのを憚れるかもしれない。

 適当にぱっぱと下着を詰め込み、吸収のいい粉物プロテインと、亜鉛・マカ・葉酸などのサプリメントをぶち込んでいく。

 あ、そうだ。少しいたずらを思いついた。

 

「二人とも。この色とこの色、どっちの方がいい?」

「なっ……!?」

「えっ……!?」

 

 悩んでいるフリをしながら、青色とピンク色の下着を見せて、選んでもらう。

 ふふふ、この世界に来て初めて下ネタ方面で女子をおちょくってみたが、とても楽しいことに気づいた。

 下着のジャンルはもちろんセクシー系で、デザインとしてローライズだったりスリットが入っていたりする。前の世界ではかなり希少な品だろう。

 

「どっちもデザインが良くて気に入ったんだけどさ。ピンクだと少女趣味って感じがするし、青だと海外ではセクシーなイメージ持たれるらしいから悩んでるんだよなー。犬黒さんはどう思う?」

「な、な、な……! じょ、女性に向かって男性が何を……!」

 

 脳内が情報を処理しきれずフリーズする犬黒さん。顔を真っ赤にしてカチコチを動く姿がとても加虐心をそそる。ほれほれ、もっと照れるがいいさ。

 鉢が回ってこなかったことに明らかにホッとする洋奈。だが安心するのはまだ早いぞ。犬黒さんが答えられなかった部分はお前が負担するんだ。

 

「洋奈的には? ピンク? それとも青?」

「えーと……あはは……そ、そうだ……! こ、こっちの白い方はどう? デザイン同じだし、この方がいいんじゃないかな! うん!」

「そ、そうだな! うむ! 私もそう思う!」

 

 おい犬黒さん。便乗するにしてももう少し自然にできないものか。洋奈も結構困ってるぞ。

 とはいえ、洋奈の言う通り、ここは第三の選択肢として白を提示するのが正解……とは女性誌に書いてあった。自分からすれば下着の色なんて拘らないし、いざって時も相手がどんな下着でも受け入れる自信がある。

 さすが正妻(と勝手に認定してる)。120点満点の答えだ。

 

「そうかな? じゃあ洋奈の言った通りにするよ。洋奈はこれを着た俺が見たいんだよね?」

「ふえっ!? え、えとその……うん……」

「そっか。そう思ったんだ……ありがとね」

 

 不器用に洋奈に微笑んでスケベいじりを中断する。もっともっとセクハラしていじめたくなるが、これ以上は歯止めが効かなくなるから取りやめた。急に出てきた強キャラが主人公の力の片鱗を見て「……運が良かったな」とか言うアレの気分だ。

 不意の感謝の言葉に今度は洋奈がフリーズした。固まったとはいえど、頬はにやけている。そんな彼女が可愛くて、抱きしめたり、撫で回したくなる欲求を抑えつけた。

 

「くっ……それじゃ、今度は護身用の武器とか見に行こうか」

 

 下着満載のカゴのまま、店のちょうど反対側にまで歩く。ここから先は暖簾で区分けされており、ドンキやレンタルショップなんかのアダルトコーナーを思い出させる。それとは遥かに規模が大きいが。

 年齢層によって所持できる武器の種類が変わり、暴徒鎮圧用ゴム弾なんかは当然18禁だ。確か前の日本では所持すら違法だったし、パラレルワールドに来た実感が別ベクトルで湧いてきた。

 

「ふむ、こういうのはどうだ? 唐辛子の粉を一気に発射する小型砲。弾頭部分がかさばるが、グリップやトリガーと共に折り畳み可能だ。暴発の危険性も薄い」

「君は結構女のコたちに狙われやすいし、複数人にも対応できる継続性が大事なんじゃないかな? これなんか爆竹と火薬で驚かすためだけのおもちゃだけど、音はよく響くし、見た目もゴツいから追い払いやすいよ」

 

 さすが警察官と保護官。専門的な観点から適切な意見を持ってこちらへアドバイスしてくる。

 俺としては本物の銃の形を模したエアガンやガスガンがどうしても目に止まるが、ここはプロの意見に従う方がいいだろう。確かこういう品も政府からのお金が出されるみたいだから、懐事情には支障がない。サンキュー政府。

 結局、犬黒さんと洋奈がおすすめしていた二つを買って、諸々合わせてお会計。偉人の顔がプリントされているお札が何枚も吹き飛んだが、その数割はプロテインが占めていた。やはり高い。

 この店では男性が同情的な視線を送ってくるが、保護官の女性たちは最大限自然に目線を動かしていた。さしもの警察官である犬黒さんといえど、男性に「ぐるる」するのは憚れるらしく、終始大人しくしていた。

 

「お腹減ったし、何か食べる?」

「アタシお肉食べたい! 犬黒さんは?」

「……私はどちらでも。それより、あまり保護官としての職務を忘れるのも大概にするべきだな」

 

 こらこら犬黒さん。洋奈に喧嘩を売るんじゃありません。洋奈も射殺さんとする蛇の目つきは抑えて抑えて。

 一気に剣呑となった空気に苦笑しながら、宥めるようなジェスチャーを取る。警護する立場の人たちが対象をわずらわせるようなことは慎むべきだぞ?

 

「まあまあ犬黒さん。自然体で接して欲しいって俺が洋奈に頼んだんだ。洋奈はその要望に最大限応えてくれてるだけだし、な?」

「う、うむ……失礼した……」

「洋奈、それじゃお肉にしようか。カツ、焼肉、串焼き……それとも、ステーキとかどう?」

「ステーキ!? 行こ行こ!」

 

 二人の機嫌取りをして、通りを抜ける。この突き刺さるような目線も、慣れてしまえば問題はない。「ぐるる」もしっかり機能してるしな。

 ステーキハウスに行くと、予約なしでも個室に入ることができた。ここはどうやら高級志向で、昼の時間帯はあまり客が集まらなかったらしい。

 俺が上座に座り、犬黒さんは対面、洋奈は隣へ。二つしかないメニュー表を一緒に覗き込むと、犬黒さんは羨ましそうにしてるし、洋奈は嬉しそうにしてる。こやつらめ、かわいいの化身か?

 一つ頼むだけで細菌学者のお札2、3枚が飛んでいく程度なのは、中々に懐のダメージがでかい。これは任意提供で沢山出さないとな。

 

「お待たせしました」

 

 出されたのは、それは豪華なフィレ、サーロイン、リブアイ……あれ?

 

「あれ?」

 

 目を擦って、メニュー表をもう一度見る。うんうん、フィレ、サーロイン、リブアイ。それぞれ細菌学者数枚ずつ。

 

「めっちゃ穴場やん……」

 

 親父に連れて行ってもらった高級フランス料理店を思い出す。確か学問のすゝめが何枚も吹き飛ぶような火力を持った高級店だ。それに勝るとも劣らないこのコスパは、正直言って破格だ。

 対面の犬黒さんも驚愕の顔でテーブルの上の品々を見ている。洋奈は満面の笑みで写真を撮り、インスタへアップ。一人だけテンションが違いすぎる。

 

「これは…‥すごいな……以前就職祝いで行ったことのある場所に匹敵する……」

 

 巡査部長の犬黒さんもそう言うのだからこの店の本気度が伺える。チラッとウェイターさんを見ると、こちらへ親指を立てている。いわゆるサムズアップだ。

 パーフェクトだウェイター。そう念を送りながらサムズアップを返す。彼女はガッツポーズをしながらブースへ消えて行った。

 

「うー……もう食べられない……」

 

 まるで寝言のテンプレートみたいな台詞を言いながら、洋奈はペロリと完食した。胃を落ち着かせるためにお腹をさすっているが、その姿にちょっとドキドキしてしまった。新しい性癖の扉が開く。

 俺と犬黒さんも完食だ。それぞれ食後のエスプレッソを飲みながら、この店を褒め称える。

 会計は別だと何度も主張していたが、油断している隙をついて全額カードで二人をねじ伏せる。知ってるか、ナンバーズはナンバーズじゃないと倒せない。

 貞操逆転ということもあって、「奢られるのは恥」みたいな価値観が彼女らに生まれている。立派な志だが、人生何事も払ったもの勝ちだ。残念だったな。

 

「この後寄って行きたいところがあるんだけどいいか? すぐ済ませ……られるかどうか」

「構わない。だが支払いは……」

「よし、それじゃ行くぞー」

「ひゃっ」

「わっ」

 

 話の流れを断ち切るために勇気を出して無理矢理二人の手を引っ張って、女性用服売り場へ向かう。各ブランドが共同で一つのフロアに詰め込んだこの場所は、シャツだけでも何千着と並ぶ超大規模服屋だ。

 

「えーと……姪にプレゼントしたいものがあってね。体格的に犬黒さんが合ってるから、手伝ってくれないかな?」

 

 ちなみに俺には姪がいない。なぜこんな嘘をついたかと言うと、犬黒さんに服をプレゼントするためだ。

 今も警察官の格好をしている犬黒さんは、絶賛「がるる」モードで周りの婦女子たちを睨みつけている。今の彼女もよく似合っていてかわいいが、老婆心、もしくは性欲が働いてもっと彼女にかわいい格好をしてもらいたくなってしまった。もしキャピキャピのミニスカートを履いている姿を見てしまったら、自分はきっとその場に倒れ伏すことだろう。

 

「む、確かに親族へプレゼントするのはいい心掛けだ。わかった、手伝おう」

 

 よし、作戦成功。彼女が威嚇で周りの女性を追い払っている間、洋奈へこそこそ話を通す。

 

(というわけだから、手伝ってくれ。同性の洋奈なら、きっと視点も違うはずだ)

(んっ……♡ わ、わかった……♡)

 

 こら、艶めかしい声を出すな。不意にエロい声を出すものだから、心の中の炎がぐずぐずと音を立て始める。つまり、エロい気分になってしまう。

 沸騰し始めた興奮を無理矢理締め落として、まずはトップスを探り始める。本人はかっちりとした服装が好みのようで、黒いYシャツを選んできた。こちらは対抗して、茶色のニットを選んであげる。

 どうやら女性が沢山時間をかけて商品を吟味する文化は貞操逆転していても変わらないらしく、犬黒さんと洋奈は何回も首を傾げながら服を吟味していた。

 俺と犬黒さんの唯一好みがマッチしたのは、カフス付きのオーバージャケットだ。白くてゴツいそれは、華奢な犬黒さんのシルエットに強みを持たせながらも、どこか包容力を感じさせるものだった。

 だが、それに加えて犬黒さんは黒いチェーンを巻き始めた。腕にシルバー巻くってレベルじゃない。これじゃ二つ名に「鉄鎖の晴乃」ってつくレベルでやりすぎだ。ソシャゲのキャラじゃないんだから。

 

「それじゃ、試着をしてくる。洋奈、周りは任せたぞ」

 

 シャッと仕切りを閉じて、ごそごそと布の音がする。静まりたまえ俺の性欲。なぜそんなに荒ぶるのだ。

 俺と洋奈で選んで1セット、犬黒さん個人でもう1セット、計2セットの試着だ。ジャケット込みで結構な重さになってしまったが、犬黒さんは軽々と運んでいた。

 

「ふむ、やはりこういうのは体に馴染むな。少し足が出ているのは気になるが……どうだろうか」

 

 犬黒さんセレクトの服が公開される。黒のYシャツに、白のジャケット。更に例のオーバージャケット重ねて、威圧感マシマシだ。

 とはいえ俺の言う姪のことを気にかけてくれたのか、下半身部分の露出度は多い。こちらも白いロングブーツを履いて白尽くしだが、その統一感が逆にコーデを加速させる。

 中でも目を向いたのが、白のミニスカートだ。もう一度言うぞ、ミニスカートだ。

 思わぬ伏兵に、「げえっ関羽」という声が聞こえる。へなへなと戦意を失う兵士たち。戦いは既に終わっていた。

 

「……似合ってる。犬黒さんはこういう私服を着るのか?」

「そうだな、大体同じような感じだ。たとえ私生活でも規律と規範を思い出し、服装には最大限気を使う。乙女の嗜みと言うには少し茶目っ気がないがな」

 

 なるほど、つまりこれは犬黒さんとデートをする時こんな格好で来るということか。ありもしない妄想が膨らんでしまう。

 立ち方も相まって、ますますソシャゲっぽさを感じるが、可愛さとかっこよさを両立した素敵なコーデだ。少なくとも俺は好みだ。

 

「じゃあ、次に着替える……少し気恥ずかしい気もするが、君の姪君のためだ」

 

 またまたシャッと音を立てて、試着室に篭る犬黒さん。今度は洋奈と俺のセレクトコーデだ。お互いのファッションセンスが問われる。

 二人とも真剣に精査して、彼女に似合う服を選んだつもりだ。これで似合わなかったから恥ずかしくて死んでしまう。

 

「ど、どうだろうか……? その、少し照れくさいし……あんまり着慣れないものだから……わからない……」

 

 先ほどよりゆっくりめに仕切りが開かれて、俺たちコーデの犬黒さんが公開される。いつものキリッとした表情は照れくささでかき消され、もはや可憐さ通り越してお淑やかさまで感じられるそれは、ギャップ萌え爆発という感じだった。

 上から順に、赤いベレー帽、黒縁丸メガネ、茶色ニットに白オーバージャケット。とどめは白いロングスカートにスニーカー。

 なけなしの頭で考えた、ぼくのさいきょうの犬黒さんだ。

 

「めっちゃかわいい……」

 

 思わずそんな声が漏れる。いつもの真面目な彼女のイメージを損なわず、清楚感を出した服装はやはりイメージと重なった。

 彼女の立ち姿も可愛さを助長している要素の一つだ。手を重ね合わせて所在なさげにしているのが可愛いし、オーバージャケットのファー部分で口元を隠しているのが更にかわいい。かわいいを通り越して犯罪的だ。

 

「……君が気に入ってくれたなら、私も嬉しい」

 

 頬を赤らめて感謝の言葉を口にする犬黒さん。

 思わぬラブコメの始まりに言葉が出ない俺だったが、見つめられてさらにもじもじする彼女を見て、現実に引き戻された。

 よし、決めた。プレゼントはこの服にしよう。洋奈の方にも確認を取ると、ばっちりという返事が返ってきた。

 元の制服に着替えてもらい、一式をレジまで持って行く。会計の最中に俺が財布を出し、プレゼントするよとネタバラシをした時。

 

「だ、ダメだッ! 店員さん! 私のカードで頼む!」

 

 犬黒さんの必死の要望によって、プレゼント作戦は失敗に終わってしまった。一度までならず二度までも奢られそうになったのが癪に触ったのか、少し不機嫌そうにしていた。

 どこまで行ってもしっかり者の彼女は、貞操逆転世界の独特の価値観を代表するような存在だ。俺はそんな彼女に、どんどん興味が湧いてきた。

 

(ふん、おもしれー女……ってのは乙女ゲームのメインキャラの台詞だよな)

 

 俺の心情を端的に表現する、言い得て妙な言葉だった。

 

###

 

 あれから自宅に帰って、犬黒さんに感謝の言葉を伝えて別れた。服は大切に保管して、手入れも欠かさないようにすると言われてしまった。

 洋奈と共に自宅に到着したのは、大体夕方の6時。既に5時のチャイムはとっくに過ぎていて、夜がやってくる時間でもあった。

 

「夜ご飯生姜焼きでいい? リクエストある?」

「なし! 手伝いまーす♪」

 

 昼に豪勢なステーキを食べた手前、あまりお腹も減っていないが夕食は食べなければならない。このペースじゃ少し遅くなるな、なんて考えながら炊事を開始した。

 買った物は沢山あって、広げるのを面倒くさがりながら棚に並べた。手早く済ませたいならレンチンでできる米を使ってもいいが、今日は炊飯器の出番だった。

 

「いただきます」

「いただきまーす♪」

 

 洋奈はいつも俺の要望を叶えてくれている。俺がタメ口をお願いしたらすぐ順応してくれて、料理もすぐに手伝い、掃除や洗濯も分担して行ってくれていた。まるで熟年円満夫婦の技だ。

 いつも感謝してるけど、俺は中々彼女に恩返しすることができなかった。家族並みに接してきたから、真面目な場面になると途端に照れ臭くなるのだ。

 

「んー、やっぱ君のご飯はおいしいねー♪ 料理ができる男子はモテるよ〜?」

「どうもどうも。だけど生まれてこの方モテたことがないんだなこれが」

「え?」

「うん?」

 

 たまにこういった食い違いが発生しても、すぐなんてことのないように修正しあう。

 中国かなんかの言葉で、比翼連理って奴がある。それはつがいじゃないと飛べない鳥で、お互いの存在が空を飛ぶために不可欠な存在になっているものの例えだ。

 流石に比翼連理とまではいかないが、俺にとって彼女はなくてはならない存在にまでなっていることは否定しない。彼女がどう思っているかはわからないが、少なくとも嫌悪的な感情は抱いていないはず。

 彼女は俺がいなくても大丈夫だろうから、より良い例えは「おんぶにだっこ」か。なんて自嘲的に考えていたら、夕食を食べ終えていた。

 

「ねえ、少し話があるんだけど」

 

 お互い身を清めて、歯を磨いた後。もう寝る時間くらいの時に洋奈が話しかけてきた。何やら少し真面目な面持ちで、こちらを見ていた。

 なんだろうと俺は思い、ちゃぶ台越しに彼女の対面に座った。きっと大事な話だ。少し姿勢を正してみる。

 

「……パーカー」

「……ん?」

「アタシが寝てた時、ハンガーにかけられてたパーカーが落ちたから、気になって調べてみたの」

 

 彼女の話は、結論を迷っているような感じが見られた。でもきっと洋奈は最後まで話してくれる。そう信じて、黙って彼女の話を聞き続けていた。

 

「何か硬いものが落ちてきて、アタシはそれを拾い上げた」

「明かりをつけて確かめてみたら、それがメモ帳だってわかったの」

「……ごめんなさい、興味本位で中身を覗いた」

 

 俺は、あの日あの時、大学病院であった出来事を思い出す。突如夢の中へ意識が飛んで、戻ってきた時にいつのまにか書き上げたストーリー。

 

「冗談かドッキリなら、そう言ってくれて構わない」

「アタシは怒らない。約束する。もし破ったら、解雇してくれても構わない」

「だから知りたい、君のことを」

 

 俺は呆気に取られていたが、そんな俺を、洋奈はしっかりと見ていた。

 

「ねぇ、アタシのこと、どう思ってる? 好き? 嫌い?」

 

 その日、俺は人生で二度目の転換点を迎えた。




はい、ようやく洋奈の導入が完了、そして犬黒さんのフラグを立てることができました。
現時点で人気投票は一位洋奈、二位凛花、三位主人公となっています。主人公は手が滑ったのかな?
いつもお気に入り登録、しおり、評価ありがとうございます。
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