★場所:LALEオフィス
【柊一郎】
「声帯が特殊?」
【樹里亜】
「はい。なのでその気になれば変わった声を出すことも可能なんですよぉ」
【柊一郎】
「黒ギャルの物真似してください」
【黒ギャル(?)シスター】
『うっわ~! オタクくん、いまアタシのことヤラしい目で見たっしょ~!? マジでキモいんですけどぉ~!』
【柊一郎】
「さすが。上手い」
【ノア】
「中の人がそういうの演じてますからね」
【妙花】
「てかなんで当たり前のように談笑してんだ手前らは」
【伊栖未】
「そもそも、なぁ、なんでうちにいるんですか」
【樹里亜】
「それはもちろん、新しく作った薬をみなさんに試してみていただきたくて」
【妙花】
「帰れ」
【樹里亜】
「とうぜん報酬は弾みますので――」
【ノア】
「妙花、そうつんけんせずまずは落ち着いて話を聞くべきですよ」
【伊栖未】
「そうだそうだ!」
【妙花】
「…………」
【ノア】
「で、その薬とは?」
【樹里亜】
「はい。――こちら、”魅了付与薬”です」
【柊一郎】
「魅了付与薬」
【伊栖未】
「なんですか、それ」
【樹里亜】
「そうですねぇ……いえ、百聞は一見に如かず。まずはどなたか飲んでみてくださいな♪」
【伊栖未】
「え、怖い」
【ノア】
「私もパスで」
【妙花】
「…………」
【のあちー】
「「妙花……」」
【妙花】
「……あぁ、わかったよ。……ったく、情けねぇ奴らだな」
【樹里亜】
「特に体に害はありませんので。グイっとどうぞ」
【妙花】
「……その前に一応聞くが、これを飲んだら手前に魅了されるとか、そういうのじゃねぇだろうな」
【樹里亜】
「えぇ。違いますのでどうぞご安心を」
【妙花】
「…………」
●SE:嚥下音
【妙花】
「……たしかに、体はなんともねぇな」
【樹里亜】
「では次に柊一郎ちゃんにキスしてみてください」
【妙花】
「……は?」
【樹里亜】
「ほら、ぶちゅーっとどうぞ♡」
【柊一郎】
「妙花」
【妙花】
「……わかったよ。……いくぞ」
【妙花】
「…………ちゅっ」
【柊一郎】
「――――!」
【妙花】
「っ! ――おい、どうした柊一郎!?」
【柊一郎】
「…………」
【ノア】
「なんか恍惚とした表情をしてますね」
【伊栖未】
「うわの空でボーっとしてる感じ。ど、どうしちゃったんだ?」
【妙花】
「……まさか、魅了付与ってのは」
【樹里亜】
「お察しの通り。いまの柊一郎ちゃんはチンピラちゃんにメロメロ――魅了されてる状態になっています」
【妙花】
「やっぱりな。薬の名前からしてそんなんじゃねぇかと思ったよ」
【樹里亜】
「で、魅了された者は魅了した者の言うことをなんでも聞きます。試しになにか命令してみてくださいな」
【妙花】
「……柊一郎、肩揉んでくれ」
【柊一郎】
「わかった」
【妙花】
「……本当にやり始めやがった……!」
【ノア】
「あの……なんなんですかこの薬」
【樹里亜】
「ほら、RPGとかでよく相手を"魅了状態"にする、というものがあるでしょう? あれを現実でおこなうための薬、と思っていただければ」
【伊栖未】
「な、なるほど」
【妙花】
「ちなみにこの効力はどれくらい持続するんだ?」
【樹里亜】
「3分程度ですね。薬を飲んだ者も、魅了された者も同じく」
【妙花】
「……となると、そろそろ効果が切れる頃か」
【柊一郎】
「……あれ。オレなにしてたっけ」
【樹里亜】
「とまぁこのように、薬を飲んだ者はキスした相手の精神を支配下に置くことができるんですねぇ。ちなみにキスは異性相手にしか効果がありませんので」
【ノア】
「要は"
【樹里亜】
「完全な下位互換というわけではありませんよ? 私の薬ならお顔のどこにキスしても効果が発動しますので」
【ノア】
「差別化するにしては地味すぎません?」
【柊一郎】
「シスターもHU〇TER×HU〇TER読んでたんだ」
【妙花】
「そもそもこの薬はなんの役に立つんだ」
【樹里亜】
「さぁ? 自己満足で作っただけなのでなんとも言えませんねぇ」
【伊栖未】
「適当」
【柊一郎】
「魅了って言うならキス以外でもできそうなものなのに」
【樹里亜】
「……と、言いますと?」
【柊一郎】
「たとえばゲームや漫画だったら全裸になって魅了とかあるじゃん」
【ノア】
「柊一郎に魅了能力があったら"最強"間違いなしでしたね」
【妙花】
「絵面がひどすぎねぇか」
【伊栖未】
「さわさり」
【柊一郎】
「そういう話でなく」
【樹里亜】
「残念ながら私の薬ではキスでしか効力を発揮しないんですよねぇ。たしかに全裸を見せたりしても魅了できるようにしてみたいですけど」
【ノア】
「試させたわりにはずいぶんと課題がありますね」
【樹里亜】
「課題もそうなんですけど、それより実は未解明の部分がありまして」
【柊一郎】
「未解明」
【樹里亜】
「ひとつ分かっていないのは……”上書きは可能なのか”――という点ですねぇ」
【妙花】
「……どういうことだ?」
【樹里亜】
「簡単に言えば、『AとBが薬を飲み、AがCにキスした後にBがCにキスした場合、CはAとBどちらの言うことを聞くのか?』というお話です」
【ノア】
「なるほど。そういう意味の"上書き"ですか」
【樹里亜】
「ですので、そこの検証をしてみたく、実験の協力をお願いしたいんですよぉ。どうです? やってみてはいただけませんか?」
【伊栖未】
「まぁ、それくらいなら」
【妙花】
「で、誰と誰が飲むんだ? アタシはさっき飲んだから伊栖未とノアか?」
【樹里亜】
「まずはそれでかまいませんが、サンプルは多いほうが良いのでチンピラちゃんも協力してくださいねぇ?」
【妙花】
「……あぁ、そうかい。わかったよ」
【ノア】
「では私と鐘さんでやってみるので薬をください」
【樹里亜】
「……はい、どうぞ」
●SE:嚥下音
【伊栖未】
「……じゃ、まずわたしが……柊一郎、いい?」
【柊一郎】
「いつでも」
【伊栖未】
「…………ちゅっ」
【柊一郎】
「――――!」
【ノア】
「では次に私が…………ちゅっ」
【柊一郎】
「…………」
【ノア】
「えっと……柊一郎、私の頭をなでなでしてください」
【柊一郎】
「…………」
【ノア】
「……あれ。微動だにしませんね」
【伊栖未】
「……柊一郎、わたしのおっぱい触って」
【柊一郎】
「わかった」
【伊栖未】
「んぁっ……♡」
【妙花】
「……最初にキスした伊栖未の言うことだけ聞いたぞ」
【ノア】
「となると上書きはできてないってことですね」
【樹里亜】
「まだ1通り目ですから。今度は逆、あとは組み合わせを変えて……とすれば計6通りになるので、残り5通りですね。ではお願いします」
【ノア】
「じゃあ今度は私が最初にキスすればいいんですね」
【伊栖未】
「そぉ、その前に薬の効果が切れるのを待たないと」
【ノア】
「…………」
【伊栖未】
「…………」
【ノア】
「……この実験、思ったより面倒くさいですね」
【伊栖未】
「わたしも思った」
【妙花】
「アタシも」
【樹里亜】
「実験とはそういうものですよ?」
◆
【樹里亜】
「――……どうやら、上書きは不可能のようですね」
【妙花】
「つまり最初にキスしたやつの言うことしか聞かねぇ、ってことだな」
【柊一郎】
「……疲れた」
【ノア】
「魅了の反動とかあるんですか?」
【柊一郎】
「ある。うまく言えないけど……こう、心臓に来る感じ」
【伊栖未】
「柊一郎はそれを複数回やってるから……負担、大きい」
【妙花】
「となると一日に何度もやるもんじゃねぇな。程々にしねぇと発作につながるかもしれねぇ」
【樹里亜】
「ふふっ……おかげさまでとても良いデータが取れました。ご協力ありがとうございました」
【ノア】
「えぇ。せいぜい役に立ててください。なんの役に立つ薬かわかりませんが」
【妙花】
「いまのとこ分かってんのは柊一郎を奴隷にする際には使えるってことぐらいだな」
【のあちー】
「「まさにそれ」」
【柊一郎】
「怖いこと言わないでほしい」
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「……柊一郎ちゃん?」
【柊一郎】
「はい」
【樹里亜】
「――――ちゅっ♡」
【柊一郎】
「!!」
【ノア】
「なっ――!」
【妙花】
「おい手前! 一体何を――!」
【樹里亜】
「――柊一郎ちゃん、私と結婚してくださいな?」
【伊栖未】
「なぁっ……! ま、まさか……!」
【樹里亜】
「えぇ! みなさんが実験している間に薬を飲んでおいたんですよぉ! これで柊一郎ちゃんは私の言うことしか聞きませんねぇ!」
【妙花】
「この女……! やっぱり――!」
【ノア】
「ふたりとも落ち着いてください。効力は3分だけです。すぐに収まるので何も問題はありません。ただの茶番ですよ」
【伊栖未】
「……あ、そっか。それなら――」
【樹里亜】
「――残念ながらそうはならないんですねぇ」
【ノア】
「……え?」
【樹里亜】
「私が飲んだのは――効力が72時間持続する薬です! つまり3日間、柊一郎ちゃんは私のものになるんですねぇ! あっははははははっ!」
【ノア】
「――――っ! 効力が3分だけの薬はダミーだったんですね……!」
【伊栖未】
「わたしたちに、じぃ、実験させたのは……こういう時に、キスの"上書き"では抑えられないのを確認するため、だったのか……!」
【妙花】
「まずいぞ! どうにかして止めねぇと――――!」
【樹里亜】
「あっははははははっ! 無駄ですよぉ! さぁ、柊一郎ちゃん? 私と結婚――」
【柊一郎】
「――――
【樹里亜】
「…………」
【樹里亜】
「…………え?」
【柊一郎】
「
【樹里亜】
「!!?!!??!」
【伊栖未】
「……? 魅了、効いてない、のか?」
【ノア】
「どうやらそのようですけど……一体どういうことなんです?」
【妙花】
「最初にキスしたのはたしかに似非修道女だったはずだが……薬そのものに不備でもあったか?」
【樹里亜】
「そんなはずは――――」
【柊一郎】
「別に難しい話じゃない。さっき貴様が言ったように、この薬には――未解明の部分がまだあった、というだけのことだ」
【樹里亜】
「……それは一体――」
【柊一郎】
「伊栖未・妙花・ノアの三人からのキスは効果があった。一方でシスターからのキスは効果なし」
【柊一郎】
「この違いは……"愛する人からのキス"かどうか――だと、オレは思う」
【樹里亜】
「――――っ!!」
【ノア】
「……ふふっ。なに小っ恥ずかしいこと言ってんですかね、あいつは」
【妙花】
「でもわかりやすくていいじゃねぇか。
【伊栖未】
「じゃあ柊一郎は、本当に……わたしたちのこと――」
【柊一郎】
「好き。君たちがオレを好きでいてくれてるのと同じように」
【伊栖未】
「…………♡」
【ノア】
「お前の"それ"……カッコよすぎ」
【妙花】
「やっぱり手前はアタシの認めた"最高"の男だよ……」
【樹里亜】
「…………はぁ」
【樹里亜】
「――……まさか、失敗するとは思いませんでしたねぇ」
【柊一郎】
「さて、この人どうしようか」
【ノア】
「とうぜん罰を与えて然るべきでしょう。下手したら柊一郎がさらわれてたところだったんですから」
【妙花】
「二度とうちの敷居をまたぐんじゃねぇぞ……!」
【伊栖未】
「でも出入り禁止だけじゃ物足りない。もうひとつなにか」
【柊一郎】
「…………」
【柊一郎】
「……いいこと思いついた」
【ノア】
「……? なにをする気ですか?」
【柊一郎】
「ノア、まだ薬は残ってる?」
【ノア】
「えぇ、ありますけど……――っ! お前、まさか――!」
【柊一郎】
「たしかシスターはこう言った――『キスは異性相手にしか効果がありません』って。でもよく考えたら性別の指定はなかった」
【柊一郎】
「ということは……
【柊一郎】
「つまり……今からシスターにキスして、嫌がることを命令してやる」
【樹里亜】
「――――!!!!」
【ノア】
「なるほど。求婚するぐらいですから、柊一郎にそれなりの気はあるはず。おそらく魅了されるでしょうね」
【妙花】
「くっくっ、そりゃいいな! だったらこういうのはどうだ?」
【妙花】
「……『化粧をすべて落として、すっぴんを見せろ』ってな」
【樹里亜】
「な――――っ!!!!」
【ノア】
「あ、それいいですね。私も見てみたいです」
【伊栖未】
「わたしも、シスターのすっぴん、見たい」
【柊一郎】
「妙花のそれ、採用」
【樹里亜】
「い、嫌――」
【柊一郎】
「というわけで……唇を差し出せ」
【樹里亜】
「――……っ!!」
【樹里亜】
「……絶対お断りです――――!!!!」