ガルム族・・・・北欧神話に登場する猟犬。
冥界と現世の境界を護る魔獣である。
非常に優秀で、人間並みの知能を持つ特殊個体も存在する。
JR亀戸駅の北側にある亀戸駅前公園。
大きな親亀の背に二匹の子亀が乗る像の噴水を、雨宮・知子がベンチに座ってぼんやりと眺めていた。
「帝都を守護する四神の一つかぁ・・・・。」
年の頃は、40代半ばだろうか。
ノーフレームの眼鏡を付けた女性は、都庁が指定する作業着を羽織り、下にパンツスーツを履いている。
如何にも、「視察目的」ですよ、と言わんばかりの風体であった。
「ふんだ・・・何が誇大妄想のオタク女よ・・・絶対、四神相応を現代に復活させてやるんだからねぇ。」
大好物のいちごオレのパック、そこに刺さるストローの口を前歯で、苛々した様子で齧る。
脳裏に、知子が所属する市街地建築部の上司、重沼の憎たらしい顔が浮かんだ。
現在、彼女は都庁に勤務し、第二次関東大震災の復興に身を粉にして働いていた。
数か月前に世田谷区と矢来区で起こった悪魔によるパンデミックは、未だ深い爪痕を残している。
死傷者、優に数百名。
仕事で、地方に出張に出ていた知子は、幸いにも難を逃れる事が出来た。
「あっ! この馬鹿犬! 止めろってんだよ!! 」
突然、知子の耳元で大きな怒鳴り声が響いた。
驚いて傍らを見ると、お昼に買ったサブウェイのローストビーフサンドを成人男性並みの体躯をした犬が美味しそうに貪り喰っている。
「あ、アタシのお昼ご飯。」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
余りの出来事に、茫然自失となる知子に、見事な銀色の髪をした少年が何度も何度も頭を下げる。
必死に太いリードの綱を引っ張るが、巨大な犬は全く歯牙にもかける事は無かった。
ものの数秒で、ローストビーフサンドを平らげてしまう。
「ぐふー♡ご馳走様でしたぁ。」
「馬鹿野郎! 」
ご満悦の赤毛の犬に向かって、銀髪の少年が拳を振り上げる。
そんな少年を知子が慌てて止めた。
「暴力は駄目! おばちゃん全然気にして無いから! 」
見たところ、この魔獣はまだ子供だ。
そんな幼子に暴力で躾ける等、言語道断である。
「で、でも・・・・。」
「大丈夫、大丈夫、また買えば良いだけだから。」
そう言って、にこにこと笑う赤毛の犬の頭を優しく撫でてやる。
相当人間に慣れているのか、まるで猫の様に、魔獣は大きな頭を知子に摺り寄せてきた。
「貴方、”エルミン学園”の学生さん? 」
「うん、そうだけど・・・・アンタ、悪魔が恐ろしく無いのか? 」
銀髪の少年‐ ネロは、不思議そうに目の前の女性を見下ろす。
東京湾に突然空いた異界の穴”シュバルツバース”の影響で、悪魔は恐ろしい生き物であると、周囲に認知されている。
現に生体マグネタイトを狙って、下級悪魔が人間を襲う事件が頻繁に起こっているのだ。
その度に、ネロ達『悪魔狩人』が駆り出され、悪魔の大規模な駆除が行われている。
「仕事柄、君みたいな悪魔狩人(デビルハント)と一緒になる事が多くてね・・・因みに、聖エルミン学園は、私の母校よ。」
知子の視線が、ネロが羽織っているジャージのエンブレムに注がれる。
魔力の適性値が無かった知子は、猛勉強して進学クラスに進んだ。
別の意味で、自分なりに悪魔の脅威から人類を護ろうと考えたからである。
昼休憩時間にはまだ余裕があったので、知子は近くの売店で弁当を買う事にした。
分厚いハムを挟んだサンドイッチを幾つか買い、それをネロに渡してやる。
「え? 流石に悪いって・・・・。」
「良いの良いの、君、まだお昼ご飯食べて無いでしょ? 」
恐縮するネロに、人好きな笑顔を向ける。
この年頃の少年を見ると、つい余計なお節介をしてしまう。
離婚した夫に引き取られた息子をつい想い出してしまうからだ。
二人と一匹は、再び駅前公園に戻るとベンチで昼食を取る事にした。
「俺、まだ悪魔召喚術師(デビルサマナー)の見習いでさ、まだ仲魔も思う様に出来なくて苦労してるんだ。」
知子に奢って貰った分厚いハムサンドを一口齧り、ネロは身の上話を始める。
人見知りが激しいネロが、何故、初対面の相手にこんな話をするのか、自分自身ですらも理解出来なかった。
只、この女性から幼い時に失踪した実母、アンヌと同じ匂いを感じたのかもしれない。
「でも、何時かは先生みたいな凄い召喚術師(サマナー)になれたら・・・とは思ってる。」
「先生? 」
「うん、17代目・葛葉ライドウが俺の師匠なんだ。」
サンドイッチに挟まっている分厚いハムを、物欲しそうにしている仲魔に放り投げてやる。
魔獣‐ガルムは、器用に宙でハムをキャッチすると、美味そうに咀嚼した。
「君・・・もしかして、H・E・C(human・electronics・Company)の会長のお弟子さん?」
都庁勤務をしている為、人修羅こと17代目・葛葉ライドウの名前は知っている。
超国家機関『クズノハ』創始者である四家の当主の一人であり、48歳という若さで日本有数の巨大企業の一つであるH・E・C社の会長を務めていた。
「そうだぜ? やっぱ先生って超有名人なんだ。」
「勿論、私達がこうやって普通に生活出来るのも、全て彼のお陰だから。」
そう言って、知子は視線を東京湾がある方向へと向ける。
此処からでも、東京湾一帯に空いた穴を覆う超巨大な壁を見る事が出来た。
今から10数年前に突如として開いた巨大な異界の穴。
年々、その体積を増す穴の侵攻を未然に防いでいるのが、ライドウ達『調査隊』である。
彼等が定期的に”シュバルツバース”に潜り、穴の侵攻を遅らせている為、今も何とか東京湾一帯で留まっている。
ーあの壁の維持にどれだけ莫大な資産が使われているか・・・君は考えた事があるのかね?雨宮君。
不図、上司である重沼の嫌味ったらしい声が、脳裏を過った。
都市づくり政策部の合同会議の最中であった。
知子は、かつて帝都を守護していた四神の復活を議題として提出した。
その際、重沼主任は、女の浅はかすぎる愚かな考え、と無下に切り捨てたのである。
(くっそ・・・嫌な事思い出しちゃったなぁ。)
ぶくぶくと肥え太った重沼のたるみ切った下顎に、拳を叩き込んでやりたい。
知子は、隣に座る銀髪の少年に気取られない様、心の中で舌打ちする。
第二次関東大震災が起こり、首都を東京から八王子に移してから10数年以上の月日が流れる。
日本政府の関心事は、巨大な大穴『シュバルツバース』に集まり、破壊された都心の再開発は蔑ろにされている状態だ。
知子の主張は、”破壊され、機能を失った四神相応の結界を復活させる事”。
もし、それが叶えば、ひと月前に起こった世田谷区と矢来区のパンデミックを、最小限にとどめる事が出来たかもしれない。
だが、そんな彼女の訴えを、上層部は『無用』と判断し、全く取り合うとはしなかった。
「ねぇ、この子名前とかあるの? 」
どんどん沈みそうになる気持ちを振り払い、知子は自分の膝に擦り寄る魔獣の頭を撫でてやる。
「ガルムだよ。」
「それは種族名でしょ? 」
「そうだけど・・・・名前なんか必要なのかよ? 」
仲魔に名前を付けてやる必要があるのか、イマイチ理解出来ない。
術師が使役する魔獣を育てている調教師(トレーナー)の白エルフも、知子と同じ事を言っていた。
「悪魔召喚術師(デビルサマナー)にとって仲魔は家族と一緒、名前を付けてあげないとこの子が可哀想よ。」
「名前ねぇ・・・。」
そんな事今迄に一度も考えた事が無かった。
確かに知子が言う通り、師であるライドウの仲魔‐ ハイピクシーのマベルや、かさぎ荘で番契約をした火の神・シウテクトリと、彼等悪魔には幾度となく助けられている。
調教師(トレーナー)である白エルフのドーピーも、この魔獣を貰い受ける時『名前を付けて欲しい。』と言われた。
「なら、おばちゃんが付けてあげる・・・うーんとぉ、プルートなんてどうかしら?」
「プルート? 」
「そ、私が大好きなディズニーアニメに登場する犬の名前よ。」
知子は、ディズニーキャラが描かれた手提げのポーチをネロに見せてやる。
そこには、長い耳が垂れた犬のイラストが描かれていた。
子供の頃から、ウォルト・ディズニーアニメのファンだった。
数多くあるディズニーキャラの中でも、プルートは、大のお気に入りだった。
ミッキーの愛犬で、喜怒哀楽が激しく、主人のどんな無茶振りでも必ず従う忠犬。
「プルートねぇ・・・・。」
ネロは苦笑いを浮かべつつ、改めて傍らにいる大きな体躯をした魔獣を眺める。
黒と赤が見事に分れた魔獣は、純粋無垢な瞳を新米召喚術師(サマナー)へと向けていた。
眼鏡の都庁職員女性と別れ、特殊学科のある地下施設”ノイシュヴァン
”へと戻るネロ。
その傍らには、大好きな散歩を満喫出来て大満足な魔獣が素直について来ている。
「あのお姉さん良い人間だったね。 またサンドイッチご馳走して欲しいなぁ。」
「馬鹿、あの人が特別で、普通だったら警察呼ばれてるっての。」
何処までも能天気なプルートに、ネロは海よりも深い溜息を吐きだす。
ネロの言う通り、普通の人間は悪魔は危険な生き物であると認識されている。
それに、自分の昼食を見知らぬ誰かに盗られたら警察に通報されるのは当たり前だ。
(妖牧場に帰ったら、コイツともお別れだな。)
知子は、プルートをネロの仲魔だと思い込んでいたが、正確にはまだ仲魔では無い。
この魔獣は、調教師(トレーナー)から借りた悪魔であった。
悪魔交渉が全く上手く行かず、仲魔を増やす事が出来ないネロを危惧した”薬学部”顧問のトロルが、調教師(トレーナー)をしている白エルフを紹介したのである。
魔獣の調教を専門としている白エルフは、使い魔同士の交配も行っており、その道ではかなり名が知れているという事であった。
白エルフ・ドーピーは、短気な性格をしているネロに大事に育てた自分の魔獣を譲り渡す事を当初、渋っていた。
「確かに僕は、依頼主からお金を貰って使い魔を飼育してます。 でも、それには一つ条件があって、”魔獣を大切にする”人しか仕事を引き受けません。」
作業台の上に置かれた金貨を眺めつつ、ドーピーは、困った様子で眉根を寄せる。
この金貨は、トロルが持って来たモノであった。
皮の袋の中には、ぎっしりと大量の金貨が詰まっている。
それだけで、相当な額である事が分かるが、白エルフは頑として首を縦に振る様子は無かった。
「これで不満なら、倍額出してやってもいい。」
「スルトル様、お金の問題じゃないんですよ。」
「分かっている・・・・だが、この小僧に必要なのは、常に傍にいて支えてやれる優秀な使い魔だ。」
トロルは、猛獣舎の出入り口で所在なく立つ銀髪の少年に視線を向ける。
薬学部が持つ農園を手伝っているところを無理矢理連れ出した為、上下着ているジャージは泥塗れであった。
「あの小僧は、優秀な召喚術師(サマナー)としての資質を持っている・・・悪魔に対するつまらん偏見を取り除く為にも、優秀な使い魔が必要なのだ。」
「うーん、困ったなぁ・・・。」
トロルが自腹を切って、これだけの大金を提示するからには、期待するだけの才能をあの少年は秘めているのだろう。
この世界にとって、悪魔召喚術師はダイヤモンドの原石よりも希少価値が高い存在だ。
ムスペル族の長が、熱を入れるのも無理はない。
「仕方ない・・・・ガルム達に決めて貰いましょう。」
魔界の過酷な環境下から逃れ、現世に亡命した彼等、白エルフにとってスルトルことトロルは、居場所と仕事を提供してくれた恩人だ。
無下に断る真似も出来ず、ドーピーは仕方なく、犬舎に彼等二人を案内する事にした。
「なぁ、別に仲魔なんて必要ねぇよ。」
飼育場の長い通路を通り、犬舎へと向かう道すがら、ネロは前を歩く薬学部顧問に不満をぶつけた。
「召喚術師の心得を17代目から聞いていないのか? 」
「うっ、き、聞いてるけど。」
「なら、仲魔の数を増やすのも、召喚術師の大事な役目だ。」
「・・・・・。」
ネロが番契約している火の神・シウテクトリ一体だけでは、この先の苛烈な戦いを勝ち抜く事は出来ない。
それに、ネロが右腕に装着している”デビルブレイカー”は、様々な属性の悪魔を宿す事で、その真価を発揮する事が出来る。
故に、様々な属性の悪魔と契約する事が出来れば、更なる力を得る事が可能になる。
と、頭の中で理解はしているが、どうにも悪魔と交渉するのが大の苦手だ。
何度も矢来地下水道で、仲魔集めの為に悪魔と交渉を心みたが、金を無心された挙句、逃げられたり、態度が気に喰わないと相手の悪魔を激怒させてしまうのだ。
「プルート♪プルート♪うふふっ♡ 」
聖エルミン学園の豪奢な門前。
黒と赤い毛並みをした巨大な魔獣は、都庁職員の女性から付けられた名前を何度も何度も飽きる事無く繰り返す。
「そんなに気に入ったのかよ? 」
「うん! だって僕がこの世界で初めて認めて貰えた証だもん。」
「証? 」
「そう、ネロは名前を貰えた時、嬉しく無かったの? 」
逆に質問で返され、ネロは思わず返答に困る。
今迄、名前を付けて貰った事に対して、喜びを感じた事は一度も無い。
それが人間として当たり前であったし、別段、名前の由来を気にした事が無かったからである。
ネロは、イタリア語で黒を意味する。
実父であるヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーが、好きな色であった為、我が子にその名前を付けた・・・というのを、養父である魔剣教団の騎士団長、クレドから聞いた。
カードキーを通し、地下にある”ノイシュヴァン”に帰るまで、プルートはヘラヘラとだらしなく笑っていた。
悪魔にもこんな能天気な奴がいるもんだと、ネロは初めて思う。
そういえば、マベルもシウテクトリも人間と同じく、ちゃんとした『個性』があった。
魔剣教団に所属していた当時は、悪魔は人類に害をなす危険な生き物であると教えられてきた。
今迄、狩って来た悪魔達は、どれも人間に敵意と殺意を剥き出しにしており、マグネタイトを得る為の『食糧』だと思い込んでいる奴等ばかりであった。
だから、何の躊躇いも無く討伐する事が出来た。
調教師(トレーナー)がいる猛獣舎に到着すると、白エルフのドーピーがすく出迎えてくれた。
余程、自分が手塩にかけて育てた魔獣が気になっているらしい。
「どうだった? 彼を気に入ったかい? 」
優しくプルートの頭を撫でてやりながら、魔獣の意見を聞く。
1時間の散歩中、ネロを気に入らなければ、翌日、違う魔獣を充(あ)てがう予定になっていた。
「うん、サンドイッチご馳走してくれる優しい人間だよ? 」
「さ・・・・サンドイッチ? 」
予想外の言葉に、白エルフは訝し気な表情で、傍らのネロを見上げる。
このプルートは、他の魔獣達と違って警戒心が薄く、食い意地が張り、犬舎ではちょっとした問題児であった。
ネロを犬舎に案内した時、不審な眼差しを向ける同胞達と違い、真っ先に懐いたのがこのプルートだった。
「べ、別に物で吊った訳じゃねぇからな! 」
顔を真っ赤にしたネロが、慌てた様子で否定する。
そもそも、都庁職員の昼飯を強奪したのがプルートであり、自分は散歩を頼まれただけである。
「気に入った・・・と受け止めて良いのか? 」
そんなやり取りを用意された椅子に座る薬学部顧問・トロルが聞いた。
樫の木で造られた頑丈な椅子であるが、トロルみたいな巨漢が座ると、今にも壊れてしまいそうだ。
「うーん・・・・君は、彼を主と認め、共に歩む気持ちはあるかい? 」
「うん!」
「彼が間違っていると判断した時、最善の選択をする事が出来るかい?」
「うん!」
「彼の身を護り、命を捨てる覚悟はあるかい? 」
「うん! 」
何の躊躇いも無く頷くプルートに、白エルフは諦めたかの様な溜息を吐きだす。
純粋無垢で世間の残酷さを知らないプルートであるが、曲がりなりにも優秀な血統をその身体に引いている。
此処で過保護に育てるより、ガルム族の直感を信じてやりたい。
不承不承ではあるが、白エルフは、魔獣の意見を尊重する事に決めた。
「で、ソイツが新しい仲魔になった訳か。」
東京都台東区北東部にある山谷のドヤ街。
魔具(デビルアーツ)の修繕又は改良を専門とする職人(ハンドヴェルガー)のニコレッタ・ゴールドスタインが経営する店がある。
繋ぎとTシャツを着た浅黒い肌をした20代半ばの女性が、人好きがする笑顔を向ける魔獣の頭を優しく撫でた。
「ああ、何か知らねぇけど気に入られちまってな。」
大型のバンの下に潜り込んでいたネロは、足でクリーパー(寝板)を使い、外に出る。
学校が終了し、時刻は既に6時を回ろうとしていた。
本当なら、居候している成城にある葛葉邸に帰っている時刻である。
しかし、屋敷の主である17代目・葛葉ライドウは”壁内調査”に出ていて不在。
同居しているライドウの仮番・ダンテと顔を合わせるのが嫌で、暫く矢来銀座にある『葛葉探偵事務所』で寝泊まりしていた。
「ガルム族は、忠誠心に厚く、人間以上に知能が高い個体が存在する。大事に信頼関係を築けば、お前の助けになってくれるだろう。」
作業台の上に座るハムスターの姿を借りたネロの番、火の神・シウテクトリがニコが渡した干し肉を美味そうに齧っている魔獣を眺める。
ガルム族は、死者の国の女王・ヘルの眷属であり、冥界に近づく無法者を追い払ったり、冥府から逃げ出す死者を捕まえる役目を持つ。
人間と同程度の知能を持ち、中にはソレを遥かに超える優秀な個体も存在するのだ。
「本当か? とてもそんな風には見えないけどな。」
「お前と同じだ。 共に精進を続ければ、いずれ大輪の花を咲かせる。」
幾度も間違いを犯し、何度も壁にぶち当たる事で、人間は強くなれる。
それは召喚術師も同じだ。
試練を幾つか共に乗り越える事で、後々、大きな成果を世に残す事が出来る。
その時、作業台の上に乗せていたネロのスマホが鳴った。
出ると相手は、同じ”探偵部”の仲間、壬生・鋼牙からであった。
飛び込みの仕事が入ったから、至急、矢来区のショッピングモールにあるピースダイナーに来て欲しいとの事であった。
仕事も早引けして暇だ、というニコの言葉に甘え、仕事用の大型車両で指定された場所へと向かう。
「なぁ・・・・ニコ・・・・そのぉ、大丈夫なのかよ? 」
「何が大丈夫なんだよ。」
「え?・・・・そのぉ・・・・警視庁の刑事さんの事。」
目的地であるピースダイナーに向かう道すがら、ネロは慎重に言葉を選びながら、運転席でハンドルを握るニコに話し掛けた。
『クリフォトの魔界樹』事件から一月後。
臨海病院で、ニコは警視庁の対悪魔特捜部隊『D・B(デビルバスター)』に身柄を拘束された。
数日後に釈放された彼女は、精神的にかなり参っていた為か、店を臨時休業。
その数週間後、何とか仕事復帰出来るまで持ち直す事が出来た。
これは後で鋼牙から聞いたのだが、同じ”探偵部”の仲間である遠野・明が親身になってニコの世話をしていたらしい。
不器用なネロは、召喚術師の修行の忙しさを理由に、態とニコに触れないでいた。
肉親の突然の死は、ネロも体験している。
どうやって、そこから乗り越えるのかは、本人しか出来ない。
下手な慰めの言葉は、返って逆効果だと判断したからである。
「・・・・・ぶっちゃけ言うと奥原って野郎は許せねぇ・・・ぶっ倒してオッサンの仇を討ってやりたい・・・でも・・・・。」
沸々と噴き上げる怒りの炎。
無意識にハンドルを握る手に力が篭(こも)る。
「アタシにそんな力は無いし・・・それに、そんな事しても百地の親父は喜ばない。あのオッサンは、死ぬ事を覚悟してたんだ。」
「ニコ・・・・。」
「だから決めたのさ、アタシはオッサンより長く生きる。そんでもって、美味いもん腹いっぱい食べて、めっちゃ楽しい事を体験してやるって。」
「・・・・・。」
精一杯の強がりだ。
本当は、父親同然だった百地・英雄を殺害した奥原警視長に復讐したくて堪らないのだろう。
その気持ちは、理不尽な形で養父を奪われたネロが一番良く分かる。
ネロの養父、魔剣教団騎士団長・クレドは、ヴァチカン13機関に所属する異端審問官・ソードダンサーことアレフ・マクスゥエルに殺された。
一瞬の出来事だった。
剣豪(シュバリエ―レ)の称号を持つ父が、虫けらの如く殺された。
あの時の怒りと憎しみは、今も消える事は無い。
互いに何とも言えない空気を孕んだまま、二人は矢来銀座にある大型のショッピングモールへと到着した。
バンを有料駐車場に置き、壬生・鋼牙が待つピースダイナーに入る。
「あ、ニコ姐も一緒だったんだ。」
”探偵部”の仲間、壬生・鋼牙は、店内の右隅にある席に座っていた。
その真向かいには、依頼人らし女性の姿が見える。
「え? もしかして君・・・・? 」
「あ、アンタ昼間の・・・・? 」
鋼牙達が座る席に近づいたネロは、依頼人の顔を見て驚きで固まる。
そこに座っていたのは、昼間、昼食をご馳走して貰った都庁勤務の女性職員であった。
仮面ライダー・ギーツめっちゃ面白いです。