歓楽都市ドッソレス。惑星テラの西端、ボリバルに存在する一都市に過ぎないが、度重なる複雑な情勢と激動の末、異彩を放ちながらもあまりに眩しい地位を確立したそこへ、ドクターは向かっていた。
詳細は省くが、ケルシーとアーミヤからの粋な計らいによるものであり、それらを要約すれば「休め」という一言に尽きる。そうは言われたところで一人歓楽都市に放り出されたところで何ができようか? 寂しくホテルの一室から遠巻きにビーチを眺めて人々の黄色い喜びの声を聞き届けるくらいしかドクターには思いつかなかった。
製薬会社ロドス・アイランドとしての営業活動に精を出そうものなら帰投直後にケルシーから一時間以上に及ぶ説教と嫌味と皮肉と罵倒をオブラートに包み込んだ構文が長々と出力されることは間違いない。誰か同行者がいてくれたら心強いのだが、というドクターの思いを汲み取ったのか、はたまた偶然なのか。それともそれが誰かの思惑によるものなのかはさておき、ドッソレスに放り出されたドクターに護衛も兼ねて同行者が一名。
以前にもドッソレスに足を運んだ際には散々な目に遭いながらも、彼女自身にとっても良い体験になった。せっかくのバカンス、やはり楽しまなければ損の一方なのはあまりに不平等だ。
──かくして、チェン・フェイゼ。並びにドクターは歓楽都市ドッソレスに再び身を投じることとなる。
いつもの調子で彼女は今回の件について「無問題」と即答した。ドクターは道中、トランスポーターのロドス職員が珍しく無駄口を叩かず、背筋を伸ばして源石エンジン車両の運転に集中していることに感心する。
四泊五日。なんとも気前の良いバカンス休暇。何故それほどの猶予が与えられたのか。答えは一つ、製薬会社にだって有給休暇というものは存在する。上司が率先して消費しなければ部下はおちおち休んでもいられない。そういった組織全体のガス抜きも兼ねてのことだ。使うなんて一言もドクターは申請していなかったが何故か受理されていた不思議な体験をすることになってしまったが。
ドッソレスに到着するなり、活気に歓迎され、あまりに眩しすぎる太陽の陽射しにドクターがバイザーの下で目を細める。まずは宿泊先のホテルに荷物を預けて、身軽になったところで観光を楽しむのが定番の流れだ。
「チェン、宿泊先のホテルについて何か聞いてる?」
「いや。私は聞いていないが……ただ楽しみにしておけとしか」
「誰から?」
「聞きたいか? 聞かない方がいいと思う」
「わかったやめておこう」
街の活気にかき消されそうな声で「あの鼠め……」と呟いた声が聞こえたような気がする。
ドッソレスの海が一望できるリゾートホテルの宿泊券をフロントのボーイへ渡す。荷物を運んでもらいながら、四泊五日の間世話になる部屋へ案内されてドクターとチェンは目を丸くしていた。
キングサイズベッドの存在感もさることながら、使いきれないような広々とした部屋にはワインセラーを完備。浴室もプールばりの広さ。展望台にはパラソルにビーチチェアと、海にいくまでもなく日光浴ならばこの部屋で事足りてしまう。ドッソレスに繰り出すことなく自堕落的な生活に身を委ねてしまっても誰が咎めるだろう。それすら憚られるほどに魅力にして蠱惑、享楽とはふんだんな贅沢の上に成り立つ究極の娯楽であることを教えられる。
言葉を失うドクターを肘で小突き、チェンが腕を引いて室内へ連れ込むと荷物を受け取って広げた。
「ドクター、着替えるぞ」
「私も?」
「当然だ。せっかくのバカンス休暇なんだ。少しくらいハメを外したところで誰も気にしないだろう。それにその格好……私は見慣れてしまったが、ここでそれはあまりに目立つ」
そこらの岩肌で目玉焼きが作れてしまいそうな日差しの中、フルフェイスのバイザーにロングコートと白衣を着ていれば誰しも神経を疑う。馬鹿正直に製薬会社勤めと明かせばそれこそ医者を紹介されかねない風体だ。それを懸念してのことか、チェンの荷物の中にはドクターの着替えも準備されていた。サイズの方も確かめてみるが、申し分がない。身の丈に合ったものを周到に用意されていたことに驚く。
「……チェン、もしかしてだけれど。私と休暇に行くの楽しみにしてたり」
「…………いいから着替えろ。斬るぞ」
こんな時でも肌身離さず帯刀している龍門近衛局の抜刀術を喰らいたくはない。細切れどころかネギトロにされてしまう。ドクターは言われた通りに着替えることにした。チェンは手を止めてジッと睨みつけている。
「ごめん、向こうで着替えてくる」
「配慮してくれて助かる」
歓楽都市というだけはあり、昼夜問わず活気づいていた。ショッピングに出かければ露店からは絶え間なく声が掛かり、飯時になればお勧めメニューが聞いてもいないのに店から飛び出してくる。とはいえやはりインドア派のドクターにとっては体力よりも気苦労の方が大きかった。本屋に向かい、数冊の本を購入して戻ればチェンの両手には飲み物。そんな欲張りだったかと首を傾げれば眉を釣り上げて押しつけられる。
「片方はキミの分だ」
それはそうか。本を片手にドリンクで喉を潤していると、少し呆れた様子でチェンは肩を寄せた。
「こんな機会、滅多にないんだぞ……?」
「それはそうだが。泳ぎに行きたいなら付き合うけれど」
「いや、いい。ビーチに行けば不埒な連中に声をかけられるのが煩わしい」
「驚いた。君に声を掛ける命知らずがいるもんだ」
「それはどういう意味だ、ドクター?」
戦場での活躍ぶりをこそ知っているドクターからすれば、チェンを口説こうなどという考えなんて浮かぶはずがない。だが今、肩を寄せてきているチェンが腕を組もうとしてきている心境の変化に気づかないほどドクターも鈍感ではなかった。こちらからも腕を組みやすいように隙間を開けてやると、拘束するかのようなぎこちない力加減で腕を組んでくる。
「な、なんだ! おかしいか。キミは両手が塞がっているんだからこれが一番効率的だと考えただけだ。そんな目で見るな」
「いや、君も変わったなと思っただけだよ」
「……そうだろうか。いや、キミの言うことだ。信じよう……それで」
「ん?」
「それで、その……」
珍しくチェンが言い淀んだ。
「それは……キミにとって、好ましい変化か?」
どこかぶっきらぼうな言い方に眼を丸くしてドクターは驚かされる。
頬を赤く染めながら確認してくる口ぶりには緊張の色が見て取れた。彼女自身、どこか戸惑いもあるのだろう。それならばロドスにいる時にでも聞いてくれればいいものを、とそこまで考えてからチェンが知り合い達にからかわれる姿が脳裏に浮かんだ。
「そうだな。今の君はとても付き合いやすいよ。これからも頼りにしてる」
「なら、いいんだ。……せっかくだし、もうひとつ聞きたい事がある」
「なに?」
「私の格好について、なにか感想があれば今後の参考にしたい」
ドッソレスが海に面していること。日差しも強く、町中であっても薄着の人々がほとんど。それに合わせてチェンも水着の上にパーカージャケットを羽織っていた。ジッパーを閉めているから肌を露出させることはないが、下はショーパンスタイルの水着だ。それでもやはり剣だけは手放していない用心深さは恐れ入る。
「……似合っているけれど?」
「……他にないのか?」
「他に?」
ジトリとした目つきで睨んでくるチェンからは威圧感を覚え、勤務中に近い雰囲気に思わず背筋を正した。自他ともに厳しいことでとっつきにくさがあるからか、慣れない人間はとことん馴れ合えないタイプであるものの、付き合いが比較的長い方であるドクターはドリンクで口直しをしつつ改めてチェンの頭から爪先まで観察する。
「パーカーで水着が見れないのは少し残念だ」
「なッ────!」
ドクターも今はいつもの暑苦しい風体ではなく、チェンが用意してくれたコーデに扮していた。オーバーサイズのパーカーフードに、ロングパンツの水着を合わせている。肌の露出も少なく、一見すると重苦しそうだが想像以上に生地が薄く、通気性に優れているだけでなく放熱効果も高い。それだけでなくフードもツバが着いていて日除けにもなる。ファッションの一部として遮光サングラスも付属させられていたので、今はバイザー代わりにしていた。
絶句したまま硬直したチェンが足を止めたせいでドクターも腕が引っ張られる。
「お、っと……」
「キミは、その……私の水着に興味があるのか?」
「無いと言ったら、まぁまぁ嘘になる」
本心からの素直な感想に、チェンが押し黙ってしまった。帽子のツバで表情は窺い知れないが、耳が赤いことから照れているのかもしれない。
「……チェン?」
ドクターはそれきり黙ってしまったチェンを連れてドッソレスを歩き、妙な緊張感の漂う食事を摂ると日が沈む前にホテルへと戻ってきた。
目も合わせようとしてくれないことに不安を覚えつつ。
部屋へ戻ってくるなり、チェンはワインセラーを開けてグラスに注いで飲み始めた。やけ酒のような勢いに一言告げようとしたが彼女の威圧感に負けてドクターは大人しく買ってきた本の封を開ける。
ドッソレスの偏移と流行、何人かのオペレーター達が好むであろうファッション誌。レシピ本などだが、ドクターは歴史資料に目を通した。
せっかくなので展望台のビーチチェアに背を預け、磯の香りを運んでくる夜風を浴びながら静かで遊雅な時間に身を浸す。しかし、中でワイングラスを仰っていたチェンがローテーブルを赤ワインで叩くように置くとグラスを押しつけてきた。
「チェ──」
「飲め」
目が据わっている。酔いが回っているのか既に顔が赤い。ドクターは本を開いたまま固まってしまった。
「ん」
ずいっと差し出されるワイングラス。
「んっ!」
視線を逸らし、部屋の中のテーブルを見やれば既に四本目。この短時間でこれほどの飲酒をするのは流石に肝機能へのダメージが懸念される。飲み過ぎは毒だ、酒は飲んでも飲まれてはいけない。動かないドクターに痺れを切らしたのか、有無を言わせずグラスに赤い液体をなみなみと注いで突き出してくる。
「んーっ」
「……い、いただくよ」
おずおずと受け取ると、チェンは口元を緩めた。だが、受け取ったグラスを置こうとするとやはり眉をつり上げる。仕方なくドクターはグラスを揺らしてからワインの風味を吸い、それから一呼吸置いて口に含んだ。
かなり強い。間違ってもパラスのように飲み込めるような代物ではないことだけは確かだった。
「チェン、これ……結構きつくない?」
「飲めないのか……?」
「私もそれほどお酒に強いわけではないからね。少しずつだけれど飲ませてもらうよ」
呑み口の軽さに比べて度数が高く感じられる。開けたワインを置いてチェンもまたビーチチェアに腰を降ろすと自分のグラスにワインを注いだ。
「ドクター」
「ん? ……ああ」
「貴重な休暇を祝して」
「乾杯」
薄いグラスが割れないように、縁でキスをする。
ちりん、と静かな音を鳴らしたグラスをチェンはすぐに仰った。
傾いた陽が沈んでからは早かった、あっという間に夜空を星が埋め尽くす。
惑星テラの広大な大地における厳しさなど忘れてしまいそうになるほどに。
ドクターは休暇の意味を思い出して資料に栞を挟むと閉じて寝かせた。
「そんなに飲んで大丈夫?」
「らいじょうぶだ」
「…………」
──おや? 大丈夫じゃなさそうな返事が返ってきた気がする。ドクターも赤ワインを口に含みながら、チェンの様子を観察した。
顔は言うまでもなく赤い。目も据わったままだ。夜景を楽しんでいるようだが、どこか遠くを見ている気がする。表情は固くない。リラックスしているように見える。パーカーのファスナーはしっかり襟まで閉めていたが、今はどうか。アルコールを摂取して体温が上昇したのか、火照る身体を冷ますように胸元まで開けていた。
これまで彼女に対してドクターはできる限り意識しないようにしてきた。だが付き合いが長くなればなるほどに、それが困難になってきた。作戦指揮官として極力公平な立場を保たなければならない自覚も相まって、異性のオペレーターに対しては過敏なくらいに。そしてそれは一度でも気を緩めてしまうと払拭することが極めて困難となる。
閉め切ったパーカージャケットであっても、彼女の優れたスタイルを隠し通すことは至難の業だ。それがどれほど女性として優秀なスペックを発揮しているのか無自覚だろう。自身をそうした目で見たこともないはずだ。
ドクターの視線がはだけたパーカージャケットに向けられていることに気づいているのか、チェンは自分の胸元を強調するように身体を前かがみにしてグラスを揺らす。それを見たドクターの手元が狂い、余計にワインを含んでしまってむせていた。
「ゔっふっ! おふっ、こフっ……!!」
「ドクター。先程から視線が怪しいぞ」
「ご、ごめ……! すまない、そういうつもりではなかった!」
「何を謝る。見たかったんだろう、私の水着が? ほら」
胸を張りながらファスナーを下ろしていくと窮屈だったのか、開放感で胸が弾んでいる。こもった熱気のせいで胸の下からモヤのようなものが見えた。
「今は二人きりだ。キミなら、好きなだけ見てもいい」
「そ、それはありがとう」
「もっと近くで見せた方がいいか?」
「んゔっふぁっ!!」
ドクターが再び咳き込む。だがチェンはお構いなしに身体を迫らせてきた。目の前でたわわに揺れる二つの果実に視線が釘づけにされてしまう。
「水着を見てるのか、それとも……キミはそんな目で私を見ていたのか?」
無茶を仰る。言い逃れのしようがない尋問にドクターはワインの後味が残る生唾を飲み込んだ。ごくりと音を立てて喉を通る。どう答えようとチェンからの評価に差し支えることだけは明確。
意を決して、観念したようにドクターは白状した。
「そうだな、君の身体に見惚れている」
「……、──」
「水着が見たいのもあるが、それ以上に君に興味が尽きない」
酔いが回っていたせいか余計な言葉までスラスラと出力されてくる。だがいずれも本心、これまで隠していた感情だ。
「ドクター。そこまで言うなら……もっと近くで見てくれてかまわない。遠慮なんてしなくていい。キミと私の仲だ」
真っ赤な顔と、荒くなった呼気にアルコールの残り香を漂わせてチェンが手を伸ばすとドクターに覆い被さる。二人分のスペースも無いビーチチェアが軋んだ音をたてる。
首に手を回してしがみついてくる火照った身体からは体温が伝わってくると同時に、チェンの鼓動が早鐘を打っていることも。
「……チェン」
「…………もっと、見たいか?」
耳元で囁かれるあまりに魅力的な提案に、答えを待たずしてチェンは身体を起こすとビキニトップに指をかけて持ち上げる。それに引っ張られる形で胸が形を変え、やがて弾みで揺れ動いた。ドクターの目と鼻の先で露わにされた丸い果実は予想通りか、それ以上に衝撃的で思考が飛んでいく。
「恥ずかしいな、これは……思った以上に」
そう呟きながら胸を寄せるチェンの言葉など右から左に抜けていってしまう。はだけたパーカージャケットの下、濃紺のビキニで辛うじて隠されていたチェンの素肌に見惚れてドクターは言葉を失っていた。
目が離せない。視線を逸らすこともできず、ただ熱い視線を向けることしかできず、それでもまだ繋ぎ止められていたなけなしの理性がやっとの思いでか細い声を出す。
「……綺麗、だな」
「そ、そうか……? そうだろうか、何しろ私はこういったことに疎いからな……だがキミが言うなら、自信を持ってよさそうだ」
緊張で強張っていた身体から、少しだけだが気が抜けたことにドクターが安堵のため息をつく。だが依然として状況は変わらず、チェンに身動きが封じられたままだ。
互いに押し黙り、見つめ合う静かな時間が流れる。
「……、ヤるぞ、ドクター」
「───へ、」
沈黙を破ったチェンの行動は素早かった。一気呵成、早期決着、短期決戦にして疾きこと風の如し。ドクターの手を掴み、ビーチチェアから引き起こすと手を後ろに捻りあげて拘束。近衛局の手腕を発揮して迅速果断にベッドまで連行すると突き飛ばして押し倒した。抵抗する暇も思考の隙も見せずにパーカージャケットとビキニの上下も脱ぎ捨てる。局部を隠していた最低限の布地すらかなぐり捨てて一糸纏わぬ全裸となったチェンは鼻息を荒くしながらドクターに跨った。
青い髪が垂れて顔にかかり、真っ赤な目は興奮状態にあるのか瞳孔が開いている。顔を真っ赤にしながら突き出した唇がぶつかった。
無理矢理な形で、一方的に貪るようなキスだったがそれでも柔らかい感触と甘い香りに、ワインの味がする初めての感触にドクターの身体が反応する。
「んーっ、ふぅ……! は、ぁ……。なんだ、身体は正直じゃないか」
「これは……生理的な反応だから仕方ないんだ」
ロングパンツから盛り上がる感触に腰を押しつけるチェンが脱がせると、それはすぐに屹立した姿を見せた。
熱く脈を打つ男根にチェンの視線が釘付けになり、固唾を飲み込む。まじまじと見つめながら手で軽く握っていた。
「これが、ドクターの……意外と、大きいというか……」
「っ、チェン……!」
「あっ。す、すまない。痛かったか……?」
「そうじゃない。むしろ気持ちいいくらいだ」
「そ、そうか……うん」
小指と薬指で握り、恐る恐る触れているのがわかる。しかしこんな時でも剣の握り手の形を崩さないのは性根が真面目一辺倒というか、なんというか。チェンもそれではいけないと思ったのか、ここまで状況を運んだ手前引くに引けない。錯乱一歩手前の思考でありながら、頭にある性知識を総動員して行動に移した。
「ぁ……あむっ」
口を開けて男根にしゃぶりつく。頬張るような形で咥え込むと、その感触に驚いたのか腰が動いた。痛くないように唇で包み込みながら、舌を這わせて濡らしていく。
(確か、こう……こんな感じだったか……?)
皮を剥き、根本で押さえながらチェンは亀頭を中心に舌で濡らすと、口いっぱいに咥えた。
「んっ、くぅっ……! チェン、こんなのどこで覚えて……!」
「ぱ、ァ……キミは、私のことを子供かなにかと思っているのか? わ、私だってこれくらいは知っている。これが気持ちいいのか? ……なんて、聞かなくても大丈夫そうだな。続けるぞ、ドクター」
チェンの口淫は決して激しくない。優しいわけでもなく、ただただ基本に忠実。丁寧かつ丹念に性的刺激を与えてくるフェラチオは時間をかけてドクターの男根をその気にさせていく。形ばかりだった勃起も、睾丸から根本にかけて熱を帯びてくる。鈴口からは射精を促すカウパーが滲み出し、それを不思議に思ったチェンが顔を離した。
「ドクター、私の顔に漏らしてくれるなよ。はぷっ」
「そん、な無茶言われてもッ……!」
「……ぅ……なんか、変な味がするぞ。なんだこれは……あむぅ……」
不満そうな顔をしながらもフェラを再開する。先端から滲み出てくるカウパーを舐め取りながらも、短く前後に頭を動かし続けていた。だがチェンの口淫はどうにも焦れったい。亀頭ばかりを丹念に丹念に責めてくるものだから尿意に似た射精の感覚が寸止め状態となっていてドクターのなけなしの理性が悲鳴を挙げていた。
「チェン、お願いだから──! 手も使って、もっと全体的にしごいてくれ……先っぽばかりで頭がどうにかなりそうだ……!」
「んむぇ? ……、ん、むぅ……んっ……」
口は亀頭を咥えたまま、チェンはドクターの懇願通りに根本で皮を押さえていた手で優しく男根をさすり始める。溢れた唾液で濡れているからか、引っかかるようなことはないがいやらしい音を立てていた。
なんとも言えない肉同士の擦れる音を聞いて、どうしてか身体が疼き始める。腹の奥底がむず痒くなるような感覚に駆られてチェンの手捌きが激しくなった。
ずっと根本でせき止められていた熱溜まりが射精管を通ってせり上がり、男根の膨らみを感じていたチェンが口を離そうとするがドクターが咄嗟に頭を押さえつけて喉奥にまでねじ込むと溜まりに溜まった精液を爆発させる。
「チェン、ごめんッ!!」
「んっ、ぶぇ!? んぐぅぅう、んんっぶぁあ……!!」
「っ、あ……無理……! 止まらな……!」
濁流のような音を立てて吐き出される精液は、粘性の高い液体となってチェンの口内を白く満たしていき、やがて耐えきれずに決壊していく。喉奥に挿し込まれた男根からの射精を直に受け止めることとなって無理矢理流し込まれた精液を飲み込もうとするが、喉の粘膜に引っかかる上に生臭く、飲み込むのに一苦労させられる。それでもチェンはドクターの射精を受け止めていた。
“ビューッビューッ”と男根が跳ねる度に驚くほどの量を注ぎ込んでくる。だがそれも長くは続かず、やがて治まった。チェンがゆっくりと口を離し、喉を鳴らして開けた口内は精液がまだ舌の上でプリプリと踊る。
眉を怒りでつり上げ、今にも酷い剣幕で怒鳴り散らしてきそうなチェンだが、肩で息をするように何度も熱を帯びた吐息を繰り返していた。
「は、ぁーっ♡ はぁぁっ……♡ ドクター、わたひの口は、トイレじゃないんだぞ……わかっているのか……♡」
「ごめんッ……気持ち良すぎて……、それにあんな焦らされてたら私だって理性の限界が」
「問答無用ッ。今度は、こっちの番だ……ケフッ……」
小さなゲップをこぼしてチェンが口を押さえる。口元から垂れてくる精液を手の甲で拭い、ドクターの男根を握りしめて勃たせた。
衰える気配のない硬さに驚かされながら口の端を歪める。
「デスクワークばかりでこちらの体力も無いものらと思っていたが、そうでもないな」
酔いがますます回ってきたのかチェンの呂律が回っていない。しかし相手はワインでタガが外れているのか、濡れ始めたばかりの秘部に先端を押しつけていた。
「チェン、ちょっと待っ──」
「誰が待つもの、か!」
位置を探り、それから腰を落とす。窮屈にすぼめられた入り口は異物を拒み、滑るように男根が逃げた。それにチェンが眉を寄せていた。もう一度、今度はきちんと手で押さえつけてしっかりと秘部にあてがうと息を整えてから一気に腰を落とす。
「あっぐッ……、んっ……! くぅッ……!!」
端麗な顔が苦痛の色を見せる。堪えようがない内臓の痛みだ、無理もない。下準備を疎かにしたチェンの膣は異物を受け入れる準備が万全ではなく、それでもドクターの男根を呑み込んでいく。
「く、ウッ~~~……!! ぁ、っはぁ……はぁ……どう、だ? ドクター、ふふっ……」
「チェン、血が……」
「んっ、あ……初めてなんだから、当たり前だろう。それに、多少の痛みには、っふ、慣れてる」
目尻に涙をためながらも気丈に振る舞うチェンがゆっくり腰を上げていき、緩やかに降ろしていく。男根を濡らす唾液と精液を潤滑油にするがそれでも滑りが足りず、肉壺のざらつきに亀頭が引っかかりを感じていた。破れた処女膜から滲む血も混じり、サラついた赤い液体が生温かさと共にドクターの下腹部を伝う。
性的な快感よりも痛みが勝るのか、異物感に顔をしかめながらもチェンは腰を動かして打ちつける。ドクターがそれを止めようとしても唇を無理矢理塞いできて拒絶していた。ならばせめて、と手を回す。
「ふ、ぁ……ドクター、私の初めてを奪った気分は、どうだ? 気持ちいい、だろうか?」
「チェンの膣内……気持ちいいな」
「ん、ふふ……キミにそう言ってもらえて光栄だ」
酔いの回った“とろん”とした目つきでチェンがぎこちなく腰を動かす。打ちつける度に眉をしかめていたが、愛液の分泌によって動きに抵抗感がなくなってくると少しずつ動きを早めた。ドクターの男根を締めつけていた肉壺に蜜が満たされていく。
「んっ、ふっ、んっ……! はぁ、これは中々疲れるな……! そら、ドクターも私にばかりヤらせてないで、少しは動、けッ!」
パンッ、パンッ
チェンが大きく腰を持ち上げて打ち下ろす度に引き締まった身体から小気味良い音を立てていた。ドクターも最初こそ罪悪感が勝っていたが、背徳感と快感の絶え間ない攻勢によって理性が決壊していく。
「っ……チェン!」
「う、あっ! こ、こら! いきなりそんな、激しく動くな……!」
敏感になっていた男根から無理矢理搾り取ろうとしていた相手に遠慮していたが、チェンの処女喪失という実感に腰を掴んで突き上げる。
先程までの引っ掛かりが嘘のように膣内の窮屈さを乱暴にかき回すドクターの腰使いに、しかし流石は近衛局隊長として名を馳せていた剣豪。不測の事態にも難なく対処していた。相手のペースに合わせて体幹を崩さなかった。その動きに合わせてチェンの豊満な胸も揺れていた。
「んっ! ふふっ、キミもその気になってくれたな………っ! 膨らんできてるのがわかるぞ、そらっ! ラストスパートだ!」
「う、ああっ……絞り取られ……、っ! もう、出る……!」
激しく打ちつけられる腰のうねり。根本まで包み込むチェンの膣内の体温がドクターの男根をしゃぶりつくし、口をすぼめる。カリを執拗になぞりあげる肉壁のヒダに射精を促されていたが、我慢の限界が訪れた。
ドクターの腰が跳ねる。一度目の射精よりも通りがよくなったのか、それとも上の口よりも強い快楽に促されたからか。チェンの腟内で男根が震え、とめどなく精を吐き出し始めた。
「あっ……っくぅ……! はぁ、まだ跳ねて……!」
下腹部からじわりとした熱が広がっていく。ドクターの精液が子宮を満たしていく感触にチェンは腰を落としてじっくりと味わっていた。
「んぅ……おいドクター、出しすぎじゃないか……? は、あ……でもこれは……心地よいな……」
チェンが下腹部に手を当てて撫でる。子宮に注ぎ込まれたドクターの精液から伝わってくる体温がなんとも言えない快感で満たしてきていた。
数秒、数十秒かもしれない。射精を終えた男根が引き抜かれ、満たされていた膣が物寂しさを覚える。それと同時に、チェンの頭がふらりと揺れた。
「はぁー、はぁ……チェン? 大丈夫?」
「…………──んー……──ん、ぅ……すぅ」
身体を預けてきたと思った瞬間、静かな寝息が聞こえてくる。その呼気は、やはり酒気を帯びていた。
ドクターは天井を見つめながら全身の力を抜くと、程なくして睡魔に襲われる。
不安も何もかも全部、この手の中にある温もりを奪うに値しなかった。
「……ん゛……ぅ……なん、だ……? 頭が……くそ……いつの間に……」
目を覚ましたチェンが真っ先に頭痛に襲われる。脳を内側から叩かれているかのような感覚を、少なからず覚えがある。二日酔いというやつだ。
次に、変な味が口の中に残っていることに手で押さえる。
(私は一体何を飲んだんだ……? それに、なにか……身体が痛いような……いやダメだ、思い出せない)
記憶を辿る、まずロドスからだ。ドクターの有給休暇を消化するためにドッソレスに同行した。覚えている、間違いない。次にどうした? 一緒に街を歩いた。なにかとてつもなく恥ずかしい思いをしたような記憶があるが微妙に思い出せないというか思い出したくない。
食事の内容も曖昧だが、ホテルに戻ってきてから自分が何をやったのかは部屋を見れば一目瞭然。やけ酒だ。
カウンターテーブルの上に空のワインボトルが並び、中身が中途半端なグラスも見られる。
ベッドから降りようとして、チェンがそこで身体の違和感に気づいた。下腹部。だが表面上は何も変化がない。となると──手を伸ばし、自分の股間が濡れていることに悲鳴が出そうになった。全裸だった、恥ずかしげもなく赤子のような格好ですっぽんぽんなことに気づき思わず手で隠す。
自分の服がどこかと部屋を見渡せば、なぜかパーカージャケットも水着も全部脱ぎ捨てられていた。意味がわからない。わけがわからない、何をどうしたらそうなったのか。だが近衛局での経験が活きた、冷静な状況判断能力により、分析の結果として導き出される結論はただひとつ。
(私は……、ドクターと──いや、ドクターを襲ったのか……? 酔った勢いで?)
激しく自己嫌悪。戸惑い、そんなはずはないと記憶を辿ろうにも思い出せない。誰だ酒を飲んだのは。私か。可能であれば昨夜酒に逃げた自分を殴りたい。過去改変のアーツ術者を至急求む。
枕に頭を埋めてどうしようもない無力感と虚無感と罪悪感に苛まれていたチェンだが、当事者であるドクターの姿が見えないことにふっと気づいた。いや、もしかしたら。万に一つでも可能性があるのならば、逆かもしれない。
酒で判断能力を奪い、酔った自分をドクターが襲ったのではないかという責任転嫁に少しだけ胸が痛むもののそうであってくれと願う。
シャワールームからの物音に、チェンは全裸で刀を見つけると素早く手にした。柄を浅く握り、いつでも抜刀できるように構える。だが現れた人物はドクターだった。シャワーを浴びてきたのか、まだ身体からは湯気が漂っている。
「……チェン、おはよう。といっても、もうそんな時間じゃないんだけれど」
「ドクター……待て、今何時だ──」
時計を確認する。時刻は既に折り返し目前、昼時に差し掛かろうとしていた。愕然とする。いくら休暇とはいえそんな自堕落的な生活を受け入れかけた自分に。それよりも今は事実確認をするべきだと迅速な判断を下す。
「ドクター! 単刀直入かつ率直に尋ねる! 正直に答えろ、さもなくば斬……いたた……」
「あまり大声を出さないほうがいい、ほら。水を飲んで」
自分の張り上げた声に頭痛が誘発され、頭を押さえるチェンにドクターは備え付けの冷蔵庫から飲料水を取り出すと差し出した。コップを受け取り、水を飲み干してから自分が裸であることを思い出し、一瞬の内に顔が沸騰する。
「み、見るな! 何を考えているんだ!?」
我ながらあまりに横暴なことを言っていると自覚しながら、チェンは真っ白いシーツで身体を隠した。そして見てしまった。ベッドに赤い染みとおねしょのような染みが出来ていることに。ついでに言えばゴミ箱に丸めたティッシュがいくつか重なっていることも。
「その……多分、君は酔っていたから覚えていないかもしれないけれど……その口ぶりだと、私が説明したほうがよさそうか?」
「あ、ああ……頼めるか……?」
「落ち着いて聞いてほしい。いいか、落ち着いて聞いてくれ」
「覚悟はできてる」
「……チェン。酔った君が迫ってきたことは事実だ。だがそれを退けられなかった私にも責任がある。つまり、その……私と君は、肉体関係を持ってしまった」
「──────」
チェンが凍った。突きつけられた現実を許容することが出来ず乾いた笑いを浮かべている。
「私が? キミを? 襲ったと?」
「……覚えていないだろうが、ベッドに押し倒してきたのは君からだ」
「そうか。わかった。──ドクター」
「なに?」
「私はどうしたらいい……」
泣き出しそうな顔をしている相手に対してドクターは深く息を吐き出し、天井を仰いだ。
「……とりあえず、何か服を着た方がいいと思う」
──とんだ有給休暇の幕開けとなってしまった、ドッソレスでの一日が始まる。