※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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111話 「ソイドビッグの接待奮闘記 後編」

 

(あれが…ホワイトか?)

 

 

 そんなお姉さんたちを相手にして楽しんでいるホワイト医師を、奥から見ている男がいた。

 

 

 ソイドファミリーの幹部であり、ソイドダディーの長男であるソイドビッグである。

 

 

 今は倉庫にいたときのようにラフな格好ではなく、他の構成員と同じように黒いスーツを着ている。

 

 ただし普通のものではなく、いつ戦闘が起こってもいいように魔獣の素材で強化したスーツを着ているため、ただでさえ大きい身体がさらに大きく見える。

 

 彼は組織ではナンバー3という地位にいるので、かなりの大物がやってきたことになる。

 

 それだけソイドファミリーが、ホワイト医師を重要視しているということだ。

 

 

 しかし、想像していたものとはまったく違う姿に、驚きを隠せない。

 

 

(俺には、ただの女好きにしか見えないな。しかもあの背丈、まるで少年のようだ。あんな男が、どんな病でも治す名医なのか? ううむ。直接見て、ますます信じられなくなったな。そもそもなぜ仮面をしているんだ? 怪しすぎるだろうが)

 

 

 ビッグの顔はかなり困惑しており、自分の目を疑うように何度もホワイトを見ては首を傾げていた。

 

 この男、案外まともな神経をしている。

 

 まさにその通り。あの姿を見て、医者だと思うほうがおかしい。ビッグの判断は正しいの一言だ。

 

 

「あれが医者か? 本当に名医か? 間違いないか?」

 

 

 自分の目が間違っていないか、隣に控えていた側近であるジェイに問いかける。

 

 ちなみに部下に話しかけるときは威厳を保つために、家族で話しているような言葉遣いはしない。

 

 しっかりと低く威圧的な声で話す。これもまたケジメである。

 

 

「は、はい。間違いありません。あの人物で合っています」

 

 

 ジェイも会うのは二度目だが、まったく慣れていない様子で答える。

 

 彼も商売柄、いろいろな人間と出会ってきたはずだが、その中でも相当奇異な部類に入るのは間違いない。

 

 

「そうか。合っている…のか。それにしてはあまりにも…なんというか…遠慮がないな。医者とは、ああいう生き物だったか?」

 

「医者にもいろいろとおりますので…」

 

「俺が言うのもなんだが、今の医療界は腐ってるな。医療事故が増えるわけだ」

 

 

 ラングラス一派には【医師連合】と呼ばれる組織が存在する。医者が組員というわけではなく、医者を登録させて管理している組織である。

 

 医療品を取り扱うラングラス一派と医者とは、当然ながら密接な関係にある。

 

 医師連合は医者を管理し、登録した人間にだけ医療品を卸すという形式を取っているので、グラス・ギースにいるほぼ全員の医者を手中に収めていることになる。

 

 その中には癒着を受け入れる者も多く、麻薬の売り上げの半分は彼らの処方によるものだ。

 

 ただ、どの医者も最初は体裁を保つもの。それが擬態であっても、まずはお堅いイメージで接するものである。

 

 

 それが最初から―――欲望丸出し。

 

 

 まったく自分を偽らないで楽しんでいるホワイト医師は、とても珍しい存在である。

 

 たしかにそういった者も存在はしている。ただし、そういった輩の大半は「クズ」と呼ばれるような人間たちばかりだ。

 

 医者を名乗って金儲けをすることしか考えない、社会の害悪である。

 

 されど、ホワイト医師は名医である。そこが彼らとの絶対的な差であろうか。

 

 

(本当に医者なのか? どう見てもただのエロオヤジ…エロ少年にしか見えないが…。いや、実力があれば問題ない。あれだけ奔放なら、こちらの要求も素直に受け入れるかもしれない。苦手だが、リンダのためにも交渉はまとめないといけない)

 

 

 ビッグの得意分野は、どちらかというと暴力関係である。ダディーが出ると面倒になる暴力沙汰を代理でこなすことも、大切な仕事の一つだ。

 

 普段の交渉はマミーなどの担当なので、あまりこういったやり方は得意ではない。

 

 だが、リンダとの結婚がかかっているので必死にもなる。

 

 

(これは仕事だ。できるだけ我慢しよう。それも勉強。リトルが得た情報を、俺が失敗で終わらせるわけにはいかないしな)

 

 

 心を一度落ち着けてから、側近を引き連れてゆっくりと歩み出す。

 

 それに気がついたホステスたちが道を作り、ホワイトの対面に案内する。

 

 

「んー、なんだ? 今、いいところだったのに…」

 

 

 ホワイトは、ホステスが離れたことに不快感を露わにする。

 

 

(そういえば、男嫌いという情報だったな。ここまで露骨か)

 

 

 リンダからの情報で、極度の男嫌いということはわかっている。

 

 というよりも、その情報を得たのでリンダを送り込んだと言ったほうが正しい。

 

 こちらもあまり近寄りたくはないが、これも仕事。半ば強引に話を通す。

 

 まずはジェイを介してホワイトに紹介させる。

 

 

「先生、お楽しみのところ申し訳ありません。こちらが我々の直属のボスとなります、ソイドビッグ様です」

 

「初めまして。ソイドファミリー若頭、ソイドビッグと申します。どうぞビッグとお呼びください」

 

 

 上の組織の人間とも会うので、最低限の礼儀は心得ている。

 

 ビッグができる最大限の礼節で接するが―――

 

 

「は? ピッグ? 豚か? ははは、名前の通りに豚っぽい顔をしているな。よろしくな豚君。オレはホワイトだ。ホワイト様か先生と呼べ」

 

「ぐっ…!!」

 

「せ、先生、その…それは……さすがに……」

 

 

 ジェイが青ざめた顔でビッグの顔色をうかがう。

 

 しかし、招待した客に面と向かって「それは失礼でしょう」とは言えず、なんとも微妙な空気が流れる。

 

 それを察したホステスの間にも緊張が走ったのがわかった。マフィアの若頭に無礼を働けばどうなるか、誰でもわかることだからだ。

 

 だが、ホワイト医師の態度はまったく変わらない。

 

 

「なんだ? 文句があるのか? オレは客だぞ!!」

 

「しかし、こちらは…」

 

「いや、いい。…先生が呼びやすいほうでかまいません。どうぞお好きにお呼びください」

 

「そうか、そうか。じゃあ、よろしくな、豚君」

 

「…ぬぐっ!」

 

 

 まさかのホワイト医師の発言に思わずブチ切れそうになるが、凄まじい忍耐力を発揮して耐える。

 

 自分でも沸点が低いという自覚はあるので、ここで耐えられたのは奇跡に近いだろう。一瞬浮かんだリンダの顔のおかげで助かった。

 

 だが、簡単に収まるような怒りではない。

 

 

(なんだ、この失礼なやつは! ぶん殴ったほうが早いんじゃないのか!? くそっ!! ニヤけやがって! 仮面があるからわからない、とでも思っているのか!!)

 

 

 やはり人間の態度は、雰囲気からでもわかるものである。

 

 

 ホワイトは―――笑っている。

 

 

 仮面の中で、ニタニタと笑っているのだ。今の言葉も、わざとであることが簡単にわかる。

 

 唯一わからないのは、なぜ彼がこのような行動に出るのか、ということ。このような横柄な態度を取るメリットがあるのかが、まったくわからない。

 

 しかし、単なるそういう性格の男、という可能性もある。

 

 今までの情報を考えてみれば、それこそが真実なのかもしれない。医者なのに男を毛嫌いすること。極度の女好きであること。貧乏人が嫌いなこと。自らこちらにコンタクトを取ったこと。

 

 すべてが医者らしくなく、ホワイトどころか、むしろブラック。

 

 

(我慢! 今は我慢だ! こいつは、こういうやつなんだ。そんなことでいちいち腹を立てていたら、ダディーの期待に応えることなんてできない! 殴りたいが、我慢だ)

 

 

 自身に宿る暴力性が顔を覗かせるも、ダディーの言葉を思い出して踏みとどまる。

 

 組織の長ともなれば、こういった機会は多くなる。安易な挑発に乗ることは組織全体を危機に陥れるのだ。

 

 ビッグは、営業用のスマイルを必死に作る。

 

 

「それで、仕事のお話をしたいのですが…よろしいでしょうか?」

 

「女がいない場で話なんてできるか。ほら、こっちに来なさい」

 

「えっ、あの…」

 

「…先生の言う通りにしろ」

 

「は、はい!」

 

 

 再びホワイトがホステスを呼び戻す。そして、命令。

 

 

「じゃあ、オレの膝の上に乗れ」

 

「は、はい。こうですか?」

 

「そうだ。またがって、がばっと胸を顔に押し付けて! そうそう、いい感じだ。それじゃ、豚君。仕事の話をしようか」

 

「その格好…で、ですか?」

 

 

 女性を抱いたハッスル状態で仕事の話。新しいスタイルである。地球ではすでに流行っているかもしれない。

 

 

「聞かれたところで問題はあるまい? どうせいつかはわかることだ。気になるなら、後で口止めでもしておけばいい。お得意だろう? そういうものは」

 

「…わかりました。先生がそれでよろしければ」

 

「うむ、オレはこのほうが落ち着く。はぐっ!」

 

「んふっ!」

 

「うむ。いい噛み応えだ。素晴らしい」

 

 

 お姉さんの乳に軽く噛み付く。相変わらずのフリーダムである。

 

 もう呆れることすら諦め、ビッグはそのままで話を続けることにする。早く終わらせたいという気持ちのほうが勝ったようである。

 

 

「先生、お話というのはですね、実はその…」

 

「お前のところで扱っている麻薬の話だろう?」

 

「ご存知ですか」

 

「そりゃな。ソイドファミリーといえば麻薬だ。知らないやつはいない(嘘)」

 

 

 じいさんから聞いた情報を、あたかも最初から知っていましたよ的な雰囲気で話す。

 

 

「で、なんだ。オレが治療しすぎたから売り上げでも減ったか?」

 

「…正直に申し上げれば、その通りです」

 

 

 ビッグの顔に、少しばかり緊張の色が滲む。

 

 

(この男、クズを装っているが切れ者か? 今までのはフリなのか? 今、女の胸を楽しそうに揉んでいることも!)

 

 

 いいえ、心の底から楽しんでいます。

 

 そうしてホワイト医師の様子をうかがっていると、相手のほうから先手を打ってきた。

 

 ホワイトが手の平を上に向けて、人差し指と親指で丸をつくる。日本では金を意味するジェスチャーだ。

 

 ちなみに欧米などでは、親指で人差し指と中指をこすり合わせるのが、お金のジェスチャーらしい。日本は硬貨で、欧米は札のイメージだ。

 

 

「?」

 

 

(やっぱりわからないか。ジェスチャーは難しいな)

 

 

 やはりジェスチャーは通じなかったようで、ビッグはそれを不思議そうに見ていた。

 

 だが、相手に通じるかどうかは関係ない。こちらの意思を強く示すために使ったものである。

 

 

「―――金だ」

 

「は?」

 

「金をよこせ。一日計算でどれくらい出せる?」

 

「あ、ああ、そういうことですか。ご希望額を伺っても?」

 

 

 それはビッグも想定内だったのだろう。少しだけ戸惑ったが、当初の予定通りの流れになったと安堵していた。

 

 

「そうだな…一日百万もあればいいか。あまり欲をかくのも悪いからな。その程度の【小銭】で手を打ってやろう」

 

「百万…ですか。一ヶ月で約三千万と考えてよろしいですか?」

 

「そうだな。それくらいでいいだろう」

 

 

(毎月三千万か。大きく出やがって)

 

 

 その額にビッグは内心、舌打ちする。

 

 グラス・ギースの住民の平均月収が四万とすれば、百万円は大金である。日本だとそれが五倍なので、毎日五百万という感覚になる。

 

 それが一ヶ月となれば、十日で五千万。一ヶ月で一億五千万となると思えば、かなりの額である。

 

 ただこれはホテルの滞在維持費でもあるため、アンシュラオンからすれば遠慮した金額だともいえる。最低限の額だ。

 

 ビッグは一度、熱した頭を冷やす。これは逆にチャンスでもあるからだ。

 

 

(相手から要求してきたんだ。値段はともかく、これは助かった。ダディーの面子を潰さないで済む)

 

 

 父親のダディーからは、絶対に手を出さないことが条件とされていた。組織を継ぐ者としての忍耐力を試されているのだ。

 

 現在、それは順調にこなせており、基本的に短気なビッグにしては、快挙ともいえるほど我慢できている。

 

 あと少しの辛抱である。この交渉さえ終わってしまえば、気に入らないホワイト医師と会うこともないのだから。

 

 いや、また会う日もあるかもしれないが、その場合は違う顔で接することになるだろう。

 

 

(一度癒着を始めれば、もう抜け出せなくなる。いい気になっているのも今のうちだ。そのうち弱味を握って、値段を引き下げてやる。その時は覚悟しろよ)

 

 

 その時こそビッグの本来の顔、暴力的な素顔を見せる時である。この鬱憤はその際に晴らせばいい、と心を静める。

 

 感情を押し殺した声で、再度確認。

 

 

「その金額をお支払いすれば、治療をやめてくださると?」

 

「それどころか麻薬を取り扱ってやってもいいぞ。オレが勧めれば、患者は喜んで買うだろうからな」

 

「それはありがたいことです。本当によろしいのですか?」

 

「当然、その場合は何割かマージンをもらうぞ」

 

「それはもちろんです」

 

「がははは! 任せておけ! 儲けさせてやるさ!! ふんふんふんっ!」

 

「あっ、あっ!! 先生ったら激しすぎる!!」

 

「はははは! 愉快だな!! 今日はいい日だ! 楽しいぞ!」

 

 

(この男、ただのクズだ)

 

 

 ビッグは、ハッスルダンスでお姉さんを突き上げて楽しむホワイトを、そう評する。

 

 極めて正しい評価だと思う。誰も反論しないだろう。

 

 

(月三千万はかなりの額だが、十分元は取れる。今は逆らわずに機嫌を取っておくか。まずは話をまとめることを優先する)

 

 

「わかりました。ぜひそれでお願いいたします」

 

「じゃあ、つまらん話は終わりだな。お前も楽しむといい」

 

「そうしたいところですが、私は仕事がありまして…。ぜひ先生は、このまま引き続きお楽しみください」

 

「んん、そうかぁ? まあ、オレもお前と一緒にいたいわけじゃないからな。仕事の話が終わったなら、それでいい。金の件は頼むぞ」

 

「はい。先生のほうもよろしくお願いいたします」

 

「任せておけ。ちょろいもんだ」

 

 

 こうして交渉は成立した。

 

 

 

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