※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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31話 「どうしてあなたは髪の毛を愛するのか? なぜなのか? 僕には理解できない。したいとも思わない」

 

 改めてその男、エンヴィス・ラブヘイアを見る。

 

 深い草色の髪を肩口まで伸ばし、綺麗に整えている。目の色は青。顔立ちは悪くはない。

 

 美男子ではないが標準以上の顔はしているだろうから、女性にモテようと思えば何とかなるだろう。

 

 合コンに行くときに、とりあえず『あいつが来るから』とか言って餌にされるくらいの顔はしている。

 

 着ている濃いモスグリーンのロングコートには、所々に鉄鎖が入っているようで、たまにチャリチャリと音がしていた。

 

 腰にはロングソードと予備の短刀。武器に特別な力はなさそうだが、使い込んでいる様子がうかがえる。

 

 また、特に臭いというわけでもないので、傭兵のわりにはなかなか小奇麗にしているように見えた。

 

 

 だが変態である。

 

 

 これが重要である。

 

 こいつは変態だ。

 

 しかし、傭兵は強ければ許される。それもまた重要な要素だ。

 

 

「で、お前は強いのか?」

 

「青毛級狩人(ブルーハンター)のライセンスを持っています」

 

「青毛級(ブルー)。オレの白牙級(ホワイト)の二個下の第四階級か」

 

 

 下から数えて無足級(ノンカラー)、赤鱗級(レッド)、そして青毛級(ブルー)。計算では、第四級の根絶級魔獣を倒せるレベルにある。

 

 根絶級は『街に近寄った場合、根絶すべき危険な獣』なので、それくらいの敵は倒せるということだ。

 

 だが当然、こんな変態のことをアンシュラオンは信用しない。

 

 遠慮なく自分で調べてみた。

 

 

―――――――――――――――――――――――

名前 :エンヴィス・ラブヘイア

 

レベル:22/50

HP :110/680(殴られたから減ってる)

BP :120/210

 

統率:F   体力: D

知力:F   精神: E

魔力:D   攻撃: D

魅力:F   防御: D

工作:D   命中: D

隠密:C   回避: E

 

【覚醒値】

戦士:0/3 剣士:1/3 術士:0/0

 

☆総合:第九階級 中鳴(ちゅうめい)級 剣士

 

異名:危険な毛髪男

種族:人間

属性:風

異能:毛髪診断、毛髪収集癖、孤独の剣士、広域剣術強化、毒耐性

―――――――――――――――――――――――

 

 

(ほぉ、剣士因子が1か。つまりこいつは、れっきとした武人だということだ)

 

 

 剣士因子が1あれば立派な武人である。

 

 この0と1との間には、計り知れない差があるからだ。

 

 0でも戦気を出せる人間はいるが、1になれば【技】を修得できる。これが最大のメリットとなる。

 

 ラブヘイアは剣士なので、おそらく剣王技(ソードスキル)を修得しているものと思われる。

 

 ちなみに剣王技は、普通に『けんおうわざ』と呼んでもかまわない。覇王技は、ロードスキルあるいは『はおうわざ』。魔王技は、マスタースキルあるいは『まおうわざ』である。特に決まりはない。

 

 ただ、覚えられる技には因子レベルが関係しているので、因子レベル2の技は、どんなに強くても1の人間には覚えられない制限がある。

 

 

(1あれば使えるな。知力と魅力はカスだが、魔力、工作、体力、攻撃、防御、命中がD。Dってのは一人前のレベルを指すから、総合的に考えれば、それなりに体力があって、そこそこ器用で使える剣士といったところか)

 

 

 それに加えて、隠密がCである。

 

 完全に変質ストーカーとしか思えないが、このCがあったからこそ、考えに没頭していたアンシュラオンも気がつくのが遅れたのだ。

 

 もちろん敵意があれば一瞬でわかるが、まさか髪の毛を嗅ぐとは思わなかった。

 

 

(しかし…毛髪診断って何だ? 初めて見たぞ。名前から察するに、そのままの意味か?)

 

 

 そもそも珍しいから異能なのだ。初めて見るものがあっても仕方ない。

 

 これは当人に聞いてみる。

 

 

「お前は、髪の毛から何かを調べられるのか?」

 

「おおお、それに気が付かれるとは、さすが私の…」

 

「次の言葉を言ったらお前を丸刈りにする。永久脱毛だ。転職先は僧侶かボディビルダーだけとなる」

 

「…では、なんとお呼びすれば?」

 

「普通にアンシュラオンでいい。で、どうなんだ? 何かわかるのか?」

 

「はい。相手の本当の美しさがわかります」

 

「美しさ?」

 

「どんなに偽っていても美は隠しきれません。ああ、あなたほどの美しい髪の毛には初めて出会いました!! もう私は虜です」

 

「…ひぃっ」

 

 

 本気でつらい。やめたい。こいつの能力も使えない。無意味だ。

 

 

「お前はいつも単独で動いているのか?」

 

「はい。あまり組んでくれる人がおりませんので、独りで魔獣を狩ることが多いのです」

 

「うん、当然だな」

 

「それに気が付かれるとはさすが…」

 

「うん、誰でもわかることだぞ。自覚しろ、そろそろな。しないと近いうちに闇討ちに遭うぞ」

 

「はぁ…理不尽な世の中です」

 

「正しい世の中だ。少なくともこれに関してはな」

 

 

(スキルの『孤独の剣士』は何だろうな? スキルの詳細までわかればいいんだが、さすがにそこまで便利じゃないか。こういった感じのスキルは、能力に影響を与えるものが多いのはわかっているんだが…)

 

 

 ちなみに孤独の剣士は、単独で戦闘に入ると攻撃の能力値に1.3倍の補正が入る強力なスキルである。

 

 ただし、常に寂しいので精神の値が落ちるというマイナス効果もある。

 

 

(広域剣術強化ってのは、たぶん広域技に補正がかかるんだろうな。…あとは毒耐性。両方ともあって損はないスキルだ。はぁ、変態でなければ少しは使えるやつなんだろうが…変態か。それならそれで利用するか。非常に苦渋の決断だが仕方ない。収集癖があるならば、この手が通じるかな?)

 

 

「じゃあ、取り分は10:0でいいな」

 

「気のせいでなければ、下がっているような…。むしろゼロになっています。さすがにそれは…」

 

「髪の毛が欲しくはないか? 白くて綺麗で良い匂いがする、この世界でもっとも上等な髪の毛を」

 

 

 これ見よがしに自分の髪の毛を触る。

 

 

「っ!! そ、それはまさか…! 私の目の前にある…至高の!」

 

「死ぬほど嫌だが、本当に嫌だが、泣きたいほど嫌だが、報酬としてお前にオレの髪の毛をひと房やろう。これくらいだぞ。これくらいだからな!!」

 

 

 軽く握ったくらいの量だ。

 

 モコモコしているので、ちょっとくらいなくなっても問題ない。この一ヶ月で少し伸びたし。

 

 

「そのようなご褒美、よろしいのですか!? はぁはぁ、ごくり! じゅるり!」

 

「ご、ご褒美…。ぐっ、そう…だ。ご褒美だ。それとも髪の毛は無しで、報酬の折半がいいか? オレはむしろ、そのほうがいいような気がしてきたが。…今後のお互いのためにも…いやむしろオレのために」

 

「そのようなこと!! ぜひとも髪の毛を頂戴したいと思います!! なんなら追加料金を払ってもいいです!! ぜひともお願いいたします!!」

 

 

 土下座した。

 

 

「そう…か。なら、それで…いいか。お前がいいなら…な」

 

「ありがたき幸せ!! ぐへへ、じゅるる、はぁはぁ」

 

 

(ちくしょう。何か失った気分だ。スレイブって、こんなにつらい人生を歩んでいるんだなぁ。こんな変態が雇い主だったら、オレ、死を選ぶわ)

 

 

 人生において、金よりも大切なことがあると知った瞬間である。

 

 人間の誇りとかプライドは、やはり重要であると。

 

 

 

 

 

 それから準備を整え、門に戻る。

 

 

「お姉さん!」

 

「あらあら、見つかったのかしら?」

 

「うん、あの人と一緒に外に行くんだけど…」

 

「あら、大人の人が一緒なのね。誰なの?」

 

「護衛で雇ったんだ。でもね、ちょっと変な人なの。僕の髪の毛を触って、匂いを嗅いで、よだれを垂らしてはぁはぁするんだ。大人って、みんなああいうことするの?」

 

「…へぇ。そうなの。少し待っててね。そこのあなた、ちょっとこっちに」

 

「え? 私ですか?」

 

 

 お姉さんは、ラブヘイアを裏に連れて行く。

 

 

「この変態が!!! 恥を知りなさい!!」

 

 

 ガス、ドゴッ!

 

 

「はぐっ!? ぶはっ!! な、なぜいきなり!? なんですかこの仕打ちは!?」

 

「人間のクズが! あんたみたいなやつがいるから、ここの治安が荒れるのよ! あの子に何かしたら、ただじゃおかないからね!!」

 

「いやもう、ただで済んでは…ぐはっ、うぼっ! ひぎゃっ! ひでぶっ!」

 

 

 ガス、ボス、バキ、ドカ、グシャ!!

 

 

 

 

 五分後、いくつかの罵声と打撃音が聴こえ、ボロボロになったラブヘイアが放り出された。

 

 顔面の半分が崩壊している。

 

 

「お姉さん、どうしたの? 何かあったの?」

 

「ううん、大丈夫よ。もう何も心配いらないわ」

 

「そうなの?」

 

「うん、そうよ。もしあいつが何かしたら、また教えてね。今度は二度と立てないようにするから」

 

「ほんと!? ありがとう! それとね、これもあの人が壊しちゃったんだ」

 

「あらあら、リングにヒビが…。いいのよ、ちゃんとあの人に請求しておくから。君は悪くないわ」

 

「よかった。お姉さん、大好き!」

 

「んふふ、気をつけて行ってきてね」

 

 

 リングは、ラブヘイアを殴った時に亀裂が入ったようである。

 

 リングが戦気を吸収したおかげで彼は死なずに済んだのだろう。

 

 ならば修理代金の支払いくらいは安いものだ。自分の命の代金なのだから。

 

 

「あの、どうして殴られたのでしょう? なにかすごい罵倒されたのですが…意味がわからないです」

 

「意味がわからないのはお前の存在自体だろうが。全部自業自得だ。さっさと行くぞ」

 

「は、はい…。やはり理不尽な世の中です…」

 

「極めて正当な世の中だ」

 

 

 こうして不本意ながら、変態との共同作業が始まる。

 

 

 

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