体から薬物を分泌できるようになった大学生の話 作:ヒモになりたいナマケモノ
家に帰る前に優子さんに連絡を入れてさっき会ったことを話すと、少しうれしそうな声が帰ってくる。
「幸田さんと仲良くなったの!?」
「うーん、仲良くなったと言ってもまだ一回しか話してないけど、まぁ悪くはないと思うよ。」
「ううん、十分すごいよ!幸田さんって距離が遠いというか、こっちから近づいても逃げていくっていうか、私も何回か話しかけて避けられないようになるのが精一杯だったんだよ!」
「そうなの?そんな風には……見えるか。とにかく、今日優子さんのところに行く時にノートを貰える約束しててさ、そのお礼にご飯の差し入れでも出来ればって思うんだけど大丈夫かな?」
「もちろん!むしろ差し入れなんかじゃなくて、夕飯に招待してみたら?一緒に食べたほうがおいしいし、それに何回か迷惑だってかけちゃってるわけだから///」
確かに、優子さんの家に行くたびにSEXしているのだから声が漏れ聞こえてるかもしれない。いつものお詫びも込めて夕食に招待するのはいいアイデアだ。
「そうだね、じゃあノート取りに行く時に誘ってみるよ。」
「ううん、それだと夕飯の支度をしちゃってるかもしれないよ?忠雄君は幸田さんの電話番号とか分からないだろうから、私が直接誘っておくよ!私も少し幸田さんと話したい事あるし。」
「そうなの?じゃあお願いするね。俺はいつも通りの時間に着くようにするから。」
「うん、待ってるね!」チュッ♡
電話越しにキスをして電話を切る。夕飯の差し入れでも優子さんに面倒をかけてしまうと思ってたのに、夕食に誘ってあげるなんて、なんて優しいんだろうか。優子さんは幸田先輩と何回か話したことがある程度って言ってたけど、優子さん的にはもっと仲良くなりたかったのかな?話したい事ってのもそれ絡みだろうし、優子さんも幸田先輩と仲良くなれたらいいな!
ピーンポーン
「あ、薬師寺君かな。思ったより、早かったな。ノート、ノート……あった、これで全部だね。」
薄暗い部屋の中、ゴミ屋敷までとはいかないが散らかった室内。比較的綺麗なベッドの上でスマホを弄っていた私の耳にインターホンの音が届く。いつもなら私の部屋を訪ねてくるのなんて宅配便位だが、今来てるのはおそらく今日知り合った後輩だろう。隣の部屋に住む女の子の彼氏くん、いつも彼女にエグイ喘ぎ声を上げさせる鬼畜彼氏。話してみた感じまともそうな雰囲気を醸し出していたが、一皮むけば本能に忠実なエロエロ大魔神に違いない。いつも二人のSEXの音漏れをオカズにオナニーしてる私が言うんだから間違いない。
そんなエロ後輩を待たせるのも悪い。私は自室の机の上に堆積している過去の教科書などの山の中から目当てのノートを引っ張り出して玄関に向かう。
ガチャ
「おまたせ、これ約束の……」
「こんばんは!幸田さん。」
玄関を開けると私の思っていたのとは違う人物がそこに立っていた。件のエロ後輩の彼女、私も何度か授業で話したことのある桃田さんだ。いつものゴスロリ服とは違う、ラフなシャツとパンツに身を包む彼女はいつもより大人に見える。
「も、桃田さん?な、なんで、うちに?」
「忠雄君から聞いたよ、ノート譲って貰えるんだって?そのお礼のお誘い。今日は夕食一緒にどうかな?」
「え、あ、いや、そんなお礼を言われるほどじゃ……」
「そんなこと言わずに!ほら、来て来て!今日は餃子を作るんだ!一緒に作ろうよ!」
そう言って私の腕を引っ張ってくる。よろけつつも何とか家の鍵だけは手に取って部屋のオートロックが掛かる音を背に隣の部屋に連れ込まれてしまう。
あれ、桃田さん、何度か話したけどこんなに強引な人だっけ?
部屋の中に入ると片付けの差なのか、同じ間取りの筈なのに不思議と私の部屋よりも広く感じる。全体がピンクでまとめられつつもいくつか黒いクッションもあり、女の一人暮らしに男が転がり込んだ感じが見て取れる。漏れ聞こえてくる喘ぎ声の頻度からして週に2,3は泊っているのだろう。大学一年生にしては色に溺れすぎな気もするが、それをオカズにしている私が言えたことでもないだろう。
促されるままにリビングの椅子に座るが、肝心の薬師寺君の姿が見えない。トイレなどにいる気配もないし、まだ来ていないのだろうか?
「あの、薬師寺君は、まだ?」
「うん、後30分位したら着くかな?それまでは一緒にご飯の準備して待ってようよ。私、幸田さんと話したかったんだ!だからこういう機会が出来てうれしい!」
キッチンから餃子の餡と皮を持ってきながらそう話す桃田さんだけど、絶対それだけじゃない。約20年ずっと人の顔色を窺って生きてきた私には分かる。声と顔は笑ってるけど、全体的な雰囲気からマイナスな感情も感じる。私、なんかまずいことしちゃったっけ……!?
「あ、あの、私、何かしちゃったかな……?」
「ん?急にどうしたの幸田さん?しちゃったというよりも、してくれたから招待したんじゃない!さ、一緒に餃子でも包もうよ!」
勇気を出して私の不手際について聞いてみても答えてもらえない……
それからは二人で黙々と餃子を包むだけの時間が流れていく。時たまあちらから会話を振られるものの、この状況に緊張してか、それとも生来の気質のせいなのか会話は弾むことなく、すぐに無言に戻ってしまう。
そんな時間が10分程続いた時、桃田さんの声色が今までの猫をかぶったような声ではなく、少し低い、素の声になって話かけてきた。
「幸田さんはさ、忠雄君の事、どう思ってるの?」
質問をされた時、一瞬その意図が全く分からなかった。
どう思うと言われても、今まであったことなど2回しかなく、まともに話したのは今日が初めて。そんな相手のことをどう思っているのかと聞かれても正直困る。(オカズにしたことは幾度となくあるが)
「どうって、今日話したのが初めてだし、ただの後輩としか……」
「そうなんだ、幸田さんは初めて話しただけのただの後輩にノートを譲るような心優しい人間だったんだね。」
なんだか棘がある返しをされてしまった。そうは言われても、本当にただの後輩としか思っていないし、ノートをあげるのも個人的にはゴミ掃除の一環というか。
「え、あ、あの、ちょっと、何を言いたいのかが、分からないというか。ノートをあげるのは、どうせ私はもう使わないからいいかなって……」
「ふーん、ならこれから仲良くなっていったらノートどころか使い古しの下着まであげるようになっちゃうのかな?」
「し、下着って、そんなのあげるわけないじゃん!!」
本気で何を言いたいのかが分からない!!あいにく私はそんなビッチ臭いマネを出来る気も無いし、する気も無い!!
「そうなんだ、顔見知り程度の関係性の女と一度も話したこともないその彼氏のSEXを盗み聞きしながらゴソゴソしてる人にもそのあたりの恥ずかしさはあるんだね。」
「!!??!?な、何で、それを!?」
「そりゃあ分かるよ、こっちが盛り上がってるときにいつも隣の部屋の方から物音がするし、次の日に大学で顔を合わせても恥ずかしそうに顔を伏せるんだから。反応から簡単に察しはつくよ。」
は、はずかしい!まさかバレてるなんて!
「でもね、そんなのはどうでもいいの。私たちが愛し合ってる姿を聞かれたからって私達には何の影響も無いんだから。むしろ聞かせてあげようと思って声を大きめにあげてあげてたくらいなんだから。」
「え、じゃ、じゃあなんで……」
「あなたが明確に干渉してきたからじゃない。今まで人の彼氏をオナニーのネタにしてきてた女がその彼氏に接触してきたなら警戒するのは彼女として当然じゃない?」
「干渉って、話かけて来たのは、薬師寺君からで……」
「そんなことどうでもいいのよ!!!!!!」
バンッ!と強くテーブルを叩きつけながら立ち上がる桃田さん。私は、大きな音におびえて小さく縮こまるしかできなかった。
「私が!あなたに言いたいのは!忠雄君に話かけられたからって調子に乗るなってこと!!いい!?私たちの間に割り込むなって事!!!」
「ひっ、わ、わかりました!!も、もう薬師寺君とは喋りません!!」
大きな声で詰められた私は何も反論などせず、相手の言うことを聞くことにした。これだけが私が20年生きてきた中で学んだ、怒る女性に対する対処法だった。
桃田さんがこんな人だとは思っていなかった。薬師寺君に話しかけて貰えて、初めて先輩風を吹かせられそうだからって嬉しく思ってたけど、ここで意地を張っては身の危険まで感じる。
私の即答に気分を良くしたのか、桃田さんはゆっくりとした動きで再び椅子に座り、餃子を包みながら今度は優しい声色で話かけてくる。
「ごめんね、ちょっと言葉が強くなっちゃった。でも、幸田さんがわかってくれて私うれしいな!」
「ひ、ひゃい……」
「でも、勘違いしないで。私は何も全く話すななんて言わないわ。ただ下心を持って忠雄君に近づかないでってお願いしてるだけなの。」
「いや、でも、関わらないのが、一番安全というか……」
「あのね、それじゃあ私が幸田さんに何かしたってバレるかもしれないでしょ?私はね普通の彼女で居たいの。どこにでもいるような普通の彼女、そんな他の女を排除するような重い女じゃなくてね。だからある程度の交友関係も許すし、浮気だって許してあげる。私と忠雄君は運命のパートナーなんだから最終的には私と結ばれるんだからね。」
私は、目の前の女が何を言ってるのかまるで理解できなかった。それじゃあ今私を脅しているのは一体何なのだろうか。
「でも、許せることと不快になることは別っていうか、できれば浮気なんてされたくないの。私だけを見ていてほしい、他の女なんか相手にしないでほしい。
だけど、それを忠雄君に知られて、めんどくさい女みたいな対応されるのはもっと嫌。これでも忠雄君の前では「理解ある彼女」って感じで通してるからね!
だからこうして忠雄君のいないところでお願いしてるの。変な期待は持たないでって。彼のことを誘惑なんて絶対に許さないって私の気持ちを伝えてるの。分かる?」
私は、何も理解できないまま頷くことしかできない。目の前から他の動作は許されないようなプレッシャーにさらされているから。
桃田さんは私の様子を見て満足そうに頷いて再び餃子作りを再開している。
「分かってもらえてうれしい!じゃあ今話したことは忠雄君には内緒にしててね!」
そういわれても、話せるわけがない。それどころか今の私は薬師寺君とまともに顔を合わせることもできないかもしれない。それほどのプレッシャーを感じた。
それから薬師寺君が来るまで、私は餃子作りなど手に付かず、黙って床を見つめるだけの置物となっていたのだった。