【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
レイオンには悪いが、ここで格の違いが如実に出てしまう。
入ってきた瞬間に空気が変わった。
その場にいたすべての者たちの視線が、彼一人に集中する。
それだけの魅力と鍛え抜かれた生粋の武人の気配が場を支配したのだ。
「くうううっ…うううっ!! 俺…は…!!」
「自分じゃどうにもできないようだな」
ジュボンッ
アンシュラオンが巨大な命気球を生み出すと、レイオンを包み込む。
命気が身体の中に浸透すると同時に、痛みが身体から消えていく。
「っ!! はぁはぁ……ぅう……っ……」
その安心感からか、レイオンは気を失った。
龍の血も抑えられ、龍化も解けていき人間の姿に戻っていく。
「あとはオレに任せろ。お前は外で寝ていればいい」
レイオンは邪魔なので、命気球に包んだまま外の通路まで流しておく。
これだけ見るとなんとも滑稽な光景だが、すでに彼は自己を制御できない状況に陥っていたので妥当な措置だろう。
それにしてもこの男は、いつも痛みに悩まされている気がする。哀れなものだ。
(ふむ。可能性としては変異もあったが…正直言って予想外だな。普通はこんなことはないはずだから、何かしらの要因が重なったのかもしれない。まあ、未完成なのは間違いないけどね)
レイオンの龍化は、鱗が軽く体表に出現する程度のものである。
身体全部が龍人となるコウリュウとは、完成度も力の顕現具合もまるで違う。悪く言えば『粗悪品』といったところだろう。
ただ、普通の武人からすれば限界を突破できる段階で、喉から手が出るほど貴重な力である。
もし彼が龍化を上手く扱えるようになれば、それなりの戦力として期待はできるに違いない。
また、偶発的な事象であっても、アンシュラオンにとっては朗報だ。
(マングラスの力か。やはり面白いな。オレがこの力を奪えば、男のスレイブたちを改造して兵隊を生み出すこともできるってことだ。ますます欲しくなったよ。これでグマシカたちが動けないことが立証されたし、付け入る隙は十分ある)
なぜアンシュラオンが八分間も遅れてやってきたのか。
武人の戦いで八分はかなり長い時間である。
とすれば、何かしらの悪巧みをしてきたのだ。
まず、レイオンが怒りの形相でクロスライルに向かったのは、アンシュラオンが焚き付けたからだ。
「セイリュウに雇われた殺し屋がきたぞ」とレイオンに教えれば、彼がどんな行動を取るかなど火を見るより明らかである。
本当はワカマツに雇われたわけだが、あながち嘘でもない。
運営に届いた『グマシカの書状』こそが、その証拠だ。
アンシュラオンも運営とつながっているので、この情報はいち早くゲットしている。
(ただし、送ったのはグマシカ当人ではないだろう。あいつの性格はストレートなものだったし、そこまで余裕があるとは思えない。それを考えれば、今回書状を送ったのは地上部を担当しているセイリュウだろうな。偽者のグマシカに書かせたものと考えるのが妥当だ。非常事態だから、ワカマツの動きを容認する代わりに様子見の捨て駒にしたんだ)
この八分間、アンシュラオンは周囲の状況を探っていたが、グマシカたちが干渉してくる様子はまったくなかった。
もしグマシカたちが動くとすれば、このタイミングしかなかったはずだ。
ワカマツを見ればわかるように、制裁の勢いで一気にホワイトを潰す、という流れである。
しかし、ミャンメイの一件で偶然にも聖域を強襲する形となったため、彼らにも余裕がないことがうかがえる。
彼らの大きな戦力の一つであるコウリュウを倒したのだ。傀儡士はともかく、グマシカにとっては痛いだろう。
そこにきて『最強の魔人』まで干渉してきた。
これが決め手である。
姉の術式は、ホテル周辺を一瞬で消滅させた。あんなものを見せられれば、誰だって逃げたくなる。
同じ魔人であるアンシュラオンでさえ逃げたくなったのだ。普通の人間にとっては神の天罰に匹敵する脅威だ。
このような非常事態が重なった結果、現在セイリュウたちは【巣穴】に閉じこもって身を潜めていると思われる。
もともと何百年も我慢して地下に潜伏してきた連中だ。慎重を期して最低でも数日は動かないだろう。
これはグマシカという男を実際に見て感じた印象も加味してのことだ。
(グマシカ…か。まだいろいろわからない部分はあるが、グマシカ当人がオレを知っていたことの理由はわかった。やつはずっとオレを監視していたんだ。時折感じていた視線はやつのものだったということだ。それが消えたことも、やつが動けない根拠にはなるな)
この地下闘技場に初めて来たときも、グマシカはアンシュラオンを見ていた。
天井近くの観戦席から感じた視線も彼のものである。
だが、おそらく当人ではない。『違う身体』を使って見ていたのだろう。
レイオンから聞いた傀儡士の力は、まさに文字通りのものである。
彼らは地下に潜伏している都合上、地上では『傀儡』を使って活動している。
カラスたちが所属する青劉隊は改造人間が主力になっているが、それ以外の戦力の大半は『人形』だと思われる。
限定的だとしても、その力をグマシカが使えてもおかしくはない。
が、それが今は消えている。聖域で叩きのめしてから、彼の視線は完全に途絶えていた。
(グマシカはオレを敵視していたが、オレ個人というより『災厄の魔人』を怖がっていたように思える。そこに『本物の魔人』が出てくれば混乱もするだろうさ。全部あいつの勘違いなんだよな。悪いのは姉ちゃんであってオレじゃない。そこんところを改めて理解してもらいたいもんだ。まあ、どのみち潰すけどね。姉ちゃんが何か仕掛けてくる前に、奪えるものは奪っておかないとな)
姉が出てきた以上、こちらも安穏とはしていられない。
まずはいつでも都市を脱出できる準備を整えつつ、金目のものは早めに奪っておく必要がある。
その準備はしっかり進んでおり、サナたちはすでに地下から脱出させている。
何事もなければ正門から出てもいいのだが、万一のために脱出用の穴を掘っていたため、そちらから脱出済みであった。
遺跡の壁は硬いがアンシュラオンなら壊せなくはないし、まだ地表部に近いこのエリアは、一つ壁を壊せば外側は普通の土といった場所も多くて苦労はなかった。
トットにあえてああ言ったのは、盗聴される可能性を考慮してのことだ。
遺跡の存在が判明した以上、何が仕込まれているのかわかったものではない。
そろそろモグラ生活も飽きたし、こんな場所はさっさとおさらばするに限る。
ということで、これで地下での用事はすべて終わった。
最後の【詰め】を残して。
アンシュラオンが、クロスライルのほうを向く。
クロスライルも、じっとアンシュラオンを見つめる。
「よぉ」
「おう」
アンシュラオンが声をかけると、相手も気さくに手を上げる。
それはまるで数十年来の友のように、互いのことがわかりあった自然な動作だった。
「待たせたな」
「気にするなよ。そういうときもあるさ」
「不思議だな。初めて出会ったはずなのに、お前のことがよくわかるよ」
「だねぇ。オレもまさかとは思ったが、こういうもんなのかね。カカッ!」
「言っておくが、オレはノーマルだぞ? 男に興味なんてないからな」
「こっちだってそうさ。といっても、兄さんほど女に興味があるわけでもないがね」
「いつ『こっち』に来た?」
「んん…百五十年くらい前か?」
「けっこう前だな。長生きしてるな」
「らしいね。武人ってやつは便利だ」
「同感だ。便利すぎて困ることが多いよ」
「違いない。簡単に死ねないのも困る。そのぶん楽しむがね」
「自分が『誰だったか』覚えているか?」
「さてね。あんまり記憶はないんだ。うっすらと…ぼんやりと、かすかに覚えているだけさ。ただ、この都市に来てから少し思い出したよ。かつてオレは『教師』だった。何の教師かは知らないがね」
「ビッグのお守りは大変だったみたいだな。こっちは助かったけどね」
「カカカッ!! あの兄さんは面白かったさ。いいねぇ、青春って感じでさ。オレが言っても説得力はないが、ああいうのはあまりからかってやるもんじゃないぜ。誰もがオレたちみたいな悪もんじゃない」
「仕掛けてきたのは向こうだよ。こっちは悪くない。それにヤクザもんだろう? どうなってもいいはずだ」
「だとしてもモノが違いすぎる。オレらとは規格が違うんだ。『普通の連中』には酷だろうよ」
「お前、教師っぽいよ」
「そうか? 久々に『同類』と出会って興奮してるのかもしれないな」
「久々ってことは、やっぱりほかにもいるのか?」
「たまに感じることはある。多くは権力者や有力者になるか、変わりもんの中には一般人の生活を好き好んで送るやつもいるみたいだな。ただ、ほとんどの連中に記憶は残ってねえな」
「【日本人】が多いのか?」
「感覚的にはな。理由は知らんよ」
「理由は簡単だ。日本人だけが『悪』と戦えるからだ。あくまで傾向性であり、全体の話ではないけどな。日本人でもクズはクズさ。どちらにせよオレたちはレアケースであり、それを女神様が利用しているようだ。地球の守護神との間で協定でもあるのかもしれないな」
「詳しいね。そんなことを考えたことはなかった」
「それなりに修行したからな」
「どうやら兄さんのほうが、オレよりも年上っぽい感じはするな。リスペクトするぜ」
「やめろよ。気持ち悪い。女以外からの好意はいらないよ」
「ははは、そう言うなよ。で、あんたはここで何をしているんだ?」
「特に何も。ただオレは、オレがオレであるために生きている。誰かに利用されることもなく自分のためだけに生きる。その気持ちは、お前にはわかるだろう?」
「そうだな。オレらはいつだって束縛されてきた。その鬱憤が溜まっていたんだろうな。今ならわかる。オレらがここにいる理由ってやつがな」
「なら、やることは一つだな」
「そうだ―――」
「オレたちは―――」
「「 闘うために―――生きている!! 」」
互いが戦気を一気に解放。
溢れ出る戦気は今までとは違い、激しく燃え盛りながらも振動し、両者が共鳴するように絡まっていく。
たった一瞬で会場全体が赤に染まり、熱量がぐんぐん上昇していく。
燃える、燃える、燃える。
会場にいたすべての者が、燃えて消えていく。
セクトアンクやニットローたちの死体も、この熱気によって蒸発し、消滅していく。
甘ったれたことを抜かすなぁああああああああああああ!!!
いいのだ。これでいいのだ。
武人の戦いに後腐れは一切ない! 存在しえない!!
闘うために生まれ、死ぬために闘う彼らに墓などは必要ない。
人間の魂が無限大に上昇し、永遠の生命に死がないことは証明されている!!
「すげぇ!! あんた、すげぇえな!! 思っていた通りだ!! いや、それ以上だ!!」
最初からアンシュラオンは全力の戦気を展開しているが、驚くに値しない。
この戦気の熱量の中にあって、クロスライルもそれを苦にしていない。
それどころか押し返すように向かってくる「負けん気」を出していた。
「全力でこい。叩きのめしてやる」
「言われずとも!!」
クロスライルが駆ける。
その速度は、レイオンと戦っていた時とは比べ物にならない。
一気に間合いを詰めると、鋭い拳を繰り出す。
アンシュラオンはいつも通り、だらりと両手を下げたままの自然体。
だが、これこそが自分にとっては最強の構えであった。
―――ドーーーーーンッ!!
次の瞬間、クロスライルが床に叩きつけられていた。
遺跡の謎の素材で造られている床が砕け、大きな窪みを生み出すほどの衝撃であった。
アンシュラオンは拳をかわすと同時に、肩上で腕を挟み込み、そのまま回転して投げ飛ばしたのだ。
何度も述べているように、武人の高速戦闘で投げ技を使うことは極めて難しい。
もしやれるとしても、完全に相手の動きを見切っていなければ不可能である。
それができるのも全力の臨戦態勢があってこそだ。
「おおっと、効くねええええええ!!」
クロスライルは即座に立ち上がると、今度は身体を揺らしながらジャブを放ってきた。
それはボクシングの動き。
アーブスラットを彷彿とさせるが、こちらは正真正銘のボクシングのものだった。
足技無しでは最強とも呼ばれる体術だ。
すでに技術体系としては完成されているものだけあって、武人の身体能力で扱えれば相当な戦力となるだろう。
これにはアンシュラオンもボクシングの動きで対応。
足でフットワークを取りながら、クロスライルのジャブを受け流していく。
クロスライルはすらりとした長身で、中肉中背の均整の取れた肉付きをしている。
一方のアンシュラオンは、体格としては中学生に上がったばかりの少年と大差ない。
これだけの体格差ならば、リーチの長いクロスライルが有利ではあるが―――
ドドドゴンッ!!
スピードで圧倒的に勝るアンシュラオンが、懐に入ってボディーブローを叩き込む。
それは一発ではない。
この一瞬で同じ箇所に三発は叩き込んでいた。
思わずクロスライルが、くの字に曲がる。
「ごほっ!! これやべっ!! その体躯でこのパワーかよ!! 腹消し飛ぶわ!! 詐欺だろう、これ!!」
しかもアンシュラオンの攻撃は「S]なので、見かけとはまったく違うパワーを誇っている。
人間でたとえれば、子供の皮の中身は「大熊」だったのと同じだ。とんだ詐欺である。
「おっしゃ、これならどうだ!!」
ボクシングでは勝ち目がないと思ったのか、クロスライルは今度は蹴りも交えた戦闘スタイルに切り替えてきた。
言ってしまえば、立ち技メインの総合格闘技のスタイルである。
ジャブと下蹴りを中心にしながら間合いをうかがい、隙ができれば一気に攻め立てる戦い方だ。
アンシュラオンは、それに対して自分も同じ構えを見せる。
クロスライルのジャブ。軽くステップでかわす。
クロスライルのストレート。軽くはたいていなす。
クロスライルの蹴り。同じく蹴りで相殺する。
これらを数秒間で、五十回ほど繰り返した結果。
打つ手なし。
すべての攻撃がアンシュラオンに迎撃されるため、どうしようもなくなる。
そこで強引に攻め立てようとするのならば、カウンター、一閃。
クロスライルの顎にアンシュラオンの、少し背伸びしたアッパーカットが炸裂。
がくんと首が伸びて脳が揺れるが、そこはクロスライルもたいしたもの。
肉体操作で脳を保護し、脳震盪を防いで後方に退避。防御を固める。
だが、防御を固めていれば身を守れるとは限らない。
アンシュラオンが接近すると、ガード越しにかまわず拳を叩き込む。
ドドドンッ!! ミシミシミシッ!!!
(なんだよ、この拳!! 反則だろうが…!! 鉄かよ!!)
少年の身体の質が、あまりに違う。
同じ拳でも構成されている素材が普通ではないため、常人からすれば鉄で殴られている気分だ。
そんな状況でも困るのに、この男には技術がある。
ぱしんっ
「おおうっ!?」
上段と見せかけて、クロスライルの足を払う。
単純なフェイントだが、防御で手一杯のクロスライルには極めて有効。
体勢が崩れたところに、身体を目一杯伸ばして放たれた拳が―――直撃!
ド―――スンッ!!
ガードを突き抜け、クロスライルの胸にヒット。
こちらも力がすべて乗った「殺すための一撃」である。
「ごぼっ! ちょっ、やべええええ! げぼっげほっ!!」
クロスライルは、軽く吐血しながら後退。
どうやら肺にダメージを受けたようで、何度か咳き込んでいた。
ひとまずの攻防を終えて、両者が対峙。
「どうした、そんなものか?」
「兄さん、前世は格闘技の世界チャンプじゃないよな?」
「いや? ボクシングなんて初めて使ったぞ。見よう見まねだ」
「ほんとかよ…」
「戦いの本質はいつだって同じだ。相手を殺すために力を叩き込む。力の流れを意識すれば、スタイルの差は微々たるものだ。というか、殺し屋のお前なら当たり前のことだろうに」
「いやいや、そう簡単にできるもんじゃねえだろう。やばいね、兄さん。オレも相当殺してきたと思ったけど、殺しの場数が違う。殺し屋より殺すことに躊躇いがないっておかしくないか?」
「生存競争だからな。当然のことだ」
「はははは!! カカカカカカカカカッ!! いいねぇ!! 最高だ!! これこそ、『ザ・闘争』だな!!!」
「カーリングみたいに言うな」
「はははは、楽しくなってきたってことだ。そっちもだろう?」
「そうだな。少し身体が温まってきたところだ」
「そりゃなによりだね」
「倒す前に訊いておいてやるが、ラブヘイアとはどういう関係だ?」
「べつに。ただの同僚ってだけさ。仲良くもないが嫌いでもねえよ」
「一応教えておく。もう一人のお仲間、あの触手男は死んだぞ」
「ああ、知ってるよ」
「オレがやったわけじゃないぞ」
「それも知ってる。あいつのことも嫌いじゃなかったが、死んだらしょうがねえ。オレだけの責任でもないしな。まあ、そういうことだ」
「なるほど」
クロスライルは、JBが死んだことを知っていた。
仲間が死んでも淡々としているのは、彼が無頼者だからである。
ただし、そこには「そのほうがいい」といったニュアンスがあることを見逃さない。
(ラブヘイアから情報は得られなかったが、姉ちゃんが動いているくらいだ。こいつらの組織は特殊な存在なのかもしれないな。ということは情報漏洩は致命的なはずだ。関係者には何かしらの『枷』がかけられていると考えたほうがいいだろう)
組織を運営するにあたり、一番重要かつ問題となるが構成員の忠誠度だ。
この段階でアンシュラオンは知らないが、賢者の石を使っているような組織である。スパイや裏切りがいては大いに問題となる。
だからこそJBは、しつこいほどに何度もラブヘイアを詰問していた。
では、なぜJBがそんな行動を続けていたかといえば、それが【監視行動】だからである。
彼が保有していた『ストリング・エバーマインド〈救済思想の組紐〉』は、【本体】から分かれた枝葉のようなものであるらしい。
ラブヘイアいわく、彼が狂信者となった原因がエバーマインドにあるのならば、石自体に強力な洗脳(教化)作用があると考えるのが自然だ。
そして次の段階として、石の所有者が『監視者』となるシステムがあると考えるべきだろう。
JBが意識していたかはともかく、周囲の構成員を束縛する何らかの力を発していた可能性がある。
たとえば―――【スレイブ・ギアス】のような
だからこそラブヘイアは、わざわざ結界を生み出して、その中でJBを殺したのだ。
単に外に被害が出ないためだけではなく、その影響を消し、『本体』に悟られないために。
そう考えれば、いろいろと辻褄が合うのだ。
(あの触手の男が死んだことで、まとわりついていた何かが消えた感覚はある。そして、それをこいつは好ましいと思っているってことだ)
考えてみれば、護衛のクロスライルがJBの傍を離れることなど、そうそうあるものではない。
であれば、そこには彼独自の狙いがあったと見るべきだ。
それは当人に訊いてみないとわからないので、まずはこの戦いに関してである。
さきほどまで不思議な攻防をしていたが、あれらは「じゃれあっていた」にすぎない。
実際に戦ってみて、アンシュラオンはこうクロスライルを評価した。
(アーブスラットより速く、プライリーラより強い。間違いなく今までで最強の武人だろう)
火怨山を下りてからは、アーブスラットが『下界最強の武人』として認定されていたが、クロスライルは彼を上回る存在だ。(コウリュウは普通の武人ではないので除外)
仮にアーブスラットが全盛期であったとしても、クロスライルには勝てないだろう。
攻撃速度はアーブスラットに匹敵する。
肉体の強度、身体能力はプライリーラを超える。
格闘技術も百五十年の積み重ねで、相当なレベルに達している。
自分が全力の戦気を出していることを忘れてはいけない。
それを受けて致命傷を負っていない段階で、この都市の武人とは明らかに次元の違う場所に立っている。
また、戦気の質が良い。
彼が放つ気質は、まさに【荒野の香り】。
ワイルドでデンジャラスで、リスキー。
この世界に降り立った時から、自己が個であり、絶対の【独り】であることを知っている者の気概が見て取れる。
一般的には、守るものがあれば人は強くなれる、といわれる。
たしかにそれは否定できないが、アーブスラットがサナを狙ったように、それだけ弱点を抱えることも事実だ。
そうした面を持たないことは、やはり強いのである。
彼にとってはJBだろうがラブヘイアだろうが、その時々に使えれば問題ないのであって、突然消えてもそれはそれで利になればよいのだ。
(まるでもう一人のオレだな。毎度のことながら恐れ入る。今回はここまできたか、ってのが正直な感想だ)
アンシュラオンとクロスライルが似ているのは、なにも性格だけではない。
彼もまた―――【転生者】
地球から転生した者、いわゆる『異邦人』である。