※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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602話 「無頼者、強襲 その2『混じり合う嫌悪の血』」

 

 地下闘技場のキングであるセクトアンクでさえ、あっけなく死亡。

 

 サナが苦戦したのが何だったのかと言わんばかりに、圧倒的なまでの差があった。

 

 だからこの男が来ても何も変わりはしないのだが、見過ごしておけるような性格もしていない。

 

 

「貴様…!! やつらの手の者だな!!」

 

 

 突如現れたのは、怒りの形相のレイオンであった。

 

 初対面にもかかわらず、荒々しい激情のオーラを放ちながらクロスライルに迫ってくる。

 

 

「ん? どこかで会ったか? 身に覚えはないんだけどな」

 

 

 たしかに地下闘技場を荒らしている相手に怒りを覚えるのは当然だろうが、そういった義憤とは違う個人の怨念のようなものを感じる。

 

 殺し屋をやっているクロスライルは、こういった感情をよく知っているため敏感なのだ。

 

 

「お前たちは、いつだって好き勝手やる!! いいかげんにしろ! ふざけるな!!」

 

「この兄さん、何に怒ってんだ?」

 

「うるさい!! 耳障りだ!! 俺はお前たちには屈しない!!」

 

 

 レイオンがクロスライルに向かっていく。

 

 最初から全力の突進と全力の拳を、全力の気迫で叩きつける正真正銘の全力攻撃だ。

 

 だが、クロスライルにはすべてが遅い。

 

 拳に合わせて強烈な蹴りを叩き込む。

 

 

 バギンッ!!

 

 

 カウンターで入った一撃が首に直撃。

 

 

 首が―――へし折れる

 

 

 折れた首が九十度以上曲がって、見るも無残な姿になる。

 

 それだけで終わらない。

 

 とどめとばかりにクロスライルの拳が、レイオンの胸に叩きつけられた。

 

 こちらも強烈な一撃。

 

 厚い胸板をあっさりと陥没させ、突き抜けた衝撃で巨体が吹っ飛んだ。

 

 拳圧が強すぎるがゆえに吹っ飛んだだけであり、ダメージはすべて内部に伝わっている。

 

 殺し屋なのだから当然だが、完全に殺しにきている攻撃である。

 

 

「………」

 

 

 倒れたレイオンは、ぴくりともしない。もう死んでいるのだ。

 

 

「そういえば、こいつもキングだったかな? あまり印象が強くなかったから忘れていたよ」

 

 

 クロスライルは地上部の観戦席から試合を見ていたが、今回のレイオンはキレが悪かったのであまり記憶に残っていなかった。

 

 低調な試合が退屈なのは、どこの誰が見ても同じなのだろう。

 

 それよりはやはり、サナの試合が印象的だった。

 

 キッズの大会でも才能豊かな者の試合は面白いものである。

 

 よって、レイオンなど眼中にはない。

 

 

 そう思っていたのだが―――

 

 

 ぴくり

 

 

 クロスライルの視界に何か動くものがあった。

 

 

 ぴく ぴく ぴくっ

 

 

 レイオンの指が、動いていた。

 

 見間違いかと思って何度か見直すが、依然として動いている。

 

 指の鼓動が手に伝わり、腕を動かすようになり、ついには自身の頭を掴む。

 

 

 力を入れて―――ごきんっ

 

 

 へし折れた首を強引に戻すと、ゆっくりとではあるが立ち上がる。

 

 

「はーーー、はーーーーっ! ごぼっ!! ぺっ!」

 

 

 口から血を数度吐き出し、何度か頭を回して調子を確かめる。

 

 それと同時に、ぼこんと陥没した胸も戻った。

 

 胸骨が折れているので簡単に戻すことはできないはずだが、それが一気に戻ったことには違和感がある。

 

 ただし彼は以前、超回復によって身体を作り変えたこともあるので、もしかしたらそれがまた発動したのかもしれない。

 

 多くの武人を殺してきたクロスライルも、そういった光景を何度も見たきたことから、起こった現象を見たまま受け入れる。

 

 

「へぇ、殺したと思ったんだけどな。タフだね、あんた」

 

「俺は…俺は……! お前たちには…負けん!!」

 

「気迫は立派よ。でも、これが現実なのよね」

 

 

 クロスライルが掌を向け、発気。

 

 黒い炎のようなものが生まれると、凄まじい勢いで飛んでいき、レイオンに直撃。

 

 黒炎は当たった瞬間には消えたが、直後に異変。

 

 

「っ!! ぐううう…うがああああああああ!! がっ!! があああああ!!」

 

 

 突如としてレイオンが激しく痙攣を始めた。

 

 身体の中に何か別の生き物が入ったかのように、がっくんがっくんと揺れ動いている。

 

 その理由はひどく簡単なものだった。

 

 

 

(なんだこの痛みは!! 耐え…られん!!)

 

 

 

―――痛い!!

 

 

 

 ただただ痛いのだ。

 

 その激痛たるや、全身が痛風になって悶えるがごとく。

 

 レイオンも最低限の肉体操作で痛みを軽減できるが、そういった鎮痛がまるで通じないレベルの痛みが襲ってくる。

 

 あまりの痛みで立っていることもできず、再び床に倒れると動かなくなった。

 

 

 ジュウウウウッ もくもく

 

 

 レイオンの身体から煙が出ている。

 

 体表からはわからないが、内部が「こんがり焼けた」ことを示すものである。

 

 覇王技、焼滅狷挫衝(しょうめつけんざしょう)。

 

 生み出した『滅属性の戦気』を凝縮して叩きつけることで、身体の外部ではなく内部を破壊する因子レベル4の技である。

 

 炎のような形態は、相手が鎧を着ていても内部に浸透することで防げなくすることが目的であり、肌に触れれば体内を焼き尽くす。

 

 防ぐには同程度以上の戦気で相殺するしかないが、クロスライルとレイオンのレベルはあまりに違いすぎる。

 

 すべての破壊エネルギーが身体に吸収され、内臓やら血管やらが完全に蒸発してしまったはずだ。

 

 

 レイオンはすでに死んでいる。

 

 

 身体の中を焼き尽くされて絶命したのだ。

 

 その証拠に焼き魚と同じく目は白濁し、輝きが消えていた。

 

 

「ちぃとばかりムキになっちまったかな? いやぁ、オレだって銃剣にばかり頼っているわけじゃないって思いたいからよ。意地はあるわな」

 

 

 すでに気づいていると思うが、クロスライルはお得意の銃剣を使っていない。

 

 優れた武人ほど自分の力は隠すものだ。使わなくてよいのならば使わないほうがいい。

 

 また、肉体派のJBに隠れてはいるものの、クロスライルも素手だけでマキを数段上回る実力者である。

 

 この程度のレベルならば、わざわざ得物を使うまでもない。

 

 そのことからもわかるように、彼にとって一連の惨殺は遊びにすぎない。

 

 ジングラスの魔獣を惨殺したことも、ハングラスの武人やセクトアンクを殺したことも、すべてすべて『顧客サービス』だっただけのこと。

 

 今この瞬間、天井近くに設置された特別観戦席で見ている【依頼主】が、より楽しめるようにと配慮しただけのことだ。

 

 これはあくまで前菜。オードブル。

 

 ただそれだけのこと。

 

 

 だが、この娯楽によって予想していないことが起きた。

 

 

 

「……はぁ……はぁ!!」

 

 

 

 ぐぐ ぐぐぐっ

 

 死んだはずのレイオンが、動き出す。

 

 その姿は、ゾンビが何度でも蘇る光景に似ている。

 

 

「嘘だろう? 殺したはずだけどな」

 

 

 クロスライルは殺し屋だ。

 

 相手を殺した感覚を間違えることはない。

 

 今のは確実に仕留めた感触があった。

 

 だが、事実は事実。

 

 

「ううう…うううううっ!!!」

 

 

 レイオンが、立つ!

 

 身体の内部を焼かれているのに、激痛に悶えながらも立ち上がった!

 

 

「身体が…熱い!!! 焼かれるようだ!!」

 

 

 血流すべてがマグマになったかのように、レイオンの身体の温度が上昇していく。

 

 熱い、熱い、熱い!!

 

 呼吸するだけで大量の蒸気が発生するほどに、熱い!!

 

 この熱量は、体内で急速に肉体が再構築されているために発生しているものだ。

 

 しかしながら、これはさすがに異常。武人の超回復で説明できるレベルではない。

 

 

「そりゃ熱いだろうな。そういう技だ。ただ、あんたのそれは普通じゃないな。雰囲気的にオーバーロード〈血の沸騰〉でもなさそうだ」

 

 

 武人の防衛本能が極限まで高まると発生するオーバーロードは、命を対価として能力を飛躍的に上昇させる禁忌の技だ。

 

 一瞬クロスライルもそれを疑ったが、今は確信を持って違うと言い切れる。

 

 なぜならば『そういった連中』を、もっとも間近で見てきた人間だからだ。

 

 

「なるほどねぇ。あんたも兄さんたちの【同類】ってわけか」

 

「はぁはぁ…何を…言っている? 同類? 誰のだ?」

 

「気づいていないのかい? ふーん、自覚はなさそうだね。ほれ、頬のあたりを触ってみなよ」

 

「頬?」

 

 

 レイオンが自らの頬に触れると、妙にざらついた感触がした。

 

 皮膚が傷つけばこうなることもあるが、裂傷とは違う「硬さ」がある。

 

 

「なんだ…これは?」

 

「さあね。何かの魔獣の皮膚じゃないか? 外から見ると【鱗】っぽいけどな」

 

「うろこ…?」

 

「この都市の連中は、身体を改造するのが流行ってるみたいだね。そりゃ、うちらも似たようなもんだから他人様のことは言えないがね。カカッ、結構結構。大いに結構だ。強くなるためなら何でもしないとな」

 

「何を…言っている! 何を…何を…!!」

 

「ん? おたくは仲間じゃないのかい? 『セイリュウ兄さんの同類』なんだろう?」

 

「―――っ!!!」

 

 

 その単語に身体の中の血が激しくざわついた。

 

 激しく、とても激しく、燃えるような怒り。

 

 殺しても殺しても殺しても殺しても満たされないほどの、圧倒的な怒り!!

 

 

 

「うううっ…ううううううううう!!! セイリュウぅうううううううううううううううう!!」

 

 

 

 レイオンの頬に浮かび上がったのは、『龍鱗』。

 

 まだまだ彼らのものと比べれば、生まれたばかりの小さな変化だ。

 

 しかし、わかってしまう。

 

 コウリュウの血を受けたレイオンは、自身と彼らが『同類』になったことが本能的に理解できてしまったのだ。

 

 

 その瞬間―――目覚める

 

 

「ううううっ!! ガガガアガガガッガガガガガッ!!!」

 

 

 ギラリッ

 

 レイオンの眼が爬虫類のように変化。

 

 瞳孔が蛇のように縦に伸び、瞼もぎょろりと大きな一重になる。

 

 サナも魔石によって獣化した際、瞳孔に変化が見られるが、それと同じ現象が起こっているのだ。

 

 

 ただし、彼の場合はよりレアな―――【龍化】

 

 

 武人の血と『龍の血』が混じり合い、彼を龍人へと変化させる。

 

 筋肉が盛り上がり、身体を根本的に変質させてしまう。

 

 

「ぐうううっ!! うああああああああああ!! 熱い熱い熱い!!!」

 

 

 人間にとって龍化は極めて危険な現象である。

 

 サナのように魔石を媒介にすれば話は異なるが、直接体内に取り入れることは命に関わる。

 

 実際地球でも、間違った血液型を輸血されると拒絶反応(輸血反応)が起こり、激しい痛みや風邪に似た倦怠感や悪寒を常時感じるようになる。

 

 今までレイオンが苦しんでいたのは、まさにこの症状だ。

 

 なぜ彼がそれでも死ななかったのかといえば、三年間『生命の石』を心臓に貼り付けていたことで『マングラスへの耐性』ができたことが大きな要因だ。

 

 水は融和の力の象徴。

 

 セイリュウやコウリュウもまた、マングラスの水の力によって因子と結合しているのだから、擬似的とはいえ同じ環境にいたレイオンにも適性があってもおかしくはない。

 

 さらにアンシュラオンの命気による治療も影響したのか、ついにそれは龍人として目覚めるまでに昇華された。

 

 だがやはり、未完成の欠陥品。

 

 

「イタイイタイ痛い!!! 痛いぃいいいいいい!!」

 

 

 どうしても痛みが取り除けず、錯乱して暴れだす。

 

 ブンッ!!

 

 激情のまま振り抜いた拳が空気を押し出し、凄まじい威力の衝撃波となって周囲に襲いかかる。

 

 狙いは滅茶苦茶。まったくのでたらめ。

 

 クロスライルは軽々と回避するも、拳衝を受けたリングに大きな亀裂が入った。

 

 

「ひゅー、やるね。JBのやつより威力あるんじゃね? それがあんたの本気か」

 

「ウウウウッ!! 本気…! 本気だと!! それを俺に向かって本気で言っているのか!!」

 

「なんだかよくわからない兄さんだね。あんたもお仲間なんだろう?」

 

「誰が、誰が!!! 誰が…やつと!!」

 

「あれ、違うの? この都市もいろいろと複雑みたいね」

 

「この痛みもすべて…やつのせいだ! やつは、セイリュウはどこだ!!」

 

「さあ、知らないね。最初の日に会ったきりさ」

 

「貴様…貴様、貴様らはぁあああ!! いつも俺を見下して!!!」

 

「おいおい、俺は関係ないだろう。八つ当たりはよくないぜ」

 

「うるさい!!! うるさいうるさいうるさいうるさいぃいいいい!!!」

 

 

 レイオンは、この段階で半ば理性を失っていた。

 

 瀕死になって強制的に発動した龍の血の圧力に呑まれ、頭の中には暴力的衝動だけが強く刻み込まれている。

 

 もともとコウリュウ自体が、『災厄魔獣』の因子を使って生み出した禁忌の改造人間である。

 

 その血を受けるということは、同じように災厄の因子を受け継ぐことであり、「ヒト」への強烈な敵意が自然と湧き上がるようになる。

 

 

「ウオオオオオオ!」

 

 

 そして、目の前にいるクロスライルに憎悪を叩きつける。

 

 望むのは、破壊、破壊、破壊。

 

 ただただ人間の破壊である。

 

 今のレイオンの殺意を見れば、災厄時の悪獣たちがいかに凶悪だったかわかるだろう。

 

 されど、そんな危険な存在を前にしてもクロスライルの余裕は崩れない。

 

 向かってきたレイオンの攻撃をかわすと、再度胸に拳を叩き込む。

 

 さすがに拳圧でタバコは吹っ飛んでしまったが、この豪腕を前にしても動じない胆力はさすがだ。

 

 

「ごふっ…!! うぐううっ…」

 

「さすがに硬くなったね」

 

 

 龍化したことで体表の強度も格段に上がっている。さきほどのように胸が陥没することはなかった。

 

 

「おおおおお!」

 

 

 レイオンのラッシュ。がむしゃらに拳を繰り出す。

 

 一発一発の威力はどんどん上がっていき、風圧で床が軋むような音を上げる。

 

 たしかにこれはJBの連打より上かもしれない。当たれば武人だろうが即死だろう。

 

 しかしながら、明らかに身体の動きと意思が噛み合っていない。

 

 龍化するだけで身体中に激痛が走っているのだ。その一瞬の意識の剥離が致命的な隙を生み出している。

 

 こんなバラバラな攻撃では、このレベル帯の武人に当たることは永遠にないだろう。

 

 だから、滅多打ち。

 

 まるで無料のパンチングマシンを好きなだけ遊ぶように、クロスライルが楽しそうに拳を叩き込む。

 

 一発では致命傷にならずとも、同じ箇所に正確に打ち込まれた拳打によって、再度陥没。

 

 

 ドガドガドガッ!! ぼごんっ!

 

 

「ぐぐうっ―――ぶはっ!!」

 

 

 レイオンが吐血。

 

 その血は【赤紫】。

 

 人間と龍の血が入り混じり、人外のものへと成り下がっている。

 

 だが同時に、レイオンの中に奇妙な感覚が生まれていた。

 

 

―――喜び

 

 

 自身の中で急速に力が生まれていく不思議な感触。

 

 自己の、いや、人間の限界を突破したことによる優越感が湧き出る。

 

 

(これが…セイリュウたちの余裕の源泉か!!)

 

 

 彼らはいつも人を見下すような視線を向ける。自分たちが特別だと考えている。

 

 レイオンがセイリュウを死ぬほど嫌っているのは、ただ単に殺されたからだけではなく、そうした傲慢さに苛立ったからだ。

 

 だが今、自分の中に彼らと同じ傲慢さが宿った。

 

 

 そこに妙な嬉しさを感じている自分が―――苛立たしい!!

 

 

 相手を心底憎むということは、それだけ相手のことを考えることでもある。

 

 さすがに嫌いの反対は好きとは言わないが、そうした執着が羨望になるのも仕方ないだろう。

 

 

「くそ―――がぁあああああああああ!!」

 

「ははは、今度こそ本当の準備運動になりそうだ」

 

 

 龍化したレイオンは苛立ちもあり、その身体能力を使って暴れまくる。

 

 もはや自分で自分を制御できないのだ。

 

 そして、それをいなしながら的確にクロスライルが攻撃を叩き込む。

 

 

 この攻防は、およそ八分間続いた。

 

 

 何百発という拳や蹴りを叩き込まれ、レイオンの身体はボロボロだった。

 

 超回復が間に合わないほどに攻撃されれば、龍人であっても人間と変わらない。

 

 とはいえセクトアンクが数秒稼ぐのに命がけだったことを思えば、龍化レイオンの耐久力がどれだけ高いかがわかるはずだ。

 

 また、クロスライルも本気ではなかった。

 

 彼の目的は地下闘技場の破壊でもなければ、キングたちの抹殺でもない。

 

 目的は、ただ一つ。

 

 

 

「レイオン、そのへんにしておけ。そのままやっても絶対に勝てないぞ」

 

 

 

 満を持して、アンシュラオンがやってきた。

 

 

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