体から薬物を分泌できるようになった大学生の話 作:ヒモになりたいナマケモノ
俺は超能力者である。
正確にはついさっき超能力者になったばかりの新米超能力者だが。
先ほど高校の卒業式を終えて、家族そろって焼き肉屋に向かっている車内。一人後部座席に座っている俺は何をするわけでもなく車窓を流れる風景をボーっと眺めていた。高校を卒業したと言っても感慨はなく、ただ通う場所が変わるだけで住む場所も変わらない。俺が合格した大学は偏差値もそこそこのありふれた地方国立大学で、授業に付いていくのも苦労しないと先輩から教えてもらった。つまりここから一か月は特に勉強をすることもなく、だらだらと遊び惚ける日々が始まる。普通なら受験が残っていたり、一人暮らし用の部屋の契約などで忙しいのかもしれないが、あいにく俺には無関係だ。暇な時間があるというのはうれしいことだが、それが一か月もあると持て余してしまう。
そんなことを考えていると、頭の中にメッセージが送られてくる。突然の感覚に驚いてあたりを見回すが、前に座っている両親に変わったところはなく、車内には最近流行りのJpopが流れているのみだ。それにこのメッセージは音として聞こえてきたわけじゃない。うまく言えないが、脳に直接流れ込んできたのだ。
俺は頭の中に入ってきたメッセージに意識を向けて内容を確認する。
『超能力当選のお知らせ』
『このたびは【※※※星】人類の皆さんを対象とした「超能力プレゼントキャンペーン」にご応募くださいまして誠にありがとうございました。
今回、特賞の「ランダム超能力Lv.0」が当選いたしましたのでお知らせのメールをいたしました。
賞品の付与は間もなく行われます。詳細の確認は脳内のメニューバーからご確認ください。』
意味が分からない。徹頭徹尾理解不能だ。
超能力が当選したってどういうことだ?こんな怪しいキャンペーンに応募した覚えなんて一切ない。そもそも【※※※星】って何なんだ?聞いたことが無いどころかどうやって発音するのかさえ分からない。詳細ってのを確認しようにも脳内のメニューバーが分からない。メッセージを確認した要領で探ってみるが、そんなものはどこにも見当たらない。
あまりにも訳がわからないので幻聴・幻覚の類だと思い、すべて忘れてしまおうとしたところ突然とんでもない頭痛が襲ってきた。あまりの痛みに俺は声を上げることもできず、頭を抱えてうずくまることしかできなかった。まるで血管に溶けた鉄を流し込まれたような熱さと内部から爆発しそうなほどの痛みに必死に耐えているとまたもやメッセージが送られてきた。そしてそれと同時に一気に痛みが引いていく。
異変を感じたのか前の席から母さんが心配そうに声を掛けてくるが、それに大丈夫と答えて大きく深呼吸をする。深呼吸の後はさっきまでの頭痛がウソのように消えていて、残っているのは新たなメッセージとさっきまでは無かったメニューバーと思しきアイコンだった。
頭痛の原因は分からないが、突然頭痛が収まったことはこのメッセージが関係しているだろう。メッセージが送られてきたと同時に頭痛が収まったのだからこれで無関係だなんて考えられない。先ほどと同じようにメッセージに意識を向けると内容が確認できるようになった。
『賞品誤送付のお詫び』
『薬師寺忠雄様
この度はご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした。
先ほど天界にて行われました「超能力プレゼントキャンペーン」の賞品が誤って薬師寺様へ付与されるという事象が発生いたしました。また、付与された「ランダム超能力Lv.0」は【地球】人類の皆様用に調整されたものではなく、上位の知的生命体用の賞品であり、薬師寺様の脳では負荷に耐えられず機能停止・死亡を引き起こしてしまうものでした。
一度付与された賞品を取り除くことは極めて困難だったため、誠に勝手ながら賞品に耐えられるように薬師寺様の脳をアップグレードさせていただきました。詳細は脳内のメニューバーからご確認ください。
今回のお詫びと言ってはなんですが、脳のアップグレードを行ったことにより知能の向上や付与されている超能力の行使が可能となっております。これらを使用して今後の人生を豊かに過ごしていただければ幸いです。』
……どうやらさっきのメッセージは誤送信で、付いてきた特典が俺の脳では扱えない代物だったらしい。そのせいで死にかけた俺を今度は脳みそを弄ってどうにか俺を生き永らえさせたと。それで前よりもスペック上がってるはずだから許してねと、要約するとこんな感じか。
正直俺の気がどうかしてしまったと考えたほうがまだ現実味がある。しかしさっきまでの頭痛は紛れもない事実で、脳内にはメニューバーが消えずに残っている。それにさっきから妙に頭がすっきりしている。これらを鑑みて俺の中で何か変化があったことは間違いない。少し面白くなってきたじゃないか。ちょうど暇な時間が一か月もあるんだからいろいろと試してみるのも悪くない。