【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
近づくにつれて黒雷の威力は増していく。
この距離に至ると、アンシュラオンの水泥壁でも完全に防ぐのは難しい。
黒雷が水の壁をぶち破り、貫く。
ドーーーーンッ! ガリガリッ!
床を抉り取っていく。蹂躙していく。
しかし、そこにアンシュラオンはいない。
彼はすでに押し寄せる黒雷の嵐を抜けていた。素知らぬ顔で先を歩いている。
まるで手品だ。雷が貫いたように見えたが、あっさりと抜けている。
「破壊に主眼を置いた雷撃、といったところか。攻撃力は相当なものだが、雷の性質を色濃く残しているらしい。対雷戦闘はオレの得意とするところだ。問題はない」
黒雷は名前が物語るように、あくまで【雷撃】である。
力の大半を破壊力に転換しているが、性質が雷であることには変わりがない。
となれば、職人芸。
ガンプドルフ戦で実践したように、水を自在に操るアンシュラオンにとっては対応しやすい相手だ。
バリバリバリッ じゅるるる
再度迫ってきた黒雷を新しい水の膜で包み込み、流す。
ドーーーンッ
床が破砕されるが、アンシュラオンは無傷だ。
怖れることなく紙一重でかわしている。相変わらずの胆力である。
「この雷にはもう一つの特性がある。この雷撃は帯電しない。【
雷の上位属性、帯気。
帯電する、という言い方をするが、雷が集まってより強力な雷気になると、この帯気という性質になる。
もしこれが帯気ならば、足元に帯電することで相手の行く手を阻むこともできたはずだ。
だが、この黒雷は通常の雷にあるような追加効果がない。当たった威力は凄いが、感電させて動けなくする効果が乏しい。
これは黒雷が『破砕力』を重視した設定だからだ。
衝撃力と言い換えてもいいだろうか。
うっかり電気コードを切ってしまったときのような、電気がショートした爆発力をイメージするとわかりやすい。
そんな馬鹿なことをする経験はなかなかないだろうが、やってみると「ボンッ」という音がして驚くものだ。
そのショートする力を重視して雷撃を設定しているため、当たったら爆砕はするが、力の大半がそれで終わってしまう。
これは悪いことではない。単にどれを好むかの問題だ。
雷は火に続いて強力な破壊の力であり、単体攻撃力ならば最強である。それを追求したのが、この黒雷ということだろう。
相手を滅することだけに特化した雷といえるだろう。
「せっかくだ。もう少し試してみるか」
バリバリッ ザクゥウウッ
アンシュラオンに飛んできた小さいほうの黒雷を、あえて受けてみた。
黒雷が左腕に突き刺さる。
それから―――
ボンッ!!
爆砕。
肉が弾けた。内部から爆発したような感覚である。
これは驚きだ。アンシュラオンの腕を破壊するなど、あのガンプドルフ以来ではないか。
かの剣豪が雷王・
しかし、これにも理由がある。
「この感覚…へぇ、『人間特効』があるのか」
穿たれた時の独特の感覚。
人間であることそのものを否定された感覚。
黒雷が、戦罪者も得意とする『人間特効』を宿している証拠である。
だからあえて受けたとはいえ、規格外のアンシュラオンの腕を傷つけることができるのだ。
ただし、黒雷に宿っている特効は人間だけにとどまらない。
―――【生物すべてに特効】
を持っているのだ。
魔人の力を吸って生まれた黒雷狼には、その特色が色濃く受け継がれている。
魔人は、すべてを超越する存在だ。人間だけでなく、動物も魔獣も支配者さえも、あるいは神さえも。
魔人以外のすべてに特効を持つ技。
これがいかに怖ろしいかがわかるだろうか。すべての敵対者を屠ることが可能なのだ。
しかしである。
これが同じ魔人であれば話は違う。
ダメージは必然的に抑えられ、本来の半分の力しか発揮できない。
同種の存在に対しては「素の実力」が大きく影響するものだ。現状では、そこまで怖れるものではないだろう。
「次は防御性能を見せてもらうぞ」
アンシュラオンが左腕を一瞬で治癒すると、黒雷狼に向かって水流波動を放つ。
サリータにやったような優しいものではない。滝のように鋭い水流が襲いかかる。
「ヴヴヴヴッ! バオオオオオンッ!!」
バチバチバチバチッ ドーーーンッ!
黒雷狼の前方に雷が集まり、水流波動と激突。相殺して霧散させる。
スキル『雷迎撃』。
ガンプドルフが使っていた鎧気術、『
黒雷狼あるいはサナに対して攻撃が発動した場合、これで迎撃して撃ち落とすのだ。
その精度と威力はなかなかで、アンシュラオンの全力の水流波動すら受け止める力を持っている。
だが、アンシュラオンに慌てた様子はない。
迫ってくる黒雷をいなしながら、悠々と技の態勢に入る。
当たれば肉体にダメージを負う雷撃でも、当たらなければ意味はない。
相手が感情的で受動的だからこそ読みやすい。ちょっと動きで釣ってやれば、面白いように思った通りに雷撃が飛んでくる。
勝負の駆け引きができないのだ。
これが【意思が無い】最大のデメリットである。
「これはどうだ?」
アンシュラオンの両手に、身長ほどの水気の塊が生まれる。
右手の塊を放出。
それ自体を放つのではなく、そこから円柱状の水が伸びて黒雷狼に迫っていく。
黒雷狼の雷迎撃。再び攻撃を防ごうとする。
が、これは攻撃ではない。
水流は、するするぬるぬると奇妙な動きをしたと思ったら、雷をかいくぐって黒雷狼の足元の床に吸着。
その水は、やたら粘度が高かった。
糊のごとく床に吸い付くと―――
ぎゅううううっ バンッ!!
今度はゴムのように収縮し、一気にアンシュラオンを引っ張った。
これに特に技名はない。単に水気の性質を調整したにすぎない。
だが、それを一瞬でやってのける戦気術は驚愕の一言だ。
周囲では黒雷が常に自分を狙っているのだ。それを回避しながら冷静に水気を操るのは、やはり並大抵ではない。
そして、急接近したアンシュラオンが宙を舞いながら、左手の水気球を放つ。
その動きはハンドボールで、ボールをゴールに叩きつける光景に似ていた。
さりげなくフェイントを入れて相手の動きを釣ることも忘れない。
右と見せかけて左に投げた水球が―――まんまと直撃。
ぼしゅっ ギュルルルルッ
当たると同時に水球が円形に広がり、『渦』が発生。
覆うように広がった渦が急速回転し、周囲の雷を巻き込みながら黒雷狼の身体を抉っていく。
水覇・
渦状に変化させた水気の回転力で相手を抉りながら、その部位を削り散らしていく因子レベル4の技である。
今黒雷狼を少しずつ削っているように、主に表皮を傷つけて相手に痛みを与えるために用いられる技だ。
この際、渦の遠心力によって削られた部分が、大工道具の
しかしまあ、相変わらず水覇系の技はサディスティックな発想が多い。
受けたのが人間だったら、身体を薄く削られる痛みを味わいながら絶命するという、猟奇殺人的な最期を遂げることになるのだから、まったくもってたまったものではない。
が、放った相手はエネルギーの塊だ。
少しずつエネルギーを削り取るという意味合いでは、しっかりとした考えがあって使われた技である。
シュバシュバシュバッ バリバリバリバリッ
目論見通り、水覇・渦鉋によって黒雷狼の黒雷が少しずつも急速に散っていく。
さすがアンシュラオンの技である。
一気に削って、黒雷狼の身体が半分に―――ならない。
ブゥウンッ バチバチバチバチッ
渦鉋が何かの力と衝突して拮抗している。
この技でも削りきれないほどの何か硬いものと衝突している音だ。
スキル『中型障壁』。
殲滅級以上の魔獣、あるいは神機などは、自身の装甲とは別に防護フィールドを持っていることがよくある。
『中型障壁』や『小型障壁』と表示されている場合は、単純な物理フィールドを生み出す能力だと思っていいだろう。
無機質で透明な防護盾が展開され、水覇・渦鉋の侵攻を防いでいるのだ。
これを簡易化したのが、サナも使った『無限盾』の術式である。その強化版だと思えばいいだろう。
「障壁はHP依存だっけ? HPが高いだけあって悪くない耐久値だ」
障壁スキル自体はさほど珍しいものではないが、HPの総量によって耐久値が変化するので厄介だ。
たとえば小型障壁ならば、最大HPの一割近い耐久値を持っているし、中型ならば三割程度の耐久値と思っていいだろう。
黒雷狼は四万近いHPを持っているため、その三割分、最低でも一万以上のダメージを障壁で耐えきることができるわけだ。
なんて面倒な。こんなのやっていられるか。
まさにその通り。
それを知っていて、そのまま戦う馬鹿はいない。
最初からスキルがあることを知っていたアンシュラオンが水覇・渦鉋を使ったのは、この障壁を剥き出しにさせるためである。
黒雷を蹴散らして障壁を引きずり出した瞬間、すでに動いていた。
水の渦の中に飛び込むと中心部に掌底を叩き込む。
当然、ただの掌底ではない。
それが障壁と激突した瞬間―――砕ける
ばりばりっ ばりんっ!!
あれほどの攻撃に耐えていた障壁が、いともたやすく破壊された。
覇王技、
打ち付けた打撃、主に掌か掌底を使い、相手にダメージを与える技である。
これだけを見れば単なる掌底にすぎないが、この技の最大の特徴は『障壁破壊』である。
高度な戦闘において、相手の防御機能を破壊するのは至極当たり前のことだ。
そうしないといつまでも本体にダメージを与えることができないので、まずは障壁系を剥ぎ取ることから始めるのがセオリーである。
障壁破壊は、
発動が遅いのは致命的な弱点である。ちんたらやっていたら反撃を受けてしまう。
その点、この打界震は技の出が早く、障壁破壊だけに使うのならば最速で出せる。
こうして放った技の直後に出しても、行動をほとんど制限されないメリットがあるのだ。
ただし、これも渦鉋を発動させながら攻撃するという同時発動なので、非常に高等なテクニックである。
普通の武人ならば二回に分けてやらねばならないことを、この一瞬でやっているのだ。
右手で姿勢制御用の水気も操っているため実質的には三つの技、いや、観客保護の水泥壁すら展開しているので四つ同時発動をしている。
いくら低級や中級の技とはいえ、それを四つ同時発動できる者は、この世界にいったい何人いるだろう。
本物の達人とは、本当は難しいことを簡単そうにやってのけるものだ。だから凄さがわかりにくい。
同時に当人もそれが当たり前だと思っているからこそ、真の実力者なのである。
セオリー通りに障壁を―――破壊。
ガリガリガリガリッ
障壁が砕け散り、再び急速回転を始めた渦鉋が、黒雷狼を削っていく。
「ヴヴヴヴウッヴヴヴウウッ!!!!」
効果は覿面。
少しずつではあるが、黒雷狼の身体が小さくなっていく。
(このまま削れればいいが…そんな簡単にはいかないよな)
相手の能力を考えれば、これで終わるとは思えなかった。
その予想は当たる。
バババババババッ
削られていくのと同じ速度で『自己修復』が行われる。
黒雷がさらに生み出されて欠損した身体を即座に補っていくのだ。
もともとがエネルギー体なので、人間の身体と違って修復も容易なのだろう。
(サナの様子は…問題ないか。生命維持を最優先にする命令は遂行しているようだな)
こんなちまちましたやり方をしているのは、もちろんサナの安全を考慮してだ。
仮に大技を使えば一気に仕留められるかもしれないが、この魔石獣とやらはサナから出ている存在だ。
ダメージ還元が起こってサナが傷つくのが怖かった。だから少しずつ削っているわけだ。
ただ、黒雷狼の対応を見る限り、サナの防御に割り当てているエネルギーは別個に用意しているようである。
つまるところ「サナが扱いきれない余剰分のエネルギー」によって、この黒雷狼が生み出されているわけだ。
よって、黒雷狼自体への攻撃はサナにダメージを与えない可能性が高い。
「そうとわかれば、ごっそり削り取るか」
アンシュラオンが本来の戦気を解放。
輝かんばかりの赤白い力を身にまとう。
「ヴヴヴッ!!」
黒雷狼が、その戦気に反応。
展開している黒雷が本体の防御を無視して、一斉にアンシュラオンに群がる。
ザクザクザクザクッ
次々と黒雷が戦気に突き刺さり、その力を奪おうとしてくる。
事実、アンシュラオンの戦気の一部が黒雷に吸収され、一時的に黒雷狼が大きく膨れ上がった。