【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
今日もアンシュラオンは仮面を被って、サナと一緒に医者の仕事に向かう。
しかし、そこには若干の疲れが見られた。身体的ではない。【精神的】なものだ。
(…だるい。そろそろ引きこもりたい)
怠け癖である。
このアンシュラオンという男、地球時代でもけっこうな引きこもりであった。
社交的でないわけではなかった。むしろ明るく社交的であり、機微に長け、上手く場を制御する力を持っていたものだ。
が、興味がないことには「飽き」が付きまとうものであり、一度そうなるとやる気が減退する。
ホテルを借りるために仕方なく働いているが、本当なら毎日ごろごろして過ごしたい欲求が襲ってきているのだ。
サナと一緒に毎日ごろごろ。
それはもう可愛い猫と一緒に、ぐーたらする生活である。
こんな幸せはない! 断言してもいい!
しかし、問題もある。
(ホテル生活もいいけど、やっぱり全部を借り切ったのはやりすぎだったか…。でもなぁ、他人に干渉されるような場所だと落ち着かないし、あれくらいのものでないと満足できないよな。金はなんとかなるけど、うーん、自分だけのもの…か)
上級街と中級街の一軒家を除き、このグラス・ギースでは賃貸が一般的である。
多くの人間は安宿を借りており、自分の家を持っている人間は少ない。実際のところ一軒家も社宅が多いので、全部自分のものかと問われると微妙なところだ。
アンシュラオンが欲しいのは、あくまで自分が気ままに暮らせる場所である。
仮に安定した金を得ても、ずっとホテル暮らしというのは飽きてしまう。ホテルそのものを買い取らない限り、自分のものにはならないからだ。
支配欲が異様に強いので、すべてが自分の思い通りにならないと嫌なのである。
賃貸が嫌になって、男が一軒家を持ちたがる心境と同じである。男は誰しも、一国の城主になりたいものなのだ。
さらに、もう一つの事情もある。
(グラス・ギース自体が領主のものだ。いくら自分の場所を作っても、あいつがまたちょっかいをかけてくれば面倒なことになる。それなら城壁の外に出て、好きな場所に拠点を作ってもいいが…サナはまだ幼い。荒野でいちから作るのは難しいな…)
前にマキや領主が言っていたように、ここは領主の個人都市なのだ。自分の家を持とうと、あの男の土地を借りていることには違いがない。
それに満足できるかといえば―――できない。
そうなると選択肢は一つしかない。外、荒野だ。荒野ならば誰の物でもない。自由にできる。
荒野に自分の居場所を作ってもいいのだが、さすがにそれは面倒くさいし、今はサナがいるので難しい。
となれば多少の問題はあれど、やはり都市の中で暮らすほうが現実的だろう。
すると結局、領主の話に戻る。
「はぁ、領主はやっぱり殺したほうがいいかな…」
「なに物騒な話をしているんですか!?」
「あっ、ゴールデン・シャイーナだ」
「その呼び方はやめてください!!」
俯いていた顔を上げると、そこにはシャイナ(ゴールデン・シャイーナ)の呆れた顔があった。
考え事をしていたら、知らずのうちに診察所に着いていたようだ。
「昼間から恐ろしいことを言わないでくださいよ!」
「そのほうが平和になるかなと思って」
「殺してどうするんですか?」
「オレが領主になろうかな。そうすれば、みんな幸せだ」
「その自信が恐ろしい!? 絶対になれないですよ!」
「なぜだ? オレに支配されたら幸せなはずだ。税金だけで食っていけるんだぞ。最高じゃないか」
「最高なのは先生だけです! 払うほうは大変ですよ」
「教祖と同じシステムだ。すべての人間は、オレに貢ぐために生きているんだ。オレのために働け」
「はいはい。そんな妄想は置いておいて、がんばってお仕事してくださいね。見てください。今日も盛況ですよ」
目の前には患者の行列。今日もホワイト診察所は大盛況である。
「タダで治療してもらおうと思っているゲスどもが見える。死ねばいいのに」
「先生は歪みすぎです。自分が一番ゲスなんですから、お仲間だと思って優しくしてあげてくださいね」
「雇い主にそんなことを言うとは…クビだ!!! お前はクビだ! 嫌なら股を開け!!」
「はいはい、セクハラですからね。早く入ってください」
「オレは先生だぞ!! 偉いんだ! 敬え!」
「はいはい」
「ゴールデン・シャイーナのくせに生意気だ!!」
「はいはい、悪かったですね。どうせ生意気ですよ」
アンシュラオンの主張は完全無視で、小屋の中に入れられていく。シャイナの勝ちである。
それから彼女はテキパキと準備を進める。といっても、やることは簡単な掃除と人員整理くらいであるが、いつも通りの明るい態度だ。
そんな助手を、アンシュラオンは不思議そうにじっと見る。
(もう来ないかと思ったら普通に毎回来るな。それどころか上手くあしらわれているような気がする。股も開かないくせに生意気だ)
あれだけのことがあったのだから、シャイナはもう来ないと思っていた。常人からすれば、かなりの恐怖であっただろう。来ないのが普通である。
しかし、あれから一週間経っても、彼女はこうして診察所に通い続けている。
(妙にすっきりした顔をして…。はっ、まさか!? 哀しみを男に慰めてもらったとかじゃないだろうな! 許さん、許さんぞ! オレの近くに、オレ以外の男の臭いをさせる女がいてたまるか! 矯正してやる! 修正してやる!!)
「けしからん!! 見せろ!! パンツの中を見せろ!!」
「きゃーー! 先生がおかしくなった!! うわー、見られたー!!!」
「な、なんだと! まだ処女膜が健在だ! どういうことだ!? 最初の性交では破れなかったのか!?」
「何の話をしているんですか!!」
「だから、性交の話だ!!」
「言いきった!!」
「処女膜があるなんておかしい。なんでお前はここにいる!」
「言っている意味がわからないです! 性交をしていませんから膜はありますよ! それに助手ですから、いて当然です!」
「お前は助手じゃない! 性奴隷だ!」
「何かに引っかかりそう!?」
その表現はいろいろと危険かもしれないが、潔く貫く。この男には何も怖れるものはないのである。
「なぜだ! なぜここにいる! 処女のままで! はっ、金か! 金が目的か! 卑しいやつめ!! オレから金をむしり取ろうとしているな! 浅ましいやつ!」
「違いますよ! どうしてそんな発想しかないんですか!!」
「金か性、それか物。それ以外に人間が動く理由があるのか? まあ、自己満足という線もあるがな」
最悪の発想である。
それから溜息をついて、シャイナが仕方なく話し始める。
「先生が駄目な人ってのは、この前のことでよくわかりました。いや、もっと前からわかってますけどね。全部が駄目すぎます」
「勝手に駄目人間にするな」
「でも、駄目な人でしょう?」
「その自覚は少しはあるが、よく見てみろ。目の前にもっと駄目なやつらが山ほどいる。愚者どもばかりだ」
「そんなのは程度の違いですよ」
「程度の違いは大切だ。馬鹿と天才くらい違う。そして、オレは後者だ!」
「もう、また屁理屈ばかり言う。先生は駄目な人だから、せめて私が近くにいないといけないと思ったんです」
「お前こそ典型的な駄目女の思考じゃないか。意味不明な理由で売人をやりおって」
「先生よりはちゃんとした理由だと思いますよ。このご時勢で、立派な孝行娘の部類に入ると思います」
「駄目な父親なんて捨てろ。それで終わりだろう」
「先生とは違いますから」
「それはもういい。だが、お前の苦悩ももうすぐ終わる。邪魔だから、それまでどこかに隠れていろ」
「それが嘘っぽいんですよね。先生のことです。何か企んでいるに決まっています」
「根拠があるのか? 言いがかりなら性奴隷にするぞ」
とんでもない発言。
「では伺いますが、どうしてソイドファミリーを潰そうと思ったんですか?」
「オレに敵対したからだ」
「それだけですか?」
「不満か?」
「直接的な被害は少ないと思いますけど。それだけで面倒がり屋の先生が動くなんて、ちょっと考えられません」
「じゃあ、お前のためだ。哀れな助手のために上司が一肌脱ぐ。素晴らしい男じゃないか。感動だね」
「それは明らかに嘘っぽいです。じゃあって言ってるし」
「助手の心配をして何が悪い。こう見えてもオレは正義の使者なんだ。悪を許してはおけん。だから潰すと決めたんだ。そう、正義の味方だからな」
「それは絶対に嘘です!」
「断言しやがったな!?」
シャイナのためというのは本当だ。そのために動いていることも事実。
しかしシャイナには、どうしてもそれだけが理由とは思えない。
そこで、ふと思い当たることがある。
「もしかして…相手から【財産を奪おう】とか考えていませんか? 酒場で財布を奪ったのを思い出して確信したんです。理由はたぶんこれだ、って」
アンシュラオンは正義の味方ではない。シャイナに情が移ったとしても、それだけでこれほどの面倒なことをするわけがない。
となれば、目的は【金】。
さきほど彼自身が言ったように、女か金、物でしか彼は動かない。麻薬が必要とは思えず、リンダに対してもそっけなかったことを思えば、やはり金に行き着く。
「どうですか? 違いますか?」
「……金? 何のことだ?」
目を逸らした。正確には、首を横に向けた。
確定である。
「やっぱり狙ってるじゃないですか!! どうせ売上金を巻き上げようと思っているんでしょう! それでだらけて暮らすつもりですね!」
「馬鹿を抜かすな!」
「違うんですか?」
「その程度で満足すると思っているのか! あいつらの麻薬製造技術と販売ルートを全部いただくのだ!! それで一生遊んで暮らす!!」
「もっと酷かった!! 中身が入れ替わるだけじゃないですか!?」
「うるさい! 当然の報酬だ! 何が悪い! 正義の味方をやるにも金がかかるのだ。ヒーロー物が次々と新兵器を生み出せるのは、誰かから金を巻き上げているからだ」
公的機関であることをいいことに、次々と思いつきで新兵器を開発するのがヒーロー物の特徴だ。その金は国民の血税であることを忘れてはいけない。
税が駄目ならば、次は悪党側から奪えばいい。悪さして儲けた金が、じゃぶじゃぶあるに違いない。それをごっそりいただく。
これだから正義の味方はやめられないのだ。
「やっぱり先生は打算的です!」
「ふん、それもオレの勝手だ」
「先生には私が必要です。放っておくと危険すぎます」
「なんだと! シャイナ犬のくせに生意気だ! けしからん乳をしおって! モミモミ!!」
「あうっ!! この程度じゃ諦めませんからね!」
「じゃあ、尻の穴を攻める!!」
「ぎゃーー! やめてください!! 変態行為ですよ!!」
「嫌なら、さっさと諦めろ!」
「諦めません!!」
セクハラにも耐える今日のシャイナは、いつもと違う。やたら粘る。
だからやり方を変える。
「ならば、これを見ろ!」
「キャッーー! なんでパンツを下ろすんですか!!」
「オレのゾウさんを愛でるがいい。嫌なら帰れ!」
「馬鹿なことをしていないで、早くしまってください!!」
奇行、再び。
遠くで子供が見ていたので、仕方なくズボンを上げる。第三者からは、ただの露出狂にしか見えない。