※この作品はR-18です。

森久保を連れて逃げてしまうプロデューサー。   作:なおちー

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そして森久保を連れて逃げ出した。

それからは大変だった。

 

辞めようとする千川ちひろ事務員を社長や部長が必死に止め、

Pを慕うアイドル達はそれを冷たく眺め、

プロデューサー自身は銀行の預金通帳の残高をみてほくそ笑む。

 

(よしよし。よくここまで耐えた。

 飽きっぽい性格の俺にしては頑張った方だな。

 海外に逃亡するための資金は十分に溜まったぞ)

 

激務のストレスで髪の毛に白髪が混じるようになり、

32歳の若さで白髪染めを初めて使うことになる。

 

20代後半のアイドル達に言い寄られるプレッシャーから

胃液の分泌が過剰になり、胃薬を飲み続けた。

気が付いたら胃薬を飲んでも効果がなくなってしまう。

 

彼は、ストレスの限界だった。

 

部長の指示でジュニアアイドルの組成を始めようとした際、

たまたま駅前で見かけた森久保乃々を見た時、なんとなく

彼はこう思っていた。

 

(あの子、人見知りなのか。

 さっきから俺が見つめてるのに全然目を合わせてくれない)

 

森久保は、誰かと待ち合わせをしているのか、所在なさげに立っている。

広大な東京駅の中で彼女のいる空間だけが異彩を放って見える。

プロデューサーは、森久保の独特の雰囲気をその時確かに感じた。

 

見た目的には中学生くらいだろうからジュニアアイドルと呼ぶには

少し年上かもしれない。とにかくプロデューサーの好みの女の子だったので

声をかけないわけにはいかない。

 

「ねえ君」

 

「……?」後ろを振る。

 

「いや、君だよ。君に話しかけているんだよ」

 

「は、はい? 何か御用でしょうか」

 

「私は……都内にある芸能事務所で働いているものです。

 お近づきのしるしにぜひ名刺を受け取っていただきたいのですが」

 

大手芸能プロダクションの名前を見て森久保は驚いていた。

それからスカウトの話に進むのだが、森久保の待ち合わせ相手が

もうすぐ来るからと話を切り上げられてしまう。

 

今回は縁がなかったか。彼はそう思ったが、

森久保から自分の携帯に三日後になって連絡が来る。

それから、とんとん拍子で話は進み、森久保に基礎的な

ダンス、ボーカルのレッスンを済ませてから単独でデビューさせた。

 

初めてだったのでミニライブだったが結果はそこそこ好評だった。

CDもファンの前で手渡しで販売した。そして、プロデューサーはこう思った。

 

(森久保を犯したい)

 

こうして物語が冒頭のシーンへと戻るわけだ。

プロデューサーは誰にも邪魔されない自宅のアパートで

森久保の初めてを頂いた後、すぐに海外渡航の手続きを済ませてしまう。

 

森久保に少しの間日本を離れる旨を伝えると激しく取り乱した。

 

「え? え……? どうして海外に行くんですか。

 森久保はまだアイドルとしてデビューしたばかりなんですけど」

 

「言っておくが仕事じゃなくて旅行だからな。

 俺は乃々に対して責任を取ると言っただろう?

 だからさ、責任を取るためにこれからカナダに行くんだよ」

 

「カナダ!! カナダに行くんですか?

 お仕事じゃないのにどうして……。

 意味が……分からないのですけど」

 

「難しく考える必要はないからさ。気楽に考えよう。

 ちょっと気分転換にカナダに遊びに行くだけだよ」

 

「ひぃ~。ムリですぅ。森久保はカナダになんて行きたくないです。

 海外って怖いし英語もしゃべれないし」

 

「大丈夫大丈夫。最近のカナダは結構日本語も通じるらしいし、

 メシも美味いらしいからそんなに苦労しないと思うぞ」

 

「で、でもでも!!」

 

「乃々。ちょっとこっちを向きなさい」

 

「んぐっ……」

 

森久保にクロロホルムを染み込ませたハンカチを嗅がせた。

あとは予定通り。森久保が覚める前に小さな身体をトランクケースに押し込み、

成田空港近くのビジネスホテルに泊まった。

 

翌朝起きた乃々が駄々をこねて暴れ出すが、

適当に愛の言葉を並べて誤魔化すことに成功。

とりあえず将来は絶対に結婚することにした。あくまで現時点での口約束だが。

 

「わあ、空の上ってすごいですね。

 森久保は飛行機に乗るの初めてなのでここから見える景色に感動します。

 座席の下にもぐることができないのが難点ですけど」

 

「はは。俺も久しぶりの飛行機だからなんか新鮮な気分だよ。

 途中で眠くなったら寝ちゃっていいからね」

 

 

彼らが飛行機に乗っている間、346プロの事務所では修羅場となっていた。

 

 

「彼と音信不通……ですか?」楓

 

「ええ。昨日の夜から急に連絡が取れなくなったそうだけど。

 それに彼が無断欠勤するなんて今までなかったんじゃないかしら」留美

 

「おいおい。まじふざけんなし。

 まさか仕事が嫌になってバックレちまったのか?」心

 

「ちひろちゃんは本当に何も聞いてないのかしら?」瑞樹

 

「はぁ……ですから知らないって何度も言ってるでしょう。

 むしろ知りたいのはこっちの方ですよ。

 今週中に終わらせないといけない仕事がたくさん残ってるのに……」ひちろ

 

やがて話し合いがヒートアップしていく。

 

彼と会いたいのに会えないアイドル。仕事が溜まっていくちひろ。

プロデューサーがいないせいで予定が入っていた仕事が消化できない。

先方からの電話への対応は熾烈は極める。

彼らは業界の人間だ。プロデューサーと連絡が取れませんでは済まされない。

 

 

「そんな時はこの私にお任せあれー。失せ物探しは得意でしてー」

 

 

そこへやって来たのは、かつて彼が愛してやまなかったアイドル。

依田芳乃だった。彼はかつて芳乃に付きっきりでプロデュースをしていたし、

プライベートでもお忍びデートをするなどして可愛がっていたが、

やがて古風な謎キャラに飽きてしまって距離を取るようになった。勝手な男である。

 

そんな扱いを受けても尚、芳乃は彼を慕っていた。

 

その芳乃が、プロデューサーが海外へ逃亡したことを

明らかにしたのがその三日後だった。

 

実際に彼の自宅を捜査しても空室同然となっており、逃亡の痕跡らしきものは

見当たらなかったが、芳乃曰く、自然の精霊の力を少しお借りしたとのことで、

逃亡先の国名まで言い当てた。カナダだ。

 

 

その時、失せ物(P)と森久保はカヤックに乗っていた。

 

 

「わあっ。わっ。また水しぶきが……。

 腕が疲れちゃってオールを漕ぐのが辛いんですけどぉ。

 それに9月にしては寒い気がしませんか」

 

「やっぱカナダの気候は全然違うよな。

 乃々、疲れたならしばらく休んでていいぞ。

 しばらく俺一人で漕いでやるからな」

 

鍛えられたプロデューサーの両手が、パドル(オールの事)を勢いよく動かす。

両足をしっかりと伸ばし、安定させながら、できるだけ全身を連動させながら

しっかりと、リズムよくパドルをこぎ続ける。

 

太陽が天頂に近づく頃になると、風が凪いだ。

先ほどまでこの広大な湖をまるで海のように荒れさせていたのが嘘のようだ。

 

プロデューサーは心の平穏を得た。

これで多少気を抜いても転覆することはないだろう。

 

晴天の下でプロデューサーは良い汗をかいていた。

厚くなってきたのでウインドブレーカー(ヤッケ)を脱いで、

半袖シャツの上からライフジャケットを着た。

 

(プロデューサーさん……いつ見てもすごい筋肉です)

 

服の上からでも分かる彼の肉体は、彫刻のように美しかった。

筋肉があるなんてもんじゃない。前職が自衛官なのでは?思わせるほど強靭な体だ。

森久保はカヤックに乗るのは初めてだし、パドルの漕ぎ方なんて当然知らない。

 

「見ろ乃々。あっちだ。あの先にみえる対岸は、実は小さな島なんだ。

 そこを曲がるともっと広い湖に出られるんだ。景色をよく見ておくんだぞ」

 

「は、はい。わぁ……本当に広い……」

 

森久保の眼前を広大な景色が通り過ぎていく。

ゴツゴツした岩肌を見せる山々。

東京では絶対に見られない針葉樹林がまるでカビのように所々に生えている。

 

 

「湖って言うより海みたいに思えるんですけど。

 川から見みえる景色がこんなにも素晴らしいなんて……」

 

 

ユーコン川。

 

カナダ西部のユーコン準州からアメリカのアラスカ州にかけて流れる。

全長約3200km。

全世界のカヌーイストの憧れの地。先住民の言葉で「大河」を語源とする。

 

プロデューサーと乃々が乗る、二人乗りのカヤックには水や食糧が満載されている。

ホワイトホース(州都)に立ち寄った時に買っておいた10キロもの米、8キロ分のパスタ。

日本から持ってきた日清のカップラーメンもある。

 

その辺の陸地に上陸して泊まるためのテントも用意してある。

古来からインディアンに好まれる大型のワンポールテントだ。

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