※この作品はR-18です。

森久保を連れて逃げてしまうプロデューサー。   作:なおちー

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高垣楓さんと佐藤心。

プロデューサーはどうにかして楓を怒らせないような

文章を考えながら自らの髪の毛をワシャワシャした。

 

(ええい。クソッ……なんで楓さんにバレたんだ?

 つーか朝っぱら俺を尋問するようなメール送ってくんなよ。

 寝起きだと頭が働かないからスマホの画面見るのが辛いんだよ)

 

時刻は7時過ぎ。そろそろ家を出ないと間に合わない時間だ。

今日は奇跡的に早起きできたのでトーストを焼いていたところだった。

ちなみに普段は、それすらめんどくさくてシリアルか

カロリーメイト(チーズ味)で済ませてしまうのだが。

 

「ん?」

 

別の人からもメールが来た。

 

『おはようございまスィーティー☆

 はぁとは今、ぜんっっぜん甘ったるい気分じゃないゾ。

 こんな朝っぱらからメールしちゃってごめんね☆

 ちょっとね……どうしても聞きたいことがあったんだ』

 

プロデューサーはこれ以上メールをするのが完全に面倒になり、

むしろこちらから電話をすることにした。

佐藤心はワンコールで出てくれた。スピーカーフォンにする。

 

ストレスで胃が締め付けられるのでパンを食べるのは諦めて

パジャマ代わりのスウェットを脱ぎながらスーツに身を通す。

 

 

「おはよ。はぁと」

 

「おはよーさんきゅー。電話してくれてマジありがと☆

 んで、はぁとが何を訊きたいのか分かってる?」

 

「俺と和久井さんの事だったりする? っていうか、そうだよね」

 

「おう☆ 分かってんじゃーん。

 なになに。昨日は夜の事務所で二人きりでラブラブだったとか?」

 

「……」

 

「あーあ。否定しないのかよ……。はぁと、ショックだぞ」

 

「最近忙しくてさ。

 仕事でストレスがたまってたんだ……。ごめんね。

 本当に自分でもどうかしてたと思ってる」

 

「そんなに真剣に謝るなよ☆ 別にいいんだよー。

 はぁとはプロデューサーが悪いわけじゃないって信じてるぞ♪ 

 どーせあの行き遅れ女にしつこく迫られたから

 仕方なく……って感じのノリだったんだよね☆

 そうだな? そうだろ☆」

 

「……留美は悪くないんだ」

 

「留美は悪くない?」

 

「あ、いや。違うんだ」

 

急に信の声が沈み込んだので怖くなる。

いつものふざけたノリの時と、

怒っている時のハートはもう何もかもが違う。

 

「ハート。聞いてくれ。あとで君とじっくり話がしたいんだ。

 今は出勤前だからちょっとな……。今日の夕方以降まで待ってくれるなら

 二人きりで食事でもしながら話がしたいんだが」

 

「ふむふむ。夕方にふたりきりってのも悪くないけどさー☆、

 どっちかっつーと、今からでも準備オーケーだぞ☆」

 

バタンと、扉が開けられて佐藤心がアパートの部屋に入って来た。

 

(なんで……)

 

プロデューサーはショックのあまり目の前が真っ暗になる。

床に尻餅をついた時、ようやく自分が倒れたのだと知った。

ハートが優しく抱き起してくれた。

 

「具合は大丈夫?」

 

「ああ、悪いな。なんか急にめまいがしてさ」

 

「疲れてるなら今日は一日休んだ方がいいんじゃない?」

 

「いや、それはまずいよ。俺には仕事がまだ山ほど残って……」

 

また、立ち眩みがした。

 

20代の終わり頃からこんな症状が出るようになった。

たまにお風呂から上がろうとすると、足を滑らせて

倒れそうになることがある。真冬も熱い部屋から冷たい

場所へ移動すると急に頭がボーっとして足元がふらつく。

 

慢性的な寝不足が原因か。あるいはストレスか。

 

「プロデューサーは具合が悪いのに押し掛けちゃってごめんね」

 

「いや君が謝ることじゃないよ。元はと言えば俺が悪いんだからさ」

 

「ハートは今日オフだからちょっとばかり調子に乗って

 早起きしちまってさ。なんつーか、邪魔して悪かったよ。

 今日はおとなしく帰ることにする」

 

「待てよ。まだ帰るな」

 

「えっ、えっ……。なんで。どうして?」

 

「君は一人暮らしの病人を残して帰るつもりか?

 俺は見ての通り具合が悪いんだ。

 ハートは今日一日俺の面倒を見てくれないかな。

 やっぱり今日は会社を休むことにするから」

 

(あとでちひろさんにすげー怒られそうだが……)

 

 

そして心による看病が始まる。

 

朝から掃除洗濯をしたり買い出しに行ったりと

プロデューサーを労わってくれていたが、

ふとプロデューサーが電源を切ったままの携帯を見て

好奇心がわいてしまう。

 

お昼前になった。プロデューサーはベッドで寝ている。

携帯の件だが、さすがに病欠の日まで仕事関係の人間と繋がりたくない気持ちはわかる。

携帯の電源を切ったのはそれが理由か。いや、もっと別の理由もあるはず。

 

佐藤心は、彼の携帯の電源ボタンを長押しした。

 

今この瞬間も彼のLINEに送られているメールを見て驚く。

相手はたくさんいた。和久井留美、高垣楓、三船美優、安倍奈々、

川島瑞樹。大人組ばかりだ。

 

プロデューサーが倒れたことは乙女達にとって周知の事実。

是非看病させてほしいということで皆が熱っぽい文章を送ってきている。

着信履歴も相当な数が残っている。心は無表情で履歴を削除する。

 

いっそこいつらのデータもすべて消してやろうかとさえ思う。

 

優しかった彼のことを思い出すたびに、他の女達へも

同じように優しく接する彼の姿を憎むようになる。

 

いつしか彼はこう言った。

 

『ハート。俺はハートとずっと一緒にいたいんだ』

 

『アイドルだからじゃない。俺はハートを一人の女の子として好きなんだよ』

 

『痛いキャラなのは個性。それだって貴重な才能だよ。俺は決して君をバカにしたりしない』

 

『好きだ。心。ちゃんと俺の目を見てくれ。俺の気持ちはちゃんと伝えたよ。

 次は君の気持ちが聞きたい。君の気持ちはどうなんだい?』

 

 

長野県の田舎から東京に出て来て、世界がそんなに広くないことを知った。

このちっぽけな世界の中で、変わり者として知られる自分を

こんな風に熱っぽく口説いてくれる男性はプロデューサーだけだった。

 

心はその人並外れて美貌から男性から言い寄られることは多々あったが、

表面上の付き合い以上の関係に発展したことはなかった。

 

彼にスカウトされるまでは、ファミレスでアルバイトをしながら

デザイナーを夢見て勉強を続けていた。

 

自分にはそんな才能がないと分かっていながらも、20代後半にもなって

良い相手にも恵まれずに惰性でアルバイトを続けている自分が何よりも嫌いだった。

母親だけでなく親戚の叔母さんにまで今期を逃したらどうするのと説教されるが嫌だった。

 

自分をちゃんと見てくれるプロデューサーだからこそ、

まだ彼と結婚の約束もしてないのに体まで許してしまった。

心はいつか彼が真剣にプロポーズしてくれると信じていた。信じていたかった。

 

トントン。

 

アパートの玄関の扉がノックされた。

 

誰か来たのだろうか。

 

 

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