【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
改めてその男、エンヴィス・ラブヘイアを見る。
深い草色の髪を肩口まで伸ばし、綺麗に整えている。目の色は青。顔立ちは悪くはない。
美男子ではないが標準以上の顔はしているだろうから、女性にモテようと思えば何とかなるだろう。
合コンに行くときに、とりあえず『あいつが来るから』とか言って餌にされるくらいの顔はしている。
着ている濃いモスグリーンのロングコートには、所々に鉄鎖が入っているようで、たまにチャリチャリと音がしていた。
腰にはロングソードと予備の短刀。武器に特別な力はなさそうだが、使い込んでいる様子がうかがえる。
また、特に臭いというわけでもないので、傭兵のわりにはなかなか小奇麗にしているように見えた。
だが変態である。
これが重要である。
こいつは変態だ。
しかし、傭兵は強ければ許される。それもまた重要な要素だ。
「で、お前は強いのか?」
「
「
下から数えて
根絶級は『街に近寄った場合、根絶すべき危険な獣』なので、それくらいの敵は倒せるということだ。
だが当然、こんな変態のことをアンシュラオンは信用しない。
遠慮なく自分で調べてみた。
―――――――――――――――――――――――
名前 :エンヴィス・ラブヘイア
レベル:22/50
HP :110/680(殴られたから減ってる)
BP :120/210
統率:F 体力: D
知力:F 精神: E
魔力:D 攻撃: D
魅力:F 防御: D
工作:D 命中: D
隠密:C 回避: E
【覚醒値】
戦士:0/3 剣士:1/3 術士:0/0
☆総合:第九階級
異名:危険な毛髪男
種族:人間
属性:風
異能:毛髪診断、毛髪収集癖、孤独の剣士、広域剣術強化、毒耐性
―――――――――――――――――――――――
(ほぉ、剣士因子が1か。つまりこいつは、れっきとした武人だということだ)
剣士因子が1あれば立派な武人である。
この0と1との間には、計り知れない差があるからだ。
0でも戦気を出せる人間はいるが、1になれば【技】を修得できる。これが最大のメリットとなる。
ラブヘイアは剣士なので、おそらく
ちなみに剣王技は、普通に『けんおうわざ』と呼んでもかまわない。覇王技は、ロードスキルあるいは『はおうわざ』。魔王技は、マスタースキルあるいは『まおうわざ』である。特に決まりはない。
ただ、覚えられる技には因子レベルが関係しているので、因子レベル2の技は、どんなに強くても1の人間には覚えられない制限がある。
(1あれば使えるな。知力と魅力はカスだが、魔力、工作、体力、攻撃、防御、命中がD。Dってのは一人前のレベルを指すから、総合的に考えれば、それなりに体力があって、そこそこ器用で使える剣士といったところか)
それに加えて、隠密がCである。
完全に変質ストーカーとしか思えないが、このCがあったからこそ、考えに没頭していたアンシュラオンも気がつくのが遅れたのだ。
もちろん敵意があれば一瞬でわかるが、まさか髪の毛を嗅ぐとは思わなかった。
(しかし…毛髪診断って何だ? 初めて見たぞ。名前から察するに、そのままの意味か?)
そもそも珍しいから異能なのだ。初めて見るものがあっても仕方ない。
これは当人に聞いてみる。
「お前は、髪の毛から何かを調べられるのか?」
「おおお、それに気が付かれるとは、さすが私の…」
「次の言葉を言ったらお前を丸刈りにする。永久脱毛だ。転職先は僧侶かボディビルダーだけとなる」
「…では、なんとお呼びすれば?」
「普通にアンシュラオンでいい。で、どうなんだ? 何かわかるのか?」
「はい。相手の本当の美しさがわかります」
「美しさ?」
「どんなに偽っていても美は隠しきれません。ああ、あなたほどの美しい髪の毛には初めて出会いました!! もう私は虜です」
「…ひぃっ」
本気でつらい。やめたい。こいつの能力も使えない。無意味だ。
「お前はいつも単独で動いているのか?」
「はい。あまり組んでくれる人がおりませんので、独りで魔獣を狩ることが多いのです」
「うん、当然だな」
「それに気が付かれるとはさすが…」
「うん、誰でもわかることだぞ。自覚しろ、そろそろな。しないと近いうちに闇討ちに遭うぞ」
「はぁ…理不尽な世の中です」
「正しい世の中だ。少なくともこれに関してはな」
(スキルの『孤独の剣士』は何だろうな? スキルの詳細までわかればいいんだが、さすがにそこまで便利じゃないか。こういった感じのスキルは、能力に影響を与えるものが多いのはわかっているんだが…)
ちなみに孤独の剣士は、単独で戦闘に入ると攻撃の能力値に1.3倍の補正が入る強力なスキルである。
ただし、常に寂しいので精神の値が落ちるというマイナス効果もある。
(広域剣術強化ってのは、たぶん広域技に補正がかかるんだろうな。…あとは毒耐性。両方ともあって損はないスキルだ。はぁ、変態でなければ少しは使えるやつなんだろうが…変態か。それならそれで利用するか。非常に苦渋の決断だが仕方ない。収集癖があるならば、この手が通じるかな?)
「じゃあ、取り分は10:0でいいな」
「気のせいでなければ、下がっているような…。むしろゼロになっています。さすがにそれは…」
「髪の毛が欲しくはないか? 白くて綺麗で良い匂いがする、この世界でもっとも上等な髪の毛を」
これ見よがしに自分の髪の毛を触る。
「っ!! そ、それはまさか…! 私の目の前にある…至高の!」
「死ぬほど嫌だが、本当に嫌だが、泣きたいほど嫌だが、報酬としてお前にオレの髪の毛をひと房やろう。これくらいだぞ。これくらいだからな!!」
軽く握ったくらいの量だ。
モコモコしているので、ちょっとくらいなくなっても問題ない。この一ヶ月で少し伸びたし。
「そのようなご褒美、よろしいのですか!? はぁはぁ、ごくり! じゅるり!」
「ご、ご褒美…。ぐっ、そう…だ。ご褒美だ。それとも髪の毛は無しで、報酬の折半がいいか? オレはむしろ、そのほうがいいような気がしてきたが。…今後のお互いのためにも…いやむしろオレのために」
「そのようなこと!! ぜひとも髪の毛を頂戴したいと思います!! なんなら追加料金を払ってもいいです!! ぜひともお願いいたします!!」
土下座した。
「そう…か。なら、それで…いいか。お前がいいなら…な」
「ありがたき幸せ!! ぐへへ、じゅるる、はぁはぁ」
(ちくしょう。何か失った気分だ。スレイブって、こんなにつらい人生を歩んでいるんだなぁ。こんな変態が雇い主だったら、オレ、死を選ぶわ)
人生において、金よりも大切なことがあると知った瞬間である。
人間の誇りとかプライドは、やはり重要であると。
それから準備を整え、門に戻る。
「お姉さん!」
「あらあら、見つかったのかしら?」
「うん、あの人と一緒に外に行くんだけど…」
「あら、大人の人が一緒なのね。誰なの?」
「護衛で雇ったんだ。でもね、ちょっと変な人なの。僕の髪の毛を触って、匂いを嗅いで、よだれを垂らしてはぁはぁするんだ。大人って、みんなああいうことするの?」
「…へぇ。そうなの。少し待っててね。そこのあなた、ちょっとこっちに」
「え? 私ですか?」
お姉さんは、ラブヘイアを裏に連れて行く。
「この変態が!!! 恥を知りなさい!!」
ガス、ドゴッ!
「はぐっ!? ぶはっ!! な、なぜいきなり!? なんですかこの仕打ちは!?」
「人間のクズが! あんたみたいなやつがいるから、ここの治安が荒れるのよ! あの子に何かしたら、ただじゃおかないからね!!」
「いやもう、ただで済んでは…ぐはっ、うぼっ! ひぎゃっ! ひでぶっ!」
ガス、ボス、バキ、ドカ、グシャ!!
五分後、いくつかの罵声と打撃音が聴こえ、ボロボロになったラブヘイアが放り出された。
顔面の半分が崩壊している。
「お姉さん、どうしたの? 何かあったの?」
「ううん、大丈夫よ。もう何も心配いらないわ」
「そうなの?」
「うん、そうよ。もしあいつが何かしたら、また教えてね。今度は二度と立てないようにするから」
「ほんと!? ありがとう! それとね、これもあの人が壊しちゃったんだ」
「あらあら、リングにヒビが…。いいのよ、ちゃんとあの人に請求しておくから。君は悪くないわ」
「よかった。お姉さん、大好き!」
「んふふ、気をつけて行ってきてね」
リングは、ラブヘイアを殴った時に亀裂が入ったようである。
リングが戦気を吸収したおかげで彼は死なずに済んだのだろう。
ならば修理代金の支払いくらいは安いものだ。自分の命の代金なのだから。
「あの、どうして殴られたのでしょう? なにかすごい罵倒されたのですが…意味がわからないです」
「意味がわからないのはお前の存在自体だろうが。全部自業自得だ。さっさと行くぞ」
「は、はい…。やはり理不尽な世の中です…」
「極めて正当な世の中だ」
こうして不本意ながら、変態との共同作業が始まる。