大刀石花と身体を重ねてしまった、その翌日
「はぁ………」
あんな事があって、昨日は変な時間に寝てしまった。おかげで倦怠感が抜けずぐったりだ。
そのクセ定期的に襲ってくるフラッシュバックに身体は反応してしまう。体力が減っていく一方だ。
正直学校に行く気力すら湧いてこなかったが、そこは学生の条件反射というべきなのだろう。自然と足は学校に向いていた。
私より遅れて教室に入ってきた大刀石花は、いつものように軽く手を振って挨拶すると席に座った。
「海金砂、おはよう」
「あ、う、うん………おはよう」
これまでと何も変わらない様子で挨拶してきた大刀石花に、私はしどろもどろになって返した。
どうやら一日経っても思い出す様子は無いようだ。
大刀石花が気まずそうにしない点ではありがたいと思うものの、自分だけが変に意識しているようになってしまって、何と声をかければいいのか分からない。
「昨日はありがとうね。おかげでだいぶ楽になったわ」
「えっ、あぁ………」
大刀石花の言葉に昨日のことが一気にフラッシュバックした。光景も感触も全てが頭の中を駆け巡り、その衝撃で身体がピシッと固まる。
「海金砂、どうかした?具合悪い?」
私の様子がおかしいと感じたのか、大刀石花が顔を覗いてくる。グッと距離が縮まり、ますます混乱が高まる。
「ッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎な、何でもないよ!」
「ほ、本当に?すごい顔赤いけど………」
「だ、大丈夫!大丈夫、だから………!」
これ以上近づいたら、それこそ具合が悪くなってしまいそうだ。
「あぁ、そう?ならいいけど」
若干不安そうではあったけど、無理に聞いても仕方ないと思ったのか、大刀石花は首を傾げつつ離れた。
もういっそのこと昨日のことを話してしまおうか………いや、それはやめるべきかな。確実に気まずくなるし、今の距離感を壊したくない。
アレはあくまで事故なんだし、もう蒸し返す必要は…………それで、いいのかな?
結局その日は一日モヤモヤとしたまま過ごして、そのまま帰ることとなった。
「お待たせ」
「あ、うん………」
大刀石花と校門で落ち合って学校を出た。
「あぁ………古文の小テストめんどくさかったなぁ。五限にテストは勘弁してほしいよね。眠くならない?」
「私は、あんまり………」
「いいなぁ。私は授業でもウトウトしちゃうから、静かなテストはすぐに寝ちゃうんだよねぇ」
大きなあくびをして大刀石花は自転車を引いている。
「また海金砂の家でぐっすり休もうかなぁ」
「ふぇっ!」
思わず大きな声が出てしまった。それから慌てて小声にして返す。
「い、いや………今日は、ちょっと………」
「あぁ、そう?それなら、また今度ね」
「う、うん………」
たぶん冗談のつもりなんだろうけど、こっちとしてはそれどころじゃない。顔を逸らして小声で頷く。
そんなこんなで歩きながら話していて、そろそろ別れる頃だ。
その時、いきなり目の前に何人かの学生が現れた。同じ学校の制服を着ているが、校章の色がバラバラだ。上級生もいる。
さらに後ろや横からも複数の学生が現れる。
よく見ると見たことのある顔がいた。初めて大刀石花と話した時に、私を痛めつけていた男女達だ。
でもあの時よりも確実に人数が多い。何ともイヤらしい笑みを浮かべて、友好的でないのは明らかだった。
「よぉ、久しぶりだなぁ」
「………何のようですか?」
大刀石花もそれはすぐに感じ取ったようだ。タレンテッドキーが入っているスクールバッグに手を入れた。
「この前は随分と世話になったからよぉ、お礼に可愛がりに来たぜぇ」
私達を取り囲む学生達全てがタレンテッドキーを取り出した。訓練用ではなく本物をだ。
背筋が震えて、額に冷や汗が浮かぶ。大刀石花の顔も強張っていて、身がすくんでいる。
これまでも複数人に痛めつけられたことはあったが、こんなに多いのは初めてだ。
そこで私は自分が油断しきっていたことに気づかされた。
万が一襲われても大刀石花の能力で対処できると考えていたが、まさかこれほどの人数を相手にすることになるとは。
学生達は一斉にキーを起動させた。彼らの手にアイテムが生成される。
「海金砂………こ、この人数はさすがに相手できない。逃げるよ」
「う、うん」
私も大刀石花の意見に賛成だ。というか戦闘力の無い私じゃ頷く以外に方法はない。
大刀石花の能力があればどこにでも逃げられるはずだ。人に助けを求めるしかない。
大刀石花がスクールバッグからキーを取り出して起動させようとした。
「起動させる前に、やっちまえ!」
しかしそれより前に取り囲んだ学生達が襲いかかってきた。
その内の一人が手にしたナイフを大刀石花に向かって投げた。ナイフが彼女の腕に刺さった。
私の目の前で大刀石花の腕から鮮血が散る。
「ッ⁉︎きゃあぁぁぁッ‼︎」
「大刀石花‼︎」
蹲った大刀石花に慌てて駆け寄るが、割って入ってきた女子が私を蹴り飛ばす。
「オラァッ!」
「ぐっ!」
思いっきり蹴られて、私は後退した。その隙に二人の男子生徒に腕を掴まれて拘束される。
私はもちろんのこと、大刀石花だってキーが使えなければただの女子高生だ。ガタイのいい男子からの拘束に抵抗できるはずもない。
その上で何人かが私たちに武器を振り下ろす。短剣が私の脚に刺さり、棍棒が大刀石花の腹を抉った。
「ぐあぁぁッ‼︎」
「がはッ‼︎」
それだけでは終わらず、私達は四方から斬られ、殴られ、刺され、痛めつけられた。
「ギャハハハッ!こっち寄越せよ!もっと、やっちまおうぜ!」
「おい、一応殺すなよ。面倒な事になるから」
「そしたらその辺の暴漢にやられたって事にすりゃいいだろ」
「おっ!名案じゃん!それじゃあもっとやっちゃおう!」
憂さ晴らしというよりも彼らは愉悦に浸っていた。笑い声をあげながら武器を振るう。
「このッ!オラッ!よくも俺らを、びしょ濡れにしやがったな!このクズが!」
「ぐっ!きゃッ!ぐあッ!」
やはり彼らの怒りは大刀石花に向いているのか、あの時の六人に囲まれて嬲られている。
「たち、せ………」
「おい、よそ見してんなよ!この無能が!」
「あ゛ぁぁぁぁぁッ‼︎」
大刀石花をたすけようとするが、その前に私を捕まえていた男子が炎を纏ったハンマーを私に押しつけた。
熱された金属が背中に押し当てられて、皮膚が爛れて突き刺すような痛みが襲ってくる。
制服が擦り切れ血まみれになるまで痛めつけると、彼らは私達を地面に叩きつけた。
「ぐっ!………か、海金砂………」
大刀石花が力のない声で私を呼びかける。口から血を吐いて、身体中に傷とあざができている。
私のせいだ。私のせいで、大刀石花がこんな目に………私なんかと、友達になってくれた人を、私が苦しめたんだ。
やっぱり私なんかが、誰かと関わる資格なんて………いや、存在する資格なんて無いんだ………
何の才能も無い私なんて、存在する価値なんてないんだ。このまま死んでしまえばいいのかもしれない。
「おい、コイツらどうする?この前の続きヤんのか?」
「やっぱいいや、こんな血まみれのヤツいらね」
「だったらさ、二度と俺らに歯向かえないように、この無能共の手足全部砕こうぜ」
「いいねぇ!おい、まずはそっちの女からだ」
私達を見下ろしている学生達は、大刀石花の方へと群がる。
助けなきゃ、でも私には何もできない。たった一人の友達を守る事すらできない。
「海金砂………」
すると大刀石花が私の手に触れた。意識がぼんやりしているのか、譫言のように呟く。
「笑顔………見せてよ………」
その小さな声は私の頭に響き渡り、身体を熱くした。
私の、笑顔………どうすれば………
顔を上げれば、目の前には大刀石花がいる。傷だらけになりながらも私を見てくれている。
彼女といれば、私も…………笑えるかもしれない。
そのためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。
身体に残る力を振り絞って、ポケットの中のタレンテッドキーを取り出した。
たとえ使えなくても………最後まで抗ってやる。
キーで円を描くと、差し込んで起動させた。
しかしキーは光になって、私の手元に集まるだけだ。
「ん?おい、そこの女、キーを起動させてるぞ」
「あ?ほっときなよ、どうせ何もできないただの無能だもん。ぺっ!」
私を見下ろして女子が唾をかけた。それから大刀石花の真上に斧を振り上げる。
「それじゃあ、せいぜい良い声で鳴いて、ねっ!」
大刀石花の腕に斧が振り下ろされた。もう、私には止められない。見ていられず、私は目を瞑った。
ダメだ、このままじゃ、何もできない………せめて、大刀石花の盾になれれば………
バチッ‼︎
その時、鳴り響いたのは肉を斬り裂く音ではなかった。
まるで静電気のように何かを弾く大きな音が、私の頭上で鳴り響く。
謎の音を確かめようと、私は目を開けた。
斬られたと思った大刀石花の腕はまだ繋がっている。目の前の光景は何も変わっていなかった。
いや、一つだけ違った。
私の手元にあったはずのキーの光が無くなっていた。
そして私達を斧から守るように、ドーム型のエネルギーバリアが私達を囲んでいる。
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