【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
ファテロナは滅刃を使用。
特効の二倍ダメージを加えれば、彼女の攻撃でもダディーの硬質化した防御を貫くことができる。
それでも所詮は表面を切り裂く程度だが、毒を扱う彼女にとってはそれで十分なのだ。
ずるずるずるっ
傷口から活性化した毒が侵入。ダディーの体内をむさぼろうとする。
(薬屋をなめてんじゃねえぞ!!! 毒がなんだってんだ!!)
ダディーが奥歯に仕込んであったカプセルを噛み砕くと、苦い味の液体が広がった。
強力耐毒薬、【
一時的に毒物の効果を中和させる薬で、いかなる毒素でも一定時間は完全に防ぐことができるという『
これならばファテロナの毒とて防ぐことが可能である。実績と信頼性があるからこそ長く残っている薬なのだ。
その強い効果の代償ゆえか非常に苦く、その苦味だけで常人ならば動けなくなるほどである。
常人がそうなるのは身体中の毒素を中和するため、抗生物質のように体内全部に影響を及ぼすことが原因だろう。また、そうでないと意味がない。
ダディーは強い武人なのでそのまま動くことができる。単に苦いのを我慢すれば毒が中和できるのならば、お安いものであろう。
これもまたラングラスだからこその力だ。
ジングラスが魔獣を操る力を持つのならば、薬物による肉体強化こそがラングラスの真骨頂であった。
中和薬によって毒の汚染が一時的に抑えられる。
が、あくまで一時的だ。
このカプセルの効果時間は【一分間】。
毒の種類を問わずに無効にできるという強力な薬ゆえに、効果時間がかなり短いのが最大の弱点である。
連続服用も可能だが、一度使うと身体に耐性ができてしまって、しばらくは受け付けなくなることも扱いを難しくしている。
毒に侵された直後に投与することで効果を発揮する薬、と思えばよいだろう。
少なくともこれによって六十秒の時間を確保することに成功した。
たかが六十秒。されど六十秒である。この時間は大きな意味を持つ。
(あの様子じゃ、すでに相当な血を流しているはずだ。血が毒だってんなら、使えば使うほど血を失うってことだ。長くは戦えない。すぐに勝負を仕掛けてくる)
ダディーの戦闘経験値も高い。ファテロナが今までこれらの技を使わなかった理由も理解できる。
ファテロナは血液自体が毒であるが、それはメリットにもデメリットにもなる。
休んで血を作り出せば、生きている限りは半永久的に毒を使い続けられるが、戦闘中は毒攻撃を繰り出すたびに血液を消費していく。
すでに述べたように武人の力は血の情報を読み込むことで引き出しているので、失血が一番怖い。血を失うごとに力も弱まっていく。
打たれ強いわけでもないので、さきほどのダメージは相当なもののはずだ。今はテンションを上げて猛攻を仕掛けているが、それだけ余裕がない証拠である。
上位技も使えば使うほどBPを消費する。はっきり言えば、ファテロナはすでに半死半生の状況なのだ。
(ならば話は簡単だ。坐苦曼が効いている間にラッシュで押し込んで消耗させる!!)
体力ならばダディーのほうが上である。
毒が一時的に無効化できるのならば、こちらのほうが圧倒的に有利だ。
「おらおらおら!!!」
ダディーのラッシュ。豪腕が唸る。
ファテロナは忍足で回避。ここで飛影を使わないのは消耗を抑えるためだろう。
だが、逃がさない。さらに追い込んで鉤爪を振るう。
今度は容赦せず鉤爪が彼女の頭を狙うが、そこにファテロナのカウンターが発動。
ザクッ ぶしゅっ
完璧なタイミングでカウンターが決まり、ダディーの胸に剣が刺さるも、当然今は毒を防いでいるので問題はない。
かまわずに猛攻を仕掛けるために突っ込む。
ブンブンッ ざしゅっ!
鉤爪がファテロナの頬を掠める。最初に比べれば動きも少し鈍ってきたようだ。
(さすがラングラス! 何か投与しましたKA! ヤリますNEEEE!)
ファテロナも血毒が入り込まない感触を受け、ダディーが何かしらの薬物を使用したと悟る。
ただ、彼女も経験豊かな武人だ。ダディーの様子から制限時間があることを薄々感じ取り、一度間合いを取ろうとする。
「逃がすかよ!!」
ダディーの追撃。
炎龍掌を放ち、激しい爆炎が周囲を包む。
今度は影を消すためではなく、直接彼女を焼くための攻撃だ。広範囲攻撃なので普通に避けることは難しい。
「HAAA! シントウメッキャーーークッ!! アッチーーーーッ!]
ズバッ ブオオッ
ファテロナは炎を剣で切り裂き、生まれた隙間から強引に脱出。
ただ、強烈な炎に晒されたので身体の一部にかなりの火傷を負った。心頭滅却しても熱いものは熱いらしい。肌がただれる。
やはりもともとの耐久値が低いのだ。テンションが上がったとて、ダディーの攻撃を受ければ大ダメージを負ってしまうことは変わらない。
「はーーはーーー! 血が足りないーーー!! チヌーーー!」
ギュルルルルッ
ファテロナが周囲から血毒の回収を始める。濃霧が一気に彼女に集まって消えていく。
わざわざ血を回収するくらいならば自分から出さねばよかったのに、と誰もが思うが、そんな理屈が通用する相手ではない。
その時にやりたいことをやりたいだけやる。無意味なことも楽しんでいるのだ。
「お前たちはさっさと逃げろ!! 巻き添えになるぞ!」
その隙にダディーが、倉庫から耐毒薬を出し仲間に投与していたミエルアイブに勧告する。
「ここで逃げては特別上級衛士隊の名折れだ!! 最後までファテロナ殿を応援するぞ!」
「つーか、なんでお前は大丈夫なんだよ! 毒吸ってんだろう!」
「衛士隊の誇りである! こんなものに負けん!! むしろファテロナ殿の血ならばウェルカムである!」
毒霧の中でもミエルアイブはまだ生きているし、あまり行動に支障をきたしていないようだ。
非常に驚きの現象である。毒無効でも持っているのだろうか。あるいは髭に毒を吸収する機能があるのかもしれない。
最後にキモい変態発言があったことも気になる。あまり関わりたくない人種だ。
それにしても、まだ彼女を味方だと思っているようだ。その能天気さが羨ましい。
「状況を見ろ! あれがお前たちの仲間か!」
「当然だ! 彼女はお嬢様の侍従長だぞ! いいか、我々はこの都市の最高権力者たる領主様の下で働く、栄光ある者たち、選ばれた人間なのだ!! お前たちとは絆が違うのだ!! 熱く燃えるような愛情で結ばれた我々は、いかなるときも―――」
「AHAHAHAHAHAHA!!! 今度はお前が飛ぶんだ!! 何メートル飛ぶかなぁあああああ!!」
「あひっ!? えええええ!?」
突如ミエルアイブの真後ろに出現したファテロナが、彼を掴んで―――ダディーに向かって投げる。
女性とはいえ武人なので、大の大人が軽々と投げ飛ばされた。
ヒューーーーンッ
「うおおおおおおっ!!」
「ちっ、馬鹿が!!」
がしっ ぶんっ!
両手に鉤爪があるので弾くわけにもいかず、仕方なくダディーはミエルアイブをキャッチすると同時に、遠くの地面に放り投げる。
「うぉおーーーーー!」
ミエルアイブはガリガリガリッと装甲服を削りながら、向こうに消えていった。
それを他の衛士たちが拾って移動していくのが見えたので、これでようやく邪魔がいなくなる。
だが、そうすることを見越していたファテロナが、再び飛影でダディーの背後に出現。
「ヒトトオオオオオオーーーーーツッ!!」
ブスッ!!
「ぐうっ!!!」
ファテロナはダディーの背中に刺突を繰り出す。
皮膚硬質化があるので深くは刺さらないが、それでも無防備なところに受けた一撃である。思わず呻くほどの一撃だ。
「ふんっ!!」
スカッ
ダディーが反撃した頃には、ファテロナは飛影を使って攻撃範囲から離脱していた。
だが、直後にはまた出現し、刺す。
「ふたぁーーーーつぅうううう!!!」
ざくっ!!
「MIIIIIIIっつぅううううううーーーーー!!!」
ずばっ!!
ファテロナの攻撃が続けてヒットする。
(こいつ! 『決め』にきてやがるな!!)
明らかに今までとは迫力が違う。これで終わらす、という圧力が凄まじい。飛影も連続使用している。
サッカーの試合を観ていても、彼らは九十分間、常に全力で戦っているわけではない。
勝負所と流れを見極め、ある一定の時間帯に一気に勝負を決めにかかる。そこで致命的なダメージを与えれば、残りの時間はダレても勝つことができるからだ。
それと同じように―――ここが決め時。
さらに殺し合いともなれば、一回でも決めてしまえばそこで試合終了だ。
それをいつどのタイミングで仕掛けるかが難しいのだが、ファテロナは今こそが勝負の時と考えているようである。
ピピピッ
ファテロナが攻撃を仕掛けるたびに血が舞い、ダディーに降りかかる。
これは攻撃ではない。彼女の失血が激しく、もう霧状にできなくなるほど弱っているからだ。
ファテロナにとっても、ここが限界ラインなのだろう。ダディーの立場からすれば、ここを耐えきれば勝てるということでもある。
しかし、何やら攻撃した回数を数えているのが気になるし、不気味だ。
無意味で理解不能な言葉とは打って変わって、戦闘においては非常に合理的な女性だ。人を殺すために最善の手を常に打ってくる。
だからこそ、この数字にも意味があるような気がしてならない。とても嫌な予感がする。
「あははははは!! もうすぐ終わりですよ! あなたは死にますNEEEEE!!!」
「何言ってるか訳わかんねぇな。俺もてめぇを、すぐにぶちのめしてやるから覚悟しろや!!」
「AHAっ!! それは楽しみです!! Ⅳ(よ)っつぅううううううう!! Ⅴ(い)つつうぅうううううううっ!!!」
ブシャッ!! ザクウウッ!!!
ファテロナの剣が四つ、五つと身体に突き刺さる。
ここでファテロナが、なぜ回数を数えていたのかが明らかになる。
五つ刺された身体に―――明確な変化が起こった。
ゾワワワッ ブワブワブワブワブワッ!
ダディーの身体に濃紫色の【紋様】が五つ浮かぶ。
肉眼ではよく見えないが、術士の因子がある者ならば、よりはっきりと幾何学的な紋様が見えることだろう。
これは―――【血の術式】。
突き刺した時に送り込んだ自分の血を媒体に術式を構築して刻み込んでいたのだ。もちろん刺青のようにしっかりと刻まれているので、こすっても取れることはない。
そして、五つの術式が相互につながりあい、一つの大きな術式を作り上げようとしていた。
暗殺術究極奥義、『
暗殺者の最大奥義(至高技)に、こういう名前の技がある。
これは単体の技の名称ではなく、九天必殺には九つの章が存在し、それぞれが独立した技となっている。
細かく見てみると―――
第一死・
第二死・
第三死・
第四死・
第五死・
第六死・
第七死・
第八死・
第九死・
というように、名前を見ただけで不吉な印象を受ける技が九つも並んでいる。
たとえば第一死の「一天入滅」は、細かいことを全部省いて一言で言えば、一撃で相手の脳天を破壊して殺す技だ。
二天になれば、二撃で殺す技。三天になれば三撃で殺す技、といったようにヒット数が増えている。それによって区分けされているようである。
名前を見れば、なんとなく死に方がわかるであろうか。
今ファテロナが使っているのは第六死の「
六回も刺せばだいたい死ぬんじゃないか? 一回で殺すほうが凄くないか? という疑問はもっともだが、あらゆるタイプの暗殺者がどれか一つは体得できるように編み出されているので九つもある、ということだろう。
武人のタイプや武器の種類に応じて使える技が異なるし、当然ながら才能によっても体得できるものとそうでないものがある。
一天入滅を会得できれば一番かもしれないが、文字通りの一撃必殺は隙も大きくなるし消耗も激しいので、どの技がよいかは相手と状況次第であろう。
ファテロナと相性がよく、体得できたのがたまたま第六死だったにすぎない。
一つだけでも奥義扱いなので、これが使えるだけでもすごいことだ。
この技はハンベエも使えないし、狐面も使えない。彼らとは暗殺者としてのレベルが数段違う。これこそ彼女が第七階級の達験級である証である。
この九天必殺の怖ろしいところは、これらはどれも『即死無効貫通』の【絶対即死技】だということだ。
絶対に死する、と技に書いてあるだろう。その通りの意味である。
そう、仮にスキルで『即死無効』を持っていても貫通するのだ。これがいかに凶悪なのかは容易に想像がつくはずだ。
即死とは、データ的にいえばHPが即座に0になることだ。もっと詳しくいえば、最大HP分のダメージを与えるということでもある。
攻撃力がいくら低くても関係ない。相手のHPを強制的に0にしてしまう。だから即死技は怖いのである。
武人の中には『即死耐性』あるいは『即死無効』を持つ者も大勢いるが、これは逆説的に考えれば、今まで数多くの者が即死技で殺されたがゆえに血が対抗策を練ってきた、ともいえるわけだ。
こうして耐性を持つ者が増えれば、暗殺者の脅威も減る。『身代わり人形』などの術具も、そうした需要の多さによって生まれたものである。
これで安心―――と思っていたわけだが、いつの時代もどの分野でもイタチごっこは起こるものだ。
即死技を得意とする彼らが黙っているわけもない。そこで生まれたのが九天必殺という奥義である。
もっといえば九天必殺とは、「九つの技を同時に相手に叩き込むことで絶対に殺す」ということから生まれた名前である。
これを編み出した最強の暗殺者であった女性は、『実分身』を使って九つに分かれ、単独の相手に同時にすべての必殺技をお見舞いしていたのだ。
どれか一つでも即死攻撃が通れば終わりである。これならば相手がどんなタイプの武人だろうが、必ず殺すことができるというわけだ。
どうせなら全部やればいいじゃん、とは非常にシンプルな考え方であろう。
が、さすがにそれでは難しすぎる(ほぼ不可能)ということで、九つに分かれたのが今に伝わる九天必殺の姿である。
だが、各天が一つに分かれたとて、その脅威は変わらない。
ファテロナは、すでにダディーの身体に五つの「死印」を刻んでいる。
これこそが『即死無効』を解除する術式なのだ。それはあと一つで完成すると同時に相手の命を奪うものとなるだろう。
「SAAAAAAA!!! これで終わりです!!! 素敵な夜をありがとう!! アバンギャーーールドッ!! サンキュッ!」
アバンギャルドとは、軍事的な意味の「前衛」という意味から芸術的な「前衛的」という意味でも使われる言葉だ。
が、ヌード写真も敬遠されていた一昔前の日本では、男性の腹下(半分陰毛)あたりが映っている写真も「FU~! アバンギャルド!!」とか言われていたそうなので、「胸毛」や「陰毛」を指す隠語になっているという話もある。
おそらくファテロナは「アバンチュール(恋の冒険)」という意味で使いたかったのだろうが、興奮しているので「胸毛」あるいは「陰毛」と間違えた次第である。
当然、これに意味はない。基本的にファテロナの言動には無駄しかないので、最後の決めで当人のテンションが上がっただけである。
ファテロナが迫る!!
勝利を確信したのか真正面から突っ込んでくる。
(油断したな! 何かやるつもりだろうが、さすがに甘く見すぎだ!)
これでもダディーは慌てていない。
六天刺滅が非常に危険な技だと勘付いていても、死線を潜り抜けてきた男は冷静に反撃のチャンスをうかがっていた。
ファテロナが突っ込んできたところに渾身の一撃を与えるため、構える。
そして両者が間合いに入り―――
「ヒーーーーハーーーッ!!」
「おおおおおおっ!!!」
ファテロナが剣を突き出す。
ダディーが拳を繰り出す。
(俺のほうが一瞬速いぜ!!)
待ち構えていたダディーが完璧なタイミングで拳を合わせる。
この一撃ならばファテロナの顔面が砕ける威力だろう。今となってはそれも仕方がない。
覚悟を決めて打ち出す!!
そして、、ダディーの拳がヒットするかと思われた瞬間―――
―――消えた
「なっ―――!!」
ズズッ
「HUFUFUFUっ!! 絶対に殺す! それが九天必殺!!! クモン必読!!! なのです!!!」
まさかの【飛影による移動】でダディーの背後に出現。
直線的な動きはフェイントだったのだ。この女、頭はイカれていても殺しに関しては超一流である。
最後の最後まで油断などしない。彼女もダディーが強いことなど知っている。
今こうして押せているのはスピードで翻弄しているからであり、血を失って動きが鈍れば勝ち目がないことなど、とっくに知っているのだ!!!
「SINEEEEEE!! ハッスルハッスルゥウウウッ!!」
ズブウウッ!! バチイイーーーーーーーーーンッ!!
ファテロナの一撃が、背後から心臓に突き刺さる。
それと同時に必殺の術式が発動し、ダディーの身体に死神が舞い降り―――
―――HPがゼロになる
「―――っ…ぐはっ……」
視界が急速に暗くなっていく。自分に死が訪れることがわかる。
痛みはない。むしろ死ぬときは痛くないものである。だからこそ自分が死に至る道を歩んでいるのが、はっきりとわかるのだ。
意識が遠ざかる。やたら眠い。まるで闇の女神に抱かれているような安堵感すら感じる。
死は怖れるものではない。ただの地上人生の終わりにすぎない。
これだけ激しい人生だ。この安らかな誘惑に耐えられる者など、誰もいないのだ。
(あぁ…やれやれ…だな。こんな女に殺される…とは。まったく…ついてねぇな。ビッグ、リトル…マミー、オヤジ…俺は…こんなところで……ぁあ―――)
がくんっ
そのまま身体中から力が抜け―――ダディーは死亡した。