※この作品はR-18です。

偽典・女神転生~魔都新宿~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

ハレルヤ・・・・八部連合阿修羅会の平構成員。
年齢は15歳、人間と悪魔の間に生まれた半人半妖で、悪魔召喚術師としての才能がある。特A級の資格を取得。
仲魔は、聖獣チロンヌプ。


第六話 『ハレルヤ① 』★

建設現場に隣接された広場。

その隅に幼い男の子が蹲(うずくま)っていた。

年の頃は、10歳ぐらいだろうか。

酷い暴行を受けたのか、顔は倍近く腫れ上がり、唇は切れて血を流している。

 

 

「チロ、これで一週間ぐらいは食べて行けるぜ。」

 

少年‐ ハレルヤは、くちゃくちゃに折れ曲がった配給カードを狐の仮面を被った悪魔に見せる。

 

幼くして震災で家族を失ったハレルヤは、天涯孤独の身だった。

2年前まで、養護施設で生活をしていたが、半人半妖のハレルヤは、周囲の人間達から格好の捌け口とされ、毎日の如く虐待を受けた。

地獄の様な生活から抜け出せたのは、『悪魔召喚プログラム』を偶然手に入れたお陰だった。

悪魔召喚術師としての秘められた才能が開花したハレルヤは、養護施設を脱走した。

たった一人の逃避行は、当然、苦難の連続だった。

此処まで何とか乗り切れたのは、自分と同じ様に同族から苛められていた”聖獣チロンヌプ”のお陰だった。

 

 

「ハレルヤ、怪我してるよ? お医者さんに診て貰った方が・・・。」

「馬鹿、金も無いのに病院何て行ける訳ねぇーだろ。」

 

戦利品である配給カードを大事にポケットに仕舞い、少年は立ち上がる。

すると、突然の眩暈が襲い掛かった。

無理もない。

此処、数日間、水以外にロクな食事を摂っていないのだ。

オマケに、自分に配られた配給カードを、この一帯を縄張りとしているストリードチルドレン達から死守する為、死に物狂いで抵抗した。

空腹と暴行による疲労で、少年の小さな体は限界だった。

 

意識が失墜し、その場で倒れるハレルヤ。

遠くで仲魔であるチロンヌプの声が聞こえる。

 

― 大丈夫、大丈夫・・・・今は、只疲れているだけ。一回寝れば、すぐに元に戻る。

 

そう、何度も何度も自分に言い聞かせる。

しかし、今回ばかりは少し違う結果になりそうだった。

 

 

 

「え? 新入りが入ったぁ? 」

 

その話を聞かされたのは、何時も通りのシノギを終え、自分の寝床である高級娼婦館に戻った時であった。

 

時刻は既に夜の8時を回っている。

店には、大勢の客達がおり、店で働く娼婦達と酒を飲んで騒いでいた。

 

 

「若頭には既に話はつけてある、取り合えず、コイツに店内での仕事を教えてやってくれ。」

 

 

『霊的国防兵器』の一体であり、この娼婦館の用心棒を任されている造魔・コウガサブロウは、隣で此方を見ている銀髪の少年を紹介した。

 

名前は、ネロ。

歳は、自分とそれ程変わっていないだろう。

背丈は、ハレルヤより頭一つ分高く、整った容姿をしていた。

 

 

「うー、何で俺がぁ? てか、俺、人にモノを教えるの超苦手なんだけど。」

「文句があるなら若頭に言え。」

 

サブロウは、それだけ言うと夜回りをする為、さっさと店から出て行ってしまう。

後に残されるハレルヤとネロ。

幾ら歳が近いとはいえ、相手は素性も分からぬ謎の男だ。

どうしたものかと、暫く考えあぐねているが、こうして時間を無駄に潰していても意味はない。

 

 

「えーっとぉ、取り合えず自己紹介しとくか・・・俺の名前は、ハレルヤ。一応、八部連合阿修羅会の構成員やってる。」

「構成員? 子供が暴力団の組員やってんのか? 」

「餓鬼だからって馬鹿にするな、こう見えても特Aクラスの悪魔召喚術師(デビルサマナー)やってるんだからな。」

 

ネロの無礼極まりない言葉に、ハレルヤは憮然と応えると、愛用のスマートフォンから、”悪魔召喚プログラム”を起動する。

空中に展開された魔法円から、狐の形をした兜を被る悪魔が実体化した。

 

「コイツは、俺の相棒の”聖獣チロンヌプ”・・・・・。」

「あー、店内で悪魔召喚するのはルール違反だぞぉ。」

 

自慢気に仲魔を紹介するハレルヤを、浅黒い肌をした娼婦が邪魔をした。

娼婦館で働いている黒エルフのジュディだ。

かなり酔っ払っているらしい。

呂律の回らない口調で、ハレルヤに背後から抱き着き、博愛固めをしている。

客との行為が終わった直後なのか、豊満な胸をさらけ出し、ガーターベルトとシルクのTバックと、年頃の少年には目に毒な恰好をしていた。

 

「ば、馬鹿! ちゃんと服ぐらい着ろよ! 」

 

90cmのベル型の乳房に顔を挟まれ、ハレルヤが蟀谷に青筋を立てて怒鳴る。

 

「えー、人間のお客さんはめっちゃ喜んでくれるよぉ? 」

「確かに客は喜ぶだろうが、俺は娼婦館(此処)を任されている責任者だ! いわばお前の雇い主なんだぞ! 」

「ぶー、ハレルヤつまんない、前みたいに羽目外して気持ち・・・・。」

「わーっ!新人の前で変な事いうなぁ!」

 

酔っ払って余計な事まで喋り始める娼婦を、ハレルヤが慌てて制止する。

一方、ネロは目のやり場にすっかり困ってしまい、顔を茹蛸の様に真っ赤にして後ろを向いてしまっている。

その場の勢いで、直子が勤める娼婦館で働く事を決めたが、この歳まで、異性と触れた事も好きな相手が出来た事も無かった。

義理の姉であるキリエに対し、淡い感情が芽生えた事もあったが、彼女は自分の師である17代目・葛葉ライドウを幼い頃から慕っている。

故に、自分の想いを伝える事は、永遠に出来なくなってしまった。

 

酔っ払ったジュディを、アジア系の娼婦に渡し、ハレルヤは新人のネロを男子更衣室へと連れて行った。

渡された制服は、流石高級娼婦館だけあり、上質なシャツに黒のベスト、同色のズボンとクロスタイという一流ホテルのバーテンダー顔負けの代物だった。

 

「一応、ウチは歌舞伎町でも名が知れている高級娼婦館だからな。勿論、客も政財界の大物が来るから、粗相(そそう)が無い様にしてくれよな。」

「分かった。」

 

一通りの礼儀作法は、義理の父親であるクレドからしっかりと仕込まれている。

テーブルマナーは勿論の事、ビジネスマナーや冠婚葬祭に至るまで、みっちりと教えられてきた。

 

渡された制服を着ると、生まれ持った容姿もあり、それなりにキマって見える。

同じ格好をしたハレルヤは、ネロの姿に気圧されてしまい、ちょっとだけ悔しい気持ちが湧いた。

 

「俺達がやる仕事は大体雑用ばっかりだ。 客に酒を持って行ったり、プレイルームの後片付けをしたり、ゴミ出しに買い出し、それから洗濯や食事もする。」

「食事や洗濯? アンタもそれやるのか? 」

「当たり前だろ? 娼婦達のケアも責任者の重大な仕事だ。」

 

若頭候補であるケンに拾われ、裏社会でのシノギを叩き込まれて来た。

その中で、人間の生活に不慣れな亜人達を教育し、彼女達の面倒を見るのも大事な仕事だと教えられてきた。

元々、世話好きなハレルヤにとって、娼婦達の洗濯や食事等の行為は、それ程苦にはならなかった。

時々、「筆おろし」と称して、部屋に引きずり込まれるのは困ったが、基本、彼女達は素直で仲間意識が高い連中だ。

悩みや世話をする事で、一種の疑似家族的な関係を結んでいる。

 

一通りの仕事の内容を説明し、ハレルヤは各部屋の案内をする。

プレイルームのドアは大抵閉まっているが、中には薄く開いている部屋もあり、興味半分で覗くと、ベッドに腰掛けた男の前で女が蹲り、肉棒に奉仕をしていた。

 

「何、固まっているんだよ?」

「えっ、だって・・・そのぉ・・・・。」

 

返答に窮しながら、慌てて視線を別の部屋に移す。

すると今度は、ベッドに上半身を預け、俯せの状態の娼婦の尻を抱え、腰を叩きつけている客の姿が飛び込んで来た。

 

「ま、まぁ、最初は、びっくりするけど、暫く経てばすぐ慣れるよ。」

「・・・・。」

 

銀髪で容姿端麗な見た目と違い、異性には全くといって免疫が無いのだろう。

兄貴分であるケンに仕事を紹介して貰った当初、ハレルヤもネロと全く同じ反応をしていた。

半ば、同情的な気分になったハレルヤは、まず最初にホールでの仕事を任せる事にした。

 

矢来区、『葛葉探偵事務所』。

所長代理である壬生・鋼牙は、ボーグからの報告を聞いて、思わず戸惑ってしまった。

 

歌舞伎町での一件で、行方不明になったネロが無事発見された。

五体満足、とまではいかないが、怪我を負いつつも何とか生きているらしい。

と、此処までは良かったが、その後の行動に度肝を抜かれた。

 

「しょ、娼婦館でバイトって・・・・。」

「本人曰く、治療費分、タダ働きするらしい。」

 

客用のソファに座ったボーグが、困った様子で両腕を組み、事の詳細を語った。

 

『エルバの民』こと、黒井・慎二が駆るBOW(バイオ・オーガニック・ウェポン)との死闘で、ネロは番のシウテクトリ共々、大怪我を負った。

寸での所で逃げる事が出来たが、そこで力尽き、偶々、現場を通り掛かった魔導医師に救われたのだと言う。

 

「魔導医師? 一体何者なんですか? 」

「俺の協力者だ。 名前は、直子・・・・多分、偽名だろう、”新宿区”に流れ着く前は、国の研究機関で働いていたらしい、今は諸事情があって歌舞伎町で娼婦をしている。」

 

鋼牙の隣に座る金髪の少年- ウルの質問に、濃色の肌を持つ捜査官は、簡潔に応えてやった。

 

「その協力者は、信用出来るんですか? 」

「一応な・・・俺も最初は警戒していたが、八部連合阿修羅会の会長、タヤマに関して詳しい経歴を知っていた。オマケに奴が持っている”霊的国防兵器”についてもな。」

 

市街地建築部の責任者である重沼の依頼で、危険区域に指定されている”新宿区”を調査していたボーグに、直子という女が接触してきた。

直子は”新宿区”を調査しているボーグに近づき、龍脈の事やタヤマと契約している牛頭天王について詳しい情報を持っていた。

 

「直子って女の言葉が真実なら、震災で破壊された”新宿区”をタヤマと二人で再建し、尚且つ実体化した悪魔から住民達を護る為に、”八部連合阿修羅会”を立ち上げた。」

 

国の研究所で、休眠状態だった『霊的国防兵器』を起動したのも直子という女だった。

彼女は、彼等の力を借りて、”新宿区”に大量発生した悪魔を駆除し、多くの移民達を招き入れ、復興作業を行った。

しかし、八部連合阿修羅会が大きくなるにつれて、タヤマの態度が変わっていった。

”弱者”を護る為に造った組織を、己の野心に使い始めたのである。

 

「つまり、タヤマの暴走を止めて欲しいと・・・・そういう訳なんですね。」

「ああ、彼女の目的は、移民達の生活だ。 現代の”マザー・テレサ”ってところだな。」

 

ソファの背凭れに身を預けたボーグは、鋼牙の言葉にそう応える。

 

直子は、真剣に行き場を失った移民達の事を考えていた。

”大和人権保護法”という悪法を使い、日本を再建してくれた人々を排除する国のやり方に憤りを感じていた。

帰る国を失い、家庭を護る事も叶わず、飢えと病気で苦しむ移民達を護る事が、彼女の唯一の願いだった。

 

「今の日本に、そんな素晴らしい人がいるなんて・・・・。」

「まぁな、あの眼鏡先生もそうだが、そういう奇特な事を考える日本人も居るって事さ。」

 

都庁職員である雨宮・知子教授は、”四神相応”を復活させ、日本を”シュバルツバース”から発生する悪魔の脅威から護る為に戦っている。

一方、直子は、”歌舞伎町”で暮らす移民達の為に、その身を犠牲にして戦っていた。

どちらも尊い信念の持ち主である。

 

新宿区の調査と、娼館に残したネロの様子を探る為、ボーグは探偵事務所を後にした。

 

 

 

セクター・デルファイナス・4階。

雷を身体に纏った悪魔-邪鬼・ブリッツが鋭い爪を翳(かざ)し、隻眼の悪魔使いへと襲い掛かる。

華麗に紙一重で躱すライドウ。

両手に持つ双剣-雷神・アラストルが閃き、ブリッツの両腕と頭部を斬り飛ばす。

同族を殺され、怒りの雄叫びを上げる邪鬼達。

しかし、その咆哮はすぐに哀れな悲鳴へと変わる。

魔具・ベオウルフを巧みに操り、毘羯羅大将こと遠野・明が、次々にモノ言わぬ肉片へと変えて行ったからだ。

数分後、周囲は悪魔達の死骸が、死屍累々と周囲を埋め尽くしていた。

 

「こ、この奥にアスラ王がいるよ。」

 

主の胸元に潜り込んだマベルが、怯えた表情で、腐肉で覆われた巨大な扉を見つめる。

扉の隙間から、天魔・アスラ王の瘴気が流れ出ている。

肌を突き刺す狂気に、小さな妖精は、顔を真っ青にしていた。

 

「行けそうか? 明。」

「ああ、丁度エンジンが暖まったところだ。」

 

あれだけの量の悪魔を屠(ほふ)った筈なのに、長い前髪の少年は息一つとして乱している様子は無かった。

 

『レッドスプライト号』の調査隊達は、別のエリアに避難させている。

特A級の強者達だが、今回ばかりは相手が悪い。

サポート役としてアーヴィン博士が造った”デザイナー・ドッグ”のニュートンを連れているが、他の隊員達は足手まといになる可能性が高い。

 

ライドウが、肉の扉に手を翳すと、重い音を響かせて開いた。

まるで闘技場の如く、円形状に広がった広間の中央には、六本の腕を持つ巨大な像が鎮座していた。

 

『良く来たな? 人修羅よ。』

 

炯々と光る六つの目が、真紅の呪術帯で右眼以外を覆った悪魔使いを見下ろす。

”腐り爛れる王国”の支配者、天魔・アスラ王だ。

 

『ふん、我々の予想を遥かに超える化け物だな・・・ミトラスの奴が倒される訳だ。』

 

ミトラスとは、セクター・ボーディーズの”遊び耽る国”を支配していた魔王である。

高火力の魔法を操り、ライドウ達を苦しめたが、四神の一柱、玄武の敵ではなかった。

たった一太刀で、首を斬り落とされ、破れている。

 

「大人しくロゼッタ多様体を渡してくれたら、有難いんだけどな。」

無駄な流血は避けたいというライドウの言葉を、アスラ王は一笑に付す。

 

『我が母に逢いたくば、力を示せ。』

 

突然、地面が大きく揺れた。

石像の表面に走る幾つもの罅(ひび)。

六本ある腕の一つが大きく持ち上がり、ライドウ達目掛けて振り下ろされる。

左右へと跳ぶライドウと明。

刹那、地面が大きく抉れ、巨大なクレーターを造る。

 

「交渉は決裂か。」

「最初から、分かっていた事じゃねぇか。」

 

それぞれの得物を構える二人。

彼等の目の前に、優に5メートルを遥かに超える巨人が立ち塞がった。

赤と金のラインが走った漆黒の甲冑を纏い、六つの紅い眼が、狼藉者である二人組を睨みつけている。

天魔・アスラ王の真の姿であった。

 

 

 

JR新宿駅東口周辺にある風俗街。

派手なネオン看板が光るストリップ劇場に狭間・偉出夫と、その従者である横内・健太の二人がいた。

 

「低俗で下劣な連中だ。」

 

照明が落とされた薄暗い劇場内。

扇形に広がる円形状の舞台では、上半身裸のストリップ嬢が、逞しい肉体美を誇る男優二人を相手にセックスショーを行っていた。

 

「まぁまぁ、性教育の延長線上だと思えば良いんじゃない? 」

 

偉出夫が隣に座る元自衛隊員を軽く窘める。

 

彼等二人は現在、取引相手である『八部連合阿修羅会』の経営している風俗店に来ていた。

理由は、勿論、一昨日の戦闘で負傷したチャーリーの代わりをする為である。

流石に暴力団の助っ人を、玲子と由美の姫二人組に任せる訳にはいかない。

当然、白羽の矢はレッドライダーこと横内健太に突き立った。

 

店内は、意外に広く、舞台を中心に扇形に広がっている。

男優二人の前に跪(ひざまず)き、女が逞しくそそり立った男根を交互に奉仕していた。

その姿を舞台下で食い入る様に眺める観客の男達。

トップレス姿の女給数名が、ビールやワインの乗ったトレーを手に、客の相手をしている。

偉出夫と横内は、店内の一番隅の席に座っていた。

 

 

「スマンスマン、意外と仕事が長引いちまった。」

 

従業員の専用出入り口から、褐色の肌と彫の深い顔立ちをした40代前後の男が現れた。

長い黒髪を後ろで無造作に結ったスペイン人の名は、カミロ。

八部連合阿修羅会の構成員で、SS級の剣士(ナイト)だ。

阿修羅会の会長、タヤマの懐刀で、彼の手足となって動いている。

 

 

「いえいえ、ウチのペイルライダーが随分とご迷惑をおかけしたみたいですね。」

「否、アドルフォから聞いたが、アンタの所の兵隊は優秀だ。たった一日で”黄虎”の連中を皆殺しにしちまったみたいだからな? 」

 

中国マフィアの”黄虎”が根城にしている、歌舞伎町5丁目の雑居ビルに、チャーリーことペイルライダーが、新型のBOWを駆り襲撃。

構成員である悪魔召喚術師や剣士等を瞬殺し、組長の首を捕るまで数時間と掛からなかった。

その間、同伴しているアドルフォは、事務所の中でスマホゲームに熱中し、一切手を貸す事はしなかった。

 

「喜ぶのはまだ早いですよ? コレを配った売人がまだ捕まっていない。」

 

偉出夫は、テーブルの上に青い錠剤が入ったビニール袋を置く。

アジア最大の秘密結社(イルミナティ)”天智会”がクリフォトの魔界樹から抽出して造った魔薬だ。

 

「”黄虎”は、”天智会”の末端組織だ・・・・当然、今回の襲撃事件も耳に入っている筈。」

「だろうな? まぁ、コッチとしては蜥蜴共の報復なんざぁ屁でもねぇが。」

 

”天智会”の正体は、四海を納める龍王達だ。

広徳王(東海)、広利王(南海)、広潤王(西海)、広沢王(北海)の四匹の龍は中国全土を支配し、此処、日本にまで勢力を伸ばしている。

 

「甘いなぁ・・・・何故、働き蟻の一匹である”黄虎”を使って、”ブルーシード”をばら撒いているか分かっているんですか? 」

「薬を使って、使い捨ての兵隊を造りたいんだろ? 」

 

”天智会”の目的など、知れている。

”ブルーシード”は、依存性が高く、服薬すると理性を失い凶暴化する。

痛覚が鈍化するので、銃弾を何発ぶち込んでも怯まない。

 

「”天智会”の働き蟻は沢山いる・・・彼等は、女王蟻の命令通りに、各国にコレをばら撒き、優秀で従順な兵士を量産している・・・と、此処まで言えば、頭の良い貴方なら分かる筈だ。」

「・・・・・。」

「彼等の目的は、”新宿区”を手に入れる事じゃない・・・本当の狙いは、東京湾に空いた巨大な異界へと繋がる穴だ。」

「・・・・・何が言いたいんだぁ?餓鬼。」

 

目の前に座る少年が、得体の知れない怪物に見える。

カミロの蟀谷から、一筋の汗が流れ落ちた。

 

「”我々が崇める神は死んだ”・・・今、神族共は、創世の玉座を虎視眈々と狙っている・・・カミロさん、牛頭天王の下にいても、貴方の大切な”家族”は護れない。」

 

偉出夫の形の良い指先が、袋の中に入っている錠剤を転がす。

舞台下にいる観客達から、歓声が上がった。

シックスナインの体位で、互いの性器をしゃぶり合っていた女が、尻臀(しりたぶ)を痙攣させ、絶頂に達したからだ。

身体の下にいた男優が、女の尻を叩き体位を変えさせる。

イったばかりの女は、唾液で濡れ光る男根を手で掴み、自らの愛液と唾液で濡れる性器に宛がい、ゆっくりと腰を下ろす。

もう一人の男優が、喘ぐ女の口に白と黒に色が分かれた錠剤を与えた。

嬉しそうに舌を出し、呑み込む女。

即効性の『ゼブラ』がすぐ効果を現わし、女は愉悦に涎を零しながら、激しく腰を振り始める。

 

「僕なら、貴方の大事な家族を救える・・・・どうです? 僕と取引をしてくれませんか?」

「取引・・・・? 」

「そう、阿修羅会を抜きにして、貴方個人と取引したいんです。」

 

カミロは、黙って真向かいに座る少年を眺めていた。

人形の様に整った容姿に、女性の如く華奢な体躯。

テーブルに頬杖を突き、繊細な指先で袋に入った青い錠剤を弄んでいる。

 

暫しの沈黙。

ステージの上では、すっかり”ゼブラ”の効果で蕩けきった女が、快楽に耽っていた。

回す様に腰を振り、跨っている男の陰毛に充血した陰核をこすりつけ、もう一人の男の男根を口に咥えて奉仕している。

舞台下では、そんな女優の狂乱を、観客達が見上げていた。

 

 

「俺達に対する見返りは、ちゃんとあるんだろうな? 」

 

何かを決意したのか、カミロが徐に口を開いた。

 

「勿論、貴方方の期待に十分応えられますよ? ベリアルさん。」

 

偉出夫は、邪気の無い、まるで子供の様な笑顔をカミロへと向ける。

指先で弄んでいた錠剤は、袋の中で粉々に潰れていた。

 

 

 

花園神社にある高級娼婦館で、短期間のアルバイトをする事になったネロ。

娼婦館のシノギを任されているハレルヤは、意外にも気さくで、不慣れなネロに対して、親切に接してくれた。

カクテルの作り方や、客に対する接待まで、分かり易く且つ事細かに教えてくれる。

だが、プレイ中の客に注文した酒や食事を運ぶのには正直辟易した。

ネロだって年頃の少年だ。

騎士団に所属していた時は、年上の同僚にポルノビデオやアダルト雑誌を借りた事もあった。

しかし、それはあくまでも雑誌やビデオの中での話であり、キリエ以外の女性に魅力を感じる事は無かった。

義理姉が病死後は、母国に未練が無くなり、「養子にならないか?」というライドウの申し出を素直に受け入れた。

日本に到着して、空港ロビーでライドウと再会した時は、胸が激しくときめいた。

フォルトゥナの事件後、ネロはすっかり、ライドウに心を赦していた。

悪魔召喚術師として裏社会にその名を轟かせ、魔王すらも従わせるその強さに純粋に惹かれた。

養子の件を受け入れたのは、美しい悪魔使いの傍にいられると期待したからだ。

だが、現実はそれ程甘くなかった。

ライドウの傍には、常にあのダンテとかいういけ好かない男がいた。

自分の知らない所で、ライドウはダンテと仮番の契約を交わしていた。

ショックだった。

義理姉、キリエに続いての二度目の失恋だった。

 

 

「懲りずにまだ頑張っているんだ? 」

 

早朝、娼婦達が暮らしている寮の中庭で、洗濯物を干しているネロの背に、気怠い女の声が掛けられた。

振り返ると、女医の直子が壁を背にして愛用の煙草に火をつけている。

 

「ちゃんと学校に行かないと、単位が取れないわよ?学生さん。」

「大丈夫だよ。理事長には許可貰ってんだ。」

 

直子の軽口を、ネロが悪態で返す。

 

都庁から受けた依頼は、既に理事長であるマダム・銀子に報告済みだ。

マダムは、定時報告を怠らない様にとネロ達に伝え、悪魔狩り(デビルハンター)の仕事を優先して良いと許可を出した。

 

「前に、治療費の件は気にしなくて良いって言ったと思うんだけど。」

「アンタは良くても俺が納得出来ねぇ・・・・それに・・・。」

「それに? 」

「何も知らないのは嫌なんだ。」

 

洗濯物を干し終えたネロが、背後に立つ女医へと振り返る。

意志の強い青い瞳。

直子が、煙草を一口吸い、空へと吐き出す。

 

「最初は、只、純粋に阿修羅会は悪で、龍脈の力で、”新宿区”を支配していると思っていた。」

「・・・・。」

「でも、実際、この目で”新宿(此処)”を見て、それは違うと思い始めた・・・。」

「・・・・。」

「日本を復興する為に、必死に働いて来た移民達を、国は用済みと切り捨てた。”大和人権保護法”を利用して、彼等を迫害し、追い詰めた。」

「そう・・・君の言う通り。 タヤマがいなかったら、二丁目に住んでいる移民達は、自国に強制送還されるか、犯罪者として入国管理局に処理されるかのどちらかよ。」

 

このネロという少年は、自分が考えているより頭が良い。

彼は、彼なりに日本が現在抱えている問題を理解し、自分がどう動くべきかを模索している。

だが、所詮は餓鬼一匹だ。

いくら、悪魔召喚術師(デビルサマナー)とはいえ、ネロが出来る事等、たかが知れている。

 

「魔導医の資格を失っても・・・私は、医者なの。 死に瀕している人々を黙って見過ごす事何て出来ない。」

「・・・・・。」

「貴方達は、”四神相応”を復活させ、東京23区を悪魔の脅威から護りたいらしいわね? 」

「・・・・・。」

「はっきり言って迷惑ね・・・・少なくとも、君一人じゃ移民達(彼等)は救えない。」

 

直子は、吸い終わった煙草を携帯灰皿で揉み消すと、茫然と立ち尽くすネロに背を向ける。

 

残酷だが、直子の言葉は限りなく真理に近い。

タヤマを倒し、封じられた龍脈を解放すれば、都庁の連中は阿修羅会を潰すつもりだ。

そうなったら、二丁目に住んでいる移民達が行き場を失う。

餓鬼一匹がどんなに粋がっても、国という巨大な組織の前では、余りにも無力であった。

 

 

それは、余りにも唐突な出来事であった。

 

セクター・デルファイナス・・・・『腐り爛れる国』の王、天魔・アスラ王との死闘の最中、巨人の右肩が爆散する。

落ちる巨人の右腕。

続いて、空から舞い降りる紅い影。

隻眼の悪魔使いの目の前に、華麗に降り立つ。

 

「な・・・・何でお前が? 」

「ヒーローは、遅れてやって来るもんだぜ? マスター。」

 

真紅の長外套(ロングコート)の下に纏う、最新型のデモニカスーツ。

多連装型のロケットランチャーを肩に担ぎ、見事な銀髪の大男が背後に立つ主へと振り返る。

帝国議事堂で別れた仮番のダンテだ。

あの時よりも大分髪が伸び、後ろで無造作に纏めている。

 

「もー、独りで突っ走るなって、さっき注意したばかりじゃない。」

 

そんな両者の間に割り込む形で、もう一人の男が現れた。

明と同じ、”十二夜叉大将”に属する摩虎羅大将こと、猿飛佐助だ。

此方は、何時も通りの迷彩柄の忍装束に、鉄の手甲と具足を装着している。

ペストマスクを連想させる特殊なガスマスクを被っていた。

 

「あ、17代目と明っちお久しぶり。」

 

夢中で独断専行するダンテを追い掛けて来たのだろう。

改めて、ライドウと明の存在を確認し、気安く挨拶をする。

刹那、大地を揺るがす程の咆哮が周囲に轟いた。

見ると、先程の攻撃で右腕一本を失った魔王が、屈辱と怒りで六つの複眼を真紅に染め上げている。

 

『下等な生き物風情が! よくも! 』

 

千切れ跳んだ腕の付け根から、無数の触手が伸びる。

ソレは、地面に落ちる腕を拾い上げると、融合し、元通りに修復してしまう。

続いて、焔の魔法陣が幾つも展開し、速射砲の如き炎の弾丸が吐き出された。

火炎系中位魔法『マハラギオン』だ。

条件反射で、対魔法防御シールドを光速展開するライドウ。

襲い来る炎の弾丸は、標的を捉える事無く、虚しく爆散していく。

 

「ニュートン、補助系魔法でサポートを頼む。」

『了解。』

 

悪魔使いの指示に、デザイナードッグが素直に従う。

補助魔法『マカカジャ』を唱え、防壁を強化。

そんな彼等の背後を飛び越える黒い影があった。

ライドウの愛息子、明だ。

魔具(デビルアーツ)、ベオウルフのリミッターを解除し、白銀に光る鎧を纏った少年は、闘気術を使用し、筋力を倍化。

義理父の遥か頭上を飛び越え、六本の腕を持つ巨人へと躍り掛かる。

 

「明!無茶は止せ! 」

 

必死に息子を止めるも、火炎弾の爆音で、その声は掻き消されてしまう。

鋭い鉤爪で、魔王の眼を抉ろうとするが、それより巨人の方が速かった。

巨大な拳が、横殴りに襲い掛かる。

器用に空中で軌道を修正し、魔王の攻撃から逃れる明。

と、巨人のバランスが突然崩れた。

明に気を取られた魔王の隙を突いて、ダンテが一気に間合いを詰めて、愛用の大剣『リベリオン』で、両足を斬り裂いたのだ。

 

轟音と共に地面へと膝を突くアスラ王。

”タルカジャ”で物理攻撃力を上げられた佐助が、巨大卍手裏剣を操り、魔王の身体を斬り裂く。

紫色の体液が飛び散り、アスラ王が苦痛の声を上げる。

ライドウとニュートンが、”スクカジャ”と”ラクカジャ”を唱え、ダンテ達にバフを掛けてやった。

 

「今だ!一気に畳みかけろ! 」

「了解! 」

 

戦況は、此方が圧倒的に有利になった。

ダンテ達が乱入したという事もあるが、即席とはいえ、連携が取れた波状攻撃に、流石の魔王も成す術が無かった。

漆黒の甲冑に幾つもの亀裂が入り、紫色の体液が地面を汚す。

 

『ぐぅううう・・・・何故だ? 混沌の王よ・・・・何故、同志である筈の我々に害を与え、人間共に組みするのだ? 』

 

地面に倒れ伏し、止めの一撃を振り下ろそうとする銀髪の魔狩人へと、アスラ王が遺憾(いかん)の呻き声を上げる。

六つの複眼からは、紫色の体液が流れ落ち、まるで涙を流している様に見えた。

 

「混沌の王? 知らねぇな。」

 

無情にも悪魔の弱点である心臓へと突き立つ大剣『リベリオン』。

ダンテの冷酷とも取れる蒼い双眸が、命の火が消える魔王の姿を静かに眺めていた。

 

 

 

 

「これで、セクター・エリダヌスに行ける。」

 

アスラ王の亡骸から、ロゼッタ多様体を抽出する。

瞬く間に塵と化す魔王の亡骸。

ライドウの手の中では、エメラルドの原石の様なエネルギー体が、淡い緑色の光を放っていた。

 

「久しぶりだな? まさかお前まで”壁内調査”に来ていたとはな? 」

 

ニュートンの連絡を受け、到着した調査隊員達にロゼッタ多様体を渡している義理父の姿を黙って眺めていた明の背に、ダンテが声を掛けた。

長い前髪から覗く鋭い眼光が、銀髪の大男を眺める。

 

「大好きなパパと一緒にお仕事出来て嬉しいか? 坊主。」

「旦那、止めなって。」

 

あからさまに侮蔑を吐くダンテを、傍らに立つ佐助が宥める。

 

「・・・・何が言いたいんだ? アンタ。」

 

この銀髪の大男とは、因縁がある。

 

初めて会ったのは、今から4年前。

”十二夜叉大将”の一人として選ばれ、幼馴染の鋼牙と共に任務に従事した。

その時に、偶々、この男と遭遇し、完膚無きまでに叩きのめした。

17代目の周りを煩く飛び回る害虫を排除しただけである。

そして4年後、何を血迷ったか、義理父は事もあろうにこの男を仮番に選んだ挙句、日本に連れて来た。

明にとっては、どうでも良い事だったが、この男は違った。

 

「なぁに、借りを返したいだけさ。 流石に、借りっぱなしは俺の性に合わねぇ。」

 

恐らく、矢来区と世田谷区での一件を言っているのだろう。

ダンテにとって、蝦蟇と蟒蛇に等しい明に、命を救われたのが最大の屈辱だったのだ。

 

「何をしているんだ? お前達。」

 

緊張感漂う二人の空気を、ライドウが割って入る。

ホッと安堵の吐息を吐く佐助。

主に逆らう訳にもいかず、ダンテが忌々し気に舌打ちする。

 

「アンタが気にする事じゃない。」

 

明は、それだけ告げると調査隊達と一緒に『レッドスプライト号』へと向かう。

大袈裟に肩を竦めて、明の後に続く佐助。

ライドウとダンテの二人が、その場に残される。

 

「・・・・・玄武の奴は、一緒じゃなかったのか? 」

 

気まずい空気が流れる。

ダンテとは、帝国議事堂の一件以来、一度も顔を合わせていない。

 

「ああ、師父なら”鞍馬山”で飲んだくれているか、女遊びのどちらかだろうな。」

 

ライドウ共々、骸に始末される寸前、理由は全く理解出来ないが、玄武に救われる形となった。

 

本人曰く、ダンテの気骨が気に入ったのだという。

一か月に及ぶ、鞍馬山での修練は、想像を絶する程の地獄であったが、ケビン・ブラウンに魔力操作の基礎はみっちりと叩き込まれている。

天真正伝香取神道流(てんしんしょうでんかとりしんとうりゅう)の至極一部ではあるが、技を取得するのにそれ程苦労はしなかった。

 

「・・・・・そうか・・・お前が無事で良かった。」

 

ライドウは、それ以上、何も聞かない。

玄武、自らが指導したという事は、奴がダンテを「認めた」という事だ。

 

話は済んだとばかりに、ライドウがダンテの脇を通り抜けようとする。

その細い腕を、銀髪の大男が有無を言わせず掴んだ。

 

「アンタ、もう気づいているんだろ? 」

「・・・・・。」

「師父は、アンタとの契約を破棄した・・・・フォルトゥナで言った言葉、覚えているよな? 」

「・・・・・。」

「これで、アンタは俺の正当な番になったんだ。」

 

どこまでも真っ直ぐで、迷いのない蒼い瞳を見るのが怖い。

骸に絶望的なまでの力の差を見せつけられても尚、この男は全く折れない。

ライドウに対する一途なまでの愛が、この男を動かしている。

玄武は、そんなダンテの「狂気」を気に入り、自分の弟子として引き取った。

 

「後はアンタが俺を番と認め、”アモン”の力を寄越せば良い。」

「・・・・っ、お前。」

 

”アモン”という言葉に、ライドウは弾かれた様に、男の顔を見上げる。

そこに、かつて便利屋で共に生活していた若者の姿は無かった。

力を渇望し、支配欲にまみれた一人の魔人がいた。

「俺は、他の連中とは違う。 アンタを骸(ヤツ)の呪縛から解放したいんだ。」

 

掴んでいた手を、自分の頬へと寄せる。

 

愛している。

初めて出会った時から、この美しい悪魔使いに心奪われていた。

故に、ライドウを縛る骸の存在が疎ましかった。

奴を倒し、ライドウを自分のモノにする。

誰にも触れさせない。

コレは、自分のモノなのだ。

 




チェーンソーマン面白いです。
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