※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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513話 「『マキ VS JB』 その1」

 

「ん? あなた誰?」

 

 

 マキは、今になってようやくJBの存在に気付く。それ以前に彼を殴ったことすら覚えていない。

 

 激しく苛立っていたため、八つ当たりで門を殴ろうとしたところ、たまたまJBがいて顔面をぶん殴ってしまった、というだけのことだ。

 

 扉が開く様子にも気付かないあたり、彼女も目の前が見えていなかったのであろう。そのうえ八つ当たりしたにもかかわらず、まだ機嫌は直っていない。

 

 JBに対して不審そうな視線を向ける。(事実、不審である)

 

 

「あなた、部外者ね。まだ扉を開ける時間ではないでしょう? ほら、早くあっちに戻りなさい」

 

「女! この私に…! ネイジアの加護を受けた私に、貴様のような穢らわしい者が触れるとは!! 万死に値する!」

 

「は?」

 

「くくく、女を切り刻むのも嫌いではないからな! 八つ裂きにしてくれる!」

 

「あー、あーなるほど。そういうことね」

 

 

 このやり取りだけで、マキはJBの本質を理解した。

 

 

「あなた、【変質者】でしょ?」

 

「なに?」

 

「それとも真性の馬鹿かしら? いるのよね、こういうやつって。もうすぐ涼しくなる季節だっていうのに、平然と湧いて出てくるから怖ろしいわ。ほんと、どこから来るのかしら。ほら、しっしっ、みんなの迷惑になるからあっち行きなさい」

 

 

 野良犬を追い払うように手を動かす。

 

 かなり失礼かつ乱雑な対応であるが、門番をやっていると変な輩は山ほど来るのだ。そんな馬鹿どもの相手をいちいちしていたらきりがない。さっさと追い出すのが一番である。

 

 改めて言うが、マキは苛立っている。

 

 ここ何日間の鬱憤が溜まりに溜まっている。真面目な性格かつ強い自制心で己を抑えているが、内心ではアンシュラオンへの想いで一杯なのだ。

 

 一度たがが外れたら見境がなくなるタイプだ。恋をすると熱中して、平気で彼氏のために借金をしてしまいそうで心配になる。

 

 それはともかく、もう一度言おう。

 

 彼女は苛立っている。

 

 

「このような恥辱! 女などに受けるとは!!」

 

 

 当然、そんな扱いを受ければJBは激怒する。

 

 自分が最初に他人を見下したくせに、見下されると怒るとは、なんと人間が出来ていないのだろう。

 

 

「はぁ? なにこいつ? 変質者なだけでなく差別主義者なの? あー、もううんざり! こっちが下手(したて)に出ていると、どこまでもつけ上がるし、ほんと最低ね。力づくで追い出されたくなければ、早くあっちに行きなさい」

 

「もう許さん!! 痛みと恐怖で悶え―――」

 

 

 JBが前に出ようと一歩を踏み出した時には、マキはもう力強く地面を蹴っていた。

 

 柔軟かつ引き締まった足によって疾風のように運ばれた身体が、一気にJBの懐に入り込む。

 

 そこからさらに踏み込んだ足が、石畳を破壊。

 

 それと同時に繰り出された右拳が、JBを―――

 

 

 ドーーーーーーーンッ

 

 

 吹き飛ばす。

 

 彼の身体は再びピンポン玉のごとく飛ばされ、検問ゲートを突き破り、三十メートル後方にまで転がっていった。

 

 転がるということは、それだけ力が逃げていることを示してもいる。だが、JBが自分で背後に跳んだわけではないし、マキの拳が弱いわけでもない。

 

 彼女が意図的に破壊的な攻撃を控え、衝撃で弾き飛ばす手法を選んだからである。

 

 彼女の役目は門番。相手を滅することも重要だが、まずは相手を門から遠ざけるのが仕事である。その職務をまっとうしただけだ。

 

 

「追い出したわよ。さっさと門を閉めなさい」

 

「…き、キシィルナさん!! き、来てくれたんですか!」

 

「まったく、あなたたちは何をしているの。こんな変質者を通すなんて門番失格よ」

 

「も、申し訳ありません!! 銃も効かなくて…」

 

「はぁ…やっぱり職場が悪いのかもしれないわ。こんなところにいたら婚期も逃すわよね。早くアンシュラオン君に会いたいわ…。ほら、さっさと閉める!」

 

「は、はい!!」

 

 

 マキに命令された衛士たちが、十人がかりで門を閉める。

 

 門番長…というより、マキが来たせいか、彼らの表情も劇的に明るくなっている。この門には必ず彼女がいる。その安心感が伝播しているのだ。

 

 アンシュラオンが周囲に絶対の安心を与えるように、マキもまた門番たちの拠り所であった。

 

 だが、JBは軽々と立ち上がる。

 

 この攻撃でも彼はダメージを受けていない。

 

 

「…ふん。不快な」

 

「あら、頑丈なのね。手加減の必要はなかったかしら」

 

「手加減? くくく、この私に手加減? くくく、はははははは!!」

 

 

 JBのフードが、ぐねぐねと動く。

 

 風も吹いていないのに、内部で何かが蠢いているように跳ね回る。

 

 

「万死!! その身に万の傷を付けてから殺してやろう!! わが力の前にひれ伏せ!!」

 

「うわ、本当にやばいやつなのね。その恰好も変だし、何かイッちゃってる感があるわ。私も門番暦が長いからわかるのよね。あんたは…そうね……【中二病】? 自己陶酔のナルシストで妄想癖があるわね。病院行ったら?」

 

 

 グサッ!! いたたたたたっ!!

 

 マキの言葉を聞いた一般人の男性数名が、その場でうずくまる。彼らの心に容赦なく鋭い刃を突き立てるとは、実に怖ろしい女性だ。

 

 マキは言ってしまえば「キャリアウーマン」であり、社会的に自立している立派な女性である。そんな女性の冷たい視線は、オタク男にとっては恐怖でしかないだろう。

 

 フードを深々と被って顔と身体を隠し、「俺は特別臭」を出しているJBは、彼女から見れば中二病のニートでしかない。

 

 

「早く自立しなさい。いつまでも親御さんは元気じゃないんだから、現実を見ないと痛い目に遭うわよ。そんな大きな身体があれば工事現場でいくらでも働けるでしょう? 仕事を紹介してあげましょうか?」

 

 

 マキの言葉は相当辛辣である。

 

 これも苛立っているので八つ当たりしているだけだが、事実でもあるので痛さは変わらない。

 

 

「んぐうううう!! あの男といい、この都市の人間は生きる価値もない!!」

 

「そうやって自分が駄目なのを他人のせいにするから、どんどん駄目になるのよ。駄目なのはあなたであって、どこかの誰かじゃないのよ」

 

「うるさい!! その顔をぐちゃぐちゃにしてやるわ!!」

 

「はぁ? 最低の発想ね。まさにコンプレックスの塊だわ。それが格好良いとでも思っているの? 単純にダサいだけよ」

 

「貴様…死ね!!」

 

 

 JBが駆ける。

 

 この大きな身体が一気に加速し、マキに向かっていく。今度は本気のダッシュだ。加速度が違う。

 

 レクタウニードス〈重磁大海象〉との戦いを見てもわかるが、JBはけっして鈍重ではない。

 

 拳の速度、身体の移動速度は平均的な武人の数段上だろう。第七階級の達験級と比べても遜色はない。

 

 ただし、それが普通の達験級の武人ならばだ。

 

 JBが駆けてトップスピードに入る前に、マキはすでに駆けており、拳を打ち出す態勢に入っていた。

 

 JBがいくら平均以上の力を持っていたとしても、同階級帯で踏み込みの速度がトップクラスのマキからすれば、それは「ノロい」のだ。

 

 

「遅いわ!」

 

 

 JBが拳を引き絞る間に、マキは拳を放つ。

 

 ドゴンッとマキの一撃が、JBの胸に直撃。

 

 今回はJBも前に出ていたので、門での一撃のように簡単には飛ばされないつもりでいた。

 

 

「ちぃいい!」

 

 

 しかも相手のほうが速いと見ると、咄嗟に身体を丸めて防御の構えに入ったのだ。

 

 このあたりは、さすが武人専門の殺し屋。高い技量を持っている。

 

 

 しかし―――圧す

 

 

 マキの拳の特徴は、『真っ直ぐ』であるところだ。完全に垂直に真っ直ぐになったものは、極めて硬く、極めて強固になる。

 

 彼女の一撃もそれと同じで、身体を真っ直ぐ、拳を直線的に相手に打ち出すからこそ、速くて強くなる。

 

 圧縮された貫通力が、臨界を突破して爆発。

 

 

 JBの巨躯に激しい衝撃が発生し―――飛ぶ

 

 

 その衝撃の前では、防御も無意味。

 

 JBは簡単に押し出され、遙か遠くの駐車場にまで飛ばされ、停めてあったクルマに激突!!

 

 クルマのドアを破壊しながら、中に突っ込んでいった。

 

 球場の屋外駐車場にあった車に、場外ホームランのボールが当たる光景に似ているかもしれない。あの巨体が、それほど景気よく飛んでいったということだ。

 

 

 ビッグフライ! JBサーーーーンッ!

 

 

 また、相手も直線で向かってきてくれたので、反発力が生まれて衝撃がさらに高まったのだ。

 

 同じ直線同士ならば、より強固で強いほうが勝つ。その意味においてマキの拳は強かった。

 

 

「一昨日来なさい。というか、さっさと働きなさい」

 

 

 パンパンと手をはたき、門の前に立ち塞がる姿は女傑の名に相応しい。

 

 グラス・ギースの門には、必ず彼女がいる。

 

 

「おおおお! キシィルナ門番長!! かっこいいいい!」

 

「やっぱり俺たちのアイドルは、あの人しかいないぜ!!」

 

「ひゅー、ひゅー、女衛士さん、すごいぜーー!」

 

 

 JBに横入りされた人々は、誰もがマキを応援したことだろう。盛大に飛ばされた姿にスカッとしたはずだ。

 

 ただ、その姿に爽快感を抱いているのは、なにも部外者だけではない。

 

 

「ぎゃはははは!! やられてやんの、あいつ!! あー、腹いてー! ふっ飛ばされちゃってよ! はずかしーー!! なんだったんだ、あの自信はよ! ぎゃはははは!!」

 

 

 その光景に腹を抱えて笑うクロスライル。

 

 意気揚々と出て行ったのに即座に返り討ちにされるのだ。完全に笑い話である。

 

 そして、JBが突っ込んだクルマに近寄ると、冷やかしの言葉を浴びせる。

 

 

「おいおい、JBさんよ、代わってやろうかぁ? オンバーン姐さんのファンになってCJ購入の手伝いをするなら、ちょっくらお手伝いしてやってもいいぜぇ?」

 

「…ふざけるな」

 

 

 めり込んだJBが、ゆっくりと身体を起こして這い出てくる。

 

 

「大丈夫かぁ?」

 

「ふん、心配などしていないのに白々しい。おおかた、この失態を報告して私を貶める腹積もりだろう」

 

「あ、バレた? そりゃ、お前のお目付け役だしな。言っちゃうよ。口軽いしさ。だって本当だもんな。あんな可愛いお嬢ちゃんによ、ぷぷぷ。はずかしー!」

 

「次に何かほざいたら、お前の口から叩き潰してやる。黙っていろ!」

 

「へいへい、お気をつけて」

 

「あの女…もはや許さん!」

 

「いやお前、それ完全に負けフラグじゃね?」

 

「黙っていろと言ったぞ!!」

 

 

 JBの身体から巨大な戦気が噴出し、クルマが粉々に吹き飛ぶ。

 

 戦気はその人間の状態を示すものでもある。彼は強い信仰心から『白い戦気』を持っていたが、今は怒りに満ちているのか、とても真っ赤な色合いをしていた。

 

 

「言っておくけどよ、キレて『アレ』はやるなよ」

 

「あのような小物に使うか」

 

「んなこと言ってよ、つい先日やったばかりだろうが。てめぇは困ると、いつもあればかりやる。今回はやめとけよ。ファルネシオに言っちまうぞ」

 

「ぐううううっ! 貴様も軽々しくネイジアの名を出すな! 余計な真似をしたら、ただでは済まさんぞ! おとなしく下がっていろ!」

 

「はいはい。行ってらっしゃーい」

 

「ふんっ! 不快だ!! 極めて不快だ!!」

 

 

 JBは再び門に向かっていく。

 

 やられたまま済ますほど人間が出来ているわけもない。まだ修羅場は続くだろう。

 

 

「あーあ、大丈夫かね、あいつ。キレなきゃいいけどな」

 

「アレがなくても彼は強いですよ」

 

「おっ、持ち上げるねぇ。それとも、持ち上げてから落とすかい? オレのほうがつえーみたいなよ」

 

「そういうつもりではありません。本当にJBは強い武人です。少し前の私ならば、手も足も出なかったと思います。仮に広域破壊を封じられても、彼は紛れもなく強いのです」

 

「だが、あのお嬢ちゃんも強いぜ。JBを弾き飛ばすなんて、並じゃねえな」

 

「それは仕方ありません。なにせ彼女も、少し前ならば私が絶対に勝てない相手だったのですから」

 

「へー、兄さんのお墨付きか。それなら面白い。なぁ、賭けようぜ。どっちが勝つと思う?」

 

「不謹慎ですね。仲間でしょう?」

 

「こんな面白い話、賭けなきゃつまらんだろう?」

 

「では、私は彼女に」

 

「おいおい、それじゃ賭けにならねぇな」

 

「おや? あなたも彼女に賭けるつもりだったのですか?」

 

「そりゃな。あんなイカれたヤバいやつを応援なんかしたくねぇし」

 

「酷いですね。少しは応援してあげてください。どのみち私は地元の人間を応援しますよ」

 

「ちっ、しょうがねぇ。こうなったら周りを巻き込むか。おーい! そこのやつら、暇してるかー! 賭けをしようぜ!! あの大男と門番の姉ちゃん、どっちが勝つかだ!!」

 

「なにぃいい! 面白そうじゃねえか! 乗った!!」

 

「なんだ、なんだ!? なにやろうってんだ!」

 

 

 クロスライルが並んでいた者たちに声をかけると、思った以上の人々が集まってきた。

 

 

「さあ、賭けた。賭けた!!」

 

「俺はやっぱり、あの姉ちゃんだな。胸がでかい!」

 

「馬鹿たれが。戦いでは邪魔になるじゃろう。わしは、あの変なやつじゃな。何か隠し玉がありそうじゃよ」

 

「断然、あのお姉さんです!!」

 

「見ろよ、あいつ。全然ダメージ受けてねえぞ。おれはあの男だな!!」

 

 

 あれよあれよという間に賭けが成立していく。

 

 賭け試合が好きなのは収監砦だけではない。荒野全体からしても数少ない娯楽なのだ。しかも収監砦とは違い、荒野での戦いは互いの死に直結することが多いので白熱する。

 

 サッカーが盛んな南米では、まったく専門家ではない酒場のおっちゃんが、やたらテクニカルな話をしてくることがあるが、それだけ文化が浸透していることを示してもいるわけだ。

 

 今のところ賭け具合は、マキ七割、JB三割といったところだろうか。

 

 女性は華があるし、単純にマキが強いことは初めて見る者にも明らかだ。その点で人気が出ているのだろう。

 

 しかし、JBはただの武人ではない。

 

 

(彼女が強いことは知っていました。私もかつてはボコボコにされましたからね。入院までしましたし…。ですが、彼もまた強い。どうなるかはまだわかりませんね)

 

 

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