原作で親衛隊がいつ作られたとか書いてあったっけ(見落としてたらすみません)
セリフやオチに迷ったりモチベーションが上がらなかったりで完成に数ヶ月かかった。名前とか間違ってたらすみません。
長くなったので分割します。今回はエロ無しです。
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バトランティス帝国親衛隊本部の上層階部に設けられた展望場。そこからはゼルティスの街並みが良く見えるらしいのだが、使う隊員はあまりいない。態々こんな場所に来なくとも、戦艦を作れば景色の一つや二つ、眺めることができるからだ。
『…………』
そんな人気のない場所に、ガタイのいい1人の青年が石柵に体を任せながら、活気溢れる帝国民達や空を泳ぐ飛行船の列を眺めていた。飛行船には大胆にも大型のスクリーンらしきものが付けられており、そこには現皇帝のご活躍やら、現皇帝の娘であり時期皇帝となるであろう彼の主の幼き姿が映し出されている。
そんな映像に彼は気だるそうな眼を向け、直ぐに城下町へと視線を移した。
世界で一人しかいない男である彼は今日、偶然にもとある若い魔導騎士の奇行を阻止した。別に正義感から手が出たとかそういう訳ではない。ただ相手の女性が彼女からのアプローチを嫌がっていた、それが理由で腕を捩ったのだ。
そのせいで主から『めっ!』と頭を叩かれたのだが、そんなことで落ち込むようなタチではない。
実は地味に効いているのは秘密である。 だからこうして1人、展望場で気を落としていた。
『貴様……タイガといったな』
今頃嬢ちゃんはあの離宮でお腹を空かせていないか、なんてことを考えながらボーッと眺めていると、タイガは後ろから声をかけられた。
声からして女性──そもそもこの世界には彼を除いて女性しかいないので当たり前──のもので、即座にタイガは振り返り、声の主に目を向けた。
『お前、確か……えー、名前、なんていってたっけ』
『ゼルシオーネだ。相手の名を忘れるなど、無礼にも程がある』
『ああ、そうかい』
だからどうしたとでも言いたいようなタイガの態度に、ゼルシオーネは眉間を顰める。
彼女こそ、タイガに腕を捩られ、無様な姿を晒した隊員ゼルシオーネである。鮮やかな紫色の髪はバトランティスでも珍しい彼女の家系の特徴の一つでもあり、出るところが出ている体つきと豪勢な装飾がされた隊員服は、彼女の初々しく若々しい美貌をより一層美しく魅せている。
『で、何の用だ。何か言いに来たのか』
彼女の容姿などどうでもいいと云った表情で、タイガはだらんと柵に背中を任せ、鋭い目付きでゼルシオーネを睨む。猛獣のように暴れた戦い方をする彼に相応しいその獣の目、一般人なら思わず後退りしてしまうだろう。だがゼルシオーネは怯むことなく、寧ろ怒りを混じらせた見下す視線を向ける。
『何という無礼な態度、貴様は軍人としての礼儀も習っていないのか。
……所詮は貴族でも帝国出身者でもない蛮族……いや、女でもない貴様は、蛮族以下か。どうしてこんな者が征伐軍ではなく親衛隊に入隊できたのだ』
『お前、小言が長いぞ。用があるならはっきり言え』
タイガの態度にイラつきを見せながら、ゼルシオーネは口を開いた。
『貴様に決闘を申し込む。私が勝ったら今日のこと、跪いて詫びてもらおう』
『あ? 詫びろ?』
元はと言えばお前が魔導装甲の能力で悪さしようとしたんだろうがと、タイガはそんなセリフを心の中で吐いた。口に出さなかったのは、反論するのも阿呆らしいと判断したからだ。
『どうした、怖いのか? アイネス様のお気に入りが聞いて呆れるな』
『……いいぞ。その代わり、俺が勝ったらみっちり付き合ってもらうからな』
『ああ、いいとも。私のプライドにかけて、貴様を潰す』
煽るようにほくそ笑むゼルシオーネに、タイガは至近距離、数cmでキスするところまで彼女に顔を近づけ、睨みつけながら宣言した。
そして2人は火花を散らしつつ、少し距離をおきながら決闘場所へと向かい、展望場を後にした。
睨み合う2人の姿は龍と虎、漂う空気は犬と猿。恐らく、両者が仲良くなることは永遠にないだろう。
その後、散々煽ったゼルシオーネは顔面から吹き飛ばされ、約束通り青空の下で扱かれた。そして七日七晩寝込む羽目になり、結果的に酷かった女癖が微矯正されることになるのだが、それは別のお話。
尚、この件はゼルシオーネ本人からも『若気の至り』として黒歴史扱いされている。
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ゼルティス──全ての物が黒色の素材を用いて造られたバトランティスの帝都であり、昼間でも夜のような暗さを放つ漆黒の都市。
空でさんさんと輝く陽の光すらも跳ね返さず、全てを吸収してしまうほどのドス黒さ。ここまで黒いと夜とか本当に何も見えなくて大変ではないかと思われるかもしれないが、街には様々な色をした魔力の光が隅々まで行き渡っており、それがこの街を鮮やかに照らしているため心配はない。
そのゼルティスの大通りにある商店街。ここには食材を取り扱うスーパーからアクセサリーショップ、飲食店、服屋、武器屋、薬屋、便利屋、なんだかよく分からない怪しい匂いが漂うお店などが立ち並び、帝国民の日常生活を支える幅広いものが売られている。また、脇道に出ると多種多様なお姉ちゃん達が諸々してくれるエッチなお店が陳列している。
「あれって、ゼルシオーネ様?」
「ほんとだ。隣にいるのは……」
そんな商店街にて、買い物を楽しんでいる女性達の間にざわつきが生まれていた。
彼女達の視線の先では、紫髪の女性が食材を手に取ってじっくりと吟味していた。へそ出しスタイルの布面積の少ない服装は、鍛え抜かれかつ程よくついた女性特有の筋肉を露出させており、しかし下着は見えるか見えないかのギリギリのラインで隠れている。それが彼女の淫猥な色気をより引き立たせていた。
「ふむ、いい野菜だな」
帝国民からの視線を気にも止めないかのように女性──ゼルシオーネは店主に言った。
「何せこちらで激選したものを売っていますから。ゼルシオーネ様とタイガ様のお口にも合うかと」
「そうか、ではこれを貰おう。あと、それとそれと……その果物も1つ」
「かしこまりました」
店員はゼルシオーネが選んだ野菜を次々と掴み、慣れた手つきで袋の中へ包んでいく。
「タイガ、他に買うものはあるか?」
「あー、そうだな。んじゃ、これを頼む」
「はい」
彼女の後ろでじっくり見ていたタイガは、じゃがいものように丸いコロコロとした野菜を店員に手渡す。この八百屋で売られている野菜は、レムリアで栽培されている野菜と似ているものが多い。その一方で、見たことの無い色と形をした物も売られており、それがレムリアと異世界の食べ物の差異を表していた。
「お待たせしました」
「おう、サンキュー」
店員から袋を受け取ると、タイガは交換する形で店員に通貨を渡す。
「よし、次行くか」
「ああ」
店員が頭を下げる中、タイガとゼルシオーネは八百屋を後にし、周りからの視線を受けながら数件先の肉屋を目指す。
今日、ゼルシオーネとタイガは久々の休日を楽しんでいた。
というのも、ここ最近の親衛隊は難民の支援や各地方の反乱分子の対処と多忙な日々に追われており、特に隊長であるゼルシオーネはそれに加えて各部署の処理、レムリア関係等々で休む日など与えられていなかった。
タイガもタイガで、接続改装という女性と愛を育むことで魔力を生み出すという魔法の力に目覚めてしまったばかりに、毎日のように部下から生命エネルギーを搾り搾られ抜き取られの日々に忙殺されかけていた。
そんな2人の姿を見て『お主ら、たまには休むが良い』と皇帝陛下から直々に2日間の休暇命令が下ったのだ。そして、その直後にゼルシオーネは『この前の酒と今までのツケを支払え』と言って、手料理の材料の買い出しに行く予定だったタイガを連れて商店街にでかけることになった。
ちなみに、ゼルシオーネがいない今日と明日の隊長代理は、親衛隊一番隊隊長の剣聖ことハーキュラスが務めることになっており、彼女も泣きそうになりながら承諾している。今頃、巻き添えを喰らった二番隊隊長とともに渡された書類の山に絶句している頃だろう。
頑張れハーキュラス。
「あいつら、大丈夫なのか」
「彼女は親衛隊の中でも優秀だ、あの程度の山なら捌けるだろう。私も、いずれは彼女を次期親衛隊隊長に任命しようと考えている。彼女なら私とは違った形で皆を導いてくれるかもしれん。それに、メルクリアはハーキュラスのことをよく理解しているからな。補佐役なら適任だろう」
「辞めるのか?」
「あくまで次期隊長だ。
少なくとも、今の彼女に勝てる魔導騎士が親衛隊内から現れない限りはありえないだろう。
そうこうしているうちに、2人は目的地の肉屋に到着する。ここに売られているのはアトランティスの海水及び陸上に生息する動物の肉であり、レムリアのものと比べてもかなり異質なものが多い。
しかし食感は似たようなものがいくつかある。例えば、タイガの目の前にある大型のトカゲのような生物は、レムリアでいう鶏肉と同じ食感をしているらしい。
「さてと、どれにするか」
「そうだな……先ずはデカいやつ一塊でスープを作って、あっちの肉はステーキに使うか」
「できるだけ多めに買っておいた方が良いか」
「ああ、ラムザは結構食うからな。たく、大した胃袋だ」
タイガは目の前の食用の肉塊を手に掴み、ぐるりと動かしてじっくり吟味する。
「…………」
「どうした?」
「……いや、初めて食べさせられたお前の手料理の肉がそれだったから、ちょっと……うぇ」
「え? ……あー、あれが初めてか」
ゼルシオーネは顔を逸らし、吐きそうな青い顔をしながら昔の出来事を思い出す。
ゼルシオーネがタイガと最悪な出会いをしてから数週間が経ったその日のこと。何故かタイガと共に活動することになったゼルシオーネは、救援に向かった戦場先で怪我を負ったことがあった。
そこで看病を任された相棒のタイガの手料理を食べる機会があったのだが、その料理というのが、料理と呼ぶには料理に失礼と言われるほどの不味さで、ゼルシオーネも思わず『そこいらの虫を食べた方がマシだ』と言葉を吐いてしまう程だったのだ。オマケにニンニクによく似た臭いの強い野菜を混ぜてしまったこともあって、辺りは香ばしい激臭に包まれたらしい。
「悪かったって。あの頃は料理なんてまともに作ったこともなかったから、見様見真似にやっちまったんだ。でもあの頃に比べたらマシになっただろ?」
「ああ、ホント。良くここまでできるようになった。おかげで私の味覚は崩壊寸前だがな。そもそもどうやったらその肉の塊を炭にできる」
恨みを吐き散らすゼルシオーネからの視線に、タイガは苦笑で誤魔化す。
あの頃に比べて、人から美味いと言われるレベルになったのだから、タイガの料理の成長は著しいものだ。炊き出しはその賜物とも言える。その間食わされ続けたゼルシオーネからすれば堪ったものではない。
「よし、これにするか」
タイガは適当に肉を取ると店員に渡し、専用の袋とともに受け取る。この袋は魔力による保冷効果を有しており、長時間持ち歩いても肉は傷まない。
「次は?」
「えっと、次は味付け用の……」
2人は肉屋を後にし、その後もいくつかの食料品店へ足を運んだ。
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『何故だ……何故、私が貴様と』
『仕方ないだろ。お前、怪我してんだから』
『運んでくれと頼んだ覚えはない』
『へえへえ』
どこまでも荒野の広がるバトランティスの紛争地域。その真ん中を、親衛隊隊員であるタイガは、相棒のゼルシオーネの肩を担いで歩いていた。反乱軍からの隙をつかれた猛攻撃を食らったせいか、彼女は魔導装甲も体もボロボロである。タイガも彼女程ではないが、相当なダメージを負っていた。
『アイネス様は何を考えておられるのだ。よりにも寄って貴様と組ませるとは』
『さあな。嬢ちゃんも嬢ちゃんなりに考えがあるんだろ。俺は別に気にしてないけどな』
『私は気にする』
『じゃあ、嫌ですって言えば良かったじゃねえか』
『言えるか。アイネス様を気安く嬢ちゃん呼びする貴様とは違うんだ』
ゼルシオーネは少し子どもっぽく怒りを露わにする。そもそもこの2人がタッグを組むことになったのは、皇帝陛下の娘であり、何れは次期皇帝となるであろうアイネス・シンクラヴィアの指示によるものだった。アイネス自身はタイガとゼルシオーネの一連の事件とその後の二人の関係を周知しており、これは最早わざとなのではないかとゼルシオーネは訴えている。
『大体あの戦い方はなんだ。力任せに辺りを殴って。あれではいつか大事故に繋がる。無関係な民にもしものことがあったらどう責任を取るつもりだ。少しは親衛隊員としての自覚を持て』
眉をひそめて文句を垂れるゼルシオーネ。だがタイガは、そんな彼女の顔を意外と言いたいような目で見た。
『……』
『な、なんだその顔は。何が言いたい』
『いや、お前が他人のことを考えてるだなんて、少し意外だったから』
『……私も誇り高き親衛隊の1人だ。民の命を易く考えるなど、あるはずがないだろう』
『そうか』
タイガは納得するように頷く。
『……はは』
『何がおかしい』
『なんでもねえよ。よし、戻ったら俺が飯を作る』
『な、貴様の飯など要らん』
『遠慮するな。怪我人は大人しく寝てろ。と』
タイガは軽く笑いながらゼルシオーネの体をひょいと持ち上げると、そのまま両手で彼女の背中と脚を支える、所謂お姫様抱っこの姿勢で抱えた。
『痛っ、お、おい! 何をする!』
『ゼルの重さじゃこっちの方が楽なんだよ』
『気安く私の名を略すな!』
『はいはい、いいから寝てろ』
『寝れるか! ってこらっ! 何処を触っている!』
ぎゃあぎゃあと喚くゼルシオーネの声を聞き流しながら、タイガは味方のいるベースキャンプへと向かった。
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場所は変わって、食料品店が並ぶ通りを歩いた先にある大通り。ここには雑貨屋や衣服屋が多く並んでおり、女性向けのアクセサリーや夜の営み向けの際どい下着等々、様々な品物が売られている。衣服すらも際どいのは言うまでもない。
その中の店の1つに、タイガとゼルシオーネは足を運んでいた。目的は、タイガが世話をしている懲罰四剣へ渡すプレゼントの購入である。
彼らの目前の棚とテーブルには、宝石のように光り輝く鉱物が装飾された髪飾りや、幾何学な形をしたロケットを先に付けた首飾りなどが、人の上半身を真似て造られたマネキンに飾られていた。その横には、魔力の粒子で造られた値札が置かれている。ここだけでなく、店壁の至る所に魔力で形成された貼り紙らしきものが貼られていた。
「安物にしては、なかなか良いのが揃っているな」
ゼルシオーネはネックレスの先についた宝石を瞳に映しながら、じっくりと鑑定する。
日頃から様々な一流品に触れて生活している彼女からすれば、ここで売られているものは庶民に手の届きやすい、比較的安いものだと直ぐに見抜けてしまう。
「アクセサリーってどれも同じじゃないのか」
「違うに決まっているだろ。例えば、これなんかは一見高級そうに見えるが、鉱石自体はアトランティスのどの地方でも採取できる。だから比較的安い値段で売られているんだ。私の部屋にある物と比べても違うだろ?」
「……すまん、分からない」
「……仮にも十数年皇帝陛下に仕えている魔導騎士だろ。少しは物の価値というものを見分けられんのか」
ゼルシオーネは何度目になるか分からないため息を吐きながら頭を抱えた。
元は貴族出身かどうかも分からない浮浪物とはいえ、長年皇帝陛下の傍に仕え、ついでに自分と共にいる時間も多かったのもあって一流の物に触れてきたはずのタイガ。
しかし彼にそういった感性は養われておらず、高安関係なく、たとえ眉唾物であったとしても、良いと思ったものを良いと判断している。
別に彼の嗜好を否定するわけではないが、もう少し物を見る目というものを身につけて欲しい。
前に男という生き物はこういうものに疎いと聞いたことがあるが、あながち間違いではないのだろうと、ゼルシオーネは内心そう思った。
「それで、どうするつもりだ?」
「そうだな」
彼女の胸の内など知らずに、タイガは顎に指を当てながらアクセサリー1つ1つをじっくりと確認していく。
「クレイダのやつは、この前の接続改装で眼帯が1つダメになったって言ってたな。だからあいつには新しいやつを……これがいいな」
タイガは頭部型のマネキンに付けられていた眼帯を手に取る。クレイダが普段から身につけている眼帯とそんなに変わらない形をしているが、あて布部分には変わった模様が刺繍されており、所々に極小さな黒い宝石がついている。
「で、ラムザとルノーラは……アイツらは仲がいいから、お揃いのものを買っておくか」
次にタイガは、同じ種類の耳飾りを2つ手に取る。
縦に長い菱形のような形の小さな金属、その中心部分に赤色の宝石が、もう一方には翠色の宝石がついている。
「赤はラムザ、翠はルノーラに渡すか。あとは」
じっくり悩んだ末、次にタイガが手に取ったのは、汚れも異物もない、エルマの髪とおなじ純白な色をした宝石が装飾された指輪であった。
「ふむ、お前にしてはマシなものを選んだな」
「まあな。それじゃ、買ってくる」
タイガはゼルシオーネを置いて店奥に進んでいく。
「さて、彼奴らはどんな反応をするのやら」
──クレイダは恥ずかしがりながらも、なんのかんの云って着けるのは間違いない。
──ラムザは喜んでその場でつけるだろうし、横でモジモジするルノーラに『しょうがないなー』と言って代わりに着けてあげるだろう。
──エルマは…………甘すぎて想像するのも嫌になるから辞めておこう。
「ゼル」
各々の反応を妄想している途中、ゼルシオーネはタイガに声をかけられ、彼に顔を向けた。
「ん、もう買ったのか」
「おう。ほら」
タイガは購入したアクセサリーが入った袋を脇に抱え、ゼルシオーネに右手を差し出す。その手には、チェーン部分が黄金色の金属で造られたペンダントが握られている。ペンダントトップには、ゼルシオーネの髪と同じ紫色の宝石が付けられている。
突然の差し出しに、ゼルシオーネは呆気に取られた顔をした。
「なんだこれは」
「ゼルにやる。よく考えたらお前にプレゼントとかしたこと無かったし、何時も世話になってる礼だ」
「お前は、私にそんな安物を身につけろと言うのか」
「あれ、そうか。一応高くて良い奴を選んだつもりなんだが、いらないか」
「いや、いらないわけではない……やはり貰っておこう」
ゼルシオーネは少しひったくるようにタイガからペンダントを貰い、自身の首にかける。
「似合ってるぞ」
微笑むタイガに、ゼルシオーネは珍しくぷりっとした表情でそっぽを向く。その光景を店員が店の奥から微笑ましそうに覗き見していたことに、2人が気づくことはなかった。
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『タイガ、つぎはあっちのおはな!』
『了解!』
バトランティス帝国城内から離れた場所にある、とある山岳地帯の小さな山の頂上にある花畑。
程よい気候で様々な種類の花達が緑草とともに背を伸ばすここに、ゼルシオーネとタイガは第一皇女と第二皇女を連れて訪れていた。訪れたというよりは、第一皇女に連れて行けと命令されたのだが。
『アイネス様、本当によろしいのですか? もし皇帝陛下に知られたら』
『いいのよ、ゼル。向こうには貴方とタイガを連れて外出するって一言伝えてあるから』
『しかし……皇女が2人とも外出するというのは流石に』
『分かっているわ。一応は騒ぐでしょうね』
『一応?』
疑問符を浮かべるゼルシオーネに、アイネスは花の香りを楽しみながら答える。
『だって皇女が2人ともいなくなったのに、流石に何も言わないというのは可笑しいでしょ?』
『はぁ……?』
『心配いらないわ。大怪我をしない限りは向こうもいつものかくれんぼと言って、外出なんか知らん顔で許してくれるわ。大怪我をしない限りは、ね?』
子供っぽい笑顔のアイネスからの説明に、ゼルシオーネは苦笑しながら肩を落とす。
つまり、ここへやって来たことは皇帝も周知しており、怪我さえしなければお咎めなし。だがもし怪我をすれば、自分達が処罰されてしまうと云うことなのだ。
下手をすれば自分自身の名誉も危うい、なんとも理不尽な任務に巻き込まれたのだろうか。しかし、裏を返せばそうならないという絶対的な信頼を寄せられているとも受け取れる。おそらくだが。
『ほら、そんな落ち込んだ顔をしないで。貴方も花を摘むのを手伝って』
『……承知しました』
アイネスに言われるまま、ゼルシオーネも花を摘んでいく。鮮やかな血の色をした赤い花から、汚れを知らない純白な白い花、空のように青い花など、この花畑には様々な花が咲いている。
『はい、ゼル』
幾つか積んでいるところで、アイネスは紫の花を結んで創った花冠をゼルシオーネの頭にぽんと置く。
『あ、アイネス様。私にこのようなものは』
『そんな自分を卑下しないで。よく似合っているわよ』
微笑むアイネスに、ゼルシオーネは少々恥ずかしがりながら頭を下げる。
『ねえさまー!』
花畑の向こうから、グレイスがドレスを揺らしながらアイネスのもとへ走ってきた。手には、白と黄色の種類の違う花を結んで造られた花冠を持っている。その後ろからタイガが歩いてついてきており、彼の頭にも花冠がはめられていた。
『グレイス、それは?』
『タイガといっしょにあつめたの! タイガったらあつめるのはとくいなのに、むすぶのはダメダメなんです』
『め、面目無い』
『もう。はい、ねえさま』
グレイスは満面の笑みで手作りの花冠を渡す。タイガのことをとやかく言っていたが、グレイスの造った花冠も所々が千切れかけており、お世辞にも良い出来とは言い難いものだった。だが、アイネスはそれ以上にグレイスからのプレゼントに心から嬉しく思い、彼女からそれを受け取ると、頭部にはめて見せた。
『随分と下手くそな花冠ね』
『へ、へたくそ……?』
『うぐ……で、でもまぁ、悪くはないわ。ありがとう、グレイス』
『ほ、ほんと?』
グレイスは落ち込んだ表情から一変して、ぱあっと明るい笑顔をアイネスに向けた。
『良かったな、お嬢』
『うん!』
『よし、次はあっちの花を取りに行きましょうか!』
タイガはグレイスを肩車で持ち上げると、再び花畑の中へと走っていく。
『あいつは……こんな状況だというのに、どうして笑っていられるんだ』
『いいのよ、あのくらい能天気な方が。それに、初めて会った頃に比べれば、タイガはよく笑うようになったわ』
『そうなのですか?』
首を傾げるゼルシオーネに、アイネスはタイガと初めて会った時のことを話し始める。
今から大分前。彼はバトランティス帝国内の領土を彷徨っていた所を帝国に拾われた、というよりは捕獲された。衣服も身につけず、記憶もなかった彼は初め、荒ぶるような目つきで周囲を威嚇し、他人に触れさせまいという獣のような覇気を放っていた。
そもそも『男』というこの世界に居ないはずの得体の知れない生物に対してはバトランティス帝国全員が無知に等しく、貴族達からは即刻処刑してコアを抜き取れとの声も上がっていた。しかし、見たことのない魔導装甲を持った、そもそも存在自体が特殊で貴重な彼をそう簡単に処刑して捨て置くなど、そんな勿体ないことをして良いのかという意見も少なくはなく、当時は皇帝も頭を悩ませていた。
そんな中、まだ幼かったアイネスとグレイスは彼を庇い、自分達の召使いとして城内に住まわせたのだ。
それから年月を経て、彼は帝国軍へと入隊した。
『同じ年頃の子どもなんて城の中にはいなかったし、グレイスにとってもいい遊び相手が見つかって良かったわ』
『アイネス様……』
『まあ、いちいちねえさまー! あそぼー! って言われるのが鬱陶しかったから、ちょうど良かったわ』
アイネスはまたもや意地悪そうな言葉を吐く。だがその裏にはグレイスへの愛情が混じっており、ゼルシオーネも気づいている。
『……ねえゼル』
『なんでしょうか?』
『前から聞きたかったんだけど……ゼルって……もしかして、タイガのこと……好きなの?』
アイネスからの質問にゼルシオーネはぽかんとし、直ぐに困ったような顔をする。
『そのような事があるはずがございません。第一、アイネス様も私とタイガの関係はご存知でしょう?』
『そうね。初っ端から魔導装甲で悪さをしようとしたゼルをタイガが止めて、それで逆ギレした貴方が喧嘩を吹っ掛けた挙句、殴り飛ばされて泣かされたってことぐらいは知ってるわ。私も分かってて貴方とタイガを組ませたもの』
やはりですか、とゼルシオーネはため息を吐いた。あの一戦でタイガと組まされて以来、何かと周りから彼の面倒ごとを押し付けられるようになったゼルシオーネ。発端は彼に喧嘩を吹っかけた自身にあるとはいえ、せめて一言、アイネスに文句を言いたいと考えていた。
『けど、最近は仲良くやれてるらしいじゃない』
『奴の扱いに少し慣れただけです』
『そんなこと言って。あなた達、意外とお似合いだと思うけど? 将来はバトランティス1のベストカップル、なんて呼ぼれたりして』
『有り得ません。私が愛するのは女性のみです』
『そう、残念』
キッパリと言い切るゼルシオーネに、アイネスは少し残念そうに花びらを指で弄る。
『(そう、私があいつなんかに靡くなど……ありえない)』
ゼルシオーネは何かを孕んだ瞳で、遠くでグレイスとともに駆け回るタイガを見つめた。
彼のせいで散々な目にあっているというのに、思いを寄せるなどあるはずがないのだ。
…………そして、これが4人で花畑を訪れた最初で最後の日となった。
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また場所は変わって、商店街から外れた場所にある広場に2人は訪れていた。他の場所と同じく黒色で包まれた広場には、多色な魔力の色が走っている。
その中央に付近にある長い黒ベンチに、タイガとゼルシオーネは腰を下ろしていた。右手には、売店で購入したレムリアのケバブに酷似した肉をパン擬きに挟んだ食べ物を、左手にはプラスチックに近い素材で作られたコップを持っている。
このケバブ擬きはタイガも絶賛するほどの美味さで、もしレムリアの人間があの店を訪れることがあれば、その美味な香りと肉汁に涎を垂らし、胃を鳴らすに違いないだろう…………そのような事は今後もあるはずがないと思うが。
「美味いか?」
「まずまずだ。不味くはない」
「だろ。あの店にはよく行くんだが、ときどき店主がこうやってサービスでジュースをくれるんだ。ラムザも俺たちのとこに来たばっかの頃は、あそこの飯をよく食ってたからな。今も時どき顔を出してるらしいぞ」
タイガはガブリと、ゼルシオーネは小さくパクリと食らいつく。庶民の味とはいえ、その味は親衛隊のゼルシオーネの舌も満足させたようだ。
周りには帝国民が歩いており、時折珍しく並ぶ大物2人に視線を向けていた。だが2人は視線など気にすることなく、肉とジュースを胃へ流す。
「にしても、お前と2人きりで外食するのも、結構久しぶりだな」
「ああ」
懲罰四剣は言わずもがな、ヴァルデやラグルス、ハーキュラス、メルクリアなど、タイガはたまに親衛隊員を連れて外食に出かけている。だが、ゼルシオーネと『2人っきり』というのはここ最近はなかった。
「(2人で外食したのは、数ヶ月ぶりだろうか)」
最後に行ったのは、確か新入隊員の歓迎会か何かの流れで2人で行ったような。
そんなことを考えていると、ゼルシオーネは肉屋の時と同じく、またもやある記憶を蘇らせてしまい、嫌そうに顔を歪ませる。
それは2人が出会ってからかなりの日数が経ったある夜、ゼルシオーネはタイガと2人で街の居酒屋で飲み明かしたことがあった。今となっては酒豪なタイガだが、当時は酒に対してあまり飲み慣れておらず、下戸と間違われるほどであった。
その帰り、吐きそうな青い顔をしたタイガをゼルシオーネは抱えて帰っていたのだが
『おい、しっかりしろ!』
『ああ、悪い……酒とか慣れてなくて……』
『ならなんで馬鹿みたいに飲んだ!』
『じゃんじゃん注がれてつい』
『貴様は馬鹿か!』
『馬鹿は嬢ちゃんから言われなれてる……うぶっ』
『お、おい……よせ』
『うぇ…………おろろろろろっ!』
『うっ、貴様、良くも……私の…………うぶっ!?』
と、こんな感じにタイガはゼルシオーネの目の前で思いっきり虹を吐き出し、そのせいでゼルシオーネも貰い虹を吐いてしまい、その場を虹の海に変えてしまったのだ。
「私にあんな大恥をかかせたのは、後にも先にもお前だけだ」
「いや、あれはだな……」
「……忘れたとは言わせんぞ」
「はい、よく覚えてます」
冷たい視線を向けるゼルシオーネに、タイガは思わず頭を下げる。
ちなみに、この件は2人だけの極秘中の極秘として扱われている。もし他人に漏らせば彼の命はないだろう。
「…………」
ただし、立ち聞きされた場合は別である。
背後の気配に気づいたゼルシオーネとタイガが振り向くと、一人の女性が堂々とした態度で立っていた。
全身露出度の高い服装……ではなく、キッチリとした衣服を身に纏っている。
顔を合わせた瞬間、眼鏡をかけた女性は口角を上げて口を開いた。
「はぁいタイガさん、そしてゼルシオーネ隊長。お久しぶりです。て言っても、数日しか経っていませんか」
「お前……」
「なんだ、マリスか」
ゼルシオーネが渋い顔をする横で、タイガとマリスは親しい知り合いのように挨拶を交わす。
彼女の名はマリス、バトランティス帝国宣伝局の職員であり、大体の面白いイベントや番組は彼女が関わっている。
そして彼女は元征伐軍の兵士でもあり、タイガとゼルシオーネとは過去に出会って以来の知り合いである。その関係はまあまあ続いており、2人とは仕事でよく顔を合わせていた。
「今日も撮影か?」
「ええ、ちょうど向こうのお店で。何でも遠方の街から逃げてきた超一流の占い師がここで商売を始めたとか」
「へー、そうなのか……お、そういえば前に言ってたあれ、上手くいってんのか?」
「うーん、まあまあかしら。いい子は沢山いるんだけど……イマイチパッとしないのよねぇ……花がないと言うか、可愛いんだけど、グッと心を掴むここっていうインパクトがないのよ」
マリスは困ったように片手を支え、もう片方の手で頬杖をつく。そして頬を指先でとんとんと叩きながらタイガに視線を向けた。
「やっぱり、ここは個性豊かな懲罰四剣の皆さんに活躍してもらったら、こちらとしても嬉しいんだけど」
「またその話か。何度も言うが、あいつらはそういうのはやりたがらないんだ」
タイガは至近距離まで近付いたマリスの顔を片手で抑える。
マリスは前々からタイガに懲罰四剣の4人をアイドルとして活躍させて貰えないかと迫っていた。このお誘いだけでももう数回目である。何故そこまでアイドルプロデュースをやりたいのかはタイガにも、彼から相談されていたゼルシオーネにも分からない。
だがやるとしても、エルマはそういったことに興味が無く、クレイダもやる気はない。ルノーラに至っては恥ずかしがり屋でコロッセオの死神、到底ステージに立つことなど出来ないだろう。何のかんの云って楽しみそうなのはラムザくらいである。
「残念、是非ともプロデュースしたいと思ったのに」
「悪いな。他をあたってくれ」
「はぁ、この際レムリアでもいいからいい子と出会えないものかしら」
残念そうにするマリスに、タイガは苦笑いで謝罪する。
「おい、マリス」
呼ばれたマリスは顔を90度回転させる。その先には、至近距離から睨みを利かしたゼルシオーネの鋭い蛇眼が彼女を捉えていた。
「貴様……今の話、聞いていたのか?」
「話って?」
「…………しらを切るつもりか?」
マリスはいつの間にか自身の横に移動した怒顔のゼルシオーネ相手に、後退りせずに笑顔で応える。
「そんな怖い顔をなさらないでください。あたしはなんにも聞いていません。ただ休憩時間にフラーっと立ち寄ったところに丁度お2人がいたものですから、ご挨拶をと思って」
「……嘘なら、分かっているな?」
「はい」
ゼルシオーネはマリスから離れると、再びベンチに腰を下ろし、勢いよく脚を組んだ。
「それじゃ、あたしはこれで」
「おう、頑張れよ」
歩きながら手を振るマリスに、タイガも片手を上げて別れを告げる。彼女の姿が見えなくなったところで、タイガはゼルシオーネの方を振り返った。
「……大丈夫だ、あいつは何も聞いてないって言ってただろ?」
「どうだか」
「あー……いや、あいつも執拗いな。どうしてアイドルをやりたがるんだか。プロパガンダの練習かなんかか?」
「あいつの考えていることなどどうでもいい」
ゼルシオーネは八つ当たりするように、ケバブ擬きにガブリとかぶりつく。
しかし、懲罰四剣の四人がアイドル活動……バトランティスでも何気に人気な彼女達なら、いずれ現れるであろう
「やるとしても、雰囲気的に女神ではなく死神だろうな」
ゼルシオーネはボソッと呟いた。
「ん? なんだ?」
突然の通信にタイガは目の前にフローティングウインドウを浮かばせ、通信相手と会話をする。
「ああ、俺だ…………おお、そうか……分かった。取りに行く」
一言二言話すと、ウインドウを閉じ、残ったケバブ擬きを口へと詰め込み、酒で流し込んだ。
「あいつらか?」
「いや、俺の知り合いからだ。注文してた物が出来たって」
「注文?」
なんのことだとゼルシオーネが首を傾げるなか、タイガは立ち上がり、軽く背を伸ばした。
「ゼルも来るか? まあまあ面白いものが見れるぞ」
「……ああ、行くとしよう」
ケバブ擬きを食べながら、ゼルシオーネは素っ気なく答えた。
──────────────────
『…………』
鼻を覆いたくなるほどの鉄臭い血の匂いが立ち込み、怪我人たちのうめき声が至る所から響くここは、前線で戦う兵士や巻き込まれた一般市民が担ぎ込まれたベースキャンプ。
その内部の1番奥の右端に置かれたベッド横で、タイガは椅子に座ってじっとしていた。目の前には、応急処置で身体中に包帯が巻かれた幼い少女が、今にもこと切れそうにヒューヒューと息をしている。
『………………タイガ……様』
『お、気づいたか』
少女がゆっくりと片目を開けると、タイガは精一杯の作り笑いを浮かべた。
『…………みんな……は?』
『ああ、みんな無事だ。戦争も無事に終わった、今は別の場所に避難してるぞ』
『そう……良かった…………』
タイガの言葉に、少女は苦しみながらも嬉しそうに微笑んだ。
『悪かったな、もう少し早く駆けつけてれば、お前に怪我させずに済んだのに』
『…………大……丈夫……?』
『大丈夫だ…………そんなことより、みんなお前に会いたがってるぞ。早く飯にしようって』
『うん…………』
『だからよ、お前も頑張って怪我を直せ』
『……じゃあ、その時は…………』
『ああ、俺の作った飯を食わせてやる。約束だ』
『…………うん……………………やく…………そく』
少女は安心するかのように笑い、大きく一呼吸する。そして空気を全て吐くと、ゆっくりと瞳を閉じた。
タイガは目を開くことのない彼女の表情をじっと見続ける。
『…………』
『タイガさん』
いつまでも少女を見つめるタイガに、横で見ていた征伐軍のマリスは暗い声色で声をかける。
『お前の仲間は無事か?』
『はい、大怪我は負っていますが何とか』
『そうか』
タイガはマリスの方に振り向かないまま頷き、深いため息を吐く。
『…………すまん……外の空気、吸ってくる』
『……はい』
タイガは立ち上がると、急ぎ足でその場を立ち去り、テントの入口を潜って外の闇へと消えていった。
そんな彼の背中を、入口の外から一連の流れを見ていた彼の戦友ゼルシオーネは、声をかけることもせず、心配そうに見つめていた。
『…………』
『……あの子、タイガさんとは数日前に知り合ったそうです』
『……マリス』
入口からマリスが顔を出すと、ゼルシオーネと同じく、暗闇に消えた彼の背を見つめた。
『家族ぐるみで色々と世話になったそうで……』
『…………他の家族は?』
ゼルシオーネの質問に、マリスは頭を横に振る。
『……唯一、彼女だけは何とか助け出したそうです。けれど……』
『…………』
『……最後くらい、安心してほしかったんだと思います』
『…………そうか』
マリスは伝え終わると、テントの中へと引っ込み、負傷者の手当てに戻った。
しばらくの沈黙の後、ゼルシオーネは組んでいた腕を解き、タイガの消えていった暗闇へと歩いていく。
ベースキャンプからの明かりが消えかける距離、その先にある森の中は空からの光も許さないほど黒い。ゼルティスのように魔力が走っているわけでも無いため、その暗さは本物である。
しかしタイガは見つからず、ゼルシオーネは枝をかき分け、さらに奥へと進んで行った、
そしてベースキャンプからだいぶ離れた場所に、暗闇で動く影が映った。
その人影は2本の脚でその場に留まり、腕を組むこともせず、ただ顔を上げて夜空を見上げている。
暗い森の中は全ての生き物が眠ったかのように静寂に包まれ、聞こえてくるのは、人が啜り泣く声だけであった。
『…………タイガ』
ゼルシオーネはその場に留まり、悲しい瞳で彼の背中を見続けた。
────猛獣と恐れられているあいつも、昔は裏でよく泣いていた。
────他国との小競り合いに民を巻き込んでしまった時も、災害に襲われた街の住民を助けられず、目の前で死なせてしまった時も。
────だからあいつは、一般市民の犠牲を出さない戦い方を考えた。あんなに荒々しい戦い方とは裏腹に。
────そしていつの間にか泣くことも減っていった。が、あの時は、流石に堪えきれなかったんだろう。
────あいつがレムリア人に情をかけるのも、おそらく……。
────ああ、そうだ。あの時も、あいつは泣いていた。
────前皇帝がお隠れになられ、アイネス様が即位されて、その直後に失踪したあの日。あいつはアイネス様の部屋で泣き崩れるグレイス様を必死に慰めていた。
『ねえさまぁ……う、うぅぅ、うわぁぁぁん!』
『泣くな、お嬢』
『うぅ……だって、ねえさまが……ねえさまがぁ』
『だからっていつまでも泣き虫のままじゃ、あの世で嬢ちゃんが怒るぞ?』
『ぐすっ……ねえさまは、しんでなんかないもん……ぜったい、かえってくるもん……かってにころすな、バカ』
『なら、嬢ちゃんが帰ってきた時に怒られないためにも、泣き虫を卒業するか?』
『……うん』
────そう言ってグレイス様を励ましたあいつは、あのお方が眠るまで付き添っていた。
『…………』
────そして、自分の部屋に戻って早々、アイネス様を守れなかったことを悔やんで一人で泣き喚いた。
────飼い主を失った獣のような鳴き声を上げていた。
────私が見ているとも知らずに、長い時間、ずっと。
『……タイガ』
『なんだ、見てたのか』
『見えてしまったが正しい。戸締りぐらい確認しておけ』
『……恥ずかしいな』
『安心しろ、聞いていたのは私だけだ。グレイス様にも黙っておく』
『……すまない』
『……ひとつ言っておく。いつまでも悲しみに浸っている場合ではない。アイネス様亡き今、時期皇帝はグレイス様が即位されるのは確実だ。そうなれば、周りに良からぬことを考える下賎な輩が沸いてくるだろう。
お前は親衛隊として、あのお方とこの国の民を守れ。私も全力を尽くそう』
『……ああ、分かってる……ありがとよ、相棒』
────相棒……か。
────お前の面倒をみれる者など、この世界で私くらいしかいないだろうに。
────────────────
「……で、これが例のものか?」
「おう」
バトランティス帝国の郊外、ゼルティスを囲む3つの城壁の最外壁の外にある荒野の中で、タイガとゼルシオーネは目の前の黒い機械仕掛けのマシーンに見入っていた。
帝都と同じ黒い素材で作られたブラックメタルボディ。前半身部分は先端が鋭利に尖った装甲に包まれ、例えるなら、竜騎兵ことドラグリエの竜の頭部の上顎を引き伸ばしてそのまま取り付けたような形をしている。
対する後ろ半身部分は、羽根付きことアルバトロスの翼部分が後方に向かって生えるように伸びており、その下にジェットらしき噴射口が左右にそれぞれ付いている。
「ふむ、お前にこういう趣味があったとはな」
「向こうに行った時にあれに出会っちまってな。俺も欲しいと思って、こいつを造ってもらったんだ」
タイガはマシーンの座席部分をトントンと軽く叩く。
このマシーンは、タイガがレムリアに顔を出した際に、道路の脇に放置されていた『バイク』をもとに、魔導兵器に詳しい技術者に造らせたものである。
偶然出会ったそのバイクは、汚れながらも元の持ち主が大切にしていたのが分かる程に手入れが施されており、タイガも思わず真似してみたくなったのだ。
ちなみにこのことは懲罰四剣には内緒であり、もしバレれば『こんなことに魔力を使って、タイガ様ばっかりずるい』と文句の嵐を受けることだろう。
「しかし、これは……」
喉から言葉が出かけたところでゼルシオーネは口を閉じる。
このマシーン、タイガからすれば彼なりにかっこよくデザインして製造させたつもりなのだろう。しかしゼルシオーネからすれば、まるで魔導兵器の残骸を叩いて伸ばして適当にくっつけたようにしか見えなかった。
「まあ、こういうのもありなのだろう」
ゼルシオーネは指先で後ろ半身の羽根部分を謎るように撫でる。見た目の醜悪さとは裏腹に、黒いボディの表面はスベスベとしている。
「試しにひとっ走りするか」
タイガは座席の手すり部分に手をかけると、蓋のようにぱかりと開け、中の収納スペースへ荷物を詰め込んでいく。
「これも魔力で動くのか?」
「ハンドルから運転主の魔力を伝える仕組みらしい」
タイガは座席に跨り、左右のハンドルを握りしめる。その瞬間、ハンドルから真紅色の光の筋が走りだし、漆黒のボディに鮮やかなレッドラインを引き始めた。醜悪な残骸の塊から一変して、マシーンは血管が浮きでた禍々しい獣型の魔導兵器へと変貌した。
「ほら」
「ん?」
タイガが親指で後部座席を指す。ゼルシオーネは怪訝そうに首を傾げた。
「ゼルも早く乗れよ」
「な、私にこれに乗れというのか?」
「乗るからついてきたんじゃないのか?」
「いや、別に乗るとは言っていないが」
乗るということは、必然的にタイガの後ろに座ることになる。それはつまり、自身の肌に触れるのを許すということになるのだ。それに経験上、このあとはろくでもないことに巻き込まれるとわかっている。
ゼルシオーネは手で前髪を掬うようにかきあげながら鼻息を漏らし、しばらく悩んだ末、彼の後ろに空いたスペースに跨った。
「かなり速いらしいからな、しっかり掴まってろよ」
「ああ……本当に大丈夫なのか、これ」
エンジンが音を鳴らす中、ゼルシオーネはタイガの腰辺りに手を伸ばし、そのまま彼の背中から腕を回して、お腹辺りで組んで抱きつく。
「よし」
タイガが両ハンドルを握りしめてグリップを回した瞬間、後部の噴射口が真っ赤に燃え上がり、やがて大量の魔力が真紅の炎となって勢いよく吐き出した。
その勢いは凄まじく、マシーンは一瞬にして数十メートル先へと進んでいた。高速でタイヤが回転すると同時に荒野に激しい砂埃が舞う。ゼルシオーネも思わず振り落とされそうになるのを、タイガにしがみついて踏ん張る。
「こいつはすげぇ。魔導装甲で飛ぶのとはわけが違う。風も気持ちいいなぁ、はははっ!」
「お、おいっ! 少し荒っぽくないか!」
「ああ、初めて運転するからな」
「なっ、お前ぇぇ!」
「安心しろ。俺でも扱えるように調整されてるから、壊れない限りは平気だ」
ゼルシオーネのことなど気にしないと言わんばかりにタイガは笑う。その笑顔は獣のように鋭いものでも、恋に頑固な朴念仁でも、エルマに惚気けて鼻の下を伸ばした阿呆でもない。まるで自分のことを初めてゼルと呼んだ時と同じように無邪気なものであった。
その笑顔にゼルシオーネは思わず怒り顔を緩める。
「(……こんなにはしゃぐこいつを見たのは、いつ以来だろうか)」
最近は懲罰四剣の面倒や占領地での活動などで、一段と上官らしさが増してきたタイガ。そんな彼がこのような一面を見せたのは、実に数年ぶりかもしれない。
「…………全く」
呆れたように笑うと、ゼルシオーネはさらに体を密着させ、彼の背中に自身の豊乳を押し付ける。他の隊員と比べても大きな丸みを持ったそれは、タイガの背中で平たく潰れて広がった。
「変わらんな、お前は」
タイガに聞こえない声で呟くと、ゼルシオーネは目を閉じ、長い紫髪を風に任せて靡かせた。
帝都ゼルティスの最外壁が遥か遠くに消え始め、辺りが荒地へと変わっていく。しかし、2人を乗せたマシーンは止まることなく、その先へと走り去っていった。
────なあ、タイガ。
────今のお前は、私や懲罰四剣に囲まれて…………幸せか?
エロは次回です。投稿まで少し日が空きそうです。