【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
クルマは沈黙。
戦艦に攻撃されて無事である存在は、まずいない。当然の結果だ。
それを確認した砲手が、司令室に連絡を入れる。
「目標、撃墜」
その言葉は、人の命を奪ったという報告。何人乗っていたかはわからないが、殺したということだ。
その報告を聞いた指揮官の男は、静かに目を瞑る。
「運が悪かったな。間が悪かった。…それも言い訳か。殺した者の台詞ではない」
「いえ、まさに運が悪いのです。仕方のないことです」
隣にいる副官の男が答える。
たしかに運が悪かったのだ。わざわざこのルートを走らなければ、鉢合わせることもなかったのだから。
「このルートは誰も使わないと聞いていたが?」
「情報では、そのはずです。民間人が使うものは、東に二百キロほど行った先のルートです。ここに一般人は近寄らないはずです」
「では、軍人か?」
「そのわりには一般車両のようでした。ただ、西側のクルマでしたので、他国の軍関係者かもしれませんが…」
「その場合は最悪だな。調査に来られると面倒だ」
「グラス・ギースやハピ・クジュネの領主が断るのでは?」
「それができればな。RBやニアージュあたりが出てくれば抵抗はできまい」
「やつらは南の地の入植で手一杯…だと思いたいですな」
「希望的観測で動かねばならないほど、我々には余裕がないということだ。…起こったことは仕方がない。しかし、本当に見えていたのか? 視認防壁があったのだろう?」
「そのはずですが…対象と接触した際、自壊したようです」
「自壊? そのようなことがあるのか? 俺は術式に詳しくないから細かいことは知らないが…あまり聞かないぞ。普通は損耗して効力が消えるとかではないのか?」
「はい、普通はありえませんが……ここに来るまでに劣化したのかもしれません」
「…そうか。長旅だったからな。だが、そうだとすれば防げた事故だぞ」
「申し訳ありません! 即座に見直します」
「そうしてくれ。これ以上のトラブルは御免だ。この戦力で大規模な戦闘は極力避けたい」
この戦艦には、視認を防ぐための術式結界がかけられていた。視認を完全に防ぐものではなく、周囲と同化することで見えにくくするものである。
ただし、わざわざ夜を選んで移動しているのだ。普通の人間がこの距離で視認することは不可能に近い。
もし見えたのならば、相当目が良い人間に違いない。それだけで貴重な人材であるといえる。
「いい素質を持っていたのだろうが……惜しいものだ」
その男、煤けた深い金髪、
色合いは多様だが、金髪自体は西大陸に多い髪色である。この男もまた身体的特徴によって、自身が西側の人間であることを図らずとも主張していた。
「また誰かに発見されては困る。先を急ぐぞ。今はまだ、この艦を見られるわけにはいかない。早く隠さねばな」
「了解しました」
そして、自身の腰にある剣を触りながら、深い闇に映った灯火を見つめた。
(どんな目的があろうと、その手段がいかようなものだろうと、犠牲は少ないほうがいい。だが、最初からこれか。結局、誰かを殺さずには我々は生きてはいけないのだ。ならば、これからいったいどれだけ殺すのか…。それも魔剣使いの宿命だということか。…因果なものだ。それでもここで生きていくしかない。希望を見つけるしかないのだ)
戦艦が遠ざかっていく。
それを感覚で把握しながら、さらに用心のために五分ほど、じっとする。
その後、何も起こらないのを確認して顔を上げた。
「もう行ったよ。こっちへの敵意は消えたかな」
「なんだよ…いったい。どうなってんだ?」
炎上したクルマから二百メートルくらい離れた場所に、アンシュラオンとダビアはいた。
お互いに傷はない。傷はないが、クルマは完全に大破である。回収も不可能なほど粉々だ。
「ごめん。クルマは捨てるしかなかった」
「…それはいい。命あっての物種だからな。むしろ助けてくれてありがとうよ」
「拾ってもらった恩があるからね。当然だよ。ただ、もしかしたらオレのせいかも。あの戦艦を見ちゃったから攻撃された可能性があるんだ」
「見ちゃったって…相手はそんなことまでわかるのか?」
「うーん、あれって術式だったのかな? 妙に見えにくいから、コード式を壊しちゃったんだよね。たぶん、あれで気づかれて方向もバレたっぽい」
戦艦を覆っていた蜘蛛の巣ようなもの。
おそらく隠密系の術式だったのかもしれないが、見えにくいのでアンシュラオンが眼力で破壊してしまったのだ。
術式に干渉して式を変更して自壊させる。簡単にいえば、数式の値を変更して式を成り立たせなくするのである。
もちろん簡単にはできない。その術式を解除できるだけの術士の因子と実力が必要だ。因子が低い人間が強引にやれば、術式事故を起こす可能性すらある。
それによって警戒した相手が、敵対反応をしたと考えるべきだろう。しかし、警告もなく戦艦がいきなり発砲したのだ。もとより危険な相手に違いない。
それより、である。
「あー、いいなー。ワクワクする。やっぱり戦艦って、カッコイイ!」
「おいおい、冗談だろう。死ぬかと思ったぜ」
「助けたんだから、クルマが壊れたのはチャラね」
「あぁ…改めて考えると悔しいな! 俺のクルマがぁ…! ちくしょう! いったい、どこの馬鹿だ! 賠償請求してやるぞ!」
「そんなことしたら、もれなく銃弾のプレゼントが来るかもしれないよ」
「洒落にならねえよ! 泣き寝入りか!?」
「命があっただけよかったじゃん。物はまた買えるけど、命はそうはいかないしね」
「はぁ…しょうがねえな。運が悪かったな」
「まあ、次に出会ったらお返しくらいはしたいけどね。それに見合うだけの物は奪いたいよ」
「完全に強盗の発想だな」
「それも荒野のルールでしょ?」
「違いねえ」
ダビアがこうしてクルマの心配をできるのも、アンシュラオンが助けたからである。
クルマは大破したが、本当に二人は無傷であった。
「というか、よく間に合ったな。何をやったんだ?」
「一つは直前に修殺で迎撃して、二つ目は
「いや、おかしいだろう!? あの一瞬にどんだけやってんだ!?」
「そんなに速くなかったし問題ないよ。姉ちゃんの攻撃に比べれば、あんなの楽勝だよ」
「それはなんだ? お前のつらい家庭事情に同情すればいいのか? それとも感謝すればいいのか?」
「オレもわからないよ。今は感謝かな。ダビアも助かったしね」
パミエルキの攻撃を防御していた自分にとって、あの程度の攻撃は生ぬるいの一言である。その点だけは姉に感謝したいものである。
本当は偽装工作のために、着弾と同時に火気を発してクルマに火を付けたのだが、そこは言わないことにしておく。
激しく燃えてもらわないと、相手が調べにくるかもしれないから仕方なかったのだ。
(にしても戦艦か! 燃えるな!! 相手を殺し、破壊するための兵器。最高だね! オレもいつか欲しいな)
攻撃されたらさすがに怒りが湧くものだが、今のアンシュラオンは戦艦の格好良さに惹かれていた。
ここは異世界。
のどかでありながらも、身の危険が常にある未開の土地。
それに心躍らせるのであった。