体から薬物を分泌できるようになった大学生の話 作:ヒモになりたいナマケモノ
「ごめんなさい、急にお誘いしちゃって。」
「い、いえ、ちょうど暇していたので大丈夫ですよ。」
「そうですか、ありがとうございます……」
「……」
「……」
街で転んでいたゴスロリ女子を助けたら急に逆ナンされてしまった。俺は突然のことに戸惑って流されるままに近くの喫茶店に入ってしまった。目の前には恥ずかしそうに、もじもじとしているゴスロリ女子。特に話題を広げるわけでもなく、時折俺の顔や手を見つめては目をそらしてくる。原因はどう考えても麻薬(仮)なわけだが、どうしたものか。ちょっと実験してすぐにバイバイする予定だったのに。
「あの……お名前を伺っても、いいですか?」
「あ、すみません。俺は薬師寺といいます。薬師寺忠雄です。」
「薬師寺さん、とおっしゃるんですね!私は桃田優子といいます。先ほどはありがとうございました。あんな往来で転んでしまって、周りの方からの目線も冷たくてとてもつらいところを助けていただきまして。」
勇気を振り絞ったのだろう。桃田さんは震えながら俺に名前を聞いてきた。そして俺が名乗ると噛み締めるように復唱し、満面の笑みで名乗り返してくれた。
この反応、俺の今までの恋愛経験(ラブコメ漫画)から推測するに、この女、俺に惚れてるな!!
「いやいや、そんな大したことはしてませんよ。あれくらい普通です。お礼を言われるようなことじゃないですよ。」
「いいえ、それをなかなかできないのが人間です。その普通の事をしてくださったのは薬師寺さんだけでした。私、ものすごく感動しました!」
「そんな、そこまで褒められると照れちゃいますね。」
どうやら桃田さん的にはあそこで手助けをしたことがよほど刺さったらしい。まぁ、あんなに困っていたのに周りは手を貸す様子もなかったし仕方ないのかもしれない。普通の格好の女の子なら下心にまみれた野郎どもが手伝ったのかもしれないが、桃田さんの服装はこの当たりじゃなかなか見ないゴスロリ全開の格好だからな。話しかけるのに躊躇する気持ちも分かる。
「それにしても、ここのお会計、本当にご馳走になっていいんですか?荷物を拾ったお礼としては過剰なような……」
「気にしないでください。それだけありがたいと思ったということです。それに、ここに誘ったのはそれだけが理由じゃないんです。」
「え?他に何か?」
桃田さんはまたしばらくうつむいてしまうが、決心したように俺の左手を両手で包み込むように握ってくる。それと同時に桃田さんの体がビクッと震える。しまった、麻薬(仮)の分泌を止めてなかった。
内心慌てる俺だが、桃田さんはうっとりとした表情を俺に向けて話し始める。
「これです!薬師寺さんも感じるでしょう?肌が触れ合うだけでじんわりと幸せが流れ込んでくる感じ!これはまさに運命。困っていた私を救ってくれた薬師寺さんはまるで白馬の王子様!私の運命の人!」
興奮しながら語る桃田さん。声が大きくなり、周りの目がこちらに向く。
「お、落ち着いてください。幸せがどうこうっていうのは俺も心当たりがありますけど、白馬の王子さまってのは大げさじゃ?」
「まぁ、確かにいささかハプニングの規模が小さいとは思いましたけど。だけど、この感覚を薬師寺さんも感じているんですよね!やっぱりこれは運命……運命の出会いをしたんです!」
「お願いですから落ち着いてください。」
桃田さんはどうやら夢見がちなロマンチストな面を持っているようだ。
「肌が触れ合うだけでじんわりと幸せが流れ込んでくる」か、思わぬ形で麻薬(仮)の効果が知れた。だけどこの様子だと麻薬というよりも惚れ薬みたいな効果が出たらしい。確かに突然幸せな気持ちになって、しかもそれが異性に触れたことがきっかけなんて桃田さんの言うように運命めいた何かを感じる人間もいるかもしれない。それにしたって桃田さんは過剰だが。
もしこれで俺が超肥満体系の激ブスだったらどうだっただろう。さすがに理性が勝って多幸感は気のせいってことにされちゃうのかな。中肉中背のフツメンでまだよかったと思っておこう。
それにしても結構ベタ惚れされてるよな。顔も可愛いし、服のせいでスタイルはいまいちわからないけど少なくとも太ってはいない。ちょうどレベリングのためにキスとかを気兼ねなく出来る相手が欲しかったし……
「桃田さん、ありがとうございます。そんなに俺の事想ってくれて。実は俺も桃田さんに触れただけで幸せな気分になれたんです。これってやっぱり運命ですよね。」
「薬師寺さんもですか!うれしい、私とてもうれしいです!あの、よければこれからもお会いできませんか?」
「会うだけだなんてさみしいこと言わないでください。互いのことを知るのなんて後からいくらでもできる。桃田さん、いえ優子さん。俺とお付き合いしていただけませんか?俺は今そのくらいあなたに対して運命を感じている。」
自分で言っておきながらどんどん意味が分からなくなってくる告白だが、恋愛経験がラブコメ漫画しかない童貞のアドリブなんてこんなもんだ。しかも桃田さんには刺さったらしく、口元を抑えて無言で頷いてくれている。カップル成立ということでいいだろう。
まさか俺の初彼女がこんなあっさりとできるなんて思わなかった。でもおかげで今後のレベルアップ作業も楽になりそうだ。
だけどSEXはどうしよう。俺はまだ童貞卒業を最高の女でという野望をあきらめていない。桃田さんも可愛いけれど、童貞を捧げる相手としては今一つ足りないという所だ。とりあえずしばらくはSEXを要求されてものらりくらりと躱していくとしよう。