※この作品はR-18です。

現代に甦った人斬り抜刀斎   作:リュウコウ

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2話 3人の彼女(ステラ殿と珠雫殿と加々美殿)

まだまだ肌寒い4月の早朝(そうちょう)。

巨大な敷地を有する破軍(はぐん)学園の前に、2つの影があった。

 

1つは正門前で浅く肩を上下させながら、水筒に詰めたスポーツドリンクを飲む、紋付き(もんつき)袴(はかま)姿の黒鉄(くろがね) 緋剣(ひけん)。

そしてもう1つは、緋剣(ひけん)からかなり離された場所でヘトヘトになりながらも、緋剣(ひけん)の待つ正門前というゴールを目指して(メザシテ)走る、ジャージ姿のステラ・ヴァーミリオン殿(どの)だった。

緋剣(ひけん)は体力維持のため、いつも早朝に20キロメートルほどのランニングを行っている。

そして其の(その)日課に3日前から一緒の部屋で生活しているステラもついてきている。

1日目、ステラは途中で倒れた。

2日目、ステラは吐いた。

だから3日目はわざとステラのペースに合わせるように走り始めたのだが、

 

『アタシに気を遣うなって』言われたので、

 

3日目も緋剣(ひけん)はいつも通りに走った。

すると、ステラ殿(どの)はかなり遅れてではあったが、ちゃんと緋剣(ひけん)についてきた。

 

(拙者(せっしゃ)に、ついてこられる御仁(ごじん)は、そうそう、ござらん)

 

ふらふらになりながらもゴールに着実に近づいてくるステラ殿(どの)の姿に、緋剣(ひけん)は感心した。

彼れ(あれ)だけの魔力の才能を持ちながら、肉体面でも拙者(せっしゃ)のトレーニングについてくる。

今まで彼女が自分の才能に頼り切らず、己(おのれ)を鍛え続けてきたことがよくわかる。

 

「はぁー!はぁー!ゴール.......ッ」

「お疲れでござる」

「へ.....平気よ......ッ、こ.....これくらいっ」

 

流れる汗をふく余裕もないほど疲れ切っているが、ステラ殿(どの)も大したものでござる。

緋剣(ひけん)はステラ殿(どの)の息が落ち着くのを見計らって(みはからって)、先ほど拙者(せっしゃ)が飲んでいたスポーツドリンクを水筒のコップに注いで差し出した。

 

「はい。スポーツドリンクでござる」

 

だがステラ殿(どの)は、差し出されたコップを戸惑いの表情で見つめていた。

 

「え、.........其れ(それ)、間接キス..........」

「どうしたでござるか?..........あ、ごめんステラ殿(どの)......。拙者(せっしゃ)が口をつけたコップを使うなんていやでござるよね」

「べっ.......別にイヤだなんて一言も言ってないでしょッ!......むしろ、其の(その)逆っていうか」

「ぎゃくでござるか?」

「ななな、なんでもないわよバカ!いいから其れ(それ)寄越し(よこし)なさい!」

 

ランニングで只でさえ(ただでさえ)熱をもった頬を更に赤らめて、ステラ殿(どの)はドリンクを呷る(あおる)。

 

何となく、破軍学園(はぐんがくえん)の正門を見つめる。

正門前にはーーー始業式を知らせる看板が立てかけられているのでござる。

 

「......ようやく、始業式で御座るか(ござるか)」

 

緋剣(ひけん)にとっては感慨深い(かんがいぶかい)ものがある。

1年目は、何のチャンスも与えられないまま、すべてか過ぎ去っていった。

だが今年は違う。新理事長・神宮寺(しんぐうじ) 黒乃(くろの)のめと、すべての生徒にチャンスが与えられる。

待ち続けたチャンスの到来に、いやが上にも(いやがうえにも)気持ちが高揚(こうよう)するで御座るよ(ござるよ)。其れ(それ)にーーーーー。

 

「なんだか楽しそうね。ヒケン」

「そう見えるで御座るか(ござるか)?実は会いたい御仁(ごじん)がいるので御座るよ(ござるよ)」

「......其れ(それ)って女の人じゃないでしょうね」

 

(彼れ(あれ)?なんか殺気を感じるで御座る(ござる))

 

「ま、まあ確かに女子(おなご)で御座るが(ござるが)ーーーーー」

「さようなら」

「待つで御座るよ(ござるよ)!取り敢えず(とりあえず)《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》を仕舞って(しまって)話を最後まで聞いて欲しいで御座るよ(ござるよ)!其の(その)女子(おなご)は、拙者(せっしゃ)の妹君(いもうとぎみ)なんで御座るよ(ござるよ)」

「妹君(いもうと)さん?.......そういえば決闘の時、妹君(いもうと)がどうとか言ってたわね」

「うむ。その(その)妹君(いもうと)がどうも新入生として入ってくるで御座る(ござる)。........4年前、拙者(せっしゃ)が実家を飛び出してから御無沙汰(ごぶさた)で御座って(ござって)、久しぶりに会えると思うと嬉しく」

 

いつも緋剣(ひけん)の後ろをちょこちょこ小さな歩幅でついてきた、銀髪(ぎんはつ)二つ結びの女子(おなご)。泣き虫で、寂しがり屋で、甘えん坊。だけど義父上(ちちうえ)も義母上(ははうえ)も義兄上(あにうえ)も、皆(みな)才能を隠している緋剣(ひけん)を見抜けず、無下に扱っていた中で、唯一、拙者(せっしゃ)が実力を隠しているのを見抜いた可愛い妹君(いもうと)。

黒鉄(くろがね) 珠雫(しずく)。

彼れ(あれ)から4年。

 

「楽しみで御座るよ(ござるよ)」

「1つ聞くけど.......其の(その)妹君(いもうと)さん、血が繋がって(つながって)ないのよね?」

「確かに、拙者(せっしゃ)と珠雫(しずく)とは、血の繋がり(つながり)は御座らん(ござらん)」

「なら......、恋愛感情は.....どうなの?」

「御座らん(ござらん)」

「なら、良し♪」

 

緋剣(ひけん)は再び『始業式』の看板に視線を戻し、此れ(これ)から始まる日々に思いを馳せる(はせる)。

ついに始まるで御座る(ござる)。七星剣武祭(しちせいけんぶさい)出場枠を賭けた戦(いくさ)?戦いの日々がーーー。

 

 

*

 

 

「はーい☆新入生のみなさんっ!入学おめでとーーーーッ!♡」

 

緋剣(ひけん)たち目掛け『パーン』とクラッカーとやらを鳴らし、教壇に立つ若い女性教師は満面の笑顔を浮かべる。

 

「わたしが1年1組のみなさんの担任をさせていただく、折木(おれき) 有里(ゆうり)です。担任を持つのは初めての新米教師だから、みんなも気兼ねなく友達感覚で『ユリちゃん☆』って呼んでくれたら先生、超うれしーな♪」

 

......戦(いくさ)の幕開け?戦いの幕開けにしては、えらく軽いノリだった。

 

「......なんか疲れる先生ね」

 

縁があるのか、隣の席になったステラ殿(どの)が、折木殿(どの)の独走気味のテンションにぼやく。

 

「.....いい先生殿(どの)で御座るよ(ござるよ)」

「知り合いなの?」

「前にちょっとだけで御座るよ(ござるよ)ーーー」

「えー、今日は初日なので授業はありません!でもでも、先生から1つだけみんなに『七星剣武祭(しちせいけんぶさい)代表選抜戦(せんばつせん)』についての連絡があります。みんな、生徒手帳を出してくれる?」

 

言われた通り、緋剣(ひけん)は胸ポケットから手のひらサイズの液晶端末を取り出す。

破軍学園(はぐんがくえん)の学生証は、身分証明から路銀?財布、携帯電話?インターネット端末?と、拙者(せっしゃ)が居た世界にはなかった技術で作られた、使える優れ物(すぐれもの)で御座る(ござる)。

 

「ゆと。始業式で理事長先生が言ってたけど、破軍学園は去年まで『能力値』で選手をある程度選抜していたのよね?でも今年から『能力値選抜』は廃止!『全校生徒参加の実戦選抜』に制度が変わりますっ!全校生徒が選抜戦を戦って成績上位者『6名(ろくめい)』を選手として選抜するの!わーおバイオレンスッッ!そして其の(その)試合の日程は生徒手帳に『選抜戦実行委員会』からメールが送られてきます。だからちゃんと確認して、指定の日時に指定の場所に来てね。来ないと不戦敗ってことになっちゃうから注意すへわし♡」

「先生」

 

ふと、ステラ殿(どの)が手を上げる。

 

「ノンノン。ユリちゃん☆、って呼んで(よんで) くれないと返事(へんじ)してあげないゾ?」

「......ゆ、ユリちゃん」

「はい、なーにステラちゃん」

「選抜戦(せんばつせん)って何試合(なんしあい)くらいするんですか?」

「詳しく(くわしく)は言えない(いえない)けど、1人(ひとり)10(じゅう)試合(しあい)以上(いじょう)は軽く(かるく)かかるかなー。選抜戦(せんばつせん)が始まったら(はじまったら)、3日(みっか)に1回(いっかい)は必ず(かならず)試合(しあい)があると思って(おもって)くれていいよ♪」

 

其れ(それ)を聞き(きき)緋剣(ひけん)は安堵(あんど)する。

彼(かれ)の伐刀絶技(ノウブルアーツ)・《天眼(てんげん)》を使う(つかう)と幕末(ばくまつ)を思いだし(おもいだし)、悪(あく)を始末(しまつ)していた感覚(かんかく)が甦って(よみがえって)しまうから、連戦(れんせん)の使用(しよう)は控えて(ひかえて)いる。

 

 

『マジかよぉ』

『めんどくせぇ〜。遊びに行けないじゃん』

『そもそも七星剣武祭なんか、参加する気ねえのに』

 

教室の彼方此方(あちらこちら)から不満の声が上がる。

まあ仕方のないことだ。誰も彼もが緋剣のように七星剣武祭に興味があるわけじゃない。

何故なら七星剣武祭は《幻想(げんそう)形態》ではなく《実像(じつぞう)形態》を用いた真剣勝負。

負傷はもちろん、場合によっては命の危険すら伴う戦いになる。

 

誰も彼もがそんなリスクを背負ってまで自分を高めたいとは思っていない。

平穏に卒業して、魔導騎士(まどうきし)としての資格を得て(えて)、高給で安定している仕事に就く(つく)。

そんな平坦な道を望んでいる生徒もいるのだから。

 

「これ、棄権(きけん)したり、負けたら罰則とかおるんですか?」

 

そんな生徒の1人が、折木殿に尋ねる。

 

「ううん。罰則なんてないよ♪当然成績のマイナスもありません。勝てばちょっとボーナスはつくけどね☆もちろん不参加も可。だから『七星剣武祭なんて興味ねーやー』って人は、そのメールを送ってきた『実行委員会』に不参加の意思を書いて返信してください。自動的に抽選からはじかれるようになります。............でもね」

 

ふと折木は一瞬、緋剣の方を見やり、優しい微笑み(ほほえみ)を浮かべ、

 

「確かに大変だとは思う。だけど、誰にでも平等にチャンスがあるという一事(いちじ)だけでも、この制度は素晴らしいものだと、先生は思うな♪それは、ここにいる誰もに、七星剣武祭の優勝者『七星剣王』になるチャンスがあるってことなんだから。だからできればみんな参加して、目指してみて欲しい。その経験はきっと掛け替えのないものになると思うから」

 

向けられた眼差し(まなざし)に緋剣は小さく頭を下げて、感謝する。

折木と緋剣が知り合ったのは......緋剣の入学試験の時だ。

あのとき、緋剣は受験生で、折木は試験官だった。

彼女がきちんと緋剣を評価してくれたからこそ、今緋剣は破軍にいることができている。

そんな1年前の出来事を追想(ついそう)し、

 

(......あ、折木先生殿(どの)って............)

「じゃあみんな、これから1年、全力全開でがんばろーーーーーっ!はーいみんなで一緒に

 

 

えいえい・おブファーーーーーーーッッ!!(吐血)」

 

 

......ものすごい病弱だったっけ、と、緋剣は其のことを今更思い出した。

 

「「「ユリちゃぁぁあぁあああああん!?!?」」」

「あー、大丈夫大丈夫。みんな落ち着いて」

 

突然の惨劇(さんげき)に騒然とするクラスメイトをなだめながら、緋剣は折木の肩を抱き起こす。

 

「心配しなくて良いでござるよ。折木先生殿(どの)って本当はものすごい病弱なんだ」

「いや心配するよ!すごい吐血したもの!?」

「げほっ、ごほっ、......黒鉄君の言うとおり、大丈夫よ」

 

咳き込み(せきこみ)ながら、折木殿は心配する生徒達に儚い(はかない)笑みを見せる。

 

「先生......1日1リットルの吐血は子供の頃からずっとだから......」

「それのどこが大丈夫なんですか!?」

「ごほっ!げほっ。......まあ、そんな身体でもこうやって20年以上生きてるから。先生、1周(いちしゅう)回って頑丈なの。ふふ......すごいでしょう」

「そんな悲しいことで威張らないでください。えっと、とりあえず拙者(せっしゃ)が先生殿を保健室まで連れて行くでござるから、みんなは其処(そこ)の血溜まり(ちだまり)の掃除を頼むでござる」

「わかった。それは任せておいて!」

 

ピーチブロンドの女子が頷いたのを見て、緋剣は折木殿を肩に抱え、保健室に向かう。

其の(その)途中、さっきから1つ気になっていることがあったので尋ねた。

 

「折木先生殿。聞きたいのでござるが、今日ものすごくテンションが高かったでござるが、もしかして新入生のお祝いのためでござるか?」

「ごほ!げほっ!......うん。折角(せっかく)のおめでたい日だから......、みんなをお祝いするために、......先生、超無理してテンションあげてたの......」

 

なるほどそうでござったか。優しい折木殿の考えそうなことだと緋剣は納得し、

 

「折木先生殿......非常に言いづらいでござるが」

「なに?」

「たぶん超ウザがられていたでござるよ」

「がーん......」

 

可哀想でござるが、本人のため。

 

 

 

◆

 

 

 

『先生殿が、今日はもう帰っていいと』

 

と、折木殿の伝言を緋剣が告げたことで、初日のホームルームはお開きとなった。

 

(それでは、珠雫(しずく)殿を探しに行くでござるか)

 

先程(さきほど)からずっと、周りからの視線を感じる。

どう接するべきでござろうか。

 

「せーんぱいっ!」

「なんでござるか?」

 

突然、クラスメイトの女子に抱きつかれた。

 

「んなーーーーーーッ!?ちょ、ちょっとなにやってんのよひけん!」

「其れ(それ)は拙者が聞きたいでござるよ!?」

「やや。私ったらようやく先輩とちゃんとお話できると思ったら、ついテンションがあがっちゃって、とんだご無礼(ごぶれい)をば」

 

可愛らしく『ペロ』と舌をだして詫びる(わびる)眼鏡をかけたピーチブロンドの女の子は、先程掃除を快く(こころよく)引き受けてくれた子だ。彼女は緋剣から離れると、自分の名を名乗る。

 

「私、日下部(くさかべ) 加々美(かがみ)っていいます。先輩のだ〜〜〜〜いファンなんですぅ〜!」

「拙者のファン?」

 

伐刀者(ブレイザー)に対する世間の注目度はとても高い。

 

「ファンができるようなことを、した覚えがござらん......人違いでござるよ?」

「やだなぁ先輩!とぼけちゃってこのこの〜。これですよこれ」

 

加々美殿(どの)が取り出した生徒手帳のディスプレイを見た瞬間、我(われ)に帰る。

ディスプレイに映し出されていたのはーーー

 

「......これって、アタシ達の決闘じゃない!」

 

緋剣と同じようにディスプレイを覗き込んだ(のぞきこんだ)ステラが驚きの声を上げる。

 

「もしかして先輩もステラちゃんも本当に知らなかったのかにゃ?2人とも、ネットとか全然見ない人?」

「そうでござるな。機械が苦手でござるよ......」

「アタシも全く見ないわね。パソコンも持ってないし」

「それなら仕方がない(しかたがない)かも、これ、先輩とステラちゃんが戦ったすぐあとにネットの動画サイトに投稿されて、すんごい祭りになってるですよぉ。みんなは知ってるよね?」

 

加々美殿の問いかけに、2人の話を聞いていたクラスメイト達がみな一斉に頷く(うなずく)。

 

「うん、その動画見たよ」

「アタシも見た。だから色々話聞いてみたかったんだけど、......そのやっぱり年上の人だし、声掛けづらかったんだよね......、あはは......」

 

(さっきから感じていた視線は、この映像見たからでござるか)

 

「なんか気を使わせちゃってごめん。でもクラスメイトなんだから、もっと気軽に声をかけてくれてもいいんだよ?」

 

と、ステラ殿が言った、次の瞬間

 

「「「本当ですかっ!?」」」

 

「おろっ!?」

 

突然、周りにいたクラスメイトの女の子達が、身を乗り出して緋剣に迫ってきた。

 

「よかった!ありがとうございます!黒鉄さん!」

「私、あの試合を見てからずっと黒鉄さんと話をしたいって思ってたんです!」

「アタシもっ!だってすごく格好良かったモンね!」

「あの、黒鉄センパイ、よかったら私に剣の稽古(けいこ)をつけてくれませんか?私、センパイみたいに強くなりたいんです!」

「あーずるい!それあたしもやってくださいっ」

「ちょ、ちょっと待つでござる。確かに気軽にとは言ったでござるが、そんな一斉に来られても困るでござるよ」

 

わいのわいのと尊敬と好意に満ちた視線を送ってくる少女達に、緋剣はたじたじだ。

 

緋剣は、元の世界でも、仕事(暗殺(あんさつ))の一環(いっかん)で、遊郭(ゆうかく)には通っていた(かよっていた)が。

 

年下の女の子に、此れ(これ)ほど一斉に瞳を向けられる。

しかも見つめられるだけでもドキドキするでござるのに、キラキラ輝く彼女たちの瞳には一様(いちよう)に尊敬の光が宿っているでござる。

 

「ふふ、こんなに自分が人気で驚きましたか?でも先輩ってマジで今すごい注目されてるんですよー。私が集めたデータによると、特に女子に大人気!」

「ええっ、な、なんででござる?」

「だって先輩ってすっごく強いじゃないですか〜。魔導騎士を目指す女の子は強い男の子が大好きなんですよ。それに、あれだけ強いのに《落第騎士(ワーストワン)》って呼ばれたり、一人称(いちにんしょう)が拙者って言うから《時代錯誤(アナクロニズム)》って、通り名(とおりな)も持ってるし。でも1番大きな理由は、先輩の顔ですね。先輩、結構可愛い顔してますしー」

「ま、まあ、元の世界でも、男として見られるのは稀(まれ)だったけれど」

「元の世界......?」

「いや、何でもないでござるよ」

「そうですか、あと、その困ったみたいな微笑(びしょう)も、母性本能に『ぐっ』と来ちゃうんですよねー」

 

加々美殿の言葉に「うんうん」「年上なのに可愛いよね」と周りの女子たちが同意する。

 

「加々美殿!?」

「それでですねぇ先輩。今日はそんな大人気の先輩にお願いがあるんですぅ。可愛い後輩のお願い、聞いてくれますかぁ?」

 

腕に抱きつき、至近距離からうるうるとした瞳で見つめてくる加々美殿。

 

「な、なんでござる......拙者にできることなら......協力するでござるよ?」

「わーい♪ありがとうございます!お願いというのはですね、私、実は、新聞部を作ろうと思ってるんですけど、先輩に記念すべき破軍高校壁新聞第1号を飾って欲しいんです!見出しは......そうですねー。『脅威!研ぎ澄まされた(とぎすまされた)龍の鉤爪(かぎづめ)が、噂(うわさ)の超新星(ちょうしんせい)を一蹴(いっしゅう)!』ってな感じで」

「ふぅ〜ん。よかったじゃない。モ(・)テ(・)モ(・)テ(・)で。取材、受けてあげたら、先(・)輩(・)」

 

ものすごく仏頂面(ぶっちょうづら)だった。(なんででござるか)

 

「えっと、元の世界では、影(かげ)の仕事をしていて、瓦版(かわらばん)に乗ったことがないから、どのような取材かわからないでござるよ?」

「瓦版......?ああ、今で言う、新聞みたいなものね。大丈夫ですよぉ。私が優しく手ほどきしてあげますからぁ」

「では、宜しくお願いするでござるよ、日下部さん」

「そんな他人行儀やめてくださいよ。加々美でいいですぅ。私と先輩の仲じゃないですかぁ」

「加々美殿。ちょっと、その、胸が......あたっているでござるよ」

「あやや?あたっていますね♪直接触ってみます?」

「まず、離れてから、話をしましょう」

「いわですー。取材を受けるって、言ってください!あと、......教えてください。先輩のコ・ト♥」

 

耳元に唇を寄せ囁かれる(ささやかれる)甘声(あまこえ)。耳朶(じだ)を撫でる吐息。

 

(......か、可愛いでござるよ......)

 

なんだかんだで緋剣も男の子なわけで。

年下の、しかも可愛い女の子に積極的に迫られて、嬉しすぎて表情にしまりがなくなる。

加々美殿の積極的なアピールにたじたじの緋剣。

そんな緋剣に......ついにステラの我慢が限界に達した。

 

「ちょっとひけんっ!!」

 

何をデレデレしているのよ、情けない。そう緋剣を叱責(しっせき)しようとしたそのときーーー

 

「おいセンパイ、オレたちともお話しましょうや」

 

敵意を隠そうともしない粗暴な、獣の唸り(うなり)声にも似た声がかかった。

 

 

 

◆

 

 

 

ぞろぞろと、5人の目つきの悪い少年が少女達を押しのけて、緋剣の前に立つ。

その中でも一際(ひときわ)体躯(たいく)のいい少年が、威圧を込めた声を緋剣に向ける。

 

「ずいぶん人気者ッスねェセンパイ。でもちーっと調子乗りずきなんじゃねーッスか?教室だってのに、女侍らせて(はべらせて)イチャイチャンと」

 

こめかみに青筋を立てながら、高い視点から緋剣を睥睨(へいげい)する少年は、ようするに目の前で女子を独占している緋剣が気に入らないらしい。

 

「なによ真鍋(まなべ)!嫉妬してんの?」

「自分がもてないからって、ひがんでるんじゃないわよ!サイテー!」

「んだとこのアマ!マー君に向かってナマ言ってんじゃねえよッ!」

「あー待って待って」

 

女子に凄んだ体躯のいい少年ーーー真鍋の取り巻きを緋剣がなだめる。

 

「目障りだったのなら謝るでござるよ」

「ハッ、なに善人ぶってんだよ詐欺師(さぎし)のくせに」

「詐欺師?其れってどういう意味でござる」

「アホな女は騙せても(だませても)なァ、オレは騙されねェよ。FランクがAランクに勝てるわけねぇ。どうせセコいイカサマでもやったんだろ。こんな風に、人気を取るためによォ」

「あぁん?何を言われても構わないが、オレと戦ったステラ殿まで侮辱するのでござるな!」

「あくまでもAランクに勝ったって言い張るわけだ。面(つら)の皮が厚いこって。だったらよーーー本当にそんなに強いんなら、今からオレらに稽古つけてくださいよセンパイ」

 

5人の少年が緋剣の周りに展開する。

さらにはリーダーの真鍋を除いた4人は各々の固有霊装(デバイス)を顕現(けんげん)させた。

 

「ちょっとアンタ達本気!?こんなところで霊装使ったら停学よ!?」

「うるせえよビッチ!怪我したくなかったら下がってろ!」

 

加々美殿の注意を一蹴し、霊装を構える4人。

 

「では、拙者が稽古つけて、差し上げるでござるよ♪」

「テメェ..........」

「先輩!私、ちゃんと正当防衛だって証言するよ!だからやっちゃて!」

 

加々美殿が迎撃を促す。

 

「いや、その必要は無いでござるよ」

 

そう必要は無い。だって霊(・)装(・)を(・)用(・)い(・)た(・)戦(・)闘(・)行(・)為(・)な(・)ど(・)、起(・)こ(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

「ーーーーーーーー」

 

瞬間、緋剣は意識を人斬り抜刀斎の感覚へと、落としていく。

 

(此の(この)中では、1番速いのは真正面から来る日本刀だが、元の世界では、モブ侍でござる)

 

緋剣は、空手(からて)の右手を前に出し、手の甲を振り下ろされる白刃(はくじん)の腹に添えて、暖簾(のれん)をくぐるような気安さで刃(やいば)の軌道を横に逸らした。

 

「えーーーーーー」

 

日本刀を振りかぶった少年に驚愕(きょうがく)の表情。

逸らした剣閃(けんせん)は戻らず、刃(やいば)は緋剣の横を素通りする。

其の(その)すれ違い様に、緋剣は彼の足をつま先で引っかけーーー

 

「「うわぁぁああああ」」

 

前から来た少年は軸足を払われ、其の儘(そのまま)緋剣の背後ロングソードの形をした霊装を振るおうとしていた少年を巻き込んで転倒。派手に机に突っ込んだ。

まず、2人。

 

「この野郎ォォォおぉお!!」

「死ねぇぇぇえええーーーーーッ!!」

 

次いで(ついで)、左右から全く同じタイミングで鉄棍(てっこん)と斧(おの)が振るわれる。

双方の狙いは緋剣の頭部。此れ(これ)の対応は簡単だ。

 

「おろっ」

 

と、油断したと思わせて、緋剣は膝(ひざ)を折り、頭を下に下げる。

直後、頭上で弾ける鉄と鉄のかち合う快音。

其れ(それ)は双方全力で振り抜かれた鋼の衝突であり、

 

「「ぎゃあぁああああああああああああ!!!!」」

 

左右の2人は自分の腕に走った電撃のような痺れに悲鳴を上げ、悶絶する。

あと、1人ーーー。

 

「く、くそっ!!」

 

先程(さきほど)までの太々しさ(ふてぶてしさ)は何処(どこ)へやら。

真鍋は仲間の崩壊に隠しきれない狼狽(ろうばい)を浮かべ、慌てて自らの霊装を顕現させる。

大口径(だいこうけい)のリボルバー。東洋人には珍しい種類の霊装だ。

其の銃口が緋剣に向けられ、引き金が絞られる(しぼられる)。

1秒後、撃ち放たれるだろう魔弾。其れに対し緋剣は『心(しん)の一方(いっぽう)を真鍋に放つ。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 

心の一方を掛けられた真鍋は、引き金を絞れなかった。

 

「な、なぜ?指が動かない?」

「其れは、俺(おれ)がお前の身体の自由を奪ったからだ!」

「くっ、お前ら、立ち上がって、ヤツをどうにかしろ!」

「「「「おれ達も、動けないんだよ!!!!」」」」

「あっ、言い忘れていたが、悪党(あくとう)ってのは、往生際(おうじょうぎわ)が悪いから、倒れている4人にも、掛けている」

 

真鍋達5人の瞳は、怯えに満ちていた。

 

「......仲良くするでござるよ。此れから1年、一緒にやっていくクラスメイトでござるから」

 

真鍋はもう、カクカクと頷く(うなずく)だけだった。

そして、緋剣の動きに圧倒されたのは、真鍋達だけではなかった。

 

「「「........................」」」

 

周りにいたクラスメイト達も、空手(からて)のまま、誰1人傷つけることなく、伐刀者(ブレイザー)5人を倒した緋剣のあまりの強さに呑まれ、言葉を失っていた。

 

「お、おろ?ステラ殿、......教室の空気が冷たいでござるよ」

「そりゃそうでしょ。それだけ力を見せればこうなるわよ」

「力を見せたでござるか?怪我をしないように限界まで手加減したつもりでござるよ」

「限界一杯手加減してこ(・)れ(・)だからみんな驚いてるんじゃない」

 

ステラ殿が呆れたようにため息漏らした、其の次の瞬間、

 

パチ、パチ、パチ.........

 

教室の入り口から、拍手が聞こえてきた。

なんだろうと視線をやるとーーー其処(そこ)には、廊下から差し込む陽光(ひかり)を背に、1人の小柄な少女が立っていた。

短い銀髪(ぎんはつ)に、淡い翡翠(ひすい)色の瞳。

全体的に色素の薄い雰囲気(ふんいき)......しかし其れ故に、強く人を惹き付ける美少女。

彼女はつぼみのように小さい桃色の唇で微笑み(ほほえみ)を作りーーー

 

「雑魚(ざこ)を寄せ付けない圧倒的な強さ。さすがですわ。ーーーお兄様」

 

典雅(てんが)な声音(こわね)で、歌うように呟いた。

お兄様、と。

其の言葉に、緋剣は目を見開く。

 

「まさか......」

 

いや、問うまでもない。問う必要もない。

口調も、面差し(おもざし)も、髪型も、びっくりするほど大人びたーーー

其の呼称で自分を呼ぶ人間は此の世に1人しかいない。

お祖父様(おじいさま)が亡くなった広い黒鉄(くろがね)屋敷で、たった1人、緋剣の安らげる場所でいてくれた少女。

 

「しず、く......」

「はい。......お久しぶりです。お兄様」

 

 

 

◆

 

 

 

「珠雫(しずく)殿!!」

 

4年ぶりに再会する妹君(いもうとぎみ)に、緋剣はたまらず駆け寄り其の(その)小さな手を取った。

 

「うわ、やっぱり珠雫(しずく)殿か!此方(こっち)こそ本当に久しぶりでござる!なんだかすっごく大人っぽくなったでござる!見違えたでござるよっ!」

「当然です。4年も逢って(あって)いなかったのですから。変わらない方がおかしいですよ」

「あはは、そうでござったな!いやでも、まさか珠雫から逢いに来てくれて、嬉しいでござるよ!今日から此方(こっち)から探しに行こうかと思っていたでござるが教室でゴタゴタあってーーー」

 

珠雫に逢ったら話したいことがいっぱいあったでござる。

たが、其の(その)何れ(どれ)も此れ(これ)も上手く言葉が出てこない。

 

「ねえひけん。その子ってもしかしてーーー今朝話してたひけんの妹君(いもうと)さん?」

「そうでござる!ステラ殿、みんなにも紹介するでござるよっ」」

 

緋剣はみんなに珠雫を紹介しようとする。

だが其の(その)時、ぐいっ、と、みんなの方に視線を向けた緋剣を引き戻すように、珠雫が緋剣の袖を掴み(つかみ)、引っ張った。そして、

 

「お兄様......ずっと、お逢いしたかった............」

 

 

緋剣の頬に手を当てて、淡い色の唇を重ねた。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!」

「「「ナニゴトーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?!?!?」」」

 

衆目(しゅうもく)を憚らない(はばからない)口づけ、ステラ殿とクラスメイトたちが絶叫する。

 

「ちょ、ちょっとひけん!あ、あああ、アンタなにやってんのよッッ!?」

「ステラ殿、ハウス!」

「........な?」

「珠雫殿、久しぶりの口づけ、柔らかかったでござるよ♪」

「お兄様♥♥♥」

「ひけんも、いつまで妹君(いもうと)を、抱きしめてるの!!」

「誰?此の(この)、にゃ~にゃ~鳴いている(ないている)、泥棒猫(どろぼうねこ)は?」

「ど、泥棒猫ぉぉおおおおおっっ!!」

 

拙者は、珠雫に紹介する。

 

「此方(こちら)は、同室(どうしつ)のステラ殿でござる」

「まぁ?同室で御学友(ごがくゆう)のステラさんでしたの?私(わたくし)、緋剣(ひけん)お兄様の婚約者(こんやくしゃ)で妹君(いもうと)の珠雫(しずく)と申します(もうします)♪以後(いご)、お見知り置き(おみしりおき)を」

 

ステラ殿が硬直(こうちょく)していた。

此の空気を割ったのは、加々美(かがみ)殿だった。

 

「私は緋剣君のクラスメイトの、日下部(くさかべ) 加々美(かがみ)と言います。あ、彼の(あの)、珠雫(しずく)さん。質問してもよろしいでしょうか?」

「加々美さん、宜しい(よろしい)でしょう。質問を許可します♪」

「貴女(あなた)は、緋剣君とは兄妹(きょうだい)ですよね?」

「いえ、違います。義妹(ぎまい)です」

 

質問をした加々美殿とクラスメイトか、首を傾げた。

 

「緋剣(ひけん)お兄様と私(わたくし)は一緒(いっしょ)に暮らして(くらして)いましたが、血の繋がり(つながり)がありませんので、口づけも許容範囲(きょようはんい)なのです♥」

 

 

「義妹(ぎまい)ぃぃぃぃ!?」

 

 

と、ステラ殿が大きな声で、絶叫(ぜっきょう)した。

 

「えっ、えっ、待ってね、ちょっと整理するから」

「「うん」」

 

拙者と珠雫(しずく)は、ステラ殿が落ち着くのを待つ。

 

「始めに、元の世界(幕末)から飛ばされてきた緋剣は黒鉄(くろがね) 龍馬(りょうま)さんに助けられた。これは合っている?」

「そうでござる」

「そして、黒鉄(くろがね)家の養子(ようし)になった」

「そうでござるな」

「幕末へ戻る方法が見つかったら、帰る。見つからなかったら、この時代に残る。オーケー?」

「オーケーでござる」

 

アタシは緋剣への質問を終え、珠雫(しずく)さんに向く。

 

「珠雫(しずく)さんは、緋剣がこの時代の人間ではないことを、知っていますか(しっていますか)?」

「はい」

「この事を知っているのは、緋剣を助けた龍馬(りょうま)さんと本人と珠雫(しずく)さんの3人だけですか?」

「はい♪」

「黒鉄(くろがね)の屋敷(やしき)の中で、兄妹(きょうだい)として育てられていて、緋剣を好き(すき)になったと?」

「ノンノン、緋剣(ひけん)お兄様を、大好き♥に、なったの♪」

 

アタシは、珠雫(しずく)さんの話を聞いて、心を落ち着かせる。

 

「珠雫(しずく)さん。アタシも緋剣が大好きなの!だから、貴女(あなた)に緋剣を譲らない(ゆずらない)!」

「私(わたくし)も譲りたく(ゆずりたく)ないっていったら、どうするの?」

「2人で緋剣を幸せにする!」

 

珠雫(しずく)殿は、ステラ殿の提案に驚いていた。

 

「そ、その、考えは、頭になかったわ。それ、良いね♪ステラさん♥私(わたくし)も、その提案に乗った♪」

「あ、彼の(あの)、拙者の意見は?」

「「幸せにしてね、緋剣(お兄様)♥」

 

拙者とステラ殿と珠雫(しずく)殿の話は終わっーーー

 

 

「ちょっと、待った。黒鉄(くろがね)君!」

 

 

終わった直後、加々美(かがみ)殿が声を上げる。

 

「その、恋人の中に、あたしも入れてください。お願いします♪」

 

加々美(かがみ)殿が、ステラ殿と珠雫(しずく)殿に、頭を下げていた。

 

(どうするの、珠雫(しずく))

(私(わたくし)は、正妻(せいさい)ですから、構わないですが?)

(アタシだった、正妻(せいさい)なんだから)

((では、決まりね))

 

加々美(かがみ)殿は、2人の答えを待っていた。

 

「「これから、宜しくね、加々美(かがみ)♪」」

「はい♪」

 

「何度も言っているでござるが、拙者の意見はーーー!」

 

緋剣の声が、教室に虚しく響いた。

 

「これで、創刊号の見出しは『黒鉄(くろがね)と3人の彼女(かのじょ)』てのは、どうでしょう」

『え、黒鉄さん、って、皇女(こうじょ)と妹君(いもうと)と日下部(くさかべ)さんも」

「うわぁ、隠れ(かくれ)肉食系って......レベル高いわね。転落系プレイ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
































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