トランスポーター。それは、情報であれ、人物であれ、物資であれ、“荷物”を届けるための仕事だ。中には天災トランスポーターという、災害の予報士といったものもある。
その依頼もまた、様々なものだ。中には長距離に手紙を出したい、といった依頼も舞い込んでくる。そうした長期遠征の荷物を引き受けるトランスポーターもいるが、変わり者か、また或いはなにか事情を抱えた人物であることが多い。
それは、ペンギン急便所属のトランスポーター、モスティマも同様であり、彼女の場合はその両方と言えた。
今回、彼女が引き受けたのは小包を届ける依頼。それはロドスに所属することになっても変わらず続けていたトランスポーターとしての仕事だった。
――しかし、最近少しずつモスティマの胸中には違和感がある。その理由も原因もわからずに疑問符を浮かべたりもしたが、深くは考えたりしなかった。その必要がなかったからだ。
術師オペレーター、モスティマ。
ロドスにおける彼女の風評というのは、お世辞にもあまり良いとは言えない。
常に掴みどころのない笑みと態度。そして行動。それらから、彼女のことを不気味と言うオペレーターもいる。まるで会話をしているような気分になれない。そのせいか、特定のオペレーターを除いて彼女とコミュニケーションを取るという類稀なる数奇な趣味を持つ人物はいなかった。
ただ一人、記憶喪失のドクターを除いては。
指揮官という立ち位置からという義務感や職務とは関係なく、プライベート的な接触を自ら進んでとってきた。モスティマはそれを煩わしいとは思わなかったし、どのような思惑があってのことかも気にしなかった。好きにすればいい、とだけドクターには言っておいたのだ。
どのようなことであれ、自分の心が揺れ動くことはないのだから――そう、思っていた。
「――はい、じゃあ確かにお荷物はお届けしましたのでこちらにサインを。ええ、ではまた。ペンギン急便をご贔屓に」
業務的な挨拶を最後に、モスティマは依頼人の指示通り小包を配達先に届け終える。
源石エンジンのキャラバンの調子を確かめて、特に不調はないことを確認してからエンジンを始動させた。
届ける荷物がなんであれ、依頼に変わりない。
「……うーん」
ロドスを長時間離れていると、胸中が重く感じるようになったのはいつからだろう。そんなことを考えながらモスティマはのんびりとマイペースにキャラバンを走らせた。
その答えは、紐解けばなんでもないことだ。ただ単に、自分が人肌恋しいだけ。答えにたどり着けば、我ながらなんてことだと目を丸くして驚いてしまう。
まさか自分の中に、まだそんな感情が残っていただなんて。
「ふふ。さて、今回のドクターは私にどんなお土産を用意してくれているかな」
確か前回は手作りのプリンだった気がする。味を思い出せば、なんともいえない風味の決して美味しいとは言えない代物。なぜか少しだけ薬品のような風味がしたのを覚えているし、その感想を正直に言ったときのドクターの反応ときたら――思い出しているうちに、モスティマは自分でも知らずしらずのうちに口角を上げていた。
――ロドスアイランド号、執務室。指揮官であるドクターは、机に頬杖を付いたまま深い溜息をこぼす。
そこへ、カランド貿易社員のマッターホルンが貿易所の定時連絡の書類を持って訪問してきた。
「失礼します、ドクター。おや、なにやらお疲れのご様子ですが……」
「ああ、マッターホルン。ちょうどいいところに」
「こちら、今回の貿易所への取引依頼の書類となります。後ほど処理の方をお願いします」
「うん、ありがとう。確か君は料理が得意だったよね? 以前作ってもらった食事には女性オペレーター達も舌鼓を打っていたよ」
「恐れ入ります。自分の料理がそこまで評価されるとは、少しこそばゆいですね」
「うん、そこでひとつお願いがあるんだけれど……」
もちろん、それは業務とはなんら関係のない、あくまでもドクター個人のお願いだ。それにマッターホルンは頷き、快諾する。
「私にお菓子の作り方を教えてくれないだろうか?」
「お菓子ですか。確かドクターは以前厨房で経験していたのでは?」
「まぁ、うん。そうなんだけれども……」
その時は先生役のオペレーターがメモだけを残していたから、レシピを頼りに作ってみたものの――決して成功とは言えなかった。それでも相手は最後まで食べてくれたからよかったものの。
「なにか、こう。初心者にオススメで、アレンジしやすいお手軽な……入門者用のお菓子とかない?」
「そうですねぇ……やはりここは、手堅くクッキーなどは如何でしょうか。しかし、そういったものはお菓子とはいえ甘く見てはいけません」
マッターホルンの表情が少々険しくなる。カランド貿易、その故郷であるイェラグというのは過酷な寒冷区域だ。そこで育つ動植物の数々は決して多くない。そうした美食に恵まれない環境で培われたマッターホルンの料理に対する姿勢と経験は、ある種重装オペレーターの任務以上に厳しい目を持っている。
「アレンジがしやすい。お手軽、かつ初心者が手掛けるお菓子。その代表例と言っても差し支えないクッキーですが。それはつまり、既製品で溢れ、ありきたりという見方もできます。生半可な調理やアレンジでは目新しさがない。受け入れやすいというのはつまり、調理する当人の腕前が顕著に味を左右するのです」
例えば砂糖の量、厨房の気温、オーブンの温度、生地の練り。様々な環境を管理した上で完成に導かなければならない。その手間と工程を考えるだけでも気が重くなるが、更にそれで終わらないのが菓子作りの恐ろしさであり、奥深さでもある。
「味だけではなく、その見た目もアレンジの幅が広いことからクッキー作りというのは、学問における初歩であると同時に非常に難しいものなのです。それでもですか?」
「そこまでの気概を語られてしまうと、逆に挑戦してみたくもなるな。頼りになる先生も目の前にいることだし」
「ははは、それを言われてしまっては私も下手な真似はできませんね。ご安心ください、シルバーアッシュ様より貴方様のサポートも万全を期すようにと言いつけられていますので」
「そうと決まれば、時間を用意してもらえるだろうか?」
「ええ、かまいません。でしたら、ドクターにご用意していただきたいものが」
「聞こう。こちらもタダで手伝ってもらおうとは思っていない」
「実は最近、厨房のフリーザーが不調なようでして。これを機にロドスの食料事情について御一考の程を。可能であれば、新調していただければと」
「うん、たしかに。うちは優秀なエンジニアが揃っているからついついサポート外の修理に頼りがちだしね……新型調理器具の導入を検討しておくよ」
「ありがとうございます。それでは職務へ戻ります」
マッターホルンが会釈して執務室から出ようとしたが、思い出したように足を止めて振り向いた。
「差し出がましいようですが、ドクター。手作りクッキーは、意中の人へ?」
「うん? ううーん、まぁそれなりの量を作ってみんなに配ろうかなと」
「そうでしたか。無粋なことを聞いたようで」
「いやいや、かまわないよ」
ドクターはマッターホルンが退室してから書類を片付け、それからロドス艦内を歩いて見回りに行く。気晴らしも兼ねて、特にこれといった目的はない。ただケルシーからも小言を言われた――記憶を取り戻すためにも、知識を吸収するためにも書物と向き合うのは良いことだが、それでも君の身体の負担を考えると少しでも手を休めて身体を動かした方が効率的だ。
――モスティマがロドスへ戻ってきたのは、それから数日後のこと。源石エンジンのキャラバンをロドスの中継地点へ返却してから、ロドス職員に取り次いでもらって貨物と一緒にロドスアイランド号へと潜り込む。その手並みはまるで、自分が職員であるというよりももはや荷物に紛れ込んだ野良猫や野良犬の類。ふらりと戻ってきては長距離遠征任務へ就く。
結局モスティマが戻ったのは日が暮れてからのことだった。自分が戻ることは一言も報せていないし、戻ったところで誰も気にしないだろう。それくらいの風来坊が気楽でいい。
そして事実、モスティマが戻って来たことに対してさほどロドス職員達は反応を見せなかった。一部の医療オペレーターは声を掛けてきたが、定期検診の連絡事項だけ。何しろ惑星テラを渡り歩くだけでも危険がつきまとう。
それを少しだけモスティマは面倒だな、と思いながらも適当な相槌で追い払う。
モスティマが向かう先は真っ先にドクターの寝室だった。灯りを点けたまま、ドクターはソファーで仰向けに仮眠を取っていた。
寝室の空調を効かせたまま、机の上はごちゃついている。
「うーん」
おそらくこれは、仮眠しているのだろう。諸々の状況から察するに、自分は良いタイミングで帰ってきたようだ。
モスティマはドクターの寝室の灯りを消して、それから扉にも内部からロックを掛ける。
「……むにゃぁ……」
「よいせ、っと」
アーツユニットを下ろして、荷物を下ろして身軽になったところでモスティマは仰向けのドクターにそのまま跨った。
なんとなくやってみただけだが、相手は一向に起きる気配がない。
「うーん、起きないかぁ……」
せっかく人が期待に胸を膨らませて帰投したというのに。
身体を軽く揺さぶっても、ドクターの仮眠は深い暗闇の中に意識を落としてしまっている。
「待てよ。それなら……ふふっ、起きないドクターに少しイタズラしちゃおうかな」
サンクタらしくない、小悪魔な笑みを浮かべてモスティマは無防備なドクターの身体に指を這わせた。
こうして誰かに身体を重ねてみるというのは、今まで興味がわかなかった。他人を必要としたことなどなかったのだから。しかし、いざこうして好奇心で実践してみると、これは中々に気恥ずかしい。相手に意識があろうがなかろうが。柄にもなく、身体が火照る。顔が少し熱い。暖房のせいだと思いたいが、それ以上に心臓の鼓動が急かしてくる。
モスティマは鼻歌交じりにドクターのズボンを脱がしていた。ベルトを外し、ファスナーを下ろす。下着の下で盛り上がっているモノに触れて、その感触を確かめていた。
「ふむふむ……へぇ、意外と柔らかい。あ、固くなってきた」
血流を促していると徐々にソレが盛り上がっていく。手袋を外して、白く細い指で包みながらモスティマは形を覚えるように触れていると、ドクターが違和感を覚えたのか少し唸った。
「おや、起きた?」
「……ん~……」
「ありゃ。まだ駄目かー、まいっか」
モスティマは勃起したモノに顔を近づけると、少しだけ鼻を鳴らして匂いを嗅いでみる。
なんとも言えない匂いに眉を寄せつつも、青い舌を出してアイスクリームの一口目のように舌で舐め上げた。
「んー、美味しいかなと思ったけどそうでもないかな……」
そもそも口に入れるようなモノでもない。しかし、味だけでなくドクターの反応はというと、まるで水でも浴びせかけられたかのように身体を震わせた。
人体の急所、特に男性であれば不意に触れられて驚くのは当たり前の場所。それが今無防備に晒されて口に咥えられていると知ったら、このドクターはどんな顔をするのだろう。
それもまた、興味本位の好奇心。モスティマは口を開けて頬いっぱいにドクターの熱いモノを咥えこんだ。
最初こそ先端だけを口に含めていたが、どこまで届くかと飲み込んでいくと根本までは流石に飲み込めなかった。流石に苦しくなってモスティマも口を離す。
「ん、ふぅ……はぁ、思ったより大きいね……」
自分の手でサイズを確かめて、それから自分の下腹部に手を当てる。小首を傾げた。
「……本当に入るのかな?」
それは挿入してみればわかることだ、モスティマが再び口を開けて先端から頬張ろうとしたその時、ドクターが下半身の違和感にようやく意識を取り戻す。
「…………へ?」
「あ、おひゃほう、ドクター」
「ほぉうっ……!? モ、モスティマ……!? なにして……!?」
「ん~……? ぷはっ。なにって、味見かな?」
「なん……」
「あんまり美味しくないけど、寝てるドクターの反応が面白くって。起きなかったらどうなっちゃってただろうね」
クスクスと薄ら笑いを浮かべるモスティマは、意識の覚醒したドクターのモノに更に血液が集中するのを手に感じていた。その大きさに思わず吐息をこぼす。
「驚いた。ドクターがこんな怖いものを持ってたなんて」
「いや、そんなことより……戻ってきたなら」
「あ、そうだ。ドクター、ただいま。早速で悪いんだけどセックスしない?」
「なんで?」
「いいじゃないか、そういう細かいことは。私がしてみたい気分なんだから。どうする? 私は――このままやめてもいいけどなぁ?」
ドクターの混乱する意識とは裏腹に、モスティマの手の中にあるモノは天を衝く勢いで反り返っていた。身体は正直、すっかりやる気満々だ。ドクターも思わず生唾を飲み込む。
「――そこまで言うなら、してみようか?」
「おっけー♪ 初めてだから、お手柔らかにね、ドクター。ところでこのあとってどうしたらいいのかな? 面白そうだから触ってたんだけど」
「ちゃんと教えるのでまずは手を離してくれないだろうか……」
「痛かった?」
「……とても気持ちよかったです」
「ならよかった」
相変わらず、心の奥底の読めない笑みを浮かべたまま、モスティマは手を離した。
……ドクターは、ふと思う。モスティマの先程の発言についてだ。
これからセックスをしようというのに、行為の中身を理解していないような口ぶりのモスティマは果たして本当にそうなのだろうか? 箱入り娘というわけではないし、むしろその逆。自由奔放、何者にも囚われない天衣無縫の極み。
淀みない動きでコートを脱ぎ、シャツを捲れば華奢な腰回りが顕になる。食生活に不安を抱くような肉付きだが、決して不健康ではなくむしろ研ぎ澄まされた女体の彫像だ。
「モスティマ。ちゃんと食べてる?」
「うん……? もちろん、美味しいものは食べてきたけど?」
ブーツを脱いで、ショートパンツに手をかけたところでドクターの視線に気づいたのかモスティマが唇を尖らせる。
「ドクター。女の子が脱いでいるところをジッと見つめるのはどうかと思うよ?」
「恥ずかしい?」
「……恥ずかしい、のかな? 私もわからないや」
そのままショートパンツも脱ぎ下ろすと、下着一枚でドクターの前に立つ。自分の胸に手を当てて、持ち上げてみせた。
「ドクターは大きいほうが好みだったかな」
「……まぁ、正直なところ」
「そっか。ご期待に添えなくてごめんね」
「気に病まないでくれ」
「そーするよ」
するりと指を肌と下着の間に滑り込ませると、モスティマは下着をすべて脱いで素肌を見せる。
一糸まとわぬ女体を見せつけるようにしながら顔を覗き込んでくる。いつもの微笑みを浮かべたまま、青い瞳の奥深くにある感情を読み取れなかった。彼女を不気味がるオペレーターがいる理由がそれだ。
手を伸ばし、頬に触れる。そのまま手のひらで揉むように顔を撫でていると、モスティマの口から笑みがこぼれた。
「んー、ふふ……くすぐったいよ、ドクター」
「モスティマ。さっきの続きをしてくれないか」
「さっきの? というと、咥えてほしいの?」
「うん」
「いいよ」
大きく口を開けて吐息を吹きかけながら口いっぱいにモノを頬張る。裏側を包むように舌で覆いながらゆっくりと喉の奥まで咥えていく。
「ん~……」
垂れ下がる髪を手で押さえて、ドクターの顔色を窺うように上目遣いでじっと見つめていた。その様子を見つめ返していると、なんとも言えない官能的な気分に襲われる。
「……ん? どうしたの、ドクター」
「いや……モスティマがこんなことをしてくれるなんて思ってなかったから……」
「私だってそういう日もあるよ。はぷっ……!」
皮を剥いて、敏感な亀頭の裏側をじっくりと責める舌遣いにドクターが背中を震わせた。熱く震えるモノから溢れるカウパーをモスティマは味わうように吸い取る。口の中で反芻して味を確かめていると、わずかに眉を寄せた。
「ぅーん、美味しくはないかな。変わった味がするね」
「無理に飲まなくてもいい」
「別に嫌いじゃないよ。じゃあ、続けるね」
「モスティマ。口だけじゃなくて、手も使ってくれるか?」
「ドクターは注文が多いねぇ」
少し不満そうにしながらも、言われた通りにモスティマが手を上下に動かし始める。力を入れすぎず、それでいて弱すぎない力加減。更に細い指が絡みつくようにドクターのモノを這う。さながら蛇に呑まれるような感覚に腰が震えた。
「ビクビクしてるね。これ、どうしてほしい?」
「……モスティマの好きにしてくれ」
「いいの?」
「私のわがままばかりじゃ悪いからな」
モスティマはその言葉に「ふ~~~ん?」と、意味深な笑みを浮かべる。
「ならお言葉に甘えて――好きに使わせてもらおっかな」
ソファに浅く腰掛けたままのドクターにしがみつくと、そのまま秘部を押し付けてきた。暗くてよく顔が見えないが、どこか熱に浮かされたように紅潮している。そして、陰茎になにか熱を感じた。
腰を押しつけてきたモスティマがやんわりとこすりつけ始める。ほのかに熱を帯びた秘部から伝わる湿っぽさと柔らかさにドクターが生唾を飲み込んだ。
「ふふ、なんかこれエッチなことしてるって気分になるね」
「これは……モスティマのが擦れて、気持ちいいな……」
「ドクターのも熱くなってる」
「……モスティマの、触ってみてもいい?」
「痛くしない? ならいいよ」
「なら、お言葉に甘えて……」
手を伸ばして、指先に触れる陰毛の感触にドクターは少しばかり驚く。
「モスティマ、生えてたんだ」
「? なにを言っているのさ、ドクター。子供じゃないんだから当然でしょ。剃っておけばよかったかな」
「いや。モスティマらしいと思う」
モスティマの性格から診断するに、おそらく手入れはしていないだろう。しかし、それでも整えられたように薄っすらと生えたサラサラの青い陰毛は心地よい手触りで癖になる。ドクターが指先でモスティマの陰毛を梳く。指でかきわけ、陰唇をなぞる。
「ドクター、くすぐったい――」
手のひらで秘部を包むと、ドクターは優しく小刻みに撫でた。少しずつだが、モスティマの秘部から熱い液体が漏れてくる。
空いている片手で目の前にある控えめな胸を掴む。大きさこそ目立たないものの形とハリの良さは目に見えて整っていることがわかった。手に収まる程よい大きさの胸は指の動きに合わせて形を変える。
「んっ……どうして男の人ってみんな胸が好きなんだろうね?」
「なんでだろうな……こう、惹かれるものがあるんだ」
モスティマの疑問に、ドクターも小首を傾げた。出来る限り加減して、はやる鼓動と衝動を堪えながら愛撫を続ける。
最初こそ怪訝そうな顔をしながらされるがままだったが、溢れてくる愛液は止めどなくドクターの手を濡らしていく。その分泌される量も心なしか増えてきていたことから、指を挿入する。
中指を立てて膣口を広げるように押し開けると、すぐに濡れた肉壁に覆われた。その未体験の感覚にモスティマが思わず腰を浮かせる。
「っ……、これは……ちょっと、びっくりするね」
「動かしても大丈夫?」
「多分――んッ……!」
浅瀬を探るように指で弄ると、身体を震わせた。指の隙間から愛液が伝ってくる。
モスティマの口からしきりに吐息がこぼれ、それは息を整えるよりも身体の内側から発せられる熱を吐き出しているようにも思えた。ただ、その感覚に慣れていないのか少し困惑した表情を見せている。いつも貼りつけた笑みを浮かべ、飄々と掴みどころのないあのモスティマが目の前で雌の顔を見せているというだけでもドクターの陰茎は漲っていた。
知らず知らずのうちに指の動きを早めていたのか、気がついた時には溢れた愛液は手からこぼれ落ちてソファーに染み出している。それを見たモスティマが顔にかかる髪をかきあげながら、赤い顔でささやく。
「汚しちゃったね……怒られちゃうよ、ドクター?」
「……なら、ベッドで続きをしよう」
「ドクターにいじられて、身体が熱くなっちゃった。あ、そうだ……」
火照った肢体を隠そうともせず、モスティマがベッドに腰を下ろすと、そこで思い出したように口を開いた。
「私、戻ってきてからシャワー浴びてなかったや。あとで借りるね」
「ああ……」
「じゃあ――続き、始めよっか? ドクターは……ふふ、もうやる気満々みたいだし」
誰のせいだと思っているのか。お預けを食らった陰茎は怒張し、反り返って天井を睨んでいる。まるで自分の収まる場所を探しているように。
ドクターはモスティマの肩に手を置いて押し倒そうとして、ふと目に付いた天使の輪と背中の羽根に気を配る。
このまま仰向けに倒した場合、背中の羽は邪魔にならないだろうか? もしそれで寝違えたりしたら申し訳が立たない。ドクターがしばし逡巡し、モスティマの隣に腰を下ろすと再度、自分の上に跨るように促した。
「モスティマが動いてくれ」
「ドクターはリードされたい方なんだ」
「そういうわけでは……あるかもしれない」
何が面白いのか。クスクスと口元を手で隠しながらモスティマが耳元で優しい声色で囁く。
「いいよ。私が気持ちよくしてあげるね、ドクター……♪」
その声は蠱惑的で、官能的な響きで鼓膜から脳まで蕩けるような甘さでドクターの背を期待で震わせた。
モスティマの指が興奮して止まない陰茎を擦る。根本から先端に向けて裏筋をなぞられるだけでもたまらないというのに、静かな室内で相手の息遣いまでもが鼓膜から脳を優しく揺らす。理性が削られていくのを感じながら、ドクターはシーツを掴んで欲望の獣を抑えた。
亀頭と膣口がキスをすると愛液を塗りたくられて濡れていく。
「ちゃんと準備しないと痛いんだっけ? どれくらいやればいいのか、知ってるドクター?」
「い、いや……私も経験がないものだから……」
知識としては確かにあるが、身に覚えがない。なんなら危うく寝ている間に貞操を奪われそうになったばかりだ。
「ふ~ん……」
なにか思いついたのか、モスティマが口を閉じてモゴモゴと飴を舐めるように舌を転がすと、手のひらに唾液を垂らした。その濡れた手でドクターの陰茎を掴むと、再び愛液を塗りたくる。溢れてドクターの太ももに熱い一筋が描かれた。
「ちょっと汚いかもしれないけど、我慢してね」
「これ以上我慢させられると私はどうかしてしまうかもしれない……」
「しょうがないなぁ。ちょっとくらいなら、んッ……私も痛いの、我慢してあげるよ。挿れるね、ドクター……!」
ぐっと、熱く柔らかい感触が強く感じられる。まるで飲み込まれるように、ドクターの陰茎はモスティマの膣へと咥えられていった。
静かな室内に響く濡れた肉の擦れる音。モスティマの少し荒い息遣い。どこか甘く、わずかに汗の混じった匂いが頭をクラクラと酩酊させる。
「んっ、んー……! ……これ、ちゃんと入ってるよね? どうかな、ドクター」
「あ、ああ……! モスティマと、ちゃんと繋がってる……」
「どれどれ? うん、確かに。ドクターに私の処女奪われちゃった。……これ、もうちょっと奥までいける、かな――!」
結合部を一度確認してから、モスティマが腰を浮かせてからゆっくりと息を整えながら更に深く陰茎を咥えていく。背中を疼かせ、身震いしながらゆっくりと飲み込んでいくと動きを止めて自分の下腹部を撫でる。外側から押し込まれる肉の感触に思わずドクターの口から声が漏れた。
「んぅ……、だいたい、この辺りまで入ってるのかな。ドクターの大きくて入り切らないや……」
「う、ぅ……! モスティマの中、キツくて熱い……!」
「気持ちいい? はぁ、ん……私はお腹が熱くて、ちょっと苦しいんだけど――でも、これは……うん、悪くないね。ドキドキしてるよ」
モスティマは素直な感想を述べる。
「ねぇ、ドクター。手、繋いでもいいかな?」
「かまわない」
「ありがと」
手を伸ばして、指を絡めて繋ぐ。離れないようにしっかりと組み合わせて握るとモスティマが微笑んだ。それはいつもの軽薄な貼りつけたような笑みではなく、心の底から湧き上がる感情表現。
何かを言いかけて、ドクターの意識は急に動き出した腰の動きに向けられて言葉が続かなくなった。腰を浮かせてから、再び打ちつける少しぎこちない動作にモスティマが眉を寄せながらも笑みを崩さない。
「コレ、結構――大変かもね。はぁ、はっ……! いい運動になるよ」
「おぁ……! モスティマ、ちょっと動き、優しく……!」
ベッドが二人分の体重でギシギシと軋む。
上下するモスティマは楽しそうに笑いながら腰を振っていた。堕天使の羽と輪のせいでそれはまるで淫魔のようだとドクターは思ってしまう。しかしながら、陰茎をしっかりと掴んで離さない肉壷の凹凸は最も敏感な場所を頻繁に擦り上げては射精を促してくる。根本に溜まっていく熱を吐き出さないようにドクターはこらえるのでやっとの思いだというのに、モスティマはそれを面白がって腰の動きに緩急をつけ始めた。
「ふぅ……ふぅ、はぁ……ちょっと休憩するね」
「ッ……、モスティマ、ちょ……!」
「ん~~? どうかしたのドクター?」
ぐりっ、ぐりっ――♡
上下だけでなく、左右に腰をよがらせて動きに変化を与えるとゆっくりと腰を引いていく。そのゆったりとした動きとは裏腹に、まるで吸い上げられるように陰茎からはカウパーが愛液と混ざり合って鈴口から溢れる。
熱く濡れた結合部は腰の動きに合わせていやらしい音を立てて快楽を波のように与え、ドクターがあまりの快感に腰を跳ねさせた。
不意に突き上げられる形となって、モスティマの口から甘ったるく高い声が出る。
「ぁ、んぅッ! ……あの、ドクター今のは……ちがくて」
「モスティマ……そろそろ私も、射精しそうなんだ……!」
「私の中に出したいなら、好きにしていいよ。あとでシャワー浴びるから」
火照った身体は汗ばみ、まるでカイロのように触れ合った肌が熱い。それ以上に繋がった秘部から伝わる熱がドクターの脳から思考能力を奪っていく。もはや理性も限界を迎え、本能の赴くままに突き上げ始めた。
「ド、ドクター! 急にそんな、激しく突いたりしちゃ……! んんっ! もう、しょうがないなぁ……!」
「うっ……くぅ! モスティマ――! あ、ヤバい出る……! めっちゃ濃いの出る――!」
「そんなに濃いの出されたら、私も妊娠しちゃうのかな? んっ、あっ……♡」
モスティマの膣で溢れ出すドクターの精子が子宮口から注がれる。
「う、うぅッ……モスティマ、まだ出る……!!」
「えぇ? まだ私のこと犯し足りないの、ドクター。溜めすぎだよ」
子宮に激しく吐き出される精液に、まだ射精で暴れる陰茎の振動を膣で感じながらモスティマは初めての性行為に確かな手応えを感じていた。
握っていた手を離し、下腹部を撫でる。
子宮だけでなく、胸を満たす多幸感。確かに疲労と苦労もあるが、それすらもむしろ快感に思えてならない。溜め込んでいた精液を吐き出したのか、ドクターが身体を投げ出す。
結合部から溢れる白濁液を見つめて、それを指で掬ったモスティマが匂いと粘ついた感触を確かめる。
「うわぁ。くさいね、精液って……一応味見だけしておこ……ん、ちゅ……んぅ……? ん~、苦味もあるし、なんかちょっと、薬臭い……? 私の食生活なんかより、ドクターは自分の食事を見直した方がいいんじゃ――」
息を荒げていたドクターからの反応がないことに眉を寄せると、どうやら激務の後からのセックスは体力の消耗があまりに激しかったようだ。そのまま気絶するように寝てしまっている。
腰をゆっくりと引き上げて、陰茎を抜くと力が抜けてへたり込みそうになった。意識はともかく身体はしっかりと快楽を素直に受け入れているらしい。モスティマは重く感じる下腹部にしっかりと力を入れながらベッドから降りてドクターの寝室にあるシャワールームへ向かった。
シャワーヘッドから流れる熱湯を頭から浴びながらモスティマは全身の汗を洗い落とす。身体を洗って、脱衣場に出てふと気づく。替えの下着をどうしようかと。
「うーん……これは困った。ま、いっか」
別に誰かに見られるわけでもない。そこまで気にしたことはなかったが、気を抜くと太ももから伝うドクターの子種はいかんともしがたい。モスティマはティッシュでそれを丹念に拭き取るとゴミ箱に捨てた。
そこで、不意に執務机に小さな包みが無造作に置かれていることに気づく。ご丁寧にメッセージカードまで添えて。気になって手にすると、目を丸くした。
――翌朝。ドクターが目を覚ますとそこにはすでにモスティマの姿はなく、自分が下半身を丸出しにしたまま眠りこけていたことに気づく。
慌ててシャワーを浴びてから着替えて部屋に戻ると、無造作に床に落ちているモスティマの下着が目に入った。誰かが来る前に片付けおかねばという一心でドクターが拾い上げた瞬間、寝室のドアがノックされて心臓が止まる思いをした。
「入るぞ、ドクター」
問答無用で入室してきたのは医療部門最高責任者ケルシーだった。咄嗟にポケットにモスティマのパンツを突っ込んで何事もないように振る舞う。
「なにか用でも?」
「……昨夜。ロドスへ運ばれてきた物資に紛れてモスティマが帰還していたことについてドクターは知っていたか?」
「まぁ」
「帰投時刻が遅かったこともあり、定期検診を翌朝に予定していたがロドス艦内に彼女の姿が見当たらないことで医療オペレーターの一部が仕事を滞らせていてな。ドクター、彼女を知らないだろうか」
「生憎と」
素直に首を横に振るドクターをケルシーがしばし観察し、それから小さく頷いた。
「ならば、彼女の健診は中止ということにしておこう。邪魔をした」
踵を返して去ろうとしたケルシーの足が止まり、振り返る。
「ドクター。君がオペレーターのいずれと関係を持つことについて私は言及しない。だが、夜遊びと火遊びは程々にしておいた方がいい。今の君はいい大人であり、同時にロドスになくてはならない存在だ。痴情のもつれについては私としても君の身の安全は保障しかねる。何故ならそれは突発的で衝動的なものであり、不確定要素が密接に絡み合う、いわば事故のようなものだからだ。以上のことから、もしも君が性的な欲求不満を慢性的に抱えているというのであれば、私が相手を務めよう。勘違いをしないでもらいたいが、あくまでも性欲処理という業務としてだ」
「…………え?」
「証拠を隠すつもりならば、ゴミ箱の中身と汚れたソファに不自然に濡れたシーツくらいは交換しておくべきだったな」
どうやらケルシーにはすべてお見通しだったようだ。ドクターは膝から崩れ落ちる。
「ところで、ケルシー。今の言葉は一体どういう……?」
「言葉通りの意味だ。無論、君が拒否しなければだが。他のオペレーターに手配するというわけにもいくまい。君が自発的に非生産的な自慰行為に耽るというのなら、それについて私から意見すべきことはない。望むなら協力すると言っている」
「……あー……うん。ありがとう、ケルシー。その時がきたら、頼むかもしれない」
「私の身体は君が思っている以上に頑丈だ。多少手荒な真似をされても業務に支障をきたさない。私は業務に戻る」
足早に去っていく様子を見るに、どうやらケルシー達医療オペレーター達は朝から多忙なようだ。ドクターはずっとポケットの中で握っていたモスティマのパンツを取り出して広げる。それをまじまじと見つめて、どう処分すべきか頭を悩ませた。
色気のない、なんの変哲もない白い下着にはまだ温もりが残っているような気がした。
「……変態か私は」
ひとまず誰の手にも届かない場所に隠すことにして――そこでドクターは、執務机の上に置いていた包みがなくなっていることに気づく。
そして、メモ用紙にはモスティマからの感謝のメッセージが残されていた。
――クッキーごちそうさま。前のプリンよりは美味しかったよ。採点、60点。次を楽しみにしてるね。モスティマより。
「……手厳しい」
思ったよりも辛口な評価点と、ちゃんと気づいて持っていってくれたことにドクターは安堵して本日の業務へと取り掛かった。