※この作品はR-18です。

純狐との話   作:奈伎良柳

2 / 2
タイトル通りの話。
本作は前作「粋で誠な愛に包まれて」の前日譚となっています。
R-18パートは1番のみです。それ以外はR-18要素のないパートになっています。


純狐さんに優しく筆下ろししてもらう話

1.

 月明かりも差さない夜の寝室に一人きり。こんなことに緊張したり浮き足立ってなかなか眠れないなんて年齢はとうの昔に卒業したが、今の自分は今までの人生で一番緊張しているし、浮き足立っていた。

 下着一枚の半裸のまま布団の上に正座をして、心臓の鼓動を落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返すが、何も効果はない。

 何故これほどまでに緊張しているのか。それは今夜、これから恋人である純狐と初めて枕を交わすからだ。勿論、ともに眠るだけなんてことはない。男と女としての交わりだ。

 但し、ある意味で初めてなのは自分だけだった。彼女の方は既に“そういうこと”は経験済みであり、方や自分は一切ない、所謂童貞だ。

 純狐と知り合い、好きになって。紆余曲折しつつも彼女と結ばれて更に仲を深め、彼女の深く暗い部分も知ることになったが、それでも愛すると誓い、本当の意味で結ばれて。そうして同じ時を過ごして、遂に来てしまったこの日。そう、しまった、という言い方が正しいだろう。

 そもそもの事の発端は五日前、ちょっとした手違いで風呂から上がったばかりの純狐の裸を見てしまったのが始まりだ。恋人同士になってそれなりに長いし、キス程度ならとっくに済ませているものの、こういう肉体的な方面では二人とも(特に自分が)まだまだ初心だった。

 そんな二人に訪れたこのトラブル。自分はすぐさま目を反らし、彼女は身を隠してとお互いに比較的普通と言える反応をしたのだが、そこからの流れがどうにも拗れてしまった。

 まず、純狐が自らの裸体を見せてしまったことを謝ったのだ。こんな体を見せてしまって申し訳ないと。彼女は自身のことを魅力がないだなんて言うが、自分には勿体無い、目も眩むような宝石なのに。そもそも、故意ではないといえ見たのは自分、見られたのは彼女であり、謝るのは自分の方なのに。

 だから、悪いのは自分だと謝らなければ、それに卑下しないで欲しいとフォローもしなければと慌てて弁明に走った結果、『いえ、こちらこそ申し訳ありません。でも、純狐さんの体は凄く興奮しますから、そんな風に言わなくてもいいと思います』といったニュアンスの内容を口走ってしまったのだ。

 改めて考えても、馬鹿すぎる。しかし、その時の二人のテンションは少々おかしく、始まったのは『嘘よ』『本当です』『人間ですらないのに』『今まで何回でも言いましたし、これからも言い続けますが関係ありません』なんて押し問答。それを色々と繰り返す中で飛び出た、彼女の『私みたいな者に誰かと愛し合う資格なんてない』という発言に思わずカチンと来てしまった。

 そこで『なら俺が証明します! 俺が抱いてやりますよ!』なんて啖呵を切ってしまい、そのまま押し切って約束をしてしまったのだ。

 言った時こそ頭に血が上っていたが、冷めた頃には女性経験なんて一切ないことを思い出して冷や汗ダラダラ。勿論自分が童貞なのは彼女も知っていたので――何せ、彼女が初めての恋人であり、そのことは彼女も知っているからだ――、翌日自分は気まずさ満点、彼女は照れ満点でまた話し合い、最終的には証明うんぬんは一旦置いておいて、この機会に恋人としてより一歩進んだ関係になろうという結論に落ち着いた。その結果、今回の自分の筆下ろしと相成ったのだ。

 勿論、嫌だなんて思っていないのだが、もっといい機会があったとしか思えない。それに、勢い任せで言ったものだから不意に彼女のデリケートな部分、子供のことにも触れざるを得なくなってしまった。

 性交の話なのだから避けては通れぬこととはいえ、どういう結論を出すにせよ、もっと自分の中でも落とし込んでおきたい話題だった。最も、そのことは切り出した途端に言われた『どうせ私との間に子供は出来ないだろうから、心配しなくていいのよ』という言葉と自嘲気味の笑顔でさっさと流されてしまい、それ以上の話も避けられてしまったけれど。

 ともかく、そんな訳で現在、純狐は湯浴みの真っ最中である。普段から考えるとやや長く入っている気もするが、時間の感覚すらも曖昧で、正確にはよく分からない。

 一方自分は既に寝室に敷いた布団の上にこうして大人しく座り込んでいるものの、実際は立ち上がってうろうろしてまた座ってを何度も繰り返していた。

 そして、また居てもたっても居られなくなる周期が来て、立ち上がろうかと足を上げようとしたその瞬間、風呂場の戸がからからと開く音が聞こえて、すぐさま座った姿勢に体を正した。

 全身を強張らせて神経を聴覚に集中させていると、そのまま静かな足音はこちらに近づいて来て、それが寝室の前で止まると、襖がすっと開いた。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」

「いっ、いえっ! 大丈夫……」

 風呂から上がった純狐の第一声は、待たせたことへの謝罪だった。それに跳ね上がるように返事をしつつそちらに顔を向けるが、思わず口を閉ざして息を呑んでしまう。

 湯浴みを終えたばかりの彼女は、膝下に差し掛かる程度の丈の肌襦袢のみを纏った姿をしていた。これから行われることを考えればおかしな恰好ではないが、裸体を覆い隠すという意味では肌を見せない以外に碌に機能しておらず、元来のスタイルの良さは何も隠せていない。

 出るとこは出て、引っ込むべきとこはしっかりと引っ込んだ肢体。きちんと紐で留めてはあるが緩めに結んでいるらしく、胸元からは大きな胸の谷間が覗く。時に幼く見える整った顔立ちは湯で上気してうっすらと朱に色付き、長い金色の髪は濡れた光沢が輝く。膝下に視線を下げれば、普段は全くと言っていいほど見せない、すらりと伸びた足が目を惹き付けてやまない。

 これほどの女性とこれから交わるなんてことが改めて信じられなくてどこか茫然としていると、純狐は静かにこちらに歩み寄り、淑やかに右隣に腰を下ろす。そして、所在なさげに投げ出していた右手の上に、彼女の左手がそっと重ねられた。

 二人の間に言葉はなく、寝室は静寂に包まれている、はずなのに、どくどくと大きな音を立てる心臓の鼓動がとにかくうるさい。それに呼応するかの如く体温はどんどん上昇し、視界も何だかぼんやりしてきた気がする。

 ふと、こちらを覗き込んで手をひらひらと振っている純狐を視界に捉え、慌てて声を張り上げた。

「は、はいっ! 本当に、俺は待ってませんからっ!」

 すると、彼女は紅玉のような瞳をぱちくりとさせ、苦笑する。

「○○、心ここにあらず、って感じよ」

「あっ……。す、すみません。実はずっと、落ち着かなくて」

「そう……。では、少し深呼吸でもしてみましょうか」

 吸って吐いてと言われるまま、背中を撫でられながら深呼吸を繰り返す。一人でしていた時は何も効果は得られなかったのに、今は一往復ごとに心音が落ち着きを取り戻していく。やはり自分の中で彼女の存在はとても大きいようだ。

「少し待っていて。水でも持ってくるわね」

 更に、純狐はそう言うと寝室から出て行き、冷えた水の入ったペアの湯呑二つを持ってきてくれた。それを二人で静かにゆっくりと飲み、自分の湯呑が空になる頃には頭もかなり冷えていた。

「どう、落ち着いた?」

「はい、大分良くなりました。まだ緊張はしてますけれど……。あの、純狐さんは本当にいいんですか? これから、その、俺と、セックスするんですよ」

 自分なんかに、体を許してしまっていいのか。言外にそう尋ねると、彼女は口を付けていた湯呑をそっと置いた。

「あら、それを聞きたいのは私の方よ。本当に、私なんかが初めての女でいいの?」

「なんかだなんて、純狐さんは俺にとって最高の女性ですよ!」

 自らを卑下する言葉に稚拙ながらすぐさま賛詞を返すと、純狐は頬を少しだけ緩めて、小さくこほんと可愛らしい咳払いをした。

「……それなら、何も問題は無いでしょう? それとも、まだ何かある?」

「……俺、絶対に下手糞ですよ。純狐さんを気持ちよくさせられるとは……」

 他にも懸念はあるのかと優しい声色で問い、自分の抱える不安を出来る限り取り除こうとしてくれている彼女に、情けないと思いつつも正直に胸中を訴える。

 すると、純狐は右手を伸ばしてこちらの頭にふわりと置くと、そのままよしよしと撫で始めた。

「それでいいのよ。今日は○○自身が気持ちよくなれることだけを考えてくれれば。それが私も嬉しいから。私のことは、余裕が出来てからで構わないから」

 下手だなんてそんなことない、なんて言わなかった。だが、下手でもいいんだと、受け入れる言葉を掛けてくれる。

「○○がそう思ってくれる、私のために努力してくれる、それだけでとても心満たされるから。それに、今日が最初で最後というわけではないのでしょう?」

「それは、その、純狐さんさえ良ければ、そのつもりですが……」

「なら尚更よ。一度きりではないのだから、何度も繰り返すうちに上手に出来るようになるわ。ね?」

 最後に頭を優しくぽんぽん叩き、にこりと笑う。行為にすら至らずに尻込みしている自分を、彼女はひたすらに励ましてくれている。これでもまだ弱音を吐くなんて、あまりにも情けなさ過ぎる。

 ぐっと歯噛みをした後、大きく息を吸ってからそれらを全て吐き、また吸ってから両手で自分の頬をばちんと叩く。

「……ごめんなさい純狐さん、ずっと気を遣わせてしまって。でも、踏ん切りが付きました。純狐さん、しっ、しましょうっ!」

 心を決めても、最後の方の声は自分でも分かるくらい上擦っていた。だけど、それを聞いた彼女は茶化すことなく、しっかりと頷いてくれた。

「ええ、しましょう。大丈夫よ、今日は私が先導してあげるから」

「お、お願いします」

 純狐の申し出にこちらからも頭を下げると、彼女はふわりと優しく微笑んだ。

「では、まずは抱き締め合ってみましょうか。まずは、経験済みのことからね」

「は、はい」

 手を広げた彼女に誘われるまま、一歩体を進めて体を預けると、添える程度の柔らかな力加減で抱擁される。自分もそれに倣い、同じくらいの力で純狐を抱き締める。

「あ、あの、それで次は……」

「焦らないで。まずは、私の体に馴れること」

 これだけでいいのかと尋ねると、純狐はそう言ってほんの少しだけ抱き締める力を強くする。先の彼女の言葉どおり、これくらいなら既に彼女と何度もしたことはあるが、こんなに薄着では初めてのことだった。

 体を寄せ合うことで、胸板に触れる襦袢一枚を隔てただけの大きな膨らみの柔らかさが更に強調され、心臓がまた高鳴っていく。だけど同時に、ふわりと漂う仄かな甘い彼女の香りと温もりも伝わってきて、精神自体はとても安らいでいた。

 体格的には自分が純狐の華奢な体躯を包んでいるはずなのに、それよりもずっと大きなもので彼女に包まれている気がした。

「○○の心臓の音がはっきりと聞こえるわ。でも、落ち着いているわね」

「はい。まだ緊張はしてますが、さっきよりもずっといい気分です」

 依然興奮も高鳴りも緊張もあるものの、それが心地よいと言えるくらい、程良い高揚に変わっていた。

「なら、次に進んでも良さそうね。次はキスをしましょう。キスも何度もしているから、これも平気でしょう?」

「大丈夫だと思います」

「じゃあ、まずは○○からしてくれる? いつもと同じようにしてくれれば構わないから」

 彼女の提案に短く返事をした後、改めて深呼吸をして、少しだけ見上げた純狐の唇に自身の唇を軽く触れ合わせる。ぷるんとした赤い唇に触れたまま僅かに唇を押し付け、離れきらない程度に口を引いて、また重ねる。

 それを何度も繰り返して柔らかな唇を味わい、最後に長めに唇を重ねてからゆっくりと離すと、彼女は艶っぽい吐息を短く息を漏らす。

「○○のキスは、相変わらずとても優しいわね。熱心で、愛がこもっていて、凄く好きよ」

「ありがとうございます。そう言って貰えると、凄く嬉しいです」

「では、次は私から。さっきしてくれたのよりは激しいし、舌も使うから驚いて噛まないでね?」

「……舌ということは、所謂、ディープキスですか……?」

「ええと、それで合っていると思うわ。大丈夫、○○は受け入れてくれるだけでいいから、ね?」

 純狐はちろりと少しだけ赤い舌を覗かせると、妖しく笑ってこちらの唇に自身の唇を触れ合わせる。

 これから行われる初めてのディープキスに体を硬直させていると、彼女は両手をこちらの後頭部にそっと回して固定しつつ、頭を撫でて緊張を解そうとしてくれる。

 そして、触れた唇が僅かに開くと、粘膜を湛えた生暖かいもの、純狐の舌がこちらの唇に触れ、ついとつつかれる。それを唇を開けて受け入れると、彼女の舌が迷いなく口腔に侵入した。

 他人の舌が口の中に入り込んでくるという未知の感覚に思わず体が強張る。だが、その舌で口内を愛撫され、歯を一本一本丁寧に舐められている頃には張り詰めた筋肉は緩み切っていた。

 時には口付けの角度を変えながら、舌が届く範囲内の歯を全て撫で終わると、純狐は口を僅かに離して空気を取り込む隙間をくれる。呼吸も忘れ、なすがままにされていた自分は荒い息を繰り返して酸素を取り込み、三回ほど息継ぎしたところでまた唇を重ねられる。

 すると、次はこちらの口内で縮こまってしまっていた舌を何度かつつかれる。恐らく、舌を出して、ということなのだろうと当たりを付けておずおずと伸ばすと、するりと舌で絡め取られてしまう。

 そのまま舌を縦横無尽に愛撫され、唇でも吸われ、口の端から唾液が漏れることも厭わずに責められ続け、もはや何が何だか分からないうちに彼女はゆっくりと唇を離してしまった。

「ん……。さあ、次は○○からしてみて。上手く出来なくてもいいから、焦らずにね」

「……は、はい……」

 情熱的な口付けで熱に浮かされた気分のままたどたどしく返事をし、言われた通り次は自分から純狐の口内に舌を潜り込ませる。

 舌先が彼女の歯に触れて思わず動きを止めてしまうが、彼女がどんな風にしてくれていたかを必死に思い出しながら、出来る限り丁寧に愛撫をしていく。

 非常に拙い遅々とした愛撫だが、それでも純狐は後頭部に回した手で、さながら子供を褒めるかのように優しく撫でてくれる。

 何とか上下の前歯だけを舐め終わると、彼女は初めてのディープキスの邪魔をしないように奥に引っ込めていた自らの舌を突き出して、こちらから愛撫しやすい形で待ち構える。

 そんな気遣いに感謝しつつ、ぎくしゃくとした動きで舌同士を触れ合わせて撫でていると、純狐の方からもこちらに合わせて舌を動かしてくれる。

「んっ、じゅっ、ふっ……、ちゅっ、んんっ……」

 先程のようなされるだけではない、二人ともが絡ませ合うことで生まれる水音は大きく、口の端からはどちらのかも分からない唾液が漏れてしまう。しかし、そんな些細なことには構わずに彼女とひたすらに求め合う。

 呼吸すら忘れ、純狐とのキスに没頭していたがやがて息が切れてしまい、ぷはっと口を離す。はっ、はっ、と荒く呼吸をしていると、純狐は妖艶に目尻を下げて、自らの口元を指先で拭って指に着いた二人の唾液の混合液をぺろりと舐め取った。

 そして、彼女はこちらの口元に指を伸ばすと同じように唾液を指先で掬い、こちらの唇にそれを置いていく。その一連の動作が余りにも艶やかで、呼吸を整えるためにだらしなく開けていた口を閉じることが出来ないくらい、骨抜きにされてしまっていた。

「○○、顔がぼうっとしてるわよ?」

「……思った以上に激しくて、でも気持ちよくて、何と言うか、凄かったです」

「それなら良かったわ。私も、とても気持ちよかったわよ。どう? まだ緊張してる?」

「その、心臓はまだ相変わらずどきどきしてます。でも、この高鳴りは緊張よりも、期待の方がずっと大きいです」

 もう、彼女を待っていた時のような冷や汗が出そうな鼓動とは違う。ここまでなんてまだ序の口で、目の前の美しく愛しい恋人をもっと味わい、もっと愛し合えるのだという高揚感が遥かに上回っていた。

「あらあら、それならきちんと応えてあげないといけないわね。次は、そうね……。本格的に体の方に触れていきましょうか。まずは、ここから」

 そう言うと純狐は襦袢を緩く留めていた紐を一つ解き、胸元を更に肌蹴させてしまう。解く前から覗いていた白い谷間でさえ非常に刺激的だったのに、今では乳輪がぎりぎり見えないくらいにまで開かれ、視線が釘付けになってしまう。

 普通なら胸をこんなに凝視されては嫌悪感があるだろう。だが、彼女はそんなことを気にも留めず、襦袢の中に手を入れて、本人の手で一抱えはある乳房を外へ零れさせた。

 ぶるんと溢れ出た大きな乳房は手に覆われたままで全景は見えないが、白く、美しい丸いラインを描いていた。純狐はもう片方も躊躇なく溢れさせると、両手を取り払って腕を緩く組み、下から両胸を支え持ち上げる。

「女性の胸をこうして見るのは初めて?」

「そ、そうですね。写真なんかではありますけど、生で、しかもこんなに近くでなんて……」

 大きい、まず思ったのはそんな稚拙な感想だった。そんなことは裸を見ずとも分かっていたが直に見てみると圧倒されるほどで、言葉を失ってしまう。

 それに、元々彼女は肌が白い方だということも知っていたが、血管がうっすらと見えるほどに透き通っていて、染みの一つも無い。加えて、豊乳の中央でぷくっと膨らんだ乳首もそれを囲う乳輪も綺麗な桃色をしているが、色自体は薄めなのに肌の白さゆえによく映えていた。

「その、滅茶苦茶、綺麗で、魅力的です。今まで見てきた中で、一番です」

「ふふっ、ありがとう。見るだけじゃなくて、触ってもいいのよ?」

「……で、では、失礼します」

 何とか絞り出した褒め言葉に純狐は表情を緩め、触れてもいいと言う。その言葉に生唾を飲み込み、右手を伸ばす。が、どう触るのがいいのか、力加減すら分からない。取り敢えず、真正面から、五本の指をそっと添えてみる。

 とうとう、触れてしまった。直接、彼女の胸に。とはいえ添えただけなのでまだ感触は殆ど分からないが、その事実が気分を舞い上がらせていた。

 意を決して五指に僅かに力を込めると、柔らかくすべすべな乳肉が押されるままに形を変え、指をむにゅりと沈ませる。

 その感触に、思わず我を忘れそうになる。まず、手触り自体が抜群に気持ちいい。彼女と手を繋いだ経験なんかはあるので、彼女の肌が滑らかなんてことはとっくに知っていたが、これほどの柔らかさを伴うと心地良さは何倍にも膨れ上がることまでは知らなかった。柔らかいもの自体は数あれどこれほど心奪われるものは初めてで、ただ揉んだだけなのに物凄い幸福感に満たされていた。

 なら、こうするとどうだろうと、親指を内側に向けたままの形で下から掬うように持ち上げてみる。すると、大きさに見合う重量感のある柔肉が重力で手の平に吸い付いて、たぷんと手の形どおりにたわむ。

 それらにすっかり心奪われ、浮ついた心地でそのままむにむにと指先で揉んでいたが、つい少し力が入ってしまった。

「んっ……」

「ごっ、ごめんなさい! 痛かったですか!?」

 瞬間、純狐が小さく声を上げたのを聞いて慌てて手を離して平謝りすると、彼女は可笑しそうにくすくすと笑う。

「いえ、違うわ。○○の手が気持ちよかったのよ。もし何かあればきちんと言うから、○○の好きにしてくれて構わないわ」

「わ、分かりました」

 改めて自由にしていいと言われ、もう一度乳肉を持ち上げる。今回は遊ばせてしまっていたもう片方の手も使い、両方の乳房をまた味わう。

 さっきよりもほんの少し激しめに揉み、左右に寄せてみたり、たぷたぷと揺らしてみたり、マッサージするような大きな動きで揉みしだいてみる。

 純狐の口からは小さな声が溢れるが先の言葉を信じ、大丈夫だと踏んで夢中になって揉み続ける。

 そうしているうちに自然とこれだけでは満足できなくなり、乳首へと指を伸ばし、指先でついと押してみる。

「はあっ、あ、んっ……」

 自分の知識の中にある、乳首は敏感な箇所だというのは純狐もやはり同じなようで、彼女はぴくんと体を震わせ、今までよりも熱っぽい息を漏らす。

 そんな反応に気を良くして、柔らかくも芯がある乳突起を指先でくにくにと転がし、つつき、摘まんでみる。溢れる声の声量が増すのに合わせ、乳頭は硬さを増し、大きさも目に見えて膨張していくのがまた興奮を煽り、同時に咥えてみたいという感情を湧き上がらせる。

「あ、あの、くっ、口でしてみても……」

「ええ、勿論。貴方の好きなように」

「……では、し、失礼します」

 どもった物言いにまたくすくすと笑われながら、右手の親指から人差し指のラインに乳輪のやや外側を沿わせて掴み、手に力を込めて周囲の乳肉ごと乳首を押し出させ、口を寄せる。

 まずは乳輪に沿って舌を右から左、左から右と何度も周りを這わせる。すると、純狐はもどかしそうな短い息をぽつりぽつりと溢れさせる。焦らすような意図はなく、単に彼女の胸の全てをしっかりと味わいたかっただけなのだが、それなら待たせては悪いと乳突起の先端に舌先を伸ばす。

「んっ、はあぁっ……、あ、あぁん……」

 乳首をちろちろと舐める度、口付けを落とす度に零れる、普段よりも色艶の濃い高い声。今更ながら、これが彼女の感じている声なのだと実感する。

 舌先だけでなくざらついた面でも舐め、時には口付けを落とし、また乳輪をなぞりと思うままに舌と口での愛撫を繰り返す。

 そして、何度目かのキスの後、そのままぱくりと膨張しきった乳首を咥え込む。

「はぁんっ、もう、そこばかり……」

 純狐は呆れ混じりに苦笑するが、本気で嫌がっているわけではないことぐらいは分かる。なので、欲に任せて乳首をちゅうちゅうと吸う。

 物心すら付かない、乳を飲んでいた頃の記憶なんてないけれど、それでも求めてしまうのは本能だろうか。母乳なんて出ないし、味もしない。そう分かり切っていながらも、乳飲み子の如く夢中で何度も吸い続ける。

 乳は出ずとも石鹸や香水とはまた違う、彼女の甘い匂いだけでも気分は蕩け、その香りも手伝ってか段々と仄かな甘みすら覚えてしまう。

「ん、んっ……、ふぅっ、っ……」

 硬い肉蕾と柔らかい乳肉の、相反する感触。幻にしては鮮明な、母乳を思わせる味覚。純狐の口から静かに零れる、しっとりとした声。それらにひたすら溺れていた。

 息が切れてしまうギリギリまで口内で肉蕾を味わい続け、最後に吸盤のように引っ張って、ぷは、と口を離す。

「はっ、あんっ……、○○は随分胸が好きなのね」

「はい。純狐さんの胸、大好きです。とても柔らかくて、いい匂いがして、最高です……」

「も、もう、お世辞ばっかり……。もっとしてもいいのよ? ほら、こっちも」

 様々な甘さに溶かされて浮付く思考での誉め言葉はそれはそれは稚拙だった。

 しかし、純狐はそんな言葉でも照れつつ頬を緩めると、嬉しそうにしながらもう片方の乳房を持ち上げ、口元に寄せてくる。

 促されるまま次はそちらを銜え込み、唾液に塗れたもう片方はまた手を伸ばして、ぬるぬると指を滑らせながら弄り、堪能する。

「触れるのもあっという間に上手になってしまったわね。私も気持ちいいし、こうされるの、好きよ……」

 穏やかな声色で言いながら、純狐はこちらの頭に手を乗せると、またよしよしと撫で始める。今日だけでもこうして何度も撫でられているが、彼女の優しい手がくれる安心感は凄まじく、母性的な温かさに精神は緩み切ってしまう。

 そんな極上の幸福感に包まれている最中、不意に股間を下着越しではあるがふわりと触られ、思わずびくんと体を跳ねさせてしまう。

「っ!?」

「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」

 何かと思ってそちらを見れば、盛り上がった股間を純狐の細い指が撫でているではないか。

「あ、あの、これは……」

「○○にさせてばかりでは悪いから、私からも貴方にしてあげようと思ったのだけれど……」

「じゅ、純狐さんからですか!?」

 思わず声を上げてしまった。現在自分達が行っている所謂前戯には、自分から相手にするものもあれば、相手から自分にしてもらうものもある。そんな当たり前をすっかり失念してしまっていたが、それには理由があった。

「で、でも、俺ばっかりいい思いしてるのに……」

 それは、今し方言った通りである。確かに、相手への奉仕、という意味では自分がしていると言えるが、実際は自分がしたいことを純狐が受け入れてくれているだけであり、これ以上だなんていいのだろうか。

「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、私もいい思いをしてるわよ? それに、私だって○○にしたいもの。手でならこのままでも出来るから、○○はそのまま吸っていていいわよ?」

 そう言うと純狐は勃起した股間を、再びすりすりと撫でさする。まだまだ弱めの刺激なのにまた全身を震わせてしまい、これは不味いと慌てて口を離す。

「いえっ、つい噛んでしまったりしたら一大事なので、俺の方はここまでにしておきます」

 正直、名残惜しい気持ちも無いわけでは無い。とはいえ、この辺りで区切らないと今夜がこれで終わってしまいかねないというのもあったし、彼女がしてくれるのであれば、そちらに集中したかった。

「そう? 急かしたようで悪いけれど……。では、せっかく胸が空いたのだから、胸でしてあげるわね。貴方は特に好きみたいだから」

「む、胸でなんて、いいんですか」

「ええ。手でも口でも、とても愛してくれたから、そのお返し。それじゃあ、まずは下を脱いでくれる?」

 彼女に更に期待が高まることを言われた後、下着を脱いでと促される。言われた通りに立ち上がって下着に手を掛けるが、ここにきて逡巡してしまう。恋人の前に自らの雄の象徴を晒すのだと思うと、一抹の不安がよぎってしまう。

 だが、情事を始める前に決心したではないかと、何より見せねば始まらぬと気合を入れ、下着を一息に下ろす。硬く勃起した陰茎は下着の縁に引っ掛かった反動でぶるんと弾みながら、勢いよく飛び出した。

 姿を現した男根が振り子のように揺れたのも束の間、定位置に落ち着いた肉棒はこれまでの前戯により自分でも驚くほどがちがちに勃起していた。透明な先走り汁も先端から溢れ、肉幹をつたって垂れ落ちている。触ってすらいないのにこれほどまでになるのは、初めてのことだった。

「ぬ、脱ぎましたっ……!」

 どく、どくと陰茎の脈動と心臓の鼓動が同調するのを感じながら若干震える声で言うと、純狐は肉棒の前に膝立ちになって顔を寄せる。そして、はあ、と熱っぽい息を漏らすと、そっと両手を伸ばす。

「うくっ……!」

「嬉しいわ……、私なんかで、こんなに大きくしてくれるなんて……」

 左手では根本を押さえ、右手では指先で亀頭から根本までをゆっくりと撫でる。非常に弱い刺激なのに思わず唸り声が漏れ、陰茎は大きく跳ね上がり我慢汁をより増やす。自分以外の手にこうして優しく触れられる経験なんて初めてなうえ、それが愛する人の手だという事実が快感を何倍にも膨れ上がらせていた。

「熱くて、硬くて、大きさも立派……。とても男らしくて、素敵よ」

 純狐は陰茎を愛おしそうに撫でながらにこりと笑う。彼女を疑うわけでは無いが、それらの文句は自分の気分を乗せるためだろう。でも、そう分かっていても嬉しくてたまらない。

「さて、こんなに大きくなっているんだもの、早くしてあげないと可哀想ね。○○はそこに寝てくれる?」

 促されるまま横たわると、追加の指示を受けてそれに従いを数回繰り返す。そうして、出来上がったのは、寝たまま開いた両足の間に純狐が座り、彼女の両膝の上に自分の下半身を乗せる体勢だった。

「純狐さん、重くないですか?」

「大丈夫よ。だから気にせずに、ここに集中して?」

 彼女は天井に向けてそびえる陰茎の鈴口に指先を当て、つんつんとつつく。そして、自らの乳房をぐいと持ち上げ左右に広げて隙間を作ると、肉棒をぎゅっと挟み込んだ。

「っ、くうっ……!」

 瞬間、背筋を電流が駆け巡り、ぞくりと体が震えてしまう。続けて彼女は左右から乳肉を圧迫し、陰茎を谷間でぎゅうと押し潰す。しかし、男根の方が遥かに硬いので乳房の方がむにゅりむにゅりと押し合い、陰茎の周囲を隙間なく詰まらせ覆い尽くしてしまう。

 たっぷりとした重量感のある柔肉、それもさっきまで好き放題に弄っていた乳房に分身のほぼ全てを包まれる感覚は、何もかもが初心の自分を戦慄かせるには十分すぎる快感だった。

「挟んだだけなのにそんな顔をするなんて、まだこれからよ? 準備をするから、もう少し我慢してね……」

 純狐の言葉こそ少し責めるようだが表情は柔和で、呆れているのではなく、楽しんでいるように見える。

 谷間から顔を出す亀頭をよしよしと彼女は撫でると、一旦乳房から片手を離して口元を手のひらで隠す。数秒後、両手で改めて乳房を持ち直すと、口を開けて舌を伝わせて、谷間にぬるりとした唾液を垂れ落としていく。

 手で隠していたのは、唾液を貯めるために口をもごもごさせるのが恥ずかしかったのかも知れない。だが、垂らすところはあえて見せつけてくるのがなんとも狡い。

 肉棒と豊かな双房の境目の隙間に万遍なく唾液を送り込むと、緩く乳房を持ち上げて軽く左右に揺らし、捏ね始める。生暖かい粘液を陰茎全体に塗り広げ、足りなそうなところは手の平でも塗りつけてと丁寧に下準備を進めていく。

 更なる奉仕を潤滑にするための前段階だというのに、陰嚢からは既に精が昇り始めて来ていた。

「こうしてると、○○の熱と硬さがとても伝わってくるわ。……さて、そろそろいいかしら?」

 もはや準備とは思えない行為が終わると、純狐は乳房をぎゅっと寄せて陰茎をしっかりと挟み込み、ゆっくりと上下に扱き始める。

 丹念に塗された潤滑油で更に滑らかさが増した乳肌が大きくたぷんたぷんと弾み、粘液を攪拌する水音がぐちゃ、ぐちゅ、と響く。

 自分の体の上で大きな乳房が踊る光景、それも愛する人のパイズリ奉仕とくれば目を離すなんて馬鹿なことは一瞬たりとも出来ず視線が釘付けになってしまう。

 早くも解放を求める精液を歯を食いしばって堪え、一秒でも長く耐えながらこの光景を目に焼き付けようとする視線に純狐も気が付いたのか、手を止めないまま話しかけてくる。

「胸で扱くのはどう? 気持ちいい?」

「気持ちよすぎて、もう出そうなくらいですよっ……!」

 すると、彼女は「あらあら」と顔を優しく綻ばせ、共に上下させていた乳房のタイミングをずらし、互い違いに動かし捏ねるような扱き方に変える。

「それなら、今までみたいなのと、こうして互い違いにするの、どちらが好き?」

「こんなの、どっちも良すぎてっ、決められませんっ……!」

 動き方を少し変えただけなのに上下に扱くのとはまた違う、柔肉にもみくちゃにされる刺激に浮かされつつ返事を絞り出す。

「それでは両方とも、たくさんしてあげるわね」

 そんな優柔不断な回答にも純狐は嬉しそうに笑い、宣言どおりに奉仕方法を気紛れに入れ替えては射精に導こうと絶えず快感を送り込んでくる。

「他にも、こんなのはどう?」

 そう言うと純狐は豊乳の前で手を組んで腕まで使い強く挟むと、体ごと動かして激しく扱く。

 そのまま腰を持っていかれそうな感覚に襲われ、急速に精液が込み上げて来る。もうこれ以上射精を堪えるのは厳しい、出そうだ、そう早く彼女に伝えなければと口を開いた瞬間、純狐は乳房の前で組ませていた指先を手前に寄せ、鈴口を優しくくすぐった。

「っ!」

 不意の刺激に全身がびくんと跳ね、言葉を発する暇すら与えられないまま、絶頂まで高められてしまう。

「純狐さんっ! 出ますっ!」

 それでも必死に絞り出した声とほぼ同じタイミングで、亀頭の先端から精液が一気に放出される。

「きゃあっ! ん……、凄いわ、こんなにたくさん……」

 勢いよく飛び出した白濁は彼女の頬にまで届き、可愛らしい悲鳴が上がる。しかし、吐き出され続ける精液を純狐は乳房を緩く押さえたまま受け入れ、その量に感心の声を漏らす。

 やがて陰茎が精を吐き出すのを終えると、彼女は谷間を開いて肉棒を解放する。相当量の精液を受け止めた双乳の間には白濁がべったりと粘っこくこびり付き、中には左右の乳房の間で糸を引き合って繋いでいるものまであった。

「純狐さん、ごめんなさい。顔に……」

 初めてのパイズリ射精による快感に腰を砕かれ碌に動けないながら、頭上、肩の横と手探りで何か拭く物を求める。確か、用意しておいたタオルなりティッシュなりがあったはずだ。

「大丈夫よ。……ん、ちゅっ……」

「あっ、純狐さんっ……」

 だが、彼女はそれを待たず頬の精液を指で口元に滑らせると、そのまま舌で掬い口に含ませる。更に、胸を持ち上げて口元に寄せると、染み一つない乳肌に赤い舌を這わせ、精液の塊を舐め取っていく。そうして粗方舐め終わると、多大な興奮で未だ大きさの衰えていない男根の根元を柔く持つ。

「出したばかりなのにまだこんなに硬いなんて元気ね。こっちも綺麗にしてあげるわ」

「……え、綺麗に、って……」

 自らを汚していた精液を自らの舌で綺麗にしていく姿に呆気に取られ、思考が追い付かないままでいると、彼女は精液が付着したままの陰茎を躊躇なくぱくりと咥え込んだ。

「あぁっ! じゅ、純狐さん、そんなっ……」

 心構えする間もなく分身は生温かい口内に呑まれ、ぞくぞくと背筋に電流が走る。

 そのまま根本まで一気に呑み込み、肉幹に付いた精液と我慢汁と唾液の混合汁を取り除きながらゆっくりと口を引いていく。そして、肉幹の全てを舐め終えるとカリ首の少し下に一旦動きを止め、亀頭にざらついた舌を這わせ、舐め回し、カリ首の裏まで丹念になぞって掃除する。

 先端を一通り舐め終えると、最後に根本を押さえた指で緩い輪を作って小刻みに扱きながら鈴口をちゅうちゅう吸い、尿道に残っていた精液までも余すことなく吸い尽くす。

「純狐さんっ、もう、もう綺麗になりましたからっ……!」

 パイズリによる絶頂から降りる間もなく叩き込まれる快感に体が動かず、声だけで訴えるが彼女は“綺麗にする”のを止めない。むしろ、心なしか楽しそうにすら見える。

 もう掃除する必要なんてないのに裏筋を舌先で何度もなぞられ、肉茎を唇で甘噛みされ、あげく陰嚢まで口に含んで吸われてしまう。

 口淫のフルコースとも言うべき奉仕の連続は精巣から新たな精を引きずり出し、射精衝動を抑制する間もなく強制的に限界寸前まで攫っていく。

 自分の反応と震える陰茎から、射精が目前であることは純狐も分かっているのだろう。最後の追い込みと言わんばかりに鈴口を吸われ、尿道口を舌先でくすぐられ、あっという間に本日二度目の射精に導かれてしまう。

「あぁあっ! ぐっ、あ、あぁっ……」

 唸り声とともに吐き出される精液はそのまま純狐の口内に向けて放出され、彼女も口を離すことはせず、カリ首のやや下を唇でしっかりと押さえている。その上、射精を受けながらも純狐は亀頭を咥えたまま肉幹と陰嚢を優しく撫でて、更なる射精を促す。

 長くびくびくと跳ねていた陰茎の脈動が終わり、これ以上精液が出ないと分かると最後に再び鈴口を強く吸って残滓すらも口内に収め、それらが漏れないように口を引く。

 もはや目的の変わった口淫を終えた純狐は淫靡な笑顔をこちらに向ける。自分を見つめる赤い瞳に囚われて目を離せないでいると、彼女は口元を指先で軽く抑えて口内の精液を租借し、喉を動かして飲み込んでいく。今回は止めようとは思えなかった。ただただ、その淫蕩な姿に目を奪われていた。

 やがてこく、こくと小さく動いていた喉の動きが止まり、口元から手を離すと、ほうっと小さく息を吐く。

「ごめんなさい、あまりに○○が可愛らしくて、思わず夢中になってしまったわ」

「謝る必要なんてありませんけど、その、まさか飲んでしまうなんて……。い、いえ、とても嬉しいんですが、美味しくなんてないですよね……?」

「味なんて関係ないわ。私で感じてくれた○○の精を、全て受け入れたかったから。凄く濃くて、粘っこくて、熱くて、癖になってしまいそう……」

 落ち着いた声色で言う純狐だが、纏う雰囲気は妖艶そのもの。そんな雰囲気に煽られ、それと先の彼女の行為へのお返しの気持ちを込め、下半身を投げ出していた体勢からすぐさま足を畳んで座り直し、体を起こす。

「純狐さん、次は俺から純狐さんにさせて下さい!」

 そして、今回は彼女の指示を待たずこちらから持ちかけると、にこりと口元を緩める。

「ええ、それではお願いしようかしら」

 すると、純狐は襦袢を留めていた紐をするりと解き、淀みなく脱ぎ去ると簡潔に膝の上で畳み、その上で指を組む。それにより陰部こそ隠されているが、とうとう彼女の一糸纏わない姿が露わになる。

 相変わらず全体的に肌は透き通るように白く、襦袢の上で組まれた指もその下の脚もすらりと伸びて、襦袢の脇に覗く太腿が眩しい。上半身は誰もが目を惹かれる大きく実った乳房と、しっかりとくびれた腰が美しい。加えて容姿は端麗、ふわりと波打つ長い金髪は輝いていてと非の打ちどころが全くない。

 そんな彼女にただただ見惚れて、漠然と『綺麗だな』なんて陳腐なことを思っていた。

 一つ気になる点を挙げるならば、彼女には昔、子供がいたはずだが、それを全く感じさせない体型をしている――主に、お腹や乳房に――ことだ。

 勿論、全ての人がそういう形跡を残すわけでは無い。だけど、彼女の場合はもはや感じさせないというよりも、その形跡まで全て消そうとしているかにすら思えた。でも、純狐自身は今でも時折そのことを……。

「どうかした?」

 彼女に声を掛けられ、はっと意識を戻す。先の疑問が気にならないわけでは無いが、あまり深く追及するようなことではないだろう。

「あまりに純狐さんが綺麗だから、見惚れていたんです」

 だから、純粋に初めて見た時に思ったことをそのまま伝える。

「あらあら。○○は気分を乗せるのが上手ね」

 しかし、残念ながらそこまで本気には受け取って貰えず、彼女は呆れたような苦笑を浮かべながら両脚をおずおずと左右に開く。

 とうとう、秘部までもが露わになる、かと思いきや、彼女は膝の上に乗せた襦袢を手で抑えたままで、取り去ることまではしなかった。

「……少し待って。今更だけれど、やはり恥ずかしくて。自分でももう濡れてしまっているのが分かるから……。はしたない、なんて思われるかも知れないけれど」

 そう言って、照れた表情を見せる純狐。ここまであまり恥ずかしがる様子を見せなかったから、今の羞恥の頬を染める姿がたまらなく可愛らしい。

「まさか。思いませんよ、そんなこと。それに、俺だって勃起してガチガチだったんですから、お互い様ですよ」

 そんな軽口に彼女はふふっと笑い、一呼吸空けてから股間を覆っていた襦袢を静かに脇に置いた。

 何も隠すものが無くなった両足の付け根の根元、緩やかに盛り上がった丘の中央には縦に裂けた割れ目があり、その左右には鮮やかな桃色に色付いた二枚の花びらがあった。

 ぬるりと濡れ光るそれらは綻び開いていてその間はより奥へ窪み、そこからは透明な汁がとろりと溢れていた。陰唇の上部は皮が突き出ていて、その上には髪と同じ金色の陰毛が綺麗に整った形でふわりと柔らかく生えている。

 逆に秘裂の下側ではきゅっと窄まったお尻の穴が見えてしまっていて、目を逸らした方がいいのではと頭をよぎるが、それすらも目に焼き付けたいという欲求が上回り、それら全てから目が離せなかった。 

「ここも見るのは初めてよね?」

「一応、写真でならありますけど……。でも、殆どはぼかしてありますし、なによりこんなに綺麗なのは初めて見ました……」

 眼前の陰部はぼかしは当然、黒ずみなんかも一切無く、陰毛すらも綺麗に整っていてと、もはや芸術と言っていい程に美しかった。

「も、もうお世辞ばっかり……。見たいのなら、もっと近くで見てもいいのよ」

 初めて生で見る女性器に、純狐の美しい陰唇に釘付けになっていると、彼女は頭がうずめられるくらい更に脚を広げる。

 その仕草にごくりと息を呑み、誘われるまま純狐の前に肘をついて四つん這いになって顔を近づけると、彼女は左手の指を陰唇の両端に添え、左右に開く。

「ここが陰核……クリトリスです。そして、ここが膣穴。貴方自身を入れる入り口よ。その上の小さな穴は尿道。分かるかしら?」

「は、はい」

「では触ってみて。あなたの思うように。但し、優しくお願いね?」

 純狐は右手の指で一つ一つをそれぞれ指差して丁寧に教授すると、次は触れてみてと促す。

 彼女の指に変わって太腿に手の平を添えて、小陰唇辺りに両の親指を構え、自らの手でもう一度左右に広げる。初めて触れた陰唇はぬるついていて柔らかく、人差し指でなぞってみると彼女は小さくぴくんと体を揺らした。

「もしもクリトリスを弄るなら、そのくらいの強さでお願いね。とても敏感なところだから」

「分かりました」

 純狐の言葉にしっかりと頷き、言われた力加減を忘れないうちにまずはその箇所、陰核に触れてみる。上から覆う皮越しに緩く撫でるとそれだけでも彼女の口からは甘い声が溢れ出し、くっと押してやれば短く高い喘ぎとともに体をぎゅっと縮こまらせる。

「あっ、んっ……、ふあぁ、んっ……」

 ついさっき彼女が教えてくれたことは勿論、知識としてもクリトリスは敏感だと知っていたが、それが本当だと自分の経験で理解出来たことに少し感動してしまう。

 少し指を下げて、小陰唇の内側を撫でてみる。ぬるりとした熱い粘液が指に絡み付いて指先の滑りを良くしてくれ、そのまま内側に寄せていき、それらの蜜をとろりと溢れさせる膣穴に指を伸ばす。写真で見たことはあるとはいえ、膣穴は想像よりも小さくて、とりあえず人差し指だけをゆっくりと差し込んでみる。

 膣口は侵入しようとする指の太さに合わせて入口を広げ、入った傍から温かくぬるぬるした膣肉が指を柔らかく締め付けてくる。閉じた柔肉を割り開く感覚を味わいながら人差し指の第二関節くらいまで沈ませて膣内を指先で撫でてみると、ひだがそこかしこにあるのがよく分かった。

 膣内からぐちゅぐちゅと粘液を攪拌する小さな水音を響かせながら、しばしその感触を指先で味わい、指を引き抜く。それにより、奥に溜まっていた愛液が一緒に掻き出されて、膣口の隙間からこぷ、こぷと溢れ落ちてくる。もう、指だけでも分かる。こんなの、絶対に気持ちいいに決まっている。

 しかし、指一本でもこれだけ締め付けられるだなんて、自分の陰茎が大きい方だとはとても思わないが本当に入るのだろうか。

「貴方のを収められるかどうか、心配?」

 すると、純狐はそんな心配を見越したように言う。心を読まれたことに驚いて顔を上げると、彼女は口元を隠して笑う。

「顔に出ているわよ? ちゃんと入るから安心して。でも、そうね……、せっかくだし○○にもっと解してもらおうかしら?」

「分かりました。では、失礼して……」

 それならばと顔をより近づけようとしたところで、えっ、と声を上げた彼女に慌てて頭を抑えらてしまった。

「ま、待って。もしかして、口でするつもり?」

「あ、駄目でしたか?」

「いえ、その、駄目ではないの。それに、口でするのもおかしいわけではないのだけれど……。ええと、その、匂いはどうしてもしてしまうし、味もいいものとはとても言えないから……。○○は初めてなのだから、今日は指でしてくれるだけでいいのよ?」

 珍しく歯切れ悪く狼狽して、あたふたと別の方法を提案をする純狐。てっきり口でされるのが嫌いなのかと思ったが、自分を気遣ってのことだったらしい。

「……嫌というわけではないんですか?」

「嫌ではないわ。○○が私のためにしてくれることだもの。だけど、やっぱり……」

 念の為自分からも尋ね、嫌ではないことを再確認したところで、言い淀んでいる隙に改めて顔を寄せて匂いを嗅いでみる。確かにつんとした匂いがほんの少しだけしたが忌諱感はなく、むしろ一段と股間を疼かせる香りがした。

 その匂いに流されるまま淀みなく舌を取り出し、陰裂を膣穴から陰核にかけて舐め上げる。舌から味蕾を通して甘酸っぱいような苦いような不思議な味がしたが、こちらもまた嫌悪感は一切なく、それどころかもっと欲しいくらいだった。

「やっ、はあ、あぁっ……! だ、駄目だと言っ……」

「強引なことをしてすいません。でも、全然気になりませんよ。それでも駄目ですか?」

 股間に顔を埋めて見上げる彼女の頬は真っ赤に染まっていて、少しでもそんな顔を隠したいのか恥ずかしそうに口元を手で隠している。

 純狐は小さな声で可愛らしい唸り声を上げており、なかなか返事は来ない。普段から自身のことよりもこちらを優先しようとする純狐のことだから、今頃色々な感情が渦巻いているのだろう。

「今更ですけれど、純狐さんの嫌がることはしたくないので駄目なら駄目で構いません。でも、少しでも気持ちいいとか、して欲しいと思ってくれているなら、させて下さい。純狐さんが俺にしてくれたように、俺も純狐さんにしたいんです」

 そんな彼女を畳みかけるべく更にもう一押し。すると、しばしの間を挟んだ後、口元を抑えていた手をこちらの頭に添えると、さらりと撫でる。優しい手つきだった。彼女の頬の赤さは未だに残っているが、もう赤い瞳は泳いではいなかった。

「本当に、強引ね。でも、私も似たようなことをしてしまったし、私自身も○○にして欲しいわ。だから、お願いしてもいい?」

「……はいっ! 純狐さんが気持ちよくなってくれるよう、頑張ります!」

 恥ずかしげに微笑みながらの純狐の言葉に張り切った返事をする。そして、再び秘部へ向き直し、舌を伸ばして弱めの力加減で全体を舐め解していく。

 初めてで下手な分をカバーするため、出来る限り丁寧にすることを意識しながら小陰唇や膣口、膣前庭を繰り返し往復し、彼女が感じてくれるところを探す。

 勿論、やはり陰核は弱く、舌先で舐めてつつくだけでも彼女は気持ちよさそうにしてくれているが、それでは指と変わらないし、せっかく口でする許しが出たのだから口ならではの弱点や好みの方法も知っておきたい。

 舐め方や舌のどの部分を使うかなどを変えながら探る中で、これはどうだろうか、とあることを試す。

「あっ、はぁっ! あ、あぁん……!」

 すると、純狐は普通に刺激するよりも高く、鼻にかかった甘い声を溢れさせる。

 ついさっきしたあること、それは、舌を使うのではなく、唇での軽いキスを膣穴近くにしただけだ。

 もしかしてと思い、左右の花弁、陰核、少し外して大陰唇とおまけに鼠蹊部にもそれぞれにバードキスを何度かしてみると、そのどれもに如実に反応した。

「純狐さん、これ、気持ちいいですか?」

「ええ、とても。もっとしてくれる?」

 以前からそんな気はしていたのが、どうやら純狐はキスされるのが好きなようだ。それは、唇同士はもとより、乳や性器等も変わらないらしい。

 求められるまま口付けを何度も落とし、指や舌で弄るのも織り交ぜながら陰唇への奉仕を続ける。

 弄る度に手の平で抑えた彼女の鼠蹊部が揺れ、膣穴の入り口や、そこから覗くもっと奥深くもひくひくと蠢いては粘度の高いどろりとした蜜を溢れさせる。自らの手で彼女が快感を得てくれているのが明らかに分かり、その事実が多大な満足感と幸福感をもたらしていた。

 膣口から垂れる涎がそのまま流れ落ちてしまう前にそれを舐め取り、膣穴にも口を付けて音を立てて啜る。本当は後の行為の潤滑油となるものだと分かっているのだが、我慢なんて出来なかった。

「あぁっ! そんなに、激しくしちゃ、あぁっ、くぅん!」 

 大きな嬌声に気を良くし、敏感なクリトリスにまたキスをしてみたり、乳首にしたみたいに吸い付いて離してを繰り返す。更に舌先で丁重に愛撫し、指でも皮の上から撫で、膣穴の入り口も優しく解す。そうするうちにまた新たな愛液が滾々と湧き、潤いが枯れることはない。

 視覚的にも感じているのが分かるのがやる気の炎を燃え上がらせ、奉仕の手に熱が入る。興奮しすぎて荒くしないように注意しつつ、どうすればより彼女が気持ちよくなってくれるかを考えて、朱に染まった秘部を夢中で愛し続ける。

 しかし、不意に純狐はこちらの肩をとんとんと叩いて、上から静かに声を投げ掛ける。

「……○○、もういいわ。ありがとう、とても丁寧にしてくれたわね」

 思いもしなかった制止の声に、え、小さく声を上げて股間に顔をうずめたまま、彼女の方を見上げる。

「……終わり、ですか? ようやく、少し分かってきたところ……まさか、本当は全然気持ちよくなかったとか……」

 もしや、あまり考えたくはないが、感じてくれているように見えたのは思い込みだったのだろうか。

「いえ、そんなことはないわ。むしろ、だからこそよ。……今、こうしていることの目的、覚えてる?」

「……目的? ……あ、ああ、そういえば……」

「そう、○○のを入れるための下準備。そろそろ止めないと、延々としてくれそうだったから」

 純狐はくすくすと可笑しそうに笑いながら、こちらの頭をさらさらと撫でる。自分の奉仕で彼女が反応を返してくれることが嬉しすぎて、そしてそれに夢中になりすぎて、すっかりその終着点が頭から飛んでしまっていた。

「これだけしてくれたら私の方はもう大丈夫だから、今日のところは次に進みましょう?」

「そ、そうですね……。次、ってことは……」

「契りを交わしましょうか」

 純狐の言う“次の行為”。平然と、至極落ち着いた声音で言った、“契りを交わす”という言葉。その言葉が示すものがなんなのかなんて、考えるまでもない。

 どくんと大きく、心臓が跳ねる。とうとう、その時が来たのだ。

「……は、はい! そ、その、本番、ですね……」

 震える声を抑えながら短く返事をして体を起こし、ごくりと生唾を飲み込む。

「そんなに緊張しないでいいわ。さて、○○は初めてはどんな……」

「あっ、あの、純狐さんっ。遮って申し訳ありませんが、少し待って下さい」

 話の腰を折ることを悪く思いつつ、彼女に手のひらを向けて待ったのジェスチャーをする。

「その前に、付けないといけないものがありますので」

 言いながら枕元の薬箱に手を伸ばし、予め用意しておいた避妊具、コンドームを取り出して素早く着用する。せめてこれだけはスムーズに出来るよう、練習しておいたのだ。

「……それは確か、避妊のためのものよね?」

「はい。コンドームというものなんですがゴムで作られてて……って、今はそんな説明はいりませんよね。純狐さんの言うとおり、これは所謂避妊具です。やっぱり、まだ子供は早いかなーなんて……」

 不思議そうな顔をした彼女の質問に対しほんの少しのおどけを混ぜてそう回答を返すと、あの時と同じような、諦観した自嘲に表情を変える。

「……○○、前にも言ったけれど、そんな物使わずとも、子供なんて……」

 再び、彼女に待ったのジェスチャーをする。その先は、もう言って欲しくなかった。

「違います。まだ早いから、これを付けるんです。そして、これがあるから、子供は出来ないんです。だから、純狐さんは何も気にしなくていいんです」

「……詭弁よ。そんなのは」

「分かっています。でも、そういうことにしてくれませんか。先延ばしなのも分かっています。でも、いつか必ず、どうであれ答えを見つけますから」

 純狐の真っ赤な瞳を真っ直ぐ捉えて言う。

 そうしてしばし見合っていると、彼女は表情を僅かに緩めてこちらの耳元に口を寄せると、ギリギリ聞こえる位小さな声で「待っているわ」とだけ呟いて、そのままそっと抱き締めてくる。

 しかし、それに返す間もなくすぐに体を離してしまうと、普段のように穏やかな顔を浮かべて「さて」と手を軽く体の前で叩き合わせる。もうこの話は一旦ここで終わりと、その仕草が言っていた。

「改めてもう一度聞くけれど、○○は、初めてはどんな体勢がいいかしら?」

「……あ、その……。やっぱり、純狐さんと向かい合って出来て、自分でも無理なく出来そうな、正常位がいいです」

 方や自分は、あれでよかったのだろうか、伝わっただろうか、などと考えていて返答が遅れてしまう。だが、自分ばかり引き摺っては悪いと持ち直して答えると、彼女は柔和に微笑んだ。

「それならよかったわ。私も、○○との初めては貴方の顔を見ながらしたかったから。そうね……、それなら○○はそのままで居て。私は後ろに倒れるから」

 そう言うと言葉通り純狐は後方へふわりと体を倒し、両足を左右に大きく開かせる。

「これなら、自分で入れるところも見えるでしょう? さあ、前に来て」

「はい……!」

 彼女に倣い、自分も知識でだけ知っている体勢を真似て、彼女の腰辺りに膝をついて座る。何度も細かく位置を微調整し、良さそうなところで陰茎の根本を持って膣口に亀頭の先端を宛がう。

 亀頭が秘部に触れる。ゴム越しでも分かる、溶けてしまいそうなほど熱い体温。落ち着いていた鼓動が再び高鳴るのを感じながら純狐の顔を伺うと、静かに口角を上げて小さく頷く。

「純狐さん、入れますよ……!」

 最後に大きく深呼吸をしてそう宣言し、腰をぐっと押し込んだ。

「あっ、ん、んっ……」

 弄っていた時はあんなに小さく見えた穴だったが、いざ肉棒を押し込めばその形に合わせて口を大きく広げ、抵抗なくそれを飲み込んでいく。

 彼女の膣内は柔らかくて熱い、そんなことは指で触れた時から分かっていたのに、実際に挿入してみると想像を遙かに上回っていた。

 内部を掻き分けて進む男根に秘洞はすぐさま愛液を湛えた膣壁を纏わりつかせ、柔肉で包み込んできゅうきゅうと締め付けて離さない。

 しかし、同時に肉ひだを蠢かせて更に深くへ侵入を誘い、蜜壺は潤滑油を大量に溢れさせてそれを少しでもスムーズにしようとする。僅かにでも動けば締め付けを緩めて動きを阻害しないのに、何も動かなければ吸い付いてひだを戦慄かせと、休みなく快楽を供給してくれる。

 まるで分身の侵入を歓迎するかのような膣内に全身を快感に震わせながら何とか突き進み、ようやく最奥の行き止まりまで貫く。すると、ちょうど純狐の体と自分の体がぶつかり、肉棒の根元までもが見えなくなる。

 陰茎から伝わる純狐の膣内の気持ちよさと、愛しい人と繋がり合えている喜びに打ち震えていると、眼前の彼女が口を開く。

「どうかしら、私の中は? ちゃんと気持ちよくなれてる?」

「滅茶苦茶気持ちいいです……! 熱くて、柔らかくて、締めてきて、二回も出したのにすぐにでも出してしまいそうで……」

「あら、我慢せずに射精してもいいのよ?」

「で、ですけど、出来れば、純狐さんにも気持ちよくなって欲しいんです……!」

 何もかもが初体験の癖に何を言っているんだと、既に絶え絶えじゃないかと自分でも思う。けれども、やっぱり自分だけでは情けないじゃないか。

 その思いは彼女にも伝わってくれているのか、彼女は優しく微笑んだ。

「それなら、もう少し頑張って貰おうかしら。○○、私の方へ体を」

 純狐はこちらに向けて、右手を中空に伸ばす。暴発してしまわないことに全力を注ぎつつ体を前傾に倒すと、彼女の白い指が胸をさらりと一度だけ撫でる。

「……純狐さん?」

「あなたの精神力をほんの僅か、人間にも無害なくらい微少だけど純化したわ。これでもう少しは我慢出来るはずよ。どう、頑張れる?」

 どうやら、彼女の能力で一時的に精神力の強化をしてくれたようだ。実際にどの程度変わったのかは実感が湧かないが、こう励まされると途端に出来る気がしてくる。我ながら単純だが、今はこの単純さを嬉しく思う。

「……はい、頑張れるだけ、頑張ってみます!」

「その意気よ。さ、次は動いてみて。慣れるまではゆっくりでいいわ。それと、体勢も○○が動きやすいようにね」

「はい、ありがとうございます」

 体を元の姿勢に戻してから、両手のちょうどいい置き場所を探す。純狐の脚の膝や根本近く、彼女の腰の横の布団の上など、純狐にくすくすと見守られつつ探り、最終的には彼女の腰のやや上、臍の下辺りを掴んで落ち着ける。そして、最後にもう一度深呼吸をしてから、動きますね、と声を掛けて腰を引いていく。

 膣内でじっと収まっていた肉棒が中から引き抜かれていくと、柔らかく締め付けていた肉ひだがちゅうちゅうと吸い付き、それを少しでも遅らせようと蠢動する。

 しかし、同時に大量の分泌液を蜜壺内に溢れさせて次の挿入のための潤滑油を健気に用意し、再び挿入されればスムーズに最奥まで導いてくれる。

 数回出し入れする頃にはもう膣内は完全に侵入する異物に馴染み、それを愛でるかの如く包み込んで優しく撫でてくれる。さながら陰茎の先端から根本まで全てに口付けを受けるような快感は今まで味わったことなんてある訳が無く、しっかりと気を保たねば励まされた甲斐もなくすぐさま射精してしまうだろう。

「あっ、はぁんっ、ん、あぁっ……」

 だけど、この前後運動で快楽を得ているのは自分だけではない。早さも力強さも全て到底未熟だろうが、しっかりと腰を入れることに注力することでなんとなく様になってきた前後運動によって、純狐の口からも甘く高い声が溢れて寝室に溶けていく。

 頬を朱色に染め、端正に整った顔を緩ませ、潤んだ赤い瞳で中空を朧気に見ながら、一定のリズムを刻むピストン運動に合わせて喘ぎ声を上げている。それは、彼女も快感に囚われている、何よりの証拠だった。

 普段の生活では見られない表情に、本当に純狐と交わっているんだ、こんな表情を浮かべさせているのは自分なんだと改めて実感が湧いてくる。

 達成感に浮付いた心地でそんな姿に見惚れていると、彼女も視線に気付いたのか、こちらを見て口元を綻ばせる。

 純狐がふとした時に見せる、暖かな優しい笑顔。それが何だか今は、見惚れていたのがバレてしまったかのようで妙に気恥ずかしくて、思わず視線を下げてしまう。

 すると、寝転んでいても大きな存在感を放つ乳房が稚拙なピストンに合わせたぷたぷと弾んでいる光景が目に飛び込んできて、思わず驚きに目を見開いて釘付けになってしまう。

「もう、私の方を見ていたと思ったら、やっぱり胸が気になるのね」

「い、いえ、そうじゃなくて、いや、そうなんですけど、ご、ごめんなさい」

 呆れた口振りで言われ慌てて謝罪すると、彼女はふふっと笑う。

「冗談よ。ほら、ここも自由に触ってもいいのよ」

 純狐は腰を掴んでいたこちらの右手に手を添えるとするりと絡め取って、手のひらを乳房に押し付ける。

 相変わらず柔らかな乳房は押されるままに指を沈ませ、肌全体が前よりも汗ばんでいることもあってより手に吸い付き、幸福な感触を返してくれる。

 自分からも乳肉を揉み、硬く尖った蕾を摘まみ、指先の腹で捏ねる。思うよりも少し強めでも大丈夫だと分かっているので臆せずに弄り、もう片方の乳房にも手を伸ばして積極的に求めていく。

「んっ、○○の手に触られるの、優しくてとても好きよ……。ほら、腰が止まってしまっているわよ?」

「は、はいっ」

「あぁっ、そうそう、上手っ、はあんっ、上手よっ」

 言われて、止まってしまっていた腰に再び力を入れて乳房と膣、両方の性感帯を責め始めると、彼女の漏れる声はより大きく、甘く姿を変える。

 責める性感帯が増えたから、なんて単純な話ではないと思うが、いい刺激になっているのは間違いないらしい。

 それならこっちはどうだろうかと、豊乳を揉みしだいていた手を他の性感帯、クリトリスに向かわせる。そして、指先で軽く圧してみると、彼女はびくんと体を跳ねさせて頭を仰け反らせる。

「あぁっ! くぅんっ、はあぁっ、あぁんっ!」

「純狐さん、ここも、気持ちいいですか?」

「ええっ! そこも、とても気持ちいいのっ! だから、もっと私に触れてっ、私に○○を感じさせてっ!」

 自発的な行いが功を奏したことを嬉しく思いながら、もっと純狐にも感じて欲しい、感じる姿を見たい一心で責める手を休めずに快感を与え続ける。

 陰核を指先で直に優しく撫で、乳房にもまた手を伸ばしてそちらも弄り、その間は当然腰を止めないまま突き上げまくる。

 テクニックも何もない我武者羅なだけの責め方ではあるが、突く度に甘ったるい嬌声が大きく上がり、膣肉もそれに伴って陰茎への愛撫をより熱のこもったものに変わっていく。

 熱い粘液を纏った膣壁が自らを貫く男根に絡み付き、しゃぶり、熱心に奉仕する。その感覚をもっと味わいたくなって、既に最奥に届いているのにも関わらず分身を更に奥まで差し込もうとして自然と体勢が前屈みになってしまう。

 しかし、こんな風にしては重い上に襲われているように感じるのでは姿勢を戻そうとすると、それを察したのか純狐はこちらに両手を伸ばして頬を撫でる。

「不安そうな顔をしているけど、大丈夫よ。私のことは気にせず、もっと圧し掛かって激しく、強く突いていいのよ。全部、受け止めてあげるから」

「……純狐さん、純狐さんっ……!」

 その言葉を聞いた途端、もう自分が抑えられなくなった。両手を彼女の両脇について覆い被さり、彼女の名前を何度も呼びながらひたすらに腰を振る。

「あぁっ、はぁんっ、○○っ、○○っ……!」

 長いストロークで蜜壷の全てを何度も荒く掻き回し、結合部から溢れ飛び散る愛液にも構わず、とろとろの柔肉を肉棒で擦り続ける。

 純狐が快感に表情を蕩けさせ、瞳を潤ませて喘ぎながら名前を呼ぶ行為を返してくれるさまを至近距離で覗き、愛欲に任せて思うままに貪ってやる。

 でも、まだ足りない。もっと彼女に、自分の感情を伝えたい。貴女が好きだと、愛しているんだと伝えたい。

 その時思い付いたのは、今日が初めてではないので多少の心得がある上、純狐が好きだと言ってくれた、あの行為だった。

「純狐さんっ、キスしてもいいですかっ?」

「勿論よ。また、たくさん愛してくれる?」

「はいっ……!」

 淫蕩な表情を崩して可愛らしく言った彼女の唇を、逸る気持ちを抑えずに、だけど出来る限り優しく唇を塞ぐ。

 腰は相変わらずひたすらに突きながら、だがそれとは反対に口付けは丁寧に、今日教えられたことを思い出しながら口内を愛撫する。息が切れるまで唇を重ね続け、息継ぎの合間に一度口を離すと、すぐに彼女の方からもキスをされ、口腔や舌への愛撫も含めてのお返しを受ける。お互いにそれを何度も繰り返し、時には短い口付けを頬や口元にも落として愛を伝え合う。

 そうして上でも下でも純狐と繋がり合い、いつまでも浸っていたくなる幸福感に包まれる。だが、自分の中の別の欲望がそうさせてはくれなかった。

「く、うっ……! 純狐さん、俺、もう、出そうですっ……!」

 挿入した時から蓄積し続けていた、純狐の力も借りて必死に抑え込み誤魔化していた射精欲がとうとう根を上げた。自分だけでなく彼女にも気持ちよくなって欲しい、その願いは幾らかは叶っているが、本当の意味で、つまり絶頂させることまでは出来ないかも知れない。

 結局、自分だけが満足して終わってしまうのか。自分の我が儘に、純狐からも協力して貰ったというのに。

「もう少しだけ、頑張って。私も、もうすぐだからっ……!」

「は、いっ……!」

 しかし、純狐のもうすぐという何よりも力の湧く励ましに歯を食い縛って下半身に力を込め、射精の時を一秒でも先延ばしにすることに注力する。陰嚢から大量に込み上げて来ている精液を鈴口を締めて無理矢理堰き止めるような錯覚を覚えながら、気力を振り絞って前後運動をし続ける。

 だが当然ながら、自らを責め立てる雄が射精を間近に迎えたことを感じ取った雌が、それを見逃すはずがない。純狐の膣内は一秒でも早く、一滴でも多くの精を絞り出そうと膣ひだを絡み付かせてくる。

「じゅ、純狐さんっ、もう、無理ですっ、限界です……っ!」

「ええっ、いいわっ! 出してっ! 私もイクから、○○も、一緒にっ……!」

「はいっ! 一緒、一緒に……っ!」

 限界をとうに超え、更に我慢に我慢を重ねたものが長続きする筈もなかった。だがその僅かな頑張りのお陰で引き出せた彼女の言葉に無我夢中で返事して、最後に大きく腰を引いて最奥まで一息に貫いた。

「ぐっ、あぁぁっ!」

「イクっ、あっ、はぁあぁぁっ……!」

 くぐもった叫び声を上げながら、全身を駆け巡る快感に思い切り身を任せて射精を開始する。

 押し止めていた精液が尿道を一気に押し広げて最奥に押し付けた鈴口から放出され、目前の胎内を目指して勢いよく、大量に吹き出していく。

 けれどもそれらは全てゴムの壁に阻まれ、コンドームの先端を膨らませるだけで役目を終えてしまい、本懐を遂げることはない。

 だが、そう頭で分かっていても射精が中断されることなんてなく、揃って絶頂を迎えた純狐の膣壁の収縮に合わせ、止めどなく精を吐き出し続けていた。

 その間、二人の間には言葉にならない言葉しか存在せず、ただただ強烈な絶頂に翻弄され続けていた。

「く、ふっ、ぅ……。はあっ、はぁっ、もう、出ません……」

「とてもたくさん、出したわね。何度も私の中で、びくびくと震えていたわ」

「はい……。自分でも、驚いてます……」

 そして、長い射精を終えた頃、未だ整わない荒い息を繰り返しながら余韻に浸る間もなく肉棒を引き抜いていく。本当はもう少し彼女の温もりを感じていたかったが、射精を終えた陰茎が萎えてコンドームが外れてしまっては意味がない。

 膣内からコンドームの先端部分が抜けると、そこに貯まった精液の重みが自分にのみ圧し掛かってくる。精液溜まりをぷくりと膨らませる白濁の量は、三回目の射精ながら思った以上に多かった。

 男根を取り出した膝立ちの姿勢のまま彼女と見つめ合い、息を整える。すると、純狐は穏やかな笑みを見せた後、体を起こそうとしたので慌てて再び前屈みになって彼女の背中に両手を回して、抱き抱えるようにしてその体を起こす。未だに全身が気怠いが、それを見せないことと、出来るだけ優しくすることに気を付けながら。

「ありがとう。○○のこうした気遣いが、とても嬉しいわ」

「これくらいはせめてと、何度も練習しましたので。頭の中で、ですけれど」

 純狐をしっかりと布団の上に座らせた後、次は自分の方の処理に入る。まだそれなりに陰茎が硬いうちにコンドームを外して、中身が漏れてしまわないようにしっかりと口を結んでおく。

 さて、こうなれば後は捨てるだけだが、その様子を見ていた純狐が「ねえ、○○」と口を開いた。

「なんですか?」

「それ、見せて貰ってもいいかしら?」

「え? 構いませんが……」

 特に断りもせず彼女に渡すと、手のひらに乗せて物珍しそうに眺め始める。縛り口を持って吊り上げてみたり、精液溜まりを指先で摘んでみたりして口々に感心の声を小さく上げていて、楽しげかつ興味津々なのが可愛らしい。

「こんなにたくさん出してくれるなんて……。これだと、一目でどれだけ射精したのか分かるのが面白いわね。改めて聞くけれど、初めてはどうだった?」

「滅茶苦茶良かったです。それに、純狐さんのお陰で何とか最後まで頑張ることが出来ました。ありがとうございます」

 もしも純狐の力で多少なりとも純化してもらっていなければ、あっさり射精して終わっていただろう。

 だが、それを聞いた彼女はふるふると首を横に振った。

「それは違うわ」

「え?」

「実は、純化なんてしていないもの。貴方は貴方だけの力で、ちゃんと私を絶頂まで導けたのよ」

 なんと、精神力を純化したというのは彼女の方便で、実際は何もしていなかったらしい。

 いや、何もしていないなんてことはない。純狐のあの励ましがあったからこそ、自分も頑張れたんだ。

「でも、ごめんなさい。○○に嘘をついてしまったわね」

「何を言うんですか。むしろ、ありがとうございます。俺に自信を付けさせるためにしてくれたんでしょう?」

 だから、謝罪を述べた彼女にお礼を返して、柔らかな金糸越しに純狐の頭を優しく撫でる。純狐に撫でられることの方が遥かに多いが、自分だってもっと彼女を撫でたいのだ。

「○○……」

「俺だけの力でも純狐さんも気持ちよくなってくれたのなら、それが何よりも嬉しいです……」

「きゃっ」

 そこまで言ったところで急に疲れがどっと押し寄せて来て、目の前の純狐の胸に倒れ込んでしまう。

 柔らかな豊乳にぷるんとたわんで包まれて助けられたものの、その体勢のまま体を起こすことも出来なかった。

「ご、ごめんなさい……。もう、全身に力が入らなくて……」

「いいのよ。よく頑張ったわね、疲れたでしょう? ゆっくりお休みなさい」

 純狐は穏やかな声色で言うと、左手でこちらの体を抱き締め、右手では頭から背中にかけて、ゆっくりと優しく撫でてくれる。彼女の言葉どおり寝かしつけるようにされ、心地よさと疲れに急速に瞼が重くなるが、寝てしまう前にどうしても言いたい言葉があった。

「……純、狐、さん!」

 力を振り絞って体を無理矢理起こし、純狐の両肩近くを掴んで何とか支え、目をぱちくりさせる彼女と向き合う。

 本当は、行為を終えたムードのまま、二人で静かに眠る前に言いたかったけれど。

「大好きです。ずっと、愛します、愛してます。ずっと、一緒に……」

 しかし、その全てを言い切る前に、言葉が出なくなってしまう。へろへろと体から力が抜けて体勢を崩すと、再び彼女に抱き抱えられる。

 結局、言えなかった。ずっと一緒に居て下さい、と。

 傍にいるはずの純狐の温かさと感触が徐々に希薄になっていくのを寂しく思いながら、とうとう意識を手放してしまった。

 

 

 

 彼が最後に漏らした言葉に思わず、熱い滴が溢れそうになるのを歯噛みして堪えた。ずっとなんて安直で青臭い言葉が、どれだけ私の心を揺さぶるのか、きっと彼はまだそこまで分かっていないのだろうけど。

 胸の中の彼からは静かな寝息が聞こえるけれど、万が一でも、眠っていることをいいことに弱いところを見せたくなかった。

 だけど、静かな寝息が聞こえるから、抵抗しないことをいいことに少しだけ抱き締める手に力を込めて、より彼の存在を大きく強く感じながら、静かに物思いに耽る。

 彼が言ってくれた、言葉。どうであれ、答えを見つける。

 私とでは起こり得ないからこそ、あんな気持ちはもう二度と味わわないで済むという安堵と、起こり得ないからこそ味わえない喜びを思い知らされたあの瞬間に掛けてくれた、あの言葉。

 もし、もしも。もしも、私でも叶うのであれば、私は、一体どうするのだろうか。

 

 

 

2.

 どこからか聞こえる鳥の鳴き声で目を覚ます。天井の木目が見える程度には、太陽の光で寝室は明るかった。

 無意識にのそりと体を起こして何度か瞬きし、頭を二三回掻く。ふと、自分の姿が下着のみの半裸なことに気付く。昨日はあのまま純狐に抱かれて眠ってしまったのだから、彼女が着せてくれたのだろう。体自体も汗や互いの体液やらで少なからず汚れていたはずなのに独特のべたつく嫌な感じがなく、それらも綺麗にしてくれたようだ。

 布団自体も行為の前に用意しておいた予備に変わっており、昨日使用したものは既に寝室にすらなく、今頃洗って干されているのだと思われる。

 そして、当然とも言うべきか隣に純狐の姿はない。既に朝の支度をしているのだろう。

 ならば自分も早く寝室を後にすべきなのだが、やはり考えるのは昨夜からこれまでのこと。

 結局、何から何まで、彼女にリードさせてしまった。一応、所々で自分が引っ張ったところもあるが、それらはあくまで自分のしたいことを押し通しただけの話だ。

 勿論、最初から自分がエスコートするだとか、上手く立ち回るだとか出来るなんて思っていない。だから、先導すると言ってくれた際に、お願いしますと言ったのだ。でも、せめてもう少しくらい、男らしいところを見せたかった。

 はあ、と大きく溜め息をついた時、寝室と廊下を繋ぐ襖が静かに開く。

「あら、おはよう。よく眠っていたわね」

 そこに現れたのは純狐その人だった。

 半裸の自分とは違い、彼女は既にいつも通りの黒い装束を纏っていて、自分よりもかなり早く起きたのだと想像がつく。

「朝ご飯の準備が出来たから起こしに来たのだけれど、ちょうどよかったわ。居間で待ってるわね」

 純狐の用件はそれだけだったらしい。寝室にも入らないまま去ろうとした彼女を、慌てて呼び止めた。

「あ、あのっ!」

「どうかした?」

「その、ごめんなさい。昨日は何も上手く出来なくて。それに、自分ばかり舞い上がってしまって」

「あら、そんなことはないわ。私にとっても、あなたの愛に溶かされてしまうと思ったくらい、非常に満ち足りていた時間だったわ」

 純狐は口元を袖で隠して、目を細めて微笑む。嘘はなさそうだけれど、気を使わせてしまったかと、マイナスの考えしか出来なかった。

 しかし、いつまでもうじうじしていては駄目だ。そう意気込んで、布団から立ち上がって彼女のもとまで歩を進めて、前のめり気味にその肩を掴む。

「純狐さん! 次はもっと上手く出来るように、もっと頑張ります! だから今日も……、じゃなくて明日……、でもなくて、また、近いうちに……」

 あの時のように再び勢いそのままに啖呵を切ったものの、いざ今日も、と言い出してみると昨日の今日でなんて味を占めて盛っていると思われないだろうか、だからと言って明日も、なんて考えてしどろもどろになってしまう。今更ではあるが、自分は勢いで押すのは向いていないのかも知れない。

「あら、近いうちだなんて……」

 そんな自分に彼女は驚いた表情を見せる。やはり焦りすぎていたか、なんて思っていると、純狐はすっと距離を詰めて、耳元に口を寄せてくる。

「私は、今すぐでも、いいのに?」

 そして、脳髄に直接囁くような仄かな吐息混じりのウィスパーボイスで言われ、思わずびくんと体が跳ねてしまう。

 純狐はそんな自分をよそに静かに耳元から顔を離すと、普段よく見せてくれる、優しげな笑顔を浮かべた。

「ふふ、今夜、期待しているわね? さ、朝ご飯が冷めてしまう前に、早く着替えてきてね?」

 最後にそう言い残すと静かに襖を閉じて、寝室から去っていく。

 思わず、溜め息が漏れる。もう彼女に心底惚れ込んでいると思っていたのに、まだまだ様々な魅力に虜にされてしまう。本当に、何から何まで敵わない、なんてことを考えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。