※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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608話 「太陽の子犬は、太陽の下でこそ輝く」

 

 クロスライルとは、荒野で別れた。

 

 服も破れてほぼ裸だったが、適当に追い剥ぎでもすれば物資は手に入るだろうし、武人なので飲まず食わずでもしばらくは問題ない。

 

 あの男ともソブカと同じような関係と思えばいい。

 

 敵の敵は味方。されど、その味方もいつ敵になるかわからない不安定なものだ。

 

 日和見に慣れてしまった日本人には理解しづらい感覚かもしれないが、政治や外交では一般的な関係性といえる。

 

 その国の政権が変われば情勢も変わるので、表面上は仲良くしつつも裏で軍事力を強化したり、自国に有利な状況を生み出そうと積極的に工作を仕掛けて揺さぶったりする。

 

 国益のみが重要視される世界において、「あの国は仲良しだから裏切らないだろう」と、のほほんとしているほうが狂っている。

 

 常に戦場。常に弱肉強食。

 

 油断する者から喰い物にされていくルールは、まさに荒野の在り方に酷似していた。

 

 そしてクロスライルを助けたのは、なにも手駒を増やすことだけが目的ではない。

 

 

(クロスライルを生かしたことで、姉ちゃん側の動きも把握しやすくなるだろう。あいつの組織がこのまま黙っているとも思えないしな)

 

 

 JBは賢者の石を使っていたことからも、間違いなく組織において重要な構成員の一人だ。

 

 彼の組織内の立場やスタンスがどれくらいのものかにかかわらず、長期間戻ってこなければ調査を始めるはずだ。

 

 そうなれば今度は、もっと多くの戦力を送ってくる可能性もある。

 

 そこでクロスライルが役立つわけだ。

 

 組織の目は当然ながら生き残った構成員に向くだろうし、それに伴ってまたラブヘイアあるいは姉が動くかもしれない。

 

 目立つ標的を意図的に据えることで、自分たちは余裕をもって対応することができるようになるのだ。

 

 もし手に負えそうもなければ都市を捨てて逃げればいい。その時間稼ぎにも使えるだろう。

 

 

「そろそろ戻ろう。帰りもちゃんと全力で走るんだぞ。これも鍛錬だからな」

 

「…こくり」

 

 

 アンシュラオンとサナは、行きと同じように走りながらグラス・ギースへの岐路に着くが、その途中に少し寄り道をする。

 

 グラス・ギースの南と東には『交通ルート』がある。

 

 このルートは交易にも使われる比較的安全な道路であり、行商人たちも数多く利用する区間だ。

 

 そういった場所の中継地には、必ず『貸し馬車屋』があるものだ。

 

 駅前にタクシーが並んでいるのと同じであろうか。

 

 人が集まる場所には必ず交通の便が用意されている。商売人の考えることはどこの星でも同じというわけだ。

 

 そこで大型馬車を四台ほどレンタル。

 

 本当はソブカ経由で入手してもよいのだが、これくらいのことは自分でやったほうが早いし楽である。

 

 また、あまり見栄えするものだと困るので、こういう場所で借りたほうが目立たなくて済む。

 

 

 それから穴倉に戻る。

 

 

 四時間ほど留守にしていたが、穴倉に変化はなかった。

 

 サリータもやる気だけはあるので、そのまま番犬をさせておく。

 

 多少「褒めてアピール」をしてきたから胸と股間を触ってやった。これもまた飼い主の責務である。

 

 

 

 翌朝。

 

 

 数時間もしないうちに日が昇り始めた。

 

 城壁の外は遮るものがないため、あっという間に明るくなっていく。

 

 そのタイミングで穴倉から移動を開始。

 

 老人や子供が多いため、足腰が弱っている者は荷台に乗せるなどの工夫をしつつも、昼前には無事外に出ることに成功。

 

 多少時間はかかったが、できる限り自分の足で歩かせることに意味があった。

 

 

(歳を取っても自力で動くことが重要だ。介護は最後の最後でいい)

 

 

 痴呆症を見ればわかるが、人がボケるのは活動を停止するからだ。

 

 まだ元気なのに強制的に介護されることで弱っていく。

 

 人間の身体は極めて高い適応力を持っているため、緩い環境に慣れれば慣れるほど身体も心も緩くなっていく。

 

 もし重力のない宇宙で暮らせば、足腰は見る見る間に衰えていくだろう。

 

 宇宙飛行士が地球に戻ってくると、車椅子に乗ってインタビューするのはそのためだ。

 

 幸いながらこの都市は文明があまり発達していないため、人々の多くは肉体的にタフな傾向にある。

 

 老人で弱っているとはいえ、根本的な強さは今の日本人よりも数段上。これくらいは無理なくこなせるはずだ。

 

 

 もっとも重要なのは『自らの力で勝ち取る』ことを学ぶことだ。

 

 

 どんな環境にいても最後に頼るべきは己の力である。

 

 自分で闘争し、自分で勝ち取るからこそ、勝利には価値が出る。

 

 地下にいた者たちが、自らの足で地上に出る。

 

 脱走だろうが混乱に乗じてだろうが、理由や経緯はどうだっていい。

 

 やる気になれば何でもできるのだと、その身に刻む必要があった。

 

 

 

 そしてついに―――お日様の下に出る

 

 

 

「…明るい」

 

 

 ニーニアが、その明るさに思わず目を覆う。

 

 久しぶりに浴びる太陽は、肌を突き刺すような強い熱を放っていた。

 

 熱とは、エネルギーである。

 

 太陽が放つ恐るべき力の波動を直に感じ、自分が今生きていると知る。

 

 

「おめでとう。外だよ」

 

「外…こんなに明るいなんて」

 

「みんなもどんどん出るんだ。子供は外に出るもんだぞ」

 

「おそと?」

 

「おひさま?」

 

 

 アンシュラオンに促され、子供たちが次々と出てくる。

 

 五年前にやってきた子供たちは、すでに太陽の光を忘れていたが、本能は光を求めている。

 

 最初は戸惑っていたものの徐々に興味が湧き始め、そこらにある石を投げたり走り回ったりしていた。子供とは元気なものである。

 

 

「もう少し歩くぞ。馬車を用意したから、それで移動しよう」

 

「これからどこに行くつもりだ?」

 

 

 老人たちを外に誘導していたバイラルがやってきた。

 

 彼も久々の外に多少心が揺れ動いたようだが、責任ある立場なので表情は硬いままだ。

 

 

「前に言った通りだ。グラス・ギースに戻る」

 

「大丈夫なのか?」

 

「こんな大所帯だ。今から違う都市に行くほうがリスクが高いだろう。高齢者も多いし、違う環境に適応できるかも心配だ。それならば慣れた気候のほうがいいはずだ。あんたが気にしているのはグマシカたちだろうが、あいつらは動かないさ」

 

「確信があるようじゃな」

 

「そのための布石も打っておいたしね」

 

 

 クロスライルとの戦いにおいて、わざわざ覇王彗星掌まで使ったことには意味がある。

 

 あれもマングラスに対する威圧が目的だ。いざとなれば都市に覇王彗星掌(あるいは覇王流星掌)を叩き込むことだってできるぞ、という脅しである。

 

 少なくともグマシカは、地上部の都市についても維持したいと考えているようだ。そうでなければ青劉隊のような治安維持部隊を作ったりはしない。

 

 そこには「愛郷心」が関係している。

 

 グマシカの言葉を信じるのならば、彼は都市と人々を愛しているようだ。

 

 簡単にアンシュラオンの脅しに屈するとは思えないが、『地上における戦い』で無理をするとも思えない。

 

 

「グマシカの性格は、あんたのほうが理解しやすいんじゃないのか? 一応は同じマングラスだし、どう出るかは予測できるはずだ」

 

「やつらは表に出ることを嫌う。こちらから刺激しなければ迂闊には動かんか。夜道は怖いがな」

 

「夜道が怖いのは向こうも同じかもしれないぞ。敵はオレだけじゃないしな」

 

「やつらに対抗できる者が、おぬしのほかにおるのか?」

 

「少なくとも一人は確保した。まあ、気まぐれだからちゃんと動くかは不明だけどね。強さはセイリュウと互角以上だと保証できるよ」

 

「それなりの手は打っているということか」

 

「まあね。やつらも好きで地上に干渉してきたわけじゃない。手間が増えれば隙も生まれるもんだ。それを警戒すればするほど、やつら自身の動きも鈍くなるってことだ。守るものが増えるってのは大変なのさ。オレが都市にいたほうが圧力にもなるだろう」

 

「うむ…道理ではあるな」

 

「少し見回ってみたけど、治安維持部隊の連中は都市外にはいないようだ。第三城壁内部には一人もいなかった。そのあたりについては何か知っているか?」

 

「遺跡の範囲外だからかもしれんな」

 

「収監砦の地下も遺跡だろう?」

 

「あそこはやつらのテリトリーではない。だからわしも隠れることができた。遺跡の『正式な入り口』は領主城にあるようじゃからな。そこから徐々に重要度は下がっていくのかもしれんな」

 

「なるほどな。城塞都市の形状とリンクしているってことか」

 

 

 城壁は守るためにあるのだから、一番大切なものを中心部に配置するのが一般的だ。

 

 グラス・ギースの中心部には、領主城がある。

 

 単に一番偉いから一番安全な場所にいるのかもしれないが、大切なものを守る役割があるから領主になったのかもしれない。

 

 

(どうやら五つの派閥には、それぞれ『役割』があるようだな。ディングラスとマングラスが比較的近い間柄にあるのは、それも影響しているのかもしれない。遺跡の入り口を守る者と内部を守る者、というわけだ。ということは『マングラスの勢力圏は都市内部に限られる』ってことだ)

 

 

「それならば予定通りだ。オレたちがこれから行くのは【第三城壁内部】だからね。やつらの勢力圏外になる」

 

「ううむ、たしかにあそこならば比較的安全かもしれんが、時間の問題かもしれんぞ。やつらが準備を整えれば壁を越えてくることもあろう」

 

「そのときはそのときさ。先のことを気にしても仕方ないってことだ。楽しもうよ」

 

「危険を楽しむ趣味はないんじゃがな…」

 

 

 アンシュラオンのような人種が怖いのは、危険を楽しむ癖があるからだ。

 

 彼らは合理的であっても合理主義者ではない。そこに大きな違いがある。

 

 すぐに敵を全部潰したら面白くない。そんなふうに考えている節があるのだ。

 

 

 

 アンシュラオンたちは、荒野を移動。

 

 数時間かけて歩き、少しずつ日が傾き始めた頃にようやく馬車との合流を果たす。

 

 大型馬車といってもホテルで使っていたような箱型の高級馬車ではなく、ファンタジーでよく見る一般的な荷台馬車に近い造りをしている安物だ。

 

 そこに薄汚れた幌(ほろ)を被せているだけなので、老人や女子供が乗れば単なる移民にしか映らないだろう。

 

 御者たちも慣れているのか、特に質問もせずに老人や子供を乗せていく。

 

 グラス・ギースでは毎日五千人以上の出入りがあるため、いちいち気にしていたら商売などやっていられないのだろう。

 

 彼らも許可を受けてやっているわけではないし、お互いに詮索しないのも荒野のルールである。

 

 全員が乗った馬車は動き出し、グラス・ギースの南門から内部に入る。

 

 南門での検問は無いので、何事もなく素通りだ。

 

 この頃には日が落ちて、一行は宵闇の中を進んでいく。

 

 

(久々にじっくり見たが、上級街とはまったく違うな)

 

 

 暇なアンシュラオンは、馬車の上から城壁内部を観察していた。

 

 周囲を見回せば薄暗い中に、いくつもの焚き火の明かりが見える。

 

 自分が初めて都市に来たときのように、第三城壁内部では勝手に野営したり、旅人同士で集まって交流を図ったりしているのだ。

 

 城壁に囲まれているものの地面は剥き出しの土なので、ほとんど荒野の一部といえる。

 

 すれ違う衛士たちも咎めることはしないし、荷物のチェックもしない。そういった検査は東門で厳重にやるから問題ないのだ。

 

 ここにいる衛士たちは治安維持が目的ではない。あくまで外部からやってくる『魔獣』に対する備えとして存在している。

 

 殺人や過度な暴力事件があれば最低限の対応はするが、仮に死人が出ても遺体を焼き払うくらいのことしかしないだろう。

 

 治安維持に積極的に衛士たちが関わる上級街や中級街とは、もはや別世界だといえる。だからこそ市民権に価値が出るというわけだ。

 

 ただし、すねに傷を持つ者たちからすれば、ここはなかなか快適な場所である。

 

 完全な荒野ではないので魔獣のリスクは減るし、人々の通り道でもあるため商売を始める連中も出てくる。

 

 都市側も、それを容認していることが面白い。

 

 都市に入れるには問題があるような人々でも、第三城壁内部の活力になるのならば利益になるからだ。

 

 もし魔獣が入り込んでも自衛のために戦うかもしれないし、衛士たちもいるので普段は大きな悪事もできない。

 

 衛士たちは衛士で簡単に都市内部には行けないため、外部から入ってくる品々を近場で調達できるメリットが生まれる。

 

 

(このカオスな感じ、嫌いじゃないな。上級街よりは好きだね)

 

 

 先進国から一気に発展途上国に来たような気分になる。

 

 まったく洗練されていないが、だからこそ人々の飾らないダイレクトな感情を味わうことができる。

 

 善人より悪人たちの中のほうが落ち着く自分にとっては、こちらのほうが過ごしやすいかもしれない。

 

 

「日も暮れたし、今日はここで休もう。焦ることはないさ」

 

 

 長旅になると老人や子供の体調に影響が出るため、アンシュラオンたちもここで野営をして朝方まで休息を取ることにした。

 

 その間も警戒を緩めはしないが、マングラス側からの干渉はまったくなかった。

 

 もともと彼らの仕事は都市内部に入る人間の調査と管理なので、よほどマークしている者でない限りは、第三城壁内部までは管轄外なのだろう。

 

 

 

 朝になり、再び移動を開始。

 

 

 そこから馬車は【西】へ向かった。

 

 

 南門から入って城壁内部を東に行くのが、都市内部に入るための一般ルートだ。

 

 一方、それとは違って西に行くルートが存在する。

 

 こちらは物資搬送用の『北西門』に繋がるルートのため、都市とはあまり関わりがないエリアで、主に『耕作地』が広がる一帯となっている。

 

 ビッグたちが経営するコシシケ畑は利便性を考慮して東ルート側にあるが、西側にある畑は普通の田畑が多く、砦の衛士たちが農業に勤しんでいる姿をよく見かけることができるだろう。

 

 すでにアンシュラオンの視界には、たくさんの実をつけた小麦畑が一面に広がっている。

 

 ビッグも言っていたように、これから収穫期が始まるのだ。

 

 

(西側は派閥間の影響があまりない地域と聞いている。まあ、単に農業を行う場所だしな。半分荒野みたいなものだから、あえて欲しがる派閥もいないのかな)

 

 

 食料に関係しているので強いて言えばジングラスの影響力が強いが、たまに魔獣も入り込むような場所だ。他の派閥には魅力的ではないのだろう。

 

 

「うわー、懐かしいなー」

 

 

 馬車からシャイナが顔を出すと、ブロンドの髪の毛が太陽の光を反射して輝きだす。

 

 特に記載はしていなかったが、しっかりとシャイナもいたのだ。

 

 文句を言ったり愚痴を吐いたりしていたが、そのたびにサリータに殴られていたものである。

 

 しかし、ここにきて急に元気が出てきたことには理由があった。

 

 

「売人をやる前は農民だったんだよな?」

 

「農民って言い方が気になりますけど、そうですね。【叔母さん】と一緒に畑仕事をしていた時期もありましたよ」

 

「ここまで来た以上は戻るわけにもいかないが、任せて大丈夫か? 少しばかり増えてしまったが…いや、少しってレベルじゃないけどな」

 

「大丈夫ですよ。収穫期ですから人手も必要ですし、叔母さんは細かいことは気にしないはずです」

 

「お前の叔母と聞くと心配だな。不安になってくる」

 

「少しは信じてくださいよ! 大丈夫ですって! それよりお父さんが全然起きないんですけど…」

 

「麻薬中毒者なんだ。しょうがない」

 

「お父さんも大変だったんですね…」

 

「そのうち目を覚ますさ。オレを信じろ」

 

「はい、ありがとうございます! 助けてくれただけで感謝しています!」

 

「お前の感謝はしっかりと伝わっているぞ。もう十分なくらいだ」

 

「そうですか? それならいいんですけど…」

 

「うむ、身体は正直だからな。いやいや、そんなにいいって。わかったわかった。ちょっと落ち着けよ」

 

「…?」

 

 

 馬車が揺れるたびに、おっぱいモンスターもぶるんぶるん揺れている。

 

 それが感謝のおじぎに見えるあたり、この男の思考回路はかなり危ない。

 

 ちなみにこちらもまったく記述がないが、カスオもしっかりといる。

 

 ただ、またクズっぷりを発揮して邪魔になると困るので、薬で眠らせているだけだ。

 

 むしろ薬漬けにしたのはアンシュラオンなのだが、嘘はついていない。自分がやったとは伝えていないだけだ。

 

 というわけでカスオは、同じく戦闘不能でお荷物となっているルアンやレイオンと一緒に並べて寝かせられている有様だ。

 

 レイオンもあんな状態で放っておくわけにもいかないので連れてきたが、龍の血の発現が堪えたようで、ほとんど寝ている状態であった。(レイオンに至ってはスペースが足りないので、袋に入れて引きずっていたりする)

 

 ルアンも今は戦闘力を失っている状態なので、いてもうるさいだけということで眠らせていた。(こちらは副作用があり、まだ意識が混濁していることも理由である)

 

 

(やれやれ、オールスターって感じだな)

 

 

 今まで関わった人物が勢揃いである。

 

 イタ嬢たちやモヒカンが加われば完璧だが、そんなことになったら本当にカオスなので、これで済んでいるだけでもありがたいのかもしれない。

 

 

(シャイナの言葉を真に受けるつもりはないが、これだけの人数を全部養うわけにもいかない。拠点を見つける時間も欲しいし、とりあえず仮宿くらいになればいいかな)

 

 

 このたび一番の問題となったのが、これからどこに行くか、である。

 

 グラス・ギースにとどまることは決定していたが、どこに住むかが重要だ。

 

 バイラルとの話でも出たが、都市内部は利便性には優れているものの、マングラスの勢力下にあるので安全とは言いがたい。

 

 グマシカたちが動かずとも、地上部隊との連携が上手くいかずにトラブルになる可能性もある。

 

 自分がいるときならばよいが、老人たちだけで対応するのは難しいし危険だ。

 

 そこで候補に挙がったのが、『シャイナの叔母の家』である。

 

 ホテル脱出後にシャイナが提案したため早馬で手紙を送ったが、その段階ではここまで人数が増える予定ではなかった。

 

 地下からの脱出にしても、まずは自分たちが出て準備を整えてからと思っていたので、少しばかり予想外の展開である。

 

 が、こういうときは流れに身を任せたほうが上手くいくものだ。

 

 グマシカたちが動かないのであれば焦る必要はない。

 

 

 

 しばらく進むと、大きな建物が見えた。

 

 どうやら小麦を管理する納屋で、製粉工場も兼ねているような造りである。

 

 その納屋の前には、小麦を運んでいる一人の女性がいた。

 

 麦わら帽子からシャイナによく似たブロンドの髪が出ている、四十代後半あたりの女性であった。

 

 

「あ、叔母さんだ! おばさーーん!」

 

 

 シャイナが手を振って駆け寄る。

 

 馬車が完全に止まる前に下りたため躓いて転んだが、またすぐに起き上がって走っていった。

 

 

(見える。オレには尻尾が見えるぞ!)

 

 

 その姿はまさに、はしゃぐ犬。

 

 アンシュラオンには、シャイナの尻から尾が出ているように見えた。

 

 しかし、今までのことを思えば奇跡に等しい光景である。

 

 少し前までは麻薬の売人をやっていて、いつ売春婦に転じるかもわからない暗闇の人生だった。

 

 それがようやく太陽の下に解放され、はちきれんばかりの笑顔を見せているではないか。

 

 

(やっぱり女の子は笑顔が似合う。あいつには作り物じゃない本物の笑顔こそが相応しい)

 

 

 シャイナ本来の笑顔を見たようで、いつもより数倍可愛く見える。

 

 もともと素材は良いのだ。もう少し熟せば、さらにいい女になるだろう。

 

 

(しかしまあ、シャイナから始まった騒動も一区切りかな。こいつのために随分と大ごとになったもんだよ。それも楽しかったけどね)

 

 

 裏社会との繋がりはシャイナから始まったようなものだ。

 

 それがなければ適当に金をもらって、なぁなぁで済ませていたかもしれない。

 

 そう思えば、たった一人の女性から多大な犠牲が出たものである。

 

 だが、それもすでに終局を迎えようとしている。

 

 

 その結末こそが、この笑顔。

 

 

 太陽の子犬は、太陽の下でこそ輝くのだ。

 

 

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