樋口・幸太郎・・・・・品川区に住む隠居老人。
元職人(ハンドヴェルガー)で、魔具の修繕の他、禁忌とされる開発や神器等を造り出していた。
「最強の武具を造る」という野心に憑りつかれ、引退し、一線を退いたものの、隠れて研究を続けている。
『聖エルミン学園』・音楽練習室。
樋口・真理子は、震える手で暗幕を引き、室内の照明を点ける。
振り返ると、呆れた様子で此方を眺める黒縁眼鏡の男子生徒がいた。
練習室のドアをしっかりと施錠し、誰も入って来れない様にする。
最も、時刻は既に6時近くである。
余程の用事でも無い限り、誰も学校には残っていないだろう。
「一度・・・・一度だけで良いの。 貴方が抱いてくれたら、誰にも言わないから。」
自分が如何に愚かな言葉を口走っているのか理解している。
数週間前、真理子は、自宅近くの公園で暴漢達に襲われた。
熟れた肉体を男達に舐め回された挙句、彼等の放つ性臭に引き寄せされた低級悪魔に喰われ掛けた。
常人ならば、とても立ち直れない程の悲惨な出来事である。
真理子も、当初はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こし、一時心療内科に通院していた。
夫とその家族のお陰で、心の傷は大分癒された。
そして、今日、漸く職場復帰が出来たのである。
「何故、僕なんですか? 貴女には大事な家族がいるでしょ? 」
「・・・・・。」
「旦那さんやお子さんを裏切る事になりますよ? 」
「・・・・・。」
真理子は、応えない。
否、応える事が出来ない。
自分は、夫や愛する娘を裏切り、14歳になったばかりの少年を誘惑している。
とても正気の沙汰では出来ない大罪だ。
壬生・鋼牙は、一つ溜息を零すと俯いている女教師へと近づく。
頬に触れると、真理子が此方へと顔を向けた。
暫しの間、無言で見つめ合う二人。
誘われる様に触れ合う互いの唇。
その味は、背徳感で溢れていた。
東京都新宿区百人町、発電施設内。
「み、壬生君・・・・・? 」
フードを取り払い、マスクを外したその素顔を見た瞬間、樋口・真理子は凍り付いた。
そして、今の自分の姿を再確認し、悲鳴を上げて乳房と股間を隠す。
両肩を抱き、身体を丸めて嗚咽する女教師を、壬生・鋼牙は呆れた様子で溜息を零した。
まさか、男達のマグネタイトを吸い尽くし、老衰させて殺害していたのが、かつての担任教師だとは思わなかった。
近くに落ちていたファーコートを拾い、女の肩に掛けてやる。
「兎に角、此処から出ましょう。」
いくら『クズノハ』暗部に所属する人間とはいえ、知り合いを手に掛ける事には気が引ける。
彼女の身に一体何が起こったか知らないが、放っておく訳にはいかなかった。
啜り泣く女を立たせ、作業場から出て行こうとする。
「勝手に人のモノを持っていかれては困るなぁ。」
不図、背後から何者かの声が聞こえた。
振り向くと、赤銅色の肌をした身の丈3メートルは優に超えるオーガを二体引き連れた70代半ばぐらいの初老の紳士が立っている。
三島重工会長、三島・喜作であった。
「真理子や、迎えに来たよ。」
冷酷な笑みを口元へと貼り付け、喜作が女教師を手招く。
ふらふらと夢遊病者の如く、老紳士へと歩み寄る真理子。
その細い腕を、鋼牙が掴む。
「申し訳ありませんが、彼女を貴方に渡す訳には行きませんよ?三島会長。」
老人の正体は、既に知っている。
テレビや新聞等で、何度も見た顔だ。
日本有数の大企業の一つである、三島重工の現会長と担任教師と一体どんな関係があるのか知らないが、この様子から、ろくでもない事だけは分かる。
「壬生財閥の御曹司殿は、礼儀を知らんと見えるな? 」
「それは貴方も同じでしょ? 指定暴力団と関係がある上に、一般人女性を悪魔化するなんて非人道的だとは思いませんか?」
「ほほっ、”虚実の一族”が生意気な口を叩くわい。」
喜作は、嘲弄の笑みを浮かべると、金色に光る双眸を女教師へと向けた。
一瞬、電流を浴びせられたが如く硬直する真理子。
がくりと項垂れ、次に傍らに立つ鋼牙へと蹴りを放つ。
殆ど無意識に、身体を反らせて鋼牙が躱す。
蹴りの軌道が途中で変化、今度は鉈の如く、真下へと振り下ろす。
それを後ろへ跳ぶ事で、鋼牙が回避する。
とても素人女性とは思えぬ体捌(さば)きであった。
「先生!正気に戻って下さい! 」
ベルトに挟んである愛用のアルミ製の定規を引き抜く。
一度正気に戻った真理子であったが、主人の命令で忠実な殺戮マシーンへと変貌してしまった。
コートの裾をはためかせ、黒縁眼鏡の少年へと躍り掛かる。
怒涛の如く、繰り出される突きと蹴りに、鋼牙は防戦一方へとなってしまった。
顔面を襲う拳を屈んで躱し、足払いを仕掛ける。
バランスを崩した女が、背後から倒れそうになるが、猫の様な俊敏な動きで身を捻り、地面に手を付いて跳躍。
トンボを切って、主の傍らへと着地する。
「どうした? それでも壬生一族の末裔か? 」
鋼牙が手を抜いている事は、一目瞭然であった。
壬生家の末裔ならば、知り合いの女でも眉一つ動かさずにあっさりと手に掛けると思っていた。
どうやら、ほんの少しだけ良心があるらしい。
「大悪魔の癖に、やり方が汚いんじゃないですか? 」
「お前等、外道に言われたくないわい。力を求める余り邪神の肉を喰らったそうじゃないか?」
「大昔の話だ。」
嫌悪感を露わに、鋼牙が吐き捨てる。
自分達、壬生一族が、闇社会で忌み嫌われている事は知っている。
古の時代から日本に存在する蛇神、夜刀神(ヤトノカミ)を使役する為、術者はその血肉を己の身体へと移植する。
夜刀神の強大な力を振るえる代償として、術者は人間では無くなってしまうのだ。
「そこで何をしている! 」
対峙する両者を、眩い光の洪水が包んだ。
発電所内を警備する”阿修羅会”構成員が、騒ぎを聞きつけて集まって来たのだ。
無数の銃口が、鋼牙と喜作に向けられる。
「おやおや、折角楽しくなりそうだったのに。」
喜作が大袈裟に肩を竦める。
一方の鋼牙は、形勢が不利と判断し、札を取り出して工場内から消えた。
この即座な判断力は、流石だと言える。
東京都新宿区と渋谷区を繋ぐ庭園、新宿御苑。
『八部連合阿修羅会』会長、タヤマが住む邸宅に、魔導医の直子がいた。
50畳はあろうかという広い和室内。
濃紺の着物を着る40代ぐらいの男が、煙草をくゆらせ、少し離れた位置で正座する妖艶な美貌の女を睨みつけている。
”阿修羅会”会長のタヤマだった。
「何を考えている。」
静かな怒気を含んだ声。
しかし、直子は動じない。
毅然とした態度で、目の前の濃いサングラスの男を見つめている。
「それは此方の台詞よ。 何故、ケンの大事な部下を悪魔二人に引き渡す真似をしたの?」
「銀蔵の事か? 奴がどうしようもないクズだった・・・それだけだ。」
「違う、銀蔵は立ち直ろうと一生懸命だった。 なのに、アドルフォが彼の人生を滅茶苦茶にした・・・自分の飼っている死人の餌にする為に。」
アドルフォは、優柔不断な銀蔵に近づき、お人好しな性格を散々利用して、ギャンブルと金に溺れさせた。
挙句、組の金と薬を盗む様に仕向け、銀蔵の妻を襲撃し、凌辱される姿まで見せた。
怒り狂った銀蔵が、『ゼブラ』を過剰に摂取し、悪魔化するまで想定済みだ。
自分の部下を犠牲にしてまで、銀蔵の魂を汚れさせた。
「・・・・・先代は素晴らしい人だった。 震災で苦しむ人々を助け、”新宿区(この街)”を復興させてくれた・・・・だから、彼の腹心の部下である貴方も思想は同じだと思っていた。」
でも、その期待は見事に裏切られた。
牛頭天王を使役する権利を譲渡された途端に、タヤマは豹変した。
百人町の工場跡地に発電施設を建設し、牛頭天王の力で稼働させた。
”赤玉”という人間を材料とする供物を捧げ、挙句、龍脈の力まで与えた。
タヤマの望んだ様に、牛頭天王はその力を増大させたが、それと同じくして”阿修羅会”が本来持つ、大事な思想を捨てる羽目になった。
人間を家畜とみなす様になった。
部下達の質も悪くなり、平気で暴力を振るう様になった。
カミロとアドルフォという二人の悪魔を仲間として引き入れてからは、更に酷くなった。
もう、直子や若頭候補のケンが慕っていた組織は、影も形も無くなり、あるのは悍(おぞ)ましい欲望に塗れたならず者集団と成り果てた。
「私はもう、貴方に力を貸すつもりはない。」
「そうか・・・・・それが、お前達の言い分か。」
息を一つ吐き、陶器の灰皿に煙草を揉み消す。
険悪な空気が二人の間に流れる中、襖が開いた。
屋敷に勤める女中頭だった。
音もなくタヤマの傍らへと近づき、二三耳打ちする。
どうやら、屋敷の主であるタヤマに来客が来ているらしい。
主人が了承の旨を伝えると、女中頭は再び音をさせずに和室から出て行った。
「済まないが、これから大事な話し合いがある、この件は後日という事にする。」
徐に立ち上がり、未だ正座したまま微動だにしない直子の傍らを通り抜ける。
「最後に、お前達がする事は勝手だが、政府の連中は決してお前の味方にはならない。お前は”新宿区(この街)”以外、何処にも行く当ては無いと知るんだな。」
それだけを伝え、和室から出て行く。
その後ろ姿を直子は、鋭い視線で眺めていた。
豪奢な調度品が置かれたゲストルームには、『エルバの民』首領、狭間・偉出夫と腹心の部下である横内・健太がいた。
高級ソファに座る二人の真向かいに、館の主であるタヤマが腰を下ろす。
「カミロから君の話は聞いている・・・黙示録の四騎士を使役する凄腕の悪魔召喚術師らしいな? 」
タヤマの視線が、偉出夫から右隣に座る大柄な眼鏡の青年へと向けられる。
歳の頃は、20代半ばぐらいだろうか。
鍛え上げられたがっしりとした体躯をしており、無言でタヤマの視線を受け止めていた。
「いいえ、僕の手腕など大した事はありません・・・それより・・。」
偉出夫は、慇懃無礼に応えると、早速本題に入った。
「私の友人が、貴方の大切な発電施設で大騒ぎを起こした非礼を詫びに来ました。」
「ああ・・・アレか。」
数分前に、百人町にある発電施設で、移民が侵入者に襲われた件は、既に部下から聞いている。
女悪魔の誘惑にまんまと乗せられ、作業員が数名餌食にされた。
この世では、絶対味わえぬ快楽を存分に楽しんで生体マグネタイトを吸い尽くされたのだから、幸せな死に方だったとも言える。
「三島重工の会長殿は? 」
「喜作君は用事があって、南青山の自宅に帰りました。 今頃、奥方殿に今回の件で相当叱られているかもしれませんね。」
当事者が直接詫びに来ないとは、随分と非常識な連中だ。
最も、喜作自身は、暴力団であるタヤマをかなり下に見ている。
牛頭天王の庇護を得る為とはいえ、内心、”阿修羅会”と組むのは余り喜ばしくは無いのだろう。
「それで? 君が三島会長の代わりに謝罪に来たという訳か。」
「はい、タヤマさんの大事な部下を犠牲にしてしまい、申し訳ありませんでした。」
偉出夫は、隣に座る横内に合図を送る。
すると眼鏡の青年は、特殊素材で造られたジュラルミンケースをテーブルに置いた。
蓋を開けると、高濃度のマグネタイトが詰まった細長い容器が三本納まっている。
「ほう、これは凄いな。」
これ程、純度が高いマグネタイトを見たのは初めてだった。
相当霊格が高い人間か魔王クラスの悪魔から、手に入れた代物に違いない。
「”牛頭天王”様のお口に合えば良いのですが。」
「否、これだけ上質なマグネタイトがあれば、ヤツも喜ぶだろう。」
金額にして1本数億は下るまい。
それを3本丸々、タヤマへと譲渡するのだ。
薄汚い移民の命の対価としては、十分過ぎると言える。
「望みは何だ? 」
濃いサングラスの下から、目の前の少年を鋭く睨む。
偉出夫が態々、此処へ来たのは他に目的があるのは分かっている。
「アハっ、流石、”八部連合阿修羅会”の会長さんだ。僕の下心なんてすっかり見透かされていますねぇ。」
タヤマの言葉に、偉出夫の態度がガラリと変わる。
ソファの背凭れに身を預け、長い両足を組んだ。
「はっきり言います。”新宿区(この街)”を僕に下さい。」
「・・・・っ! 」
無礼極まる偉出夫の物言いに、何時もは冷静なタヤマの表情が険しくなった。
「正直言って、貴方じゃ牛頭天王は使役しきれていない・・・今は、貴方から定期的に貰える餌を喰らって大人しくしていますが、彼は、膨大な龍脈の力を吸収して着実に力を蓄えている。」
「・・・・・。」
「カミロさんは、その事実を逸早く気づいている・・・最近、彼から連絡が来てますか?」
「否・・・・・。」
「ですよねぇ・・・貴方も既にご存知だとは思いますが、先日、アドルフォさんが何者かに殺害されました。」
偉出夫は、簡単に初台エリアで起こった出来事を説明する。
「自分の命を狙う復讐者の上に、何時暴走するか分からない荒ぶる神。とっとと尻尾巻いて逃げてしまうのが利口なやり方ですよ。」
カミロこと魔王・ベリアルは、ザンダンス・キッドを恐れて地下に潜った訳ではない。
その気になれば、何時でもキッドは潰せる。
しかし、古の時代からこの地に根を張る土着神はそうはいかない。
膨大な龍脈の力を得た牛頭天王は、魔王クラスですら遥かに凌駕するのだ。
「餓鬼・・・・好い加減に大人を舐めるんじゃねぇぞ。」
ドスの効いた低い声で、偉出夫を恫喝する。
この十数年、先代から”阿修羅会”を引き継ぎ、”新宿区”を支配して来た。
いくら魔導師ギルドに加入した秘密結社(フリーメーソン)とはいえ、こんな若造に見下される程、落ちぶれちゃいない。
「俺がその気になれば、てめぇの組織なんぞ・・・・。」
「平伏して赦しを乞え。」
バンッ!
突然、タヤマの身体がテーブルへと叩き付けられる。
まるで見えない力で押し付けられているかの様だった。
顔がテーブルと密着し、醜く容姿を変える。
「舐めているのはお前の方だ・・・・”牛頭天王”程の土着神を従えているから、どれ程の術者かと思えば・・・まさか、こんなチンピラが契約者だったとはな。」
何時もの飄々とした風貌は、鳴りを潜め、厚顔不遜な態度で、目の前の男を見下ろす。
「ま、だからこそ、牛頭天王はお前を選んだのかもしれない。自分の言いなりになる頭の弱い人間を配下にすれば、餌には困らないからな。」
真紅の炎が灯る右眼が、嘲りの形へと歪む。
偉出夫自身が、タヤマが邸宅を構えている新宿御苑に態々向かったのには理由がある。
一つは、”牛頭天王”程の土着神を従える術者がどんな人間であるかを確かめる事であった。
しかし、会った相手は、そこら辺でゴロゴロしているチンピラと何ら変わる所は無かった。
強いて言えば、悪知恵が人より働く、その程度でしか無い。
「止めなさい、カイン。」
身体を貫く膨大な魔力の波動。
隣に座る横内が無意識に立ち上がり、偉出夫もタヤマへの攻撃を一旦止める。
見ると、ゲストルームの入り口に一人の女が立っていた。
魔導医の直子だ。
「これ以上、彼を傷つけるなら、容赦はしないわよ。」
「ふん、訶梨帝母(かりていも)か。」
鋭い視線で此方を睨み付ける女医を、偉出夫は鼻で笑う。
漸く少年の圧力から逃れたタヤマは、ソファから転げ落ちると、腰を抜かしたのか、無様に四つん這いの状態で、女医がいる方向へと逃れる。
「この土地は、貴方には渡さない・・・大人しく死神共を連れて出て行きなさい。」
金の双眸が、ソファに座る少年へと向けられる。
偉出夫は、大きな溜息を一つ吐き出すと、ソファから立ち上がった。
「丁重にお断りします・・・漸く探し求めた拠点なんでね。」
真紅の炎を宿す右眼の魔眼を、妖艶な女医へと向ける。
横内を促し、ゆっくりとした歩調で、ゲストルームの入口へと向かった。
此方へと近づいて来る魔少年を、直子は睨み付ける。
この狭間・偉出夫という少年は、余りにも危険だ。
『絶対者』としての力を持ち、二体の最上級悪魔(グレーターデーモン)を従えている。
正直言って勝てない。
だが、大人しくこの土地をくれてやる訳にはいかない。
「一つ忠告します。 貴方もベリアル同様、早めにこの男に見切りをつけた方が良い。平穏な生活を望むならね。」
それだけ吐き捨てると、偉出夫は横内と共に邸宅から去っていく。
少年と従者の姿が視界から消えた途端、直子は、重い溜息を吐き出した。
セクター・エリダヌス 神殿前。
六枚の羽を持つ黒き龍が、口から火の塊を吐き出す。
それを拳のみで、悉く撃ち落とす紅蓮の鬼。
炎の剣が閃き、左側の羽を意図も容易く斬り落としてしまう。
「す、凄い・・・・・17代目ですら火之迦具土神(ヒノカグツチ)を扱いきれなかったのに・・・・。」
塔の影へと避難した猿飛・佐助が、魔鎧化を解き、戦いの行く末を見守る。
正直言って、明の戦闘能力は並外れている。
とても普通の人間とは思えない。
戦う度に進化している様にすら見える。
『生きてる? 忍者のお兄さん。』
右耳に装着しているインカムから、バスクエスの声が聞こえた。
彼女もまた、何処かに身を潜めて、この戦いを見守っているのだろう。
「ウチのルーキーが、抑え込んでいる内に核(コア)を狙える? 」
『1秒でも良い・・・動きを止めてくれりゃ、いけるよ。』
佐助の指示に、バスクエスが狙撃銃を構える。
鬼人化した明とアモンの鎧を纏ったダンテの戦闘能力は、正直言って五分五分。
再生能力が勝っている分、ダンテの方がやや有利だろう。
明の強靭的な精神力で、火之迦具土神を操ってはいるが、何時まで持つかは分からない。
「はぁ・・・・やっぱ、俺様が命懸けないと駄目・・・・。」
大きな溜息を吐き出し、神器『小狐丸』を構えたその時であった。
突然、魔龍の背中が爆散する。
何事かと良く見ると、M56スマートガンを構える灰色の装甲をしたデモニカスーツの兵士がいた。
民間軍事会社『タイラント』の総責任者、ジャック・コナーだった。
超大口径の重機関銃を構えるジャックは、遠距離攻撃であるにも拘わらず、的確に魔龍の関節部分を狙って弾丸を撃ち込んでいる。
膝を撃ち抜かれ、魔龍が堪らず片膝をついた。
その隙を突いて、バスクエスが狙撃銃の引き金を引く。
特殊な法儀式が組まれた銀の弾丸は、狙い過(あやま)たず、核(コア)のある箇所を撃ち抜いた。
アモンの鎧が解除され、無数の蝙蝠へと姿を変え、銀髪の大男から離れる。
地面に頽(くずお)れるダンテ。
その傍らには、力無く横たわる悪魔使いの姿があった。
「ライドウ! 」
それまで、物陰に隠れていた小さな妖精が飛び出す。
主の元へと辿り着き、その顔を見た瞬間、絶句した。
高濃度の瘴気に当てられ続けた為か、皮膚がケロイド状に焼け爛(ただ)れている。
真紅の呪術帯で、右眼以外を覆っている為、素顔は見えないが、布の下から紫色に変色した皮膚が覗いていた。
「ひ、酷い・・・・アモンの魔素からアイツを護る為に自分の生命エネルギーを使ったんだ。」
ぶるぶると震える手で、回復魔法の呪文を唱える。
今、自分が出来る事等、高が知れている。
何の効果すらも無いかもしれない。
しかし、やらなければ、大事な主が死んでしまう。
「泣かないで、おチビちゃん。」
大粒の涙を零し、嗚咽交じりに回復魔法を施すマベルの横に、女狙撃手が寄り添った。
悪魔使いに手を翳し、解毒効果がある『ポズムディ』と、呪いを浄化させる『パトラ』の魔法を併用して唱える。
「ヴァレンタイン上等兵、彼女達の魔力を底上げしてやれ。」
「はぁい。」
何時の間にそこに現れたのか、ジャック大佐率いる傭兵部隊がいた。
上司の命令に、小柄な兵士が応えると魔力補助魔法である「マカカジャ」を唱える。
「アンタ等、一体何考えてんの? 」
警戒心を露わにする忍に、ジャック大佐は大袈裟に肩を竦めた。
「他意は無い、君等の事が心配になって駆け付けたまでだ。」
「本当にそれだけ? 」
「私を疑うのか? これでも一応、17代目のパートナーを務めた事もあるのだよ? 」
さも取ってつけた様な物言いに、佐助の双眸は鋭くなる。
確かに、あの場面でこの男の介入が無ければ、女狙撃手が核(コア)を撃ち抜く事は不可能だっただろう。
タイミングが良すぎるのが否めないが、現状、ジャック大佐に大きな借りが出来ているのは事実だ。
そんな緊張感漂う両者の中、事の元凶を生み出した男- ダンテは、呻きながら意識を取り戻した。
未だ定まらない視界の中、愛する番の姿を見つけ、思わず近寄ろうとする。
その胸倉を物凄い勢いで掴む者がいた。
鬼人化を解いた明だった。
情け容赦の無い一撃を、銀髪の大男の右頬へと炸裂させる。
衝撃で、再び地面へと沈む。
「こ、この糞餓鬼・・・。」
忘れかけていた怒りの炎が、腹腔内を焼き尽くす。
此方を睨み付ける蒼い双眸を、長い前髪の少年は、憐れんだ様子で見下ろした。
「その目で周りの状況を見るんだな・・・・クズ野郎。」
それだけを吐き捨て、あっさりとダンテに背を向ける。
忌々し気に舌打ちし、切れた唇から流れ出る血を拭いつつ、周囲の状況を見回す。
一言で言えば、正に地獄絵図。
三つの塔は、全て破壊され、周囲には機動班と思われる焼き尽くされた骸が幾つか転がっている。
飛び交う怒号。
医療班と思われるデモニカスーツの隊員達が、忙しなく動き回り、重症を負った仲間達を担架で運んでいる。
「まさか・・・・・俺が・・・・。」
断片的に脳裏を横切る映像。
番であるライドウから、無理矢理、アモンを引き出し、欲望の赴くままに暴走させた。
番の静止の声など聞こえなくなっていた。
愉快だった・・・。
ただ、堪らなく愉快だった。
レッドスプライト号に無事収容されはしたものの、ライドウの容態は依然危篤状態が続いていた。
要因としては、やはり、番により半ば強引に魔王・アモンを召喚された事だろう。
ダンテが完全にアモンを掌握出来れば、此処までの最悪な事態にはならなかった。
しかし、アモンの悪意に呑まれた挙句、怒りの感情のままに暴れ回ったのだ。
本来ならば、人間の形等戻らず、骨までアモンに喰われる筈であった。
それが、元の姿で・・・しかも、人間の意識を保ったまま、現世に戻れたのは、一重にライドウのお陰でもある。
己の命すら顧みず、生命エネルギーを全て使い、ダンテの肉体と意識を護り続けたのだ。
その代償として、肉体の八割型が腐敗。
臓器にまで至らなかったのは、奇跡としか言いようが無かった。
当然、これから先の調査は無理である。
ゴア艦長は、断腸の思いで、壁外へと帰還する事を決めた。
『レッドスプライト号』、メディカルルーム。
「そんな怖い顔をするなよ? アトキンス。」
「・・・・・。」
目の前に立つ元アメリカ海兵隊同期を、ゴア・アトキンスは鋭い双眸で睨み据えていた。
「私だって少しは責任を感じているんだ。」
ジャック大佐は、大袈裟に肩を竦めると、背後に控えているライアン・クルーガー軍曹に合図を送った。
身の丈2メートルを遥かに超える巨躯を持つ妖鬼は、特殊素材で造られたジェラルミンケースを作業机の上へと置く。
「この中には、”ハイドロアップ”が入っている、17代目を救う事が出来るかもしれない。」
ジャック曰く、この特殊フォルマは、魔力を増幅する能力があるのだという。
もし、悪魔使いが収容されている『曼荼羅』に組み込めば、壊死した肉体を再生する事が可能だろう。
「良いのか? お前にとっても大事なフォルマだろう。」
「別に構わんさ、私の大事なベアトリーチェを救う事が出来るのならば・・・・ね。」
ジャック大佐の視線が、マグネタイトで満たされたカプセルで眠るライドウへと向けられる。
髪の毛の一部が白髪化し、皮膚の大半が紫色に変色している。
マベルやバスクエスの応急措置で、何とか肉体の腐食は喰い止められたが、依然、危篤状態である事には変わりが無い。
「分かった・・・このフォルマは有難く使わせて頂く。」
「か、艦長。」
ゴアの言葉に、傍に居た医療班クルーのゾイが、戸惑いの声を上げた。
今回の大惨事を招いたそもそもの原因は、ジャック・コナー率いる『タイラント』にある。
彼等が素直に、支配領域を通してくれれば、今回の一件は起きなかった。
ゾイの憤りは、メディカルルーム内にいる医療スタッフ達も同じで、皆敵愾心が篭った双眸で、ジャック大佐とその部下数名を睨みつけている。
「では、我々はこれで退散させて貰うよ。」
そんな周囲の視線を感じたのか、ジャック大佐は部下達を促し、メディカルルームから出て行こうとする。
そして、何かを想い出したかの様に、扉の前で一度足を止めた。
「無事壁外に還れたら、シェイファー中将に”宜しく”と伝えてくれ。」
それだけを言い残し、ジャック大佐は部下数名と共にメディカルルームを出て行く。
後に残されるゴア艦長とゾイ達医療班の面々。
「我々に恩を売ったつもりでいるのですかね? 」
「さぁな・・・どちらにしろ、彼等の好意は有難く使わせて貰うさ。」
艦長の視線が、作業台の上に乗る特殊素材で造られたジェラルミンケースへと注がれる。
もし、ジャック大佐の言葉が事実ならば、このフォルマで17代目を救う事が出来るかもしれない。
『レッドスプライト号』、独房内。
超巨大調査艦帰還後、ダンテは有無を言わさず生き残った機動班達に拘束され、ゴア艦長の命令で独房へと収監された。
抵抗は全くしなかったが、それでも念の為と、両腕を拘束され、『パラライズワーム』まで付けられた。
今は、外されているが、四肢の痺れは未だに残っている。
「少しは、頭が冷えた? 隊長。」
固い扉の向こうから、聞き覚えがある女の声がする。
元部下のジェニット・バスクエスだった。
「”人修羅さん”は無事だよ。 ジャックって野郎のお陰でね。」
質素な簡易ベッドに座る元上司に、女狙撃手はメディカルルームで起こった顛末を簡単に纏(まと)めて聞かせた。
現在、ジャック大佐が提供したフォルマ『ハイドロアップ』を『曼荼羅』に組み込み、魔力を増幅して治療を行った結果、肉体の腐敗は大幅に完治されたらしい。
それでも、油断ならない状態である事に変わりはなく、壁外に到着後は、日本赤十字社医療センターに収容されるらしい。
「・・・・・そうか・・・。」
ライドウの命に別条が無いと知らされ、安堵の吐息を吐く。
全ては、自分の愚かさが招いた失態だ。
あの時、正攻法では地母神・スカディに勝てないと判断した。
静止する番の言葉を完全に無視し、無理矢理、魔王・アモンの力を引きずり出した。
その後の記憶は、正直、曖昧であまり覚えてはいない。
唯、愉悦に身を任せ、好き放題に破壊の限りを尽くした事だけは、生々しく手に残っている。
「”人修羅さん”、隊長の事、本気で愛しているんだね。」
「・・・?」
「アタシも魔女の端くれだからさ、分かるんだよ。 あんな憎悪の塊の中、普通の人間なら正気で何ていられない。」
それでも、ライドウはダンテを護る為に、命懸けで抗い、己の生命エネルギーの全てを使って人の形と心を残した。
生きたまま、自分の肉体が腐敗する苦痛と恐怖に耐えながら・・・である。
セクター・エリダヌス、イーストエリア
超巨大巡洋艦『アーク』、メインブリッジ内。
『それで、目的のモノは手に入ったのか?』
空中に浮かび上がる3D映像。
アメリカ国防総省長官、ウィリアム・グリッグズは、鋭い視線を元部下であるジャック・コナーへと向けた。
「勿論です。”九重氷石”は無事回収し、資材班に解析させているところです。」
デスクチェアに腰を下ろしたジャック大佐は、背凭れに身を預けた。
ライドウ達が回収したフォルマは、現在、国防総省から派遣された研究チームによって急ピッチで解析作業が行われている。
因みに”エックス金属”は、既に別の用途としてとあるエリアで使用されていた。
『何としても”ロンギヌスの槍”を完成させなければならん・・・各国にいる神族共の牽制の為にもな。』
グリッグズ中将は、頭痛でもするのか蟀谷の辺りを指で揉む。
最近、気の滅入る話ばかりを聞かされている為だ。
何処で漏れたのか、各国に点在する神族達が、創世の玉座を狙わんと、兵力を集めていると聞く。
アース神族から始まり、オリュンポス神族、アスラ神族にスラヴ神族に至るまで、名だたる神々が、己こそが創世主と名乗りを挙げているのだ。
オマケに、四海龍王の連中が末端組織を使って、日本に手を出し始めている。
天津神の連中がソレを黙認しているのが不気味だが、流石に、同盟国の危機を見過ごす訳にはいかないだろう。
「心中お察し致しますぞ? 中将殿。」
『・・・・・。』
ジャック大佐の言葉を嘲りと受け取ったのか、グリッグズ司令が鋭い眼光で元部下を睨み付ける。
「何か、お気に障る事でも言いましたかな?」
『コナー・・・・何故、”人修羅”を助けた。』
もう既に、数時間前の一件は、グリッグズ中将の耳に入っている様だった。
不機嫌な顔を隠しもせず、元部下を眺めている。
『あの男は、我々にとって危険な存在だ・・・ガブリエルの奴は利用価値があると思っている様だが、私は違うぞ。』
何事においても慎重な態度を崩さないグリッグズにとって、”人修羅”は敵であると判断している。
一時は、”神殺し”の力に魅力を感じたものの、『クリフォトの魔界樹』事件で考えが変わった。
あの悪魔使いは、我々、ヘブライ神族の脅威となり得る存在だ。
「私は、貴方よりも”17代目・葛葉ライドウ”という男を知っていますよ?ザフキエイル殿。」
『・・・・・。』
「私が彼の番となり、”アモンの鎧”を得れば、貴方方の大きな力となる・・・違いますかな?」
『君があの化け物の番になるのか・・・・下らん冗談だな。』
再び、軽い頭痛に襲われたのか、グリッグズは、蟀谷の辺りを指で揉む。
いくら優秀な部下とはいえ、”人修羅”の様な人外の魔物を手に入れるのは不可能に近い。
それは、『フォルトゥナ侵攻作戦』で、人修羅と接触したグリッグズ自身が一番良く理解している。
『それとも、あの化け物の魔性の色香にやられたか? 君程の男が。』
「ええ・・・500年以上前から、私は彼の虜ですよ。」
そんなグリッグズに対し、ジャック大佐は平然と応える。
遥か戦乱の世、戦国屈指の梟雄(きょうゆう)と謳われた時から、奥州の美しい龍に心奪われて来た。
彼の者は、既に自分の事等、転生の記憶の彼方へと消し去っている様だが、自分は違う。
初めて出会ったその瞬間、一目で彼が奥州を統べる独眼竜であると分かっていた。
当時は、右眼はいなかったが、前田の風来坊が我が物顔で龍を独占していた。
まぁ、煉獄の炎に両足を砕いて置き去りにしてやったが。
『全く・・・・君も懲りない男だな?松永久秀。』
「私は、常に美しいモノを手元に置いておきたい性分なのですよ。」
そう応えた唇は、皮肉な笑みで歪んでいた。
真理子は、埃だらけの汚い工場の床に進んで這い、男達に尻を振って自ら誘った。
学生時代は、美しい容姿と均整の取れた肢体から、異性にもてた。
抑圧された幼少期を送っていた為か、成人すると性に奔放な性格となった。
大学時代は、多くのボーイフレンドを造り、同性から嫉妬と羨望の眼差しを向けられた。
そんな彼女が何故、真面目しか取り柄の無い今の夫を選んだのかは、只「優しかった」だけである。
父親の様に、言葉や態度での暴力は一切振るわなかった。
此方の我儘を何でも聞いてくれた。
父親の反対を押し切り、結婚したのも、一刻も早く実家から遠ざかりたかっただけである。
暴力しか振るわない父親と、泣くばかりで何も出来ない母親から逃れたかった。
愛液と男達の唾液で濡れた膣に、猛り狂った男根が挿入されると、歓喜で仰け反った。
だが、男達は入れた瞬間、数回であっけなく放出してしまう。
足りなかった。
大悪魔達の想像を絶する愛撫に慣れ切ったこの身体では、人間の男の愛撫では、到底物足りなくなっていた。
もっと快楽が欲しかった。
進んで萎えた男根を口に含み、巧みな舌と指で奮い立たせる。
男の顔に性器を押し当て、尻を振り愛撫をせがむ。
しかし、どの男達も自分を満足させる事無く、精気を喰われ、骨と皮だらけのミイラになってしまう。
正気に戻ると、真理子の周りは夥しい死体の山で埋め尽くされていた。
「・・・・・・っ! 」
その目覚めは唐突だった。
心臓が激しく胸を叩き、汗で全身がぐっしょりと濡れている。
暗闇に目が漸く慣れて来た時、そこが、大田区にある自宅マンションの寝室である事が分かった。
ベッドから起き上がりサイドテーブルに置かれている目覚まし時計へと視線を向ける。
時刻は、早朝4時。
後数時間で、勤め先である『聖エルミン学園』に出勤しなければならない。
ー あれは、夢だったんだろうか?
自分は、確か情夫である三島・喜作に呼び出され、”新宿区”の京王プラザホテルに連れて行かれた。
「プレゼントがある」と言われ、醜悪な怪物を見せられた。
喜作曰く、知り合いの調教師(テイマー)に頼んで、真理子専用に悪魔を造り出して貰ったらしい。
悲鳴を上げ、逃げようとしたが、所詮、無駄な抵抗だった。
すぐ捕まり、着ていた衣服は全て剥ぎ取られた。
絨毯の上に四つん這いの姿勢にされ、パンティを引き千切られる。
恐怖と屈辱で、涙の粒が盛り上がり、視界が歪む。
こんな悲惨極まりない状況になったのは、全て父親のせいだ。
中流家庭の平凡で、つまらない人生だったが、それでも愛娘が生まれてからは幸せだった。
暴行事件以降、献身的に尽くす夫に愛情を抱く事が出来た。
夫の家族もとても優しかった。
目の前にあるほんの小さな幸せが、とても大事なモノだったと、改めて思い知らされた。
それを全て壊したのは、自分の父親だ。
絶望と怒りの涙を流す真理子だったが、ソレはすぐに歓喜の涙へと変わった。
怪物が分泌する唾液は、強い催淫作用があり、女の性器を激しく疼かせた。
長い舌が、性器と肛門を往復し、充血した陰核を弾く。
女教師は、啜り泣きながら尻を振った。
長い時間、舌で嬲られ、息も絶え絶えになった時に、身体を引き起こされた。
唇に、オークの猛り狂った男根を突きつけられる。
両手で握り締め、何の躊躇いも無く喉奥まで呑み込んだ。
頬を強く窄めて、こってりと舌を絡ませる。
早く、この肉槍で深々と身体を貫いて欲しかった。
真理子の愛液は、股を伝わり絨毯に染みを作っている。
醜悪な怪物に唇で奉仕しながら、女教師は自らの手で自分の性器を慰め始めた。
指を二本揃え、性器を擦る。
熱いシャワーに当たりながら、真理子は自慰に耽った。
指で性器を弄りながら、固く尖った乳首を擦る。
今日の夕方まで、夫と娘は帰って来ない。
今なら淫らな遊びに耽っていられる。
淫靡な一人遊びに浸る真理子の脳裏に、京王プラザホテルでの一幕が蘇った。
カミロというイタリア人の男が連れて来た青年は、とても美しかった。
中性的な美貌に、真理子はすぐ虜になった。
巧みな指捌きに、女教師はすぐ絶頂に達した。
歓喜の悲鳴を上げ、潮を吹き、軽く意識を失った。
アルフィオの性技も素晴らしかったが、そのイチモツも真理子を虜にさせた。
ズボンから弾け出た男根に、感嘆の溜息を零した。
口で頬張り、ねっとりと舌を這わせ、精一杯のテクニックで男を喜ばせようと勤しんだ。
しかし、どんなに性技を駆使しても、男の能面の様な顔を崩す事は叶わなかった。
喜作とカミロの二人に尻を向け、シックスナインの姿勢で互いの性器をしゃぶり合った。
唾液と愛液でぐっしょりと濡れる性器を二人に視姦(しかん)されながら、青年の舌で汚される。
激しく興奮し、何度も絶頂に達した。
でも足りない。
そそり立つ男根を手で支え、自ら肉壺へと沈める。
肉槍を納めると、膣から電流の様な快楽が貫き、身体を激しく痙攣させて逝った。
性的調教を受ける前に、大森エリアにあるファウヌスの店に連れて行かれ、そこで三匹の悪魔達に骨まで汚れる程の凌辱を受けて以来だった。
青年の上に跨り、狂った様にボリュームたっぷりの尻を振りたくった。
涙と涎を垂らし、獣の様な叫び声を上げながら、青年の男根を味わった。
気が付くと、今度は四つん這いの姿勢で、尻を差し出す形で犯された。
やはりバックかと思った。
ファウヌスの店で調教を受けた時も、喜作や使役する悪魔達とまぐわう時も、四つん這いの屈辱的な恰好で犯された。
人妻を屈服させるには、この姿勢が一番だと思われているらしい。
浴室の硬いタイルに頬を押し付け、真理子は尻を突き出す恰好で自慰に耽った。
蜜の沢山詰まった大きな尻を、美しい青年が掴み、自らの腰を叩きつける。
その度に、分泌する愛液が飛び散り、肉と肉を打つ音が室内を満たした。
真理子は、尻を振り、青年と絶頂を合わせる。
膣壁に、熱い精液が叩き付けられると、女教師の意識が闇の中へと失墜した。
激しい息遣いが、バスルームに木霊(こだま)する。
自慰で、これ程感じたのは久し振りだった。
それと同時に、自分はこんなにも恥知らずな女だったのかと、改めて絶望した。
東京都区部南部に位置する特別区、”品川”の住宅街。
篤は、昼寝をしている愛娘の寝顔を眺めながら、妻である真理子の事を考えていた。
妻が浮気をしているかもしれない。
そう感じる様になったのは、此処最近だ。
仕事、家事、育児をこなし、自分や娘に愛情を注いでくれる。
しかし、一週間以上前から、自分が仕事で出掛けている時に、娘の面倒を義理母に任せ、何処かへと外出しているらしいのだ。
不信に思い、それとなく事情を聞くと、学校業務が忙しく、帰りが深夜帯になったり、同僚と飲みに行ったりする機会が増えたと応えていた。
義理母も、娘の言葉を信じているのか、「仕方ない」と応えて、孫の面倒を見てくれている。
いくら鈍い篤でも、二人が何かを隠している事ぐらいは分かる。
だが、興信所を使って妻の素行を調べさせる勇気が出ない。
真理子が娘に傾ける愛情は本物で、夜泣きの時は一晩中抱っこしてあやしたり、発熱した時等は、病院等に通院し、懸命に看病をしてくれる。
多忙な仕事なのに、一切文句は言わず、家事も役割分担を決め、ちゃんとこなしてくれている。
同僚も、美人で気立てが良い妻が羨ましいと、妬まれた。
真理子には文句はない。
しかし、家族ぐるみで自分に何かを隠しているのが気に喰わない。
そして、これが一番の問題なのだが、妻が美しくなったのだ。
大学時代に交際している時も、容姿端麗で学業も常に上位な妻だったが、あれ程の魔性の美しさは無かった。
夜の営みも、増える様になった。
それまで、週に一度ぐらいだったのが、毎日の様に求めて来る様になった。
何処で覚えてきたのか、口腔性交を行い、淫らに篤を誘う様になった。
ある日、仕事で残業になり、くたくたになって家に帰ると、待っていた妻が何時もの様に求めて来た。
流石に疲労困憊だったので、その日は優しく断ったが、深夜、下半身にむず痒い感覚を覚えた。
まどろむ思考の中、薄っすらと目を開けると、下半身に何かが蠢(うごめ)いているのが分かった。
妻の真理子だった。
パジャマのズボンを膝まで下ろした妻が、夫の男根にフェラチオをしていた。
ルージュを塗っていないにも拘わらず、妻の唇は紅く、喉奥まで男根を呑み込み、上下に頭を揺らしている。
亀頭と舌が溶ける様な快感に、篤は女の様な悲鳴を上げて、口腔内に射精した。
歓喜の表情を浮かべ、妻が美味そうに吐き出された精液を飲み干す。
篤は、驚愕の表情で、その場を動けなくなっていた。
夫が起きているのを確認した妻が、大きな尻を此方へと向ける。
口腔性交でかなり興奮しているのか、真理子の性器は己が分泌する液で濡れていた。
一度射精し、ぐったりとしている夫の男根を指と舌で再び奮い立たせる。
篤は、操り人形の様に妻の大きな尻を抱えると、濡れる性器に舌を這わせた。
充血した陰核を執拗に舐め弾くと、妻が金切り声を上げて、頬を強く窄めて頭を激しく振る。
二人は、長い間、シックスナインの姿勢で互いの性器をしゃぶり合った。
妻との淫らな性交場面を思い出し、無意識に表情がだらける。
気が付くと、股間のイチモツが自己主張をしていた。
「何だ、チビ姫ちゃんはお昼寝か。」
背後からする野太い声に、篤は思わず飛び起きる。
声の主は、現在、篤の実家で居候しているザンダンス・キッドだった。
買い物袋を片手に、居間の出入り口で立っている。
どうやら、夕飯の買い物に、愛娘の千尋を誘おうと思っていたらしい。
「き、きききキッド叔父さん、び、びっくりさせないでよ。」
顔を真っ赤にした篤が、キッドの方へと振り向いた。
娘が起きない様に、当然、声は抑えてある。
暫しの沈黙。
キッドの視線が自分の股間へと注がれているのを知った篤は、勃起したイチモツを慌てて手で抑えた。
「・・・・そっか、そうだよな・・・お前ももう立派な男だもんな。」
「え? 」
いきなり目の前に胡坐をかいて座る髭面の大男は、大きな手で固まる篤の肩を何度も叩く。
「お前の嫁さん、両親の介護で実家に帰っているんだろ? そりゃ、溜まっているのも当たり前だよな。」
「え?え? 」
「大丈夫、俺が良い所にお前を連れて行ってやるから。」
恐らく実父に、自分と妻の事を聞いたのだろう。
変な風に誤解されている。
否、強(あなが)ち間違いでは無いのだが、性欲を持て余す程、飢えてはいない。
自分一人で十分発散出来る。
と、思い込んでいた。
”品川区”大森エリア。
明日、自宅マンションがある”大田区”へ帰る予定の篤に、「良い想い出を作ってやる。」とキッドが半ば強引に連れて来た。
一目で、高級クラブであると分かる洋風の外観に、篤は顔を真っ赤にして固まる。
今迄、真面目一徹で通し、学生時代も勉強や好きな研究に時間を費やして来た。
遊びらしい遊びなど、一度もした事が無く、異性との経験も真理子が初めてだったりする。
実父である幸太郎は、息子と同じく真面目で頑固な面があった。
しかし、若い頃はそれなりに女遊びをしていたらしく、職人(ハンドヴェルガー)として世界各国を飛び回っていた時も、後腐れの無い女性を何人か作っていた。
「どうした? 早くコッチに来いよ。」
「え? で・・・・でも・・・・。」
「大丈夫、金なら俺が全部払ってやるから。」
「そ・・・・そういう問題じゃ・・・・・。」
これは、完全な妻に対する冒涜(ぼうとく)行為である。
正直なところ、男としてこういった風俗店に興味が無いとは言えない。
心底、真理子に惚れてはいるが、プロの性技を味わってみたいという、男としての欲望が無いと言えば嘘になる。
店の中に入ると、モデル並みに容姿が整ったフロント制服を着用している女性が快く二人を出迎えた。
「お久しぶりですね? ザンダンス・キッド様。」
ビップルームへと案内された二人を、店のオーナーらしき30代半ばの男性が待っていた。
トルコ人らしい容姿が非常に整った男だった。
着ているスーツも如何にも高級そうで、ソレを嫌味なく着こなしている。
自分とは、住む世界が完全に違う人種だった。
キッドは、オーナーと大事な話があると告げて、従業員に篤をプレイルームに連れて行く様に依頼した。
当初は、真理子への操立てを理由に断ろうとしたが、見目麗しい二人の女性を前に、何故か言葉を呑み込んでしまう。
連れて行かれた場所は、五十畳はありそうな大きな広間だった。
豪奢な調度品が室内に飾られており、天井には大きなシャンデリアが設置されている。
まるで、西洋の映画に登場する舞踏会を連想させた。
室内には、既に数名の客がおり、ソファに座って娼婦らしき女達から濃厚な奉仕を受けていた。
しゃぶる音と吐息、男達の呻き声が室内を満たしている。
「此処は、溜まっているストレスを発散するマッサージルームなんですよ? 」
豊満な乳房をさらけ出し、性器を辛うじて覆う程度の面積しかないパンティを吐いた娼婦が、篤をソファの上に座らせる。
頭の中がボーっとして、考えが定まらない。
室内には催淫作用を促す香が炊かれており、篤の息が自然と粗くなる。
女は慣れた手付きで、ベルトを緩め、ズボンと下着を膝下まで下ろしてしまった。
興奮して勃起したイチモツを眺め、怪しく笑う。
「大分、溜まっている様に見えますけど、奥様との夜の営みはどうなんですか? 」
「・・・・・つ、妻は両親の介護で今は実家に・・・・。」
篤の声が、段々と上ずっていく。
女が、陰茎に舌を這わせ、指で扱いている為だ。
口に含み、頬を窄めて頭を上下に振ると、10秒ももたずに吐精した。
「うーん、古い精子が大分あって、新しい精子を傷つけていますね。」
女は、テーブルの上に置いてあるティッシュボックスから一枚抜き取り、口の中にある精子を吐き出す。
目元を赤く染め、粗い吐息を繰り返す篤に優しく微笑みかけると、一度射精し、ぐったりとしている男根を豊満な乳房の間に挟んだ。
「知ってます?長期間、射精を我慢していると男性不妊になってしまうそうですよ? 」
唾を垂らし、滑りを良くしながら、時々、先端を舌で刺激する。
一方の篤は、女の巧みな愛撫に墜落寸前であった。
催淫効果のある香で、正常な判断力を失い、顔は快楽ですっかり蕩けている。
「うおぉっ、い、いぐぅ! 」
激しいイキ声に、驚いた篤が隣を振り向いた。
40代後半辺りのでっぷりと太った男が、娼婦の頭を抑え、喉奥まで肉槍を突き刺していた。
長い呻き声を上げながら、美しい女の口内へと汚液を注ぎ込む。
娼婦の唇の端から、白濁の液体が噴き出した。
ビップルームで向かい合う様に座る二人。
室内の空気が一気に下がり、張り詰めた緊張感が周囲を包む。
「カミロの居場所を教えろ。」
有無を言わせぬキッドの言葉に、店のオーナーであるファウヌスが、大きな溜息を零す。
「申し訳ありませんが、私とあの方はそれ程親しくしていません。」
「そんな事は無いだろ? 一月前に、奴等からアジア系の女二人を買い取ったと噂を聞いたぜ? 」
ソファに身を預け、キッドが真向かいに座るトルコ人の男を睨み付ける。
一月前、”黄虎”が経営しているエステサロンに、カミロとアドルフォの二人が襲撃を掛けた。
その時、戦利品として店で働いている女性従業員二人を攫(さら)ったのである。
人間の女は、悪魔達にとって極上の馳走(ちそう)だ。
アドルフォが造り出した調教用の悪魔達に、たっぷりと魔力の素である精液を注ぎ込まれた女達は、既に出来上がっていた。
ファウヌスは、女達を高額で買い取り、魔力供給の道具として地下の遊戯施設で飼っている。
「・・・・・例え知っていたとしても、貴方に教える気はありません。」
「ファウヌス。」
「貴方や、ブッチ・キャシディ様には、同胞を救ってくれた恩義があります・・・しかし、大事な顧客を売る行為は、闇社会でタブーとなっているのは貴方もご存知の筈。」
この世界で生きて行くには、信頼関係が必須となる。
特に、アドルフォは調教師(テイマー)としても、その道ではかなり有名だ。
この手の商売をしていると、魔力供給を目的とした出来の良い娼婦を集める事が必要となる。
「お前の立場も分かる・・・昔、俺も似たような商売をしていたからな。」
『コーサ・コステロ』に在籍していた時は、その手の人身売買は当たり前の様に行っていた。
ソレ目的の売春宿も幾つか経営した事がある。
魔力供給を目的とした娼婦は、魔導師ギルド内でも重宝されていた。
国からも風営法として認可されている上に、手厚い保証までしてくれる。
「だがな・・・・奴は俺の大事な家族を奪った挙句、息子のアルフィオを連れ去った。どんな手を使ってでも、必ず取り戻す。」
「キッド様。」
「頼む・・・・金で解決出来ないなら、俺の心臓をくれてやっても良い。」
悪魔使いにとって、心臓は大事な召喚器の役割を果たす。
これを捧げると言う事は、己の命をくれてやっても構わないという事だ。
必死に懇願するキッドに対し、ファウヌスは困り果てた様子で溜息を吐いた。
妖樹・アルラウネの樹液で精製された香が炊かれた地下遊戯施設。
催淫作用がある香りにすっかりまともな思考を奪われた篤は、激しく頭を振って自分の男根に奉仕する女をぼんやりと眺めていた。
女の大きな尻は、筋骨逞しい覆面の男が抱え、腰を叩きつけている。
愛液でぐっしょりと濡れた膣に太い男根が出入りする度に、女は歓喜して、頬を強く窄めて狂った様に頭を振りたくった。
強い刺激に、篤が呻く。
薄っすらと目を開けると、自分の男根を咥えている女の顔が、妻の真理子へと変わっていた。
舌で裏筋を舐り、唾液を啜り上げる。
激しいピストン運動で、波打つ尻肉。
覆面の男が低い呻き声を上げ、真理子の子宮に汚液をぶちまける。
恍惚とした表情で、妻も絶頂を迎えた。
男根から口を離し、粗い呼吸を繰り返す。
― 真理子・・・・・。
自然と篤の手が伸びた。
妻の髪を乱暴に鷲掴み、自分の方へと無理矢理顔を向けさせる。
涎と精液で汚れる唇。
篤は、獣の様な唸り声を上げて、ルージュを引いた様に赤い唇へと喰らい尽く。
女が白眼を剥いて、くぐもった悲鳴を上げた。
肌がみるみる土気色へと変わり、身体が枯れ枝の様に細くなる。
篤が、女のマグネタイトを吸い尽くしているのだ。
覆面の男が、驚いて篤から離れる。
その足元に、変わり果てた女の亡骸が転がった。
館内に鳴り響く警報。
ビップルームで睨み合う二人の男が、無意識に立ち上がる。
「い、一体何が? 」
店のオーナーであるファウヌスが、予想外の事態に内線電話が設置されている壁へと向かう。
そんなファウヌスを他所に、キッドはビップルームから駆け出していた。
肌にビリビリと突き刺す魔力の波動。
悪魔召喚術師として、優れた精神感応力が、魔力の発信源を伝えている。
地下の遊戯施設。
風俗遊びを名目に、無理矢理連れて来た篤がいる場所だ。
”品川区”、樋口家がある住宅街。
緑のジャージにエプロン姿の樋口・幸太郎が、台所に立って夕餉の支度をしていた。
「全く、馬鹿息子が。」
ブツブツと文句を垂れながら、カレーの入った鍋をかき混ぜる。
息子である篤は、幼い娘を置いてキッドと一緒に風俗街がある”大森エリア”に行ってしまった。
幸太郎が、用事で少しの間だけ家を空けていた時である。
卓袱台に「大森エリアに行く」とかなり癖のあるイタリア語で書置きを残し、息子と居候は居なくなっていた。
明日の昼には、妻と一緒に暮らしている”大田区”に戻ってしまう。
家族三人と居候とで夕食を楽しもうと思っていたのに。
その時、家のチャイムが鳴った。
「パパとおじちゃんが帰って来た。」
居間で愛犬とテレビアニメを観ていた幼い孫が、小走りに玄関へと向かう。
溜息を一つ零し、ガスの灯を消す幸太郎。
孫の後を追い掛け、愛犬と共に玄関口に行くと孫が背を伸ばしてドアの鍵を外しているところであった。
「千尋や居間に戻っていなさい。」
サンダルを履き、孫の小さな肩に手を置く。
「じーじ・・・・。」
「良いから、八房(やつふさ)と一緒に居間に行くんだ。」
有無を言わせぬ祖父の言葉に、千尋は渋々従う。
柴犬の八房に袖を引かれ、居間へと帰る孫の小さな後姿を見送り、幸太郎は、下駄箱に隠してある二十六年式拳銃を取り出した。
慣れた手付きで安全装置を外し、右手に持つ。
「どなたさんかな? 」
玄関のドア越しに声を掛ける。
「柳生宗矩(むねのり)です・・・・貴方に預けた私の刀を引き取りに来ました。」
「・・・・・。」
「ドアを開けて貰えますか? 天国(あまくに)先生。」
「・・・・分かった。」
暫くの逡巡後、幸太郎は拳銃の安全装置を掛け、腰に刺す。
ドアの鍵を開け、扉を開くとノーフレームの眼鏡を掛けた40代半ばぐらいの男が立っていた。
「お久しぶりです、天国(あまくに)先生。」
「ああっ・・・・”シュバルツバース破壊計画”以来だな? 宗矩。」
幸太郎は、苦笑を浮かべると、警視長『悪魔特捜課』責任者、奥原警視長を見上げた。
ゲーム三昧の毎日です。