【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
高さは十五メートル程度だが、領主城にも壁と門があり、しっかりと門番もいた。
(ここまで来たら、さっさと中に入ろう)
アンシュラオンは門番の隙をついて、さっと城壁を駆け上がると、そのまま走り抜けて茂みに落下。当然、音は立てない。
その茂みの中から領主城を観察する。
(城というか…館だな。それでも大きさはなかなかのものだ。これはけっこう広そうだ)
大きな屋敷に尖塔をつけたようなデザインなので、大国ならばこれを城とは呼ばないだろうが、この辺境の土地ならば十分にそう呼んで差し支えないものだ。
まずアンシュラオンがやったことは周囲の探索。
といっても歩くわけではない。戦気を球体状に薄く伸ばして周囲の状況を探る【
これを行うことは戦闘の基本である。特に森などで周辺の状況が不明な場所では必須の技とされている。
アンシュラオンは波動円を展開。
百、二百、三百メートルと、どんどん伸ばす。
すると【触覚】によって周囲の状況がわかるのである。戦気は自分の一部でもあるので、触れた対象を観察することでそれが何かを推測できる。
ほぼ一瞬で外周の状況の確認が終わった。
(う~ん、領主城の周囲は、見回りっぽいのを入れて百人ちょいくらいかな。今日は警備が厳重だとか言っていたから普段よりも多いんだろうな。マキさんは親衛隊より強いって話だけど、あのレベルの武人がそれなりにいたら、ちょっと面倒かもしれないな)
領主城とその敷地も相当な広さであるが、銃を持った衛士たちが常時巡回しているので、そこそこの警備態勢は敷かれているようである。
これはモヒカンから得た情報通りの警備態勢だが、人数はいつも以上に多い。
(このあたりにいる衛士たちは、ほぼ一般人と大差ない。戦闘用スレイブじゃなくて、砦とかから配属された一般兵士たちだな。きっと今夜だけ集めたんだろう)
情報公開を使って視界に入った衛士を調べるが、普通の成人男性と同レベルの実力であった。つまりは雑魚だ。
最低限の戦闘技術はあるのだろうが、ざっと見たところ、マキに匹敵する武人はいないように思える。
これならば、そのまま強引に武力で突破するのは容易だろう。
が、せっかく変装までしたのだ。無意味に暴れる必要性はない。それに市民権のこともある。最悪の状況になるまでは殺しは控えようと考えていた。
(サナを取り戻して、ゆっくりと過ごす。そのためにはあまり派手にやらないほうがいいな。交戦はしても、気絶させるくらいにしておくか)
改めて領主城を見る。
四階建てで、左右に大きな尖塔がそびえている。
囚われの姫はたいてい、ああいった場所に幽閉されることが多いものだ。やはり気になる。
(サナがいるとすれば領主の娘のところだろう。頭の悪いやつは上に昇りたがるから、どうせ最上階あたりにいるんだろうけど…あの尖塔も気になるな。ちょっと全体的に調べてみるか)
さらに戦気を伸ばして、館の内部の人間を探る。
一階には、数十人という人間が活動している。食器洗い、掃除、見回り、警護などなど、一般的な館にいそうな使用人たちだ。
二階にも十数人いるが、訓練した足運びを感じるのでメイドの可能性もある。
が、その中の数人は足音すら立てていない。おそらく忍者か暗殺者であろう。モヒカンから集めた警備用戦闘スレイブだと思われる。
(ふむ、こいつらがそうかな? 感じる気配からすればたいしたことなさそうだが、油断は禁物だな)
城内には武人もいることが判明。
まったく問題ないレベルであるが、特殊な異能を持っている武人もいるかもしれないので油断はしない。
そうしてさらに伸ばした時―――
「あっ」
突如、波動円を解除。
気配を殺したまま移動を開始し、今いた場所から急いで遠ざかる。
珍しくアンシュラオンは慌てていた。
(やばい、やばい。調子に乗って伸ばしていたら感づかれちゃったよ。まさかオレの波動円を感知できるやつがいるとは…。姉ちゃんたちならともかく、ほかにもそんなことができるやつがいるんだな。注意しないと)
アンシュラオンは一気に警戒レベルを上げる。
ここ一ヶ月、火怨山から逃げて生活してきたが、自分と渡り合えそうな人間および魔獣は一切いなかった。
しかし、だからといって存在しないとは限らない。たまたま出会っていなかったという可能性もあるのだ。
そして今、その可能性の一つに出会った。
波動円は便利な技だが、戦気を伸ばしたものなので触れられると感触が残る。ただ、アンシュラオンのものは非常に繊細で薄いので、普通の武人や人間は気がつくことができないのだ。
が、その人物は気がついた。
波動円というごくごく少量の気質から、アンシュラオンが意図的に隠した気配を感じ取ったのだ。
これはなかなかできない芸当である。明らかに他の人間とは異質な存在だ。
(少し触れただけだから詳細は不明だけど、けっこうな武人がいるようだ。…これは面白いな。少し緊迫感が出てきたじゃないか。そうそう、これくらいでないといけないよ。囚われのお姫様を助けるんだから、こっちも本気でいきたいしね)
雑魚ばかりで退屈していたところである。
たしかにサナを助けることが最優先だが、それ以上にこの雰囲気を楽しんでもいる。そのためには相手側にも強い駒が必要だ。
戦闘用スレイブに加え、今触れたような強者がいる。そう思えば楽しさも倍増である。
「よし、行くか。まずは中に入るために移動開始だ」
∞†∞†∞
下見が終わったところで、アンシュラオンが移動開始。
そこまで隠密行動が得意ではないものの、火怨山という大自然で暮らしていた男である。魔獣に見つからないように隠れて動くことは日常であった。
歩いても足音も立てず、茂みに触れていても水気で覆ってしまうため、これまた音もしないし揺れることもない。
この暗闇の中でアンシュラオンを見つけることは、目視では不可能だろう。
そして、ちょうど隠れていた茂みが終わるあたりで、敷地側に一人の衛士を発見。
「ふー、だりぃ。非番なのに呼び出すなんてよ…やる気が出るわけないよな。どうせ敵なんて来ないんだから、適当にやるくらいでちょうどいいんだよなぁ。帰ってエロ本でも読んでいるほうが、まだ何倍も有意義だぜ」
衛士はタバコを吸って、茂み側に背を向けていた。どうやらサボっているようだ。
(警備といっても城壁内部だ。緩んでいて当然だな)
もともと城塞都市なので内部に敵がいるわけもない。せいぜい不審者程度であろうが、領主城にも高い壁があるので簡単には入れない状況である。
緊急配備された衛士たちにとってはいい迷惑で、どうせ誰も来ないのだから意味ないだろう、という弛んだ気持ちでいるようだ。
(敵全員がこうだといいけど…ここはさくっといこうか)
アンシュラオンがそっと背後に忍び寄り、男の首に手刀を一発。
次の瞬間、男は声を上げる暇もなく、がくっと倒れた。
身体が完全に崩れる前に茂みに引っ張り、隠す。
これは普通の当て身ではなく、当てた瞬間に戦気を流して血流を止めたのだ。それによって素早く簡単に意識を奪うことができる。
このまま寝かせるのもあれなので、木の幹に銃と一緒に立てかけておいた。
「うん、これならサボって寝ているように見えるな。でも、これじゃインパクトが足りないな。起こされたら意味がないし…あっ、そうだ」
アンシュラオンが悪魔の笑みを浮かべる。悪いことを考えた時の表情だ。
そして、実行。
「ズボンを脱がして、右手を股間に置いて…と。うん、これで休んで自慰行為に耽っているように見える。たとえ見つけても、あまりのショックで声をかけられないに違いない」
男にとって、いや、性別は関係なく、これは実に恐ろしいことである。
誰もがその恐怖に怯えながら人生という旅を歩んでいる。仮にこれが見つかった場合、衛士はもう立ち直れないかもしれない。
見つけた側も相当なトラウマを抱えて生きることになるだろう。同姓のそれを見るなんて、それはもう最低の気分に違いないのだから。
(ごめんな。これも領主側についたお前のミスってことだ。では、さらばだ)
衛士の男としての尊厳を踏みにじりながら、アンシュラオン再び歩を進めるのであった。