【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
(あれが…ホワイトか?)
そんなお姉さんたちを相手にして楽しんでいるホワイト医師を、奥から見ている男がいた。
ソイドファミリーの幹部であり、ソイドダディーの長男であるソイドビッグである。
今は倉庫にいたときのようにラフな格好ではなく、他の構成員と同じように黒いスーツを着ている。
ただし普通のものではなく、いつ戦闘が起こってもいいように魔獣の素材で強化したスーツを着ているため、ただでさえ大きい身体がさらに大きく見える。
彼は組織ではナンバー3という地位にいるので、かなりの大物がやってきたことになる。
それだけソイドファミリーが、ホワイト医師を重要視しているということだ。
しかし、想像していたものとはまったく違う姿に、驚きを隠せない。
(俺には、ただの女好きにしか見えないな。しかもあの背丈、まるで少年のようだ。あんな男が、どんな病でも治す名医なのか? ううむ。直接見て、ますます信じられなくなったな。そもそもなぜ仮面をしているんだ? 怪しすぎるだろうが)
ビッグの顔はかなり困惑しており、自分の目を疑うように何度もホワイトを見ては首を傾げていた。
この男、案外まともな神経をしている。
まさにその通り。あの姿を見て、医者だと思うほうがおかしい。ビッグの判断は正しいの一言だ。
「あれが医者か? 本当に名医か? 間違いないか?」
自分の目が間違っていないか、隣に控えていた側近であるジェイに問いかける。
ちなみに部下に話しかけるときは威厳を保つために、家族で話しているような言葉遣いはしない。
しっかりと低く威圧的な声で話す。これもまたケジメである。
「は、はい。間違いありません。あの人物で合っています」
ジェイも会うのは二度目だが、まったく慣れていない様子で答える。
彼も商売柄、いろいろな人間と出会ってきたはずだが、その中でも相当奇異な部類に入るのは間違いない。
「そうか。合っている…のか。それにしてはあまりにも…なんというか…遠慮がないな。医者とは、ああいう生き物だったか?」
「医者にもいろいろとおりますので…」
「俺が言うのもなんだが、今の医療界は腐ってるな。医療事故が増えるわけだ」
ラングラス一派には【医師連合】と呼ばれる組織が存在する。医者が組員というわけではなく、医者を登録させて管理している組織である。
医療品を取り扱うラングラス一派と医者とは、当然ながら密接な関係にある。
医師連合は医者を管理し、登録した人間にだけ医療品を卸すという形式を取っているので、グラス・ギースにいるほぼ全員の医者を手中に収めていることになる。
その中には癒着を受け入れる者も多く、麻薬の売り上げの半分は彼らの処方によるものだ。
ただ、どの医者も最初は体裁を保つもの。それが擬態であっても、まずはお堅いイメージで接するものである。
それが最初から―――欲望丸出し。
まったく自分を偽らないで楽しんでいるホワイト医師は、とても珍しい存在である。
たしかにそういった者も存在はしている。ただし、そういった輩の大半は「クズ」と呼ばれるような人間たちばかりだ。
医者を名乗って金儲けをすることしか考えない、社会の害悪である。
されど、ホワイト医師は名医である。そこが彼らとの絶対的な差であろうか。
(本当に医者なのか? どう見てもただのエロオヤジ…エロ少年にしか見えないが…。いや、実力があれば問題ない。あれだけ奔放なら、こちらの要求も素直に受け入れるかもしれない。苦手だが、リンダのためにも交渉はまとめないといけない)
ビッグの得意分野は、どちらかというと暴力関係である。ダディーが出ると面倒になる暴力沙汰を代理でこなすことも、大切な仕事の一つだ。
普段の交渉はマミーなどの担当なので、あまりこういったやり方は得意ではない。
だが、リンダとの結婚がかかっているので必死にもなる。
(これは仕事だ。できるだけ我慢しよう。それも勉強。リトルが得た情報を、俺が失敗で終わらせるわけにはいかないしな)
心を一度落ち着けてから、側近を引き連れてゆっくりと歩み出す。
それに気がついたホステスたちが道を作り、ホワイトの対面に案内する。
「んー、なんだ? 今、いいところだったのに…」
ホワイトは、ホステスが離れたことに不快感を露わにする。
(そういえば、男嫌いという情報だったな。ここまで露骨か)
リンダからの情報で、極度の男嫌いということはわかっている。
というよりも、その情報を得たのでリンダを送り込んだと言ったほうが正しい。
こちらもあまり近寄りたくはないが、これも仕事。半ば強引に話を通す。
まずはジェイを介してホワイトに紹介させる。
「先生、お楽しみのところ申し訳ありません。こちらが我々の直属のボスとなります、ソイドビッグ様です」
「初めまして。ソイドファミリー若頭、ソイドビッグと申します。どうぞビッグとお呼びください」
上の組織の人間とも会うので、最低限の礼儀は心得ている。
ビッグができる最大限の礼節で接するが―――
「は? ピッグ? 豚か? ははは、名前の通りに豚っぽい顔をしているな。よろしくな豚君。オレはホワイトだ。ホワイト様か先生と呼べ」
「ぐっ…!!」
「せ、先生、その…それは……さすがに……」
ジェイが青ざめた顔でビッグの顔色をうかがう。
しかし、招待した客に面と向かって「それは失礼でしょう」とは言えず、なんとも微妙な空気が流れる。
それを察したホステスの間にも緊張が走ったのがわかった。マフィアの若頭に無礼を働けばどうなるか、誰でもわかることだからだ。
だが、ホワイト医師の態度はまったく変わらない。
「なんだ? 文句があるのか? オレは客だぞ!!」
「しかし、こちらは…」
「いや、いい。…先生が呼びやすいほうでかまいません。どうぞお好きにお呼びください」
「そうか、そうか。じゃあ、よろしくな、豚君」
「…ぬぐっ!」
まさかのホワイト医師の発言に思わずブチ切れそうになるが、凄まじい忍耐力を発揮して耐える。
自分でも沸点が低いという自覚はあるので、ここで耐えられたのは奇跡に近いだろう。一瞬浮かんだリンダの顔のおかげで助かった。
だが、簡単に収まるような怒りではない。
(なんだ、この失礼なやつは! ぶん殴ったほうが早いんじゃないのか!? くそっ!! ニヤけやがって! 仮面があるからわからない、とでも思っているのか!!)
やはり人間の態度は、雰囲気からでもわかるものである。
ホワイトは―――笑っている。
仮面の中で、ニタニタと笑っているのだ。今の言葉も、わざとであることが簡単にわかる。
唯一わからないのは、なぜ彼がこのような行動に出るのか、ということ。このような横柄な態度を取るメリットがあるのかが、まったくわからない。
しかし、単なるそういう性格の男、という可能性もある。
今までの情報を考えてみれば、それこそが真実なのかもしれない。医者なのに男を毛嫌いすること。極度の女好きであること。貧乏人が嫌いなこと。自らこちらにコンタクトを取ったこと。
すべてが医者らしくなく、ホワイトどころか、むしろブラック。
(我慢! 今は我慢だ! こいつは、こういうやつなんだ。そんなことでいちいち腹を立てていたら、ダディーの期待に応えることなんてできない! 殴りたいが、我慢だ)
自身に宿る暴力性が顔を覗かせるも、ダディーの言葉を思い出して踏みとどまる。
組織の長ともなれば、こういった機会は多くなる。安易な挑発に乗ることは組織全体を危機に陥れるのだ。
ビッグは、営業用のスマイルを必死に作る。
「それで、仕事のお話をしたいのですが…よろしいでしょうか?」
「女がいない場で話なんてできるか。ほら、こっちに来なさい」
「えっ、あの…」
「…先生の言う通りにしろ」
「は、はい!」
再びホワイトがホステスを呼び戻す。そして、命令。
「じゃあ、オレの膝の上に乗れ」
「は、はい。こうですか?」
「そうだ。またがって、がばっと胸を顔に押し付けて! そうそう、いい感じだ。それじゃ、豚君。仕事の話をしようか」
「その格好…で、ですか?」
女性を抱いたハッスル状態で仕事の話。新しいスタイルである。地球ではすでに流行っているかもしれない。
「聞かれたところで問題はあるまい? どうせいつかはわかることだ。気になるなら、後で口止めでもしておけばいい。お得意だろう? そういうものは」
「…わかりました。先生がそれでよろしければ」
「うむ、オレはこのほうが落ち着く。はぐっ!」
「んふっ!」
「うむ。いい噛み応えだ。素晴らしい」
お姉さんの乳に軽く噛み付く。相変わらずのフリーダムである。
もう呆れることすら諦め、ビッグはそのままで話を続けることにする。早く終わらせたいという気持ちのほうが勝ったようである。
「先生、お話というのはですね、実はその…」
「お前のところで扱っている麻薬の話だろう?」
「ご存知ですか」
「そりゃな。ソイドファミリーといえば麻薬だ。知らないやつはいない(嘘)」
じいさんから聞いた情報を、あたかも最初から知っていましたよ的な雰囲気で話す。
「で、なんだ。オレが治療しすぎたから売り上げでも減ったか?」
「…正直に申し上げれば、その通りです」
ビッグの顔に、少しばかり緊張の色が滲む。
(この男、クズを装っているが切れ者か? 今までのはフリなのか? 今、女の胸を楽しそうに揉んでいることも!)
いいえ、心の底から楽しんでいます。
そうしてホワイト医師の様子をうかがっていると、相手のほうから先手を打ってきた。
ホワイトが手の平を上に向けて、人差し指と親指で丸をつくる。日本では金を意味するジェスチャーだ。
ちなみに欧米などでは、親指で人差し指と中指をこすり合わせるのが、お金のジェスチャーらしい。日本は硬貨で、欧米は札のイメージだ。
「?」
(やっぱりわからないか。ジェスチャーは難しいな)
やはりジェスチャーは通じなかったようで、ビッグはそれを不思議そうに見ていた。
だが、相手に通じるかどうかは関係ない。こちらの意思を強く示すために使ったものである。
「―――金だ」
「は?」
「金をよこせ。一日計算でどれくらい出せる?」
「あ、ああ、そういうことですか。ご希望額を伺っても?」
それはビッグも想定内だったのだろう。少しだけ戸惑ったが、当初の予定通りの流れになったと安堵していた。
「そうだな…一日百万もあればいいか。あまり欲をかくのも悪いからな。その程度の【小銭】で手を打ってやろう」
「百万…ですか。一ヶ月で約三千万と考えてよろしいですか?」
「そうだな。それくらいでいいだろう」
(毎月三千万か。大きく出やがって)
その額にビッグは内心、舌打ちする。
グラス・ギースの住民の平均月収が四万とすれば、百万円は大金である。日本だとそれが五倍なので、毎日五百万という感覚になる。
それが一ヶ月となれば、十日で五千万。一ヶ月で一億五千万となると思えば、かなりの額である。
ただこれはホテルの滞在維持費でもあるため、アンシュラオンからすれば遠慮した金額だともいえる。最低限の額だ。
ビッグは一度、熱した頭を冷やす。これは逆にチャンスでもあるからだ。
(相手から要求してきたんだ。値段はともかく、これは助かった。ダディーの面子を潰さないで済む)
父親のダディーからは、絶対に手を出さないことが条件とされていた。組織を継ぐ者としての忍耐力を試されているのだ。
現在、それは順調にこなせており、基本的に短気なビッグにしては、快挙ともいえるほど我慢できている。
あと少しの辛抱である。この交渉さえ終わってしまえば、気に入らないホワイト医師と会うこともないのだから。
いや、また会う日もあるかもしれないが、その場合は違う顔で接することになるだろう。
(一度癒着を始めれば、もう抜け出せなくなる。いい気になっているのも今のうちだ。そのうち弱味を握って、値段を引き下げてやる。その時は覚悟しろよ)
その時こそビッグの本来の顔、暴力的な素顔を見せる時である。この鬱憤はその際に晴らせばいい、と心を静める。
感情を押し殺した声で、再度確認。
「その金額をお支払いすれば、治療をやめてくださると?」
「それどころか麻薬を取り扱ってやってもいいぞ。オレが勧めれば、患者は喜んで買うだろうからな」
「それはありがたいことです。本当によろしいのですか?」
「当然、その場合は何割かマージンをもらうぞ」
「それはもちろんです」
「がははは! 任せておけ! 儲けさせてやるさ!! ふんふんふんっ!」
「あっ、あっ!! 先生ったら激しすぎる!!」
「はははは! 愉快だな!! 今日はいい日だ! 楽しいぞ!」
(この男、ただのクズだ)
ビッグは、ハッスルダンスでお姉さんを突き上げて楽しむホワイトを、そう評する。
極めて正しい評価だと思う。誰も反論しないだろう。
(月三千万はかなりの額だが、十分元は取れる。今は逆らわずに機嫌を取っておくか。まずは話をまとめることを優先する)
「わかりました。ぜひそれでお願いいたします」
「じゃあ、つまらん話は終わりだな。お前も楽しむといい」
「そうしたいところですが、私は仕事がありまして…。ぜひ先生は、このまま引き続きお楽しみください」
「んん、そうかぁ? まあ、オレもお前と一緒にいたいわけじゃないからな。仕事の話が終わったなら、それでいい。金の件は頼むぞ」
「はい。先生のほうもよろしくお願いいたします」
「任せておけ。ちょろいもんだ」
こうして交渉は成立した。