ピコーン♫
机の上に置いていた僕のプレートから軽快な通知音が鳴り響いた。
隣の席の
操作していたプレートを教卓に置いた先生が、顔を上げて教壇から教室内を見渡した。
「どう? みんなちゃんとデータリンクできた? 失敗した人いる?」
「全員できてまーす!」
誰にも確認を取ってないのに、己紗が代表して先生に返事している。
まあアラーム音の様子からしてみんな上手くできてるんだろうけど。
「ならいいわ。先生が使っているのを親プレート、みんなが持ってるのを子プレートに設定したからね。学習の進捗状況はそれぞれのおちんちんプレートに自動保存されるから、自分の使ってるプレートはちゃんと管理するように」
「「はーい!」」
右手をビシッと上げて返事する己紗と天子ちゃん。
いや、二人だけじゃない。女子全員がハイテンションで先生に返事している。
両手をプレートに置くという少々変わった起動方法を除けば、プレートの操作方法自体は難しいものではなかった。
というか表面に表示されるボタンを押していくだけなので子供でも操作できる。
操作方法とボタンについての解説文がプレートの表面下部にその都度表示されて、その丁寧なチュートリアルに従いながら読み進めていくと『
……これがプレートのメイン機能か。
僕の想像通りなら、きっとろくでもない……いやそれは僕にとってだけか。
石塚先生や、クラスの女子にとっては待ちに待った保健体育の授業になるんだろう。だとしても先生も女子も喜びすぎじゃないだろうか?
いやだって保健体育の授業だぞ。
本来ならちょっと照れくさいような授業のはずなのに。
僕のちんちんが教材に使われてるから、僕にとっては照れくさいでは済まないけど。
まあ教材として使われるのを一度承知しておいて、後でぐちぐち言うのは男らしくないとは思うけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
さっき保健室で勃起したちんちんを女子全員に見られてしまったけど、一度見られてしまったからもう平気、とはならない。なるわけがない。
クラスの女子全員に勃起ちんちん見られてしまう男子中学生って一体日本全国にどれくらいいるんだろうな?
はぁ……憂鬱な気分でプレートのボタンを押す。
するとピンポーン♫ と軽やかな音が鳴り響き、プレート表面に僕のちんちん画像が表示された。
「……やっぱりか」
◇◇◇◇◇◇
「あ、映った!」
「これが……和くんのっ!」
「きゃー♥」
「かわいいっ♥」
「はわー」
「勃起してないとこうなんだ」
教室内に女子たちの嬉しそうな声が響き渡る。
……これはキツい。
想像していた以上にキツい。
「はいはい、みんな騒がないの」
先生が教壇の上でパンパンっと手を鳴らしてみんなに注意した。
「これは和くんが自分のおちんちんを教材として快く提供してくれたお陰ですからね。みんな、和くんにちゃんとありがとうって言うのよ?」
……これが善意のダメ押しというやつですか、先生。
褒め殺しの変形版じゃないか。
両手で顔を覆って机に突っ伏しても恥ずかしさが消えない。
「ではおちんちんプレートの操作方法に慣れるために、2時限目の終わりまでは自由とします。皆さんプレートを好きに操作しましょう」
「
一枝先輩が僕の後ろから先生に質問をぶつけた。
「二時限目は自由にしていいですよ。特に目標はありません。ナビに従ってチュートリアルを進めるもヨシ、ナビを無視して和くんのおちんちんを好きなように弄るのもヨシッ! です」
「やったぁ!」
言葉だけ聞いてるとめちゃくちゃ誤解しそうなやり取りだ。
ちなみにこれ僕もやるの?
先生に顔を向けて目で訴えてみる。
あ、やるんですか、そうですか。
絶対、意味ないと思うんですけどね?
◇◇◇◇◇◇
プレートには表示されている僕のちんちんを改めて見直す。
生まれた時からの相棒だ、正直見飽きてる。
でもそうだな、正面からまじまじと眺めるのは初めてかも知れない。いつもは上から見下ろしてるからな。
正面から写された写真だと、股間から垂れ下がったちんちんは割と間抜けに見える。
……女子たちは可愛いと言っていたけど、どう贔屓目に見ても可愛くは見えない。
まあじっと見ていても仕方がない。進めるか。
プレートの下部に表示されている ➡ のボタンを押すと、ピン♫と軽い音が鳴り、プレートの表面下部にナビゲーターが赤い文字を表示した。
【弛緩してだらんと垂れ下がった男性器の先端をタップ!】
やかましい!
叫びたくなったが、ぐっと堪えてナビの指示通りちんちんの先っぽをタップする。
男性器:亀頭
男性器は陰茎とも呼ばれるが、その陰茎の先端の部分を特に区別して亀頭と呼ぶ。亀頭には尿道口があり、体内にある膀胱に溜まった尿を排出する機能がある。また生殖行為の際にはこの尿道口から精液を放出する。亀頭という名称はその名の通り、爬虫類の亀の頭部に酷似していることに由来している。なお現在表示している男性器モデルでは亀頭部分が包皮に覆われている。
ちんちんの画像が色分けされて、僕のタップ操作で画像に被さるように矢印が付き、解説文が表示された。
──おおっ!? 結構すごい?
意外なほどちゃんとしているぞ?
いや違うか。多分先入観が酷過ぎて良く見えてるのかもしれない。
プレートには次の操作を指示する赤い文字が表示されているけど、先生の言うようにナビの指示は無視して陰茎の部分をタップしてみた。
男性器:陰茎
一般的には男性器そのものを示す言葉である。しかし男性の股間の根本から亀頭までの部分を指し示すケースも有る。陰茎は上側に左右一対の陰茎海綿体、下(裏)側に尿道を包む尿道海綿体があり、この3つの海綿体が接合することで陰茎を構成されており、主に排尿と生殖行為に使われる。生殖行為時には海綿体組織の中心を通る海綿体動脈から海綿体を構成する無数の糸のような血管に血液が流れ込むことで膨張し硬くなる。この現象を勃起と呼ぶ。なお亀頭冠と陰茎の境のくびれ部分をカリ首と呼ぶのも鳥類の雁の首の形状に似ていることに由来する。
陰茎の部分の画像が強調色に変わり、先程と同じように解説文が表示される。
かなり見やすい。
操作も直感的で分かりやすい。
ふと思いついて、プレートに表示されている解説文の「海綿体」をタップしてみると、陰茎の内部構造の分かる透過図が元の画像に重なるように表示された。
左右一対の海綿体とその下に尿道海綿体が張り付いている様子は、まるで三本の細いウインナーが寄り集まっているようで、陰茎を構成する様子が一目でわかる。
男性器:陰茎海綿体
海綿体は細い糸のような血管が無数に集まってできたスポンジのような組織である。海綿体の中心部には海綿体動脈と呼ばれる血管があり、性的刺激を受けるか、脳(中枢神経)が興奮状態になると、弁の役目を果たしている海綿体動脈が緩んで大量の血液が流れ込むことで海綿体組織は膨張して硬化する。流れ込んだ血液は陰茎表皮へつながる貫通静脈を通り陰茎背静脈・深陰茎静脈を経由して体内へ戻る。
更に陰茎海綿体の解説文が表示される。
──これは凄い。
画像でも解説文でも気になった部分をタップすればそれに対応したものが次から次へと出てくる仕組みなんだ。
言葉だけじゃなく、画像付きで。
転校前に一度だけタブレットに触れる機会があったけど、それにインストールされていた電子百科辞典とコンセプトは似ている。
だけど似ているだけで別物だ。
直感的な操作で情報にアクセスできるのと、情報の表示方法についてはこっちの方が遥かに分かりやすい。
電子百科事典として完全に上位互換だ。
操作方法と画像表示の仕組みがすごく洗練されていて扱いやすいし、さらに教材として、ただの電子辞書の範疇に収まらないもっと色々な機能があるんだろう?
これはもう俄然興味が湧いてきたぞ。
男性器のモデルとして僕のちんちん画像が使われてしまったせいで、かなりの色眼鏡でこのプレートを見ていたけど、蓋を開いてみればこのプレートは非常に優れた情報ツールだったわけで。
情報ツールの入り口というか、スタート画面に僕のちんちん画像が使われているだけで、学習が始まれば、ちんちん画像なんか大した問題じゃなくなる。
……まあ多分。そうであって欲しい。
でもこれだけ中身が詰まってる学習用教材であれば、女子もこのプレートの中身の方に夢中になるはずだ。
「よっ」
心の赴くまま、今度は文字ではなく表示されている陰茎透過図の海綿体部分をタップしてみる。
男性器:陰茎海綿体内のらせん動脈
陰茎弛緩(平常)時には、陰茎動脈と海綿体小柱の平滑筋は収縮状態にあり、陰茎海綿体への血液供給は主に毛細血管網を経由して行われる。中枢神経が性的興奮状態になると、陰茎海綿体神経の副交感神経末端よりアセチルコリンが放出され、海綿体組織内の血管作動性腸管ペプチド及び一酸化窒素の作用により、陰茎平滑筋が弛緩し、海綿体内の陰茎動脈とらせん動脈への血流量が一気に増大する。海綿体組織を包む白膜内で海綿体組織の血流が増大することにより海綿体洞が膨らみ、内圧が高くなることで白膜を通過する貫通静脈が圧迫され、静脈の血流量は減少する。動脈からの血流量が増大し、静脈への血流量が減少することで海綿体はこの血圧差を駆動力として勃起するのである。
うわっ!?
一気に内容が高度化した。
専門用語が並びすぎててよく分からない部分が増えたけど、解説画像でなんとなく雰囲気は掴める。
あ!? よく見ると「指導要領外」って記載があるな。
つまり学校で教える範囲外の知識の部分なのか。
それでもちゃんと表示するのは良いな。
どんどんこのプレートが気に入ってきたぞ。
これ、なんで保健体育の授業にしか使わないんだろう?
色んな分野の情報が詰まっているように見える。
試しに解説文の血液の文字をタップしたら、
人体:血液
人体内を流れる体液の一種。人体内にある血管と呼ばれる管状の構造の内部を流れている。主な成分は赤血球、白血球、血小板、血漿であり、人体内で栄養分と酸素を運ぶ媒体である。
ほら?
思った通り、血液の解説文が表示された。
ここから更に情報を深く掘っていけば、きっと「指導要領外」の解説がどんどん出てくると思う。
もはや保健体育の範囲をだけじゃなく理科の生物の内容まで含まれているし、学習範囲も中学校のレベルを超えて高校や大学の範囲までも網羅してるんじゃないかってくらいだ。
ここまで内容が整備されてるんなら、もしかして段階的に教科や科目が拡張されていく予定だったのかな。
でもこのプレートはかなり古いって先生言ってたしな。
……うん、考えても分からないからそれはいいか。
とりあえず、このプレートはかなり面白いし使いやすい。
自分のテンションが女子たちと同じように高くなってきたのを感じる。
二時限目は好きなように弄って良いって石塚先生は言ってたし、この電子百科事典もどきがどのあたりまでカバーしてるのか思う様やってみよう。
◇◇◇◇◇◇
「これはどうだ?」
タンっ!
「おっとこれも凄いな」
尿道の項目から表示される画像や解説の単語を辿って、膀胱、腎臓ときて循環器系繋がりでとうとう心臓の解説まで出てきた。
しかもアニメーション動画付きだ。
心臓を簡略化した図が表示され、右心房、右心室、左心房、左心室が収縮しポンプのように血液を送り出す様子が可視化されている。
すごく分かりやすい。
本来は中学2年の理科(生物)で習う内容らしいけど、別に気にする必要はない。
うん、凄い。
アニメーションする解説動画まで用意されてるなんて。
プレートには、大静脈から還ってきた血液が心臓のポンプ動作で肺に送り込まれ、二酸化炭素を放出した血液が酸素を取りこみ、再び心臓に戻ってきた血液が全身へ送り出す一連の流れが一目で分かるようになっている。
解説の単語をタップすれば二酸化炭素と酸素を運ぶヘモグロビンの情報だって表示される。
これ、分かり易すぎて逆に身につかないかも。
「いいなぁこれ。保健体育の授業だけに使うのがもったいないくらいだ」
プレートから顔を上げてぐっと背伸びをする。力を抜くときには思わず「はふーっ」と満足の溜息が漏れてしまう。
黒板の上に掛けられている時計を見るともう10時半を回っていた。
あと数分もすれば二時限目が終わる時刻だ。
あっという間に1時限が終わってしまったな。
実に充実した1時間だった。
これ、休憩時間とか放課後に自習で触らせてもらえたりしないのかな?
もっと色々触ってみたいんだけど。
ダメ元で先生にお願いしてみようか。
「先生っ、ちょっとお願いがあるんですが?」
教卓にいる先生に向けて右手を上げる。
石塚先生も教卓でみんなと同じようにプレートを操作していたけど、僕の声で……あれ?
「聞こえなかったかな?」
先生の指がプレートの上で規則正しく上下に動き続けている。
上にピンっと弾くように動かした後、ゆっくりと下にスワイプする動作だ。
それをひたすら繰り返している。
「……あのー、先生?」
僕はさっきより大きな声を出して、再度先生に呼びかけた。
だけど先生の視線は教卓の上に置いたプレートから外れない。
ものすごく集中していて聞こえていないようだ。
僕も夢中で操作してたから人のこと言えないんだけどさ?
聞こえていないなら先生の側まで行って声を掛ければいいだけだ、と席から立ち上がりかけて、ふと視界の隅に
金髪なんて見慣れてないので自然と目が引き寄せられてしまう。
「ん?」
左隣の席の天子ちゃんも先生と似たような感じで指を動かしていた。
プレートの上辺の方向に指をすいっと動かした後、ゆっくりと下に向かってスワイプする動きだ。
決まった動きを繰り返す天子ちゃんの顔はなぜか真赤に染まっている。
紅潮した頬の天子ちゃんがあまりにも愛らしくてそのまま眺めていると、突然すーっと大きく深呼吸した後、余韻たっぷりに息をゆっくりと吐き出した。
……吐息というやつだろうか?
まるで絵画のように美しかった。
熱を伴った彼女の吐息が長い金髪を揺らし、天使のような容貌と相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。
そういえばさっき僕も満足の溜息を吐いたっけ?
天子ちゃんも僕と同じようにプレートの充実した内容に感嘆したのかな。
「…………」
なんか変だな?
天子ちゃんに見とれていたら、ふと教室の雰囲気に違和感を覚えた。
妙に静かすぎないだろうか?
前の学校と違ってクラスの人数が少ないから僕がそう感じるだけかな?
いや、今は自習みたいなものだから真面目にやっていれば静かなのは当然なんだけど、何かが違う気がする。
振り返って右の席の
上にスワイプしてから下方向にゆっくりと下げる指の動きだ。
そして妙に息を荒げている。
──そうか、息遣いだ。
椅子に座っているだけなのに女子の息遣いが妙に荒くなっているんだ。
席から立ち上がると、椅子がガタンと音を立てた。
それでも誰も僕を見ない。
一枝先輩も捺那先輩、石原先輩たちも全員判で押したように先生と同じ動作をしている。
なんだこれ?
先生も含めて女子たち全員をそこまで夢中にさせてしまうのって一体なんなんだ?
己紗のプレートに視線を向ける。
だめだ、光の加減で上手く見えない。
「…………」
何気なく己紗に近づこうと動いたら、足が勝手に忍び足になってしまった。
……音を立てないように己紗の背後から近づいて、操作しているプレートを斜め後ろからこっそりと覗き込む。
なぜか、すごく悪いことをしている気分になってしまう。
クラスメイトが学校の教材を使っているところをちょっと見るだけだ。別に乙女の秘密を覗き込もうとしているわけじゃないと自分に言い聞かせる。
そー……。
果たして己紗のプレートを覗き込むと、やっぱりというかプレートの表面には僕のちんちん画像が表示されていた。
僕の長年の相棒だ。皮を被って隠れているシャイなやつさ。
僕のちんちんの先端に──己紗の人差し指が軽く押し付けられると、包皮がくにゅっとまるで本物そっくりに凹んだ。
うぉっ!? と驚きで声が喉まで出かかった。
まるでプレートの上に本物の僕のちんちんが置いてあるみたいだ。
そして己紗の中指が包皮のもう一端を押さえつけ、そのままスワイプするようにプレートの上辺に向かって動かしていくと、皮がちんちんの根本に向かってまくれ上がって、円形状に拡がっていく包皮の隙間から亀頭の赤い粘膜が顔を出し始めた。
隠されていた亀頭が己紗の目の前にゆっくりと現れ、やがて僕のちんちんは完全にずる剥けになってしまった。
亀頭を覆う薄くてつるつるの粘膜はまるで生まれたばかりのようで、光を反射してテカテカと光っている。
穴が開くほど見つめても本物そっくりに見える。
プレートに表示された画像なのは間違いないのに、触れたところは凹んだように変化して、平面というところを除けば本物の僕のちんちんの包皮が己紗の指先で弄られながら剥かれているようにしか見えない。
「──はふぅ♥」
己紗が小さく吐息を漏らした。僕と同じように己紗もプレートに表示された亀頭を凝視していたんだ。
横から己紗の顔を覗き込むと、うっとりと細められた目の奥が潤んでいるようだった。
なぜっ!?
心の中で盛大にツッコミを入れているうちに、己紗は包皮を押さえた指を下に向かって引っ張り始め、今度は剥き出しになっていた亀頭に包皮を被せるように指を動かしていく。
引っ張られた包皮はカリ首で少し引っ掛かりながらも再び亀頭をゆっくりと覆っていき、やがて先端まで包み込むと元の完全な包茎状態に戻ってしまった。
こ、こんな写真も動画も……僕は撮られた覚えはない。
ということは、僕のちんちんの画像からこのプレートが自動生成しているってことか?
なんだ、この無駄な機能!?
その一連の操作を終えると、己紗の口が再び小さく開いて熱い息をそっと吐き出した。
ほんのり赤く染まった頬に潤んだ瞳がやたら可愛く見える。
でも言わずにはいられない。
「…………ねぇ? それそんなに面白いかな?」
僕が声をかけると同時に二時限目の終わりのチャイムが教室内に鳴り響いた。