※この作品はR-18です。

【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了   作:ぷるっと企画@園島義船

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60話 「ガンプドルフと少年と 後編」

 

「ベルを放せ!!!」

 

「まったくあんたは、お決まりの台詞ばかり言うね。ある意味で尊敬するよ。そうだな。領主ってのはこれくらい傲慢でなくちゃいけないし、これはこれで面白い余興だと思えてきてさ。で、どうすればあんたが苦しむのか考えた結果、これが一番いいかなと思ってね」

 

「ど、どういう意味だ?」

 

「娘に甘いんだってな。だからこんな痛いやつに育つんだよ」

 

「わたくしは痛くないですわ!」

 

「おっ、痛くないのか? ぐにぐにぐにっ」

 

「いたたたたたたたたた!!!」

 

「動くなって。トマトになりたいのか?」

 

「トマト?」

 

「そう、ぐちゃっとしたトマトだ」

 

「そ、それってまさか…」

 

「悪い。ミートソースの間違いだ。脳みそはドロっとしているからな」

 

「ひぃいいいい!! そっちのほうが怖いですわあああ!」

 

 

 少年は、いつでもイタ嬢の頭を潰せるように掴んでいる。その気になれば、本当にあっという間にミンチだろう。

 

 

「お嬢様!」

 

「お姉さんは動かないでね。この距離じゃ間に合わないよ」

 

「はぁはぁ、す、素敵な笑顔ですよ! ナイス泣き顔!!」

 

「うぇええええーん!! ファテロナの馬鹿ぁああああ!」

 

 

 違った。助けようとすらしていない。

 

 

「おじさんも動かないでね。あんたに動かれると本当に手元が狂うかもしれないし。手加減できないよ」

 

 

 ガンプドルフにも忠告する。

 

 

「スレイブが目的なのだろう。彼女を放してくれないか」

 

「この子も当事者でね。反省の色もないし、これくらいは当然だよ」

 

「若気の至りだ。若い頃は誰だってミスを犯す。そうだろう? 誰だって環境によって左右されてしまうものだ。自分の意図しないところで性格が歪んでしまうことはある。彼女もそういった被害者にすぎない」

 

「…たしかに。それはあるね」

 

 

 少年は、少し思い出すようなそぶりをしてから何度か頷く。身に覚えがあるのかもしれない。

 

 

「まったく、面倒事ばかりだ。オレはただ、この子が欲しかっただけなのにさ。こんなことをしたくはなかった。目立ちたくもなかった。こいつらが横取りしなければ、すべて順調だった」

 

「まだ間に合うだろう? 穏便に済ませられる。お互いに血を見なくても済むはずだ」

 

「あんたはそう思っていても、この子とそいつは違うんじゃないのか?」

 

 

 領主がこちらを睨んでいる。

 

 娘を人質に取られたのだから怒り心頭である。が、怒り心頭なのは少年も同じであるようだ。

 

 それを知っているガンプドルフは、必死に説得を開始する。

 

 まずは元凶である領主に対して。これ以上馬鹿なことをされては困るからだ。

 

 

「領主殿、ここは引いていただきたい。お嬢様のためにも見逃してやってほしい」

 

「わしの領地だ! わしの家だぞ! ルールは領主が決めるものだ!」

 

「わかっております。しかし、お嬢様はあなたにとって大事な存在。違いますか? 目に入れても痛くないほどだ」

 

「それは…当然だ」

 

「たかがスレイブ一人ではありませんか。代わりなど、いくらでもおります。お嬢様と対等なわけがない。所詮、使い捨ての道具です」

 

「うむ…」

 

「聡明なあなたならば、おわかりのはずだ。大事な娘さんのことで頭に血が昇ったのでしょうが、ここは落ち着くべきところです。より大きな利益のために」

 

「利益…か」

 

「そう、利益です。お嬢様が助かる。我々も助かります。残るは領主殿のお気持ちだけですが、支配者の度量を示すときでありましょう。相手はまだ少年です。お嬢様とそう変わらない。羽目を外すこともある。礼節を知らぬこともありましょう。それにいちいちかまって、余計なリスクを取るのは割に合いません」

 

「…ふむ」

 

「時にはこういうこともあります。しかし、そのつど冷静に利益を選択するべきだ。その積み重ねが大きな成功を呼ぶのです。この都市も、そうやって発展してきたはずです」

 

 

(領主は現実主義者だ。説得はできる)

 

 

 ガンプドルフは、領主の怒りが少し収まったのを感じた。頭の中でいろいろと計算をしているのだろう。

 

 ガンプドルフも、ここで争って変な噂が飛び交うのは避けたい。素性が判明すれば、他国からの介入もあるかもしれないのだ。

 

 領主は、そういうこともわかる男である。

 

 

「わかった。いいだろう。だが、高くつくぞ」

 

「心得ております」

 

「話は終わった?」

 

「そうだ。終わったのだ。少年、彼女を放してくれないか?」

 

 

 これで少年が領主の娘を放せば、すべてが解決する。

 

 そう誰もが思ったが、事態はそう上手く運ばない。

 

 

 少年が少年ゆえに、彼は他のことに興味を示さないから。

 

 

「肝心なことを忘れているようだけど、オレはまったく納得していないよ?」

 

「なっ…まだ不満があるのか?」

 

「そりゃそうでしょう。こっちのことを無視して上から目線で納得されてもね。そういうのって本当にムカつくよ。よくあるんだよ。そっちが悪いのに『許してやろう』的な態度でくるやつがさ。そいつらって自分がお偉いさんだと思っているようだけど、実際はナイフ一本で死ぬ程度のやつらなんだよね。ははは、お笑い種だよ」

 

 

 地球でも、そういったやつらは大勢いた。だが、所詮は人間。ナイフで心臓を刺せば死ぬ程度の存在。

 

 現実を理解していないで傲慢な態度に出れば、いつしか自分に刃が降りかかってくるというのに、それを意識できない実に哀れな存在である。

 

 領主を見ていると、そんな連中を思い出して笑えてくる。

 

 力こそがすべての世界で、その行為がどういう結果を生むのか、教えてやりたくなる。

 

 

「オレは納得していないよ? さあ、どうするの? どうやって場を収めてくれるのかな?」

 

 

 その目は笑っていた。

 

 弱くて矮小な存在が喚く姿を楽しむような。あえて混乱を求めるような。抵抗してくれたほうが面白いといったような。

 

 

(なんと恐ろしい少年だ)

 

 

 ガンプドルフは、本気で背筋が震えた。

 

 この少年は、自己のことを理解している。深く理解している。していながら暴力的なことを受け入れている。力を、力として使うことを知っている。

 

 力こそが、もっとも強いのだと知っている。

 

 それが何から生まれた感情なのかはわからないが、ただただ恐ろしい。

 

 

「どうすれば…納得してくれるのだ?」

 

「領主が土下座して謝るなら許してやってもいいよ」

 

「何を馬鹿なことを!!」

 

 

 領主が声を荒げる。だが、切り札を握っているのは少年である。

 

 

「あっそ。じゃあ、イタ嬢様はトマトかな」

 

「ひぃいいっ!」

 

「いや、待てよ。こいつをスレイブにするのも面白い。顔は可愛いから、痛いやつだってわかっても人気はあるだろう。どこぞの好色家に売り飛ばせばそれなりにすっきりするし、損害も回収できるかな。領主の娘なら高く売れそうだ」

 

「ベルはわしの娘だ! スレイブとは違う!」

 

「何を言ってるのかなぁ。何の差もないよ。オレからすれば、みんな同じだよ。力を入れれば、バンッと弾ける。脳みそをぶちまけて死ぬ。ね? 同じでしょう?」

 

「ひっ…ううっ…」

 

 

 少年の手に冷たいものが満ち、娘が震える。

 

 それは純然たる殺気。

 

 目の前に迫ったリアルな死に、娘の身体が凍り付いて硬直した現象である。

 

 脅しではない、という明確な意思表示だ。

 

 

「で、どうするの? 土下座する? まあ、オレは土下座されたって何の自尊心も満たされないけど、弱いやつが這いつくばるのは、それはそれで面白いからね。さあ、どうぞ」

 

「ぐぬううう! ふ、ふざけおって!!」

 

「領主殿、落ち着いて!!」

 

「これが落ち着いていられるか!! ベルを放せ!!」

 

「会話が通じそうもないね。それじゃ、バイバイ。こいつはスレイブにして売り飛ばすよ」

 

 

 少年から戦気が放出され―――天井が吹っ飛んだ。

 

 そして、跳躍。屋根に出て一気に逃げていく。

 

 

「ま、待て!!」

 

「領主殿、ここは私が! あとの処理は我々に任せてください!」

 

「ガンプドルフ殿! 頼む! あの子はわしの宝なのだ!! 絶対に取り戻してくれ!」

 

「わかっております!」

 

 

 ガンプドルフは少年を追う。

 

 

(少年、どういうつもりなのだ? これは君にメリットがある行動なのか? 何か意図があるのか? それとも暴力と破壊を求めているだけなのか?)

 

 

 その心に不安と疑念を抱きながら。

 

 

 

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