書類の山に埋もれるドクターが一人、天井のシミを数えていた。
終わらない。あまりにも終わらなさすぎる。どういうことだい社長様アーミヤ様、この業務の束と量は。あんまりにもあんまりじゃあありませんかケルシー先生。おー大惨事、私の机に置き場が無いの。
ドクターは本日三度目の理性回復剤に手を伸ばしそうになり、ちょうどそのタイミングで入室してきたワルファリンにどえらい勢いで怒られた。一日一本までと言ったじゃろうが! なんて言われても仕方ない。それなら仕事は一日六時間にしてくれ、と抗議したところ「ぐぬぬ」と押し黙ってしまった。
朝七時より開始した本日の業務の終了時刻、深夜一時。
ドクターは今朝食べた食事の内容すら記憶の忘却の彼方へと投げ捨てた。書類仕事自体は問題ないが、事務作業も体力勝負だ。そしてドクターに体力は無い。人並みには無い。他が強靭すぎるのだ。キミのことだぞアビサルハンター。
あまりにもキツイ業務内容に、ランナーズハイとなって昂ぶってしまった神経が寝静まることを拒み、仕方なくドクターは深夜のロドスアイランド号を徘徊することにした。ケルシー辺りに見つかれば間違いなく小言を言われるだろうが、寝れないものは仕方ない。
「……ん?」
静かな廊下に、足音が耳に入った。靴の音ではない、裸足……というよりは、なにか奇妙な足音だった。
ぺたぺた、ぺたぺた。まるで丸いハンコでも押しているような、音質がモッチリしている。
音の根源を辿ってみると、そこには一匹のクヒツムがいた。道に迷っているのか、それとも夜行性なのか、はたまた好奇心なのか。無防備に艦内を歩いているずんぐり丸いペンギンのような生き物を捕らえる。
「シーのところから逃げ出してきたのか?」
『……?』
シー。ニェンの妹。リィンの妹でもあり、絵描きでもある。ロドスにおいては術師オペレーターとして登録されているが他人とのコミュニケーションを拒んでいる。ようは引きこもりだ。
炎国の伝統絵画に長けており、ドクターも一枚見せてもらったことがある。馴染みのあまりない文化ではあったが、一言で言えば圧巻に尽きる。
そして何よりも彼女の筆は「生きている」のだ。このクヒツムだってそうだ。テカテカとなめらかな身体がロドス艦内の照明によって反射している、それでいて手触りはひんやりとしており、抱きしめた感触は低反発。枕にしたらとても寝心地が良さそうではあるがその前に食われそうだ。
(そういえば、彼女が着任して間もない頃はよく話してたが……最近は顔を見ていないな)
ニェンが連れてきた、ということからどんな問題児かと思えば、案外おとなしい娘だった。その上、妹というのだから驚いたものだが今となっては慣れたもので。
『私に関わらないで』
『なに? 私の絵になにか不満でもあるの? 私が一番不満なのに』
『画家を戦場に連れ出すなんてどういう神経なのかしら。地獄絵図でも描いてほしいわけ?』
『そこにあるやつなら一枚あげるわ。持っていってちょうだい、それでできれば此処には来ないで』
思い返してみれば、結構なお節介だったような気がする。足繁く通っていたものだが、それを見てニェンがなにか含み笑いをしていたものだから微妙に居心地が悪かったのを思い出した。
(たまには会いに行ってあげよう)
『…………』
じっとこちらを見つめてくるクヒツムとにらめっこしながら、ドクターはシーの下へと向かう。いやキミの目玉どこよ。
ロドス艦内の通路工事は一部放置されている。問題ではあるが、それ以上に災難が舞い込んでくるものだから放置されるのも仕方ないしエンジニアは他に駆り出されてるので無理難題。その中でも放置されて長らく久しい人通りの滅多にない艦内の通路に、彼女。炎国の画家、シーの部屋はあった。これを部屋、と呼んでいいものなのかどうかすら危ぶまれるのだが、彼女が選んだ場所なのだからこちらとしては文句のつけようがない。困る。
深夜に会いに来るなんてデリカシーのない行為はしたくなかったし、彼女が寝ていたらそのまま踵を返して戻ろうと思っていた。しかし、意外なことに彼女は起きていたし、そのうえ珍しく筆を休めて廊下の窓から外の景色を眺めている。見渡す限りの荒野、遠くには天災の猛威。惑星テラの過酷な環境と現実が硝子一枚を隔てて現実味を切り離していた。
「シー、こんばんは」
「……あら、ドクター。てっきり私のことなんて忘れ去られてるのかと思ったわ」
「此処しばらくは本当に忙しくてね。君の顔を見に来る余裕がなかった」
ここらで嫌味のひとつ、皮肉じみた言葉でも来るだろうと踏んでいたがドクターの予想は外れる。これまた意外なことに「そ、」とだけ小さく相槌を打っていた。
「その子、どうしたの?」
「艦内を彷徨っていたから連れてきたんだ」
「ありがと。一匹足りないと思ってたのよ」
「そう思うなら探しに来てくれたらよかったのに」
「ごめんなさいね、私も忙しかったの」
──なお、シーは職についていない。ニェンもそうだ。
クヒツムはドクターの手元を離れ、すぐに飼い主(?)のもとへ駆け寄ると頭を撫でられて身体を震わせていた。多分、気持ちいいのだろう。
そんなシーの手を見れば、ニェンとはまた別な色合いを見せている。青い肌。鱗のような光沢。顔を見ても、頭部には一対の龍角が生えていた。
「人の顔を観察して、何なのよ。似顔絵でも書くつもり? 筆と紙なら自分で用意しなさいな」
「ああ、いや……久しぶりに顔を見たけれど、変わりないようで安心した」
「それはそうでしょ、あなた達とは時間の感じ方が違うんだから──」
「だけどそれでも、同じ場所で過ごす“仲間”だと私は思っているよ。気にかけるのはおかしな事だろうか?」
「……今まで放っておいたくせに」
「……本当に忙しいんだ、最近は」
重く、深く、徒労を滲ませたため息をつくドクターにシーが眉を寄せる。
「そんなに大変?」
「こんなにも苦労しているのに終わらないんだ……」
なんだったら今日の業務だってキリよく提出して残りは明日に持ち越した。明日は明日で追加の業務が飛んでくる。書類のイタチごっこに終りが見えない。気が滅入るのも無理のない話だ。
「ふぅん……」
興味なさそうに相槌を打ちながら、シーは自分の部屋に散らかしっぱなしの絵巻を漁り始める。これでは部屋というよりは倉庫さながら。
「そこまで言うなら、いい物があるけど。試してみる?」
「どんなの?」
「私は試すかどうか聞いてるの。内容はどうでもいいでしょ」
「そこまで言うなら試してみようかな」
「じゃあ入って。早く、さっさとして。時間がもったいないでしょ」
「あっはい」
急かすようにシーに背中を押されてドクターは一枚の風景画の中に吸い込まれて消えた。
その姿を見てから、薄く微笑む歳獣があとに続く。
──画中人。ラヴァ、クルース、ウユウ、サガらオペレーター達が遭遇し、シーが引き起こした絵画事件とも言うべき報告書に目を通したドクターがこうして絵の中の世界に入るというのは初めての経験だった。今回は小規模、というよりも一軒の家屋の内部が事細かく描かれていたことから内部の様子は察するに余りある。
炎国の伝統家屋と言うべきか、半ば書斎じみた木造の家屋。壁一面に積み上げられた巻物。囲炉裏に衝立、その裏側には寝具。ドクターが屋内を見て回り、外の景色に目を向けてみる。
そびえたつ霊峰。霧深い山中の一軒家。人里を離れた仙境の住まいに、ドクターはしばし目を奪われていた。確かに此処は現実味があまりにも感じられない。自我が曖昧になりそうになるが、これをサガは克服したというのだから流石、仏門の出と言わざるを得ない。
「気に入ってくれた?」
「此処は?」
「隠れ家よ。書斎みたいなものね。此処だと外と時間の流れが少し違うから、安心して眠りなさいな」
「具体的にどれくらい?」
「……こっちの一年が、外の一時間ってところかしら」
そうなると──深夜一時、次の業務開始時刻まで六時間。言葉通りに換算すれば此処では六年間の余暇が味わえる、ということになる。
「此処なら誰の邪魔も入らないし、外の世界の煩わしさも無いわ。鉱石病だの仕事だの何だのたまには忘れてみたら? ま、見ての通りこの家しか描いてないし。つまりは私と二人きりよ。嬉しいでしょ」
「それは……、うん。嬉しいかな」
ドクターの言葉に、意地悪い笑みを浮かべていたシーが面食らった顔をしていた。目を丸くしている。冗談のつもりだったのだろうが、素直な感想が返ってきて驚いたのだろう。
「君と交流できる時間は貴重だからね」
「……、そ」
食事の不安を尋ねると、そこも問題ないらしい。少なくとも餓えてしまうようなことはない。
ドクターが早速横になろうとすると「先に身体を清めてきたらどうなの?」と真正面から薄汚いと言われたので泣く泣く風呂場へ向かった。
普段はシャワーだけ浴びてベッド・イン、というのだが。時間の余裕があるのでドクターは炎国の風呂に肩まで浸かってみる。
いわゆる、露天風呂。外の景観を一望できる開放感に戸惑いながらも、身体を石鹸で洗う。すると、脱衣所の方から衣の擦れる音が聞こえてきた。それからまもなくして戸が開けられ、まさかと振り返ればシーが一糸まとわぬ姿で手ぬぐいを持って立っている。
「なによ、私の絵画の中なのよ? 私が好きにしてたらおかしいかしら」
「いや、なにもおかしくないけど」
「だったらこっち見ないで」
綺麗な艶のある黒髪を手でかきあげながらシーは恥ずかしがる様子もなくドクターの隣に座ると、自分も身体を洗い始めた。タオルで裸を隠そうともしない威風堂々たる佇まいにはこちらが先に参ってしまう。
極力意識しないように顔を背けていると、シーの尻尾がドクターの背中を叩いた。
「いったい!」
「あら、ごめんなさいね。普段から独り身なもので」
「……わざとやったでしょ」
「そんなことないわよ。お詫びに背中を流してあげる」
「絶対わざとだ……」
泡立てた手ぬぐいで背中を流し始めるシーの手つきは、どこか不慣れそうだった。痛くはない、だがもう少し力を入れてくれてもいい。たどたどしさの裏には、力加減がわからない様子が感じ取れる。
「シー、もうちょっと強くしてもいいよ」
「あ、そ。これくらいでいいのかしら」
「うん、その調子」
無言で背中を流してもらったドクターを、これまた無言で見つめる。怪訝そうな表情をしていると、シーが手ぬぐいを渡してくるなり髪をかき上げて前に垂らして背中を見せてきた。
「えっと?」
「なにしてるの、次は貴方が背中を流す番でしょ? ただでしてあげると思ってたのかしら」
「いいの?」
「いいから早くして」
「ではちょっと失礼して……」
長い尻尾も足元で円を描くようにして休ませている。ドクターが念入りに泡立てた手ぬぐいでシーの背中に触れた瞬間。
「ん、」
小さな声に思わず固まる。透き通るような白い肌を撫でるように流していく。
背中を見ているだけでも華奢な身体だとわかる。黒髪と白い肌のコントラストがまた美しい。どうしたって目を惹かれてしまう。尾骶骨に当たる部位からは竜の尻尾が伸びている。炎のような尾ひれは浅葱色をしており、つい目で揺れている様を追ってしまう。
「……ちょっと、手が止まってるわよ」
「あ、ああ……すまない。尻尾が気になって」
「面白いものでもないでしょうに」
「痒いところはない? 力加減も大丈夫だろうか」
「くすぐったいくらいよ。本当に力入れてる?」
貧弱な上司ですまないと思いつつ、ドクターは気持ち強めにシーの背中を流していく。
お互いに身体を清めたところで湯船に浸かると、何故か広い湯船だというのに隣にシーがピッタリとくっついてきた。
「湯加減はどう?」
「……とても心地が良いよ」
「そう。でしょうね、私が用意したんだもの」
「別荘と言うにはあまりに贅沢すぎるくらいだ」
「あら。それなら次からはもっと貧相にしておこうかしら。あばら家みたいな方が好みならね」
「それは勘弁してくれ……」
人気も無ければ生き物の気配もない、静かな山荘。二人きりという状況にドクターが少しずつ理解が追いついてくる。
この、まるで現実味の無い空間と感覚ではあるが。これはつまるところ「密会」のような状況ではないだろうか? 或いは夜這いとも言うのではないだろうか?
「? どうしたの、急に青い顔をして」
「いや。その……男と女が一つ屋根の下に居座るというのは、問題な気がしてきた」
「それを言ったら貴方達の船なんて老若男女がひしめき合う船じゃない。自分の理性と獣性を開放するなら此処だけにしときなさいな、ドクター」
「…………、シー。それは、その……君を襲ってもいいという風に聞こえるのだが?」
「襲っていいなんて一言も言ってないわよ、けだもの。合意の上でなら、考えてあげてもいいけど」
シーの横顔を見れば、視線がぶつかってしまって気まずそうに慌ててそっぽを向いている。しかし、横長の耳は先端まで真っ赤になっていた。それが身体の火照りだけでないことくらいはわかる。なんともいえない空気のまま、ドクターは固唾を飲み込む。その音が思った以上に響き、シーが尻尾でドクターの顔を叩いた。ぺちぃん。
──誰も居ない世界。二人きりの場所。開放感のある、架空の世界。野外でどんな行為に及んだとしても、それはこの場にいる二人だけの秘密。
「……確かに合意はしたけれど、貴方こんな変態だったの?」
シーはドクターからの誘いに渋々承諾した。だが、その口から次に出てきた言葉に耳を疑ったものの、合意した手前撤回するのも癪だ。
景観を損なわない程度に建てられていた壁に手をついたシーがお尻を突き出している。秘部を隠そうと尻尾を垂らしているものの、ドクターの関心はむしろそっち。尾の付け根の方に在った。
「へぇ、こうなっていたんだ」
「ちょっと、聞いてるの?」
「聞こえてるよ。こんな機会でもないと君にこんなことさせられないからね。触ってみていい?」
「……どうぞ、この変態──んゃっ!」
腰を跳ねさせて、シーが声を上げる。だが、ドクターの手つきはあくまでも優しい。フェザータッチで指先がギリギリ触れるかどうかの瀬戸際を攻める。滑らかな鱗の流れに沿って撫でていき、ヒレも傷つけないように指先で軽く触れるだけに留めていた。
口ではネチネチと嫌味を言いつつも抵抗はせずにおとなしく受け入れている。時折腰を浮かせて驚くたびに尻尾で隠された秘部が見えそうになっていた。
尻尾の付け根。人肌との境目を撫でられると、一際大きな反応を見せた。
「敏感なの? ここ」
「ちが、今のは……ちょっと、驚いただけよ」
「そうか。ごめん」
「謝りながら人のお尻を撫で回さないで……なにが楽しいのよ……私のなんて……」
ドクターは突き出されたシーの尻肉を手のひらで堪能する。下から持ち上げるように撫で回すとくすぐったそうに身体をよがらせていた。
「触り方が、ひどくいやらしいのよ……!」
「そりゃあいやらしいことをするんだから、いやらしくなってもらわないと」
「……」
無言で尻尾を持ち上げてみせると、それまで隠されていた秘部が露わになる。ピッタリと閉ざされた下の唇は涎を垂らしており、その反応が上の口とは裏腹に素直に応えていた。
「わぁお……」
「っ……ちょっとなに、その反応は……! ぴ、ゃ!? な、なにそんなとこ広げて──!?」
「おぉ……きれいな色……」
「っ~~……! 貴方をころすか、しにたい気分だわ……」
ドクターが指で大陰唇を押し広げると、未使用の綺麗な桃色の果肉がそこには広がる。まるで桃源郷のように誘われて顔を近づけていくとその気配を察したのかシーが尻尾で追い払おうとした。しかしすでに長い尻尾の懐に潜り込んでいたドクターを止めることは叶わず、されるがまま。
目と鼻の先で垂れる蜜に舌を這わせるとシーの口から可愛い悲鳴が挙がった。困惑と、戸惑いと羞恥の入り混じった正真正銘の驚き。正気を疑われているような声をドクターは無視して眼の前の果肉からとめどなく溢れる甘い果汁を舐め取る。
「ひ、ぅ……なに、なんでそんなこと……! う、ぅぅ……こんなことして、なんになるのよぉ……?」
「こうして濡らしておかないと、シーが痛い思いするからね。私としても、それは不本意だから」
「……嫌がる私を戦場に連れ出しておいて、そんな気遣いするわけ?」
「それとこれとは話が別」
陰核も舌で刺激してやると、すんなりと顔を出してきた。先程までのじんわりとした刺激とは違った感覚にますます背中を跳ねさせてシーが膝を震わせる。それでも壁についた手を離そうとはせずに抗っていた。
「どんな感じ?」
「どんな、なんて聞かれても知らないわよ……! こんなの、初めてなんだから……」
「……初めて?」
「なに、悪いの? 男たぶらかしているように見えたわけ?」
「君くらいに綺麗だと引く手数多だと思って」
「褒め言葉だと思っておくわ……って、だからいつまでそんなとこ見てるのよ……もういいでしょ? 恥ずかしい……顔から火が出るとはこのことね」
血の巡りが活発になったからか、蜜の溢れる量が増えている。ドクターの顔が離れる気配を感じたのか、シーが安堵のため息をついた。
「もぉ、いいでしょ……? 満足した──ぴゃあっ!」
まさかそんなはず。すっかりその気になってしまった竿をシーのおしりに当てると、異物感に再び驚いて悲鳴が挙がった。
「な、なに? なに当ててるの……?」
「ナニって、そりゃあ……当ててみて」
「……これでも女の子なのよ? 言わせるつもり……? 本当に最低、変態、度し難いクズ。死んで頂戴」
「理性をかなぐり捨てて獣性をむき出しにしてもかまわないと言っていたのは君の方なんだ。少しは大目に見てくれないか?」
ペチ、ペチとドクターは自分の勃起したペニスでシーのお尻を叩く。素肌を滑るように擦りつけると恥ずかしそうにしていた。
「……陰茎、男性器。ペニスとか、竿とか言われるけどどれがお好み?」
「もうちょっといやらしいのがいいかな」
「──ち……ち、ちんちん……」
「うんうん。よく言えました。じゃあ挿れるよ」
ボソリと「しにたい」と聞こえた気がする。後ろから見てもわかるくらい顔を赤くしているのを見ながら、ドクターは濡れた唇に亀頭をあてがう。窮屈にすぼめられていた入り口を押し広げながら挿入していくと程よい温かさに包まれた。
「ん、っつ……!」
じっくりと馴染ませるためにゆっくりと腰を動かす。
シーも最初こそ痛みがあったのか苦しそうにしていたが、徐々に呼吸が落ち着いてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫なわけ、ないでしょ……」
「どんな感じ?」
「どんな、って……聞かれても、ムズムズするっていうか、なんか変な感じよ。お腹は苦しいし、頭はなんだかボーッとするし……」
緩慢な腰の動きでシーの腟内を堪能するようにドクターは前後させる。最初こそキツかったが、腟内は蜜で満たされており、それが口とは別に期待していたことがわかった。挿入そのものも膣口の窮屈さを越えてしまえばすんなりと受け入れている。
肉壁のザラつきも凹凸も複雑に入り乱れており、堪えていなければ根本から搾り取られてしまいそうだ。それでいて陰茎全体を優しく包み込み、カリ首も無数の筆で撫でられている心地に射精してしまいそうになる。
「シーの中、ものすごく気持ちいいよ」
「そう……それなら、さっさと射精しちゃって」
「そんなもったいないことを言わないで、もっと味あわせて……ぉぉ、このザラつきがまた……」
「ん、んんぅ……んっ! 変なこと、言わないで。聞いてるこっちが恥ずかしいじゃない」
ドクターが、これはもしや、と。
壁に手をついたままお尻を突き出したシーに背後から抱きつくようにして、耳元に吐息を吹きかける。すると予想通りの反応と言うべきか、膣が締めつけてきた。ますます密着してくる肉感にドクターの口からも思わず声が漏れる。
「ぅ、お……やっぱり。シーは耳が弱いのかな?」
「ぞ、ゾワゾワするからやめて……! 何なのよ、もう……」
「耳かわいいね。美味しそう」
「な、なにいってるのよいきな、りぃ!? か、かまないで!」
尖った耳先をドクターが甘噛みするとシーが背中を震わせた。小さく抵抗する素振りを見せるが、それが自分を傷つけるようなことではないとわかるなり大人しくなる。
コリコリとした食感の耳輪を唇を挟んで甘く噛み、裏側を舐めながら耳孔に吐息をかけて柔らかい耳たぶを舌で弄び、小さく噛んで吸いつく。その一挙一動が鼓膜に響き、塞ぎようがないままシーは愛撫を聞いていた。
静寂に包まれた露天風呂に、肉のぶつかり合う音が響く。誰も居ない無人の世界と言えど、この開放感は病みつきになりそうだ。ドクターの腰の動きが強くなる。
「っ……ふぅ、ふっ……! シー、ごめん……このまま射精してもいい……?」
「あ、っんっ! ぅ、ん! 射精したかったら、すれば……いいじゃない! いちいち、聞かないでちょうだい──!」
「んっ、っくぅ……! 出る……ッ!」
浅瀬を攻めていた亀頭が、先程よりも深く奥までねじ込まれる。未経験の膣奥を刺激されて身体を跳ねさせても後ろから抱きつかれては抵抗のしようがない。お尻に密着するほど腰を深く打ち付けながらドクターは溜まりに溜まった精液を遠慮なくシーに注ぎ込む。
「ぁっ……、んん……! 熱いの、広がって……あっ……は、ぁ……ん……!」
「ふ、ぅ……ごめ、まだ出る──!」
「ちょ、嘘……! ば、馬鹿! そんな、いっぱい出るの……!?」
「く、うぅ……ほら、シー。びゅーって君の中に」
「だから、言わなくてもそれくらい……伝わってるわよ、直接……」
陰茎からせり上がってくる熱が落ち着いてくると、ドクターはシーの膣にすり込むように腟内をかき回す。吸い付いて離そうとしてこない唇から引き抜くと根本に残っていた精液が鈴口から滲み出てきた。
壁によりかかるようにして、シーが息を整える。黒い髪の隙間から、蔑むような、ゴミをみるような、軽蔑した眼差しを向けられるドクターは、しかし──そんな滅多に見ないような彼女の表情に頬を綻ばせていた。
「ふ、ぅ……ふぅ……はぁ……楽しかったかしら? いたいけな画家の身体を、後ろから無理やり犯すのは」
「とても愉しかったから、今度は前から犯したい」
「……そんな精力も体力も無いくせに」
じっとりとした半目で睨みながら、仕方なさそうにため息をつくとシーがドクターの手を引く。
「まぁいいわ。時間なんていくらでもあるんだし。ほら、早く身体を綺麗にして。疲れてるのに無理したっていいことなんかないわよ、ドクター」
「身体を洗ってくれるのかい?」
「画家の商売道具は安請け合いしないものなの。自分で洗いなさい、それくらい」
期待していただけにドクターは落胆した。
──どれほどの月日が流れただろう。少なくとも、此処で過ごしている期間はそう長くない。一月か、二月。一年、ということはないはずだ。
身体を洗い、食事をして、体力の回復を待ってから毎晩と言っていいほど肢体を貪り合う日々。
ドクターの陰茎を咥え込み、じっと顔を見つめながら何度も頭を前後させてしゃぶりつくシーの顔を見つめ返す。
「う、っ! で、出る……!」
口内で精液を受け止め、シーがすぐに顔を離す。頭をもたげ、しおらしくなる陰茎を見ながら舌で精液を丹念に味わうとすぐに喉を鳴らして飲み込む。その顔は不満そうなのを隠そうともしなかった。
「……今日のはちょっと薄いわね。昨夜頑張りすぎたからかしら?」
「そ、そりゃ流石に……君があんなに搾り取ってくるから……」
「私のせいにするわけ? とにかくこれじゃ今日は楽しめそうにないわ。沢山食べて明日までに精をつけておきなさい」
「そうするよ……」
「画家に体力で負けてどうするの、しっかりしてもらわないと困るわ」
面目丸つぶれだ。自分なりに筋トレをしていたのだが、シデロカにまた怒られてしまう。ドクターがため息をつくと、シーが顔を覗き込んできた。
「まぁ、安心なさいな。私も今日は筆が乗りそうな気がするわ」
「そっか……それなら君の邪魔をしないようにしないとね」
「間違っても。筆を誤らせるような真似をしたら──今度こそわかってるわよね?」
「はい……その節は大変申し訳ありませんでした」
筆を執り、真剣な面持ちで走らせていたシーの胸を背後から揉みしだいたことがある。えらい剣幕で怒鳴られ、蹴り飛ばされて、三日三晩口を聞いてくれなかった。謝罪と共に土下座して、詫びの印として満足するまで付き合わされて筋肉痛どころか立てなくされたのは記憶に新しい。
珍しく笑みを浮かべながらシーがドクターの頬に小さく口づけをする。
「いい子にしていなさいな、ドクター」
「ああ……」
上機嫌で机に向かい、まっさらな巻物を広げてシーが墨を筆に染み込ませた。
シーは、絶対に手淫だけは拒絶する。
『画家の商売道具を穢すつもり? そんなもの握らせるくらいなら口でもお尻でも使ってくれた方がまだマシよ』
その言葉は事実、これまでの性行為で実証済みだ。
口を犯し、胸を汚し、脇も白く染めて。アナルも何度か使用済みだ。何度抱いても驚くことばかりで飽きることがない肢体を貪っていたドクターだったが、これまでの行為を振り返ったことで自制心が芽生えた。
──このままではいけないのではないか、と。
「……シー」
「今話しかけないで」
「その……、此処での生活が嫌になったわけじゃないんだが……」
筆が止まる。
「やはり、ロドスに──」
「──戻れると思う? 帰らせると思ってるの、ドクター? 貴方ほどの人間が随分と甘い考えね」
冷淡な声色だった。恐ろしく感情の欠いた声と共にシーが振り向く。
その口元は、やはり笑みを貼りつけていた。妖艶な微笑み。それはまるで、狙っていた獲物を前に舌なめずりをする蛇のように。
「やっと手に入れたんだから。手放すわけないでしょう? 何のために用意した舞台だと思っているのかしら。此処には私と貴方しか居ないの、わかるでしょ。鉱石病も、天災も、なにもない平穏な世界。こんなのを望んで外の世界で足掻き続けることに何の意味があるのかしら、ドクター」
あれほど乗り気になっていた筆を置いて、シーが音もなく立ち上がる。
「ねぇ、ドクター? 貴方はそんなに私のことを遠ざけたいのかしら。これでも不器用なりにがんばったつもりなのよ? それなのに貴方にはこれでも足りないの? 他にどうしたらいいのよ」
襟を緩め、衣服がはだけていく。羽のように軽やかに床に力なく落ちる衣類の下は一糸まとわぬ裸体だった。今更恥ずかしがるような間柄ではないが、歩み寄ってくるシーから目が離せない。
逃げ出さなければ、と考える。──何処へ?
身体が言うことを聞かない。肺が締め上げられるような錯覚に陥り、ドクターは舌の根が乾くのを感じていた。心臓の鼓動が跳ねる。
「身も心も貴方に捧げたつもりなのに。どうして? 他のオペレーター達とはコレ以上に親密な関係にでもなってるのかしら。なら教えてくれる? ──私とよりもっともっと凄いことしてるの?」
寝床に横になったまま、ドクターは身動きが取れずにいた。
シーが這い寄ってくる。蛇のように、物音を立てないまま舌が届きそうなほど顔を迫らせて。
前髪に隠れた赤い双眸がジッと見つめてくる。あまりにも綺麗な色を反射しているものだからそれが一層恐怖を掻き立てた。現実味の無さに。
「あぁ……そう。そういうこと──?」
手を伸ばしてドクターの頬を撫でる。だがあくまでも、シーの表情は柔らかい。真綿のような優しさの中に鋭利な刃物を忍ばせているかのような恐怖にドクターは固唾を飲む。
「貴方の頭の中を、私だけにしてしまえばいいのね。大丈夫よドクター。安心しなさいな?」
「──、シー」
「奸計ばかり張り巡らせる事しかできないのだから。助けなんて期待しないで」
もっとも、とそこで区切ってシーはドクターの口を塞いだ。舌を入れて、唾液を絡ませながらじっくりと時間をかけていく。
「ん、っぷぁ……──もっとも、そんなこと考えられなくなるだろうけど。……ねぇ?」
──シーの指先が、細い指が。青い肌が、ドクターの素肌を這い回る。頬から首筋へ。鎖骨から胸板へ。腹筋を撫でて、丹田に触れていき……陰茎を根本から先端に向けて撫で回す。
「そんなに言うなら、お望み通り……念願の“筆捌き”で頭からっぽのバカにしてあげる──♡」