カミロ・・・・八部連合阿修羅会の構成員。
元イタリアの巨大マフィア”コーサコステロ”に所属していた悪魔狩人で、”銃剣士(ベヨネッタ)”としては、”ハングドマン”と呼ばれ恐怖と共に裏社会に知れ渡っている。
階級は、SS(ダブルエス)
アドルフォ・・・・ 八部連合阿修羅会の構成員。
カミロ同様、元コーサコステロに所属していた。
会長のタミヤに実力を買われ、組織を脱退。
日本に渡り、暴虐の限りを尽くす。
SS(ダブルエス)の魔導師(マーギア)。
新宿区・歌舞伎町。
飲食店、遊技施設 、映画館等が集中する日本最大の歓楽街である。
札幌のすすきの、福岡の中州と並んで、日本三大歓楽街と称されていた。
口から血反吐を吐き、地面に叩きつけられるチンピラ風の男を、サブロウは無感情で眺めていた。
売春宿が立ち並ぶ、饐(す)えた生ゴミの匂いが漂う裏路地。
サブロウに叩きのめされたチンピラが、地面の上で無様に這いつくばる。
「全く・・・・商売するなら店を選びなよ? お兄さん。」
ピンク色の錠剤が数粒入ったビニール袋を、うつ伏せに倒れる男の目の前に落としてやる。
チンピラ風の男は、中国マフィア『黄虎』の構成員であった。
売春婦や亜人達を相手に麻薬を売買している密売人で、特に催淫作用を持つ覚醒剤等を専門に取り扱っていた。
「くっ・・・・记住(覚えてやがれよ。)木娃娃(木偶人形が)我们身后有天地会(俺達のバックには天智会が)・・・・。」
「知道(知ってるよ)、不要告诉像你这样的老板(アンタ等のボスに伝えな)我永远是你的对手(ウチは何時でも相手になってやるってな)。」
負け犬の遠吠え宜しく、恨み言を吐くチンピラと同じ視線に身を屈め、流暢(りゅうちょう)な中国語で応えてやる。
東京23区と同じく、此処歌舞伎町でも、様々な人種が生活をしている。
危険地区に指定されている新宿区は、当然、まともな職種に就いている人間等一人もいない。
人間社会に適合出来ず、闇社会で生きる事を余儀なくされた『不適合者』が、最後に流れ着く場所であった。
凶悪な犯罪組織が横行し、治安はどの国よりも最悪だ。
這う這うの体で去っていく男を、サブロウはまんじりともしない様子で見送る。
後ろを振り返ると、モデル並みに均整がとれた黒髪の美女と、そばかすが残る16・7の少女が立っていた。
「依頼通り追い払ってやったぜ? 直子。」
「ええ、有難う。 助かったわ。」
少女の肩を優しく抱く30前後の女性は、意気消沈といった態(てい)で俯く少女を見下ろす。
先程、サブロウに痛めつけられ、無様に逃げ去ったチンピラは、少女の交際相手だった。
少女は、直子が働いている高級売春宿の娼婦で、男は薬をばら撒く為に、甘い言葉と整った容姿を武器に近づいた。
「芸涵 (イーハン)これで分かったでしょ? 彼は最初から貴女を利用するつもりだったのよ?」
芸涵 というのは、この少女の名前だ。
中国から両親と共に日本へと密入国した経緯があり、入国管理局の厳しい取り締まりにより家族は追われ、此処、新宿区へと流れ着いた。
「今日はもう店を早引けして良いわ。 家族の所に帰りましょう。」
「嫌だ!! 」
突然、芸涵 が直子の手を振り払う。
怒りに燃える双眸が、異形の姿をした怪物と恩人でもある黒髪の美女へと向けられる。
「もう沢山だよ! 暴力しか振るわない糞親父と役立たずな母親の所へなんか帰りたくない!」
大粒の涙をボロボロと零しながら、芸涵 は二人に背を向け、何処かへと走り去る。
少女にとって、サブロウに叩きのめされた男は、この地獄から抜け出す救い主であった。
理性では、それが全て嘘であると理解している。
しかし、この地獄とも言っても過言ではない世界で、少女が唯一縋れるのが、あの密売人であったのだ。
「良いのか? あのまま放っておいて。」
「大丈夫、あの子は頭が良い子よ。 新宿区(此処)以外に生きていける場所なんて何処にも無い事ぐらい知っているわ。」
”大和人権保護法”により、純日本人が優遇され、保険料が高く設定されたり、保証金が低く見積もられたり等の弊害が起きている。
その最もな一例が、生活保護制度だろう。
『健康で文化的な最低限の生活』を謳い文句に、生活困窮者を助ける制度であるが、芸涵 親子の様な、移民は”大和人権保護法”により一切受ける事が叶わない状態である。
基本、永住権を持つ外国人は、日本に税金を支払っている為、病気や怪我等を理由に就労出来ない状態だった場合、最低限の保証が約束される。
しかし、それも数年前の話だ。
”大和人権保護法”が施行された事により、在留資格が一気に跳ね上がり、低所得者である外国人は、在留資格を得る事が出来なくなっている。
又、入国管理局の取り締まりが更に厳しくなり、捕まった不法滞在者は母国に強制送還、抵抗を見せれば、最悪、その場で射殺されてしまう。
日本政府の管理が出来ない此処”新宿区”でしか、彼等、不法滞在者は生きていけないのだ。
矢来銀座、『葛葉探偵事務所』が入っている雑居ビル。
来客用の革張りのソファに、不貞腐れた様子で見事な銀色の髪を短く刈り込んだ10代後半辺りの少年が寝転んでいる。
「何時まで臍を曲げてるんだ? ネロ。」
「うっせぇ、別に臍何て曲げてねぇよ。」
テーブルの上に甘いカフェオレが入ったカップを置く、黒縁眼鏡の少年をネロが恨めし気に睨み付ける。
ショッピングモールにある”ピースダイナー”で、一旦依頼を保留する、という形で依頼人である雨宮・知子とその上司、重沼と別れた。
時刻は、8時を軽く回っており、二人は仮住まいである探偵事務所へと帰る事にした。
「仕方ないだろ? 僕達は一応、”八咫烏”の人間なんだ。 御屋形様の命令があったら任務に従事しないといけない。」
軽くシャワーを浴びた黒縁眼鏡の少年‐ 壬生・鋼牙が、真向かいにソファに座り、白い湯気が立つカフェオレを一口啜った。
ネロが臍を曲げる理由はただ一つ、同じ”探偵部”の仲間である、遠野・明が、”シュバルツバース”の壁内調査に出てしまった事だ。
何の連絡すらも無かった。
『クリフォトの魔界樹』事件で、共に戦い、幾らか気心が知れて来たと勘違いしていた。
やはり、鋼牙や明にとって自分は、部外者であり、本当の仲間では無い。
「・・・・・分かってる、俺も魔剣教団にいたからさ、上からの命令には逆らえねぇんだろ? 」
「・・・・・。」
「でも、一言ぐらい何か言ってくれても良いんじゃねぇか? 俺達は・・・その・・・な、仲間なんだし。」
何故か頬を赤くしたネロが、寝転んでいたソファから起き上がる。
今迄、心を赦せる仲間等一人もいなかった。
魔剣教団に所属する騎士達は、皆、ネロより一回り以上も年上な奴等ばかりであった。
同期の騎士達もいるにはいるが、実戦経験が乏しい見習い騎士ばかりで、ネロの様に飛び抜けた戦闘力を買われて、いきなり現場に出る事は決して無い。
なので、自分と同じ異能力者である鋼牙や明は、ネロにとって、初めて作る事が出来た親友とも呼べた。
「まぁ、明の事は一旦置いといて、さっきの仕事の依頼は、一応引き受けるつもりではいる。」
そんな子供じみた態度を見せるネロに、内心苦笑しつつ、鋼牙は本題へと入る。
「でも、幾らボーグ中尉のサポートがあるとはいえ、相手は”新宿区”を支配する”八部連合阿修羅会”だ。二人だけじゃ、戦力的に乏しい。」
「じゃ、どうするんだ? まさか”八咫烏”に助っ人を頼むのか? 」
「ぶっちゃけ無理だね。 震災で仲間の半数以上が死んじゃって、未だに人員不足だからね。唯一、自由に動ける佐助も、”壁内調査”に駆り出されたし。」
「え? マジかよ。」
猿飛・佐助。
鋼牙達と同じ”八咫烏”の人間であり、その中でもエリート中のエリートで固められている”十二夜叉大将”の一人である。
摩虎羅大将という別名を持ち、純粋な甲賀忍の血を引いていた。
一月前の『クリフォトの魔界樹』事件で、13代目・葛葉キョウジと交戦。
瀕死の重傷を負うも、16代目・葛葉忍の優れた医療技術のお陰で、最近、現場復帰する事が出来た。
「まだ本調子とは言えないんだけどね。 17代目の後続部隊”ギガンティック号”に乗って調査するらしい。」
退院後、いきなりの過激な任務。
「何時か、御屋形様に殺される。」と真っ青な顔で、自分に縋りついて来た。
「で、まぁ、そういう訳だから、外部から助っ人を雇う事にしたんだ。」
「外部からの助っ人? そんな奴いるのかよ? 」
「いるよ。渋谷センターキャンプは覚えてる? 」
『クリフォトの魔界樹』事件が発生する前、ネロ達は、軍資金稼ぎを理由に、渋谷にある難民キャンプを訪れた。
そこには、悪魔討伐をして金を得ようと、悪魔狩人達が大勢詰めていたのである。
「覚えてるぜ、まさか、あそこにいる悪魔狩人の連中に助っ人を頼むのか?」
「勿論、この仕事は一応、東京都からの正式な依頼だからね。 多額の報奨金が貰える筈だから、彼等も喜んで引き受けてくれるよ。」
「・・・・報奨金ねぇ。」
マグカップを手に取り、甘いカフェオレを一口啜る。
鋼牙には悪いが、それ程、話が上手く運ぶとは到底思えなかった。
ボーグの情報では、八部連合阿修羅会の会長、タヤマは、日本政府ですら手を焼く超危険人物だ。
そんなヤバイ奴を相手に、喜んで助っ人を買って出る猛者がいるかどうか、甚(はなは)だ疑問ではある。
『レッドスプライト号』の冷たい空気が漂う鋼鉄の通路内。
愛息子と対峙する17代目・葛葉ライドウは、顔面を蒼白にさせていた。
「あ・・・明・・・・どうして? 」
緊張と戸惑いで、喉がカラカラに乾く。
「あの下衆野郎からの命令だ。 アンタを補佐しろってさ。」
「骸が・・・・。」
脳裏に浮かぶ、情夫の冷徹な姿。
三年前の”あの一件”以来、愛息子とまともに顔を合わせていない。
否、合わせられないが正解か。
「ダンテってオッサンが、三代目に連れていかれたらしいな? 」
「あ、ああっ・・・・・”教育”すると言って、”鞍馬(くらま)”に連れて行った。」
鞍馬(くらま)とは、帝国議事堂の地下に建設されている人工都市‐ ニライカナイにある巨大な修練場だ。
三代目剣聖である玄武は、そこに自ら居を構えており、多くの門下生を指導している。
と、言っても指導しているのは、あくまで組織『クズノハ』に所属する剣士達で、玄武自らが門下生達を教える事は殆ど無い。
「だから呼ばれた。 アンタを護れってな。」
「・・・・。」
骸が何を意図して、疎遠になっている息子に自分の護衛を命じたのか皆目理解出来ない。
ダンテの後釜に据(す)えるならば、宮毘羅大将の様な、自分に忠実な部下を付ければいいだけの話だ。
「ふざけんな! 人修羅様の護衛は、番の俺っち一人で十分だっての! 」
二人の間に漂う深い沈黙を破ったのは、黒い毛並みをした一匹の蝙蝠だった。
腰に吊るしてあるGUMPから、無断で抜け出し、長い前髪の少年を歯を剥き出しにして威嚇する。
「ちょっと、アンタ! 何勝手に出て来ているのよ? 」
「うっせぇ! 折角、忌々しいダンテの糞野郎を排除出来たのに、これ以上、面倒な奴に出て来られたら、俺っちの身が保てないっての!」
自分と愛する主人の恋仲を邪魔する間男が消えたのに、今度は、何処の馬の骨とも知れない糞餓鬼が出歯亀してくる。
呆れた様子で、此方を眺める小さな妖精に、黒い毛並みの蝙蝠- 魔神・アラストルが噛みついた。
「安心しろ、目障りだって言うなら、調査任務以外はどっかに消えてる。 これ以上、アンタに関わる真似はしねぇ。」
「あ、明・・・・何でそんな事を言うの? 」
あまりな明の言葉に、マベルが哀しそうに問い掛ける。
三年前の一件で、二人の間に生まれてしまった大きな溝。
主のライドウは、それを何とかしようと、独り奮闘していた。
その頑張りは、すぐ傍で見ていたマベルが良く知っている。
「ら、ライドウはね、貴方やハルちゃんの事を今でも・・・・。」
「良いんだ、マベル。 もう、終わった事だ。」
主の今置かれている辛い立場を説明しようと、必死になる小さな妖精の言葉を遮る。
三年前の忌まわしい事件で、良好だったライドウの家族関係は、あっさりと破綻した。
愛娘のハルは、神代の生贄へと捧げられ、愛息子の明は、不甲斐ない養父に絶望し、「裏切者」と見限った。
全ては、自分自身の覚悟が足りなかった為に起こった悲劇だ。
13代目・葛葉キョウジみたいに、他者の命を蹴落としてでも、家族の未来を優先すれば、違った結果を残せたかもしれない。
「明、アトキンス艦長のミーティングを聞いていたのなら、デルファイナスがどういった場所か理解出来ているだろ? 」
「・・・・例の精神汚染の事か。」
「そうだ、お前なら大丈夫だとは思うが、敵は精神感応に長けた奴等だ。くれぐれも油断は・・・・。」
「分かっている。 デルファイナスで起こった記録と対策方法は、しっかりと覚えているよ。」
相も変わらず、過保護で心配性な父親だ。
明は、呆れた様子で溜息を一つ零すと、用は済んだとばかりに、あっさりと背を向けてしまう。
現在、調査中のセクター・デルファイナスは、今迄のエリアと違い、悪魔のスキルが非常に高く、おまけに精神汚染を仕掛けて、調査隊員を錯乱状態にした挙句、同志討ちまでさせている。
故に、術師は己の弱点でもある心に、幾重にも防壁を張り、セクター調査を行っていた。
此処最近では、暴徒達を無傷で鎮圧させる事を目的に造られた音響兵器を改良し、MK治療器と名前を付けて、錯乱した仲間を無力化させている。
「ライドウ、良いの? 折角、明と会話できるチャンスだったのに。」
「良いんだ・・・・下手な言葉を並べ立てたところで、意味なんかない。」
もう、分かっているのだ。
視界から消えていく明の背中から視線を外し、改めて自室へと歩を進める。
あの時の様な、和やかな家族関係は二度と築く事は出来ない。
情夫の口から、愛息子である明が、自分自身に狂おしい程の劣情を抱いていると聞かされた。
到底、受け入れられる話ではない。
だから、此処はお互い距離を取るのが最良の方法だと思えた。
ビジネスホテルや雑居ビルが立ち並ぶ歌舞伎町2丁目。
銃声と怒号、物が破壊される瓦解音が、周囲に轟く。
数人の男達が、異形の姿をした怪物達と一緒に、テナントビルの一つを襲撃していた。
この建物は、中国マフィアの一つ”黄虎”が経営する”エステサロン”であり、臓器や人身売買等も行われていた。
「哦,你在做什么?(お、お前等一体何のつもりで)」
「あぁ? 中国語なんか分かんねぇよ。 ポルトガル語か英語で喋ろ。」
白シャツの男が、黒縁眼鏡にでっぷりと肥え太った中年の男の太腿を愛用の大型拳銃、44オートマグで撃ち抜いた。
鮮血と肉片が飛び散り、店の主人の両脇で震えていた二人の女性従業員が悲鳴を上げる。
「何で殺さねぇの? 」
両手に巨大な鉈を持つ悪魔‐ ヘルアンテノラ数体を背後に従えたアロハシャツの男が、真っ青な顔でへたり込む二人の女を厭(いや)らしい視線で眺める。
二人の女達は、サロンで働く売春婦達であった。
モデル並みの体形をしており、面積の小さなビキニを身に着けている。
「コイツの出所を調べなきゃならないからな。」
左手で握っているビニール袋を床へと放り投げる。
中には、蒼い色をした錠剤が数粒入っていた。
「コイツ・・・確か、ブルーシードだよな? ゼブラと同じクリフォトの魔界樹から抽出される幻覚剤だ。」
錠剤が入ったビニール袋を拾い上げ、思案気に首を傾げる。
ブルーシードは、ゼブラと違い、原液を薄める事無く使用している為、服用すると極度の不安感、殺人嗜好、残虐性等が増す。
また痛覚も鈍感になり、銃で撃たれた程度では、まったく怯まなくなるのだ。
「天智会の連中も、クリフォトの魔界樹を研究しているらしいからな? てめぇんとこの国でやるなら構わねぇが、ウチの大事なシマで実験やられちゃかなわねぇ。」
「なーるほど、そういう訳なのねぇ。」
相棒の説明に納得したアロハシャツの男は、背後に従えている仲魔に命じて、二人の女従業員を床へと引きずり倒させた。
悲鳴を上げる女達。
アンテノラ達が、手慣れた様子で、女二人に尻を高く上げた状態で抑えつける。
「この女達は俺が貰うぜ? 構わねぇだろ? 」
「ちっ、悪趣味な奴だな。」
尻ポケットから、掌に収まるぐらいのスマートフォンを取り出し、内蔵されているカメラを尻を高く上げて這いつくばる女二人へと向ける。
空中から魔法陣が展開され、そこから4体のオークが姿を現した。
「犯るのも好きだが、やっぱ生で見ている方が興奮するねぇ。」
先程、拾った錠剤を仲魔のオークへと渡す。
ビニールを破り、錠剤を口の中へと放り込むオーク達。
30秒も掛からず、極度の性的興奮状態へと陥り、女性の腕ぐらい太い陰茎がそそり立った。
「この街で風俗やってんだ、当然、英語ぐらいは話せるよな? 」
背後で、女達の悲鳴をBGMに、白シャツの男が、夥しい量の血を流す太腿を抑え、苦悶の表情を浮かべる男に問いかけた。
「わ、我々のバックには・・・て・・・・。」
続く言葉は、凄まじい悲鳴だった。
白シャツの男が、銃弾で抉られた太腿を踏みつけたのだ。
「てめぇは、認知症のボケ老人かぁ? 天智会がバックにいるのは分かってんだよ。」
ぐりぐりと硬い革靴の踵で、傷口を抉る。
「俺が知りたいのは、”ブルーシード”の密売人だ。 何処で薬を手に入れた? 普通のルートじゃ絶対手に入らない代物だぞ? 」
末端組織である”黄虎”を使い、危険極まりない薬物をばら撒く様に”天智会”が命令したのは、明白である。
アジア最大の秘密結社(フリーメーソン)だと威張り散らし、日本をアメリカの隷属国家と蔑む頭の足りない連中だ。
そろそろ、あの蜥蜴共にどちらが上か知らしめる必要がある。
白シャツの男‐ カミロの耳に、愉悦を多分に含んだ女の善がり声が聞こえた。
豚親父を痛めつけつつ、其方に振り返ると、二人の女従業員が四匹のオークに嬲られている。
二人共、既に超ビキニは外され、全裸にピンヒールといった格好だ。
髪の短いショートヘアの10代後半辺りの娘は、大柄な体躯をしたオークと床の上で寝そべり、互いの性器をしゃぶりあっている。
もう一人の肉付きが良い20代後半辺りの女は、二体のオークの前に跪(ひざまづ)いてそそり立った肉塊に奉仕していた。
跪いている女の背後には、最後の一匹がおり、豊満な乳房と性器を弄っている。
二人の女は既に快楽に蕩けきっており、頬を真っ赤に上気させ、愉悦の涙を流していた。
女を嬲っている醜悪なオーク達は、そのすぐ傍らでスマホ片手に動画撮影しているアロハシャツの男‐ アドルフォが性奴隷として調教した奴等だった。
見た目通り、戦闘面も非常に高く、金と暇を持て余した政財界の人妻達が、護身用兼一人遊び用の玩具として、アドルフォが特別に飼育したオーク達を高額で購入している。
「一回、盛大に逝かせてやれ、宣伝用の動画だからな? 滅茶苦茶派手にやってくれよ? 」
アドルフォの指示に、オーク達は素直に従う。
教え込まれた性技を駆使し、女達を昇天させた。
八部連合阿修羅会の若頭候補であるケンの命令で、ハレルヤは、”天智会”の傘下である中国マフィア『黄虎』が経営するテナントビルの前に来ていた。
最近、新宿区で危険薬物である”ブルーシード”が、出回っているという報告を受けた。
どうやら、『黄虎』が『天智会』の指示で、薬をばら撒いているらしい。
刺激を求め、薬を服用した連中が、錯乱状態になり、移民達を襲っているという報告が幾つか上がっていた。
事態を重く見た若頭候補のケンは、大事な労働力である移民達の犠牲を止めるべく、二人の部下に調査を命令した。
それが、SS級の剣士(ナイト)と魔導師(マーギア)である、カミロとアドルフォの二人組であった。
『一応、あの二人なら大丈夫だと思うが、万一が無いとも限らん。 ハレルヤ、申し訳無いがカミロ達の助っ人にいってくれ。』
ヒラの構成員とはいえ、ハレルヤはれっきとした悪魔召喚術師だ。
特Aクラスの実力を持っており、ケンを「兄貴」と呼んで慕っている。
ケンもハレルヤの実力は認めており、単独任務を依頼する事が度々あった。
「何で、俺がアイツ等の助っ人なんかしなくちゃいけないんだよ。」
心から尊敬する兄貴分の依頼だから、無下に断る事も出来ず、不承不承承諾した。
しかし、あの二人組は心底嫌っており、なるべく関りにはなりたくない。
「一応、仲間なんだから、そんなに嫌っちゃ駄目だよ。」
ハレルヤの仲魔である、聖獣・チロンヌプが、頬を膨らませて不満を吐露する主人を窘める。
「分かってるよ・・・・兄貴にも同じことを言われた。」
傍らを浮遊している小型の悪魔を、黄色と黒のスカジャンを着た少年が、恨めし気に睨む。
このヘルメットみたいな仮面を被った悪魔とは、付き合いがとても長い。
ハレルヤが10歳の時に知り合い、流されるままに契約。
以降、5年間。
手足となって少年の為に良く尽くしてくれる。
一人と一匹が、テナントビルへと一歩入り込んだ瞬間、地獄絵図の様な光景が視界いっぱいに広がっていた。
床一面に広がる血溜まりと肉片。
最早、人の原型を留めていない死骸が、床や階段に落ちている。
恐らく、”黄虎”の構成員だろう。
二人の襲撃者に果敢に挑み、無惨な最期を遂げたのだ。
「ひ、酷い・・・・いくら敵だからってこんな・・・・。」
職業柄、修羅場と呼ばれる現場は、幾つも見て来た。
しかし、此処まで惨い”殺し”を見たのは初めてだ。
「あの二人の気を感じる・・・どうやらこの建物の三階、右奥の部屋だね。」
流石に、ハレルヤよりも長く生きている為、チロンヌプは冷静だった。
顔を真っ青にしている主と違い、持ち前の優れた感応力を使い、カミロとアドルフォの居場所を探し当ててしまう。
階下に充満する血の匂いに辟易しつつ、ハレルヤは同僚がいる三階を目指す事にした。
女の喘ぎ声と、オーク達の激しい息遣い、そして咽(むせ)かえる様な血の匂いがサロン内に充満している。
二人の悪魔狩人がテナントビルを襲撃してから数時間。
黄虎の屈強な構成員は、全員、挽肉に変えられ、客を取っていた女達は、襲撃者が連れて来た悪魔達の餌食となった。
いずれ自分達も、同胞と同じく、惨たらしく殺される。
死を悟った女二人は、岩の様に硬い肉体をしたオークの上に跨り、快楽を貪る事で、恐怖心を誤魔化していた。
幾度目かの絶頂を目指し、腰を懸命に振る。
「ん? 何だぁ? ハレルヤじゃねぇか。」
人の気配を察し、動画を撮影していたアロハシャツの男が振り返る。
サロンの出入り口には、顔を真っ赤にして固まる15歳ぐらいの少年が立っていた。
室内は、想像を絶する程、酷い有様だった。
死体が幾つか転がるサロン内。
従業員らしいアジア系の二人の女が、4体のオーク達に嬲られている。
一人はオークの上に跨って、口でもう一人を奉仕し、二人目は、四つん這いの恰好で、二体のオークに串刺しにされている。
性奴隷の調教を受けたオークの愛撫はどれも絶妙で、女達の表情が愉悦に染まっているのが分かる。
腰を叩きつける乾いた音と、体液が漏れ出る粘着質な音が、少年の耳をくすぐった。
「ふん、丁度良い所に来たぜ。」
薬の出所を知る為、構成員である店主に拷問をしていた白シャツの男が振り返った。
全身、返り血で真っ赤に染まっている。
斬り落とした生首を無造作に掴むと、声も出ないでその場に立ち尽くすハレルヤの傍へと徐に近づいた。
「確かお前、中国語が出来たよな? 」
返り血を浴びたカミロが、生首を少年に投げ渡す。
咄嗟に受け止めるハレルヤ。
それが、店主の生首だと知ると、悲鳴を上げて尻もちをつく。
「コイツは”天智会”に対する見せしめに使う、失せろチンク共とか、適当な脅し文句を書いて、建物の前に飾っとけ。」
首を投げ落とし、無様に尻もちをついて腰を抜かしている少年を見下ろす。
背後では、汗を跳び散らして女達の身体が上下、左右に揺れていた。
「で・・・・出来ないよ・・・・そ、そんな事・・・・。」
声を震わせて、精一杯の抵抗を見せる。
修羅場を潜り抜けて来たとはいえ、こんな死者を冒涜する様な真似は決してしない。
ボスである若頭候補のケンが、決して許さなかったし、拾われてから今日、最低限の倫理とモラルを教えられてきた。
「はぁ? 何寝言言ってんだぁ? お前。」
「む、無理だよ・・・・”戦争”するかもしれない奴等だけど、死体を晒し者にして良い道理はない。それに、ケンの兄貴は殺しをして良いと一言も・・・・。」
瞬間、ハレルヤの身体が九の字で吹き飛んだ。
カミロが容赦なく、ハレルヤの腹を蹴り飛ばしたのだ。
死体が流す血溜まりで身体を汚しながら転がるスカジャンの少年。
あまりの出来事に、使い魔が主の名を呼んで、少年の元へと駆け寄る。
「お前・・・・それでも八部連合阿修羅会の一員かよ? 」
鳩尾を蹴られ、胃液を床に吐くハレルヤを白シャツの男が冷たく見下ろす。
背後では、女達とオークがクライマックスを迎えていた。
全身を真っ赤にさせ、苦悶の表情でイク女達。
白濁の液体が飛び散り、女達の肌を汚していく。
「わ、分かったよ! 僕がやるから、これ以上酷い事はしないで! 」
胸倉を掴み上げ、スカジャンの少年を引きずり起こす男に、チロンヌプが縋りついた。
大事な友達が、酷い目に会う姿は見たくない。
そんな仲魔の訴えに、カミロは忌々しく舌打ちすると、掴んでいた胸倉を離した。
再び、硬い床に尻もちをつくハレルヤ。
苦痛の涙と吐いた胃液で酷い有様だった。
数時間後、テナントビルの前に野次馬の人だかりが出来ていた。
新宿区で労働する移民達で、彼等の好奇な視線が、ビルの出入り口に飾られているグロテスクなオブジェに向けられている。
杭に突き刺さる店主の生首には、『次はお前等だ。』というハングル文字で描かれたプレートがぶら下がっていた。
「おい、勝手に荷物を増やすんじゃねぇ。」
「荷物じゃねぇよ。 大事な”商品”だ。」
忌々しそうに吐き捨てるカミロに、アドルフォが懇切丁寧に訂正してやる。
アロハシャツの男の背後に、一体のオークが凌辱も生々しい二人の女を担いでいた。
意識を消失しているのか、ピクリとも動く様子はなく、モデル並みの見事な肢体を惜しげも無く晒している。
「チヨ婆ぁの所に持ってきゃ高く売れる。 人間の女は、悪魔共からの受けも良いからな。」
にやにやと下品な笑いを口元に浮かべ、アドルフォがオークに抱えられている女の尻を撫でる。
二人共、股から白濁の汚液を流していた。
そんな仲間を少し離れた位置で、恨めし気に眺めるスカジャンの少年が一人。
お互い軽口を叩きつつ、全裸の女二人を使い魔に担がせ、贔屓にしている娼館がある東宝ビルへと向かう後姿を、睨みつけている。
「帰ろう・・・ハレルヤ。」
「・・・・。」
仲魔に促され、新宿御苑へと向かうスカジャンの少年。
一昔前まで、”新宿区”は暴力がまかり通る無法地帯であった。
異界の大穴から、大量の悪魔が出現し、マグネタイトを得る為に、生き残った生存者を片っ端から襲い、喰らっていた。
そんな地獄の様な場所に、最低限の規律を造ったのが、八部連合阿修羅会の会長タヤマと若頭候補のケンだ。
”新宿区”に溢れかえる悪魔共を一掃し、居場所を失った移民達を受け入れ、大きなコミュニティを造り出した。
それが、今の”新宿区”である。
歌舞伎町五丁目、花園神社前。
そこにサブロウが用心棒として勤める風俗店がある。
店主の趣味なのか、かつて江戸時代にあった遊郭の様な外観をしており、格子の向こうでは、一夜の花を売ろうと、娼婦達が客引きをしている。
建物の二階、布団が収まっているラックが幾つかあるリネン庫が、サブロウの私室だ。
サブロウぐらいの立場なら、もっと良質な部屋を与えられる筈だが、何故か本人が此処が良いと、勝手に寝床にしてしまっている。
「サブロウ、ちょっと良いかしら? 」
襖を開け、30代前後の女が顔を出す。
女は、この娼館で働く娼婦の直子だった。
今は、私服に聴診器を肩から下げ、医療器材が置かれている回診台車を押していた。
「朝の定期健診サボったでしょ? 駄目よ、ちゃんと受けて、マグネタイトを補給しないと。」
回診台車を廊下に置き、医療器具が一式入った大きなバックを掴むと、サブロウがいる窓辺へと近づく。
サブロウが座っている大きな窓から、歌舞伎町の街全体が見渡せた。
この遊郭は、移民達が住んでいる住宅街と並んでいる。
階下では、子供達がはしゃぎまわり、その母親と分かる一団が、世間話に花を咲かせていた。
「ふふっ、まるで昭和初期にタイムスリップした様な気分。」
古い木造家屋が密集し、ベランダには洗濯物が干されている。
駄菓子屋や家電製品を置いた雑貨店が軒を連ね、一種、独特なノスタルジーに浸れた。
「何で、お前は”新宿区(此処)”にいるんだ? 」
「え? 」
唐突なサブロウの問い掛けに、直子は戸惑った様子で視線を向ける。
「腕の良い魔導医で、おまけに純粋な日本人。 なんたら保護法を使えば、この掃き溜めから何時でも出る事が出来る。」
「・・・・・。」
サブロウの言う通り、直子は生粋の日本人だ。
その事を知っているのは、この遊郭の女将と『霊的国防兵器』である自分自身しか知らない。
「前にも言ったでしょ? 私は兇悪犯罪者。 タヤマに拾われなかったら、DB(デビルバスター)に処分されていたわ。」
直子が、娼婦に身を堕とす経緯は知っている。
彼女は、元々文部科学省の人間だった。
自分達『霊的国防兵器』を日本政府の許可なく起動。
それが理由で、第一級犯罪者の烙印を押され、警視庁の対悪魔特殊部隊に命を狙われる結果となった。
「・・・・・近いうちにデッカイ戦争が起きる。 相手は、アジア最大の秘密結社(イルミナティ)天智会だ。 」
「・・・・・。」
「俺も戦争に駆り出される・・・・そうなったら、誰もアンタを護ってやれる奴がいない。」
「有難う・・・・優しいのね。」
サブロウの肩に、銃の形をした注射器を押し当てトリガーを引く。
シリンジに満たされたマグネタイトが、異形の怪物の体内へと吸収された。
「濃度の高いマグネタイトよ。 これで一週間は動ける。」
中身が空になったシリンジをゴミ箱に捨て、器具を黒いケースの中に仕舞った。
「これから仕事か? 」
純度の高いマグネタイトを注入されて、鉛の如く重かった身体が嘘の様に軽くなる。
何時も付けている香水とは、違う事に気づいたサブロウは、持ち場に帰ろうとする直子の背に声を掛けた。
「ええ、私を何時も指名してくれる奇特なお客様よ。」
医療器具の入ったカバンを回診台車に置いた直子が、窓枠に座るサブロウを振り返る。
今年で年齢は、35歳を超える。
娼婦として働くには、とうに旬を過ぎているが、持って生まれた美貌は、一つも衰える事が無い。
又、その教養の高さも、成金連中にウケ、遊郭の中ではトップクラスの娼婦として未だに君臨している。
「三島の変態爺か。」
壁に吊り下げてある月の曜日が書かれたカレンダーに視線を向け、サブロウが小さく呟いた。
三島重工の会長、三島・喜作は、何時も水曜日に直子を指名している。
年甲斐も無く、直子に入れあげているらしく、女将に大枚をはたいて南青山に構えている邸宅に長時間連れ込んでいるのだ。
「家族に恵まれなかった可哀想な御爺様よ。 話し相手になっているだけで、無体な真似はされてないわ。」
「なら、良いんだけどな。」
サブロウは、知っている。
直子の手首や脚に、縄で縛った様な跡がついている事を。
余計な心配を掛けさせまいと、嘘を吐いているのだ。
あの豪奢な建物の中で、一体何が行われているのか・・・・考えただけで、反吐が出そうになる。
一夜明けて、渋谷のセンター街。
早朝であるにも関わらず、キャンプ内は人でごった返していた。
悪魔討伐の依頼を完遂した者達が、受付から報酬を貰い、それぞれの塒(ねぐら)へと帰っていく。
そんな彼等の後姿を、ネロはぼんやりとした表情で眺めていた。
「正直言うと、アンタ等の依頼は受けられない。 申し訳ないけど、他を当たってくれないかい? 」
見事な金色の髪を、頭頂部で一纏めに結い上げた30代半ばぐらいの女性が、けんもほろろに鋼牙の申し出を断る。
若草色のTシャツに迷彩柄のズボン、頑丈な革のブーツを履いた女性は、この渋谷キャンプを纏めているリーダーであった。
名をシフといい、アースガルド神族の一柱であった。
「そこを何とか出来ませんか? 事情があって”クズノハ”は頼れないんです。」
「困ったねぇ・・・・アンタには話していなかったけど、ウチと八部連合阿修羅会は停戦状態になってるんだよ。 だから、余計な火種を生みたくないんだ。」
平身低頭の鋼牙に、シフは盛大に溜息を吐き出す。
3年程前、八部連合阿修羅会とは、”遺物”を巡って、熾烈な争いを続けていた。
”遺物”とは、国連軍が対悪魔討伐の際に持ち込んだ武器や魔具の事である。
シフ達移民は、復興作業を名目に、”遺物”を回収して、キャンプで生活している人々の為に金にしていた。
しかし、明らかに自分達とは違う第三者が、不当に”遺物”を回収、そればかりではなく、瘴気で発生した希少な鉱物まで奪っていたのだ。
その謎の第三者が、八部連合阿修羅会だったのである。
「あの抗争で、若い奴等が大勢殺された。 だから動ける奴等は限られてる。」
未だ、渋谷区にはスキルの高い悪魔が出現している。
キャンプの護りを手薄にしたら、悪魔の襲撃に対応出来る人間がいなくなる。
「そうですか・・・・。」
期待通りの成果が挙げられず、黒縁眼鏡の少年は不承不承引き下がる。
シフも、四神相応が復活すれば、渋谷区(此処)で生活している移民達の負担が軽減される事は理解している。
しかし、肝心の人員がいない。
その上、相手は、魔都・新宿を支配している八部連合阿修羅会だ。
他のキャンプに行ったところで、返事は自分達と大差無いだろう。
「待って下さい。 私が彼等の力になります。」
そんな八方塞がりな鋼牙に、思わぬ助け船が顕れた。
シフの愛息子であるウルだ。
母親の座っている傍らに立ち、黙って鋼牙の話を聞いていた金髪の少年は、蒼い双眸をキラキラと輝かせ、実母に懇願する。
「悪魔による被害は、年々増加してます。もし、四神相応が復活すれば、移民達の犠牲を減らせるかもしれません。」
「ウル・・・・アンタねぇ。」
父親譲りの猪突猛進な息子に、軽い頭痛に襲われる。
アースガルド随一の戦士であり、主神・オーディン、フレイと並び称される農耕の神である。
他の同胞達と違い、神族であるという事を理由に、人間達を見下す事は決して無く、領地に住んでいる農民達と一緒に、田畑を耕していた。
それが、父親であるオーディンには、気に入らなかったらしい。
トールの弟であるヘイムダルばかりを可愛がり、怠惰で愚かな出来損ないと、トールを蔑み、ついには親子の縁まで切ってしまったのだ。
元々、トールも実父であるオーディンに三下り半を叩きつけており、妻であるシフと生まれたばかりである赤子のウルを連れて、人間界へと下った。
それから数百年、夫を失い、乳飲み子を抱えて各地を放浪したシフは、渋谷区に流れ着いた。
「お願いです。母様。」
「はぁ・・・仕方ない。 轟探偵事務所に助けて貰うしかないね。」
こうなってしまったら、梃子でも息子の心を動かす事は叶わない。
不承不承ではあるが、息子の好きにさせる以外、最良の方法は無かった。
こうして、何とか明の代わりとなる人員を手に入れる事が出来た鋼牙達。
早速、作戦会議をする為、場所をハチ公前にあるバーに移す事にした。
「お前等、学校はどうしたんだよ? 」
バーの店主であり、対悪魔のインストールソフトを販売しているランチが、解体した機動大剣『クラウソラス』を机に広げ、胡乱気に鋼牙達を眺める。
時刻は、午前10時過ぎ。
健全な学生なら、学業に励んでいる時間である。
「都庁から直々に依頼が来たんです。 理事長にも当然、報告済みですよ。」
ランチの問い掛けに、黒縁眼鏡の少年が営業スマイルで応える。
鋼牙は、『聖エルミン学園』の生徒である前に、”八咫烏”メンバーの一人だ。
当然、悪魔討伐を最優先にして構わない、と了解を得ている。
「悪い、ランチさん。 俺の不注意で大事な剣が。」
「気にするな・・・壊れる事を前提に造っているからな。」
勝手知ったる自分の店と、ランチの許可なく勝手に厨房に入り、ドリンクを造っている鋼牙を横目に眺め、恐縮する銀髪の少年に応えてやる。
渋谷区でボブゴブリンが大量発生し、農場(ファクトリー)で働いていた移民達を襲撃。
シフは、大掛かりな駆除を行う事を決め、何時も贔屓にしている轟事務所と矢来区にある葛葉探偵事務所に協力要請を出した。
討伐は滞りなく行われ、無事、問題のボブゴブリンを排除出来たが、その時に、ネロの機動大剣が動作不良を起こしてしまったのである。
原因は、起動大剣に内蔵されている”イクシード”に負荷を掛けすぎ、回路がショートしてしまったからであった。
「それより、お前、”無銘の刀”はどうした? 折角、”クズノハ”から貰ったんだろ? 」
”無銘の刀”は、地下にある特殊学科の施設”ノイシュバン”に住んでいる、薬学部顧問のトロルが造った日本刀であった。
悪魔の力を得る事で、様々な属性の魔法剣に姿を変える。
「アレは・・・そのぉ、矢来区の事務所に置いたまんまで。」
「何でだ? 勿体ねぇ。 俺が造る剣より数倍強いだろうが。」
「うん・・・・そうなんだけど、悪魔と合体させるってのが。」
一昔前の自分なら、喜んで悪魔を剣の材料に使っていただろう。
しかし、マベルや番であるシウテクトリと出会った事で、悪魔は倒すべき危険な生き物、という考えが薄れつつある。
「部外者の俺が言う事じゃないが、下手な情けは身を滅ぼす。それに、悪魔は基本、力を求める生き物だ。 合体剣の材料にされても文句は言わねぇぞ。」
慣れた手付きで『クラウソラス』を組み上げたランチは、機械仕掛けの大剣を隣に座る銀髪の少年へと渡す。
「分かってる・・・でも、やっぱり嫌なんだ。」
困った表情で、ランチから愛刀を受け取るネロ。
鈍色に光る刀身が、ネロの整った容姿を映し出していた。
アウトローな世界を描きたいので、どうしてもエロシーン入れちゃいます。