【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
それから改めて、隣の解体施設に向かう。
そこには一人の男性がいた。
歳は二十代後半くらいだろうか。作業着を着た普通の人間だ。特に違和感もプレッシャーも感じない。
「ねえ、おっさん。素材売りたいんだけど」
「おお、そうか。じゃあ、出してみな」
いきなりおっさん呼ばわりである。
少女に対する時と明らかに対応が違う。男と仲良くするつもりはないので、べつにいいのだ。
それに男も、さして気にしていないようである。そういう子供にも慣れているのだろう。
(逃げるのに必死だったけど、ちょこっとは集めていたんだよね。これも習慣かな)
火怨山の麓から逃げていた時、戦うしかない状況の場合に限って、魔獣を狩っていた。そこで手に入れた素材がある。
ただ、量は少ない。剥ぎ取れたのは最低限である。
あまり狩りすぎても、それを目印に姉が追ってくる可能性があったので、わざと殺してから別のルートに行ったりと偽装工作もしていたのである。いちいち剥ぎ取るような余裕はない。
(うーん、どれがいいかな?)
アンシュラオンは、白い革袋に手を入れる。この革袋も逃げながら作ったものだ。
寝ていた白サイのような魔獣から硬い乾燥した皮膚を拝借し、偶然通りがかった巨大なネズミからは、すれ違いざまにヒゲを頂戴した。
その手腕は、もはや天才スリ師に近い。相手が気がつく前に必要なものだけを奪い取るのだ。
皮とヒゲを使い、紐付き革袋の完成である。
ごそごそと探していると、硬質的な感触があった。
それを出す。
「これはどう? けっこうなものだと思うけど」
アンシュラオンが持っていたのは、透き通った青い石。掌よりも少し大きいサイズだ。
「これは…ん? 何の塊だ?」
「魔獣の中にはさ、心臓が鉱物のやつもいるんだよね」
普通の魔獣の心臓は本当の臓器だが、第三級の討滅級魔獣以上になると、なぜか心臓が鉱物になる現象が確認されている。
ちなみに魔獣のランクは八つ。
強い順に―――
・第一級 撃滅級魔獣:都市すら簡単に破壊する獣
・第二級 殲滅級魔獣:軍隊でさえ討伐が難しい獣
・第三級 討滅級魔獣:通常の人間では対応できない獣
・第四級 根絶級魔獣:街に近寄った場合、根絶すべき危険な獣
・第五級 抹殺級魔獣:抹殺対象にすべき獣
・第六級 駆除級魔獣:駆除対象の獣
・第七級 益外級魔獣:益にならない獣、害獣
・第八級 無害級魔獣:無害なもの、家畜化可能種
となっている。
このさらに上位に、国すら滅ぼすという天災級魔獣というものがあるが、それはまず出現しないのでランク付けされていない。ちなみに、ゼブラエスが戦った天竜がそれに該当する。
火怨山は、頂上に近づけば近づくほど魔獣が強くなっていく。アンシュラオンが住んでいた近くでは、第一級の撃滅級魔獣も普通にいた。普通に出会うのが第二級の殲滅級魔獣、たまに第一級の撃滅級魔獣といった割合だ。
むしろ、第三級の討滅級魔獣以下は滅多に見かけない。おそらく上位の魔獣にびびって、テリトリーには近寄らないのだろう。
アンシュラオンが倒したのは、そうした上位魔獣から逃げ、山の麓の森一帯で暮らしている討滅級魔獣。革袋の素材の魔獣も、それに該当する。
アンシュラオンからすれば、可愛い動物程度にしか見えないが、普通の人間ではまず太刀打ちできない存在である。
「それで、どう? 値段は?」
「魔獣のものなんだよな? こんなの初めて見たが…」
「絶対に間違いないよ。狼みたいなやつだった」
「狼? ああいうやつか?」
男は、近くに置いてあった獣の死骸を指差す。そこには、中型犬くらいの大きさの狼がいた。ガルドッグという種類で、第六級の駆除級魔獣だ。
近隣で家畜などが襲われるので、駆除対象になっている魔獣である。
戦闘力は、さほど高くはない。危険ではあるが、そこらのクワでも使えば大人でもなんとかなるだろう。相手が群れでなければ。
だが、アンシュラオンが倒したのは、それとは違う。
「もっと大きかったよ。あれの三倍以上はあったかな?」
「三倍? 本当か!?」
「雰囲気は少し似ているけど、青かったし毛が帯電してたから、たぶん違う種類」
「そんなの聞いたことないが…本当に本当か? 嘘じゃないよな?」
「嘘だと思うなら連れてこようか? ここから五百キロくらい先の森の中に何匹かいたから、一匹くらいは簡単に連れてこられるよ」
「い、いや、遠慮しておこう…本当だったら嫌だし」
「だから、本当だって。疑り深いなぁ」
が、やはり対応は難しい。
「すまん、ちょっと値段はわからない。悪いが、うちでは買い取れないな…」
「やっぱり、こんなもんじゃ値段はつかないの?」
「少なくとも、うちじゃ判断できないってことだ」
「そっか、残念。じゃあ、いらねーや。えーい!」
まるで小石を拾った気まぐれな子供のように投げ捨てる。
「おいっ! 捨てるなよ!!」
「だって、値段つかないんでしょう?」
「いやいや、見た感じはジュエルの原石っぽいから、そういう店なら買い取るかもしれないぞ」
「そうなの? じゃあ、持っておこうかな。捨てるときは、欲しがる人の前がいいもんね。並ばせてから捨てれば、奪い合う姿を眺められるし」
「お前、案外性格悪いな」
「おっさんの姿に、昔を思い出してね…」
(カードのキラキラでよくやったなぁ。懐かしい思い出だ)
小学生時代にカードが流行った時、大量のキラキラを持っていた。もう要らないからと言ったら同級生が欲しがったので、校庭に並ばせて三階からばら撒く、という余興をやったことがある。
(結果は悲惨だったな。醜い奪い合いだった…。あれで人というものを知った気がするな)
「宴会の余興にお勧めだよ。無礼講だと言いながら、部長とヒラの間に落として様子を見て楽しむんだ」
「どんな荒んだ宴会だよ。そんなの嫌すぎる!」
「それをツマミにして飲む酒は美味いよ」
「気まずすぎて酒が喉を通らないって。それより、他にないのか?」
「あとは、これくらいかな」
革袋から、「金の林檎」のようなものを取り出す。キラキラと輝いた謎の物体である。
樹木系の魔獣が頭から吊り下げていたので、なんとなく引きちぎったのだ。直後、魔獣は死んでしまったので、後味は悪かったが。
「見た目は金色だけど、臭いが変なんだよね。臭いが移ったら嫌だし、おっさんに引き取ってもらおうかな」
「おい、本人の目の前で言うなよ。買いにくいだろうが」
「だって、本当に臭うんだよね。ほら」
「ん? どれどれ……ん? ん? これはまさか……おお、うおおおおっ!」
「ほら、やっぱり臭かったでしょう?」
「い、いや、そうじゃなくて…」
「どうしたの? おっさんも人生で嫌なことでもあったの? わかる。わかるよ。オレも姉ちゃんといろいろあってさ…。世の中、うまくいかないよなぁ」
「違う!! これはあれじゃねえか!? 【
「何それ? 林檎の種類?」
「名称で少しは推測しろよ! 薬の原材料だ」
「どう見ても林檎じゃん」
「これを煎じるんだ。それが万能薬の元になるんだよ」
聖樹の万薬。
あらゆる病、特に伝染性の熱病や感染症に対して、ほぼ完璧に治癒させるという幻の妙薬である。
これは林檎に見えるが、中身は抗生物質の塊のようなもの。あらゆる侵入物に対して攻撃を仕掛け、中和させる力を持っている。
そこには彼らの生命力のすべてが詰まっているので、もぎ取ると死んでしまう。アンシュラオンがたまたま取ったものが、それであった。
樹海の奥深くにいるので、普通はなかなかお目にかかれない魔獣だ。
「ふーん。そうなんだ」
「反応薄いな!? これ、すごいぞ! 普通に数百万はするぞ!」
「これが? 本当に?」
「単純にそのまま使ってもいいし、他の薬に混ぜることで効果を増幅させる効果もあるから、薬師にとっては重宝するんだ。最近、値が上がっていてな。なかなか手に入らないって話だ」
「じゃあ、買い取って。二百万でいいよ」
「お前、さっきいらないって…」
「この林檎、すごくいいと思っていたんだ。やっぱり金色っていいよね。品格があるっていうかさ」
「さっき、臭いって…」
「今にして思えば、あれが高貴な香りってやつだったんだね。高い酒だって、味がわからないやつには良い匂いじゃないもんね。だからほら、金よこせ。金を出せ。さっさと出せ」
「いきなり強気だな!?」
「ほら、欲しいんでしょ? どうせもっと高値で売るんだろうから、早く出しなよ」
「それは…そうだが…。ううむ、買い取りたいところだが…手持ちがな…」
「有り金全部でいいよ。財布ごと全部出せ。小銭も一円残らずな。お守りの五円玉も出せよ」
「それはそれで鬼だな。ここにあるのは六十万ちょいだが…他に何か…。ああ、妻はやれんぞ! 絶対にだ!」
「妻? 何言ってるのさ。オレがそんな鬼畜に見える?」
「ばら撒いて楽しむようなやつだからな」
「それは忘れてよ。でも、妻を奪うなんて寝取りゲーじゃあるまいし…って、妻がいるの?」
「ああ、いるぞ」
「脳内じゃなくて?」
「なんで信じないんだ!? さっきお前も話していただろう? あの子だよ」
男は向こう側のテントを指差す。
そこで働いている、中学生くらいの少女を。
「おっさん、犯罪だぞ。歳の差を考えろって」
「愛に歳の差なんて関係ないだろう?」
「限度はある。恥を知れ」
「あれ? 初対面だよな? そのわりに厳しいような…」
「まあ、べつにいいけどさ。だからといって、オレが奪うわけじゃ…」
「スレイブでも俺の嫁だ。渡さんからな」
「だから嫁なんて……スレイブ? スレイブって何?」
「スレイブはスレイブだが…知らないのか?」
「知らないな。何それ?」
「まあ、なんつーか、あれだ。お金を出して手に入れるというか、そういう感じの…」
「犯罪の臭いがするけど大丈夫か?」
「お前なぁ…。これはちゃんとした制度なんだぞ」
「そこんとこ詳しくお願い」
スレイブ。
契約を交わすことで、主人のあらゆる命令に従う存在。
契約には【精神術式】を使うため、当人の意思では逆らえない。
「それって、奴隷ってこと?」
「語弊があるが……だがまあ、うん、そう言われると困るが…似たようなものだ。いやぁ、俺にはもったいない嫁さんでさぁ…」
「このロリコンがぁああああああああああああ!!」
「ええええええ!?」
「満足か!? あんな少女をたらしこんで! 命令して! 支配して!! 毎晩卑猥な命令をして楽しみやがって!!! どんなブルジョワだ、貴様は!!!」
「ぐぇええ、苦しいぃ!」
簡単な説明を聞いたアンシュラオンが、突如激怒。襟首を締め上げ、男を詰問する。
姉の奴隷であった自分にとって、そうした支配は忌み嫌うもの。自意識過剰になっている今の彼には、他人事ではない。
つまり、勝手な八つ当たりである。
「違うって…。誤解だ…」
「何が誤解だ! ああ? 何でも言うことを聞くんだろう!? なんて羨まし……じゃなくて、許さん!」
「それはそうだが…。彼女は、三等スレイブで、ちゃんとしたスレイブなんだ…!」
「ちゃんとした奴隷ってなんだ!? 奴隷はあれだろう! 毎日、イヤらしいことをして楽しむもんだろう!?」
「それこそ偏見じゃないか!? そりゃまあ、ラブスレイブもいるが……俺はまっとうな人間だから普通のスレイブを…」
「ラブスレイブ!! 何だそれは!? その響きは!! 教えろ! どこで手に入れた!? どこにある!? どうやるんだ!?」
「その前に…手を放して…」
(スレイブ? なんだその響きは!? 何かぐっとくるものがある! しかもラブだと!? ラブが付くものは正義のはずだ。何か、何かあるぞ、これは!!)
天から光が差し込んだ気がした。
この瞬間から、彼の宿命が動き出す。