※この作品はR-18です。

おちんちんプレート   作:Rオウ

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第16話 社会見学授業

 涼しいというよりは少し肌寒いと感じる早朝6時45分。

 太陽はとっくに昇っているけど、山の中の集落だから朝の光は山肌に注がれて緑の反射光が目に眩しい。

 

 いつもと違う時間の登校風景に好奇心を刺激されながら蓮ヶ集(はずがつどい)中学校の校門をくぐると、もうみんなとっくに校庭に揃って僕を待っていた。

 

「あれ? もしかしなくても僕が一番最後?」

 

「そうだよ、かっちゃん遅ーい!」

 

 己紗(みさ)が校庭で飛び跳ねながら僕に手を振っている。

 

「集合は7時だから遅くはないんだけどね」

 

 己紗の隣に立っている花胡(かこ)先生が苦笑混じりに僕をフォローした。

 

 並んで立っている天子(みこ)ちゃんや一枝(かずえ)先輩、捺那(なな)先輩たちとも「おはよう」と挨拶を交わしていく。

 江莉夏(えりか)さんと祐里佳(ゆりか)さんはすごく眠そうにしてて、二人揃って同じタイミングで欠伸を繰り返してた。

 

 一枝先輩や己紗と昨日の卓球の試合について話ながら待っていると、学校の校門に白いワゴン車が到着した。

 ワゴン車の側面には黒い書道体で『田野山牧場』と大きく書かれている。

 白と黒のカラーがなんだか牛っぽい。

 

「お迎えが来たようね。みんな、お世話になるんだからちゃんと挨拶してね?」

 

「はいっ!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おはようございますっ!」

 

 車から降りて校庭に歩いて入ってきた女の人に、一列に並んで一斉に挨拶をした。

 朝方の冷えた校庭の空気がビリビリと震えて、こっちに向かってきてる女の人がちょっと驚いてる。

 

「おはようございます。やっぱり皆さん若いから元気ですね。田野山牧場の田野(たの)真理子(まりこ)です。今日一日よろしくお願いします。あ、一枝ちゃん、久しぶり」

 

「ご無沙汰してます、真理子さん」

 

 一枝先輩がペコリと会釈した。

 へー、知り合いなのか。

 

「蓮ヶ集中学校教員の石塚です。本日はお忙しい中、牧場の社会科見学を引き受けて頂きありがとうございます」

 

「あぁ、石塚先生。お気になさらず。若い人に牧場を見てもらうのはこちらも良い刺激になりますし大歓迎です。それに……」

 

 田野さんが僕をちらっと見た。

 

「本当に男子がいるんですね。この光景が夢(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)なんて、ここの卒業生(OG)として感動モノですよ。ははは」

 

 そう言って田野さんは破顔した。

 笑いながらも背筋がピンと伸びて筋が通っていて、すごく姿勢がいい。身体全体が引き締まっているのは多分、牧場仕事のせいなのかな。

 首筋も腕もよく陽に焼けていて、まくった袖から見える筋肉はまるで男性みたいだ。

 

 ……20代後半くらいかな?

 

 まとまりの悪そうな長い髪を首の後ろで乱暴にまとめてひっつめ髪にしてるけど、なんか独特の美しさがある。

 僕的には容姿に気を使ってないあたりがむしろプロっぽくて好感度が高い。

 決して、田野さんのおっぱいが花胡先生より大きいから高感度が高いわけではない。

 

 ……しかしすっごいな。引き締まった体にメロンのようなおっぱいがくっついてるとあんな風にツナギを持ち上げるのか。

 腰もぎゅっと細くて、ぶるんぶるんと。

 

 不意に一枝先輩が僕の方を見たので、自然に目を逸らす。

 僕の視線は気づかれてないはず。

 

「さぁ! 皆さん車に乗ってください。1時間弱くらいで付きますから、質問があるなら車の中でお聞きしますよ」

 

 田野さんが両手をパンパンと打ち鳴らして、車へ乗り込むように僕達に促している。

 動きがキビキビしてそれでいて豪快な感じがなんだか太陽のような雰囲気だ。

 

「ほらみんな。車は10人乗りだから後ろから詰めて乗りなさい。そうね、3年から順番に乗って行って」

 

「はーい」

 

 一番後部の席には江莉夏さんと祐里佳さんと捺那先輩が座って、中央の座席には一枝先輩と僕と己紗が並んで座った。前の座席には花胡先生と天子ちゃんが座り、全員がシートベルトを締めた。

 

 白のワゴン車はそれからすぐに出発した。

 

 

 

「いやー急かして悪いね。急がないと朝の搾乳を見れなくなっちゃうからさ」

 

 運転席に座る田野さんが、申し訳無さそうに僕たちに話しかけた。

 白のワゴン車は村の東西を走る幹線道路に出ると、西に向かってスピードを上げる。

 

「質問はもうちょっと待ってね? この先に検問があるからさ。それを超えてからにしよう」

 

 山道に入ると田野さんが言ったように検問所があった。

 矢印の描かれた三角形のボードが地面に置かれて、奥の方にパトカーが何台か停車している。

 

 ……先日、父さんと僕が買い出しに出かけた時は村の東側の道路で検問してたけど、西側の方でも検問してるのか。

 違うか。場所を移動してるだけなのかな?

 

 田野さんが車のスピードを落として徐行し始めると、警棒を持った女性警察官が道路に出てきて止まるように指示してきた。

 車を止めて田野さんが運転席の窓から運転免許証を提示すると、女性警察官は免許証を見ながら手に持ったバインダーに何か書き込んでいる。

 

「これを」

 

 花胡先生がカバンから用紙の挟まったバインダーを取り出して、田野さんに渡した。

 ちらっと見た感じ、僕たち生徒のリストっぽい。

 

 女性警察官がそのバインダーを受け取ると、乗車している生徒と用紙を照合でもしているのか、やたら僕の方に視線を向けてきたけど、やっぱり女子生徒ばっかりの中に男子生徒一人というのは目立つのかな?

 

 とはいえ、止められた時間はそれほどでもなかった。

 

「ご協力ありがとうございました!」

 

 という声を受けながら田野さんがワゴン車を出発させる。

 

 

「……さぁ。検問も通過したし、質問の時間だ。何か聞きたいことはあるかな? 何でも良いよ、気軽に聞いて」

 

 バックミラーで僕たちをちらっと見た田野さんは笑顔を浮かべている。

 質問されるのが嬉しいのだろうか?

 

「はい! 石神天子です。牧場に牛さんはどれくらいいるんですか?」

 

「そうだねぇ、ウチは乳牛が60頭いて、育成牛が今は32頭いるから全部で92頭かな」

 

「わぁ、牛さん多いんですね」

 

「昔はこの半分くらいだったんだけどね。酪農を止める知り合いから牛を引き取って頭数増えちゃってね」

 

「牧場の広さはどれくらいあるんですか?」

 

「広さかぁ〜。うーん60ha(ヘクタール)くらいかな」

 

 僕も聞いてみよう。

 

「砠和志です。乳牛って普段何食べるんですか? やっぱり草ですか?」

 

「そうだね、日中は放牧地に生えてる牧草とか山芝の葉を食べるんだけど、乳牛としてはそれだけじゃ栄養が足りないからね。トウモロコシとか豆とか麦なんかを加工した濃厚飼料ってのを食べさせてる」

 

「トウモロコシ?」

 

 牛ってトウモロコシなんか食べたっけ?

 いや馬が人参とかリンゴ食べるんだし、別におかしくないのか?

 

 僕の不思議そうな声を聞いて、横に座ってる一枝先輩がなんだか得意げに解説を始めた。

 

「そうだよ、うちが作ってるトウモロコシも家畜の飼料用が一番多いからね。田野さんの牧場にも納めてるんだ」

 

 ああ、なるほど。

 一枝先輩と田野さんが知り合いなのはそれが理由か。

 

「そうだねぇ、牛は草を食べてそれを4つある胃の中で微生物を使って発酵させてるのは知ってるかな? 1日10時間くらいかけて発酵させた草を反芻して歯で磨り潰して、それで分解された繊維質やその微生物を吸収するんだけど、実はそれだけだと沢山の牛乳を搾れないんだよ」

 

「へー」

 

「まあ経済動物だからね。牧草だけじゃなくて飼料用のトウモロコシなんかをサイレージ……は、分かんないか、えっとつまり乳酸発酵……もっと分かりやすい言葉で……そうだ、漬物だ」

 

「漬物?」

 

「おしんことかぬか漬とか漬物も乳酸発酵させてるし、うんうん、似てる似てる」

 

 田野さんが自分の例えに自分でウケて、車を運転しながら笑ってる。

 

「そういや、牛って原種はオーラックスって言うんだけど、他の哺乳類というか草食獣押しのけて大繁殖してたんだけど何故か分かるかい?」

 

「いや、分かんないです」

 

「牛の4つの胃を使った発酵と栄養吸収の仕組みが優れてたから繁殖したんだよなぁ。ヤギとかヒツジなんかも同じ反芻動物だし、家畜化された歴史とか調べるとこれがまた面白いんだよ」

 

 

 だんだんと雑談みたいになっていく雰囲気の中、田野さんがユーモアを交えながら酪農について語っていく。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 山道を結構な速度で飛ばし続けて、山の峰の急カーブを右に曲がったところで牧場が目に入った。

 

「あ、みんなにも見えたかな? あれがウチの牧場です。ようこそ田野山牧場へ」

 

 おぉ……、すごい。

 

 山が明るい緑に覆われていた。

 所々に点在する林のような部分以外はすべて見渡す限り草の海に覆われてる。

 それが山頂から麓の方まで拡がっているんだ。

 

「うわぁ、すっごい」

 

 車の左側の窓にみんなが視線を向けた。

 山が牧場になってるんだ。

 

 麓に何棟も建っているのが牛舎だろうか?

 壁は明るい褐色とか橙のような色で、屋根は緑色に塗られている。

 当たり前だけど、すごく雰囲気があるな。

 

「あ、ほら! 牛があの建物から出て山の方に歩いていってるよ!?」

 

 隣の己紗が叫んで指さした方向を見ると、ほんとに何頭かの牛がゆっくりと山の方に向かって歩いてる。

 

「おっと、急がないと朝の搾乳を見逃しちゃうかな」

 

 車のスピードが上がって、山の頂上からは少し下ったところにある門を通過して、建物の前に停車した。

 

「牛さんっ♪ 牛さんっ♫」

 

 車のドアを開けて天子ちゃんがぴょんと飛び降りた。

 後を追って花胡先生、僕、己紗が車から降りて、先輩たちも続いて降りてくる。

 

 田野さんが車から最後に降りると、みんなに透明なビニール製の合羽と長靴を手渡していく。

 

「みんな運動靴を長靴に履き替えて、ビニールの防護服を着用してね」

 

「「はーい」」

 

 車の中で事前に説明を受けていたけど、ようするに糞でジャージを汚さないためのものだ。

 

「ではこれから牛舎の中に案内しますが約束してもらいたいことが一つ」

 

 田野さんが指を一つ立てて、真面目な顔で僕たちに告げた。

 

「牛舎の中にいる牛は人に慣れてはいますが、元々繊細な動物です。なので牛の近くで大きな声を出したり、牛の前で荒っぽい動きはしないようにしてください」

 

「「はい」」

 

「ちなみに乳牛は体重が500kgはありますからね? 牛の方で人の足を踏まないように気を使ってくれますが、万が一、足でもふまれたら骨が砕けると思ってください」

 

「え!? は、はい……」

 

 ……いきなり怖いんだけど。

 僕だけじゃなく、みんな自分の足元を見ている。多分踏まれた時のことを考えてるんだろう。

 

「それでは、まずは朝の搾乳の状況を見てもらいましょうか」

 

 田野さんが先導して建物の中に入って行き、僕たちも後に続く。

 中に入った瞬間、濃厚な香りが鼻を突く。

 

 予想はしてたけど、かなり臭い。

 だけどどう表現したものか、人間のウンコの匂いとはちょっと傾向が違うのな。

 やっぱり食べてるものが違うからか?

 

 こんなの実際に牛舎の中に入らなきゃ分からなかったことだ。

 内心、新しい発見にワクワクしながら僕は足を進めた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 柵のようなものに囲まれた場所に白に黒の斑模様の牛が立った状態で搾乳されていた。

 

「うわ、大きいんだなぁ……」

 

 想像していた以上に牛って大きかった。

 四つん這いなのに、牛の首が、目の位置が田野さんの目とほぼ同じ位置にあるんだ。

 

 パシュン! パシュン! パシュン! パシュン!

 

「この音って何?」

 

 牛のおっぱいの部分に金属の丸い筒が4つぶら下がって、音が鳴る度に乳房と金属の筒が揺れている。

 金属の筒に繋がってる透明のホースの内部を白いミルクが流れているので牛のおっぱいが搾られているのは分かる。

 

「これは搾乳機(ミルカー)と言ってね。金属製の乳頭カップを乳牛の乳頭に被せてポンプで空気を抜いているんだ。その空気が抜ける音だね」

 

「空気?」

 

「仔牛が母牛の乳を吸う時は、舌を伸ばして乳頭を咥えて圧迫した状態で吸って負圧にするんだよ。あ、負圧って分かるかな?」

 

「分かります」

 

「乳頭カップの中の空気を抜くと内部のゴム素材がきゅっと母牛の乳頭を押さえるように動いて、仔牛が乳頭を吸う動きを再現して牛のミルクが噴き出してくるんだよ」

 

「へー」

 

 透明のホースの中を牛乳が結構なスピードで溢れかえってどんどん流れていく。

 正直こんな勢いで牛乳を搾っているなんて想像もしていなかった。

 

「これってどれくらいの量を搾れるんですか?」

 

「1日2回、朝と夕方搾乳してけど、そうだな……平均すると1日1頭あたり30Lくらいかな」

 

「さ、30L!?」

 

 名作劇場とかのアニメじゃないけど、こう……指できゅっと握れば桶にぴゅっと出るのをひたすら繰り返すような、なんというかもっとのどかな雰囲気かと思ってたけど、ぜんぜん違う。

 

「あっ! 牛のおっぱいが萎んできたような!?」

 

 最初パツンパツンに張っていた牛のおっぱいが、よく見れば小さくなってきてた。

 それに透明のホースを流れる牛乳の量が減ってきてる。

 

 側で控えて搾乳の様子を監視していた牧場の人が、タイミングを図りながら乳頭カップを一つずつ外していく。

 

「あれ、なんで一つずつ外していくんですか?」

 

 疑問に思ったので聞いてみた。

 

「4つの乳房に溜まってるミルクの量も、乳頭から搾って出てくるミルクの量も個々に違うからね。おっぱいに空っぽになった乳頭を搾り続けたら炎症を起こしちゃうから、搾り終えた乳頭からは速やかに乳頭カップを外さなきゃいけないんだよ。だから搾乳の様子を見ながら一頭一頭丁寧に搾ってるんだ」

 

 あーそっか。

 よく考えれば当たり前か。

 

 やがて搾乳を終えた乳牛が牧場の人に引かれて牛舎の外へ出ていった。

 そして次の乳牛がやってきたのを見て田野さんがにっこり笑う。

 

「さて、じゃあみんなで実際にやってみようか?」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あれ? コレってお湯?」

 

 田野さんから手渡されたバケツには水とタオルが入っていた。

 布を手に取ると妙に温かかった。

 

「お湯じゃなくて温めた消毒薬なんだ。仔牛の口の中の温度に温めてあるんだよ」

 

 ああ、なるほど。

 

「ではお手本をやってみせるからよく見ておくように」

 

 そう言うと、田野さんは消毒薬を含んだタオルで乳牛の乳房と乳頭をタオルで丁寧に拭き始めた。

 特に乳頭の部分を包み込むように、もしくは指で握るようにして拭くのを繰り返している。

 

「田野さん、そんなに何度も拭く必要ってあるんですか?」

 

 同じところを何度も繰り返し拭き過ぎな気がしたので聞いてみた。

 

「これは刺激も兼ねてるんだ。乳牛は乳頭を仔牛に吸い付かれて数十秒たつと、オキシトシンっていうホルモンが分泌されるんだ。でそのオキシトシンがおっぱいまでやってくると、ミルクが乳頭の根本の乳槽に集まってくる。それでようやくミルクが搾れるようになるんだよ」

 

「へー」

 

「はい、みんな同じようにやってみて」

 

 田野さんが移動したので僕と捺那先輩や己紗がタオルを使っておっぱいと乳頭を拭いていく。

 手のひらにちょうどいい感じに収まるサイズだ。柔らかくて温かくて、牛のおっぱいなんか触るの初めてなのになんか既視感があるな?

 

 なんだっけ?

 この丁度いい太さと長さと感触、どっかで……

 

「これって、さ? ……いや、なんでもない」

 

 捺那先輩が何か言いかけて黙り込んだ。なぜか顔が赤くなってる。

 

 僕も、親指を一回り大きくしたくらいの乳頭をタオルで丁寧に拭いていく。

 一通りやったあたりで一枝先輩にタオルを渡して場所を空ける。

 

 一枝先輩って捺那先輩と二人セットになると、普段はもっとお喋りするのに無言のまま、乳頭をタオルで擦って顔を赤くしている。

 後ろに立っていた花胡先生を振り返ると、花胡先生まで顔を赤らめていた。

 

 僕が怪訝そうに見たら目をそらすし。

 

「オキシトシンの効果があるのは5分間くらいだから、次は手早く検乳します」

 

 消毒薬で拭き終えた乳頭を田野さんが手袋をした手で握ると、牛乳がびゅっと噴き出した。

 それをコップで受け止めるとワインのテイスティングのように、コップをくるくると回しながら何か確認している。

 

「ん、問題ないので搾乳していきます」

 

 田野さんが金属製の搾乳カップを乳頭に取り付けていくと、再び搾乳が開始された。

 乳牛は搾乳されながらバケツの中の飼料を美味しそうにモリモリ食べている。

 

「なんか妙に甘い匂いがしますけど、あの餌ってなんですか?」

 

「あれはパイナップルの粕さ。パイン粕って言うんだけど、搾乳場に来るとアレが食べられるって乳牛に覚えさせてるから、割と喜んでミルクを搾られに来るんだよ」

 

「へー」

 

 たしかになんかすごくがっついて食べてる。

 

「さて、じゃあ次は搾ったミルクがどこへ行くのか見せてあげよう」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 田野さんに案内されて牛舎の隣の建物に入った。

 長靴と防護服はもう脱いで回収されている。

 

「搾乳されたミルクは、配管を通ってこの牛乳受け容器(ミルクレシーバージャー)を経由してバルクタンクに貯められるんだ」

 

 金属製の銀色に光る大きなタンクが部屋の中央に鎮座して、デジタルパネルで温度が表示されていた。

 

「そしてこのタンクですぐに冷やされるんだ。なぜ冷やすかは分かるかい?」

 

「えっと細菌の繁殖を防ぐため?」

 

「正解。よく勉強してるね。搾ったばかりの生乳(ミルク)は牛の体温と同じ39℃だから、そのままだと細菌がすごく繁殖しやすいんだよ」

 

 隣で聞いていた己紗が納得したように頷いている。

 

「冷蔵庫に入れるのと同じなんですね」

 

「ほぼ同じだね。でも温かいスープとかフライパンで作った料理をそのまま冷蔵庫に入れたら、冷えるまで結構時間がかかるだろう?」

 

「あー、そうですね」

 

「なので内部で撹拌しながらできるだけ短い時間で冷やすように決められてるんだ。具体的には1時間以内に10℃、次の1時間で4℃以下まで下げる基準があるんだよ」

 

「へー」

 

「午後には集乳車(ミルクローリー)がやってきて工場に運ばれるから、その後これら全て洗浄するんだ、毎日ね」

 

 …………酪農ってなんかすごく大変な仕事のような気がしてきた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「よいしょっと」

 

 台所のテーブルの上にタッパーに入れたバターを置くと、父さんが興味深そうな目で見た。

 

「和志、それはなんだい?」

 

「今日、学校の社会科見学で乳牛牧場に行ったんだけど、そこの生乳から僕が作ったバターだよ。お土産にもらった」

 

「ほー、バターってどうやって作るんだ? というか手作りできるもんなんだ?」

 

 父さんはバターの作り方を知らないようだ。

 ふふん、少し優越感を感じる。

 もっとも僕も今日実際に作るまで知らなかったんだけど。

 

「瓶に生乳を入れて、その瓶を振りまくると作れるんだよ」

 

「はは、そんな訳無いだろ」

 

 父さんが笑っている。

 信じてないらしい。

 

「搾った生乳を冷蔵庫で一晩安置しておくと上の方にクリームが分離するんだ。それを掬って瓶に詰めて、振って振って振りまくると、瓶の中にバターの塊が出てくるんだ、ホントだよ?」

 

「……え? バターってホントにそんなのでできるのか」

 

「うん、できるんだよ。味見したけど新鮮なバターは店で売ってるやつなんか比較にならないくらい美味しいかった」

 

「ほー」

 

 父さんの目が真面目なものに変わった。

 

「じゃあ、明日の朝食のパンにでも早速使ってみるか」

 

「美味しすぎてほっぺたが落ちると思うよ」

 

「そりゃ楽しみだな」

 

 

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