※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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492話 「ヤバイやつ 前編」

 

 「お前のことかーーーいっ!」と、思わずつっこみたくなる発言をした人物が目の前にいる。

 

 まったくもって訳がわからない。正直、関わりたくない人物である。

 

 がしかし、問題は場所だ。ここが路上ならば完全に無視だが、こんな遺跡の奥にいるとなれば話は大いに異なる。

 

 この人物は誰で、何の目的でここにいるのかを問いたださねばなるまい。

 

 

「それで、お前は誰なんだ?」

 

 

 まだ危険がありそうなので、レイオンが代わりに話しかける。

 

 

「だれ…誰?」

 

「お前のことだ」

 

「ぼく…だれ? だれ?」

 

「いや、こちらが訊いているんだが…記憶がないのか?」

 

「きおくって?」

 

「記憶は記憶だが…ええとだな、なんといえばいいのか……」

 

「あんた誰?」

 

「ん? 俺か? 俺はレイオンだ」

 

「…誰?」

 

「だから、レイオンという名前だ」

 

「それって誰?」

 

「誰と言われても…俺は俺だしな…」

 

「あんた誰?」

 

「イラッ」

 

「兄さん、下がって!!」

 

 

 ままならない問答に思わずキレそうになったレイオンを、ミャンメイが下がらせる。

 

 レイオンはあまり頭を使うのが得意ではないので、けっこう短気である。

 

 今までの経緯を話していたときは、すでに知っていたことを述べただけなので意外と饒舌だったが、こうして新しいコミュニケーションを形成することには不向きなのだ。

 

 

「誰、だれ、ダレ?」

 

 

 レイオンの呼びかけがきっかけになったのか、ミイラ男が自問自答モードに入ったので、ミャンメイたちは一度下がって会議を始める。

 

 

「くっ、なんだあいつは。話がまるで通じん」

 

「どうして通じると思ったんだ。あいつは完全にヤバイやつだろうが」

 

「見た目で決め付けるのはよくないですよ」

 

「てめぇも、さらりとひでぇこと言うもんだな」

 

 

 ミャンメイの発言は、自分もそう思っているという意思表示でもあったりする。

 

 たしかに見た目は危ない。こんな場所にいる布巻きの人間が正気であるわけがないのだ。

 

 事実、まったく会話が通じていない。今後通じるかも疑わしい。

 

 

「やつには関わらないほうがいいかもしれねぇな」

 

「どうしてですか?」

 

「俺にはわかるんだよ。あいつはヤバイやつだ」

 

「何かわかったのか?」

 

「いいや、何もわからねぇ」

 

「では、どうしてわかる?」

 

「んなもん、見りゃわかるだろうが」

 

「それはそうだが…根拠があるんだろう?」

 

「俺から言わせりゃ、あれをヤバイと思わないやつのほうがヤバイぜ」

 

「うむ…言いたいことはわかるが…」

 

 

 グリモフスキーはミイラ男に対して、初対面から激しい警戒感を抱いているようだ。特に根拠はないようなので感覚的なものなのだろう。

 

 とはいえ、彼のこの意見には百人中九十人は賛同するだろうから、一概に差別とは言いがたい。

 

 

「そういえばあの人、私たちと同じ言葉を話しているわ。ということは『古代人』ってわけじゃないのよね」

 

「そのようだな。さすがに一万年も生きている人間はいないだろう」

 

「それじゃ、いつの時代の人なのかしら? こんな場所だもの。気軽に人が来られるとは思えないわ」

 

「それともあいつは、ここに住んでいるのか?」

 

「こんな地下で? うーん、畑もあったし無理じゃないと思うけど…あっ、もしかして、あの畑を作った人たちの生き残りかしら?」

 

 

 畑があったということは、誰かが食べるために栽培していたということだ。

 

 だが、あの場には誰もいなかった。そのあたりがとても不自然であるし、ずっと気になっていたことだ。

 

 彼がその施設を利用していたというのならば、地下で生活することも不可能ではないだろう。

 

 

「どうだかな。あそこからここまでは相当な距離があるぜ。簡単にたどり着けるとは思えねぇ」

 

「そう…ですね。じゃあ、近くに違うものがあるのかもしれません」

 

「おい、勘違いするんじゃねえぞ。俺たちはべつに遺跡の生き残りを捜しに来たわけじゃねえ。それはそれですげぇ発見だがよ、役に立たないのなら意味がねえぜ」

 

「役に立つ…か。ううむ、今のところは難しそうだな」

 

 

 三人は、じっとミイラ男を見つめる。

 

 こんな場所にいる怪しい男が、ただの人間であるはずがない。

 

 が、当人の記憶がないのだからどうしようもない。このままでは役立つどころか、かえって足手まといになりかねない。

 

 自分たちに余裕がない現状では、非常に扱いに困る存在であった。

 

 

「………」

 

 

 一方ミイラ男は、じっと白骨を見つめていた。

 

 すると突然、何やら不可思議な動きで手を回し始めたではないか。

 

 しゅんしゅんしゅん

 

 空中で何かをこねくり回すように両手を動かす。

 

 何をやっているかは不明だが、その動きは非常に滑らかで優雅だった。

 

 

「あの動き…只者ではないな」

 

「わかるの? 兄さん」

 

「武芸とは違うようだが、何度も修練を積み重ねた動きだ。…いや、これはすごいぞ。あの男…男かどうかもよくわからんが、かなりの腕前だ。相当な時間を費やしたことだけはわかる」

 

 

 彼の動きは武芸とはまるで違うが、そこには洗練されたものがあった。

 

 一流は一流を知る。何かの道に邁進(まいしん)している者は、たとえ分野が違かろうが、そこに宿った汗水を知るのだ。

 

 明らかに一般人の動きではない。ますます怪しさに磨きがかかる。

 

 

「時間……そう。ぼく…ぼくちゃんは……ここでずっと……あああああ、なんだったか…あああ……あーあーーー」

 

 

 レイオンたちの声が聴こえて刺激になったのか、ミイラ男の言葉が少しずつしっかりとしてきた。

 

 最初に出会った瞬間と比べれば、遙かにましになったといえるかもしれない。

 

 

「彼ともう一度話してみたほうがいいかもしれないわ。何か話して刺激を与えれば、もっといろいろと思い出すかも」

 

「なるほど。その通りだな。あの感じだと、人間と接触するのも久々のようだしな」

 

 

 人間の脳、記憶は、互いに関連付けられたもので繋がっている。

 

 たとえば「ご飯」ならば、「白米」「味噌汁」「朝・夜」「家族」等々、それに関連したイメージが湧き上がってくる。

 

 特定の人物に関してもそうだ。「Aさん」という人物に「いい人」というイメージが付いていれば、Aさんを思い出しただけで気分が良くなるだろう。

 

 一方、「Bさん」に「嫌なやつ」という関連付けがされていた場合は、何度思い出しても一緒に不快な感情まで再生されてしまう。

 

 ついには同じタイプの嫌な感情を受けた際に、Bさんを思い出すようにさえなる。

 

 これが記憶の負のスパイラルというもので、一度貼られたレッテルがなかなか拭えないのは、脳そのものの仕組みと関係があるわけだ。

 

 ミイラ男の場合、【言葉を忘れて】いた。

 

 重要な点は、話せないのではなく忘れていた、ということだ。

 

 言語を忘れるということ自体すごいことだが、それだけ誰かと接触するのが久しぶりなのだろう。

 

 一般人も二ヶ月くらい他人と会話せず、ひたすら作業に打ち込んでいると、いざ外に出たときに「声が出ない」という現象に陥ることがある。

 

 話そうと思っているのに声が出ないのだ。喉を使わなかったせいで閉じてしまっているからだ。

 

 何事も使わなければ退化する。つまりは彼はそれだけ長い時間、誰とも会っていないことを示していた。

 

 その彼の記憶を呼び覚まそうと、ミャンメイが再び接触する。

 

 

「あのー、お話しませんか?」

 

「…はなし? はな…す。ううう…おぉぉ……うごごご」

 

 

 ばごん がごんっ

 

 ミイラ男が口を大きく開けたり、喉を開こうとするたびに妙な音が聴こえる。

 

 なんとも怪しさ満載だが、ここにいる段階で怪しいので、そのあたりは無視することにした。

 

 

「ずっとここにいるんですか?」

 

「……ここに? ここは……いた。いた、いた、いた。何度も…いた」

 

「どれくらい前からいるんですか?」

 

「前…? 前……前? 今、いつ?」

 

「え? 今は…いつでしたっけ?」

 

「1024年だ。グラス・ギースの暦だがな」

 

 

 見かねたのか、グリモフスキーが教えてくれた。

 

 世界共通の言い方では「大陸暦~年」と呼ぶが、東大陸では国家そのものが確立していないことが多いため、その都市や自治区独自の暦を使うことが多い。

 

 今はグラス・ギースの暦で1024年。

 

 五英雄が都市を造り、新年と定めた日から数えた年である。

 

 

「ほぅ、そうだったのか。知らなかったな」

 

「特に必要でもねぇからな。知らなくても問題はねぇよ」

 

「お前、そういうところは案外博識だな」

 

「ああ? グラス・ギースに住んでいるんだ。当然だろうが。世話になってりゃ、それくらい勉強するもんだぜ」

 

 

 さすがグリモフスキー。こう見えて真面目である。

 

 

「1024年……? んー、んーむ」

 

「知ってます? この上にはグラス・ギースって都市があるんですよ」

 

「グラス・ギース…? ぐらす……ぐらす。ぐらす…たうん?」

 

「いいえ、グラス・ギースです。ぐらす・ぎーす」

 

「グラス…タウン?」

 

「いえいえ、だからグラス・ギースで…」

 

「待て! グラス・タウンだと? グラス・ギースの前身になった都市の名前じゃねえか。こいつ、どうしてそれを知ってやがる?」

 

「え? そうなんですか?」

 

「グラス・ギースを知らないで、グラス・タウンを知っていやがる。偶然とは思えないがな」

 

 

 グラス・タウンは、大災厄が起こる前のグラス・ギースの名前である。

 

 この地域でギースという言葉には〈災厄〉の意味があるので、グラス・ギースを直訳すると〈災厄に見舞われた大地〉になる。

 

 好き好んで不吉な名前を都市に付ける者はいない。わざわざこうしたのは、今後も人々が災厄への備えを忘れないためである。

 

 いつかまたやってくるであろう害悪のために、日々準備をしておけという戒めなのだ。

 

 そして、災厄という言葉が、彼に大きな刺激を与える。

 

 

「災厄…さいやく…サイヤク……最悪!? サイアアアクウウウウウウウウウウウウウウウウウ!! うごーーー! うごおおおおおおおお!!」

 

「ちっ、また壊れやがったか!」

 

「ただの発作ですよ! 温かい目で見守ってください!」

 

「やっぱりてめぇのほうが問題発言じゃねえのか!?」

 

「サイヤク…さいあく!!! さいあく、さいやく、やくさい、さくああくかううああぅううう!! うくうううう!! ―――あっ」

 

 

 かちんっ

 

 またもや彼の中で、何かがはまった。

 

 

 

 そこから―――フリーズ

 

 

 

 しばらく完全に動かなくなる。

 

 が、その内部では激しい何かが渦巻いているのがわかった。

 

 人間の思考と目の動きは関係しているので、彼の目が異様なほどの速度でぐるぐる回転していたことからも、それがうかがえる。

 

 腫れ物を触るように、もとい、じっくりと優しく見守ること三分。

 

 チッチッチッ チーンッ

 

 カップラーメンではないが、きっかりと三分後に彼は目覚めた。

 

 その時には、さらに彼はスタイリッシュに変貌していた。

 

 

 

「おーーー! おおおおー!! 思い出した!! おぼぼぼっおぼいだしたよ!! そーそーーー、そうそう!!! ずっとココで遊んでたんだ!! そーそーーー! そうなのよ!! ウゴゴゴゴゴッ!」

 

 

 

 ウゴゴゴゴというのは、首だけが上下に凄い速度で揺れる音を表している。

 

 どういう原理かわからないが、怪しげな特技を持っているものである。

 

 当然、そんな反応にミャンメイたちは一歩どころか、数歩下がっていた。

 

 

「な、なぜか突然、陽気になったんですけど…」

 

「どうやら会話できそうだな。対応してやれよ」

 

「わ、私がですか?」

 

「温かい目で見守るんだろう? 病人の介護は任せるぜ」

 

「うう、わ、わかりました。あ、あの…遊ぶって何をしていたんですか?」

 

「んー? ウゴゴッ」

 

「ひゃー! 首が反対側に回ったーーーー!」

 

「それくらいのことなら俺もできるぞ。ほら」

 

「兄さんは黙ってて!!」

 

 

 武人の肉体操作があれば、首を百八十度回転させるくらいは容易だ。

 

 だが、ミイラ男の動きは武人のそれとは多少ながら異なっていたが、奇異な様子が気になって、もはやそれどころではない。

 

 こいつはヤバイ。

 

 さらにヤバさが増した気がする。

 

 

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