※この作品はR-18です。

おちんちんプレート   作:Rオウ

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プロローグ

「失礼いたします」

 

 縦に筋の入った特徴的な木製の扉を開けて接見室に入ると、大臣が出迎えてくれた。

 

「急に呼び出して悪いね、砠(つちやま)くん。まあ掛けたまえ」

 

「は、失礼いたします」

 

 一介の職員が大臣に呼び出されるなど異例も異例だ。

 呼び出される心当たりなどまったくない。

 さっきから背中に冷たい汗が流れている。

 

「時間がないので挨拶は抜きにして早速用件に入ろう。砠くん、君は蓮ヶ集(はすがつどい)村を知っているかね?」

 

 記憶を辿るまでもない。

 外務省に勤務していれば名前だけなら誰でも知っている。

 もちろん外部に漏らして良いわけではないが。

 

「はい、存じております。静岡県と長野県の境にあるアチラ側の村と」

 

「よろしい。では、先にこれを渡しておこう。受け取りたまえ」

 

「……任命書ですか?」

 

 あまり見たことがない様式の任命書に『砠(つちやま) 司(つかさ)』と私の名前が記載されていた。

 

「安心したまえ。これで砠くんはアチラのことを知っても公安に拘束されるようなことはなくなった。では今から用件を伝えよう」

 

「…………」

 

 頭を少し下げて、傾聴の姿勢を取る。

 

「今年中学に進学した砠くんの息子さんなんだがね、先日行われた学校の健康診断の血液検査の結果、アチラ側の瘴気に耐性があることが分かったのだ」

 

「…………」

 

 え、和志!?

 瘴気? 耐性? なんのことだ?

 

「ついてはアチラ側との外交条約に従い、本人の意思を確認・了承の上で、アチラ側へ婿として赴いてもらいたい」

 

 大臣が私の顔色を窺っているのが分かった。

 背中に冷たいものを感じながら務めてポーカーフェースを維持する。

 

「約10年間に渡って、中学1年生の男子の血液をスクリーニング検査し続けて、今年で累計500万人以上の少年たちの中からようやく見つかった婿候補が君の息子さんだ。建前上、息子さん本人の意思を尊重したいが、この先婿候補が現れる保証がないからな。父親である君が息子さんの説得に対して大いに尽力してもらえると、こちらも期待している」

 

「大臣。砠くんはアチラ側について前提となる知識を持っておりません。説明には相当な時間がかかると思われますので、以降の打ち合わせは私の方で行います」

 

「おお、そうか。では景山くん、あとは頼む。砠くん、悪いがここで中座させてもらう。この後閣僚会議があるのでね。ああ、接見室はこのまま使ってくれて構わないよ」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 この部屋は外国のVIPとの接見に使用されるため、秘書官と自分だけではあまりに広すぎて居心地がいいものではないが、テーブルを挟んで秘書官と向かい合わせに座る。

 

 前傾姿勢で椅子に座り、秘書官に視線で説明を求める。

 

「では改めてご説明させていただきます。もうここには私と砠くんしかおりませんので、分からないところがありましたら気軽にお尋ねください」

 

 整髪料をたっぷりと使って髪をオールバックに整えている眼前の秘書官は景山といって、恐ろしい程に切れる男だと省内だけではなく省外でも有名だ。30代前半で細身のこの男が大臣の公務をサポートしており、外務省でこの男を知らない職員はいない。

 

「最初から説明した方がよろしいでしょうね。一般の外務職員は権限上、名称しか知らないでしょうし」

 

「は、お願いいたします」

 

「ではまず事の起こりから説明いたしましょう。疑問があれば構わないのでその都度聞き直してください。今から10年前、アチラ側の蓮ヶ集村が、4次元ローレンツ多様体に発生した綻びによって日本の■■村と重なった不幸な事象が発生しました。それによって日本、つまりこちら側の■■村は消失しました」

 

「は? 4次元……ローレンツ?」

 

 聞き慣れない言葉で思わず聞き返してしまった。

 

「時空間に関する数学的モデル仮説です。実証する方法がないので仮説止まりではありますが、発生した事象に適合するモデルがこれしかなくてですね。何かが引き金になって時空間の一部が破損したと考えられていますが、まだ結論は出てません」

 

「は、はぁ……」

 

「それで■■村の土地や建築物はアチラ側の蓮ヶ集い村のものに置き換わり……そして巻き込まれた村民数百名も消失しました。人知れず大災害が発生したわけですが、一番最初にこの事態に気づいたのは通信会社と電力会社でした。架空送電線と通信線が空間境界上で切断されたわけですからね。監視(オペレーション)センターからすぐに保全部門に連絡が行き、通信会社と電力会社の保全要員がそれぞれ現地に駆けつけたんですが、その駆け付け途中で保全要員と連絡が途絶えました」

 

「え?」

 

「あとで判明したことですが、保全要員の搭乗した車両はアチラ側と入れ替わった領域に入ったあたりで事故を起こしておりまして、後詰めの第二陣も同じく境界領域を超えたところで連絡が途絶えました」

 

「………」

 

「その後は、周辺に何らかの火山性の有毒ガスが発生しているのではと通信会社の監視センターから消防や警察、自治体に通報が来まして……という流れですね」

 

「その保全要員の方たちはどうなったのですか?」

 

「対ガス装備を着用したレスキューが駆けつけ確保しましたが、意識不明の重体に陥っており……後日その全員が死亡しました」

 

「………」

 

「まあこのあたりの事故の状況は本題に関係しないので省略しますが、アチラ側の大気には毒ガスのようなものが含まれていると考えてください。現在我々はその毒ガスを瘴気と呼んでおります」

 

「毒ガス、瘴気ですか……」

 

「正確には毒ではなく、人間が吸引すると極めて強い興奮状態を引き起こし酩酊状態に陥らせる効果がありまして、そのガスに被爆した状態では際限なく興奮度が増していき、意識を失って最終的に死亡します。ああ、極めて強力なカフェインを過剰摂取している状態というのが実態に近いかもしれません」

 

 そう言って秘書官は肩を竦めてみせた。

 

「秘書官。そもそもアチラ側ってなんなのですか?」

 

 私にはそもそも最低限の部分しか知る権限が無く、ほとんど何も知らないに等しい。先程の大臣の話も実はほとんど理解できていない。

 

「そうですね、流行りの言葉で言うならば異世界です。より正確に言えば平行宇宙(パラレルワールド)に存在するもう一つの地球です」

 

「平行(パラ)って……空想科学(SF)小説なんかに出てくる平行世界、ですか? そんなものが本当に存在してたんですか?」

 

「ええ、今回の件で見事に実在が証明されたわけです。実在すると分かったので、そういう視点で古い文献を調査させると明治7年から明治10年までアチラ側とつながっていたとおぼしき記述が見つかりました。更に遡ると江戸時代の享保18年あたりにどうもそのような事象が発生している節があります。おそらくはもっと以前から度々起こっていたと考えられます」

 

「そんな昔から……」

 

「昔から次元的に重なっては剥がれてを繰り返していたようで、いずれ剥がれた状態に戻るだろうと予測されていますが、それがいつになるか分からないのが問題なのです」

 

「はぁ……。よく分かりませんが繋がったままではないというなら、繋がりが絶たれるまで自衛隊か警察でも配備して一般人が不用意に行き来できないようにゲートでも設ければいいと思うのですが?」

 

 自分が見ている前で秘書官が肩をすくめた。

 それができない事情があるということか。

 そう言えば毒ガスってアチラ側からこっち側に漏れてきたりしないのだろうか?

 

「砠くん。平行世界はどのようなものだと理解していますか?」

 

「あぁ……そうですね、例えば歴史上の事件が発生したり発生しなかったりで世界Aと世界Bに分かれるような感じでしょうか? 織田信長が死んだ世界Aと実は生き延びた世界Bのような」

 

 私の拙い説明に秘書官がうんうんと頷いている。

 

「その場合はその分岐が来るまでは同じ歴史を辿っていたことになるのでしょうが、アチラ側と我々の世界はそういう分岐後の世界の関係ではないのです」

 

「……と言うと?」

 

 秘書官が私を値踏みするような目で見てきた。今から言うことを信じてもらえるか不安に思っているような顔だ。

 

「その……アチラ側は大地、地形、つまり地球はこちらとまったく同じです。歴史もほぼ同じです。ただ、人物は全て違います」

 

 人が違って、歴史が同じなんてあり得るのだろうか?

 歴史上の役割を担った人物が別人に入れ替わっているということか?

 

 私が若干首を傾げたのを見て、秘書官が言葉を続けた。

 

「具体的に言うと、アチラ側には過去から現在まで男性は存在せず、女性だけしか住んでいないのです」

 

 思わず目を瞬(しばたた)かせた後、秘書官を凝視した。

 そんな社会はあり得ない。

 

「……いや、そんな社会が成り立つわけ無いでしょう。子供ができないじゃないですか?」

 

「当然の疑問だと思いますが、アチラ側の女性はこちら側の男性とセックスをして子供を作ってたんですよ。我々が知らなかっただけで」

 

 今までの話と矛盾する。

 だがこの秘書官がそれを理解してないわけがない。

 

「……蓮ヶ集村のようにこちら側とつながった場所が実は世界中にたくさんある、ということでしょうか?」

 

「いや、そうじゃないんです……説明が難しいというか、空想科学の話から更に斜めに話が飛躍するので信じてもらえるか分かりませんが、アチラ側の女性は夢の中でこちら側の男性とセックスができるようなのです」

 

「すみません……仰っている意味がよく分かりません」

 

 夢の中でセックスしたからそれがなんだというのだ。

 若い青少年の時期ならそういう淫夢を見ることもあるだろうが、夢は夢だ。

 

「でしょうね。理解できないのが普通だと思います。ですが夢の中で男性とセックスして膣内に精液を受け止めるとアチラ側の女性は妊娠するのです」

 

「…………夢の中で、妊娠するのですか?」

 

 念のために確認する。

 あまりにも荒唐無稽すぎる。

 

「いいえ、現実で妊娠するのです」

 

 景山さんの目を見つめると正面から見返してきた。

 冗談などではなく本気で言ってる。

 

「そんな馬鹿なことが」

 

「──あるんですよ。はっきり言ってしまうとアチラ側の女性は一人の例外もなく一種の超能力者なんですよ。他人の夢の中に入り込めるというね。しかも世界間を飛び越えてこちら側の男性の夢の中に入ってくる」

 

 そこで景山さんが口を閉じた。

 語った内容を私が消化するまで待ってくれているのだろう。

 

 頭の中で聞いたことが全て事実だと理解……消化が進んで行く。

 

「…………過去から今まで、ずっと?」

 

 夢の中で男性の精液を搾り取る女性たちが住むもう一つの地球。

 あり得ないと頭から否定せずに、事実であれば自分はどうすべきかという方向に頭を切り替える。

 

「そうです」

 

「……まるで」

 

「西洋のおとぎ話の中に出てくる夢魔(サキュバス)……と思いましたか?」

 

「はい、てっきり不倫や聖職者の不道徳行為を隠蔽するための作り話だと」

 

 性行為をしてないのに妊娠してしまった穢れのない淑女に言い訳を与えるための嘘の伝承。

 

 しかし外務省の接見室で話す内容なのか、これが。

 現実感が乏しくなってきた。

 

「彼女たちの能力を端的に表現すれば言えばサキュバスになってしまいますが、実際に接触してコミュニケーションを取ってみれば人と変わらない理性と判断力と、そして我々とほぼ同じ倫理観は持ってるらしいです。まあ当然ですね、こちら側とほぼ同じ歴史を辿っていてそして高度に社会化されてるわけですし」

 

 肩を竦める秘書官を見ていてふと、あることに気がついた。

 大事なことだ。自然と顔が険しくなる。

 

 険しくなった目で秘書官を見ると目を逸らされた。

 目を逸らされても聞かねばならない。息子が関わる話なのだ。

 

「……つまり、サキュバスにうちの息子の和志を婿入りさせろ、と?」 

 

 言葉に棘が混じってしまった。だが相手が大臣の秘書官だとしても息子の和志の話なのだ。ここで引いては父親を名乗れなくなる。

 私の雰囲気の変化の理由に思い至ったのか秘書官が肩を竦めた。

 

「……ご懸念は尤もではありますが、おとぎ話で語られるサキュバスとあちら側の生の女性を混同していますよ。現実のアチラ側の彼女たちはこちら側の女性とほとんど変わりません」

 

「本当に?」

 

「アチラ側にも日本という国があって、行政があり、警察があり、裁判所があり、通常の社会活動が行われています。もちろん善人だけではなく、我々の社会と同様に犯罪者もいますが、街中をレイプ魔が闊歩するような社会ではないのです」

 

 それは分かる。

 

「でもそれはアチラ側に男性が存在しなかったからですよね?」

 

 和志という今までにいなかった男子がその社会に行けばどうなるのか。

 

「…………」

 

「具体的にアチラ側の女性の性欲はどれくらいなのですか?」

 

 わざわざこちら側の世界の男性の夢の中に精液を搾り取りにやってくる女性たちだ。

 伝承が完全な嘘でないなら、性欲はきっと強いだろう。

 

「日(・)中(・)であればこちら側の男子中学生…………の2倍くらいだと聞いております」

 

「2倍……」

 

 2倍、2倍か。

 目を瞑って自分が中学生だった頃を思い出してみる。もう随分昔のことで青春真っ盛りの頃だ。その時の自分の性欲を2倍にしたらどんな感じになるのだろうか?

 しかも男子ではなく女子、女性の立場で性欲が2倍なのだ。

 異性に対して非常に積極的に行動するくらいか?

 

 ダメだ、想像がつかない。

 

「砠さん。彼女たちをサキュバスと形容しましたが、アチラ側の女性はおとぎ話のサキュバスのように男性の精液を死ぬまで搾り取るわけじゃないんですよ。繰り返しになりますが夢の中に入るという能力を除けば我々の側の女性と然程違いはありません。敢えて違いを挙げるならば極めて容姿に優れた女性であるということくらいです」

 

 秘書官の口調が大分早口になってきた。それに言い訳っぽい。

 おそらく、秘書官自身は実際にアチラ側の女性と会ったことがないのだろう。

 

「……そのような能力があるのなら、今更婿など取らずに今まで通り夢の中でこちらの男性の精液を搾り取ればいいのではないですかね?」

 

 夢の中で精液を搾り取っていく女性たちが実在したとして、睡眠中に変死した若い男性のニュースなどあまり耳にしたことはない。

 つまりアチラ側の女性は、男性をの精液を死ぬまで搾り取るなんてことはしないか、夢の中ではどれだけ搾り取っても命には影響しないかどちらかだろう。

 

 過去からずっとそうなのであれば、アチラ側の女性は夢の中で逢う分には安全であるとある意味歴史が証明している。

 

「それができればよかったんですがね。できなくなったらしいんです、10年前から。つまりはアチラ側とこちら側が繋がってしまった日から」

 

 ようやく話が繋がった。

 それで、なのか。

 

「その状態がもう10年?」

 

 危機的な状態だ。

 人間は30年間子供が生まれなければ社会は崩壊し、種として滅びが確定する。

 世界と世界が繋がった状態がいつ剥がれるのか、あと数十年剥がれなければ確実な滅びが待っている。

 

 それならば、と考える人たちが出てくる。

 

「……つまりこの10年間アチラ側では子どもが生まれてないんですね?」

 

「そうです。極めてまずい状況です。今のところアチラは非常に理性的な行動を取ってくれてますが、滅ぶくらいなら武力を用いてこちら側に侵入してきて男性をかっさらって行くと、一部が激発する可能性もあります。もちろん連れて行かれた普通の男性は瘴気の影響を受けてすぐに死ぬでしょう」

 

「アチラ側とコミュニケーションは取れてるんですよね?」

 

「地続きですから通信ケーブルを敷設して遠隔でやりとりしてます。通信規格も同一で合わせる必要すらなかったんですよ。酸素ボンベを背負えばアチラ側でも一応作業は出来ますし。さっきも言いましたが、技術レベルは我々とほぼ同じというか、非科学的な技術も持ち合わせてるアチラ側の方がむしろ上です。」

 

「限定的に行き来ができるなら、凍結精子を送り込めばどうにかなるのでは?」

 

「ああ、それは真っ先に試しました。結果は精液がアチラ側の瘴気に触れるとダメになりました」

 

「なら逆にアチラ側の女性にこちら側に来てもらえばいいのでは? アチラ側の女性は美女ばかりというのであれば、こちらで男性を募集すれば山程集まるんじゃないですか? あぁ、まあ機密上の問題があるでしょうが」

 

「……瘴気はアチラ側の女性の呼気や体液、身体そのものから生み出されているんですよ。なので直接接触は論外です」

 

「…………つまるところ耐性が無いとどうにもならない、と」

 

 椅子の背もたれに身体を預けて天井を仰ぎ見る。

 

「……ですが瘴気に耐性があると言っても、うちの息子がたった一人婿に行ったところで意味なんか無いんじゃないですか?」

 

 それこそ種馬のように働いたところで生涯で数千人を相手にするので限界だろう。焼け石に水だ。

 それに父親の立場でも息子のそんな生活が幸せだとは思えない。

 

「その辺りは夢に入りさえすれば解決するらしいんですよ。アチラ側が言うには夢の中では時間や空間はもちろん物理法則も意味を持たないとのことで、一晩の間に夢の中で1万人とか10万人、更にはそれ以上の女性とセックスが可能なのだそうです」

 

「男性の夢に入れないのではなかったのですか?」

 

「アチラ側もこの10年間手をこまねいていたわけではなく、研究を進めてましてね。もちろん全面的に我々も協力したわけですが。結論としてこちら側の男性が物理的にアチラ側の世界に行って『繋がり(パス)』を作れば夢に入れるようになるらしいです。研究論文が送られてきてるので読みますか?」

 

 首を横に振る。読んでもきっと分からない。

 だけど。

 

「繋がり(パス)?」

 

「論文の中では適合率という名称で扱われていますね」

 

「はぁ?」

 

 視線で秘書官に続きの説明を促す。

 

「アチラ側の女性にも我々の世界と同様に同性を性的対象としている方が一定数おりまして、過去、同じ世界の女性の夢の中に入る方法が模索されてたみたいでしてね。おかげで方法は既に確立されてたようで、それを流用して同じ世界に存在する男性の夢の中に入るという方向で今計画が進んでいます」

 

「それならボンベ背負った男性がアチラ側に行けば済むのでは?」

 

「当然それはすぐに試されたんです。結果を言うと、ボンベを背負った男性の夢の中には入れませんでした。瘴気を吸ってないとアチラ側の世界に存在しているとは言えないようで、アチラ側の女性と『繋がり(パス)』を作れないようです」

 

「……要するに結局瘴気に耐性のあるうちの息子の和志しか解決できないってわけですか」

 

「10年もの間、2つの世界で解決方法を模索し続けて……結局そこに行き着くのです」

 

「和志に2つの世界の未来がかかってるわけ、か。和志はまだ中学生になったばかりなのに。別の世界に息子を一人送り出すしかできないなんて、なんて父親だ」

 

「貴方にも行って貰うつもりなんですが?」

 

「私が? 酸素ボンベを背負ってですか?」

 

 いや、そうだ。許されるのならボンベを背負っていくべきなのだ。

 私は父親なのだから。

 

「実はアチラ側の瘴気を吸着できる素材が先月完成したばかりでしてね。コレです」

 

 秘書官が鞄から取り出したのはマスクだった。

 そこらのドラッグストアで売られているような何の変哲もない見た目をしている。

 

「マスク、ですか?」

 

「実験の結果、人体の肺組織がもっとも瘴気を吸着しやすかったので、肺細胞をクローニングして3Dプリントで積層シートを形成しています。製造原価は一つ1億円はしますよ。量産なんかできないので、関係者のみに配布される予定です」

 

「……それ使い捨てですか?」

 

「もちろんです。あと部屋の中に設置できるように特製の空気清浄機も作っていますので持って行ってください」

 

「それも?」

 

「フィルター1個20億円くらい原価がかかってます」

 

 苦笑いしか出ない。

 だけど酸素ボンベ背負うよりはマシだ。

 

「まあ、2つの世界の未来の代金としては安いものです。そして砠くんの立場は外交官としてのものになります」

 

「外交官か。それでアチラ側では何をすれば?」

 

「こちらとアチラの民法のすり合わせが必要です。アチラ側には結婚制度がありませんからね」

 

「なるほど」

 

「それもこれも和志くんのストレスを軽減するためです」

 

「ストレス?」

 

「人の免疫や耐性なんて体調やストレスで簡単に変調しますからね。しかも和志くんはまだ子供です。親から離れて一人で行かせるなんて無茶をすれば体調なんてすぐに悪くなりますよ。血液検査で判明した耐性だって絶対的なものではありません」

 

「では和志に事情を説明しない方がいいと?」

 

「もちろんです。できるだけ自然に近い状態で生活するのが望ましいので、父親である砠さんも普段通りに生活して頂きたい。アチラ側の境界に近い蓮ヶ集村では人口が少なく瘴気の濃度は比較的低いので、そこで和志くんの耐性を確認しつつ瘴気に馴れてもらいます。一種の高地適応みたいなものです」

 

「……なるほど」

 

「蓮ヶ集村には幸いなことに和志くんと年齢の近い女性たちがいますので、そこでクラスメイトとして学生生活を営んで貰う予定です」

 

 秘書官から7枚の写真を手渡された。

 

「これは?」

 

「蓮ヶ集中学校の在校生の女性と、特別に任命された女性教師役の方です」

 

 なるほど。

 極めて容姿が優れている……というのは本当のようだ。

 ちょっとお目にかかれないレベルの美女が写真には映っていた。

 

「そして『男性器射精支援技術習得兼能力開発及び適合模擬訓練平板』というタブレットみたいなものを通じて、その女性たちとの適合率を上げて行って貰うことになります」

 

「……何平板と?」

 

「そうですね、もうプレートと呼びましょうか。プレートを経由して和志くんの男性器と接触を繰り返すことで『繋がり(パス)』が出来て適合率が徐々に上がっていくと、ある水準からその7名の女性たちは和志くんの夢の中に入れるようになります。そして無事妊娠するまでが第一段階です」

 

 渡された写真の中の女性は一人を除き女子中学生と女子小学生に見える。

 

「この子たちは妊娠するには若すぎませんか?」

 

「アチラ側では第一子を10代で妊娠するのが普通だったみたいですよ?」

 

「……はぁ。母体のリスクとかすごく気になりますが」

 

「それが、出産は夢の中で行うので出産に関するリスクはゼロ、なんだそうですよ? 物理法則を何もかも無視できるらしいのでその辺りはもう考えるだけ無駄です」

 

「はは……そう、ですか」

 

「では今後のスケジュールを詰めていきましょうか」

 

 秘書官は鞄から大量の文書を取り出して渡してきた。

 

「そういえばアチラ側の地球の人口はどれくらいなんですか?」

 

「70億人と聞いてます。……その気休めになるかどうか、当面は日本の妊娠適齢期の女性が中心になるらしいのです」

 

「………………大丈夫かな、和志」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あれ? 父さん、その写真何? もしかして見合い写真?」

 

 机の上に置いた写真を和志が目ざとく見つけてしまった。

 まあどのみち見せなければならないものではあったが。

 

「ああ、そうだな。見合い写真のようなものだ」

 

「へー、父さん見合いするんだ? 新しいお母さん? あ、大丈夫だよ、僕そういうのに理解があると思うから」

 

 今日の和志はテンションが高いな。

 まあ見合い写真となれば高くなっても当然かも知れないが、和志よ、それは実はお前の見合い写真なのだ。

 

「んん? 父さん、この子たち父さんと結婚するには若すぎない? 中学生くらいに見えるんだけど? あ、お姉さんっぽい人もいるね。でもこの金髪の子って小学生かな。あ、分かった、連れ子かな?」

 

「ははは、そうかもな。そうだ和志。その子たちの中で好みの子はいるか?」

 

「えー?」

 

 びっくりしたような声を上げる和志。

 

「ねえ父さん? 連れ子同士の相性より新しいお母さんと父さんの相性を一番に考えなきゃダメだよ?」

 

 中1のくせになにか分かったような口をきく和志。

 

「ああ、そうだな。その通りだ」

 

「だけど、みんなすっごい可愛い子ばっかりだね」

 

「ほう? ちなみにどの子が一番気になるかな?」

 

「んー、全員!」

 

「……全員!?」

 

 私が誰を選んでも困らないように、か。

 優しい子に育ったもんだ。

 

「あー、うん、ほんとに全員可愛いよね。結婚したいくらい」

 

 写真に映った石塚花胡さんのおっぱいをガン見してるがそうなんだよな、和志?

 父さん、ちょっと自信が無くなってきたぞ?

 

「……まあ、いいか」

 

 子供にとって何が幸せであるのか、親が決めることではない。

 それになんとなくどこへ行っても幸せになりそうじゃないか、なあ息子よ。

 

「可愛い、美少女、美少女、美少女、おっぱい、おっぱい、おっぱいっ!」

 

 パンっ!

 

「痛っ!? なんで叩くの父さん!?」

 

 後頭部を押えながら和志が振り向いた。

 

「おまえ、いくらなんでも失礼すぎるだろ。向こうへ行っても絶対そんな事言うなよ?」

 

「向こうって?」

 

「…………あぁ実はな」

 

 

 

 

 

 

 ──そして物語は始まる。

 





 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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