※この作品はR-18です。

花開く才能の鍵   作:MC RAT

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第4話 色々

「はぁっ!くっ!」

「おっと、よっ!ほいっ!」

 体育の時間に、私達はタレンテッドキーを用いた模擬戦を行う。

 私も刀を手にしてクラスメイトの女子と練習をしていた。

 相手が使っているのは二丁のサブマシンガンだ。本人曰く『スコーピオンっぽいよね』とのこと。悪いけど銃には詳しくない。

「とりゃあっ!」

 適度に間合いを取っていると、相手が銃の引き金を引いた。それと同じに私も刀を振るう。

 サブマシンガンが火を吹いて、高い音が鳴り響く。訓練用のキーを使っているので死にはしないが、痛いので当たりたくない。

 発射された何十発ものの光弾は、私が出現させた裂け目に吸い込まれていった。

 さらに裂け目は相手の右隣に出現した。そこから吸い込まれた光弾が吐き出される。

「わひゃあッ⁉︎」

 ある程度は予想していたようで、送り返した光弾は全て避けられた。でもある程度隙はできた。

 その隙をついて私は大きく踏み込んだ。刀を振るってトドメを刺そうとする。

 しかし相手が素早く背中を丸めて私の視界から姿を消した。

 慌ててその姿を目で追うが、こうなってしまうと………

「ほい、私の勝ちだね」

 私の真隣で声がした。こめかみには銃口が突きつけられている。

「はぁ………また負けかぁ」

 私は負けを認めて身体の力を抜いた。それを見て彼女も銃を下ろす。

「これで二勝一敗。これで今日の昼ごはん奢ってもらえるぜ!」

「おい、そんな事聞いてないよ」

 歩射《かちゆみ》 九十九(つくも)。高校に入ってからできた友達だ。

 クラスの中で一番背が低く、髪は短髪でぴょこんとアホ毛がある。身体も全体的にほっそりしていて、ボーイッシュな女子の典型みたいな見た目だ。

 いつも元気で明るくノリがいい。それ故のとっつきやすさが、彼女と仲良くなれた理由だろう。

「これでも戦い慣れてきたはずなんだけどなぁ」

「ふっふ〜ん、大刀石花もまだまだ隙だらけよのぉ」

「アンタ相手に隙のない人はいないっての」

 得意気に胸を張る歩射に返すと、私はその場に座り込んだ。あぁ、疲れた。

 歩射の能力を一言で言うなら『感覚探知』だ。

 相手のどの感覚がどんなものに向いて、今何をどれだけ感じているのかが一発で分かるそうだ。

 逆の言い方をすれば、相手の意識が向いていないところも分かるわけで。いわゆる隙が分かるのだ。

 オマケに小柄な体格を生かして素早く動き、隙をついてフルオートの光弾発射。

 隙のない歴戦の戦士からしたらなんてことのない能力かもしれないが、一学生からしたらかなり厄介な相手と言える。

「それにしても、すごい光景だよね。未だに目の前で見ても慣れないモンだ」

 歩射が模擬戦をしているみんなを見た。

 まぁ高校生がアイテムを持って超能力で戦うなんて、数年前じゃ考えられないような状況だ。

「あ、そういえばさ、あの人」

 体育かを見渡した歩射が、隅っこの方を手で示した。

 そこには模擬戦に参加出来ずに見学している海金砂が、体育座りで座っている。

 少しだけ視線が下に下がっていて、どこかをぼんやりと眺めている。その目にはみんなに対する羨ましさとか尊敬の念は感じられず、ただ無感情に見ているだけだ。

「えっと………名前なんて言うんだっけ?」

「海金砂。海金砂 瘧」

「そうなんだ。最近大刀石花と一緒にいるの見かけるけど、仲良かったんだね」

「え?あぁ、そうね………」

 仲良くなったというか、流れで一緒にいることが多くなったというか………

 まぁ一緒にいて落ち着くし、最近はよく話すようになった。仲良くなったと言ってもいいのだろうか。

 何せ私も友達が多い方では無いので、その辺の区切りはイマイチピンときていない。

「私あの人が大刀石花以外と話してるの見たことないんだよね。どうやって仲良くなったの?」

「そうだねぇ………色々あったんだよ」

「大雑把だなぁ、答えになってないぞー」

 自分でもそう思うけど、だからといって本当の事を話してしまえば歩射を心配させてしまうかもしれない。

「噂によるとタレンテッドキーが使えないから、イジメられてるらしいよ」

 どうやら歩射もそのくらいなら海金砂のことを知っているらしい。

「バカみたいな話だよなぁ」

「そうだね」

 歩射も私と同意見らしい。

 たしかに海金砂はタレンテッドキーを使えないから、一般人からしたら弱いのかもしれない。

 けどそれはイジメる理由にはならないし、何よりそれじゃあそっちはちゃんとキーを使えると言えるのかって話だ。

 仕組みすらまともに分かってないものを創意工夫無しで、言われた通りのことをしてるだけ。それが本当に『使える』と言えるのかどうか。

「けどさぁ、何でタレンテッドキーが使えないんだろうね」

 あんまり休みすぎると先生に怒られるので、立ち上がるとチラッと横目で海金砂を見て歩射は首を傾げた。

 本人からしたら大きなお世話かもしれないけど、私もそれは気になったことがある。

 とはいえ私達一般人からしたら、タレンテッドキーは使える仕組みすら分かってないような謎の武器なのだ。使えない要因なんていくら頭を捻っても出るわけがない。

「色々あるんじゃないかな」

「色々、ねぇ」

 歩射はぼんやりと呟きながら自分の銃を見た。

 けどそんなよく分からないものに身の安全を任せているのかと思うと、それはそれでゾッとする話だ。

「そういえばさ、最近いいカフェ見つけたんだ。放課後一緒に行ってみない?」

「放課後かぁ………今日は無理かも」

「何だよぅ。最近付き合い悪くて、私泣いちゃうよ?」

「こっちも色々あるんだよ」

「お前『色々』ばっかだな」

 

 

 

「海金砂、そろそろ帰る?」

「うん、行こうか」

 放課後になって大刀石花に声をかけられて、私は席から立ち上がるとスクールバッグを肩にかけた。

 あれから何となく私と大刀石花は一緒にいる事が多くなった。一緒にお弁当食べたり、一緒に帰ったりして。

 まぁよく周りで見かけるような女子同士がキャッキャしてるような感じではなく、適当につるんでるという感じだが。

 一応クラスメイトのお礼参り防止という名目で一緒にいるわけだが、今のところ特に被害は受けていない。

 それなら一緒にいなくてもいいんじゃないか、と言われそうだし私自身そうは思う。大刀石花もそれは分かってると思う。

 けどお互い波長のようなものが合ったのか、一緒にいてはのんびりとした時間を過ごしていた。

 実際のところ、私は大刀石花といる時間を楽しいと思っているのだろう。でなければこんなに長い間一緒にはいない。

 大刀石花が私をどう思っているのか。それは分からないし分かろうと思ったことも………無くはないけどけど、聞くことはしない。

 校門で待っていると大刀石花が自転車を引いてやってきた。それから私と並んで歩いていく。

「そういえば、大刀石花って空間転移できるんだよね?登下校もわざわざ自転車使わないで、キー使えば?」

「うーん、実際にそうしようと思ったことあるよ。でもこの力使いすぎると酔うんだよね。気分悪くなる」

「三半規管か肝臓弱いの?」

「いや、酒酔いは知らないけど、昔から車酔いしたことはないよ。というか空間の裂け目作ってから通るし、それ関係無いと思う。たぶん能力の副作用的なものじゃないかな?ある人にはあるって聞いた」

 そんなものなのだろうか。たしかに前に家に送ってもらった時は、私は何ともなかった。

「まぁそうでなくても学校でキーを使うのは、体育の時間以外原則禁止だからね」

「真面目だねぇ」

「もっと褒めてくれてもいいのよ」

 こういった単調な会話が心地よくて、私は大刀石花と一緒にいるのかもしれない。

 難しいを考えずに思った事をスッと言える。大刀石花もそれにぼんやりと返す。それが私には合っていた。

 雲が分厚くなり、空が曇ってきた。そろそろ分かれた方がよさそうだ。

 そう思った時だった。

 ガサッと近くの茂みから音が聞こえた気がした。反射的に振り返ると、茂みから人が飛び出してくる。

「オラアァァッ‼︎」

 飛び出してきた人影は真っ直ぐこっちに突っ込んできた。

「大刀石花!」

「え?きゃっ⁉︎」

 私はとりあえず大刀石花の腕を掴んで自分の方に引き寄せる。何とか突撃に巻き込まれずに済んだ。

「っとと!ちょっと、何事?」

「分からない」

 何とか体勢を立て直すと、改めて突撃してきた人に目を向ける。

 驚いたことに、そこにいたのは私の学校の制服を着た男子生徒だった。手にはタレンテッドキーが変形した短剣を握っている。

 この人、どこかで見たことがあるような………

「このぉッ!」

 考える余裕もなく、今度は曲がり角から別の男子生徒がメリケンサックを構えて突撃してきた。

「ちょ、海金砂こっち!」

 今度は大刀石花が動いて私の腕を引いた。スクールバッグからタレンテッドキーを取り出して起動させる。

 キーが刀へと変形するなり、素早く引き抜いて振るった。背後に現れた裂け目に飛び込むと、目の先にあったマンホールの上に転移していた。

 とにかく二人の男子生徒の攻撃は避けられたようだ。

 しかし喜ぶのも束の間、物陰からタレンテッドキーを握りしめた生徒達が六人ほど出てくる。

 彼らが殺気立ってるのが一目で分かった。その表情を見て、私は彼らが誰かを思い出す。

 この人達、この前私を虐めてきた人達だ。ついでに言うなら大刀石花がヘドロの中に転移させた人達でもある。

「うわぁ、このタイミングでかぁ………」

 大刀石花も誰か思い出したようで顔を引き攣らせる。

 予想通り放課後にお礼参りに来たようだ。一緒に行動して正解だった、ということだろう。

「おい、この前はよくも俺らを汚してくれたな」

「同じ目に、いや、それ以上に痛ぶってやるわ!」

 前に大刀石花にヘドロ塗れにされたのが余程気に入らなかったのか、全員武器を構えて私達を取り囲む。

 話し合いでの解決は………どう考えても無理だろう。

 予想していたこととはいえ、本当に大刀石花も巻き込むことになってしまうとは。

 私はともかく、大刀石花だけでも逃さないと。

 そう思ったが、私が逃がそうとする前に大刀石花がゆっくりと前に出る。

「大刀石花、何してるの!早く逃げて………!」

「あぁ、大丈夫大丈夫。私から離れないでよ」

 大人数に囲まれているというのに、大刀石花は特に慌てることはない。怒りに顔を歪ませる彼らと向かい合い淡々と話す。

「お願いですから、もう私達に関わらないでくれませんか。別に私からあなた達に何かするつもりはありませんから」

「うるせぇッ‼︎おい!囲んでボコッちまえ!」

 しかしそんな大刀石花の言葉も彼らには届かないようだ。武器を構えて突っ込んでくる。

「こうなるかぁ………それじゃ、行くよ海金砂」

 そう言うなり、大刀石花は私の手を握った。誰かに手を握られるなんて久しぶりすぎて、少しだけドキッとする。

 ただ待って欲しい。行くって、この状況でどこに行くつもりなんだろう。

 疑問に思って聞こうとするが、それより先に大刀石花が指を鳴らした。

 その瞬間、足元を支えていた地面がいきなり消えたように、私は真下に真っ逆さまに落ちた。目の前の景色が掻き消える。

「はっ?ひゃあぁぁッ⁉︎」

 落ちるはずのない所で落ちて、私は変な声で悲鳴が出てしまった。頰に当たる冷たい風が、私がまだ落ち続けていることを示している。

「ちょ、ちょっと、暴れないでって」

 大刀石花の落ち着いた声が聞こえて、パニックになっていた私の身体も僅かに冷静になる。

 次の瞬間、着地したように私の足は硬い何かの上に乗った。しかし暴れたせいでバランスを崩して、私は前に倒れた。

「よっ、おっと!海金砂大丈夫?」

 一方でちゃんと着地したらしい大刀石花は、私のことをちゃんと支えてくれた。

「えっ、ッ⁉︎うわぁッ⁉︎」

 間近に大刀石花の顔が近づいていて、私は思わず後ろに仰け反った。さすがに大刀石花もこれは支えられなかったようで、私は尻餅をついて転んだ。

「ッ‼︎」

「あっ、落ち着きなって。もう大丈夫だから」

 そう言われて、私は辺りを見渡した。さっきまでいた場所からかなり離れた場所、いつも通学の時に通る道だ。

 周りにはさっきまでいた生徒達はいなくなっていて、いるのは私の真上を飛んでるカラスくらいだ。

「さっきの場所からここに転移したの。足元にゲート開いたから落ちちゃったんだけど、怪我としてない?」

「え、あ、う、うん………」

 そういうことだったのか。

 たしかに、馬鹿正直に戦わなくても逃げればいいだけの話だよね。まぁ私の場合、それすらもできないんだけど。

「また、助けられちゃったね。ごめん」

「いいのいいの、予想はしてたことだしね」

「その………本当にごめん」

「もういいって。それより、いつまで道の上で座ってるの?ほら」

「え?あぁ………」

 大刀石花に手を差し伸べられて、私はようやく自分の状況を理解した。

 彼女の手を掴んで立ち上がると、スクールバッグを持ち直した。

「さてと、無駄な時間過ごしちゃったし、さっさと帰ろうか」

「そうだね」

 というわけで歩き出そうとした、その時。

「おっとと………」

 大刀石花がいきなりフラつき膝をついてしまった。

「大刀石花⁉︎どうしたの?」

 握っていた手に力をこめて大刀石花を抱き起こした。

 大刀石花はどこか疲れたようにぐったりとしていて、顔色も優れない。体調が良くないのは明らかだ。

 そこで私は、さっき大刀石花が言っていたことを思い出した。

「まさか、能力の副作用?」

「あぁ………六時間目の体育で能力使った後に、長距離の転移したのマズかったなぁ………」

 どうやら転移する距離に比例して副作用も大きくなるらしい。咄嗟のことで、慌てて長距離を転移したため一気に具合が悪くなったようだ。

「だ、大丈夫なの?」

「そんな心配そうな顔しないでよ。大丈夫、たまにあることだから」

 そうは言ってもこのまま歩かせたら、余計に体調を崩しそうだ。

 それに元はと言えば私のせいで能力を使わせることになってしまったわけだし、放っておくことはどうしても出来なかった。

「大刀石花、もうちょっとだけ歩ける?」

「え?ちょ、海金砂?」

 私は大刀石花に肩を貸すと立ち上がった。彼女のスクールバッグを持って歩き出す。

「私の家近いから、とりあえずそこでゆっくりしていってよ」

「いや、別に気にしなくてもいいのに………」 

「けど………」

 ここまで人のことを心配したのは初めてだ。

 でも、大刀石花は私のためにここまでしてくれたのだ。私だって出来る限りのことはしたい。

 そんな私の表情を見たのか、大刀石花は若干苦笑いしてから私に身体を預ける。

「それなら、ちょっとお邪魔しちゃおうかな」

 こうして私は大刀石花を連れて自宅へと向かっていった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 ヒョウ、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。
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