【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
下級街の裏通りが、一瞬にして略奪の場へと化す。金と女は奪われ、店員は殺されていく。
突如現れた仮面の集団によるあまりに不可解で理不尽な行動は、現実感が希薄で、まるで映画のワンシーンを見ているかのようだ。
野次馬も舞台を見守る観客となり、異様な興奮状態へと導かれていく。
それを演出するのは白スーツの男、ホワイトと呼ばれる仮面の少年である。
だが当然、これだけのことをやっていれば【抑止力】がやってくる。
まずやってきたのは、衛士。
「こ、これはいったい…! 何が起こっているんだ!?」
誰かが通報したのか、都市の治安維持を担う衛士たちがやってきた。
数は三人。衛士隊は基本的に三人一組の小隊で動くので、最低限の戦力ともいえる。
おそらくはこのあたりを見回っていた
「お前たち、そこで何をしている! や、やめるんだ!」
だが、やはり衛士である。
即座に異常事態であることを認識して近寄ってきた。ただし威勢よくとはいかず、やや引け腰である。
が、それは致し方ないだろう。
明らかに修羅場である。衛士とはいえ、見るだけで身の危険を感じるものだ。
「なんだぁ、変なのが来たな。おい、なんか用か」
「うっ…なんて血生臭いやつだ。それにその刀…血がべったりじゃないか!!」
衛士はヤキチの刀を見て、一瞬後ずさる。
ただ血が付着しているだけではなく、あまりに禍々しかったからだ。
「何を当たり前のこと言ってんだぁ? 殺せば血が出る。生物なら当然だろうがぁよぉ。ああ? で、何の用だ?」
「お、お前らは何をやっている!?」
「見てわかんねぇのか? わかんねぇなら引っ込んでろ。おめぇらも殺されてぇのか」
「我々は衛士隊だぞ! 言うことを聞け! ただちに武器を捨てて戦いをやめろ!」
「あ? 衛士隊? んなもん知るかぁ。邪魔するならよぉ…やっちまってもいいよなぁ? へへへ、丸腰のやつよりは面白いぜ」
「なっ、向かってくる気なのか!?」
「遠慮なんてするなぁよ。それじゃ楽しめないからなぁ。しっかりと腰にぶら下げたもんを使えよ。まあ、それでも対等にもならねぇけどよぉ! ひゃひゃひゃ!」
衛士は銃と剣、鎧で武装をしている。それでもヤキチに臆する様子はない。
(ど、どうすればいいんだ…! 本気で戦うつもりなのか!?)
衛士の男は、この状況にさらに混乱に陥る。
衛士隊は、第一衛士隊、第二衛士隊、第三衛士隊と分かれており、それぞれ第一城壁、第二城壁、第三城壁内部を担当としている。
ソイドファミリーの接待を受けた時、周囲にいた連中は第一衛士隊であり、上級街を担当していることから上級衛士隊とも呼ばれている。
彼らは都市の事情にも精通しており、領主の命令もあってマフィアとの連携を強めているので、完全に組織側とグルになっている存在だ。
一方ここにいる者たちは、第二城壁内部の治安維持を担当とする第二衛士隊である。第一衛士隊が領主に近い部隊なのに対し、彼らは一般公募から集められた者たちだ。
つまりは前に領主城に潜入した際、臨時で集められていた者たちなので、「何も知らない衛士」と言い直してもいいだろう。
そんな彼らは、戦いに慣れていない。
街中で暴れる人間の大半がたいした装備を持っていないので、普通は威圧するだけで何とかなるからだ。
それでも危ない人間の場合、マキなどが派遣されて制圧するので、彼ら自身が戦闘を行うことは稀だ。
だが、目の前の存在は、そんな衛士に対してまったく臆することがない。その状況についていけないのだ。
「へへへ、どこから斬ってやろうかぁ?」
「ヤキチ、面白そうなことをしているな。混ぜろよ」
「なんだマサゴロウ、てめぇはあっちのゴミの処理でもしてろよ」
「もうあらかた終わった。つまらん。まだこっちのほうがいい」
「けっ、獲物の横取りか! こすいやつだなぁ!」
「お前こそ、斬りすぎだ。おれの分も残せ」
「早い者勝ちだろうがよぉ! おらぁの獲物を横取りするなら、てめぇもただじゃおかねぇぞ!」
「…それはおもしろい。やってみろ」
「でけぇ図体だけで勝てると思うんじゃねぇぞ!」
「刀だけで何でも斬れると思うな」
(なんなんだ、こいつらは…)
あろうことか、誰が自分たちを殺すかで張り合っている。
そこに衛士という存在がまるで入っていない。まるで気にしていない。扱われてもいない。
それがあまりに危険。
防衛本能を刺激された衛士の男が、反射的に銃を構える。
「お前たち、動くな! 動いたら撃つぞ!」
「お、おい、刺激するな!」
「馬鹿! このままだとこっちが危ない! さっさと銃を構えろ!」
「…くそっ!」
他の衛士たちも覚悟を決め、銃を構える。
しかし、ヤキチもマサゴロウも、たかが銃ごときで怯えるような可愛い連中ではない。
「撃ってみろ」
マサゴロウが悠然と立って、衛士を睨みつける。
「ほ、本当に撃つぞ!」
「だから、撃ってみろ」
「くっ、本気か!! 撃つしかないか…!」
普段は城壁内部で銃を撃つことなどほとんどない。一度発砲してしまったら、もう後戻りはできないのではないかという恐怖心が湧き上がる。
だが、撃たねば自分が危ない。
さまざまな葛藤が心の中で渦巻き、震える指がトリガーにかかった瞬間―――
「まあまあ、衛士さん。落ち着きましょうよ」
「ひっ!!?」
バスンッ
突然ホワイトが後ろから声をかけたので、思わず衛士が引き金を引いてしまった。
目の前しか見えていなかったこともあるし、彼が気配を殺して近寄ったことも要因だ。
衛士が持っている銃は風のジュエルで撃ち出す機構なため、普通の火薬とは違う軽い音が響いた。
「あっ…あっ!! し、しまった!」
衛士は慌てて自分がやったことを後悔するが、すでに発射してしまった。
彼は今まで人間に向けて撃ったことがなかったので、そのショックも大きかったに違いない。当たり所にもよるが、一般人ならば殺してしまえるだけの威力がある。
だが直後、彼はそれ以上のショックを受ける。
その場に彼の銃弾によって怪我をした人間はいなかったのだ。
目の前の大男ならば銃弾程度ではどうにもならないだろうが、彼が見たものはもっと異様な光景。
突き出された槍の尖端に銃弾が―――刺さっていた。
否。
槍の尖端「が」銃弾「に」刺さっていたのだ。発射された銃弾が、非常に小さな槍先の一点によって貫かれていた。
それはまるで飛んでいるハエを串刺しにした図に似ている。
「やはり遅いものだな、銃弾というものは」
それをやったのは槍を持った小柄な男、雷槍のマタゾー。
少なくとも銃弾が発射されるまで、彼はまったく動いていなかった。それは間違いない。
ならば彼は発射されてから銃弾を超える速度で槍を放ち、この動く小さな的を貫いたのだ。
「なに…が……え? は!? え!?」
衛士が理解できたのは、銃弾が効かなかったということだけ。
あとは何が起きたのかすらわからなかったに違いない。ただただ、その事象に対して呆然とする。
「ふんっ」
バチンッッ
マタゾーが槍の尖端に雷気を集めると、銃弾が一瞬で粉々に弾け飛んだ。
「余計なことをする。どうせ効かない」
マサゴロウが、まさに「横槍を入れた」マタゾーに文句を言う。
「拙僧も退屈だっただけのこと。理由はそれだけよ。しかし、弱いものだ。もっとましな衛士はおらぬのか」
「ちっ、獲物が弱すぎるんだよな。雑魚の奪い合いなんてよぉ、おらぁたちの趣味じゃねぇよ。なぁ、オヤジぃ、こいつら弱すぎだぜ」
「しょうがない。ただの衛士だからな。ところで衛士さん、その銃を貸してもらえますかね?」
「…へ?」
「いえいえ、あなたに撃ったりはしませんよ。ちょっと見たいだけです。いいですよね? ほいっと」
「あっ!」
ホワイトがさっと銃を奪い取る。
見た目は猟銃のような形だが、もっとシンプルというか、地球にあったものより造りが雑だ。
長さもストックを付けたサブマシンガンといった程度のもので、長距離での射撃は想定されていないことがうかがえる。
対魔獣ではなく対人間用の武器なので、それくらいで十分なのかもしれない。
「ふーん、なんか安っぽいなぁ。通販で買ったエアガンのほうが精巧だったな。…これがコッキングか? ガチャッとやって…ちょっと撃ってみるか」
バスンッ
何の躊躇いもなく、自分の手に向かって銃を撃ってみた。
「あんた、何を!!! て、手が…」
「ああ、おかまいなく。銃弾を見たかったんで」
「…え?」
ホワイトの手には、今撃った銃弾が掴まれていた。
「風で撃ち出しているわりには、地球にあるものと同じくらいの威力かな? でも銃ってさ、弾丸の種類も大事なんだよなぁ。これは何だ? 何かの骨なのかな? それを鉄か何かで薄くコーティングしているみたいだ。それに…丸いな。ライフリングは無いのかな? でもまあ、当たれば死ぬだろうから使えないことはないか」
見たところ、速度も威力も地球製と同程度のものらしい。ただし、弾丸自体は鉄や鉛ではなく何か硬いもの、おそらくは魔獣の骨であろうか。
同じく弾が丸い火縄銃も、近い距離からならば現在の銃弾と威力はさして変わらない。衛士の銃も、十分に人を殺すことができるだろう。
(んー? 装填数は二発なのかな? ちょっと少ないな。もうちょっと機構を改良すれば扱いやすくなりそうだけどな…。銃身を伸ばせば距離も伸びるだろうし、殺傷力が低下するけど、風で飛ばすのならば石でも代用できそうだな。なかなか面白そうだ。そのうち改造してみたいな)
一般人の護身用武器としては悪くない。ホロロやセノアあたりが使うにはいいだろう。
銃はキブカ商会からも入手が可能なので、何丁か仕入れるのも面白そうだ。
「あっ、どうもありがとう。これはお返ししますよ。ただ、こんな玩具じゃこいつらには通用しないんで、諦めたほうがいいですね」
「ひ、ひぃ…ば、化け物だ!」
「さて、改めてご用件を伺いましょうか? うちらに何かご用ですかね?」
「え、えと…あ…その……」
「衛士さんたちは街を守る大切な人材ですからね。こちらとしても無闇に殺したくはないんですよ。こっちは裏の事情で動いていますから、見過ごしたほうが皆さんのためだと思いますよ。ここは見逃してもらえないですかね? お互いのために」
「そ、そんなことできるわけ…」
「おい、一度引け!」
困惑している衛士の男を仲間の衛士が制止。
慌てて後ろに引っ張っていく。
「な、なんだよ! 放っておいたら大変だろう!?」
「冷静になれ。明らかに武人だぞ、あいつら。絶対に勝ち目がない」
「だ、だったら…キシィルナさんを…」
「それもやめておけ。手首を見ろ。リングがないだろう? つまりは都市内部での争いってことになる。こうなると、そもそもうちとは管轄が違う。巻き込まれたら損だ」
「どういうことだ?」
「見ろ。組織が動いているぞ」
「組織? なんだそれは?」
「そうか、お前は下級街に配属されて間がないからな…。畑仕事の多い第三城壁内と違って、ここいらではいろいろと決まりがあるんだよ。いいから一度引くぞ。危険すぎる。それはもうわかっただろう?」
「わ、わかった…」
「騒がせて申し訳ない。我々はここで失礼する。それで収めてもらえるか?」
「賢明な判断ですね。どうぞお帰りください」
衛士たちは下がっていく。銃を撃った衛士も、それが簡単に止められた以上、どうしようもできないことを悟ったのだろう。おとなしく戻っていった。
そして、衛士隊と入れ替わる形で―――【彼ら】がやってきた。
もう一人の衛士が言っていたのは、このことである。
そして、彼らこそホワイトにとっての本当の客だ。