【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
この日の朝、ふと思った。
「
水気とは、火気と同じく戦気を化合して生み出すものである。水属性の攻撃を使うときに変換するもので、その際に水が出る。
たとえば、こう。
「水流剣!!」
アンシュラオンが包丁を使って剣王技、水流剣を放つ。剣気は水気を帯び、鮮やかな軌道を描きながら水飛沫が舞う。
イメージ的には、ウォーターカッターのようなものだろうか。もともとの剣気の性質は完全には失われないので、物理的な切れ味は維持しているバージョンともいえる。
水に弱い相手に有効なのはもちろん、その水の流れに乗ることで、非常に鋭い攻撃を繰り出すことができる。
優雅で流れるような一撃は、回避が非常に難しいものとなるので、命中率が飛躍的に上昇する。確実に当てたいときなどにもよく使用される技だ。
で、問題は【水】の部分だ。
はたしてこれは飲めるのか?
という疑問が湧き上がった。
しばらくひたすら乾燥地帯が続き、村もなく、水場らしいものもなかった。たまに見かけるものも、虫がたかった濁ったもので、近場の動物が飲みに来るようなもの。
浄水器のようなものがあれば飲めるだろうが、普通の人間ならば、あまり飲まないほうがよいものに違いない。武人のアンシュラオンとて、あまり飲みたいとは思わないものだ。
武人は、肉体的に進化を果たした存在である。その覚醒率によって大きな差はあるが、毎日の食べ物の摂取は必須ではない。
たとえば、こう。
「ふぅううう! すーーーはーーー!」
練気。
自身の体内を活性化させ、気を練る。それは生体磁気へと変化し、肉体機能を維持するためのエネルギーとなる。これを溜めることで老化すら防げる。
だが、これだけでは十分ではない。それ以外の要素を周囲から吸収する。
それを【神の粒子】と呼ぶ。
神の粒子は、普遍的流動体として全宇宙に
この星の大気も、大地も、水や電気さえも、これが形を変えたものだといわれている。これを利用することで武人は戦気を生み出す。
そう、戦気こそ、あらゆるものの根源的要素。それを戦闘に特化させたもの。
生体磁気と神の粒子の化合物であり、武人の意思、精神エネルギーによって物質化した力。さらにそれを水状に変化させたのが、水気。
見た目は透明で、まさに水そのものである。
「これ、飲めるのかな?」
アンシュラオンは、身体に飛び散った水を指ですくう。
これを飲もうとしたことは一度もない。そんなことを考える必要がなかった。なぜならば、これは攻撃のためにあり、敵を倒す道具としか思わなかったからだ。
また、火怨山には多くの地下水源が存在するので、水には困らなかった。
アンシュラオンも一度、師匠の命令で地下に潜って水を汲んできたことがある。地下深くにある洞窟の水がどうしても欲しいというので、仕方なく行ってきたのだ。
そこは魔獣の巣窟でもあり、いつもならば出会わない水系の魔獣も大量におり、命からがら水を汲んできたものだ。
が、苦労して戻ったときには、師匠は自ら設置した地下水源直通のホースで水浴びをしており、ボロボロのアンシュラオンを見てこう言ったものだ。
「やあ、おかえり。水でも浴びる?」
あの時、アンシュラオンは陽禅公の人柄を知った。
「あの爺さんを信じちゃいけない」
と。
源泉もあるので、たまに撃滅級魔獣と一緒に温泉に入る、ということもする。べつに常に魔獣を狩っているわけではなく、温和な連中とは共存もしていた。
もちろん魔獣側が、アンシュラオンたちを人間と認識していなかった可能性も高い。「ヤバイやつらだから、戦わないようにしよう」と思っていたのかもしれない。
話は戻って、水である。
今は水不足の状況なので、水の確保は大切な問題である。もし水気が飲めれば問題は解決するだろう。
試しに一滴舐めてみる。
「…なんか、ピリッとするな。何だこれ? 妙に刺激的だな」
昔、口の中で弾けるお菓子が流行ったことがある。パチパチして、ちょっと痛いくらいの刺激のものだ。あれに似ている。
水が、あれに似ている、という事実。
「うん、問題だな。これは飲み物には向かない。飲んで痛い水なんて、さすがに勘弁だ」
それはまるで海水を飲むようなものである。飲めなくはないが、後から何か害がありそうで怖い。
(だが、この問題はもうちょっと調べてみたいな。今まであまり考えたことのなかったテーマだし、何かしらで実験できれば…。誰かに飲ませてみるとか…。いや、それで何かあったら怖いから、そこらの動物か何かで…おや? あれは…)
ふと、トカゲのような生き物が通りかかった。
大きさはワニ程度なのでトカゲかどうかは怪しいが、一応トカゲっぽいフォルムである。似ているのはコモドオオトカゲだろうか。
「ちょうどいい。お前を実験に使おう。ほら、口を開けてみろ」
それを捕まえ、顎を固定して口を開かせる。
(そういえば子供の頃、トカゲに蟻を食べさせようとして似たことしたな…。結局食べなかったけど)
そんなどうでもいいことを思い出しながら、試しに口の中に一滴入れてみた。
―――爆発
「ええええ!?」
一滴水気を飲んだトカゲが、爆発。
腹が割け、ビクビクと痙攣していたトカゲはすぐに絶命。無残な光景である。
そんなつもりではなかったアンシュラオンも、ショックを受ける。
「すまん! まさかこんなことになるとは…。オレは飲んじまったけど…自分のだからいいのか? それとも、単純に耐久力の差か? どちらにせよ、こいつには悪かったな…」
正解は、後者。
武人が生み出した属性戦気は、自分に対しても効果を発揮するので、トカゲが飲んだものと同じ影響を受ける。
単純にアンシュラオンが頑丈だっただけにすぎない。
「やっぱり、もともと戦気ってのは戦闘のためにあるもんだから、飲むのはやめておこう。とりあえず封印だな。…暗殺のとき以外は」
その後、自分の身体は水気で洗えることが判明。身体にかかっても大丈夫なのだからと思って試したが、見事成功である。
ただ、水気で服を洗おうとしたら穴が開いた。硫酸につけたかのように溶け始め、慌てて引き出したもののボロボロになった。最悪である。
そこで一つ、思い出す。
「あっ、服ももらったんだっけ? まあ、まだしばらくは荒野だろうし、ボロボロのままでいいや」
一張羅だと言うと、ロリコン妻が餞別に服をくれたのだ。子供用だったのが少し気になるが、カンフーの道着に似た白い上下の服である。
今着ているアンシュラオンの服も修行用の道着なので、元のデザインを参考にしてくれたのだろう。
あのロリコン、いい嫁を見つけたものである。羨ましい。
その後、朝食のサボテンステーキを食べ、また独り歩きだした。