【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
ソブカの身体が、魂が、満たされる。
他者がなんと言おうが、自分はラングラスだと教えられたのだ。
―――活力が
―――燃え盛る火炎が
―――魂の奥底から
―――湧き出て
―――戦う勇気をくれる
「ああ…女神よ……」
ソブカは火の海の中でひざまずき、思わず祈った。
彼が祈ったところなど誰も見たことがない。見せたこともない。
女神の存在は知っているが特段の思い入れもない。
そんな男が祈ったのだ。
ただただ感謝したくて。祈りを捧げたくて。
涙は一瞬で蒸発してしまっても、奮える魂の波動で恩返ししたいと。
「なんで女神像があるのか、俺もここに来て初めて知ったよ。人間ってやつは、どうあがいても女神様のガキなのさ。感謝したら自然に祈っちまう」
祈るソブカを見たツーバは、若かりし頃を思い出す。
人が本当に満たされた時、無性に感謝したくなる。生きていることが貴重に感じられる。
祈るとは、人間の自然な魂の発露なのである。
その波動は女神にも届くし、自身を強化してもいく。
「俺たちグラス・ギースに暮らす者は、絶対に女神を否定しちゃいけない。だから初代様はあえて像を作ったんだろうよ」
地下にある遺跡には、人の可能性を否定する文明の面影があった。
初代五英雄がこの地を開拓するにあたり、まず最初に行ったのが【信仰の回復】であった。
技術だけでは人は滅んでしまう。正しい信仰がなければ道を誤る。
厳しい環境で暮らすために人は自然と信仰を求めるものだ。それが拠り所となる。
「申し訳ありません。取り乱しました」
「どうだ、さっぱりしただろう?」
「はい。心洗われた気持ちです。まるで魂の奥底から生きる希望が満ち溢れてくるようです」
立ち上がったソブカの顔からは『険』が取れていた。
陰惨な権力闘争を続けていた彼にとって、この火はまさに浄化の炎であった。
「私にこのような気持ちを味わう資格があるとは…」
「お前さんは真面目なんだよ。だから思い詰める。だが、それが経験だ。そうやって誰もが『火の洗礼』を受けてラングラスのリーダーになっていくもんさ」
「
「ログラスの娘か?」
「あなたが眠っている間に立派な戦獣乙女になりましたよ。…今はもう離脱しておりますが」
「ソブカ、はっきり言っておくぜ。俺はお前さんに『賭けた』。その意味じゃ運命共同体だ。お前が死ぬときは俺も死ぬときだ。だから、どんなときだって味方になってやる。どんな悪行を働いてもだ」
「同じラングラスだから、ですか?」
「そうだ。今のお前なら、上辺だけじゃない身内の感覚がわかるだろう? 俺たちは火で繋がっている。魂の奥底で引っ張り合っている。五英雄の血ってのは、そう簡単には消えないもんさ。どんなに叩いても潰そうとしてもグラス・ギースにいる限りは加護があるんだ」
「それは感じます。まさに英霊の加護です」
「逆に言えば、それだけマングラスもしぶといのさ。こっちもガチで準備しないと勝負にならねぇよ。んじゃ、次行くぞ、次!」
(これが血族の絆。血だけにこだわることは愚かですが、近しい存在であることは揺るぎのない事実。今は素直に感謝しましょう)
ツーバは、ソブカにとって大きな存在だった。
いや、今この時、そうなったのだ。
その意味ではアンシュラオンにも感謝せねばならない。
もし彼がツーバを救わなければ、このような気持ちになることは絶対になかったのだから。
ちなみにアンシュラオンからは【契約】が切れたあとも、毎月二億円の「みかじめ料」を請求されている。
個人に払う額としてはかなり高額だが、それで彼との関係が継続できるのならば安いものだろうか。
二人は、さらに歩を進める。
炎の道は一本道だが、かなりの長さがあり、その道程は数時間に及んだ気がした。
実際の時間はわからない。本当は数分程度だったのかもしれないし、一時間だったのかもしれない。
この火に包まれていると他のことが考えられなくなる。ただただ強い感動と情熱だけが湧き上がってくるので俗世のことを忘れるのだ。
これは【通過儀礼】。
ソブカが言ったように防犯対策でもあるのだが、いかにラングラスに相応しいかを試す場でもある。
(やはりこいつには強い【火】がある。俺でさえしんどいのによ。平然と歩きやがって)
ツーバも普通に歩いているように見えて、実際はかなりの負荷がかかっている。
肉体は若返り、パワーアップすらしているので体力は問題ないはずだ。
このことから明らかにソブカのほうがラングラスとしての資質は上。
火は素直に実直に、当人を反映する。
誰よりもラングラスに相応しいと証明する。
火の海を超えると大きな空間に行き着いた。
その中央には―――『大樹』
それが普通の大樹と違うのは【葉が燃えている】ことだ。
幹には赤い筋が血管のように巡り、葉に到達した段階で燃え盛る。
誰が見ても特殊な木であるが、これを見たソブカは驚く。
「【
「なんでぇ、知ってるのか?」
「
「ああ、あの薬か。原液ならあっちの倉庫に山ほどあるぞ」
「それが本当ならば、すごいことです。さらに強力な戦力が手に入ります」
「へっ、お前が求めているものは、もっとすげぇぞ。こっちだ」
二人が炎樹を超え、さらに奥に進む。
その間にも伝記でしか見たことがない伝説級の秘法がいくつもあったが、ツーバはあっさりと素通りする。
この先にあるものが、これらの秘法より遥かに価値があるからだ。
「質問をしても?」
「なんだ?」
「ソイドさんに
「ムーバはここの炎には耐えられなかった。それが答えさ。『守り手』が必要だったんだ。頼れるのはソイドしかいなかったからな」
「やはりそうでしたか」
「秘法は使い方を誤ると危険だ。ラングラスの長以外に渡すわけにはいかねえのさ」
「もう一つ。いつマングラスの干渉を受けたのですか?」
「ん? ああ、若返りのやつか?」
「彼らが日々裏で工作活動をしているのは知っていますが、どのタイミングで干渉したのかと…」
「勘違いするなよ。あれは俺が自分の意思で植えたんだよ」
「は?」
「バイラルに頼んで植えてもらったのさ。あいつはいくつかサンプルを持っていたからな。一番大きなやつを選んで、ぶっ込んでもらったってわけさ」
「…理由を伺っても?」
「どうせ俺は長くなかった。ムーバもあてにならねぇ。放っておいてもマングラスに好きにやられちまう。だから最後の賭けに出たのさ」
ツーバの場合、ログラスとはだいぶ事情が異なっていた。
バイラルが逃げる前、話を無理やり訊き出して石の存在を知る。
彼がサンプルをいくつか持っていたため、頼み込んで植えてもらったのである。
「なるほど。自分からそうすれば、相手は様子を見るしかないというわけですか。それによって逆にマングラス側の動きを封じることができます。妙案ですね」
事実ツーバの代理をしていたムーバは、会議においてもマングラスにいいように操られていた。
彼らはいくらでもムーバを誘導尋問し、内情を訊き出せる立場にあっただろう。
しかし、自ら石を植えたツーバの思惑を見極めるために、迂闊に動くことはできなくなる。
「とはいえ、かなり危険な賭けでは?」
「しょうがねぇ。賭けってのは最初からそういうもんだ。保険として秘法の増強剤を飲んでおいたから、それがよかったんだろうよ。どっちにしても勝負は俺の勝ちだ。逆に力を奪ってやったぜ」
「あなたという人は…さすがですね」
「俺の人生は俺が決める。やつらの好きにはさせねぇ」
「あの石の出所は掴んでおりましたが、目的まではわかりませんでした。心当たりはありますか?」
「目的…か。そりゃ目的がなければやらないわな」
「長年ラングラスの長であったあなたならば、何かわかるかと思いまして」
「それについてはいろいろと考えていたが…おそらくだが、もう一度災厄が起こったら【逃げる】つもりかもしれねぇな」
「逃げる? マングラスが? ですが、彼らは災厄に立ち向かうために戦力を整えているのでは?」
「その様子だと、やつらの隠し玉には気づいているようだな」
「地下にある『箱舟』を管理していることは知っています」
「ほほぅ、そこまで知ってやがるか。都市の超極秘事項をどうやって知った?」
「古いものに興味がありましてね。独自に調べておりました」
「そうか。俺も知ったのはたまたまだからな。詮索はしねぇよ。で、石の話だが、バイラルの話じゃ、やつらは植えた石を回収しているみてぇだ。死体ごとな。…どう思う?」
「普通の人間のものならば人体改造に利用しているのでしょうが、その中に各派閥の長が含まれていることが問題です。彼らが集めたものはいわば【五英雄の血肉】。扱いも他と違うでしょう」
「箱舟についてはよく知らねぇが、すでに滅んだ生物や植物の情報を蓄積できるらしい。箱舟とはよく言ったもんだな」
「…なるほど。これでマングラスの妙な動きの理由がわかりました。ログラス様が狙われた理由もね。しかし、傲慢な振る舞いです。彼らは自分たちだけがすべてを背負っていると思い込んでいます」
「それだけ【都市の管理者】を気取っているのさ。お前さんとは違う意味で五英雄に首ったけなんだろうよ。やつらの性根はよくわかる。最初から守りの態勢なのさ。俺たちラングラスとは正反対だ」
水を司るマングラスの動きは、同じく水の特性が強いアンシュラオンによく似ていた。
まずは防御。少しでも損害を減らすこと。回復重視。安全運転。
だからこそ危険な勝負には出ないし、何かあっても巣穴に逃げ込むのだ。
一方のラングラスは、ソブカを見ればわかるように激しい攻めの姿勢が特徴だ。
炎がくすぶっていたからこそ弱っていたが、本来は猛々しく燃え上がり、ハイリスクハイリターンを好む。
これだけ正反対なのだから、仲良くないのも当然といえるだろう。
「最後の質問ですが、ここにある秘法があれば、もっと早くラングラスは力を取り戻せたのではありませんか?」
「ふん、秘法なんてご大層な名前で呼ばれてもよ、結局は誰かがこしらえたもんだ。使う人間次第で善にも悪にもなるし、身の程に合わない道具は身を滅ぼす。俺には過ぎたもんだよ」
二人が最後にたどり着いた場所には―――【不死鳥】
火の草木に覆われた荘厳な部屋の中央に、炎で出来た鳳凰が鎮座していた。
生物のように動くわけではない。生きているわけではない。
炎に包まれた一枚の法衣が、すべての源として君臨していた。
あまりに強すぎる力で自壊しないために、持ち主がいない状態ではこのように力を外部に放出しないと存在を維持できないのだ。
「これが本物の―――【鳳薬師の天衣】!!」
ずっと求めてきたものが、そこにある。
子供の頃から憧れ、恋焦がれ、誰よりも愛してきたもの。
永遠に手に入らないと思っていた幻の秘法が、そこにはあった。
それと比べると今自分が着ているものが、陳腐な紛い物に見えて恥ずかしくなる。
「こいつに認められれば、お前も晴れてラングラスだ。だが、気をつけろ。俺はしくじった」
「その背中の傷は…」
「俺は秘法を使わなかったんじゃない。使えなかったんだ」
ツーバが上着を脱ぐと、背中には酷い火傷の傷跡があった。
筋肉や神経まで焼かれて変形し、凝固した痛々しいものである。
これはアンシュラオンの命気でさえ治すことができない【術痕】であり、それだけ強い力によって刻まれた「脱落者」の証といえた。
「ラングラスの直系でさえ、この有様だ。もしかしたら最初から着れないのかもしれねぇ」
「いいえ、これは紛れもない本物。初代ラングラスがまとっていたものです」
「わかるのか?」
「私には火の声が聴こえるのです」
「お前ほどの資質があればもしや、とは思って連れてきたが…死ぬなよ。死んだら終わりなんだぜ」
「死を怖れて何が掴めるのでしょう。ラングラスにならなければ、この生に意味などないのです」
「…だよな。お前さんならそう言うと思っていたさ」
「では、参ります」
ソブカは初代ラングラスが着ていた天衣に近づくと、躊躇なく手に取り、羽織った。
案外、普通に着れた。
熱いが、思っていたほどではない。
ツーバよりも資質の高いソブカならば、これくらいは大丈夫ということだろうか。
がしかし、本番はこれからだ。
鳳凰が一度翼を広げると服に吸い込まれていく。
それと同時に爆発的に天衣の温度が上昇。
「―――っ!!!」
その瞬間から、今まで感じたこともない激しい熱量を感じる。
身体の表面よりも内部から、ラングラスの血が燃えるように熱い。
見れば、法衣に描かれた不死鳥が色鮮やかに燃えている。
外に放出されていたエネルギーが天衣に戻ったのだ。
不死鳥が輝きを増すごとに熱量は際限なく上昇していった。
(これほど…とは!!)
火の海などとは比べ物にならない。
あれは活力を与えるものだったが、こちらは自身を焼き尽くそうとしてくる。
激しく雄々しく厳しく、徹底的に痛めつける。
燃やす、
その痛みは―――壮絶!!
「ぐっ…うっ!」
がくっ
ソブカは感動ではなく、痛みによって強制的に地に伏せられた。
重い。
重力が何十倍にもなったように立つことすら不可能。
(私が今まで殺してきた者たちの【憤怒】が形になったようだ!!)
普段は人を殺しても表情も変えないソブカの顔が、苦痛で歪む。
火の道を歩むのならば多くの血を流さねばならない。
だが、流した血の因果は廻り、巡りめぐって必ず自身に戻る。
ついさきほどもイニジャーンたちを殺した。身内を殺した。
その痛みがさらに倍増されて襲いかかってくるようだ。
ジュオオオオッ
「ぐうううううっ!!!」
ツーバ同様、背中が焼かれていく。
罪を犯した人間に焼印が押されるかの如く。
ここでもまた自身が否定され、圧迫される不快感を味わう。
(それでも私は…!! 私はラングラスになる!! ラングラスになって…!! うぐうううううっ!!!! 憎い、憎い、憎い!!! この都市の人間が憎い!! それを是とする者たちも憎い!!)
痛みは人の本性を露わにする。
炎に焼かれるたびにソブカの中の『本音』が表面化してきた。
都市を発展させるためだと
自分を認めなかった者。母を犠牲にした者。それを見過ごした者。
能力もないのに、ぬくぬくと生きている者。
誇りも覚悟もないのに、権益だけ主張する者。
彼らへの怒りだけが自身を動かすエネルギーだった。
そのためだけに親友も手にかけた。
プライリーラの正義を踏みにじった。
ソイドビッグも売り渡した。
その他多くの人々を利用し、人生をぶち壊した。
そのすべては【破壊】のため。
自身の怒りを叩きつけるためだけに犠牲にしたのだ。
(なんと醜い…!! これでは―――【獣】だ!!)
打ちひしがれたソブカに対しても不死鳥は攻撃をやめず、すべてを焼き尽くそうとしてくる。
「ソブカ! もう無理だ!」
空間すべてが灼熱。
同じ場所にいるツーバも、離れているのに全身が焼けそうに熱い。
当時はこの男でさえも羽織った段階で背中が焼け焦げ、転げ回りながら逃げ出したほどの熱量だ。
ツーバが十秒ももたずに断念したものを、ソブカは羽織ってから数分以上も耐えている。
「もういい! もう十分示した!!」
「ぐっ…ううう!! いいえ!!! 私はラングラスになるのです!! ならねばならない!! そうでなければ…何のために……これだけの犠牲を…!!」
「意地を張っていたら死ぬぞ!!」
「死など…死など!! 私は死など―――ウォオオオオオオオオオオオオッ!!」
ソブカの中に眠っていた獣が、目を覚ます。
束縛と停滞を憎む獣。彼の本質。
敵対する者を破壊し、切り刻み、自身の飢えを満たすために喰らう存在。
プライリーラにそうしたように、不死鳥すら喰らおうと逆に襲いかかる。
獣は―――火を出す
不死鳥も―――火を押し付ける
「ウオオオオオオオオオオオオオ!! グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
ソブカの獣は激しかった。強かった。
憎しみによって生まれた獣は、強大な破壊の力を宿していた。
今までこれで破壊できなかったものはなかった。
だがしかし、不死鳥には通用しない。
どんなに攻撃しても火は燃え広がるだけで、結局は自分に跳ね返ってくる。
自身への痛みとなって戻ってくる。
獣は抵抗した。何度も立ち上がって戦った。
爪で引っ掻き、牙を突き立てた。
が―――屈する
不死の存在と戦えば、いつかはこうなるのが道理であろう。
「うっ…あっ……!」
ばたんと大の字に倒れたソブカは、火に包まれる。
髪が焼ける。皮膚が焼ける。肉が焼ける。
容赦なく身体が焼かれていく。
死を予感した。
されど、そこに恐怖はなかった。
むしろ妙な幸福感だけがあった。
そこで気づく。
(ああ、私は…死にたかったのだ。復讐を成し遂げて、すべてを破壊して死にたかった。あの人に言われた通りだ)
アンシュラオンと初めて出会った時、彼は忠告を残していった。
自身の中の獣を見透かされた。
その炎はいつか自分自身を焼き、他を巻き込んで破壊するものだと。
そんなことはわかっている。ずっと死にたかったのだ。
ただただ戦い、燃え尽きて死にたかった。
(死んでもかまわない。やり残したことなど…ない)
ここで自分が死ねば、事はラングラス内部だけで終わるだろう。
内乱でソブカが死んで終わりだ。
キブカ商会に損害を与えるが、商売で稼げばまた必要とされるはずだ。
ラングラスは弱小で最下位。金があればやり直せる。
金、金、金。
地位、地位、地位。
妥協、妥協、妥協。
(―――違う!!!)
(私が望んだ世界は、そんなものではない!! このような不浄な世界を許してはおけない!! 理想? 違う!! これは当然の
人々は弱い。弱いから抵抗できずに流される。
それ自体も罪だが、それを放っておくのも罪だ。
なぜそう思うのか。なぜそれが正しいのか。根拠は簡単だ。
魂が。
霊が。
叫び、訴えるからである!!!
このようなものは違うと、過っていると教えるのだ。
(私は生きねばならない!! 生きる!! 生きて、血肉を分け合って!! 私のために命をかけてくれる者たちとともに!! この都市を解放しなければならない!! 傀儡士のような狂人に命運を握らせるわけにはいかない!!!)
初めてソブカは、生きたいと思った。
死ねば楽になる。責任を負わなくて済む。
そんな気持ちが一瞬でも芽生えたことに怒りを覚える。
生きて、この身を炎で焼かれながらでも生きて、自身が求めたもののために働かねばならない。
身体がなければ、生きていなければ、この仕事はけっして完遂することはないのだ。
「【アレ】を見れば、ほかに何を怖れる!! 私に力を―――よこせぇえええええええええええ!!」
ボオオオオオオオオオオオオオッ!!!
今までの何倍もの炎がソブカを焼く。
これによってソブカの身体は完全に消失。
消し炭すら残らない『無』となる。
しかし、しかし!!!
身体がなくなっても魂は消えない!!
彼の燃え滾る熱い霊魂は、どんな形になっても消失などしない!
炎が―――凝縮
丸い球体に変質し、力の集合体になる。
そこにはいくつもの『想い』が込められていた。
かつてラングラスの火に想いを託し、死んでいった者たちの気高い志。
苦しんでいる者たちを助けたい。施しを与えたい。
人が求める純粋な愛。女神が残した人間の可能性、光であり熱。
しかし、それだけでは駄目だ。
もっともっと、もっともっともっと強い【力】が必要だ!!!
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
魂が、叫ぶ。
一度燃えて焼かれても、けっして消えることはなかった魂が炎を吸収。
―――【火の身体】が生まれた
心臓が生まれ、血が生まれる。
血は火で出来ていた。燃え滾っていた。
次に脳や臓器が生み出され、今度はその火血を血管が運んで神経が生まれた。
―――創造の火
神だけに許された造化の極地が、そこに顕現している。
女神は子らに、自らを作る力を与えた。
その本当の意味を理解している者は、そう多くはない。
女神の子らは、女神にもなれるのだ、と。
ボオオオオオオオオオオオオッ!!!
火が人を生み出していく。
なぜこの星が、『死と炎の星』と呼ばれるのだろう。
火は、再生の象徴。
何度死んでも蘇る不屈の炎の象徴。
神がいなくなった星では、人そのものが神になるしかなかったのだ。
「私は…私は―――!!!」
「ソブカ・ラングラス―――だぁ嗚呼あああああああああああああああ!!」
火で死に、火で再生した男は、初代ラングラスしか着れなかった天衣をまとっていた。
天衣の背からは、余りある力の放出によって炎の翼が生えていた。
彼自身が不死鳥となり、その力を受け入れた証拠。
今この瞬間、ソブカは天衣に認められたのだ。
ただ破壊と死を望んでいた男が、初めて生を願い、正しいことのために生きようとした。
獣という力が反転し、不死鳥に転化したのである!!
「おお…ソブカ……ついに…!! 勝てる!! 俺たちは…勝てる!!!」
ツーバは思わず膝をつき、ソブカを仰ぎ見ていた。
もう自分はリーダーではない。
新たな長がここに生まれたのだ。
下克上、ここに完結!!
まだラングラスという小さな枠組みであるが、時代は確実に変わっていく。廻っていく。
旧きものと新しいものが交錯し、混じり合い、昇華される日は近づいていた。