ジャック・コナー・・・民間軍事会社『テュール』の責任者。
10数年前の『シュバルツバース破壊計画』に参加しており、ライドウと一時的では あるが番契約をしていた。
国防総省司令 ウィリアム・グリッグズの依頼でシュバルツバースの調査をしている。
半年振りに再会した想い人は、かなりやつれていた。
帝国議事堂地下で、”八咫烏”首領の『人喰い龍』こと骸に、利き腕を斬り落とされ、挙句、両足もズタズタに引き裂かれた。
意識を失う寸前、ライドウが自分を必死で止めている事だけは理解出来た。
―自分の為に涙を流してくれている。
その事実が、妙に嬉しかった。
月並みの表現ではあるが、ダンテにとってライドウは、決して手が届かぬ高嶺の花であった。
幾度も性交渉をしているが、決して心までは赦してくれなかった。
それがもどかしくて、無体な行為を繰り返してしまった。
今にして思えば、随分と餓鬼だったんだと思う。
瀕死の重傷を負い、ボロ雑巾となったダンテを救ったのは、意外にも玄武だった。
四神の一柱であり、骸の右腕的存在だった。
奴の根城である『鞍馬山』で目覚めたダンテは、玄武から強くなる為の指導を受けた。
地獄の様な修練だったが、弱音一つ吐く事無く、ダンテは耐え抜いた。
骸を倒し、ライドウを毒蛇から解放する・・・・その一念だけが支えとなった。
半年後、玄武は「腕試しをして来い」と、自分のツテを使って、ダンテを『壁内調査』に参加させた。
”シュバルツバース”は、未知の領域。
凶暴な悪魔が徘徊しており、生存確率は極めて低い。
そんな噂があるにも拘わらず、『壁内調査』を志願する隊員は多かった。
お目付け役として同伴した甲賀忍者、猿飛・佐助の話によると、志願兵は貧しい国の出身者が多いらしい。
”シュバルツバース”は、未知の鉱石やエネルギー体が豊富な場所である。
上手く持ち帰れば、数年間、家族を養える上、国から手厚い保証を受ける事が出来る。
未曽有うの”世界大恐慌”の真っ只中である為、失業者が多く、年若い連中は、軍に入隊するのだそうだ。
後続部隊である巨大調査艦『ギガンティック号』に乗り込んだダンテ達は、ライドウがいるセクターデルファイナスに向かった。
『腐り爛れた国』という名に相応しく、生ゴミや廃棄物が山と積まれた最悪なエリアだった。
この地を統べる天魔・アスラ王曰く「美しいカタチ」なのだという。
弱肉強食、力こそ全てと尊ぶアスラ王は、文明に染まり切った人類を「低俗極まる霊」と蔑んでいた。
そんなデルファイナスの概要を、『ギガンティック号』に積み込まれた疑似人格プログラムである「ベルヌ」から聞かされても、ダンテにとってはどうでも良い事だった。
彼の関心事は、先遣隊に参加しているライドウだけであり、主が持つ「魔王・アモン」をどう飼いならすかだけであった。
ー アモンを使いこなせたら、大将を殺す事が出来る。
師の戯言をまともに受け止める気持ちは更々無いが、『神殺し』の力は興味をそそられた。
魔王・アモンは「絶対者」の一柱であり、あらゆる因果律を捻じ曲げる存在なのだという。
もし、自分がその力を得る事が出来れば、ライドウを『クズノハ』から奪い取る事が出来る。
再び、レッドグレイブ市で、共に便利屋稼業を営める。
ダンテは、純粋にその力を欲した。
玄武も、弟子の内情を読み取り、敢えて番契約を譲渡した。
デルファイナスに到着後、ダンテはすぐ行動を起こした。
ライドウが、エリアのボスである天魔・アスラ王と交戦している事を聞くと、彼等がいる中央エリアを目指した。
現場に到着すると、黒い甲冑を纏う八本腕の巨人相手に、隻眼の悪魔使いと最新型のデモニカスーツを装備する隊員が壮絶な戦闘を繰り広げていた。
半年振りに出会うライドウに、ある種の懐かしさがこみ上げたが、相棒として共闘する相手の正体を知った瞬間、怒りの炎が腹腔内を焼いた。
自分と同じ、最新型のデモニカスーツを着用している隊員は、遠野・明だった。
ライドウが養子として引き取っている少年で、組織『クズノハ』暗部、”十二夜叉大将”の一柱であった。
自分に最大級の屈辱を与えた少年に、ダンテは激しい憤りを覚えた。
戦闘に乱入後、ライドウとデザイナードッグである『ニュートン』の協力もあり、天魔・アスラ王を討伐する事に成功した。
アスラ王が散り際、『混沌の王』と自分を呼んでいたが、さして気に留める事は無かった。
それよりも、明の存在が邪魔で仕方が無かった。
大人げない、と言われればそれまでだ。
しかし、想い人であるライドウは、息子という理由もあるが、明を特別視しており、愛情を抱いて接している。
また、明も親子以上の感情をライドウに抱いていた。
汗まみれの褐色の肌が、自分の身体の上で揺れている。
ぐっしょりと濡れた肉壺が、雄々しく立ち上がった男根を包み、腰をグラインドする度に、締め付けて来る。
ダンテは、腕を伸ばし、揺れる大振りな乳房を下から揉んだ。
チョコレート色の乳首を指で挟み軽く捩じると、女が感極まった声を上げる。
ジェニット・バスクエスは、南米系出身だけあり、性には大胆な女だった。
男勝りで、狙撃手としてのプライドが高く、簡単に股を開く恥知らずな女では無かった。
しかし、自分が男として認めた相手には寛容で、求めれば、後腐れが無い相手として付き合ってくれる。
次に調査するエリア”セクター・エリダヌス”で、懐かしい面々と再会する事になった。
4年という短い期間ではあるが、共に死線を幾度も乗り越えた頼もしい連中だった。
ウィリアム・ハドソンとジェニット・バスクエス。
両者は共に、特A以上の実力者で、自分と同じ異能力を持つ。
ハドソンは、父親が人間、母親が魔族の半人半妖。
バスクエスは、由緒正しい「魔女」の家系で、戦闘で失った肉体の一部に上位悪魔の体組織を移植している。
本人達曰く、「本物の社会不適合者」で、「悪魔を殺す」以外、何の役にも立たないらしい。
騎乗位から正常位へとシフトし、激しい律動を繰り返すと限界を迎えて、女の膣内に精を吐き出す。
終わったと安堵した吐息を吐く女の身体を反転させ、尻を吐き出す屈辱的恰好にした。
「ちょっと! 」
あまりに乱暴なやり方に、バスクエスが怒りの声を上げる。
「お前、まだイってないだろ? 」
尻を抱え、再びグラインドを繰り返す。
膣から精液が漏れ出し、粘着質な音を立てた。
「・・・っ、苛々してるね? 隊長。」
喘ぎながら、バスクエスが背後で自分を犯す男を睨み付ける。
常にクールで、どんな絶望的状況下でも、ユーモアを忘れないタフな男であるが、ベッドの上では人格が変わる。
今迄、溜まった鬱憤を吐き出す様に、乱暴なやり方で女を抱く。
それが好きだとのたまう女隊員もいたが、プライドが高いバスクエスは、女をストレスの捌け口に使うダンテがどうしても許せなかった。
「”人修羅さん”と上手くいってないんだ。」
「うるせぇ。」
昼間、彼女はダンテと番契約をしている悪魔使いを見た。
自分よりも一回り背が低く、特殊素材の上着と革の胸当て、鉄の手甲と具足を装着していた。
顔は、右眼以外を赤い呪術帯で覆っている為、良く分からない。
漂う雰囲気は、明らかに人外のソレであった。
「好きなんでしょ? 何で傷つけるの? 」
「・・・・・分からねぇ、本番になれた時は嬉しかったんだけどな? 」
汗まみれの女の背中を眺めつつ、ダンテは本音を吐露した。
バスクエスは、不思議な女だった。
占い師だったという実母の影響か、相手の心の隙に潜り込むのが上手い。
「アタシから見て、人修羅さんは隊長を大事にしている様に見えたけど。」
「知ってる、だから余計に腹が立つ。」
まるでお前は足手まといだ、と言われているみたいで、ライドウの過保護過ぎるやり方が気に喰わない。
昼間の出来事を想い出し、苛立ちのまま乱暴に女の尻に腰を叩きつける。
肉槍で子宮を貫かんばかりの律動に、バスクエスの口から悲鳴が漏れた。
「た・・・・隊長、もっと優しく・・・・。」
必死に懇願するが、相手は決して受け入れない。
怒りのままに、女を捻じ伏せ、尻を犯す。
思考が白熱し、絶頂の波が、バスクエスの身体を激しく揺さぶった。
超巨大調査艦『レッドスプライト号』のラウンジ内。
クルー達が思い思いに束の間の休息をとる中、室内の片隅に隻眼の悪魔使いがいた。
テーブルの上に頬杖を突き、砂糖なしのブラックコーヒーを啜りながら、愛用のGUMPに映し出されたデータを調べている。
先程、後続部隊の『ブルージェット号』の機動班と合流し、新しいセクター「エリダヌス」を調査した。
流石に、デルファイナスと比べ、出現する悪魔のスキルが異様に高い。
ダンテが従軍時代に部下だったウィリアム・ハドソンとジェニット・バスクエスの両名が参加してくれたお陰で、大分、調査が捗(はかど)った。
しかし、そこで予期せぬ問題が発生したのである。
彼等の元に、救難信号が送られて来た。
相手は、どうやら『レッドスプライト号』の機動班らしく、悪魔と交戦中との事であった。
すぐさま現場に急行すると、あまりに悍(おぞ)ましい光景に一同、言葉を失う。
身の丈4メートル近いクラゲの化け物が、機動班の一人を己の肉体に取り込んでいる最中であった。
「ううっ、またいじめっ子が来た。」
そのクラゲの化け物は、声高い声で、ライドウ達を威嚇した。
すぐさま、明の大型ハンドガン、MAXI8アンリミテッドリボルバーと、バスクエスが持つ支援用銃火器、M56スマートガンが火を噴く。
肉の触手が弾け飛び、紫色の体液が地面を汚した。
「痛い! いきなり何するのよ! 」
怒りの雄叫びを上げ、クラゲの化け物が鋭利な刃物と化した触手をバスクエスに繰り出す。
真横に跳んで躱す女狙撃手。
だが、運悪くハドソンの胴体にぶち当たり、背後の壁へと叩きつける。
「やば! やられちゃったよ! 」
佐助が不謹慎極まりない軽口を叩くが、すぐにその口があんぐりと開く事になった。
鋼鉄と化した触手が吹き飛び、中から雄々しい二本の角を生やした牛の頭部と脚を持つ悪魔が姿を現したのだ。
「たっらーん!正義の魔人、ウィリアム・ハドソン見参!」
「嘘でしょ? 」
牡牛の悪魔は、ハドソンが魔人化した姿であった。
ハドソンは、いきなり地面に両腕を突き刺す。
「いでよ!ダブルトマホーク! 」
地面が大きく削れ、巨大な斧へと姿を変える。
ハドソンは、斧を両手に構えると、地面を蹴り割り、クラゲの化け物との距離を一気に詰める。
「コッチ来るな! 変態! 」
予想外の出来事に、顔色を真っ青にした悪魔が、触手を鋭利な刃物へと変え、牡牛に襲い掛ける。
しかし、ハドソンが持つ斧がバターの様に、斬り裂いて行った。
「悪い悪魔をやっつける!お前が喰った隊員達の無念は俺が晴らす!」
魔人化した事で、かなりテンションが爆上がりしているらしい。
襲い掛かる無数の触手を薙ぎ払い、牡牛が大ジャンプすると、痛烈な蹴りをクラゲの顔面へと炸裂させた。
「し、信じられない。まさかお前以外に魔人化出来る奴がいるなんて。」
無茶苦茶な戦いを繰り広げるハドソンに、ライドウが驚愕で隻眼を見開く。
「俺が配属された部隊じゃ珍しくないぜ? 因みにゴードンの奴の方が、もっと強烈だけどな?」
のんびりとした様子で、ダンテが両腕を頭の後ろで組んで、かつての部下の戦いっぷりを眺める。
従軍時代にダンテが配属された部隊は、バスクエス以外全員魔人であった。
上司の命令を平気で違反。
おまけに簡単に暴走し、周囲へと甚大なる被害を発生させる問題児ばかりだった。
「ううっ、このいじめっ子めぇ! 」
クラゲの化け物の肉体がぶくぶくと膨張し、更に体積が増す。
触手の群れは、巨大な百足へと姿を変え、鋭い顎で噛み砕かんと、ハドソンへと襲い掛かる。
が、突然、その一匹が爆散。
バスクエスのM56スマートガンが、巨大百足の頭を破壊したのだ。
「あーっ!この糞女!俺の活躍を邪魔するんじゃ・・・・ほぎゃっ!」
ハドソンの罵詈雑言は、M56スマートガンから発射される弾丸が頭部を貫く事で大人しくなった。
無様に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるハドソン。
脳震盪を起こしているのか、ピクリとも動く事は無かった。
「な、何なのよ?こいつ等、味方を攻撃する何て頭おかしいでしょ?」
「うん、それは俺様も激しく同意する。」
何故か意見が合ってしまう佐助とクラゲの化け物。
魔人化したハドソンは、かなり頑強な肉体をしているのか、大砲並みの威力があるスマートガンを喰らっても、全くの無傷であった。
「バスクエス、俺の援護をしろ!」
「了解。」
背負っていた大剣『リベリオン』を手に、ダンテが弾丸の如く駆け出す。
腰だめにM56スマートガンを構える女狙撃手。
ダンテの行く手を塞ぐ百足の化け物を、次々と撃ち抜いていく。
「くっそぉ、こうなったら奥の手だ! 」
クラゲの悪魔の肉体が、再び形態変化する。
ぶくぶくと身体中から瘤の様な塊が幾つも浮かび、アサルトライフルを携帯したバケツ頭の兵士へと姿を変えた。
「いけぇ!デモニカ軍団! 」
それは、先程、自分の肉体へと取り込んだ機動班の慣れの果てだった。
良く見ると、デモニカスーツが所々破損し、マスクも壊れいる。
露わになった素顔は、顔の皮膚が溶解し、見るも無残な姿へと変わり果てていた。
クラゲの悪魔から生み出されたゾンビ兵達は、アサルトライフルを銀髪の魔狩人に乱射する。
咄嗟に、ダンテは倒れているハドソンを引き起こし、頑強な肉体を利用して、盾代わりにした。
「いだだだだだだだっ! 」
雨あられと降り注ぐ弾丸をまともに浴び、気絶していたハドソンが意識を取り戻す。
「ごめんな?ハドソン。」
「アンタ!一ミリだってそんな事思ってないだろ!」
平然とかつての部下を盾代わりにする上司に向かい、ハドソンが怒りの声を上げる。
不図、クラゲの悪魔が造り出したデモニカ兵達の攻撃が止んだ。
頭上に展開した幾つもの魔法陣から、氷の槍が速射弾の如く降り注いだのだ。
次々と氷の槍に串刺しにされるデモニカ軍団達。
当然、クラゲの悪魔にも突き刺さり、地面へと縫い留めてしまう。
「今だ!一気に仕留めろ! 」
氷結系中位魔法『マハ・ブフーラ』を唱えたのは、隻眼の悪魔使いだった。
氷の槍により、魔力を喰われ、身動き出来ないクラゲの化け物。
その巨大な頭部を、大剣『リベリオン』が意図も容易く斬り落としてしまう。
紫色の体液をぶちまけ、ボールの様に頭部が転がり停止する。
額の辺りがバックリと割れ、中から灰色のデモニカスーツを着る小柄な兵士が這い出して来た。
「ううっ、酷い・・・・こんなの酷過ぎるよぉ。」
どうやら、灰色のデモニカスーツを着用する兵士は、10代半ばぐらいの少女らしい。
先程の戦闘で、大分、魔力を消費したのか、地面に這いつくばったまま、ライドウ達から逃げようとする。
その眼前に大剣『リベリオン』の刀身が突き立った。
恐る恐る見上げる少女。
まるで虫でも眺める様な冷酷極まりない蒼い双眸が視界に入り、悲鳴を上げる。
「そこまでだ、武器を下ろしたまえ。」
尊大な男の声と、銃器の安全装置を外す音。
見ると、ライドウ達を取り囲む様に、少女と同じデモニカスーツを着た兵士達が、パルスライフルを構えていた。
「その娘は、私の大事な部下だ。 返してくれると大変有難いのだけどね?17代目。」
「ジャック・コナー。」
デモニカ兵から、上官らしい男が姿を現す。
フェイスカバーを上げるその素顔に、ライドウは見覚えがあった。
「久しぶりだね?”シュバルツバース破壊計画”以来かな? 」
大袈裟に首を傾げる男に、ライドウは嫌悪感を露わにする。
暫しの沈黙。
それを破ったのは、ジャック・コナー大佐の部下と言われる少女だった。
「うわぁああああん!ライアン隊長ぉおおおおお! 」
滂沱と涙と鼻水を周囲に振りまき、少女-シャルロッテが、ジャック大佐の隣に立つ大柄な兵士へと抱き着く。
「おおっ、可哀想に、俺の可愛いシャルロッテ。」
ライアン隊長と呼ばれる2メートルを超える巨漢の兵士が、腕の中に飛び込んで来た少女を優しく抱き締める。
「うぐうぐっ、ご、ごいづらびどいんでずよぉ、が、がよばいわだぢをよっでだがっで・・・。」
「大丈夫、もう大丈夫だ。 俺が来たからには、お前には指一本も触れさせないからな。」
一体、何の寸劇だろう。
白ける一同を他所に、少女とジャック大佐の副官が、恨みがましい視線をライドウ達に向ける。
そんな部下達の様子を眺め、ジャック大佐が咳払いを一つした。
「どういう事なのか説明して欲しいな? コナー大佐。」
返事次第では、その首を叩き落とす。
そんな不穏な空気を孕ませつつ、ライドウが一歩前へと出る。
「それはこちらの台詞だ。 君等は、我々の調査領域を侵害した挙句、大事な部下に危害を加えた。国際司法裁判に告訴すれば、確実に君等を有罪に出来るぞ?」
「は? 何言ってんだぁ? このオッサン。」
ジャック大佐のあまりの物言いに、魔人化を解いたハドソンが色めき立つ。
「言葉の通りだ。 我々はアメリカ国防総省の依頼で”シュバルツバース”を調査している。」
「出鱈目を言うな。」
「出鱈目では無い、何だったら、ウィリアム・グリッグズ中将に連絡したまえ、彼が私達の依頼主だ。」
「・・・・・っ、何だと? 」
ジャック大佐の口から、ウィリアム・グリッグズという名前が出た途端、ライドウの顔色が変わった。
グリッグズ中将は、国防総省(ペンタゴン)の長官を勤めており、『フォルトゥナ侵攻作戦』において、裏で暗躍し、ライドウから魔神・ヴィシュヌを奪い取った。
どうやら、今回もあの忌々しい天使が一枚噛んでいるらしい。
「因みに、この領域は、我々の管轄内だ。 勝手な略奪行為は慎んでくれたまえよ。」
ジャック大佐は、勝ち誇った様子で言いたい放題ほざき捲ると、部下達を促し、その場を去ろうとする。
その背を、今迄、黙って事の成り行きを傍観していた明が呼び止めた。
「待てよ? オッサン、コッチもアンタの大事な部下とやらに仲間を殺されているんだ? それについてはどう落とし前を付けるつもりなんだ? 」
明の言う通り、知らなかったとはいえ、機動班の大事な仲間を一方的に殺されている。
静かな怒りの炎を灯す明に対し、ジャック大佐は慇懃無礼な態度を一切崩す様子は無かった。
「私の部下は、大事な資源を略奪する不届き者を成敗しただけだ・・・・そうだろう?ヴァレンタイン上等兵?」
「はい! 私は何度も警告しましたが、アイツ等は私を化け物呼ばわりして、いきなり銃をぶっ放して来たんです!」
「だ、そうだ・・・・他に言いたい事は?」
部下のした一方的とも言える殺戮行為は、正当防衛であると言い切る。
「分かった、ひとまず此処は引き下がろう・・・我々も無駄な争いはしたくない。」
真実の有り無しは判然としないが、ジャック大佐の態度を見る限り、国防総省の依頼である事は間違いない。
一度、『レッドスプライト号』に戻り、ゴア隊長に全てを話して検討する以外、この場を丸く治める術は無かった。
不本意な想いを抱えたまま、一同は一旦、船に帰還する事にした。
事の顛末をゴア・アトキンス艦長へと報告し、疑似人格プログラム「アーサー」の回答を待つ。
数分後、ジャック大佐の言葉が全て事実である事が裏付けられた。
民間軍事会社を経営するジャックは、グリッグズ中将の依頼を受け、最新機器をふんだんに積んだ巨大調査艦『タイラント』で、異界の穴に侵入。
ライドウ達が辿り着くよりも早く『セクター・エリダヌス』の調査を開始した。
「何故、黙っていたのですか? 中将。我々に話を通していれば、無駄な犠牲を防ぐ事が出来たのかもしれなかったのですよ? 」
「すまんな、アトキンス大佐。 コナー君に依頼した事は、極秘事項だったのだ。情報漏洩を防ぐ為、話す訳にはいかなかったのだよ。」
メインデッキに設置された映像パネルに映る初老の男が、何ら悪びれた様子もなく、ゴア隊長の言葉に応える。
「私の大事な部下が死んだんですよ?」
「止む無い犠牲だ・・・それに、コナー君の報告によると、一方的に彼の部下に攻撃したそうじゃないか? 」
「・・・・・。」
「君の部下を疑う訳じゃ無いが、か弱い女性に訓練を受けた兵士数名が暴行するなど・・・言語道断だと思わないか?」
「ふざけんなよ? 爺。」
両者の会話にダンテが割って入る。
激しい怒りの炎が蒼い双眸に宿っていた。
「あの餓鬼は悪魔だ。 自分の欲望に溺れ、楽しんで人間を殺していた。」
シャルロッテの発言には、矛盾点が多すぎた。
ダンテ達が、機動班から救難信号を受け、現場に駆け付けると、悪魔化したシャルロッテは、美味そうに機動班の血肉を喰らっていた。
誰の目から見ても、一方的に殺戮を楽しんでいた。
「それは君の意見だろう?ダンテ伍長。申し訳無いが、確固たる証拠が無い限り、コナー君を糾弾する事は出来ないよ?」
「回収したブラックボックスに証拠映像が残っている。」
「はっ・・・そんなモノ、幾らでも捏造出来る。 中立な立場にいる以上、一方の言葉ばかりを信用する事は出来ない。」
「コナーって野郎の肩は持つじゃねぇか。」
「彼は、私の元部下だ。品行方正で謹厳実直を絵に描いた様な人物だよ。命令違反を繰り返す君とは違う。」
永遠に漂う平行線。
鋭い眼光を向けるダンテを、グリッグズ中将は軽く往なす。
「全く埒が明かんな。コナー君達の管轄区域を迂回して、最終エリアのホロロジウムへ向かう航路を探すしかない。」
「それは、非推奨します。グリッグズ司令。」
そんなグリッグズ中将の言葉を疑似人格プログラム・アーサーが否定した。
「ホロロジウムに向かう為には、エリダヌスに存在する”バニシング・ポイント”を探すより術がありません。」
アーサーの解説によると、一番安全な航路は、コナー達が管轄している領域を通る必要があるのだという。
「アンタ、コナーの上司なんだろ? だったら、すんなり通す様に説得ぐらいしてくれよ? 」
仮にもアメリカ国防総省司令に対し、厚顔不遜な態度を崩さないダンテに対し、誰も窘める輩は存在しなかった。
否、この場にいる全員が、グリッグズ中将に対し、深い疑念と怒りを感じていた。
「無理だな。一応話はしてみるが、私と彼はあくまで雇用関係でしかない。」
一同の非難の目を知ってか知らずか、グリッグズ中将は冷たく切り捨てた。
そして、硝子玉の様に感情の無い蒼い双眸が、隻眼の悪魔使いへと向けられる。
「17代目、君が直接コナー君と話し合う、というのはどうだろう?”シュバルツバース破壊作戦”では彼と仮番の契約をしていたんだろ?」
「・・・・・。」
驚くクルーの視線が、隻眼の悪魔使いへと突き刺さる。
ダンテも隣に立つライドウへと視線を向けた。
「噂によると大分親密な関係だったそうじゃないか。 それに、当事者同士が話し合えば、私が説得するより上手くまとまるかもしれん。」
あまりな言い草に、しかし、ライドウは特段嫌悪感を露わにする様子は無かった。
感情の全く無い右の隻眼を国防総省司令へと向け、短く了承の意を告げる。
それに納得したのか、グリッグズ中将は、会談の日時は後日報告する旨を伝え、一方的に通信を切った。
「どういう事だ? 爺。」
予想通り、早速、ダンテが噛みついて来た。
怒りを隠そうともせず、乱暴に相棒の胸倉を掴み、己の目線まで持ち上げる。
「止せ! 伍長、これには訳があるんだ! 」
愛息子の明が動くより早く、ゴア艦長がダンテの肩を掴み、悪魔使いから引き剥がした。
「10数年前、東京湾沿いに建設された人工島”天海市”で、街全体を覆う程の異界の穴が発生した・・・・それは、君等も既に知っているとは思う。」
ゴア艦長は、分かり易くかいつまんで、当時の出来事を話し始めた。
天海市に突如現れた”異界の穴”は、凄まじいスピードでその範囲を広げていた。
事態を重く見た国連は、各国の首脳を集め、即席の『調査隊』を結成。
超国家機関『クズノハ』を中心に、異界化の原因を調べる事にした。
その結果、北米大陸に存在した太古の部族が崇拝していた自然の神、”大霊マニトゥ”が異形化した場所-二上門、古代遺跡の地下だと判明した。
調査隊達は、異界化を広げている原因の悪魔を討伐するべく、二上地下遺跡へと向かう事となる。
「だが、我々の前に神霊”ティアマト”と”アスプ―”が立ち塞がった。 奴等の力はあまりにも強大で、17代目やその番、ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリー殿下ですら歯が立たなかった。」
アメリカ陸軍総司令・トレンチ大将や歴代剣聖最強と謳われる、四代目剣聖・アルカード・ヴュラド・ツエペシュの二人で漸く互角の戦闘が出来る程、二体の悪魔は強かった。
能力の関係故か、後衛役を務めるライドウの負担は筆舌し難く、魔力が枯渇し、番であるヨハン一人では、到底、賄(まかな)う事が難しくなった。
「窮地に追い込まれた我々に、とある人物が作戦を企画立案した・・・それが伍長達の教官だった、ケビン・ブラウン大佐だ。」
「ケビン大佐が? 」
「そうだ。 大佐は、17代目に戦闘面や魔力の面で優れる人材と仮番の契約を組ませ、対”ティアマト”と”アスプ―”の精鋭部隊を作ったのだ。」
ケビン大佐の作戦は、功を奏し、何とか二体の悪魔を撃破する事が出来た。
「ジャック・コナーは、戦闘面で非常に優秀だった。 若くして陸軍中尉に抜擢され、剣豪(シュバリエーレ)の称号も取得していた。」
故に、仮番の契約者の一人として選ばれたのだという。
「これで理解してくれたか? 」
「ああ、分かったよ。」
大分、不服ではあるが、や無負えない状況だった事だけは理解出来た。
ダンテは、相棒へと視線を向けるが、ライドウは一度も此方を見ようとはしない。
きっと他にも何かを隠している。
この悪魔使いは、自分に都合が悪い時や、腹を立てている時等は、口を固く閉ざす癖があった。
今回もその何方(どちら)かであるとは思うが、ゴア艦長の手前、それ以上追求する事は、憚(はばか)られた。
膣の奥に熱い精液が注ぎ込まれた時、アンジェラは恍惚とした。
幾度目かの絶頂に、大きな尻を激しく痙攣させる。
尻を犯していた男は、暫く膣の理想的な締め付けを堪能すると、ゆっくりと肉壺から男根を引き抜いた。
男が退くとまた違う男が、アンジェラの尻を抱えた。
先程まで、フェラチオを強要していた為か、男根は唾液で濡れ光っている。
愛撫もロクに与えず、肉壺に打ち込むと、アンジェラの背が綺麗にしなった。
アンジェラ・真木は、日本人の母親とラテンアメリカ人の父親を持つ混血児だった。
父親は多情な性分で、浮気を繰り返し、母親を泣かせた。
アンジェラが小学校に入学する前に、両親は離婚した。
母は、幼い彼女を連れて新宿へと移り住み、歌舞伎町で水商売をしながら、生活費を稼いだ。
母一人、子一人の生活は苦しかったが、それでも幸せだった。
しかし、そのささやかな生活も、第二次関東大震災が全て破壊した。
四つん這いの恰好で、尻と口とに男達の肉棒を受け入れる。
男達の絶妙な愛撫に、性器は愛液で潤み、男が激しく抽送を繰り返す度に、粘着質な音を立てた。
―何故、こんな事になったのだろう?
生臭い男根を喉奥深くまで受け入れ、頬を強く窄めるアンジェラは、ぼんやりと事の経緯を想い出した。
震災で実母を失い、親戚をたらい回しにされたアンジェラは、結局、住み慣れた新宿へと戻って来た。
彫の深い顔立ちと、肉感的な肢体を持っていた為、娼婦館ではそこそこの売れっ子になれた。
”八部連合阿修羅会”の構成員だった男が、彼女を見初め、結婚した。
その時に、娼婦から足を洗い、飲食店で女給として働く事になった。
夫は、優しいだけが取り柄の「社会不適合者」であり、その日の稼ぎを全てギャンブルで使い果たすロクでなしだった。
見かねた若頭候補のケンが、夫である銀蔵に再三戒めたが、結局、ギャンブル癖は治らず、結婚して半年で離婚した。
それから、3年間、前夫である銀蔵とは一切連絡すらしていない。
今、尻を抱えている男は、一度吐精した為か、余裕があった。
激しく揺れる豊満な乳房を揉みつつ、乳首を擦る。
もう片方の手が、結合部へと伸びた時、アンジェラは、男根に奉仕しながら喘ぎ声を漏らした。
休日、溜まっていた洗濯物をまとめて洗い、昼食を取っている時に突然、男達が押しかけて来た。
一目で、”八部連合阿修羅会”の構成員である事が分かった。
彼等は、会長タヤマの右腕、カミロの部下だった。
「奴は、組の金と”クスリ”を盗んで逃げた。何処に逃げたか素直に喋るんだな?」
寝耳に水だった。
銀蔵の事等、忘却の彼方に捨てていた。
アンジェラが本当に前夫の行方を知らないと知ると、男達はズボンを脱いだ。
夕暮れ近くまで、アンジェラは男達に弄ばれた。
「暫くの間、張り込ませて貰う。」と、男達のリーダー格らしい酷薄そうな男が言った。
濃いサングラスの下から覗く金色の目を見た時、アンジェラは抵抗する気力を根こそぎ奪われた。
”新宿区”の掟は知っている。
娼婦時代に培ったテクニックをフルに使い、男達を楽しませた。
抗って無駄な暴力を受けるより、快楽に溺れてしまった方が利口だ。
5本の肉棒に奉仕し、手と口を巧みに使って、男達を逝かせた。
何回目かの男に尻を抱えられている時、玄関のドアが吹き飛んだ。
膣に”ゼブラ”を押し込まれ、アンジェラの脳は、強力な催淫作用で蕩け切っていた。
男達が驚愕で固まる中、元娼婦は、咥えた男根を離さなかった。
頬を強く窄め、狂った様に頭を振りたくっていた。
「男をイカせたい。」その欲望に支配され、舌で男の鈴口を舐(ねぶ)り捲る。
「銀蔵!てめぇ! 」
前の男が、元娼婦を突き離し、後ろの男が乱暴に膣から男根を引き抜く。
急に刺激を失い、アンジェラは欲求不満になった。
男達の怒号と銃声が、鼓膜を容赦なく叩く。
アンジェラは、パニックになり、無意識に部屋の片隅へと逃げた。
震える視界の中、炯々と赤い双眸を持つ悪魔が、男達の身体を引き裂いていた。
全身に銃弾をぶち込まれても、全く怯まない。
やくざの腕を引きちぎり、内臓をキッチンの床へとぶちまける。
悪鬼の正体は、銀蔵だった。
”ゼブラ”を過剰に摂取し、オーバードーズを起こしていた。
リーダー格の男が、獣の様な雄叫びを上げて、緑色の体色をした怪物へと変貌する。
男の正体は、邪鬼”オーガ”だった。
筋肉が膨張し、体格が二回り以上大きくなる。
悪魔化した銀蔵を掴み上げ、破壊された玄関口へと投げ飛ばした。
銀蔵が、アパートの二階から投げ出される。
その後を追い掛けるリーダー格の男。
アンジェラは、胎児の様に身体を丸め、只啜り泣くしか他に術が無かった。
黒塗りの大型バイクを駆り、一人の男が、西新宿にある住宅街へと向かう。
八部連合阿修羅会の若頭候補、ケンだった。
彼は、カミロから銀蔵が組の金と”クスリ”を盗んで逃走した事を知らされた。
―奴の女房に償わせてやる。
ニヤニヤと嗜虐心に満ちた笑みをケンへと向け、カミロが言った。
女房とは、勿論、アンジェラ・真木の事である。
怒りで思わずカミロの胸倉を掴みそうになったが、必死に耐えた。
今は、アンジェラの安否を確認するのが先決だった。
アンジェラの住んでいる西新宿の住宅街へと向かう少し前、弟分のハレルヤから”歌舞伎町二丁目にある移民キャンプが襲撃された”という報告を受けた。
どうやら、”黄虎”を壊滅させた報復として同盟関係にあった同じ中国マフィア、”赤犬”が子飼いの民間軍事会社の傭兵達を使い、襲わせたらしい。
幸いにも、現場には、直子やその護衛役である国防兵器の”コウガ・サブロウ”がおり、賊を無事退けたと聞いている。
その際、会長のタヤマが個人的に雇った『エルバの民』首領である、狭間・偉出夫もいたらしい。
嫌な予感がするが、今はアンジェラを救う事が大事だった。
ケンが身の丈以上もある日本刀『孫六兼元』を背負い、アンジェラが住んでいる住宅街へと到着する。
アパートの前には、首を捩じ切られ、内臓を喰い尽くされた人間の死骸があった。
苦悶の表情を顔面に貼り付けるソレは、カミロの部下だった。
最悪な状況だった。
愛車の大型バイクから降り、身の丈程もある日本刀を背負って、元娼婦が住むアパートの階段を登る。
部屋の前まで来ると女の啜り泣く声が聞こえた。
破壊された玄関口から、室内の様子を伺う。
月明かりに照らされた部屋の中は、陰惨の一言に尽きた。
カミロの部下達と分かる男達の死骸。
どれも、手足を引きちぎられ、あらぬ方向に首が捻じ曲げられている。
生臭い血の匂いが充満する台所で、四つん這いになった女が醜悪な姿をする怪物に尻を捧げていた。
怪物に犯されている全裸の浅黒い肌の女は、アンジェラだった。
その尻を抱えている一本角の怪物に、ケンは見覚えがあった。
元部下の銀蔵だった。
口から大量の涎を垂らし、四つん這いになった元女房の尻に歪な形をした男根を叩きつけていた。
肉と肉が粘膜を跳ねる音が聞こえる。
汗みどろの女は、怪物と化した元夫から与えられる快楽に溺れ切ってた。
断続的に絶頂に達しているのか、肉感的な身体が時々、痙攣している。
「銀蔵。」
背負った日本刀-孫六兼元を鞘から引き抜く。
炯々と赤く光る銀蔵の双眸が、元兄貴分へと向けられた。
「待ってろよ、今、俺が終わらせてやる。」
孫六兼元の刀身が閃くのと、怪物が女の膣から男根を引き抜くのは、ほぼ同じだった。
紫色の体液が、女の身体とキッチンの床へとぶちまけられる。
放物線を描き、部屋の壁へとぶち当たる怪物の頭部。
既に命の灯は消えているのか、床に転がる眼窩は真っ黒だった。
花園神社にある高級娼婦館。
女医の直子は、右頬を腫らしたケンを見て大分驚いていた。
「どうしたの? その顔。」
冷水で濡らしたハンドタオルを、赤黒く変色した頬へと当てる。
「ちょっと、仕事でヘマした。」
プレイルームの一室。
ダブルベッドに腰掛けるケンは、腫れた頬に濡れたタオルを当てる直子の手を取ると、その甲に唇を落す。
銀蔵を始末した後、ケンは知り合いが勤める救急病院に連絡し、駆け付けた救急隊にアンジェラを引き渡した。
度重なる男達からの凌辱と、膣に挿入された魔薬により、アンジェラは心神喪失状態だった。
後始末を彼等に任せ、ケンは事の顛末を会長に報告するべく、新宿御苑のタヤマ邸へと向かう。
そこには、既にカミロもおり、大事な部下を失った為か、怒りで顔を歪ませていた。
態と殴られてやったのは、部下の失態を甘んじて受ける為だった。
銀蔵は、ギャンブル狂いのどうしようもない奴だったが、お人好しで善良な男だった。
愛嬌があり、憎み切れない人柄に、人見知りが激しいハレルヤも懐いていた。
銀蔵は、元女房であるアンジェラに心底惚れていた。
結婚したら、真面目にシノギを勤めると兄貴分のケンに誓った。
だが、その誓いも虚しく破られた。
原因は、カミロの相棒、アドルフォにあった。
奴は、自分が経営する賭場に銀蔵を誘い込み、そこで甘い蜜を存分に吸わせた。
当初は、断っていた銀蔵であったが、アドルフォにしつこく付きまとわれ、仕方なく少額で遊ぶ事にした。
それが、間違いの始まりだった。
面白い様に勝ちが続き、気が付けば、アドルフォが誘わなくても賭場場に入り浸る様になっていた。
勝ちがぱったりと続かなくなり、負けが込み始めた。
借金が膨らみ、収入だけでは支払えなくなった。
ケンは、何とか辞めさせ様としたが、ギャンブル依存症となった銀蔵は、もうまともな精神状態には戻れなかった。
愛した女房にも逃げられ、兄貴分にも見捨てられた銀蔵は、どんどん暗闇へと堕ちて行った。
「昼間は、大変だったんだってね? 」
「ええ・・・でも、タヤマが雇った助っ人さんのお陰で助かったわ。」
愛おしそうに自分の手を頬へと寄せる短髪の男を、直子は静かに見つめる。
「復讐なんて考えちゃ駄目よ。」
女医の一言に、ケンの動きが止まる。
直子の目は真剣だった。
全てを見透かす様な黒曜石の瞳に、ケンは言葉を失う。
「ハレルヤから聞いたわ・・・・銀蔵の件は、貴方のせいじゃない。」
「・・・・・。」
「だから、自分を責めちゃ駄目、貴方は彼の為にやれるだけの事は十分した。」
「・・・・・違う、銀蔵を救う方法は幾らでもあった。」
直子は、とても優しい女だ。
医者という性分故か、弱者を決して見捨てぬ強い意志がある。
自分の様な中途半端な奴とは、決して違う。
仕事の忙しさを理由に、銀蔵を見捨てたのは自分だ。
素行不良を理由に、一方的に破門を言い渡した。
女房の将来を考え、離婚を進めた。
銀蔵に、二度とアンジェラの前に現れるなと忠告した。
組のアガリと”クスリ”を盗む事は、ある程度予想出来た。
そんな度胸は、無いだろうと高を括っていた。
かつての舎弟を地獄に叩き落としたのは、他ならぬケン自身だった。
不貞腐れた表情で、厨房の水場で汚れた食器を洗う銀髪の少年に、自称、店の責任者である10代半ばの少年が声を掛けて来た。
「今日は帰れって言った筈なんだけどな? 」
呆れた様子で、ハレルヤが制服姿にエプロンを巻いたネロを見上げる。
因みにバーを手伝っている為か、ハレルヤも制服にエプロン姿だ。
「別に良いだろ? 帰ってもやる事ねぇし。」
ネロが唇を尖らせて悪態を吐く。
今日の昼間、何時もの様に歌舞伎町二丁目にある移民キャンプで、往診の手伝いをした。
しかし、そこで予想外の出来事が起こった。
歌舞伎町にある中国マフィアの一つ”赤犬”が、子飼いの民事軍事会社から傭兵達を引き連れ、報復行為をしていたのだ。
キャンプは、ほぼ壊滅状態。
多くの死傷者を出し、住居も殆ど焼かれた。
「移民キャンプの事なら大丈夫だ。 生き残った人達は、全員シェルターで保護したし、復興も俺達”阿修羅会”が始めてる。」
暫く時間は掛かるが、急ピッチで復興作業は行われている。
移民達の中でも、動ける若い連中が参加し、電気水道等のライフラインも明日には通る予定になっている。
「・・・・・分かってる・・・・でも、働きたいんだ。」
ハレルヤは、当事者となってしまった自分に気を使ってくれている。
多くの人間の死を目の当たりにし、ネロの精神状態は最悪だった。
特に、日本人記者の南山・葉子の無惨極まる末路は、大きなしこりとなった。
そして、宿敵とも言える狭間・偉出夫の登場。
『エルバの民』が、絡んでいる以上、じっとしている訳にはいかなかった。
―彼等が何を企んでいるのか知らないが、今の僕達じゃどうする事も出来ない。
探偵部部長でもある壬生・鋼牙の言葉が脳裏を過る。
『クリフォトの魔界樹事件』で、どんな手段を用いたのか知らないが、問題の『エルバの民』は、魔導師ギルドの一員として加盟された。
ギルドの特権が行使出来る以上、一介の学生に過ぎない自分達では、手も足も出ないのだという。
「つまり指を咥えて黙っていろってのかよ? 」
「そうなるね、下手に彼等に危害を加えたら、僕達は立派な犯罪者だ。」
額に青筋を立てて怒りを露わにするネロに対し、お手上げだ、と言わんばかりに鋼牙が大袈裟に肩を竦める。
「納得出来ねぇ、狭間って糞野郎は、人を平気で殺す、殺人鬼なんだぞ!」
1年以上前に起こった、遠い北の国での戦争。
大国同士の代理戦争だと揶揄されるその場所で、ネロは偉出夫が多数の悪魔狩人(デビルハンター)を虐殺している現場を目撃した。
「うーん、でも世田谷区と矢来区では、一般市民を助けているのは事実だよ?」
「助けてるって・・・・奴等は、クリフォトの魔界樹が溜め込んだマグネタイトを強奪しただけじゃねぇか。」
「事実はそうだけど、周りの人達は、悪魔から人間を救った事になってる。」
「滅茶苦茶じゃねぇか! 」
「僕に怒っても仕方ないよ? 」
「うぐぐぐぐっ・・・・。」
鋼牙の言っている言葉は、真実だ。
例え私利私欲の行動だったとしても、市民を襲っていた魔界樹を駆除し、そこから発生する悪魔を討伐した事に、何ら変わりはない。
憤懣やるかたないネロは、鋼牙とウルと共に、大人しく矢来区に帰る気にもなれず、こうしてアルバイト先である高級娼婦館で仕事をして、鬱憤を晴らしていた。
ギーツ最高過ぎる。