※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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599話 「何でもありの真髄 その4『初々しい自我の欠点』」

 

 サナは、少し離れたところで再びクロスボウを構えると、矢を発射。

 

 セクトアンクは切り払おうとするが、矢の先端を見た直後、大きく飛び退いた。

 

 また爆弾矢か?

 

 否、そうではなかった。

 

 

 矢の先端には―――術符

 

 

 術符は矢によって運ばれ、近距離で風鎌牙が発動。

 

 セクトアンクは咄嗟に剣を放り投げ、矢に当てて方向を変えることで、カマイタチもあさっての方に飛んでいく。

 

 もしあのまま切り払っていたら、発動した術式に巻き込まれてダメージを負っていただろう。

 

 それをかわしたセクトアンクもすごいが、実はサナもすごいことをやっていた。

 

 まず、術符を普通に発動させると即座に効果が発生するが、矢で運ぶ時間だけ発動を遅らせている。これがすごいのだ。

 

 これをどこかで見たことがないだろうか?

 

 

 そう、アンシュラオンがやっている『停滞反応発動』という高等技術である。

 

 

 この技は遠隔操作の資質がないと絶対にできないもので、なおかつあれだけ長期間に渡って維持することは『超人』でなければ不可能だ。

 

 では、一方の術符ではどうかといえば、ほんの少しだけ発動を遅らせることは誰にでもできたりする。

 

 自ら術を生み出す場合は難しいのだが、紙という媒体に術式が描かれた状態になっているため、『よれ』を作ったり、少し破いてみたりすることで意図的に発動時間をずらすことが可能である。

 

 言ってしまえば、わざと『接触不良』を起こすことで発動までの時間を稼ぐのだ。

 

 それを使ってセクトアンクは、試合中にいろいろなタイミングで術符を起動させ、サナを窮地に陥れてきた。

 

 

 しかしながら、簡単にできることではない。

 

 

 あくまで『可能』なだけであり、実戦でそれをやるには相当なテクニックが必要となるだろう。

 

 術符の破損が大きければ、術式自体が発動しないこともある。下手をすれば暴発して、自分を巻き添えにする可能性だってあるはずだ。

 

 セクトアンクがこの技術を体得するのに、うん十年という月日を費やしているのだ。その中で幾度も失敗して命の危機に瀕したこともある。

 

 グランハムが彼に教えを請うたことを思えば、いかに優れた技術かがわかるだろう。

 

 ただし、それもまた普通の人間の場合だ。

 

 

 サナはそれを『コピー』できる!!

 

 

 ジュンユウからも戦気術を奪ったように、セクトアンクからは術符の技術を奪っている。

 

 実際に見ただけではなく、受けた側に立てば立つほど、彼女のコピー能力が際立っていくことがよくわかる。

 

 その証拠にサナは、すでに術符の同時起動までも体得していた。

 

 

 二枚の水刃砲を―――起動

 

 

 両手で発動した術符が、交差するようにセクトアンクに迫る。

 

 セクトアンクの逃げ道は、もう上にしかなかった。

 

 ジャンプして回避。

 

 が、当然ながらそれは誘導。

 

 大きく跳躍したセクトアンクをサナが追撃。

 

 着地際を狙って、いくつかのフェイントを交えてから繰り出された拳が、ヒット。

 

 

 ゴンッ!

 

 

 この間合いはかわせない。

 

 セクトアンクは両手でガードするしかなかった。

 

 ミシミシと骨に強い力がかかり、あまりの衝撃に腕が麻痺する。

 

 下がりながら受けていなければ、今頃は腕の骨をへし折られていただろう。

 

 されど、攻撃は一撃では終わらない。

 

 

 ドガドガドガドガッ!!

 

 

 サナのラッシュ。

 

 小刻みな動きで相手を押し込むように拳を連打する。

 

 その圧力のかけ方も見事で、脱出しようとするセクトアンクを右に左に揺さぶって逃がさない。

 

 これもどこかで見たことがあると思ったら、レイオンがよくやるラッシュに似ていた。

 

 生粋の戦士から奪った技なので、本場仕込みともいうべき上手さがある。

 

 ただし、これにはちょっとだけ『落とし穴』もあった。

 

 サナとレイオンでは体格差が違うため、そのままコピーしてしまうと必ず差異が生じてしまうのだ。

 

 まだ子供のサナの細い腕では、セクトアンクを強引に止めることはできなかった。

 

 

 一瞬の隙をつかれて抜け出される。

 

 

 が、サナもレイオンとは違う要素を持っている。

 

 サナは無理に追いかけず、それを見越したように『火鞭膨(かべんぼう)』の術符を取り出すと、前方一帯を炎で薙ぎ払う。

 

 セクトアンクは水流波の術符を三枚出し、必死に火消しを試みるが、火の勢いは強く、身体全体が簡単に呑み込まれた。

 

 火鞭膨は広域を焼き払う強力な術式だ。こんな閉鎖空間での回避は不可能である。

 

 

 ジュウウウッ ごろごろっ

 

 

 火の中からセクトアンクが転がり出てきた。

 

 装束は所々が焦げているが、見たところ致命傷は負っていないようだ。

 

 水流波の術符は、自身を水浸しにすることも計算してのことだったのだろう。このあたりはさすがである。

 

 

 それを見たサナは、接近して攻撃を再開。

 

 時には魔石の力を解放しながら追い込み、刀・術符・クロスボウ・銃の、近中遠距離、どこからでも攻撃を仕掛けていく。

 

 自ら積極的に攻撃を仕掛けることで、相手に考える余裕を与えなかった。

 

 セクトアンクは捌くのがやっと。少しずつ手傷が増えていく現状に陥る。

 

 彼は『試合巧者』であるため、こうした攻撃的な相手にも慣れているはずだが、ほとんど仕事らしい仕事をさせてもらえない。

 

 

 間合いが―――【絶妙】

 

 

 サナは抜群のバランス感覚で間合いを測り、さまざまな道具とフェイントを使って翻弄していた。

 

 事前の準備で策を弄するタイプのセクトアンクは、これをやられると厳しい。

 

 ここで完全に彼のプランが狂ったことを意味している。

 

 だが問題は、それができる彼女のほうにある。

 

 これを解説者はこう評した。

 

 

 

「まるでグランハム氏のようだ!!」

 

 

 

 イケダの目には、それがグランハムとダブって見えた。

 

 当人を知っているからこその発言であり、その言葉は非常に適切だった。

 

 

 サナはここでも、グランハムを【コピー】したのである。

 

 

 目の前で戦いを見ていたのだから、彼女にできないわけがない。

 

 いや、彼女だからこそ可能なのだ。

 

 

 

 

(そうだ、サナ。それでいい。持っている力をすべて利用しろ。お前には無限の可能性があるんだ。生き延びるために何でも真似ればいい。そのすべてがお前の魂を輝かせる)

 

 

 躍動し、急激に【進化】していくサナに、アンシュラオンは強い感動を覚えていた。

 

 サナには、さまざまなものを見せてきた。

 

 感情はもとより、実際の戦いを見せることで技術を与えてきた。

 

 荒野に赴かせて、生死を肌で感じさせたこともある。

 

 

 

 そのすべてが―――力!!

 

 

 

 生きるという意思が、渇望が、怒りが、思考が、行動となって力となって体現されていく奇跡。

 

 生きるとは何か。

 

 

 魂を輝かせ、燃やすこと!!

 

 

 無限に成長するからこそ、人は偉大なのである。

 

 闘争とは、進化を促すから尊い。

 

 ただ物が壊れるだけの物質的現象ではない。そこに魂を活性化させる要素があるからこそ意味がある。

 

 

 そのためには『意思』が必要だ。

 

 

 意思とは、知性であり思考であり、自分を見つめる能力でもある。

 

 サナが今までやってきたことは、人が生まれるプロセスと同じものであった。

 

 そんな彼女の姿に、かつての『故郷』を思い出す。

 

 

(古来より日本人は、さまざまな文化を取り入れてきた。そうでありながらも他文化に侵食されることなく、むしろ自分で都合よく作り直してきた。和製英語なんかがそうだな。これは恐るべき力なんだ)

 

 

 日本は欧米を筆頭にさまざまな影響を受けてきた。どこの国だろうが、大航海時代を経れば何かしらの影響を受けるのは仕方がない。

 

 しかし、多くの国が他文化に呑まれる中、日本だけは独自の進化を遂げてきた。

 

 たとえば火縄銃も、それを分解して刀鍛冶の技術を使って日本流にアレンジしてしまった。そうなるとオリジナルよりも優れた物ができるから不思議だ。

 

 食文化にしてもそのまま使うのではなく、日本流に作り変えてしまう。前述したように言葉にしてもそうだろう。

 

 どこの国でもそうではあるが、とりわけ日本は吸収率が高いのだ。

 

 それこそ素の力、ポテンシャルの違いなのかもしれない。

 

 

 そして、サナのポテンシャルも―――無限大

 

 

 もともと赤子以上の柔軟性と吸収力を持っているうえに、アンシュラオンの『光』によって【自我】が生まれた。

 

 無限の因子を持つ女神の光から生まれた人間が、同じく無限大の可能性を持つように、魔人の愛から生まれた少女は潜在能力までも同じだと想像できる。

 

 となればコピーした技も、少しずつ自分流に改変してしまうに違いない。

 

 今は拙くとも、いつかはオリジナルすら超える力となるだろう。

 

 

(すべての力をもって戦うんだ! サナ、今お前は闘争をしているぞ!! 魂を燃やして戦え!! あらゆるものを吸収して、自分のものにしてしまえ! すべてがお前の【糧】だ!!)

 

 

 目の前にいるのは、ハングラスのキング。

 

 何でもありのルールだからこそ、サナにとっては今までの集大成となる!

 

 

 

 その目論見通り、魔人に愛された少女は加速度的に進化していく。

 

 魔石の力が少しずつ安定していく。黒い力の支配下に入っていく。

 

 同時にアンシュラオンから与えられた光が活性化し、知性と意思が生まれていく。

 

 それによってサナの動きにもメリハリがつき、よりリズミカルなものとなっていった。

 

 特に『前後の動き』が秀逸。

 

 グランハムが得意としていたバランス感覚が、この試合ではもっとも輝いている。

 

 前に出ると見せかけて術符を使ったり、離れると見せかけて接近したり、駆け引きでセクトアンクを圧倒する。

 

 

 ハングラス相手にグランハムが立ち塞がる。

 

 

 なんとも奇妙で因縁じみた光景といえるだろう。

 

 この状況では、さすがのセクトアンクも小細工は弄せない。

 

 サナが本来持っている『観察眼』が知性によって制御されているため、そんな暇がないのだ。

 

 やはり魔石込みでの単純な戦闘力は、現段階でも彼女のほうが上のようだ。

 

 ただし、不安要素もあった。

 

 

 そろそろ物資が尽きる。

 

 

 ポケット倉庫にそれなりの量の道具を用意しているが、ここまで激しい戦いになるとは思っていなかった。

 

 クロスボウは、もうない。

 

 術符も残り二枚。

 

 サナが圧倒できているのは、道具を併用しているからである。それが尽きれば勝負の行方はわからなくなる。

 

 相手はジュンユウではない。セクトアンクなのだ。

 

 

 ここが勝負所!

 

 

 サナが攻勢に出る。

 

 風鎌牙の術符を起動させ、相手の動きを牽制する。

 

 そのまま魔石の力を解放。一気に詰め寄る。

 

 セクトアンクも勝負所だと判断したのだろう。数少ない風鎌牙と火痰煩の術符を同時起動。

 

 混ざり合い爆炎となった火風が、サナが放ったカマイタチと激突。

 

 両者はリング中央で絡み合い、熱風を撒き散らす。

 

 

 その光景はまるで、火の竜巻。

 

 

 この狭いリングの大半を呑み込んでしまう。

 

 サナは自身がダメージを負うことも気にせず、爆炎の中に突っ込む。

 

 一気に接近して仕留めようという考えだろう。

 

 しかしセクトアンクは、それを見越したうえで術符を使ったと同時に、かなり細かい意匠が施されている『短筒』を取り出していた。

 

 もとより今やったことは目くらまし。本命はこちらだ。

 

 

 バチバチ ドンッ!! ばきゃんっ

 

 

 発射された瞬間、それが普通の銃弾でないことがわかった。

 

 なぜならば一発撃っただけで、短筒が砕け散ってしまったからだ。

 

 発射されたのは『呪力弾(じゅりょくだん)』と呼ばれるもので、対武人用に調整された強力な弾丸である。

 

 『人間特効』が付いた弾丸、といえばわかりやすいだろうか。

 

 特効の恐ろしさは、戦罪者たちによって証明されている。あのアーブスラットでさえ苦戦するほどである。

 

 当たれば、魔石で強化されたサナであっても致命傷を受けるだろう。

 

 そんな便利なものがあるのならば最初から使えばいい、と思うかもしれないが、これはあくまで『保険』。

 

 なにせこれ一発で一千万円近い値段がするのだ。

 

 六十発入り大納魔射津の二倍以上の出費だ。できれば使いたくないのが本音だろう。

 

 だが、サナを倒すにはもうこれしかない。

 

 セクトアンクも覚悟を決めた証であった。

 

 

 

 銃弾が迫る。

 

 

 

 サナは視界が覆われた爆炎の中を突っ切っているので、弾筋は見えない。

 

 

 弾丸がサナに―――命中!!

 

 

 胸を狙って放たれた一撃が、ペンダントを貫いた!!

 

 

 貫いた!!

 

 

 貫いた!!

 

 

 つらぬ―――いた!!?

 

 

 サナを【撃ち貫いた弾丸】は、そのまま向こう側の壁に衝突。

 

 

 バリンッ

 

 

 外部への影響を遮断する壁の術式を喰らおうとするも、あえなく失敗。そのまま砕ける。

 

 こんなものが一千万とは、なんとも泣けてくるものだ。

 

 ロケット打ち上げが失敗して、何十億という金が一瞬で失われた気持ちが少しだけわかる気がする。

 

 と、それよりも問題は、サナを貫通したことだ。

 

 サナに弾丸が当たったならば、その段階で術式が発動していたはずだ。

 

 ならば当たっていないのだ。

 

 

 これは―――『分身』

 

 

 サナが最後に取っておいた術符は、分身符であった。

 

 直後、床を這うほど低い態勢になったサナが突っ込んできた。

 

 ここでも荒野の特訓が生きた形だ。分身符の扱いに迷いがまったくない。

 

 そのまま爆炎を突っ切り、接近すると刀を振るう!!

 

 

 ブーーーンッ!

 

 

 完全な間合い。渾身の一撃。

 

 これを受ければセクトアンクは、真っ二つ。

 

 がしかし、ここで簡単に斬られるキングではない。

 

 

 【磁力球】が―――発動

 

 

 アンシュラオンが観戦した試合で使った、磁力を生み出す術具である。

 

 それによってサナの動きが一瞬だけ止まる。

 

 刀が引っ張られるだけでなく、まとった鉄陣羽織も反応しているのだ。

 

 その一瞬でセクトアンクは短い刺突剣を取り出すと、サナに突き出す。

 

 

 先端には怪しい『ぬめり』。

 

 

 ラーバンサーも使っていたが、武器に毒を塗るのは狩りの常套手段だ。

 

 これは何でもありの戦い。相手を打ち倒したほうが勝ちなのである。

 

 万一のために磁力球を置いておく慎重さと、それに左右されない魔獣素材の刺突剣を用意する周到さは、さすがキングといえる。

 

 

 だがしかし、サナを侮ってはならない。

 

 

 ずるりっ

 

 サナから陣羽織がずり落ちていく。

 

 彼女も最初からこの可能性を考慮し、いつでも防具を脱ぎ捨てるようにしておいたのだ。

 

 なぜならば、これが最後という『気迫』を込めたからだ。

 

 最後に立っているのは一人だけ。これで決めてしまえば陣羽織も必要なくなる。

 

 当然、道具の一つである刀も、引っ張られた瞬間には手放していた。

 

 これは剣の意地の張り合いではないので、簡単に投げ捨てられる。

 

 

 サナはギリギリの間合いで、攻撃を回避。

 

 

 刺突剣が陣羽織を貫くが、その場に彼女はもういない。

 

 すでにセクトアンクの左横に移動していた。

 

 

「…ぎろり」

 

 

 サナの目に、赤い輝き。

 

 殺気。相手を殺すための力が宿る。

 

 ここで魔石を全力解放!!

 

 身体に力が漲り、生み出した雷爪でセクトアンクを貫く!!!

 

 

 ズブウウウッ! グチャッ!!

 

 

 雷爪がヒット。

 

 左腕を抉り、貫通し、肋骨を破壊しながら体内に侵入。

 

 

 バチーーーーンッ!!

 

 

 さらに、とどめとばかりに雷を流し込む。

 

 体内に雷を流すのは、これで二回目だ。

 

 しかも今回は最初の時よりも傷が深い。臓器そのものにもダメージを与えたのは間違いない。

 

 

 スゥゥウッ

 

 

 一瞬だけ交錯した視線で、セクトアンクの瞳から光が消えたのが見えた。

 

 レイオンでさえ、まともにくらえば死ぬかもしれない一撃だ。

 

 それが直撃したのならば、こうなっても仕方ないだろう。

 

 がくっ ずるる

 

 セクトアンクから力が抜ける。首からも力が抜け、うな垂れる。

 

 仕留めた。

 

 

 相手は死んだ!!

 

 

 

「…ふっ! ふーー!!」

 

 

 

 サナの激しい息遣いが聴こえる。

 

 

 ドクンッ ドクンッ ドクンッ!!

 

 

 闘争の末に目覚めた激情が、その結果に強く反応している。

 

 その時ふと、心拍数が変化する。

 

 

 ドクンドクンッ―――とくんっ

 

 

 不思議なことに興奮すればするほど、一瞬だけ平静になる瞬間があるものだ。

 

 たとえるのならば、怒りに任せて誰かを殴った瞬間、「あっ、しまった」と思うことに似ているかもしれない。

 

 直前までは激情に支配されていたのに、なぜかふと冷静さを取り戻す『刹那』が存在する。

 

 人間が思考し、常に正しい選択を求められるのは、種としての宿命である。

 

 神は人に選択肢を与えることで、すべての責任が当人にあることを示す。

 

 これは経験によって慣らすことが可能だ。アンシュラオンならば、いちいち殺すときにそんな反応はしない。

 

 

 

 だからこれは、サナの自我が強くなったことによる―――【弊害】

 

 

 

 この瞬間だけ、サナの動きが止まった。

 

 

 スゥウウッ カッ!!

 

 

 それを見計らったように、セクトアンクの瞳に生命の輝きが戻る。

 

 

 

 そこからは本当に一瞬の出来事だった。

 

 セクトアンクが、「体内に仕込んでいた術符」を起動させる。

 

 

 ドドドンッ!!

 

 

 サナの眼前で爆発が発生。

 

 大納魔射津よりは弱いものだが、いかんせん爆発の回数が多かった。

 

 突き刺したサナの右手が焼け焦げ、一部肉が破損する。

 

 魔石の力を使っていても、この至近距離で連続した爆発には耐えきれなかったようだ。

 

 この術符は、試合中でも使った額に貼り付けた爆発符である。それを数十枚、自身の体内に潜ませておいたのだ。

 

 この術符は扱いがデリケートなので、体内に入れておくだけでは発動しない。

 

 こうして強い衝撃を与えて術式を崩壊させることで、無理やり起爆させて使うことを想定している。このあたりは大納魔射津と使い方が似ている。

 

 体内に爆弾を仕込むのは、そう珍しいことではない。よくやる手口だ。

 

 だが当然、こんなことをすればセクトアンクも無事では済まないはずである。

 

 本来ならば彼も身体の半分くらいが吹っ飛ぶのだが、そこは策士。

 

 

 彼の体内は、金属プレートのようなもので覆われていた。

 

 

 それによって爆発ダメージを最小限にとどめたようである。

 

 また、サナの雷爪の効果を半減させたのも、これが最大の要因となっている。

 

 磁力球に反応しないところをみると、これも刺突剣と同じく何かしらの魔獣素材なのだろう。

 

 その一部を体外および装束から出すことで、『避雷針』としての効果もあるらしい。

 

 まったくもって、とことん雷対策。

 

 ここまでやれば恐れ入る。それゆえに準備の大切さを思い知るものだろう。

 

 

 サナは刹那のタイミングを制されたため、まったく身動きが取れなかった。

 

 何が起こったのか理解できず、目を見開いている。

 

 その間にセクトアンクは、サナの首に剛糸を巻きつけると、首を絞める。

 

 サナは反射で手を首にやる。が、これは罠。

 

 注意が上に向いたところで、太ももに刺突剣を突き刺す。

 

 

 ブスッ!!

 

 

 狙ったのは、『対重刺縛陣(たいじゅうしばくじん)』で傷ついた箇所。

 

 まだ傷が完全に癒えていない弱点の一つだ。

 

 

「―――っ!!」

 

 

 サナは慌てて魔石を解放し、雷撃で迎撃しようとするも、時すでに遅し。

 

 セクトアンクの拳が、【仮面】を吹き飛ばす。

 

 

 カラン ゴロゴロッ

 

 

 そこに至近距離からの―――モクモク

 

 

 

「…―――っ!?!?!!!」

 

 

 

 うっかり忘れていたが魔石を全力で使うということは、再び嗅覚も復活することを意味する。

 

 強烈な刺激臭が脳を突き抜ける。

 

 ただし、サナがむせ返る暇もなく、その隙に膝裏に蹴りをくらい、そのままうつ伏せに押し倒されてしまう。

 

 セクトアンクは、ここで油断しない。

 

 剛糸を取り出すと手当たり次第に手足に絡ませ、ぐるぐる巻きにする。

 

 

 

 サナは動け―――ない!

 

 

 

「…!! …っ!!」

 

 

 身体に力が入らない。徐々に感覚がなくなっていく。

 

 さきほど注入された『神経毒』の作用である。

 

 サナのステータスを見ればわかるが、彼女に『毒無効』は存在しない。

 

 せめて『毒耐性』でもあれば話は変わったが、それがあったならば刺激臭にも抵抗できただろうから、いまさら言っても仕方がない。

 

 

 あとは簡単だ。

 

 

 ありったけの武器を動けないサナに向けて突きつける。

 

 相手が倒れているのならば、生殺与奪の権利はすべてセクトアンクにある。

 

 銃で撃ち殺そうが、また魔獣用の罠にはめようが(もう無いが)、術符で攻撃しようが自由自在だ。

 

 

 

 

 これによって、勝負あり。

 

 

 

 

 

「勝者、キング・セクトアンクゥウウウウウウウウウウ!!!」

 

 

 

 

 

 セクトアンクの勝利が決まった。

 

 

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