※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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598話 「何でもありの真髄 その3『そのすべてが力』」

 

 黒い世界で、自分を見つけた。

 

 自分という存在を認識し、こういうものなのだと理解した。

 

 彼の目に映った自分。自分から見た自分。

 

 

 それを強く意識した瞬間―――

 

 

 カッ!!

 

 

 サナの目が見開かれると同時に、身体が今まで以上の青い雷に包まれた。

 

 青く、碧く、とても力強い。

 

 まるで生命の輝きが具現化したような鮮烈な光であった。

 

 これに比べれば従来のものは、古ぼけたセピア色の写真。

 

 

 グルグルッ! ブチブチブチッ!

 

 

 そのまま身体を回転させ、雷爪で剣山を抉り、巻きつく剛糸を切断しながら強引に罠から脱出。

 

 相変わらず思いきりがよいものだ。まったく何も怖れずに行動に移すことは長所だが、長所は短所の側面も映し出す。

 

 足からは大量出血。肉も抉れ、かなりの重傷を負ってしまう。

 

 

「…ぎゅっ」

 

 

 だが、即座に布と紐を使って傷口の保護と止血を開始。

 

 ポケット倉庫から高級傷薬を取り出すのも忘れない。

 

 武人とはいえ人間である。抵抗力が落ちれば病気にだってなる。こういう処置は早ければ早いほど化膿や感染リスクを減らすことにつながるものだ。

 

 その間も視線はセクトアンクから外さない。何か仕掛けても対応できるように、じっと観察している。

 

 そうしてじりじりと間合いを広げると、刀を拾って構える。

 

 が、自ら攻撃には出ない。

 

 静かに傷の回復を待ちながら、自身の周りを慎重に見回す。

 

 

「…ごそごそ」

 

 

 そしてポケット倉庫から木製銃を取り出すと、発砲。

 

 パスパスッ パスパスッ

 

 リボルバー式の銃なので連射が利き、多少の間隔はあるが銃弾を連続して発射。

 

 こちらの中身は爆炎弾。当たった箇所を燃やす効果がある術式弾だ。

 

 ただし、狙いはセクトアンクではない。

 

 

 壁と床を―――燃やす

 

 

 ボォオオオ ボロボロッ

 

 そこにはセクトアンクが隠していた術符があった。

 

 サナがこうも簡単に彼の戦術に引っかかったのは、術符に偽装が施されていたからである。

 

 白い床に貼る術符は、あらかじめ表面を白い紙で覆ったものを使ったり、術式が崩れない場合は白く着色したものを使っている。

 

 透明の壁に貼る場合は、逃げながら壁を汚すことで、それが術符だとわかりにくくするといった工作も施していた。(実は壁自体は汚れないので、そこから数センチ離した場所に『汚れを設置』する念の入れようである)

 

 また、ジュンユウもやったことだが、剣をくるくる回す仕草も相手の視線を自分に向ける効果がある。

 

 人も動物も、目は自然と動くものに引き寄せられる。そうした習性を利用しているのだ。

 

 しかし、それらは注意深く見れば看破できること。

 

 怒りに囚われず慎重に相手を観察し、動向を注視し、自分と相手の特性を考えれば推測することだってできる。

 

 今現在そうしているように『同心』で周囲をうかがう癖をつけていれば、そう簡単に目の前で偽装はできない。

 

 サナの行動の変化は、これだけに終わらない。

 

 

 魔石を―――切った

 

 

 バチバチッ プシュウ

 

 雷気が消え、逆立った髪の毛が重力に引かれて垂れ下がる。

 

 それから【狐面】を取り出し、顔に被った。

 

 文字通り、狐面から奪った『黒狐神(くろきつねがみ)のお面』という術具である。

 

 これは毒煙を無効にするものだが、人間にとって有害な成分を無効化する強力なものなので、刺激臭に対しても効果がある優れものだ。

 

 

「…ふー、ふー。すー、はーーー! すーー、はーーーーーー!」

 

 

 五感が平常時に戻ったこともあり、かなり呼吸が楽になった。

 

 目はまだ痛むが、新しい刺激による痛みはない。これならば視界の確保も十分といえる。

 

 唯一の難点は魔石の恩恵が受けられないことであるも、動けなくなるよりましだ。

 

 これでいい。今はこれがいい。このほうがいい。

 

 体内に酸素が供給されることによって、生体磁気が一気に活性化。体表の戦気に張りが戻ってくるのを感じた。

 

 

 

 

(目の色が―――変わった)

 

 

 セクトアンクは、サナの異変に気づいていた。

 

 今までの彼女とは明らかに違う種類の輝きが、その瞳に宿ったのだ。

 

 色素の話ではない。たまにサナの瞳が赤になることもあるが、今は美しいエメラルドのままだ。

 

 だからこそ、そこに価値がある。

 

 

 彼女は、【人】として戦うことを選んだのだ。

 

 

 人は獣とは違う。獣も人とは違う。

 

 人足らしめるものがなければ、人とは呼ばない。

 

 では、それは何か。

 

 

 目に満ちたものは―――【知性】

 

 

 自分を自分と認め、他を他と認め、困難な状況を打開するために【選択する能力】である。

 

 知性は正しい状況判断に必須のものでありながら、もっとも鍛えることが難しい要素の一つだ。もしかしたら身体を鍛えることより難しいかもしれない。

 

 だからこそ重要。

 

 強者と戦ううえで最大の味方になるのが、人が持つ知性なのである。

 

 

(これからは手ごわくなる)

 

 

 セクトアンクは、身を引き締める。

 

 今までの獣ならば簡単に退けることができたが、一番厄介な『人』だとそうはいかない。

 

 ここでようやくサナは、敵と同じ土俵に立ったといえる。

 

 

 

 こうなればセクトアンクも、そのまま黙って見ているわけにはいかない。

 

 銃で妨害を開始。

 

 ポケット倉庫から素早く短銃を取り出すと、連続射撃を行う。

 

 取り回しを考えて二発入りの短銃を使っているため、いちいち取り出す手間が必要だが、それでもさすがに回転が早い。

 

 大道芸人のお手玉でも見ているかのように、彼の手の平でいくつもの短銃が回っては、次々と銃弾が発射されていく。

 

 さすが道具の扱いにかけては一流。アンシュラオンやサナ以上にポケット倉庫の扱いに慣れていることがわかる。

 

 今のサナは魔石を使っていない。術式弾なので、くらえば大ダメージは必至だ。

 

 サナは転がるようにリングを移動しながら回避しつつ、お返しとばかりに木製銃で反撃。

 

 無理に狙いをつけず、手当たり次第に装填された術式弾を撃っていく。

 

 また、得物にもこだわらない。撃ち尽くした銃は即座に投げ捨て、矢を装填済みのクロスボウを取り出して発射。

 

 こちらもすべて使い捨て。

 

 一発撃ったらリングに放り投げ、また新しいものを出すことで連射を可能にしている。

 

 さすがに矢が簡単に当たる相手ではない。ほとんどは回避される。

 

 

 ただ、その中には―――爆発矢

 

 

 ドーーーーーーンッ!!

 

 

 こちらは正真正銘、大納魔射津を使ったものであるため、大きな爆発が起こる。

 

 狭いリング上、およそ二十五メートル四方(無制限のリングは、他の会場より少し大きい)では、直撃を受けなくても爆風でダメージが発生する。

 

 セクトアンクも身体を丸めて飛び退くが、衝撃でリングの端にまで吹き飛ばされ、透明の壁に激突して止まる。

 

 これだけの爆発だ。

 

 サナも余波の影響を受け、ごろごろと床の上を転がっていた。

 

 爆発で一番恐ろしいのは爆風だといわれるが、まさにその通りの光景である。こんな閉じられた空間で使うものではないだろう。

 

 ただ、やはり先に立ち上がったのは距離があったサナである。

 

 すでに鼓膜が破れているため、聴覚が麻痺していたことも大きかったかもしれない。

 

 彼女は『邪魔な刀』を捨てると『ナイフ』を取り出し、倒れているセクトアンクに接近。

 

 

―――と見せかけての術符攻撃

 

 

 風鎌牙の術式が発動。

 

 いきなり突風が襲いかかったため、体勢を整えようとしていたセクトアンクは、再び倒れて床を転がる羽目になった。

 

 雷爪でのダメージが大きかったことも要因だと思われる。まだ完全に身体のキレが戻っていないようだ。

 

 そこに改めて接近戦を挑むサナ。

 

 真上から襲いかかり、ナイフを突き立てようとする。

 

 セクトアンクは寝転がりながら剣でガード。

 

 

 カンカンッ! キンキンッ!

 

 

 そのまま両者は斬り合いに入った。

 

 サナは相手に起き上がる隙を与えないように上から圧力をかけ、一方のセクトアンクは防御優先で捌くことに集中している。

 

 こうして見るとセクトアンクの剣術はかなりのものだ。倒れた状態にもかかわらず、サナの素早い攻撃にも見事に対応している。

 

 一撃の攻撃力は高くはないが、その正確さは爆弾を解体した時に実証済み。得物がナイフでは勝ち目がなさそうだ。

 

 が、サナの特性を忘れてはいけない。

 

 

 ナイフで切ると見せかけて―――虎破

 

 

 ドゴンッ!!! ビシィイイッ!!

 

 

 力の入った拳が炸裂する。

 

 サナは単なる剣士ではない。こういうときのために戦士としての鍛錬も行っているのだ。

 

 セクトアンクはギリギリで回避したが、床に当たった拳の威力を肌で感じることになる。

 

 明らかに子供が放つ拳ではない。人を殺すための本物の武人の拳だ。

 

 だが、それ以上に恐ろしいことがわかった。

 

 

 

―――拳の威力が戦士と変わらない

 

 

 

 足が傷ついても走れるだけの耐久力。忍耐力。身体の強さと回復力。それに加えて剣技まで普通に操れる器用さ。

 

 これではまるで【モザイク〈複合因子〉】ではないか。

 

 ハイブリッド〈混血因子〉の上位であり、二つの因子を同時に完全に扱える存在をそう呼ぶ。

 

 「デルタ・ブライト〈完全なる光〉」は、アンシュラオンとパミエルキだけが持つ究極の因子であるが、もし彼女がその力をも吸収していたとしたら、どうだろうか。

 

 モザイクくらいは当たり前。サナにとって戦士や剣士といった区別は存在しないことになる。

 

 

 このままではまずい。

 

 

 危機感を抱いたセクトアンクは、まずはこの状況を切り抜けることを優先。

 

 水流波の術符を三つ同時に発動させると、自分もろとも水圧で吹き飛ばして距離を取る。これによってサナも一時後退。

 

 だが、こうして距離を取るということは、相手が嫌がっている証拠でもある。

 

 

 

―――「常に相手の嫌がることをしろ」

 

 

 

 耳元でアンシュラオンの声が聴こえた気がした。

 

 今まではそれを素直に受け入れていただけであったが、そこに『自ら考える』ことを加える。

 

 考えることで意識がよりハッキリして、よりクリアになっていく。

 

 サナという存在が、どんな生き物なのか。どれだけの力があって、どんなことができるのか。

 

 セクトアンクという存在が、どんな生き物なのか。どれだけの力があって、どんなことができるのか。

 

 

 そして、どうすれば優位に立てるのかを考える。

 

 

 全体が見える。

 

 意識がリング一杯に広がって、埋め尽くすような感覚に包まれる。

 

 セクトアンクが見える。手の位置、足の位置。首の角度、視線の方向。筋肉の動きがわかる。

 

 床に転がっているもの、それが背後のものでさえ場所が特定できる。どこに何があって、どういう状態であるのかもわかる。

 

 

 意識があるって、すごい!!!

 

 

 もしサナが普通の女の子だったならば、そう叫ぶに違いないが、その代わりに彼女は深く頷いて『感情』を示す。

 

 

「…こくり」

 

 

 【勝ちたい意思】が、サナに満ちた瞬間であった。

 

 

 

 近づかれたくないセクトアンクは、水刃砲の術符を使って攻撃を繰り返す。

 

 それに対してサナは、雷貫惇の術符で対抗。

 

 

 両者が激突し―――雷が打ち勝つ

 

 

 同じ放出系の術式であり、相性も良いため相殺の可能性もあったが、雷貫惇のほうが因子レベルが高い術のために水刃砲を一蹴。

 

 セクトアンクはよけるも、肩に被弾。

 

 彼は『雷地強装(らいちきょうそう)の術衣』を着込んでいるため、雷ダメージは受けないと思いきや、強い衝撃とともに肩が焼かれている。

 

 見れば装束にはいくつもの裂け目が入っており、雷防御の特性を完全には発揮できていないようである。

 

 さきほど受けた風鎌牙が原因だろう。あれで装束が裂けてしまったのだ。

 

 この点に関しては、サナに思惑があったのかどうかはわからない。たまたまそうなっただけかもしれない。

 

 ただし、ここで一つだけセクトアンクに誤算があったことがわかる。

 

 

 雷に特化させすぎた。

 

 

 サナの魔石があまりに強いがゆえに、雷耐性を重視するしかなかった。

 

 だからこそ術符の大半も水属性のものが多い。あるいは雷を誘発させるための火もあるが、強力な術符はもともと数が少ないため万全の用意が難しい。

 

 むしろ、やや寂れた都市であるグラス・ギースの物流かつ、しかも地下において、これだけの術符を用意できるだけ凄いのだ。

 

 では、それらが無駄だったのかといえば、けっしてそうではない。

 

 

 サナが―――急加速

 

 

 一瞬だけだが、体表に雷気が走ったのが見えた。

 

 それによって一気にセクトアンクに接近し、今度は刀を振る。

 

 術符を起動させると同時に足で刀を蹴り上げ、掴んだ瞬間に加速したのだ。なかなかの芸当を見せてくれる。

 

 実はこれ、アーブスラットがやった、大納魔射津を蹴り上げる小技を真似たものだ。

 

 身体は前に向いて相手に集中しながら、足を動かして同時にノールック動作を行う。地味だが、やれるとやれないとでは行動に大きな差が生まれる。

 

 

 ガキィンッ!!

 

 

 セクトアンクはガードに専念。受け流す。

 

 しかし、サナは刀を振ったままの勢いで回転し、回し蹴りを放った。

 

 ルアン戦でも見せた、ガンプドルフから盗んだ技である。さすがに本家の技のキレには及ばないが、ここに【魔石の力】を乗せる。

 

 ギュンッ!! チッッ!!

 

 雷気で加速した足が、セクトアンクの頭部を掠めた。

 

 それだけで頭を覆っていた頭巾が破れ、こげ茶色の髪が一部露出する。

 

 まともに一撃を受ければ、今頃はノックアウトされていたかもしれない威力だ。

 

 

 ここでもう一つの変化があった。

 

 

 サナは魔石の力を完全には切っていない。ただし、今までのように雷撃といった攻撃は控えている。

 

 一方で【魔石から力を引き出して】もいる。

 

 雷の部分ではなく、身体能力の部分だけを少しだけ上乗せしているのだ。それによって傷を負ったハンデを埋めていた。

 

 これは『魔石の段階使用』という高等技術の一つである。

 

 魔石の力をすべて出せば、戦える時間には限りが出てくる。強敵相手ならば致し方ないが、それでは消耗も激しい。

 

 ということで普通に考えれば小出しにするのが一番だが、それが簡単にできれば苦労はない。

 

 サナがエル・ジュエラーという上位のジュエリストであること。そして魔石との相性が良いことが最大の要因だろう。

 

 これが意味することは、魔石の制御が上手くなった。

 

 もっといえば―――

 

 

 

 魔石を【支配下】に置きつつある。

 

 

 

 ということである。

 

 サナは自意識というものが希薄だった。だから魔石の獣性に支配され、黒雷狼が暴走するような結果に陥った。

 

 だがしかし、今は【知性】が宿った。

 

 理解し、考え、思考し、行動をはっきりと決めること。

 

 そこには【意思】がある。

 

 ただの闘争本能だけではない、明確な人間としての知恵がある。それが魔石を少しずつ侵食していっているのだ。

 

 馬に振り回されていた少女が、何かをきっかけに突然上手く乗り始める。

 

 すると、どうだろうか。

 

 馬のほうも少女のことを認め始めるのである。

 

 動物なんてそんなものだ。たいした知性があるわけでもない。その代わり、感覚で相手を理解する力に長けている。

 

 

 ペンダントが青く輝く。

 

 

 サナの意識に呼応して、適切な力を配分していく。

 

 魔石が焦りそうになれば、彼女の知性が「まだだ」と抑える。必要ならば「もっと」と要求する。

 

 その気になれば雷撃も扱えるため、セクトアンクは雷への警戒を解くわけにはいかないのだ。

 

 それによってだんだんセクトアンクは、サナを引き離せなくなっていく。

 

 サナの動きが、どんどん良くなっているからだ。

 

 

 なんというデジャブであろうか。

 

 

 ほんの一時間ちょっと前に見たあの感動が、再び観客たちを襲う!!

 

 

 人々の視線は、完全にサナに釘付けだ。

 

 胸がドキドキする。ワクワクする。

 

 人生の落伍者であるヤクザ崩れの連中が、心をときめかせながら十歳の少女から目が離せない。

 

 これを見ていたソヨコ・スズキは、一瞬にして【本物】との格の違いを知ったという。

 

 本物にショーは必要ない。

 

 ただその行動によって、他者を自然と引き寄せるのだ。

 

 

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