火を点けろ。なんかもう性癖全部に……
──崩れ落ちた廃墟の町並みを駆ける傭兵集団がいた。雇い主であるレユニオン・ムーブメントは崩壊し、自分達の生活を最優先事項として彼らは早い段階で見切りをつけて離反している。
しかし、先陣を切るリーダー。コードネーム・ヴェンデッタだけは違った。
武装集団となったレユニオンの活動の中で、そのアーツ特性もあって“悪目立ち”し過ぎてしまったのだ。それ故に敵意と反感を買い、こうして「レユニオン残党」として追われる身となった。
目深にかぶった黒いフード、口元を隠した赤いマフラーは擦り切れ、腕章代わりのバンダナがたなびく。
元々は腐れ縁の傭兵仲間同士。どこで見限っても裏切ってもおかしくない。素性を隠す仮面も、手にした武器も捨てて“感染者”として、この世界の片隅に追いやられていくだけの生き方を良しとしなかった。
感染者になる前のように、ただ生きていくことすら許されないまま──、ヴェンデッタが全体重をかけて地面を滑るようにして急制動をかける。遅れて、仲間たちが立ち止まった。
──妙に暑い。やけに気温が高い気がする。
「なんだ、どうしたんだリーダー」
「……先回りされている。道を変えるぞ」
「そんなこと言っても──」
「早くしろ、ここは俺が引き受けた。合流場所は覚えてるな?」
仲間を突き飛ばし、背中に背負った背丈を越える刀の柄に手を伸ばす。
その、直後の出来事だった。
「レーヴァ……テインッ!!!」
立ち並ぶビル群、その一つを“熔融”させて爆散させながら一人の女が姿を表す。
炎の中から歩みだしてきたのは、燃えるような赤い髪を揺らしたサルカズ族の女性。同じように背丈を越える両手剣は陽炎を纏い緋を揺らしている。
黒いドレスのスカートを揺らし、青い瞳が傭兵集団を見据えていた。
そして、鼻を鳴らす。
「フン、雑魚ばっかじゃないか。だから私一人で十分だと言ったんだ」
「な、なんだあの女……!」
「早くしろ。あれは流石に俺でも長く持たないぞ」
立ちはだかるサルカズ女性を前にして、傭兵団リーダー、ヴェンデッタは身を屈めた。
剣の鋒を突きつけて、つまらなさそうに剣を払うとその軌跡を炎が舞う。
「なんだ、やる気か?」
「……お前、所属と名前は」
「ロドス製薬。スルト」
「……“元”レユニオン・ムーブメント。コードネーム・ヴェンデッタだ」
「あっ、そ」
サルカズの女性──スルトが両手剣を引きずって駆け出す。火花を散らしながら摩擦熱を利用して切断効果を引き上げ、振り上げる。地を滑る炎の波を見て即座にヴェンデッタは廃墟の壁に向かって跳ねた。
瓦礫を溶かして消える熱波を見て、僅かにマフラーに空間を作ると息を吐き出す。直撃したらひとたまりもないどころか灰だって残らないだろう。
ヴェンデッタが壁を蹴り、スルトに接近する。大振りな牽制をかいくぐって背面を取るが、戦場の勘が危機を察知して好機を手放した。転がるようにその場から離れると、両手剣の鋒が地面に突き立てられている。
後退り、スルトを睨みつけるヴェンデッタ。
「避けんな。さっさと死ね」
刀の鞘を保持しているベルトを緩め、身体を回転させながらヴェンデッタが抜刀する。ロック機構を解除し、全身で振り抜いた刀から鞘が滑り落ちた。それは回転しながらスルトめがけて飛んでいく。
「こんな子供だまし──!」
両手剣で払い除ける、だが。ヴェンデッタの姿が消えていた。
どこへ、と思考した刹那、視界の端にたなびく赤いバンダナが見えた。
──身体で刀の間合いを隠しながらすでに潜り込んでいたヴェンデッタの赤い瞳。
スルトはすかさず刃を翻した。眼前に迫っていた刀と火花を散らして間一髪のところで防ぐ。
溶断された刀の鞘が音を立てて地に落ちたのを合図に、二人が相手を押し飛ばした。
まともに打ち合った一度で、ヴェンデッタは全身からドッと冷や汗が吹き出す。嫌な汗だ。肌にまとわりつく死神の気配を拭いながら、下段に携えた刀を握り直した。
スルトの目から余裕の色がなくなった代わりに、焚べられた敵意の薪が音を立てて燃え盛る。青い瞳の瞳孔を開いて殺意を吐き出していた。
爆音を響かせながら二人の剣戟がぶつかりあう。豪快な勢い任せの大振りに見えて、スルトはその両手剣を巧みに操っていた。隙を見つけて踏み込んだヴェンデッタは攻めきれずにいる。
まるで綱渡りを炙られているような心地だ──、あまりの熱波に着ている衣類を脱ぎ捨てたくなってくる。
幸いにも同じ炎を操るアーツ同士。まだ相殺できているからいいものの、そうでなければとっくに刀は折れて身体は灰になっていることだろう。
(……時間稼ぎはここらが潮時か)
眼の前の敵に集中しながら、ヴェンデッタは周囲の気温の上昇を確認していた。それは自分が引き上げているのではない。相手のサルカズ、スルトが振りまく際限のない熱量からだ。
流石に自分にここまでのアーツ能力は無い。ヴェンデッタは呼気を整えた。戦術的撤退の算段をつける。だが──果たして、果たしてこの劫火に包まれた戦域からの離脱が叶うだろうか?
「いい、加減に……くたばれ!」
スルトが両手剣を振り下ろす。それを捌いて、ヴェンデッタは後ろへ跳んだ。踏み込めば返し刃の爆炎に呑まれて死ぬのは理解している。アウトレンジからのヒット・アンド・アウェイ。小賢しいと言われようが、生き残らなければ意味がない。
ジャケットの裏側にぶら下げていた手榴弾のピンを抜いて、ヴェンデッタは手元から落とす。それを見たスルトが眉をひそめる。
そして──、カァンッ! 思い切り蹴り飛ばした。
スルトは一瞬だが判断を鈍らせる。
この小賢しい相手がやることだ、罠に違いない。
それとも、コレを凌ぐこちらの懐に潜り込んでくるか──そして下した決断は、ヴェンデッタにとってもっとも嫌な選択肢だった。
飛び退きながら両手剣の爆炎で手榴弾を吹き飛ばす。その中身は煙幕で満たされていたが、その次にやるべきことは迷わなかった。
両手剣の刀身に炎が迸る。地面を打ち鳴らし、衝撃で煙幕を晴らした。
ヴェンデッタが舌打ちをひとつこぼし、もう一個の手榴弾を弄ぶ。白いラベルの手榴弾を転がしてから地面を踏みしめ、砂利を噛んだブーツが音を立てて大地を蹴った。
(相手が突っ込んできたってことは、危険はないってことだ!)
スルトが両手剣を横薙ぎに払う。それを十字に受け止め、刀が熱で溶断される前にいなす。背後に向けた刀の先には、転がっていた円筒形の手榴弾──。
次の瞬間、ヴェンデッタの背後で白燐手榴弾が起爆した。その炎を手繰り寄せながらスルトの炎を相殺させて、更にアーツの威力を増幅させたことで初めて相手の体勢を崩す。
たたらを踏むスルトに向けてヴェンデッタは刀を水平に構えて全身の膂力を最大限に発揮して刀を突き出した。
相手の鋒から目を逸らすことなく、それが心臓を狙っていると見切ると身体をよじり間一髪のところで避ける。だが、身体を掠めたのか鋭い痛みが一瞬だが走った。
「っ、くそ……いまのを避けるか──!」
受け身を取り、素早く体勢を立て直したヴェンデッタが振り返る。
スルトは、破れた黒いドレスを見ていた。じわりと広がる赤い染みを見て、静かに怒りを滾らせている。
両手剣を地面に突き立てて、火山のような怒りが起爆した。
「そんなに死にたければ、望み通りにしてやるッ!!!」
大地が沸騰していた。
砂が舞い、土は滾り、岩が溶けだしている。スルトが突き立てた両手剣を中心にマグマのような熱が膨れ上がる。ヴェンデッタは少なくともその熱波に晒されて無事ではなかった。全身の水分が蒸発して干上がるような思いをしながらも、戦域からの離脱を念頭に置いて思考を加速させる。
炎の中から、なにか巨大な物が見えた。それは緩慢な動きで五指を広げ、突き立てられた両手剣を掴み取っている。腕だ。巨大な、炎の腕。
スルトの背後。マグマから這い出した巨大な炎の魔人がヴェンデッタを睨んでいた。
口腔より白い吐息を吐き出して、スルトが腕をかざす。その動きに呼応して炎の魔人が両手剣を持ち上げる。
「ラグナロク!」
勢いよく両手剣が地面を叩く。大地が干上がり、地面が割れる。そのクレバスが明るくなったと思った瞬間には強烈な熱の衝撃波がヴェンデッタめがけて飛んできていた。
戦術機動に自信がないわけではないが、それでもこんな滅茶苦茶な戦いをする相手を前にどうしろというのか。ヴェンデッタはとっておきたかった手榴弾の三個目に手をかけた。
「ウロチョロすんな!」
「無茶を言ってくれる!」
足を止めれば、足場にしたばかりの瓦礫のように溶けてなくなる。これほどの炎熱系の使い手と出会えたことは僥倖と言うべきか、それとも我が身の不幸とも呼ぶべきか。
ギャギッ──! 不快な音を立てながら、ヴェンデッタが地面を蹴った。直角に機動を変えたことで相手の一撃が遅れる。しかし、近づくほどに身体に感じる熱量が跳ね上がる。溶鉱炉にでも突っ込んでいる気分になりながら、最後の手榴弾のピンを抜いた。
青色のラベル。
「お前ごと消し飛ばしてやる! レーヴァテインッ!!!」
ヴェンデッタは炎を飛ばしてくる両手剣の軌跡から半身をずらす。ヂリヂリとした嫌な熱をぐっと堪えてから、手榴弾を上空に放り投げた。刀の手の内を握り直して振りかぶる。
左足を前にして、体重を後ろに向けながらバッティング。見事、手榴弾に的中した。
スルトめがけて飛んでいった手榴弾から光が漏れる。
ヴェンデッタの足元。地面が熱を持ち膨れ上がっていた。
──爆音。爆炎。閃光。灼熱の嵐が晴れた頃には、そこにヴェンデッタの姿は無く。
ただ地面に、半ばほどから溶断された刀だけが落ちていた。擦り切れたジャケットも一緒に。
「あ、あの~スルトさん……今回の作戦報告書なんですがぁ……」
「なんだ!」
「ひ、ヒィィ……!? あの、ちょっと、問題があると言いますか……」
作戦終了後、ロドスアイランド号へ帰投したスルトを含めた作戦行動メンバー。その報告書を受け取った事務職員がスルトの書類に目を通したが、そこには一言だけ殴り書きされていた。
『戦って逃げられた』
文面に目を落としてから、再び相手の顔色を窺う。
今だに腸が煮えくり返っているのか真っ赤な髪が風も無いのに揺れていた。瞳孔が開かれたままこちらを睨んでくる上に、まだ愛用の両手剣は熱を帯びている。
生きた心地すらしない。これ以上刺激したら辺り一帯が火の海にされてしまいそうなので事務職員は言葉を飲み込む。とはいえ、スルト自身もその報告書に問題があることは自覚があるのか報告書を無理矢理引ったくった。
「あ、あの」
「直したら提出する! 他になんか用か!?」
「はいぃ……それと、その、メディカルチェック……」
「わかってる!!!」
「ひぃん……」
怒鳴り散らされて事務職員は涙目になっていた。
道行く職員やオペレーター達がスルトから距離を置く。目に見えて不機嫌な時は触らぬ神に祟りなし、比較的自由な時間を与えられているとはいえ、与えられた職務は果たす。
ここロドスでは早い段階で戦闘オペレーターとして前衛職に配置されている。その高い戦闘能力は評価されており、他ならぬドクターも重宝していた。
今回の作戦。レユニオン残党、その名残とも言える悪名高い傭兵集団の足取りをキャッチしたことから派遣された強襲任務だった。
『私一人で十分だ』
などと大口を叩いた手前、敵と遭遇して交戦の果てに取り逃がしました、では済まされない。あれ程の術剣士がいたとは思わなかったこちらの落ち度ではあるが、納得がいかなかった。
「ドクター、入るぞ!」
不機嫌さを隠そうとしないまま、スルトは帰投したその足でドクターの執務室へと押し入る。
壁一面を資料集が埋め尽くした図書館じみた室内には執務机と椅子がぽつんとある。仮眠用のソファーとベッドも備え付けられているが、その他余計な物は何も置かれていなかった。
いや、あった。アナログな方法ではあるが確実な成果として挙げられる書類の狂気山脈が。
「おかえり、スルト」
「……ただいま」
顔を見た途端にバツが悪くなり、スルトは言いにくそうにしていた。
「さっき事務オペレーターが泣きついてきたよ。報告書の不備の件で」
「あれは……! ……私も、悪いと思ってる……」
「まぁ急いで提出してもらうものでもないから、気分が落ち着いてからでいいよ。明日中には出してくれればいいから」
「……わかった。でもあんな奴がいるなんて聞いていなかったぞ私は!」
事前に行われた作戦会議では、確かにレユニオンから離反した傭兵集団と聞いていた。装備もそれほど潤沢ではなかったし、技量についても十分対処可能な相手だった。しかし現実は遅れを取った上に、腹立たしいのは──相手に見逃された、ということ。
あの時、最後の瞬間。互いに閃光手榴弾の光に呑まれて気絶したことまでは覚えている。だが次に目を覚ました時には既にヴェンデッタの姿はなかったのだ。それがますます屈辱的な敗北としてスルトに刻み込まれている。
思い出すだけでも怒りが湧くのか髪が揺れていた。それを見てドクターは顎に手をやり考える素振りを見せる。
「ま、こんな時もあるさ。次に活かそう──スルト、その怪我は大丈夫?」
「ただのかすり傷だ。大したことない」
「ならいいけれど、服も少し傷んでるみたいだ。新しいのはちゃんと申請しておくように」
「わかってる。うるさいな、少し休ませてくれ。こっちは疲れてるんだ!」
スルトはドクターの許可も無しにソファーに腰を下ろすと、そのままクッションに八つ当たりと言わんばかりに頭を預けた。ぼすん、と深く沈みゆく顔が恨めしくこちらを見ている。
「角。カバーに引っ掛けないようにね」
「……うっさい」
視線を逸らしてスルトはそのまま静かになってしまった。他人を拒絶するような物言いをしているが、今回は珍しく落ち込んでいるらしい。いつもなら自信満々に今回の戦績を自慢するのに。それもさも当然、といった風体を装って。
記憶喪失であり、その記憶探しの旅の途中ではあるが。スルトはロドスを気に入っている。此処にいると落ち着くと言っていた。
「そうだ。スルト、あとでアイスでも食べない?」
「────、ご機嫌取りならいらない」
「まぁまぁそう言わず。ニアールから聞いて気になっていたラムレーズンアイスなんだ。過去にカジミエーシュの騎士競技で限定販売されていたものが今回復刻された、という触れ込みでね。取り寄せてもらったものがあるんだけど」
「限定販売……!」
跳ね起きたスルトの目が好奇心で輝いている。だが、少しだけ視線を泳がせるとクッションを抱きしめた。
任された強襲任務を失敗したばかりだというのに、いいのだろうか。本当なら単純に“ご褒美”として用意していたのだろうに。
「……いいのか?」
「うん? そりゃあ勿論。お徳用しか取り寄せられなかったから、私は一個食べたら満足だし」
「…………何個入りなんだ?」
「確か、六個入りかな? 会場だとカップアイスとして販売されていたらしいけれど。今回はギフトとしての販売を視野に入れての商品展開らしいから。それで、食べる?」
「……たべる」
クッションに顔を埋めながら、どこか申し訳無さそうに。食い意地が張っていると思われているのが気恥ずかしいのか、スルトが頬を染めながら小さく呟いた。ドクターがそれに頷くと、今やっている業務のキリがいいところまで待つように指示をする。
「早く終わらせろ、ドクター」
「わかってるよ。急かさないで」
「まだか」
「五分も経っていないよ、スルト」
「……書類を燃やしたらやらなくていいことにならないか?」
「事後処理が増えそうだからやめておくれ……」
──そうこうしているうちに、三十分。
一時間後、ようやくドクターは目の前の業務が区切りよく終わった。身体を伸ばせば、凝り固まった筋肉が鈍い悲鳴を挙げている。今度シデロカにストレッチでも頼もう。そう思いながらソファーに目を向ければ、途中から静かになっていたスルトはクッションを抱きしめたまま静かな寝息を立てて横になっていた。
疲れている、という言葉は嘘ではなかったらしい。
起こすのも申し訳ない、ドクターはできるだけ物音を立てないようにソファーに腰をおろした。
スルトが交戦したという傭兵集団のリーダー、コードネーム・ヴェンデッタ。あくまでも外見的特徴からロドスがそう呼称しているだけだ。実際のところ、手練手管を聞いた限りでは戦闘経験は長い。災厄じみたスルトの戦闘能力を持ってして逃げおおせた、という報告だったが──他のメンバーは残念ながら既に他の部隊によって排除済みだ。
「ん、……」
寝苦しそうに小さく呻くスルトの脇腹。相手の斬撃が掠めたであろうドレスのほつれから覗く傷跡は確かに浅い。しかし、出血によって赤黒い染みができてしまっていた。
ドクターはそっと手を伸ばす。
傷跡を擦れば、痛みに顔をしかめている。すぐに手を離した。
「…………こうして寝顔を見ていると本当に綺麗だな」
赤い髪は熱でキューティクルが痛むこともなく、サラサラと流れるように指から垂れていく。血色の肌色は健康的で、生命力に満ちている。だがそれでいて女性的な柔らかさも兼ね備えていた。
「ていっ」
「……、ぅ」
眠っているスルトの頬を指先でつついてみる。眉間にシワを寄せつつも、クッションを強く抱きしめていた。
記憶喪失のサルカズ。ドクターは、そんな彼女に対して少なからず親近感を覚えていた。なぜならドクター自身、記憶がないからだ。だが、スルトとの違いがある。
記憶があってもなくても、ドクターの周囲にはそれを支えてくれる仲間たちがいた。アーミヤが、ケルシーが、エリートオペレーター達が。そうでなくても敵だったはずのレユニオン幹部【W】でさえも。
それに比べて、スルトは違う。たった一人でこの広い世界を彷徨っていた。誰かに頼ろうにも、縋ろうにもそれすらできない彼女に寄り添っていたのは、背丈を越える両手剣だけ。
そんな彼女が拠り所として選んでくれた。こうしてロドスに留まってくれて、協力的な態度を見せてくれるだけでもドクターは我が身のように嬉しかった。だからこそ、今回の任務で彼女を抜擢したのだが──結果はこの通り。
そして同時に考える。コードネーム・ヴェンデッタは何処へ行方をくらませたのか。
スルトと交戦し、武器も装備も投げ捨てた。推察するに、恐らく──彼は眼の前の脅威を排除するよりも先に仲間との合流を優先した。最優先事項として自らの生存、そして戦場からの離脱を念頭に置いていたはずだ。
彼女を目の前にして、絶好の機会を目の当たりにしておきながら私利私欲に走らず。手柄よりも自己保存を選択したのだ。それを鑑みれば、ドクターは対象の脅威性を引き上げるしかない。
……残念なことに、彼が合流しようとしていた仲間達は皆亡くなってしまったが。
そうなれば、恐らく彼は報復に出てくるはずだ。少ない手がかりから得た情報から導き出されるのは、ロドスの名前。次に狙われるのは、近隣エリアの駐屯地。
(こちらから手を打っておいた方がよさそうだな)
ドクターは今後の対策を思案しながらも、スルトの寝顔を観察していた。
静かに寝息を立て続け、豊かな胸が穏やかな呼吸に合わせて上下している。
スルトの服装は、着慣れている格好といえど胸元の露出が少々激しい。胸元を強調するように開いており、その胸も揺れを抑えるために上下をベルトで押さえている。それがますます肌とのコントラストを強めてしまい、結果として目を惹かれてしまうのも致し方のないことだ。男の性。
もちろん、こんなこと普段の彼女に知られたら軽蔑する眼差しと共に灼熱の魔剣を振り上げて死刑宣告されるに違いない。
(……、いやしかし。おっぱい大きいな。小さくはない、よな……うん)
寄せて上げる形にはなっているが、綺麗な形をしていると思う。玉の肌が室内の照明に照らされて光を反射していた。
触ってみたいと思う。怒るだろうし、こんなこと頼めるはずがない。やったらレーヴァテインで消し飛ばされそうだ。ドクターは内心謝罪しつつ、起きないことを祈り、震える指先をスルトの強調された胸元へ向けていく。
ふにっ。
ハリのある肌に、しかし張った感触はない。程よい感触は、硬めのマシュマロのようななんとも言えない触り心地をしていた。
(……これは、また……癖になりそうな……いや駄目だ駄目だ)
「……ん、ぅ~……? どくたぁ……?」
スルトが薄っすらと目を開ける。ドクターは青ざめた。自分の上司が胸元に指を当てていたらどう思うか。普通は最低だと罵られてしまう。
だがしかし、スルトの思考はまだ微睡んでいるのか再び目蓋を閉じる。
「……さわるなら勝手にしろ……」
「え、っ……?」
「……あいす……、あとで──たべるんだか、ら……」
うつらうつらと頭を眠気で揺らし、寝息を立て始めた。完全に熟睡したのを確認してから、ドクターはスルトの言葉を繰り返す。
触るなら、勝手にしろ。それはつまり、触っていいということ。
身体を好きにしていい──そう思うだけでドクターは背徳感に背筋を震わせた。もちろん罪悪感が無いわけではない。しかし本人から許可が降りたのだ。絶好の機会と言える。
仮にそれが寝言であって当人が覚えていなかったとしたら後ほど天災レベルの怒りを買うことになるのだが、この時のドクターは疲れていた。癒やしが欲しい。眼の前にある。ならば良し。
「し……失礼しまーす……」
ドクターは念のため一言断りを入れてから、スルトのスカートを捲ってみる。膨らんだパニエの下、白い花弁の中に隠れていた真っ赤な肌着を見て思わず口を覆う。意外だった。もっと下着はこだわらない無地の物だとばかり思っていた。
赤いレースの付いたショーツ。それもビキニタイプのちょっと過激なやつ。薄布一枚を隔ててスルトの秘密の花園が目の前にあると考えを巡らせるだけで下半身に血流が集中してしまう。
唾を飲み込み、ドクターは手を忍ばせた。スカートの裾から手を入れて、健康的な肉つきの太ももを揉んでみる。なんとも言えない弾力と肌の柔らかさに妙な緊張感が走った。それでいて、スカートの中はスルト本人の体温によって温かく、劫火を操る戦闘方法によってからか、筆舌に尽くしがたい誘惑のフェロモンが籠もっている。
それに誘われるがまま、ドクターの手は柔らかい太ももを撫で回していた。
「ん、ぅ……んんぅ……ふ、ゥ……!」
寝苦しそうなか細い声を聞きながらも、手は止めない。
手のひら全体でまんべんなく撫で回しながら、ゆっくりと内股を擦る。指先が窮鼠部をなぞった。太もものラインをたどると、それを阻むように、或いは急所を守るための役割を果たす赤いショーツがドクターの指先に触れる。
見たい。そして弄りたい。だがこの後、スルトにはメディカルチェックが待っている。メンタルチェックもあるだろう。下手な真似をしたら疑われる。……「任務失敗したスルトへの体罰」という形ならワンチャン騒ぎにならない形で治まらないだろうか?
ドクターはそんな馬鹿な思考を振り払い、此処は愛撫だけに留めておこうとショーツを撫でた。
「ふ、ぁ……んん……んぅ……!」
薄布の手触りを味わうつもりだったが、スルトの口腔から漏れ出す甘い吐息が理性の崩壊を助長してくる。ちょっとだけ、とドクターは指を浅く押し込んだ。
僅かに沈み込んだ指先を確かに押し返す大きな唇の熱に心臓が跳ねる。ぷにぷにと蒸したマシュマロのようなふっくらとした感触が指先に感じられた。円を描くように唇をゆっくり、じっくりと嬲るように指先で舐め回す手つきで撫で回していくと、スルトが足を閉じようとする。
「ん、ぅー……! ふゥ……ん……──!」
(……やばい。楽しい……!)
丹念に、丁寧に。大陰唇の内側を優しく弄る。少しだけ爪を立てて唇の端をカリカリと擦ると、身体を小さく跳ねさせていた。
普段の強気な彼女からは信じられない程の甘く小さな声を聞きながら、ドクターはスルトの雌しべを愛撫する手を止めない。そうしていると、徐々にショーツから湿り気を感じた。縁に爪を引っ掛けて下着をずらせば、乙女の花弁は蜜を垂らしている。受け入れる雌の肉壺を目の当たりにしてドクターは自分の股間が膨らむのを抑えきれなかった。
生物としての三大欲求をこうも鼻先で刺激されてはたまったものではない。
今すぐにでも、このまま脱がせて挿入してしまいたい。彼女の抵抗など無視して、この股間の熱のままに強姦してしまいたくなる。──それを、ほんのなけなしの理性で窘めつつもドクターの指先は蜜を唇にリップクリームのように塗りたくっていた。
ピンク色の花弁をしっかり濡らして、指が沈み込むほどの柔らかさの性器の感触に感動しながら陰核も刺激する。小ぶりながらも存在を主張する小さな突起を愛液で濡らした指でそっと撫でるとスルトの口から甘い声が漏れた。眠っていてもぼんやりとその感触は感じているのか、広げていた足が反射的に閉ざされる。
「んむっ、ぐ……!」
顔を近づけていたからか、ドクターは太ももに挟まれて身動きが取れなくなってしまった。スルトはまだ微睡みの中。違和感を確かめるように、ベストポジションを求めて足を動かしていた。足を組み替えて、ドクターの頭をぐっと抱え込む。
思わぬ形で目と鼻の先、もはや舌を伸ばせば触れるほど近くにスルトの濃密な雌の香りが漂っていた。鼻息がくすぐったいのかくすぐったそうにしている。しかし、息を吸い込んで止めようにも性欲をダイレクトに刺激してくるフェロモンに抗いきれなかった。
ドクターが恐る恐る舌を伸ばし、まるでソフトクリームを舐め取るようにスルトの濡れた性器に這わせる。
「んぅっ……! んん、ぅ……!」
甘く、どこか塩気のある味わい深さが喉を通っていく。滑らかに舌が小陰唇をゆっくりなぞると膣口から愛液が垂れてきた。
床に滴り落ちる前にドクターが舌で掬うように舐め取るとそのまま性器にしゃぶりつく。口に含んだまま円を描くように舌を動かして丁寧に、それでいて繊細な動きでくまなくなぞる。陰核を下から押し上げるように舌で刺激してやるとスルトの腰が跳ねた。どことなく寝苦しそうにしていながらも起きる気配はまだない。
顔を離し、ドクターはしっかりと指を愛液で濡らしてから物寂しそうに口を開けている膣に中指を挿入していく。
最初こそ強い抵抗をされたが、押し込んでみるとすんなり受け入れた。何もドクターだって最後までするつもりはない。だがしかし、こうも無防備に雌をさらけ出されていてはわからない。
「お、おぉ……スルトの中、すごくあったかい……」
中指を締め付ける肉壺の感触に生唾を飲み込む。ざらついた膣の天井に、指にフィットするなだらかな肉の凹凸。奥へと誘い込んでくる肉壺の動きに逆らってドクターが指を引っ張ると、膣が吸い付いてきて離そうとしない。陰唇を膨らませながら引きずり込もうとするスルトの膣から指を引き抜くと、物欲しそうに口をすぼめては開いてひくついていた。
愛液で満たされた膣の中はテカり、空間を満たしてほしそうに涎を垂らしている。ドクターのズボンの中で自分の出番はまだかと控えている陰茎がはちきれんばかりに性を滾らせていた。
想像に難くない。目と鼻の先に乙女の花弁が咲いているのだから。それがどれほどの快楽をもたらしてくれるかは本能的に理解ができる。
ドクターが不意に顔を挙げると、スルトが顔を真赤にして睨んできていた。目尻には涙を溜めている。
「────」
死を覚悟した。灰も残らない自分の最期を想像しながら、ドクターは息を呑む。
ギュッと強くクッションを抱きしめながらスルトがか細い声で呟く。
「なに……してるんだ……?」
「……その、スルトが好きにしろって言うから……」
寝言だったかもしれないが、それでもドクターは正直に打ち明けた。興味本位だったとはいえ。
正座するドクターがスルトからの反応を待つ。
「私が本当に言ったのか?」
「ちょっと寝ぼけていたかもしれないけど……言ってた」
「………………、そっか」
クッションをソファーに置いて、スルトは下着の位置を直しつつスカートを叩いて立ち上がった。正座したままのドクターの横を素通りしてから立ち止まる。
「……アイス。勝手に貰うからな」
「ど、どうぞ。私は一個食べれたら十分だから、残りはあげるよ」
「わかった」
怒るでもなく、非難するでも侮蔑するでもなく、スルトは耳まで赤くしながら退室していった。
ドクターは生きた心地がしなかったと安堵すると同時に、罪悪感を覚える。別になにも、アイスで手を打とうと思って声をかけたわけではない。とはいえ未遂まで及んでしまったのは事実だ。
(これは……うん。嫌われても仕方ないな)
──後日。
「…………」
「……なんだ。来ちゃ悪いのか」
「あ、いやー……そういうわけじゃなくて……」
「ならいいだろ。入るからな」
意外にも、スルトは顔を出してくれた。呼んだわけでもないのに執務室に入ってくる。手にはドクターが取り寄せたカジミエーシュのラムレーズンアイス復刻版。ひとつを執務机の片隅に置いて、スルトは仮眠用のベッドに腰を下ろした。
「食べないなら貰う」
「い、いや食べるよ。ありがとう」
「ふんっ」
鼻を鳴らしながらも、どこか嬉しそうにアイスの蓋を開ける。
子供のように舌鼓を打つスルトの姿を見てから、ドクターも手を休めるついでに糖分補給の名目でアイスに手を伸ばした。
「ん、美味しい。レーズンの酸味にバニラの甘さが程よくマッチしてる」
味に素直な感想を述べつつスプーンを進めていると、執務室に新たに足を運んできたニアールが入室してくる。手にはいくつかの資料をまとめた書類。
「ドクター、入るぞ──おっと、これは失礼した。休憩中だったか」
「ああ、ニアール。お疲れ様。スルトが持ってきてくれたからね」
ニアールがベッドに座り込んでアイスを頬張るスルトを見る。お互いに軽い会釈に留め、すぐに書類を執務机の上に並べていく。しかし、そのアイスのラベルを見てニアールが小さく頷いた。
「ドクター、それはこの間言っていた……」
「そう。これ本当に美味しいね」
「気に入ってもらえて何よりだ。バターサンドクッキーにするのも私からお薦めしておこう」
スルトがその発言に手を止める。
「こいつを……クッキーで挟んで食べるのか?」
「そうだ。そうするとバニラの風味が引き立てられ、それでいてクッキー生地が冷たくなった舌を休ませてくれるからあっという間に消えてしまうんだ」
「ドクター、クッキー持ってないか!」
「持ってないよ。次の楽しみにしようね、次の」
今すぐにでも食べたい、というのが見て取れるほどスルトの顔が笑顔で輝いていた。それを微笑ましく見つめつつ、ドクターはニアールが持ってきた資料に目を向ける。
「ん、レム・ビリトン社製の例の試験型。受け取りポイントが決まったんだ」
「こちらの進路と、あちらからの輸送状況を鑑みた結果。次に差し掛かる街にある、外部のロドス駐屯地からが一番近い」
「なるほど……」
「あまり浮かない様子だな、ドクター」
「例の一味、取り逃がした相手が潜伏している可能性が高い」
「……悪かったな」
「スルトを責めているわけじゃない。ただの状況判断だ」
「なるほど。詳しく……は、休憩の邪魔になりそうだ」
「少し待って。すぐ食べ終えるから」
アイスクリーム頭痛に頭を悩ませながらも食べ終えたドクターがニアールといくつかの打ち合わせをする。アイスを食べ終えて、手持ち無沙汰になったスルトが膝を抱きながら面白くなさそうに口を開いた。
「ニアール。この後予定はある?」
「ん? いや、私は外勤など今のところはないが……」
「そっか。なら私の特訓に付き合ってくれ」
意外な発言に、ドクターとニアールが顔を見合わせる。
スルトは確かに艦内を自由に行動できる。だがその時間のほとんどを自分の記憶を取り戻すための時間に充てていた。だからこそ、自分から他のオペレーター達と絡むことはほとんどない。交友関係もお世辞にも広いとは言えなかった。大体決まってドクターのところへ来るくらいで。
そのスルトが、自分からニアールに提案を持ちかけるというのは意外で。視線に気づいたのかムッとした表情をドクターに向ける。
「なんだ、ダメなのか?」
「い、いや私はかまわないんだが……ドクター、訓練室は空いているだろうか」
「確か今の時間だと……狙撃オペレーターが使用中だ。明日のお昼には空くはず」
「なら今のうちに押さえておきたい。できるか?」
「もちろん。そう伝達しておくよ」
「資料も確かに渡した。スルト、明日訓練室で会おう」
「わかってる。それじゃ」
「ドクターも。休憩中に失礼した」
「気にしないでくれ」
ニアールが執務室を嬉しそうな足取りで去っていく。その後姿を見送ってから、ドクターはベッドに座り込んでいたスルトに振り返った。
膝を抱えていたからか、スカートのパニエから白い太ももが覗いている。あまりの眩しさに思わず顔を逸らしてしまった。
「……こほん。スルト、どういう風の吹き回し?」
「さっきの話だと、例のヴェンデッタが潜んでるかもしれないんだろ。なら私が今度こそ片付ける。そのために、あの騎士様の助力が必要だと思った。それだけだ、文句あるのか」
「いいや、ないよ。でも君のアーツなら問題なく……」
正確には、アーツと呼んでいいものか定かではない。しかし、スルトは刃を交えたからこそ、それでは足りないと踏んだのだ。
「多分、アーツの使い方だけならアイツのが一枚上手だ」
足りない火力を瞬間的に爆発物で補うことで互角以上の戦いを繰り広げた。負ける気はしない。だがそれでも悔しいと思った。だからこれはただの意地だ。
「私がミスしたんだ。だから私自身の手で挽回する」
「……うん、そう言ってくれると私も嬉しい。手配しておこう」
スルトが手にしていた空のアイス容器が一瞬で消し炭になる。その目に屈辱の炎を宿して。
「だから──今度は灰も残さない」
「……街に被害出さないようにね?」
「ふんっ、知るもんか! 大体アイツは爆弾を馬鹿みたいに使うんだ! 私が壊すよりも敵が壊さないように祈っとけ!」
ぼすっ、とベッドに倒れ込み、スルトが天井を仰ぐ。ドクターはその姿を見てから、再び業務を再開しようと机に向き直った。
「──、私。ちょっとだけここで寝るから」
「えっ? あ、うん……どうぞ?」
「……だから」
枕を引き寄せて、自分の顔を覆う。
「触りたかったら好きにしろ……」
そう呟いて、スルトは仰向けに寝転んだまま動かなくなった。
ドクターは手が止まる。思考も止まったし、呼吸も止めた。理解するのに数秒を要し、言葉を繰り返し反芻してからようやく理解する。
「……今度は途中でやめたりしないけど、いいの?」
「…………ん」
ドクターはスルトの小さな声を、肯定と受け取った。
業務を手早く切り上げてから、狸寝入りしているスルトに視線を向ける。それから、念のため執務室の内鍵も締めておいた。
スルトのスカートを捲り上げる。今日は黒のレース。いつもより少々派手な気がしたが、白い素肌によく似合っていた。
「おしゃれで可愛いね」
足を開かせて、まじまじと股間を凝視する。顔を近づけられて緊張しているのか、少しだけ身体を強張らせていた。それでもすぐには抵抗する素振りを見せることなくスルトはドクターの指を受け入れる。
下着越しに優しく円を描くように撫でていく。大陰唇の柔らかさに指を軽く沈ませながら。
「ん、ふ……ふ……、んんぅ……」
悩ましい声を挙げてスルトはクッションに顔を埋めていた。ドクターはそれならば、とすぐに下着をずらして露わになった秘部を直接触り始める。
顔を覆うバイザーを外して、顔を近づけてから陰核を舌で刺激してやると腰が浮いた。それを手で抑え込みながら、ドクターは執拗にスルトの秘部にしゃぶりつく。
唾液に混じって愛液が溢れ始め、まもなくして啜る音が室内に響いた。
「ん、んぅ~……! んんん!」
ぺろ、れろ。じゅぷっ、くちゅ──いやらしい音を立ててスルトの秘部が濡れていく。ドクターが顔を離してから、大陰唇を広げて膣口を覗くと物欲しそうに口を開けていた。その内部は脈動して涎を垂らしている。奥までみっちりと詰まった肉壺からは籠もった雌の匂いが醸されていた。
すっかりその気になってしまった陰茎がズボンの中でテントを張ってしまっている。チャックを下ろして開放してやると大きく息を吸い込むように顔を覗かせた。
「……もうちょっとだけ慣らすよ、スルト」
指を濡らしてから、ゆっくりと挿入していく。その感覚に戸惑いながらも、身体は受け入れている。スルトの膣内の天井を指先でさするように撫でていくと、感触の違う箇所を見つけた。そこに触れた瞬間、一際大きく身体が跳ねる。
ドクターはその周囲を撫で回して焦らしながら、指先でノックした。
「んん、ぅ! んぅ、んー! んぅぅぅッ~♡」
枕に顔を埋めて声を漏らすスルトの腰が浮く。だがドクターは間断なく容赦もせず執拗にGスポットを狙って指を動かしていた。
やがてスルトが腰を浮かせて激しく痙攣させる。ガクガクと子鹿のように震える腰遣いに、だらしなく愛液を滴らせる秘部の窮屈な入り口がすぼめられてドクターの指にしゃぶりついて離そうとしなかった。
(うわ、すごい吸いつき……)
きゅ~っ、と指先を最後まで離さずにいた陰唇が戻る。ドクターが身を乗り出して耳を澄ませるとクッションに顔を埋めながらも呼気をスルトは荒くしていた。
自分の手で陰茎を支えながら濡れた秘部にあてがうと反応するものの、まだ狸寝入りを決め込んでいる。
「……挿れるからね」
念のため、一言断りを入れてからドクターがゆっくりと挿入していく。
「ん、っふ……! ん、ぅ! っ、ぅぅ……!」
膣口を広げながら亀頭がスルトの膣内へと侵入を果たそうとする。それを拒むかのように窮屈に口を閉ざす陰唇だが、すっかり愛液で塗れて陰茎を滑り込ませていた。
「う、っふぅ……! スルトの腟内……、すごく熱い……トロットロだ……!」
異物を拒む入り口から内部へ侵入を果たすと、複雑な肉の凹凸があますところなく撫で回してくる。まるでこちらの形を覚えるためにピッタリと寄り添ってくる吸いつきにドクターの腰が意思と反して沈み込んでいく。それに苦しそうなスルトの声が聞こえてきて、半ばほどまで挿入させた陰茎を止めた。
「っ……、ごめん、気持ち良すぎて……! ゆっくり動くから……!」
「──、っふぅ……。ん、っふ……! んっ。んぅっ。……っ♡」
「スルトの入り口、すごいキツイのに……! 中の締めつけが、すごくて……!」
なんとか声を押し殺しているスルトがクッション越しに声を漏らしているのが聞こえてくる。残念なことにその顔を見ることは叶わないのだが、彼女への配慮としてドクターは露わになっている花園に踏み込む。
挿入してから落ち着くのを待ち、それからゆっくりと腰を引き始める。口をすぼめて離そうとしない膣に負けて再び腰を沈み込ませていく。
時折、スルトの身体が反応して身体を震わせていた。緩慢な動きで前後させていた腰の単調な動きに慣れてきたのか、呼気が落ち着きを取り戻しつつある。
ドクターは手を伸ばし、胸の動きを抑制するベルトを外す。
「んっ……?」
重力の流れに沿って、スルトの胸が楽になる。それを横から支えるように、手のひらで優しく揉み始めると強い弾力で押し返された。
生唾を飲み込み、ドクターはそのまま胸を露出させると素肌を撫でていく。
「……スルトのおっぱい、まん丸でかわいいね。形も良くて私は好きだよ」
「っ……、ん……。っさい……!」
くすぐったそうに身体をよがらせながらも口からはいつもの強気な態度が聞き取れた。
「ハリもあるのに、それでいて柔らかい。くせになりそうな触り心地だ」
スルトが口を固く閉ざすものの、胸への愛撫に膣の締まりが良くなる。
乳輪を指先でなぞり、先端を指でつまみながら優しく、傷まないように力を込めず、あくまでも添える形で撫でていく。胸からじんわりと伝わってくる甘い刺激に、下腹部の熱も相まってスルトは自分の思考が蕩けていく感覚を味わっていた。だが、気丈な性分も相まってそれに抵抗の意思をみせるものの、ドクターはそっちのけで身体を優しく抱きしめてくる。
「ッ……スルト、そろそろ激しく動いてもいい……? いいよね、好きにしていいって言ってたし。よい、っしょ……ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢してくれる?」
ドクターが腰を掴み、そして陰茎をさらに深く挿入させた。その未知の感覚に、スルトの腰が跳ねる。ミチ、ミチと身体の中から内臓を押し広げられる感触に息を荒げてしまう。痛みの伴った快楽は、やがて脳の神経伝達物質の分泌により痛みも快楽に取り込まれていった。それでも息苦しさは変わらず、スルトは枕に荒い呼気を吐き出す。
「ふっ、んっ、んんっ! んぅっ──!!」
「う……おぉ……これは、すご……! 奥の方のザラザラが、引っかかって──」
ゆっくりと引き抜いていくと、陰茎を舐るように粘膜が糸を引いていた。それが少し赤みがかっている。スルトの処女を奪ったことを改めて自覚しながらも興奮を禁じえないドクターは再び奥まで時間をかけて挿入させていった。
「あぁ、これはダメだ……! ちょっと、我慢できそうにない……っ」
腟内で脈動する陰茎が膨らみ、スルトの腟内で暴れる。亀頭が肉壁とこすれる度に脳が痺れるほどの快楽が流し込まれた。
「っ──、出る……! ごめ、ん……スルト!」
「ん、っむ!? っふ、ぅああ……!!」
それからまもなくして、ドクターがおびただしい量の精液を膣内にぶちまける。鈴口から子宮口に向けて勢いよく発射される白濁液の感触に、それを呑み込んでいく自分の身体の本能的な欲求に抗うことができずスルトは枕を強く顔に押し当てたまま射精が収まるのを待った。
流し込まれ、注がれていく熱が自分の腟内で広がるのを感じながら徐々に勢いが衰えていく。ドクターが引き抜こうとするが、スルトは不意打ち気味に挿し込まれて思わず甘い声が出てしまった。
深く繋がった腰を引き抜かれると、ようやく開放された膣口が呼吸をするように口を開ける。だらしなく開いた股はまだ熱が冷めやらず、こもったフェロモンと熱気で空気まで蒸れていた。
自分の腟内から垂れ落ちていく精液の感覚にスルトは腰を抜かしながらも、肩で息を整える。
「あ、こぼれる。ティッシュはそこか……スルト、少しだけ触るよ」
(なんでいちいち聞くんだ)
好きにしろと言ったのに。だが、顔を枕で覆っている自分に対する配慮だと気づくのは後の話。
ドクターがティッシュで綺麗に拭き取ると、乱れた衣服を整える。
しばらくの間静寂が流れ、なんとも言えない気まずい空気の中で咳払いをひとつ。
「ん、んんっ。その、スルト……? そろそろ……」
「…………ん!」
「わぶっ!」
跳ね起きるなり、スルトは枕をドクターの顔に殴りつけるように押しつけた。そのまま早足で執務室を後にしようとして、一度だけ立ち止まる。
「ドクター」
「な、なに……?」
「……また、アイス食べに来るからな。覚えとけ」
「……どうぞお好きに」
──それからというもの、スルトはアイスを食べに来たというのを口実に寝室に入り浸るようになった。記憶を取り戻す為に費やしている時間を少しだけ割いて、ドクターが取り寄せたアイスを食べる。それがいつの間にか互いの合意を表す合図になっていた。
スルトがアイス好きなのは周知の事実であるのをいいことに“ドクターのアイス”までいただく口実。そのことを他の誰も疑問には思わなかった。ドクターがスルトの実力を頼りにしていることもまた事実である。
ロドスが移動してから、一週間が経過しようとしていた。外部のロドス事務所が受領したレム・ビリトン社製の試験型兵装の集荷は、やはり、ドクターの読み通りにトラブルに見舞われる。
数名の感染者がロドス事務所を狙って襲撃。町に被害が及んだ。しかし、あくまでも建造物に対する損害のみであり、人的被害は最小限のものだった。
偵察部隊からの報告による外見的特徴を照らし合わせ、スルトが取り逃したヴェンデッタであることが確認。少数精鋭による夜間襲撃、完全に無防備状態だったロドス事務所を爆破。その騒ぎに乗じて市民の恐怖を煽り、退去させた──このことから彼の目的が最初からロドスだったことは明白。
彼が率いたのは、アーツ術師とサルカズの傭兵。最小限の人数だった。
ならばこちらも相応の実力者で討伐に向かう。ドクターの判断は速かった。まるで予め取り決めていたかのように、オペレーターを選抜するとすぐに駐在トランスポーターの運転する輸送車両で現地へ向かう。
「……で! なんでアタシまで一緒なわけ!?」
「なにか問題が?」
「そーじゃないわよ。あーもう最ッ悪だわ! 急に招集されたかと思ったら相談もなく枠に入れられてたなんてアンタにわかる? わかるわけないわよね! 立案者だものね、あー気楽でいいこと!」
傭兵【W】が揺れる後部車両の中で愚痴を大きくこぼしていた。ドクターは自分の顎に手を添えて首を傾げる。
「だって、暇でしょ?」
「暇じゃないわよ!」
「でも特に予定無いって言ってたし」
「だからって普通連れてくるかしら。あーもういいわ、今更よ今更。ハイハイ、頑張ればいいんでしょ。……で? なんでこれだけしか連れてこなかったわけ?」
【W】が横目で見たのは、重装オペレーターとして活躍していた頃の制服に身を包んだニアール。その真向かいにはスルト。その隣、ドクターは頷いた。
「例のヴェンデッタ。爆発物の造詣に深いことから、君が適任だと思った。それにレユニオンだったのだから面識とかあるだろうし」
「いちいち覚えてるわけないでしょ、そんな木っ端な連中のこと。顔見たって名前出てくるかどうかすら怪しいわよ。そっちの騎士様はなんでまたそんな重苦しい格好してるわけ」
「こちらの方が援護に適していると判断したからだ」
「アンタが援護?」
「ドクターからの指示だ」
じろりと睨まれれば、肩をすくめてみせる。
「今回、先陣を切るのは私ではなく彼女の役割だからな」
「あ~。そういえば取り逃がした一味ってアンタの失態だったわね。ご愁傷さま」
「アンタで焚き火してやろうか?」
「やれるものならね。車ごと「ボカン!」といくわよ?」
「その前に私の盾が飛んでくると思え」
──ギシッ。重苦しい空気に包まれて空間が軋んだ。
ドクターは人選を間違えたかと思案したが、実力に問題ないから問題ないと自己完結した。ポジティブに捉えないとやってられるかこんな職場。
昼前に到着した合流ポイントから、ドクター達は徒歩で移動を始める。それまで偵察部隊からの情報を共有。
相手はこちらの戦力投入を待っているかのように動かないそうだ。
「町の地図を」
「はい、こちらに」
「……ふむ。事務所がこの十字路。相手が待機しているのがここからこの区画」
「なにか仕掛けていた様子でした」
「ならこっちから起爆させてやったら、さぞ面白いでしょうね」
「自分からタダ働きを志願してくれるなんて泣いて喜ぶよ私は」
「はい前言撤回。さっさと作戦考えなさい、ドクター」
「考えているけど私の肩こり酷くなったね? 手品? そうだ、例の荷物は? あ、強奪された。まぁそりゃそうか普通に考えたらそりゃそうだった」
肩に爆弾を乗せられたドクターの立案した作戦は、まずアーツ術師とサルカズの傭兵を無力化。その後にヴェンデッタを拘束、或いは殺害というものだった。相手の数も少ないことと、爆薬の扱いに長けていることから事前に仕掛けられたであろう爆弾の解除を【W】が請け負う。
ニアールとスルトのツーマンセルで道を切り開く方針だ。
「住民の避難は?」
「完了しています」
「町の解体工事の予定は?」
「あー……りませんね……」
「だってさ、W。極力建造物への被害は抑えてできるだけぶっ飛ばしてきて」
「まずアンタからぶっ飛ばしていいなら絶好調なんだけど。まぁいいわ、やればいいんでしょ」
「それじゃあ──作戦開始」
ドクターの指揮下で動くのはいつものことだ。まるで予測していたかのように敵が現れ、曲がり角で鉢合わせた術師をニアールがシールドバッシュで吹き飛ばす。背中を壁にぶつけた衝撃で身動きの鈍った相手をスルトがレーヴァテインで焼き払う。足を止めずにそのまま駆け出す。
「ニアール、わかってると思うけど」
「もちろんだ。例のヴェンデッタは譲ろう。そのための特訓だったからな」
「もしもしお二人さーん、その先気をつけなさいよー」
家屋の屋根を伝って移動していた【W】の声に二人が急ブレーキをかけると、手製の源石爆弾を投げて先に仕掛けられていたブービートラップを発破で解除させる。通路に流れ込んでくる土埃にスルトが咳き込んでいた。
「オイ! もっとなんとかならなかったのか!?」
「それが出来てたらこんなことしてないわよ。ほら次、デカブツが来てるわよ頑張って」
「言われなくてもわかってる!」
大剣を背負ったサルカズの傭兵が剣を引きずりながら走ってきている。スルトが同様に駆け出し、地面を蹴って跳ねた。壁を蹴り背後を取るとそのまま身体をかがませて足を切り払う。
「んなッ!」
「失礼する!」
バランスを崩した相手の頭部に向けてニアールがメイスを思い切り振り抜いた。重苦しい音を立てて素性を隠すマスクを粉砕し、昏倒した相手に目もくれず再び駆け出す。
「同族のよしみよ、持っていきなさい」
【W】がいくつか爆弾を投げ込み、二つほど区画を離れたところでリモコンのスイッチを押した。
──空に上る黒煙を見ながら、ヴェンデッタはぼんやりと青空を仰ぐ。
深く息を吐き出してから、マスクで口元を覆った。目深にフードをかぶり、立ち上がる。
強奪したのは何もレム・ビリトン社製の武器だけではない。ロドスの制服も拝借していた。
瓦礫に腰掛けていたヴェンデッタの隣、アーツ術師が迎撃しようとして飛んできた瓦礫が頭を直撃して気絶する。無防備に倒れる相手に一瞥もくれず、現れたロドスのオペレーターに視線を向けた。
その中に、やはり居た。赤く、真っ赤に燃える髪のサルカズが。
だが予想外だったのは、そこにレユニオン幹部の傭兵【W】が居たことだった。しかし、互いに今更なんの言葉を交わしたところで意味はない。
腕に巻いた、燻ったバンダナを一度だけ締め直してから玩具に手を伸ばす。
「……報告にあった、レム・ビリトン社製の試験兵装はアレか」
「破壊してもいいのか?」
「エンジニアが泣きを見るだろうしドクターの仕事が増える。できれば破壊せずに取り戻したい」
「で? なんであの会社の作る武器って変なのしかないわけ?」
スルトとニアールがなにか言いたげにしていたが、当人の名誉のために沈黙を貫いた。手製の源石爆弾も十分変だと思う。
──ロドスのエリートオペレーターの活躍を耳にして着手したという、小型の源石エンジンを搭載したブレード、正式名称「連装式超振動突撃剣」。
抜刀と同時に摩擦による熱量で切れ味を増幅し、研摩も兼ね備えた機構によって継戦能力を引き上げている。
ワンショルダーにまで小型化された源石エンジンを常に稼働させ続けるというのは使用者の負担が大きいことから、専用の防護服まで用意されていた。
左半身を覆う防熱マントを払いながら、ヴェンデッタがスルトを睨む。
そして、スルトもまた。
両手剣の鋒を相手に差し向ける。
互いの身体が揺れた次の瞬間、同時に駆け出していた。姿が見えなくなってから、まもなくして剣戟の音が鳴らされる。甲高い金属音同士の衝突は肌がひりつくような緊張感とともに空気を震わせていた。
「……勝手にやらせていいの?」
「ああ。問題ない。さて、こちらはこちらで周辺の状況を確認。恐らく安全だとは思うが、ドクターが来る前に片付けておこう」
「ま、アタシの知ったことじゃないからいいんだけど」
尋常ではない熱量から発せられる抜刀と同時、熱波が振り下ろされる。スルトは両手剣で打ち払い、ヴェンデッタの身体を蹴り飛ばした。
手応えはある。しかし、踏み出せなかった。
追撃を阻むように切り払いながら距離を取ったヴェンデッタが咳き込み、納刀する。
──ギュイィィィィンッ……!!
再び熱量を充填する奇怪な音を立てながら、ブレードの刀身が赤く染め上げられていく。
「っ──ゲホッ、ゴホ……! ゴ、っふ!」
踏み込もうとしたスルトが踏みとどまる。咳が止まらず、遂には吐血したヴェンデッタの口腔から赤黒い血液が滴り落ちた。血の付いた手をズボンで拭いながらも構え直す。
元レユニオン。それだけで鉱石病患者であることは間違いない。治療も受けず、劣悪な環境に身を置けばその症状の進行速度は緩むことなく身体を蝕む。
「アンタ……」
ロドスに滞在していれば嫌でも見る。症状の進行した患者の姿など。日に日に増えていく体表の源石。臓器の不鮮明な陰影。死に近づいていく足音だけがハッキリと見える不安な日々。だがそれでも、それがどうしたというのか。眼の前にいる素性も定かではない相手は立ちはだかっていた。
顔も名前も知らない。過去も、どういった相手なのかも。興味すらなかった。それでも、その実力だけは理解しているつもりだ。スルトが他人を評価する時、もっとも優先することでもある。
「……気にするな。続けるぞ」
「そのままだと死ぬぞ」
「殺しに来たんだろう? 変なことを聞くな」
──自分の不始末を片付けに来た。たったそれだけのことだ。
ドクターからの信頼に傷をつけた相手を許せないと思った。それ以上に、自分の失態を。
赤熱化した突撃剣と、灼熱の両手剣が衝突する。火花を散らし、熱で空気を歪ませながら打ち合い、距離を取り、間合いから離れる。
相手が納刀する隙を見て、地を這う熱波を放つ。だが、ヴェンデッタは爆弾を放り投げて熱を相殺させた。
スルトの前で、炎が渦を巻いて嵐となっていく。炎を操るアーツ、その使用者に合わせて調整されたアーツユニット。それらの符号がピタリと当てはまった人物の手に渡ってしまった。
膨れ上がる熱を抜刀と同時に放つ。熱波が威力と殺意を倍増させられて打ち返された。
炎の嵐と渦の中に消えた相手を見て、ヴェンデッタは静かに突撃剣を収める。胃からせりあがってくる熱と不快感を喉で抑え込みながら。
「……、」
目を凝らせば、炎の中に人の影が立っていた。
馬鹿な、と。立っていられるはずがない。しかし、ヴェンデッタの目の前で炎が一斉に四散した。それは間もなくして、スルトの掲げる両手剣に収束していく。
──君のアーツは、炎を操る類なんだろう? 私のアーツは光を操るものだが、扱い方は似ていると考えている。
ニアールとの特訓を思い返しながら、スルトは天を衝くように掲げた両手剣から劫火を巻き上げる。その背後から炎の魔人が顕現させながら。
──報告が正しければ、君にも同じことができるものだと私は推測する。敵から学ぶことだってあるだろう。
「レーヴァテインッ!!!」
巻き上げた炎を振り下ろす。天から落ちる劫火の刃に、ヴェンデッタが抜刀する。だが、それは自らの身体を守ることはなかった。
爆炎と轟音を響かせて、無人の町を炎の波が吹き抜けていく。
──スルトがヴェンデッタに歩み寄る。瓦礫に体重を預けながら、口元を覆うマスクを外すと大きく息を吸い込み、そして咳き込んで血を吐き出していた。真っ赤な血の中に、黒い破片が見える。
鉱石病の末期症状に近い。焼き切れたロドスの制服から覗いた素肌にも、源石が生成されていた。
刀身が半ばから溶け落ちた突撃剣を見て、鼻で笑いながらヴェンデッタは左手で保持していた鞘と一緒にスルトへ向けて放り捨てた。
カラカラと、空虚な金属音を奏でて。
「……やっぱ、アンタにゃ勝てなかったな」
気づいていた。真っ向から戦っても勝てる相手じゃないことは。
「なんで逃げなかったんだ」
スルトは、正直な疑問を口にした。こんなことをしなければ、もう少し長生きできたはずだ。
「行く宛なんて、どこにもないさ」
ヴェンデッタはそれに素直に応える。
「だから、最後くらいは逃げずに戦いたかった。結果は見え透いていたけどな」
「…………」
「鉱石病を患って、故郷から逃げて──レユニオンに賛同して、離反して俺の人生は逃げてばかりだった。いつか追いつかれるとわかってたのにな……」
何から逃げていたのだろう。スルトは尋ねようとしたが、聞くのが怖くなった。
過去から逃げようと必死に走り続け、逃げ場も行き場もなくした末路など決まっている。
「……アンタに、居場所はあるんだろう?」
「ああ」
「はっ……羨ましいな……本当に──友達の仇も討てずに朽ちる俺と違って」
懐から取り出したのは、リモコンのスイッチだった。誤操作防止のカバーを外して、指を立てる。
「……人生やり直せたら、アンタは何がしたい?」
「知るか。そんなこと。やり直したいほどの後悔、私にはない。そういうアンタはどうなんだ」
スルトは破損した武器を回収して、その場を離れようとした。
「俺か? ……俺は、そうだなぁ──ガキの頃に行った、カジミエーシュのアイス屋になりてぇなぁ……意外に美味いんだ、あそこのアイスは」
「…………知ってる」
ヴェンデッタが力なく笑う。そして、最後の力を振り絞ってスイッチを押した。
──作戦は滞り無く終了。レム・ビリトン社製の試験型兵装は破損しつつも回収。ロドス事務所並びに町の損害については後日、修繕工事の手配をするものとして現地のオペレーターに委任。ドクター達はロドス・アイランド号に向けて帰還していた。
その車輌の空気は決して明るいとは言えない。茶化していた【W】ですら口を閉ざしていた。
作戦目標だったヴェンデッタは自爆。自分の死期も末路も悟っていた感染者は死体すら残さなかった。
「……一個思い出したことがあるんだけど、聞きたい?」
「話したいならどうぞ?」
「私に爆弾の作り方を聞いてきた変なやつがレユニオンにいたわ。それだけよ」
たった、それだけの話。大したことのない、思い出話だった。
ロドスへ帰還する頃にはすっかり日が暮れていた。
作戦報告書の作成、事務処理を済ませたドクターが自分の部屋で休息を摂ろうとするとアラームが来訪者を知らせる。
扉を開ければ、其処に立っていたのは──スルトだった。手にはアイスが二つ。
「こんばんは、スルト。アイス食べに来たの?」
「私が来たら迷惑なのか」
「いいや、そういうわけじゃないよ。とりあえず入って」
「邪魔するぞ」
ドクターの部屋は、壁一面がテラの蔵書で埋め尽くされている。そして、入室を許可されている者も一部のオペレーターに限られていた。スルトもその一人だ。といっても極、個人的な理由によるものなのだが──それを知ってか知らずか、ケルシーからは何も言われていない以上黙認されている。つまりは問題ないということだ。
ベッドに腰掛けてアイスを頬張るスルトを横目に、ドクターも同じように口に運ぶ。
無言で頬張る横顔を見つめていると、睨み返された。
「なんだ。あげないぞ」
「じゃあこっちの一口食べる? チョコ」
「……んあ」
口を大きく開けるスルトに、ドクターはアイスを乗せたスプーンを差し出す。
「美味しい?」
「ん~……、バニラも悪くないけどチョコもやっぱり美味しいな」
ソフトクリームを頬張るのではなく、スプーンで食べているのはスルトなりのこだわりなのだろう。
残されたコーンをかじり、溶けて底に溜まったアイスを飲み込むと一足先に食べ終えてしまった。スルトはようやくコーンを食べ始めたばかりだ。
手持ち無沙汰となったドクターは静かに待つ。
「……今日はお疲れ様、スルト」
「あむっ……。なんだいきなり」
「いや。君が言い出していなかったら、私は相応の戦力を用意するつもりだった」
手を伸ばして、赤い髪を撫でる。それを静かに受け入れて、だがアイスを食べる手を止める気配はなかった。
「私も過去の記憶がない。だけど私の過去を知っている人物たちから、それは大層恨まれているよ」
【W】しかり、エンカクしかり。ケルシーしかり。どれもこれも口からとても自分が行ったとは思えない所業の数々を糾弾される。戸惑いもした、恐怖もした。もしかしたらまたそんな過ちをしてしまうのではないかと。
「だからか、私は君に親近感を覚える。記憶を取り戻す手がかりを探し求める君の力になりたいというのは本心からだよ。此処が落ち着くと言ってもらえて、嬉しかった」
髪を指で梳いて、流れに沿って撫でる。それを嫌がる様子はない。
「私が此処を出ていくって言ったらどうする?」
「悲しむかな」
「……悲しむだけか?」
「もちろん引き留める努力はするよ」
「とんでもない極悪人だったとしても、か?」
「ロドスにいる以上、私の指揮下にあるオペレーターである手前。そう簡単に手放すわけにはいかない」
「……そっか」
顔を覗き込もうとしたらそっぽを向かれてしまった。だが、髪から覗く耳が赤くなっていることから照れているのがわかる。
アイスを食べ終えてから、スルトが振り向いた。
唇の端にバニラアイスが残っていることに気づいたドクターが唇を指す。
「スルト、アイスが付いてる」
「……わざとだ、このバカ。それくらい気づけ」
「え……」
「はやく取ってくれ。いらないのか……アイス……」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら、何かを待っている。それが何を指し示しているのかはドクターも理解していた。そして、スルトがそれを目的として訪れたであろうことも。
頬に手を添えてドクターが顔を近づける。舌で唇の端に残されていたバニラアイスを舐め取ると、そのまま口内へ舌を忍ばせた。
「ん……、っ」
唾液とバニラの風味が混ざり合っていつも以上に甘さが口の中に広がる。ドクターの舌の動きに合わせてスルトも舌を絡ませた。
「っ、ドクター……まて、おっ、い……! んぅぅ!」
制止しようとする声も無視してドクターがスルトを押し倒す。強がる素振りを見せてはいるものの、抵抗しようとはしなかった。
互いに手を握りながら、何度も舌を絡ませる。息継ぎを挟みながら繰り返し、ドクターが腰を押しつけた。衣類越しでもわかるほど屹立した硬い感触にスルトの腰が跳ねる。
「……、っ。スルト……いい?」
「~~! ったく、しょうがないやつ。ほら、とっとと脱がせろ。グズグズするな」
袖を通しただけのジャケットを脱がせ、胸を押さえる留め具を外してワンピースを床に放り出せば、下着一枚のスルトが胸を寄せる。
「……今日の下着、どうだ?」
「情熱的で似合っていると思うよ。汚さないように綺麗に脱がせておかないとね」
「あっ、ちょ……脱がせ方が、いやらしいんだ。いちいち……」
赤い紐のビキニパンツをゆっくりと素肌を撫でながら脱がせれば一糸まとわぬサルカズ女性がベッドの上で鼓動を高鳴らせていた。
ドクターも暑苦しい格好を脱ぎ、同じように裸になると身体を重ねる。
「スルト、ここ気持ちいいんだ」
「んっ……わかってて、やってるくせに……!」
手を秘部に向けて伸ばせば、既に濡れていた。最初からコレが目的で部屋に来ていたことはわかっている。期待に胸を膨らませながらアイスを何食わぬ顔で食べていた、そう考えるだけでドクターはスルトのことを愛おしく思えてたまらなかった。
何度も身体を重ねてきたからか、スルトの弱点は知っている。
膣口から指を挿れて、浅瀬を優しく刺激してやると切なそうな顔で堪えていた。その期待に応えるようにドクターが深く侵入させてから指全体で膣を弄る。肉壁を指の腹で撫でて押し広げながら引き抜き、天井を撫でながら愛液を擦りつけていくと感触の違う場所を集中的に弄り始めた。
スルトの腰が浮き、潮を噴く。
「んっひ、ぃ! そこ、ばっか……! バカ、やめ──!」
「もうイキそう? スルトはここ虐められるの好きだもんね。いいよ、ちょっとイッておこっか」
ドクターが指の動きを激しく前後させる。膣からかき出される愛液で手が濡れても気にせずスルトの顔をジッと見つめたまま愛撫する手を止めなかった。
「やっ……め──!! あっ、ひっ、イッ──ッ~~~!!」
勢いよく吹き出す潮を手で受け止めながらドクターは腰を浮かせて痙攣する姿をジッと観察する。羞恥に耐えきれなくなったのか、スルトは顔を手で隠していた。
ピンと起った乳首を隠すよりも、小水を漏らしたようにずぶ濡れとなった秘部がいやらしく痙攣しているのを隠すよりも、顔を見られる方が恥ずかしいと判断してのことだが、ドクターは気にせず勃起した陰茎を膣に下腹部にあてがってすりつける。
「スルト。挿れるよ」
「ん、ぅぅ! んんんぅ!! イッたばっか、り、ィ!?」
「毎日のようにしてきたから……、すんなり入るね。奥まで入ってるの見える?」
愛液によって抵抗の減った膣はドクターの陰茎を難なく受け入れた。その勢いのままに奥まで挿入すると、腰を浮かせている。
すっかり形を覚えてしまったのか、ぴったりとフィットして離そうとしない膣の動きに合わせてドクターが腰を動かし始めた。
ゆっくりと引き抜き、緩急をつけた動きでスルトの身体を悦ばせる。
「相変わらず、すごい締まり……! それにスルトの身体、いつ見てもすごい綺麗だ」
「ふッ、んっぅ! 変、な! ことばっか、言うなぁぁ……!」
「ところで、なんでいつも顔を隠すの?」
「ッ~~……!」
腰を掴んで動きながらドクターが素朴な疑問を投げかけるが、スルトは唇をキツく閉じて押し黙ってしまった。
「スルト?」
「~~、んッ!!♡」
親指で盛り上がった陰核を撫で、指で押し潰しながら陰茎に擦りつけると腰が震える。必死に声を我慢しているのか、足が震えていた。だがそれ以上に下の口がキツく閉ざされてドクターにより強い性的快感を与えてくる。
カウパーをだらしなく鈴口から垂らしながらスルトの膣の中をかき回す陰茎の根本には、今にも決壊しそうなほど精液が留まっている。
「ほら、教えてくれないか。いつも枕に顔を埋めたり、手で隠したりしてるのはどうして?」
「そ、そんなの──恥ずかしいからに、決まってるだろバカァ……! 言わなくても、ヒッ、わかってるくせにぃ!」
恥ずかしい、何を今更と思う。ドクターはクリトリスをイジっていた手を離して顔を覆っていた手をどかす。
「ぁ、ふぁ……ば、ばか。見るな、この……バカ! 燃やされたいのか!?」
「……こんなに可愛い顔を見れるなら燃やされてもいいかな」
指を絡ませるように手を握り、ドクターは腰を深く沈み込ませる。身体全体で覆いかぶさる形でスルトに体重を預けると、足で腰を拘束された。
目尻に涙を溜めて、快楽に抗おうと恍惚に染まりきれない強気な目で睨まれながらもドクターはその口元が緩んでいるのを見逃さない。耳まで真っ赤にしていては凄んでいても説得力がなかった。
「スルトの中、すごく熱くて気持ちいい……このまま繋がっていたいくらいだ」
「は、恥ずかしいこと言うな……私だって……」
「……このまま、中で出していい?」
「ん……す……──好きにしろ」
「じゃあ動くよ、正直そろそろ限界なんだ。スルトの顔を見ていると、我慢できなくなる」
痛いほど手を握りしめて、ドクターが腰の動きにラストスパートをかける。
「んっ。くっ! ぁ、んぅ! ドク、ター……ドクター、ちょっと激し……! く、ぅんッ♡ そんなされたら……!」
「イキそう? 見ててあげるから、スルトも、一緒に……!」
「ち、っが! ばか、だから見るな! 見る、な、ぁあ……! んっ、あっ、イッ──!!!」
「スルト──ッ!!」
最後まで顔を隠そうとするスルトの手を押さえつけながら、ドクターは腰を引いて子宮口に亀頭を突きつけて射精した。勢いよく駆け上がる精液が尿道を抜けてスルトの膣内にとめどなく吐き出されていく。それを待っていたとばかりに口を開けて飲み干す子宮に注がれて、無意識のうちに自分から腰を振っていた。
「イクッ、イ、クぅぅぅ──……!」
「う、ぁ……やば……搾り取られる……う、ぅぅまだ出る……! 気持ちいいの止まんない……!」
「は、ぁぁ……! 私も……コレ、好きだ……ほら、さっさと残ってるのも出せッ」
「ちょ、ちょっ……と、スルト。それはダメだって……! ああぁ搾り取られる……!」
スルトが腰を押しつけ、くねらせながらゆっくりとドクターから精液を残らず搾り取る。勢いこそなくなったものの、敏感になっていた亀頭が刺激されて残尿感から吐き出されるなけなしの精液を吐き出すと膣圧に負けて押し出されていった。
「……♡ ふぅ、フっ……なんだ、もうおしまいか? ほら、ドクター。私のココが寂しがってるだろ」
「ひぃ、ふぅ……ちょ、ちょっと休ませて」
「なんだ、だらしない。さっきまであんなに乗り気だったくせに、この」
ドクターと繋いでいた手を離したかと思えば、次の瞬間には攻守逆転。
足を大きく広げながら秘部を開いて精液をドクターの下腹部に垂らすと、スルトは妖しく笑ってみせた。
「なら、今度は私の番だ。あんなに辱めたんだ、覚悟しろよドクター……♡」
「スルトって性欲強いよね……体力有り余ってるからかな?」
「──っさい! 大人しく私にヤラれてろ、ドクター!」
──後日。ロドス・アイランド号の廊下にて。
「ニアール。この間は……その、ありがとう……」
「ん? いいや、礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」
「お礼と言っちゃなんだけど。これやる」
スルトが持ってきたのは、ファミリーパックのアイス。個包装で衛生的。中身もカラフルでお子様も大喜び。ニアールが産地を確認してみると、極東からだった。
「これはまた遠いところから取り寄せたな……」
「ロドスにはアンタの血縁者もいるし、そいつらと一緒に食べたらいい。って、ドクターからアドバイスされた」
「わざわざすまない。そうだ、スルト」
「なんだ?」
ニアールの横を通り過ぎようとして、すぐさま呼び止められる。
「同じ職分の前衛オペレーターとして、今後も君の力は頼りにさせてもらう。ロドスの仲間として」
──仲間。その言葉に、どれほどの実感が湧いたのか。
スルトはニアールに笑ってみせた。
いつものように、自信に満ちた笑みで。
「──あったりまえだ」
過去のない女と、過去から逃げた男のちょっとした話